天高く馬肥ゆる秋である。
幻想郷は紅葉と豊穣を足して2で掛けた、正に秋の活気に包まれていた。
秋姉妹の活躍ぶりは目を見張るものがあり、静葉がバック転で幻想郷を一周したかと思えば、穣子が惜しみなく人里の人々の左頬をぺちぺちと叩きまくる。
その活気たるや、余裕で100kを超えそうなフルカオスが展開される有様だったが、秋姉妹故にそれが発表されることはなかった。幸いなことに。
そして季節は、貴賎人妖の区別なく平等に恩恵を与えてくれる。
悪魔の屋敷たる紅魔館においても、それは例外ではない。
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「さて…」
キッチンで本日のメニューを考えて佇んでいるのはご存知メイド長の咲夜。
マンネリにはならぬ様、かと言って余りに奇をてらい過ぎぬメニューを日々考えるのは、例え瀟洒な彼女をもってしても簡単な作業とは言えない。
空も高く、せっかくの秋模様である。一品程度は旬のものを添えたいところだ。
「咲夜さん!咲夜さ~ん!」
入り口の向こうから顔を出したのは、真紅の髪も眩しい紅美鈴その人か。
何やら大きな樽を担いでいるではないか。
「すごいですよ!すごいですよ!」
子供の様に目を光らせている美鈴に対して、咲夜は苦笑しながら尋ねた。
「嬉しそうなのは解るから。何があったか説明して頂戴な」
「おっと、そうでしたね。これこれ、これ見て下さいよ!」
美鈴は男衆数人ががりで運ぶ様な大樽を、いともたやすく下ろした。
ぱかりと樽の蓋を取った瞬間、放物線を描いて何かが飛び出す。
「きゃっ!?」
勢い良く飛び出したそれは、幾本もの銀のナイフに見えた。
鮮烈に光るその側面がカーブを描かなければ、もう少しその認識が続いていたかも知れない。
「おおっと!」
それが地面に着く直前に、美鈴は辛うじてそれらを受け止めた。
手で捕まれてもまだぴちぴちと動いているそれは、良く見れば細長い体を持つ魚だった。
「それまさか……秋刀魚?」
「ですよですよ。海産系の秋の味覚の王様ではないかと私は常々思ってます。あくまで私見ですけれども」
「幻想郷に海は無かった筈だけども……どしたのこれ?」
「それがですねぇ、八雲のところの藍さんが、紫さんの命令で外界から獲ってきたそうなんですよ。ktほど陸揚げしたそうなので、お裾分けも当然かもですねー」
「1000t!?」
「内900tは白玉楼に向かった様ですが」
「自由の女神を四人分も平らげようってのかしら、あの亡霊」
まあしかし、幻想郷では滅多にお目にかかれぬ海産物に出会えたのは僥倖と言ってよかろう。
問題は料理形式だ。
「どうにも……和風寄りのレシピしか思いつかないわねぇ。流石に焼いた秋刀魚に摩り下ろした大根おろしと言う訳にも……」
「あら、別にそれで構わないわよ?」
いきなりキッチンに紅い霧が渦を巻いたかと思うと、その細かな粒子が人の形に寄り集まった。
紅魔館筆頭館長……ではなく紅魔館の主、レミリアである。
相変わらず的確な場所でカリスマを発揮している。冷蔵庫下のGもきっと平伏しているだろう。
「お嬢様……」
「洋食続きと言うのも芸が無いわ。格式は大切ではあるけど、悪魔に必ずしも必要ではないし」
「はあ。では先程のメニューに致しますが、本当に宜しいので?」
「悪魔は嘘をつくけど契約は守るわ」
ふふんと余裕を見せるレミリア。これで咲夜も美鈴も自分の器の大きさに感服するに違いない。
私のカリスマったら最高ね。
「ではその様に取り計らいます。まずお召し物をお取替え下さい」
「は?」
「こちらの衣装にお着替え下さい」
咲夜が出したのはいわゆる作務衣と言う奴だ。
古き良き日本の風景を思い出すのは我々だけで、幻想郷では割と普通に着られているものであるが。
傍から見てもレミリアサイズに調整されているのが解る。
「耳が遠くなったのかしら……着替えろとかなんとか」
「いえ、相も変わらず食べちゃいたいくらいに可愛らしいお耳です。こちらの衣装にお着替え下さい」
差し出されるTHE作務衣。汚れも痛みも気にしない頑丈な素材は問答無用の頼もしさを醸し出す。
「あのね、咲夜。冗談に付き合う暇が無いとは言わないわ。但しその冗談はもう少し瀟洒且つ解りやすいものに
「咲夜さーん。フラン様も参加したいそうです」
「あら大変。美鈴、この服に着替えて貰いなさい」
「うー。話を聞きなさい~」
涙目である。半ベソである。それでも牙を剥いて我を通そうとするその姿は文句無くカリスマの権化だ。
頭身が下がっている気もするが。
「なんでメニューを決めるのにそのうつくしさを100犠牲されるけど他ステータスが軒並み向上みたいな服を着なくちゃならないのよ!」
「決まっています。秋刀魚を焼く為です」
「うーーー!だから食べる私まで着替える理由にならないじゃないの!」
「お嬢様。勘違いなされている様ですからズバリ言いましょう。間違いを指摘するのも従者の務め」
「なんなのよ!?」
そろそろ全ベソである。うー。
「料理とは基本的に作り手と消費者は違います。最高の料理は最高の料理人が作る。その認識は間違いではありません」
淀みもなく瀟洒に説明する咲夜。だが一点、その拳は訴える様に強く握られていた。
「しかしサンマ……焼きサンマだけは違うのです。焼きサンマは、己の手で焼くのが絶対のルールなのです!」
握った拳を高く高く天に掲げる。我が発言に一片の悔いも無い表情は実に清清しい。
「七輪を用意し、炭を引く。火力を調整し、用意した秋刀魚をパリッと焼き上げる……正に食宝。人生の悦、ここに極まれり!」
と、陶酔しかけた顔で何となしに瀟洒なスピンをしながら説明する。
口から涎が溢れ出ているが、主の妹も門番も、途中から実は見ていた動かない大図書館と動きまくる司書も涎を垂らしていたのでドローだ。
何がドローかはこの際問わない。
「とにかく調理工程の全てを自ら行う……それがサンマの食べ方であり、スペルカードルールを破ってでも遵守しなければならない絶対法則なのです!」
天高く腕を掲げるメイド長。我が説明に一片の悔い無し。
嗚呼。瀟洒、瀟洒。
パチパチ……パチパチパチ……
見れば紅魔館住人諸共に、熱い拍手を送っているではないか。
門番などは目頭を押さえ、感動の余り涙を流している。
「咲夜さん!素晴らしいです!正に紅魔館一同の代弁者です!」
「美鈴!」
「咲夜さん!」
がっぷりと抱き合い四つに組むその姿はまるでルネサンスの絵画の如く。
二人の絆は、紅魔館の絆は、確実ここに深まったのだ。
「えー」
主一人をブっちぎって。
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「ふっ」
流麗なるそのラインを形作るのは、100%の木綿の技。
シャリ感溢れる涼しげな生地は、動き易さも併せ持つ最先端だ。
ZUN帽代わりに頭に巻かれた手ぬぐいは、作務衣の魅力を何倍にも引き出す、ガテン系noblesse oblige.
