パチュリー様は、もきゅもきゅとチョコレートを頬張っていました。
いえ、パチュリー様だから、むきゅむきゅが適切でしょうか、とかそんなことを考えてしまいました。
しかし現実から逃げている場合ではありません。
状況を整理しましょう。
私、小悪魔が、パチュリー様にバレンタインチョコレートを贈るため図書館にやってきたら、
パチュリー様はすでに誰かのチョコを食べていた……
落ち着け、素数を数えるんだ。
実際やってみると意外に効果あってびっくりです。
それはともかく、落ち着いて考えてみましょう。
何もあのチョコが、誰かからもらったものとは限らないのです。
「……まったく、アリスったら……」
……その可能性は言ったそばから無残にも打ち砕かれました。
どうやらあのチョコは、アリスさんからもらったもののようです。
アリスさんといえば、魔理沙さんの紹介で紅魔館にやってきたお方です。
しかしあの魔理沙さんの友人なのに、それとは対照的に礼儀正しく、おとなしい方です。
本を強引に持っていって返さないなんてことも、もちろんありません。
まあそんな人だから、当然パチュリー様との仲もよろしいです。
……時すでに遅し、であったようです。
こんなことなら、無理してでも朝一番に渡すべきだったんです。
――まだのぞみはある!
そんな言葉が聞こえた気がしました。
なんだかかっこいい音楽も聞こえてくるような気がします。
そうです、まだ駄目だと決まったわけではないのです。
なにを弱気になっていたのでしょう、諦めたらそこで試合終了だというのに。
今の私に足りないのは勇気だけ。そう言い聞かせていると、
「ねえ、小悪魔」
「うひゃぅ!?」
いきなり背後から声をかけられました。
「貴女、甘いものは好き?」
「え、はい、好きですが……」
「じゃあ、もしよかったらこれ代わりに食べてくれない?食べ切れなくて……」
そういってパチュリー様が差し出したのは、先ほど食べていたチョコ。
「え!?こ、これって……」
困惑する私に気づかないのか、パチュリー様はそのまま言葉を続けます。
「バレンタインだからって、アリスと魔理沙と三人でチョコを交換したんだけど、
アリスが張り切りすぎちゃって……特に魔理沙に」
……なるほど。
そういう事情でしたか……
と、胸をなでおろすのもつかの間。
私は、もしかしたら気づかないふりをするべきだったかもしれない事実に気がつきました。
今パチュリー様にチョコを渡しても、食べてもらえない。
気づいてしまうと、もう渡す気にもなれません。
ただでさえ食の細いパチュリー様に対して、チョコなんて味の濃いものを食べた直後に、
さらにチョコを贈るなんて、いやがらせもいいとこじゃないですか。
なんとも意地悪な運命です。
失恋したわけじゃないのに、チョコを渡せないなんて。
まさかお嬢様、あなたがやったわけじゃないでしょうね?
「……小悪魔?」
「は、はい!」
「どうしたの?」
「な、なんでもありません……」
私は、なんとも遣る瀬無い気持ちでチョコを受け取ると、
「では、これは後でいただきますね」
ポケットにしまって、図書館を立ち去りました。
「…………」
このとき、私は意識できなかったのですが、
パチュリー様はこの間一度も言葉を発していませんでした。
ついでに、パチュリー様の表情も見ていません。
★★★
「……いやー、可愛かったわ」
薄暗い図書館の真ん中。
二つのティーカップの置かれた机に向かいながら、
これ以上ないほどのにやけ顔で、パチュリーは言った。
「私がチョコを食べた直後で、とても小悪魔のチョコなんか食べられないって気づいたときの顔なんか、
作戦の最中じゃなかったら写真にとっておきたいぐらいだったわ」
「あーはいはい……」
レミリアはその対面で、対照的にものすごくだるそうに頬杖をついてパチュリーの話を聞いていた。
「で?あなたはあの子が好きなんでしょ?」
「ええ、そりゃもちろん。感謝もしてるしね」
「そしてあの子もパチェを好き……そこまで知ってて、なぜ応えてあげないの?」
「あら『応えてあげない』とか人聞きの悪い」
そういってパチュリーはいつの間にやら掠め取った小悪魔のチョコを齧る。
そのチョコはパチュリーへの気遣いか、余り糖分は多くなかった。
「私はね、小悪魔に片思いのほろ苦い味を教えてあげてるのよ。
……ちょうど、このチョコの味のようにね」
尤も、この味は小悪魔の優しさに起因するものであるのだが。
「……まあそれはいいんだけどね、パチェ」
「なに?レミィ」
チョコをつまむ手を止めずに、パチュリーはレミリアに返事を返す。
「あの子は、私のような吸血鬼と違って、変化する生き物であることを忘れてない?」
「……?
まあ、確かに特に意識はしてないけど……」
「だったら、もう意地悪はやめてとっとと思いを伝えにいきなさい」
「もう、何が言いたいの?もったいぶらずに教えてよ」
「だから、パチェ……」
レミリアの言葉に少々の間が入る。
呆れから来るものか、言葉に深みを持たせようとしているのか。
「あの子の心変わりも、ありえるってことよ」
「……小悪魔ーーーー!」
パチュリーは走った。
いや、そう見えるだけで実際は低空を飛んでいるのだが。
だがそれを判別するのが困難なほどの高速で飛んでいるのだ。
「まったく、パチェも単純なものよね」
「……それはよろしいのですが、お嬢様」
「なに?咲夜」
頬杖を崩さずに、レミリアは咲夜に返事を返す。
「他人の心配ばかりもしていられないのではないですか?」
「……?
フランのこと?」
「ええ、そろそろ素直になるべきですよお嬢様」
「もう、何が言いたいの?もったいぶらずに教えてよ」
「ですから、お嬢様……」
心でため息をついて、咲夜の言葉に間が入る。
「魔理沙にフラン様を取られても、知りませんよ」
「……フラーン!!」
レミリアは飛んだ。
メイドを数人巻き込んで。
高価な調度品をいくつかなぎ倒して。
そんなものより、フランのほうがずっと大事だったからだ。
「まったく、お嬢様も人のことは言えないわね」
「……それはよろしいのですが、メイド長」
「なに?新入り」
声のしたほうを振り返って、咲夜はメイドに返事を返す。
「あなたこそ他人の(ry」
(ry
「めいり(ry」
オッワーレ
それにしてもね・・・こう、好きな人に対して積極的なれるというのは気持ちが良いものですね。
他のネタも楽しみにしております。
甘っ! ニヤニヤ笑いがとまりません
勉強になりました!
こぁ可愛いよこぁ
で、この後に甘味が届くと
しかし美鈴の候補はだれ?
甘いですなぁ。
面白かったです。
パチェ走ったりして、小悪魔にあえても何も言えずにぶったおれそうだ