轟音を放つ凄まじい勢いの滝。私は目を閉じてただ、その滝に打たれて耐えていた。
一瞬、滝の流れに微妙な変化を感じた。
今だ!!
「はぁああああああああ!!」
私は身体中の気を自分の右手に集めて、ただその瞬間を待った。
すると丁度、頭上に巨大な流木が落下してきた。
「たぁああああ!!」
スパッ!!
私の剣が流木を真っ二つに切断した。
「やった!!」
と、喜んだのも束の間・・・
ゴンッ!!!!!
すぐに、二本目の流木が流れてきたようだ。
一本目の流木に気を取られた私は避けることもできず頭部に直撃した。
「む・・・無念・・・」
遠のいていく意識・・・最後に見た光景は、ただ河の流れに飲み込まれていく自分の姿だった。
私は犬走椛。射命丸文様の部下で山を警備する天狗だ。
まだまだ天狗として、剣士として半人前である。
だからこうして今日も己を鍛えていたのだが・・・
「うぅ・・・」
私が目を覚ますとそこは見慣れない屋敷の中だった。
「ここは・・・?」
辺りを見回していると、ふと廊下の方から人の気配がした。
「あっ!起きましたか?」
刀を持った少女が私のもとにやってきた。
「びっくりしましたよ。幽々子様がいきなりあなたを担いで戻られたときは・・・」
彼女と話をすることで、今の私のおかれている状況がわかった。
まず彼女は魂魄妖夢といい、この冥界で庭師兼剣術指南をしているらしい。
そして、彼女の仕えている主が私をここにつれてきた張本人、西行寺幽々子だという。
・・・さらに補足すると、幽々子さんは私を食料だと思いここに連れてきたのだという。
「・・・それでは、この尻尾についている歯型は・・・」
「・・・すいません。もう少し早く気づけば止めることができたのですが・・・」
申し訳なさそうに謝る妖夢さん。そんなに自分を責めなくてもいいのに・・・というかむしろ命の恩人のような気がするのだが・・・
「ところで・・・妖夢さんは剣術指南をしているとの事・・・もしよろしければ私にも一つ稽古をつけて頂けないでしょうか?」
「稽古・・・ですか?」
妖夢さんは何故?というような表情で首を傾げた。
いきなりこんな提案をされては無理もない。だが・・・
「私はどうしても、剣術をもっと高めたいのです・・・私は何もかもがまだ未熟・・・だからこそ剣術だけでも早く一人前になりたいのです。」
今の私では文様のお役に立てない。
あの時、巫女や魔法使いが山に侵入してきたとき、私はまったく歯が立たなかった。
だから・・・
「私は強くなりたい!」
私の意思が伝わったのだろうか。先ほどまで驚くだけであった妖夢さんが真剣にこちらに視線を向けてくる。
「わかりました。私自信まだ半人前の身ですが、椛さんに協力します!」
庭にでてお互いに対峙する。お互いに本気で戦うため、刀ではなく竹刀にしてある。
流石に刀で本気で戦うとなると怪我だけでは済まされない。
「さぁ!椛さん!かかってきなさい!!」
「・・・行きます!!」
私は渾身の一撃を上段に叩き込む。
パァン!!