事ここに至っては、斜め縦横異次元方向から見たってカリスマがだだ漏れだ。
「美しい……完璧です、お嬢様」
「当然よ。誇り高きスカーレット家の当主たる者、作務衣の一つ二つ着こなせなくでどうすると言うの?」
上手く乗せられた気がしないでもないが、褒められて悪い気はしない。
そしてまた、咲夜もこれ以上無いぐらい瀟洒に作務衣を着こなしている。
腕まくりの角度、皺、どれをとっても隙が無い。
特注品なのか下は木綿生地のミニスカートである。
何より他のメンバーも既に作務衣。
アグレッシヴな服装に着替えた為か、見えるのを気にせず動ける為か、門番の動きキレは音の壁を越えそうな程滑らかだ。
多分イメージで間接の数を増やしているに違いない。月の従者と同年代の塩漬けな人だって撃退だ。
その上パチュリーすらも、やけに矍鑠とした動きをしている。
頭の飾り宜しく、進んでいるのか後退しているのか解らない動作をしている。
そう。今紅魔館は秋刀魚に向かって一つのうねりとなって突き進んでいるのだ。
それを止めるほどレミリアは野暮ではない。どこぞのドリルでルンルンな80年代程では無いにせよ空気も読める。
「……して、何をすれば良いのかしら?」
「何よりもまずは良い火を作らねばなりません。遠赤外線効果も実感できる炎を使い、カラっと焼き上げるのが常道です。まずはこちらをご覧下さい」
咲夜の指差した方向には、人数分の七輪と、箱が二つ用意されていた。
「炭が二つある様だけれど?」
「炭を熾すのは初めてですよね。ここは私が説明しましょう」
軽やかなステップで美鈴が前に進み出た。
一つ目のダンボールから取り出されたのは、反射も少ない正に炭色の『炭』
「一般的に良く使われるのがこちらの『黒炭』と呼ばれる物。脆く柔らかい代わりに火付きの良い炭です。それでも火付け用の薪で火をつけるには少し手間がかかりますが」
「これは良く見るわね。何で灰にならないのかしら」
「密閉状態で加熱することによって、純度の高い炭素成分のみ残すことで出来上がるそうです。元の素材や釜によっても価格は結構違ったりしますね」
「へぇ、結構手がかかってるのね……で、もう一つは?」
二つ目ののダンボールを指差すレミリア。美鈴が少し動かすと、キンと金属音が響いた。
「鉄?」
「と、誰しもが思うこの音。しかし違います!これぞ伝統の「白炭」!遠赤外線効果もあらたかな焼き物の王道です!」
取り出されたのは一見白く汚れたただの炭。
しかし、その断面たるや黒曜石もかくやと言う程に滑らかな光沢をしている。
更にそれを渡されたレミリアは、その一つ一つにずしりと込められた匠の仕事を肌で感じた。
「そしてこれは紀州備長炭すらも凌ぐ、幻想郷でしか手に入らない幻の『妹紅炭』!その焼き上がりたるや、どんな素人が使っても究極の仕上がりを約束する至高の領域!」
ダンボールに燦然と輝く不死鳥印。
「私が作りました」と笑顔の生産者の顔もバッチリ解る親切で安全な品質。
折込のチラシにはこの炭で成功した夜雀さんの話が掲載され、弥が上にも仕上がりを期待させてくれる。
「これが無ければ焼き秋刀魚は始まらない。これが無ければ焼き秋刀魚は語れない。珠玉の一品とはこれの事なのです!」
天高く腕を掲げる門番。我が説明に一片の悔い無し。
嗚呼。中国、中国。
パチパチ……パチパチパチ……
見れば紅魔館住人諸共に、熱い拍手を送っているではないか。
メイド長などは目頭を押さえ、感動の余り涙を流している。
「美鈴!素晴らしいわ!正に紅魔館一同の代弁者よ!」
「咲夜さん!」
「美鈴!」
がっぷりと抱き合い四つに組むその姿はまるで古代ギリシャの彫刻の如く。
二人の絆は、紅魔館の絆は、確実ここに深まったのだ。
「えー」
主一人をブっちぎって。
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「それでは着火に入りましょう。本日は特別講師をお呼びしました」
「むぐ~(おろして~)」
「……特別講師と言うのは、逆さ釣りにして猿轡を噛ませるものなのかしら?」
囚われに定評のあるみすちーをレミリアが目視したのはつい先程のことである。
慌てて降ろしてやるレミリア。ずるずる、うんせ、うんせ。
「何をやってるのよ……可愛そうじゃないの」
「いや、まあ慣れてるから良いんだけどね。で何の用?」
案外、堪えていなかった。
亡霊の食いしん嬢に鍛えられている為であろうか。
どうやら最近は屋台の一番の常連であるらしい。人生どう転がるか解らないものだ。
部下の非礼を詫びると共に、簡潔に状況を説明した。
「まあ、少々不本意ではあるのだけれど」
「いやいや、拉致されてなんだけど、そこは自分としてもメイドを褒めたいところだね」
「えー」
「最高に美味いものを主人に提供するという点で言えば一番ベストな方法さね。そうと解ったからにはとことん協力しちゃうよ~」
鼻息も荒く腕をまくるみすちー。
すっかり職人根性が根付いているが、悪いことではあるまい。
早速てきぱきと用意し始めたが、なるほど動きに無駄が無い。
咲夜のような瀟洒さは無いものの、職人として十二分に洗練された動作は比べられるものではない。
