「幽々子さまー」
彼女はうっすらと目を開けた。靄に覆われた意識の遥か彼方から、名前を呼ぶ声が響いてくる。
夢と現実の距離は、果てしなく遠かった。
「幽々子さまってばー」
心地の良い熱気に包まれて丸まった身体を、ゆっくりと引き伸ばす。
全身の捻りだけで床を這いながら、幽々子は頭で布団を押しのけた。
火照った頬をじわじわと侵す、鋭い空気。室内だというのに、炬燵の外はやけに寒い。
重い瞼をそれ以上こじ開ける事はせず、気配だけで呼び声のする方へ顔を向ける。
どおりで冷えるわけだ。開け放たれた障子の向こうに、庭師が立っていた。
「んなぁぁぁにぃぃぃ?ゆぉぉぉうむぅぅぅ?」
「あぁもう、脳みそ蕩けてるじゃないですか」
いつまでもそんな所に入っているからいろはにほへとかいじゃりすいぎょのかねをならすのはあなた。
理解不能の説教を垂れ流す庭師から顔を背け、幽々子は欠伸を一つ。
覚めないまどろみは、頬を伝う涙を手で拭う事すら許してはくれない。
「……海亀みたいですよ、幽々子さま」
「スープ作ってくれるのぉぉぉ?ゆゆこちょぉぉぉうれしぃぃぃ」
しばらくの無言の後、庭師は何かを諦めたように大きく溜息をついた。
相変わらず、並の幽霊より憂いの表情が似合う。従者の才能を引き出すのも、主人の勤めである。
「私の半霊が何処かに行ってしまったので、お尋ねしようと思ったのですが……」
「はくれいなら、神社でお賽銭数えてるんじゃないのぉぉぉ?」
「……知らないですよね。その様子じゃ」
失礼しました、と部屋から去ろうとする庭師。
幽々子としては早く障子を閉めて欲しいのだが、庭師は何かに気付いたように足を止める。
怪訝な顔で彼女が指差したのは、網の敷かれた火鉢だった。
「……お餅でも焼いたんですか?」
「美味しかったわ」
で止めた方がよかったかと
蛇足になってるというか、おちの後に更に続いて、そこには落ちが無いのでけっきょく落ちてない
しかも一回おちてるのでたちが悪い
つまり、蛇足。