竹刀と竹刀がぶつかる音が辺りに響いた。
私の攻撃がいとも簡単に妖夢さんに防がれた。
「その気合やよし・・・でも、まだまだですっ!!」
妖夢さんの竹刀が私の竹刀を弾いた。竹刀は私の手を抜け、綺麗な弧を描いて地面に落ちた。
さらに私もその衝撃で思わず尻餅をついてしまった。
「流石・・・ですね。私の全力の一振りをあんなに簡単に捌くなんて・・・」
「いえ、そんなことはありませんよ。」
妖夢さんは謙遜するようにそう言い、さらに続けて厳しい口調でこう告げた。
「ただ・・・残念ですが、あなたの剣撃は素直すぎる・・・戦闘慣れしている人が相手では通用しないでしょうね。」
「そう・・・ですか・・・」
「多分、ずっと独学で剣術を勉強していたのでしょう。剣術の基礎はできていてもその真理までは届いていないようです。」
まったくそのとおりである。剣術の基礎は書物などで学ぶことができた。
だが、その理は書物で学ぶにはあまりにも難しすぎた。
「幸い、私には素晴らしい師がいました。その人から直接剣を教わることで、剣術の真理を学びました。」
だから・・・と言って妖夢さんが私に手を差し伸べてきた。
「私のできるかぎりをあなたにお教えします。」
私は妖夢さんの手を借り、起き上がると・・・
「よろしくおねがいします。」
そう言って深く頭を下げた。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
それから数時間があっという間にすぎた。
妖夢さんの教えは、全て理に適っていた。
「剣は相手の攻撃を真正面で受け止めるのではなく、自然にその衝撃を受け流すのです。」
そう言って私の剣撃を捌き、その衝撃を全て無効にしてみせたり、
「相手の剣先を読み、最低限の動きで防ぐことで自分の攻撃の可能性を広げることです。」
と言って、私の連撃を必要なときは捌き、避け、私の攻撃の幅を狭めて、ついには攻撃を完全に封じてみせたり、
全ての教えに意味があり、それは私の胸に深く響いた。
「それでは最後に・・・今教えたことを実際にやってみましょう。」
そして、また私と妖夢さんは対峙した。
「はぁあああ!」
今度は妖夢さんが先に仕掛けてきた。
私より速さも重さも数段上の剣撃。
「(まともに受けたら駄目だ・・・ここは!)」
振り下ろされた竹刀を直接受け止めるのではなく竹刀に角度をつけて妖夢さんの竹刀の軌跡をそらした。
「・・・ではこれならどうしますかっ!?」
立て続けに、今度は素早い連撃を繰り出してきた。
「それなら!!」
私はただ相手の竹刀の先端だけを集中して見る。左右に動いて避け、正面にきた突きは竹刀で捌いた。
「そこですっ!!」
妖夢さんの連撃がわずかに緩くなった瞬間を感じ、私は妖夢さんの手元を狙った。
パシッ!!
妖夢さんの竹刀が宙に舞った。
「お見事っ!」
妖夢さんが嬉しそうに拍手をした。
「この短時間でかなり成長したと思いますよ。」
「はいっ!ありがとうございました!!」
私は妖夢さんに別れを告げ、山へ帰ることにした。
飛び立つ瞬間、ちらっと人影がこちらを見ていたような気がしたが、私はさほど気にせず帰途についた。
「あらあら、もう帰っちゃったのね。」
「幽々子様?」
「妖夢も人が悪いわねぇ。最後のアレ、わざと負けてあげたでしょ?」
「いいえ、私は全力でやりましたよ。椛さんはかなりの素質を持っていると思います。」
「二刀流を封じておいて全力もなにもないでしょ?」
「確かに二刀流は使いませんでしたが、一刀で私は全力を出しました。これは紛れもない事実です。」
「そう・・・妖夢がそう言うならそうなのかもしれないわね。」
「はい。それに、椛さんに足りなかったのは剣術の理だけじゃなく・・・」
「自信、でしょう?」
「はい。」
それから数日と経たないうちに、また侵入者が入ってきた。
私は妖夢さんに学んだことを実践すべく、侵入者に戦いを挑んだ。・・・が。
「ふぅ、まったく、お勤めご苦労さんだぜ。」
結局負けてしまった。やはり私は強くなれないのだろうか・・・
そう思ってうなだれていると侵入者が私に話しかけてきた。
「お前、この前より随分強くなったな。倒すのに一苦労だったぜ。」
不謹慎だが、その言葉に嬉しくなった。
戦った相手に認められるということがこれほどまで嬉しいものだったのか。
「・・・次は負けませんよ。」
私はそう言ってその侵入者に笑ってみせた。
剣の道は厳しい・・・それでも私はこの道を極めてみたいと思う。
きっとその先に、誇れる自分がいるような気がするから・・・
「そうですよね、妖夢さん・・・いえ、師匠。」
季節は秋、山々の木々達の色づく頃・・・
END
師匠と呼ばれて妖夢は慌てたり照れたりしそうだ
私にとって椛は修行しなくても強いです。ノーマル気合避けできない
これはこれで、初孫?
止めるできた>止められた
正直椛はあれ以上強くなると困るんですがね
ボム減らしとしてはこれ以上ないぐらいに確実に私の霊撃を誘発します