「黒炭にしても直接着火はまず無理なんだ。まずは古新聞紙や良く乾いてる枯葉とかを七輪の下に敷いて、その上に小枝や細い薪とかを置いてね」
説明を受けながらもたどたどしく配置を始めるレミリア。
本来なら火熾しから始めたいところだが、流石に錐揉みとおがくずから始めるはじめ人間リスペクトはハードルが高すぎる。
火種は暖炉より拝借することにして早速着火。
ところが一旦火は点くものの、燃え広がらずに消えてしまう。
「ぐぬぬ」
「ああ、ダメダメ。隙間無く埋めすぎだよ。薪や紙自体は燃え易いとは言っても、空気が供給されないと燃えてくれないんだ」
なるほど、と今度は木切れや紙に間隔を空けてやる。今度は美味く行ったのか、真っ赤な炎が七輪の上の口から飛び出した。
「ふふふ。私の手にかかればこんなものね」
「妹さんもとっくに点けて、貴女が最後みたいだけど」
「んなっ!?」
見ればなんと言うことか、レミリアを除いた他のメンバーは既に炭への着火にはいるべく団扇を使って扇ぎ始めている。
「う~主人を差し置いてなんたる……」
「ほらほら、余所見してないで手早く次に移らないと。この熾し方の場合、煽がないと炭に点く前に火が消えちゃうもの」
「ああ、もう!仕方ないわね!団扇はどこ!?」
「あいあい。どぞー」
手際よく団扇を渡すみすちー。気分は既に現場監督である。
「咲夜や美鈴は流石に手際がいいねー」
「慣れてるもの/慣れてますから」
一方は瀟洒に、一方は少し寂しげに答えた。
後者の胸中を20字以内で述べると何か良いことがあるかもしれない。
「エフッ……ゲフッエフッフッフフフフ!」
「パチュリーさまっ!気管支の強化魔法も使わず何やってるんですかー!」
「止めないでこあ……エフッフ!今の私ならゲフゴフ憧れのアウトドア路ごふっ線も夢じゃないわゲフエフ」
「肉体のキャパは変わってないんです!今すぐ永遠亭に……」
涙目になりかけている小悪魔の肩を誰かがつかみ、止めた。
「駄目だよこあ。パチェは今自分の殻を破ろうとしてるんだよ」
「妹様……」
「私も魔理沙や霊夢がやってきて変われた……外に出ることが出来る様になった。変化を恐れず、自分から色々やる様になれたの」
「……」
「だから……パチェが積極的になってるのを止めるのはダメだよ。きっかけは大事なんだ。見て、パチェのあの笑顔」
フランドールが指し示す先には、必死に煙と格闘しながらも、一つの目的のために邁進する少女がいた。
輝いている。眩しいほどに輝いている。どれだけ煤で汚れようとも、ひたむきな少女の姿はあらゆる者の胸を穿つ。
悪戦苦闘で蒼白になる顔。しかしパチュリーは諦めることなく扇ぎ続ける。
見ていられない。
何度駆け寄ろうと思っただろう。しかし、その度にパチュリーの笑顔が小悪魔を思い止まらせる。
それこそが小悪魔の、パチュリーの願いならば。
そしてついに。
黒ずんだ炭に一筋の赤が燈る。
それは少女の夢への第一歩。野外派へ続く果てしない旅路の第一歩。
「パチュリー……様っ!」
小悪魔の瞳から一筋の涙。
ああ、私が間違っていたのだ。苦しいかどうかは他人が決めるものじゃない。自分で決めるものなのだ。
「ね……ごほっ……止めなくて……こほっ……正解だったでしょう……?」
「はい……はい!パチュリー様!」
これが終わったらツーリングの予定を立てよう。海に、山に、瘴気渦巻く故郷の魔界にも積極的にパチュリーを連れて行くのだ。
そしてゆくゆくは妖怪の山東壁への冬季単独登頂。孤独を愛する彼女なら、やってやれないことはない。
支え、そして支えられる二人の少女。二人の絆は確かにここに深まったのだ
ビバ、アウトドア。秋刀魚から始まる変化だって良い。
ビバ、アウトドア。秋刀魚から始まる恋だって良い。
その二人を祝福するかの様に、ミスティアが近づいて一言告げる。
「ありゃ、二人とも火が消えちゃってるよ?やり直しだね」
「こああああああああああああ!?/むきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
匠とは時として残酷である。
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「……何をやってるのよ、こっちは出来たわよ」
一人地道に扇いでいたレミリアはなんとか黒炭への着火を完了した。
黒、白、そして赤のコントラストで美しく燃え盛る炭。
「中々良いものね、火の赤も。橙に近いとはいえ、これはこれで風情があるわ」
「おお、僥倖、僥倖♪それではメインの白炭への着火だね」
見事に燃え上がるレミリアの七輪を眺め、ミスティアは関心している様子だ。
はだけて煤けた顔と作務衣でふふんと鼻をならす完璧なレミリアの姿に、カリスマを感じざる得ないのは当然と言えるだろう。
「ええとね、まず十二分に炭を湿気らせておく。これは用意してあるから」
「ふんふん」
受け取った白炭はちょっとじっとりしている。
「そして間髪いれずに七輪にブチ込む!」
「なるほど」
レミリアは軽やかにその炭を七輪に放り投げた。放物線は黄金率の弧を描き、見事七輪に収まる。
「んでもって、様子を見る為にしっかり七輪を覗き込んでね」
「どれどれ」
バキィィィィィィィィィィィィーン!
「ぎゃぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!!!!!?????????」
熱せられた白炭の破片がレミリアの顔面に雨の様に直撃する。
細かい散弾と化した鋼鉄以上の硬度を誇る妹紅炭である。
その威力たるや、顔面だけとは言えM18クレイモアすら凌ぐ立派な対人兵器と言えよう。
「以上のことは白炭を使う上では、『絶対に』やったらダメなんで、注意してねー」
お姉さん宜しく他の紅魔館メンバーに向き直る。
「はーい!」と元気に答える人一人+妖怪多数。
「熱いっ痛いっあついっいたいあついたいあついたたたあたっあたいあたいあたいあたいぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「呼んだ~?」
優雅に転げまわるレミリアに引き寄せられ、氷の妖精がやってきた。どこまでも人妖の心を掌握するカリスマ性だ。(※死神と火車は出遅れたらしい)
「呼んでにゃい!あと動くな!」
答え①カリスマなレミリアは突如現状打破のアイデアがひらめく。
転げまわる横ローリングの力のベクトルを縦方向に変化させ、熊犬秘伝の抜刀牙よろしく⑨に顔面から突っ込んだ。
加速の付いたまま⑨精の鳩尾に、レミリアの顔面がすっぽとおさまる。
チルノは気絶。そしてお腹から大量の水蒸気と共に、ドジュウという効果音。
即ち、顔面に蓄積された熱エネルギーを、氷精の負のエネルギーによって相殺しようという鮮やかな試みは見事成功したのだ。
水蒸気パックの効果の為か、チルノをペリペリと剥がすと以前より滑らかかつ艶やかなお肌が現れた。
OK、今度また試してみよう。そしてにっこり微笑み腹の底から声を絞り出す。
「てめぇゴルァ夜雀ェェェェェェェェェ!先に言えぇぇぇぇぇぇえええ!!」
「まあまあ、落ちついてよ。そして話を聞いておくれでないかい」
夜雀程度の木っ端妖怪、一睨みでガタガタ震えて命乞いかと思ったら随分とどっしりと構えている。
なんというかこう、妖怪的に余裕のある大人の対応だ。
毎夜の接客がそこまで彼女を大きくしていたのだろうか。
「さっきのは爆跳って言ってね。炭を扱う場合避けては通れない危険の一つなんだ。どう?またあんな目にあいたいと思う?」
「二度とゴメンよ!……それが何だって言うのよ」
「そう、妖怪でもあんな目に会うのはごめんだよね。私も慣れない内は何度もアレをおこしちゃってね。ほら、鳥頭だからさ」
自嘲気味に笑うミスティアは、胸から紙巻の煙草を取り出した。
似合う。果たして少女に不釣合いなはずechoの刻印が、妙にしっくりとマッチしている。
「最近じゃ流石にないけれど、あの痛みはどうやったて忘れられるものじゃない。いや……だからこそ私でも失敗が無くなったんだろうね」
ふーっと煙を吐き出す。ミスティアはごく自然に風下に立っており、吸わない者へのマナーを忘れない。
愛煙家たるもの、かくあるべきであろう。
「レミリア」
携帯灰皿に吸殻を押し込みながら、ミスティアはきわめて真摯にレミリアを見つめた。
「あんたはこの館の主だ。だからこそあらゆる危険、あらゆる痛みを率先して覚えておくことが必要だと思う」
「私が……?」
「小さな屋台を守って、続けていくだけでも大変なことだもの。この大きな館とたくさんの部下を従えてるあんたは、一番に危険を知っておかなければいけない立場なんじゃないかな」
レミリアはハンマーで殴られた様な衝撃を受ける。
たがが屋台の夜雀ごときが、吸血鬼にくらべればれば塵芥にも等しいこの妖怪が。
レミリアと同じ一国一城の主として見えたのだから。
「……と言っても、まあ、全部私のおせっかいな訳だから、似るなり焼くなり生で食べるなり好きにして頂戴な」
どさりと腰を降ろすミスティアときたら、まるで石川五右衛門の様な腹の据わり様だ。
「ふ……ん!これだから夜雀は!その程度のことを私が見抜けなかったとでも!?」
「ソウナノカー?」
「そ、そ、そうよ!全て承知の上で茶番に付き合って上げただけ!わかったらさっさとちゃんとしたやり方教えなさい!」
流石にこれにはミスティアもド肝を抜かれた様だ。
全てを把握した上でお遊びにつきあっていたとは……狡猾な悪魔の一面を覗いた為か、ミスティアもうつむいてぶるぶると恐怖に震えている。
口元からは「く……ぷふふ……チルノと……同レベル……くく……」等と訳の判らない呟きを漏らして、精神崩壊寸前だ。
他の紅魔館のメンバーもそのカリスマぶりに、身も凍る様な生暖かい視線でそのやり取りを見ていた。
恐るべし、悪魔の館。
「く……ぷぷ……わかりましたわかりました……ちょっとまってね、準備準備……」
番組によっては「ミスティア、アウト」のアナウンスと共にケツバットものの状態であるが、なんとか落ち着きを取り戻す。
七輪に配置し易い長さの白炭を見繕うと、燃える黒炭のやや外側に配置した。
「着火はしない様に密着しない位置でゆっくり温度を上げる。爆跳の原因は加熱によって、中に混じった水分や空気が急激に膨張する為に起こるから、ゆっくり温度を上昇させるのが一番の対処法だよ」
「あとは湿気らすな……ってとこかしら」
「あと、あんまり古いのもダメだね。どんなに良質なものでも、経年劣化でどんどん質は悪くなるから」
火を熾す。それだけの事にも、商品としての価値をつけるとなるとこれだけの拘りが必要になってくるとは……
説明を続けるミスティアの顔に浮かぶそれも、タイプは違うがまた一つのカリスマであった。
「ところで咲夜。この炭は大丈夫なんでしょうね」
「当然です。火の匠藤原妹紅が吟味した妹紅炭を、更に私の瀟洒アイで選別した選りすぐりです。阿僧祇に一つの間違いもありませんわ」
「でかい単位を出さないで。余計にフラグが立ちそうだわ」
「まあ、運が悪ければどんな良品でも爆跳することはあるから。その時は諦めるしかないね~……っと、ぼちぼち良いかな」
外見上の変化は無いため判断はつきかねるが、おおよそ20分程度経ったのを見計らい、火鋏で黒炭と妹紅炭を混ぜる。
「後はさっきと一緒。火が移るまでひたすら扇げば、着火完了だね」
団扇を渡されたレミリアの顔にはもはや迷いはない。こくりと頷き、一心不乱に風を巻き起こす。
見るがいい聞屋。笑うがいい聞屋。
天狗に比べれば、余りにも稚拙なこの団扇捌き。
なれどこの腕が引き起こす旋風は、果てしない夕食へのロード。
一振り、ひょうと火花が上がる。
二振り、ごうと炎が上がる。
三振り、ぶわと火柱が上がる。
まるで不死鳥が舞うかの如く、抱える程度の大きさの七輪から炎が上がる。
それは正に注いだ手間と情熱に比例するかの如く高く高く立ち上り、天へと上っていく。
それを見送った後、七輪に残ったのは
「……綺麗」
天上の宝石すら及ばぬ、真紅の紅玉。
いや、違う。
自ら光を発するそれは、完全に火を称えた妹紅炭である。
その実は炭素と、ほんの僅かな不純物。
しかしてそれは、ピジョンブラッドすらも凌ぐ気品と高貴に満ちた色合い。
匠の技の結実した先に生まれた、有限だからこその奇跡。
優しささえも湛えたその炎を前に、レミリアは我慢出来ず叫んだ。
「点いたどーーーーーー!」
天高く腕を掲げるれみりゃ。我が着火に一片の悔い無し。
嗚呼。れみりあ、れみりあうー。
パチパチ……パチパチパチ……
見れば紅魔館住人諸共に、感動の拍手を送っているではないか。
全てを伝えきったミスティアなどは目頭を押さえ、感動の余り「ち○ち○」と連呼している。
「もう教えることは何も無いよ!夜雀庵二号店の権利書をあげるよ!」
「それは謹んで遠慮するわ!」
「レミちん!」
「みすちー!」
熱い抱擁。それに伴い飛び散り弾ける、汗と涙とその他色々秋刀魚に纏わるエトセトラ。
二人の絆は、秋刀魚によって結ばれた二人の絆は、2ボスと6ボス、そしてシリーズの垣根を越えてここに深まったのだ。
ツッコミ不在のまま。
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完全に着火が済めば、あとは最低でも5時間以上は燃え続けるのが白炭の特徴である。
ましてや幻想郷随一の品質を誇る妹紅炭だ。
継続時間は優に12時間を超えており、天狗が全力が扇いでも鎮火は難しいだろう。
ただし、着火してすぐは火力が安定しない為、その間に秋刀魚を焼く準備にとりかかる。
作務衣にエプロンで魅力も増し増しな咲夜が、荷物を持っていつの間にか立っていた。
……紅魔館ではよくあることだ。
「さて、秋刀魚と言えば網焼きですが、油が落ちて炎が上がったり、貼りついて身が崩れてしまったりと慣れない内は結構難しいものです」
いつに無く真剣な表情の咲夜。レミリアをして紅霧異変当時を思い起こす程の張り詰めた空気である。
「張り付き焦げ付き、あせって取ろうとして身をボロリと地面に落とす。丹念に焼いた海の宝石が、土くれと化したあの瞬間っっっ!」
憎悪を込めたその表情に一切の慈悲は無い。目は血走り、肩をわなわなと震わせる様はカーリー女神もかくやという絶望的プレッシャーが迸った。
「秋刀魚……嗚呼!秋刀魚!秋刀魚たん……!たんたかたん!」
奇声を発したところを、美鈴が華麗に跳躍。
重さを感じさせない木の葉の様な動きで咲夜の背に着地すると、斜め45度の角度で震脚を叩き込んだ。
正気に戻った咲夜がサムズアップ。笑顔で答える美鈴。流石のチームワークにミスティアが唸る。どうにかしてくれ。
「げふっ……対処法として網をしっかり熱しておくことや、酢を網に塗るなどがあります。また、網焼きにこだわらないなら串焼きなども宜しいかと」
弾幕と同じで、どれも探せば何らかの対処法があるものである。
ましてハードやルナなど存在しないので、皆好みの方法に落ち着いた。
ちなみにレミリアとフランが串焼きを選んだ。まだ生きている秋刀魚に涎を垂らしながら串を通す様などは正に悪魔。正に毒竜。
神主にすら否定される「ツェペシュの幼き末裔」なる肩書きも、この様子を見れば誰もが首を縦に振らざる得ないと思うがどうだろう、れみりあうー。
滞りなく準備が終わると、各々が七輪へと秋刀魚を掲げる。炭は適度に灰が被り、火力も絶妙な加減で安定している。
パチ……パチ……ジュウウウウ……
くべられた秋刀魚は下からの紅色の炎に当てられ、荘厳な色で輝きながら、身に凝縮された油を噴出す。
網焼き組のパチュリーと小悪魔の方を見ると、あり得ないぐらいの黒煙が上がっていた。
パチュリーがZ.O.N.A.P.H.A. Syndromeと間違うぐらいにぜひぜひと咳き込んでいる。
柔らかい石は専売特許なんだから使ったら良いのにという突っ込みは無粋だ。
見よ、彼女の傍らでしっかりと小悪魔が支えている。この絆がある限り、決してパチュリーが倒れることはないだろう。
支えることに夢中の小悪魔の秋刀魚は黒焦げになると思うけど、ナントカの力はきっと無限大だ。発癌性物質ぐらいなら多分恐らくなんとかなる。
それよりも今は、手元に集中することこそがレミリアの仕事だ。
必死に熾したこの炭火。存分に活用してこそ、その真価を味わうことができる。
遠火の強火で表面パリリ、中はジューシーに焼き上げる。決して生ではない、肉汁が固化する直前の極めて貴重な状態で味わうのだ。
……ジュウウウウ……
小食なレミリアですら、腹に響く香ばしい香りが漂ってくる。
鼻腔をくすぐるその煙が伝える、かくも豊かな秋の至宝!
溢れる唾液、飲み込む生唾。事ここにきて恥も外聞も無い。
普段は瀟洒なメイドのあの表情を見るが良い。
蕩けて緩んだその表情は、夢見る乙女そのものだ。
狂気の権化と呼ばれていた妹を見るが良い。
キラキラと輝かせたその両の瞳の、何処に狂気の欠片が見出せるものか。
そして今、ついに待ち望んだ瞬間。
「……」
沈黙の中、ゆっくりと串に通した秋刀魚を引き上げる。
横腹にうっすらとした焦げ目。ところどころから流れる油に炭火の炎が反射しててらりと光る。
大海を泳いでいたその形を一切損なうことなく、しかし中身まで火が通っていると言う確かすぎる手ごたえ。
軽い気持ちで「焼き秋刀魚で良い」などと言っていた自分を思い出し……恥じ入る。
目の前にあるのは確かなる「秋の至宝」
それを味わうと言うことは、正に自分と秋との戦いなのだ。
「お嬢様……」
咲夜がまずそれに気づく。
「とうとう……」
美鈴がぐっと目頭をおさえた。
「お姉さま……やったね!」
妹の心からの祝福。
「げふごふげっ」
いいから休んでなさい親友。
「多くの言葉を語るは無粋……お嬢様、まずはそのまま!」
「応!」
始めに感じたのは甘味。
そう、甘い。
油の持つ特有の甘み……しかし陸の獣が持つしつこさからは程遠い、素朴とも言えるその甘味。
だと言うのに、その存在感たるや余りにも……余りにも!
今までに食べた魚介類と一線を画すその味。その一助となっているのが、炭からほんの少しだけ出ている煙であると一口目で気づけた程の格別の味わい。
妹紅炭から放たれる香ばしい炭の香り……それは秋刀魚の成分と反応し、香り、味共に遥かな高みと押し上げていたのだ。
「お嬢様」
咲夜がスッと進み出た。脇には荷を押す美鈴の姿がある。
「最初の一口は素材の味を……しかし秋刀魚は更に美味い食べ方があります」
そう言うと、咲夜は華麗に品々を並べ始める。
「適度な辛味を持った大根です。風見農香によるDOS企画検定もクリアした一本。単体でも美味しい本物の味わい。そんな一品を丹念にすりおろしました」
勢い良く擦られた大根。アリルイソチオシアネートがピリリとした辛味を生み出す。
すりおろされた大根からは、瑞々しい大根の香りが立ち上った。
「かぼすやスダチ。日本酒、醤油、昆布に鰹節で作るポン酢も忘れてはいけません。これが有ると無いとでは、秋刀魚の味にも格段の差がつきます」
氷を敷き詰めて冷ましていたボウルには、限りなく黒に近い、茶褐色の液体。
柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。
「そして、何よりも銀シャリです。はじめチョロチョロ中パッパ、騒霊鳴いても蓋取るなとばかりに、ふっくらモチモチと炊き上げました」
脇に置いてある米俵にはしっかりと『守矢神社認定。奇跡の味わいコチヒカリ』とラベルが張ってあった。
常識に捕らわれない発想が生んだ奇跡の米との触れ込みだが、炊き上がったその純白のシャリを見れば、宣伝ですらその真価を伝えきれていないと判る。
ごくり……と、レミリアの喉が鳴った。
何もつけない秋刀魚だけであれほどの味だ。
ここに更なる味を加えた時、果たして何が起きると言うのか。
能力の運命視ですら見通すことが出来ぬ。
いや、そもそもそんなことは無粋の極みだ。
無我の境地でその味を貪りつくす。
それこそが食材に対しての唯一つの恩返しと言えよう。
咲夜が手際よくポン酢と大根おろしを混ぜ、おろしポン酢を作りあげる。
準備は滞りなく完了した。
チョモランマ盛りにされた茶碗を受け取ると、レミリアは器用かつ繊細に身を取り分ける。
崩さぬ様、されど出来る限り多くの量をつまみ上げる。
おろしポン酢を満たした小皿に秋刀魚の身がサッと通る。それだけで油が浮くほどに濃密なその肉。
複雑かつ、それでいて秋刀魚自身の味を引き立てる為だけに調整された調味料を身に纏い、その小さな切り身の存在感は何倍にも増して見える。
ならば。
ならばその味は。
「いざっ!」
齧り付いたその時、秋が弾けた。
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目の前に夕焼けをバックに秋刀魚が踊る。回遊に回遊を重ね、成長を重ねた秋刀魚が生き生きと見える。
それは正に秋刀魚の一生を追体験しているかの様な錯覚。
いや、最後の場面でゴム長を履いた九尾の狐が、長年の荒波に揉まれた屈強の漁師に混じって棒受網を操作している所が見えたのであながち間違いではないかもしれない。
目の前の映像が途切れた途端、口内に溢れる秋!秋!!秋!!!秋!!!!秋!!!!!秋!!!!!!
ワタに溜まった油が、旬をこれでもか!これでもか!と主張する。
無論それだけではない。
本来ならは油のしつこさを軽減するためのポン酢だが、現状ではむしろその甘味を引き立てる為に存在しているかの様に主張をしない。
しかし、だからこそ感じるその存在。混ぜられた大根おろしとの相乗効果もあって、何もつけずに噛り付いた時とは雲泥の違いである。
あれほどの味わいが、今や1面中ボスの通常弾程度にしか感じられないのだ。
この旨味ときたら正に6ボスラストレベル。
しかし。だがしかし!
(踏みとどまれ……!まだ私は……銀シャリを口にしていないッッ!)
お茶碗を持つ方の腕には、未だ手付かずの白米が雄雄しく聳え立っている。
熊たんのプリントが胡散臭げに「その程度?」と不敵に笑う。
これこそは正にファンタズムの領域。
おのれ少女臭。負けてなるものかと裂帛の気合と共に箸を構える。
「お嬢様っ!?」
フラつくレミリアを見て、咲夜が駆け寄ろうとする。
美鈴がもそうだ。
フランドールとて例外ではない。
パチュリーは……
「ゴヘゲフゴフッァッ」
えっともういいや。小悪魔頼んだ。
兎も角、それを見てレミリアは気づき、箸を止めた。
「……にも」
レミリア、不敵に笑う。
「こんなにも……」
ゆっくりと天を仰ぐ。そうだ。今宵は満月ではないか。
正しく夜の女王たるレミリアのカリスマぶりが溢れていたのも頷ける。
万人を平伏させるその視線を一同に向け、告げる言葉はただ一つ。
「こんなにも秋刀魚が美味いから、みんなで食べるわよ」
食の基本は楽しむこと。
過程はともかく、いざ食べる時に身構える必要もない。
そもそも。
美味さは分かち合わなければ損なのだ。
「「「「うぉーーーー」」」」
どよめきと共に皆もご飯を用意する。
各々のキャパシティにあわせた物量。
しかして、それを盛り付ける心は一つ。
それに向き合う心も一つ。
旬の素材に、乾坤一擲の感謝を!
食を支える匠の技に、全身全霊の感謝を!
そして両の手と手を勢いよく打ち鳴らすのだ!
パンッ!
「「「「「「いただきまーす!!!!!!」」」」」」
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「そんなことがあったのよ」
煌々と照らす赤提灯には夜雀庵の文字。
「秋刀魚一つで大騒ぎとは、紅魔館も相変わらずね」
一番安いどぶろくちびちびと煽りながら、一番安いお通しの炙りスルメを大事そうに貪る、緑ではない方の巫女。
なんかもう、全身から豊かではないオーラに満ち満ちている。
「霊夢も秋刀魚分けてもらったんでしょ?」
「食べてないわよ。全部干物にして冬の備えにしたわ」
ぶわっ
店主の瞳に大粒の涙が溢れた。
「秋サンマを……焼きたてで食べられないなんて……」
「そんな目で見るなっ」
「わかってる、わかってるから……いいわよ、ここは私の奢り。これ食べなさい」
「同情するならお賽銭ちょうだい。いや、奢りは奢りで貰うけど」
出てきたのは蒲焼だった。秋刀魚の。
「あら、良い香り」
「八目鰻用の蒲焼のタレとはちょっと味が違うのよ。まあ、食べなさいな」
「はふはふ……うん、こういうのが良いのよ、こういうのが」
どうやら霊夢のお眼鏡に適い、顔を綻ばせる店主。
密かにガッツポーズを決めたりしている。
「……ところでさ」
「ん?」
「レミリアあんた、何やってんの?」
「秋刀魚って美味しいわよね」
「答えになってない」
「あら、理由なんかそれで十分よ」
提灯の隅には小さく「二号店」の文字が記されていた。
~夜雀庵二号店 非定期で営業中!永遠に幼い幼女が笑顔で接客します!~
途中の寸劇が長くなったの別の話にしようとした結果がこれだよ!
秋の夜長に一杯煽りつつどうぞ。
七輪で焼くっていうのは、今はなかなか出来ないですよね
小さなねたも一杯あって楽しかったのとおいしそうでした
でも、パチュリーが『他者副交感神経優位状態認識における生理機能影響症』
になったみたいなのが、頭の中で凄く想像できて笑った
幻想郷ではよくお目にかかれそうな調理方法ですね
実にお腹の減る小説でした。カリスマ駄々漏れでも気にしない!
秋刀魚本当においしそうだなぁ。
焼き魚って時々無性に、特に秋刀魚はどうしようもなく食べたくなる時があります。
例えば今みたいに。ああ、明け方なのにお腹空いた。
ところでパチュリーの相性はパチュではなくパチェですよね。
妹様の呼称がどうだったかについてはうろ覚えですが。
腹が減って来た・・・・・
七輪で焼いた秋刀魚の美味さは異常
いったいどうしてくれるんですか?
今から秋刀魚なんて用意できない…orz
それはともかく、前半部で比喩が多用され過ぎていて少しくどく感じられました。冒頭から比喩を使いすぎると話が軽く思えてしまうので、細かいところに気をつければもっと面白くなったかな、と思いました。
特筆すべきはそんなところでしょうか。
全体としては無難に収まってるかと思います。
あー秋刀魚食いてえ……
あと誤字ですが、DOS企画のSが大文字になってますよー。
あと、けーねwww
けーねひでぇwwwwwwwwwwwww
でも、みすちー、かわいいよ。みすちー。
「妹紅炭」の読み方は
「もこたん」でいいのよね?
ところで震脚は『地面を強く踏み込む動作』なので蹴りとは違いますよ。
なもんで…美味しいけど、食うのに骨やらワタやら取るから手間がかかって、取った分食う箇所も少ないって魚って認識です。
ハラワタ食えるようになれば秋刀魚に対する意識も変わるんだろうけどなぁ。いい年にもなったし克服してみようかなぁ。
秋刀魚はたっぷりの大根おろしに酢橘を絞って
熱いご飯と一緒に食べるのが最高ですね
一番魚の中で好きかも知れません
でも人に食べ方を押し付ける、注文の多いレストランは好きじゃないですね
ちょっと秋刀魚食べてくる
いえ、私もヤツこそ秋の味覚の帝王だと思ってますが。
炭火で網焼きのサンマは美味しいですよね。結構難しいけど。
網に張り付いて身崩れして半分近くが炭になってしまった時は、咲夜さん同様に絶望しつつ魚焼きグリルの偉大さを実感しました。
しかしまあ、職人魂を持ってそうなこのミスチーから暖簾分けを許されたんだから、お嬢様の炭火焼きスキルはそんなそんな領域をとうに超えているのでしょう。
王者のカリスマ、幼女のカリスマに、作中でミスチーが見せた職人のカリスマが加われば、向かうところ敵無しだと思います。それらが両立するもんなのかは知らないですけど。
あと、けーねは刑事告発されればいいと思います。
『人里の美人教師、呆れた本性!!』とかって射命丸にすっぱ抜かれればいいと思います。
いや、昼食を食べた後で読んで本当によかった。
それにしても一人だけペアの相手がいない悪魔の妹が不憫でならない。
390万を何に使ってるンだッ!
やはり秋は秋刀魚ということがよくわかったよ。
てゐの台詞で吹いたけどwwww
しかし秋刀魚が食べたくなって仕方がありません。
今食い終わりました。美味しかったです。
ごちそうさまでした。
あぁ、お腹が空いてきた………。
どなたか二号店への道を御存じないですか。
>「自由の女神を四人分を~」→「四人分も」
>「だがしがしサンマ………」→「だがしかし」
>「なんもう、全身から~」→「なんかもう」
ではないかと。
あと「もこたん」も買いに行くぜ!!
俺に秋刀魚を食わせろ…(´;ω;`)
反応が何よりの糧です。感謝です。
そして、誤字や内容への指摘ありがとうございます。
全部はちょっと無理なのでピックアップで返信をお許し下さいorz
>脇役さん
首謀者がアリスだったりするわけです。むきゅー。
>しずさん
>ところでパチュリーの相性はパチュではなくパチェですよね。
>妹様の呼称がどうだったかについてはうろ覚えですが。
パチェですね。紛う事無く。これは要修正でした。ありがとうございます。
>8さん
残念ながらおぜう様といったらダビデだろうという安直さです。
>もみじ饅頭さん
>前半部で比喩が多用され過ぎていて少しくどく感じられました。
>冒頭から比喩を使いすぎると話が軽く思えてしまうので、細かいところに気をつければもっと面白くなったかな、と思いました。
ご指摘ありがとうございます。
比喩が多いのは自分が文章書く上での癖でなのですよね。
味として読んでくれる人も多いので悩んでいる部分でもあります。
この話ではこれ以上の調整はしませんが、コミカルな話の場合全体での配分をもう少し考える様にしてみます。
>リペヤーさん
>あと誤字ですが、DOS企画のSが大文字になってますよー。
これはまた目に付かないところを……有難うこざいます。
しかしこの表記の方がドSを想起させ易いかもと一瞬思う自分はもうダメですね。
ちょっと太陽の畑行ってくる。
>18さん
後レスで詳しく述べてますが、比喩は長所でも短所でもあるとよく言われます。
個人的に比喩は好きな表現なのでありがとうこざいます。
>21さん
どこぞの配管工が助ける桃姫とどっこいだと思います。
みすちーは本気を出しても逃げられませんけど。
>22さん
自分は「もこうたん」と読んでます。
だって本人を「もこたん」って呼べないじゃないですか。
でもどっちももこたんと呼んで、いじけるもこたんを見るのもオツなのでもこたんでも良いと思います。
>24さん
実はは震脚であっているのですが、表現が簡潔し過ぎましたね。
周辺訂正しました。
>26さん
鮮度の低い秋刀魚のワタは、苦かったりして受け付けない人が多いですね。
旬モノ+鮮度が高いものは本当に甘くて美味しいので、機会があればお試し下さい。
>名前が溶解さん
>驕り→奢りかな
あまり使わない漢字だと一度目の変換で、他の漢字を調べないのはワープロ打ちの罠ですね……
素直に勉強せにゃと思いましたorz ありがとうございます。
>でも人に食べ方を押し付ける、注文の多いレストランは好きじゃないですね
もっともなのです。「秋刀魚の食べ方に邪道なし」が心情ではあります。
しかし文章上で秋刀魚の味を表現する為には、現状ではこれがベストと押し切りました。
拘りのない美味しんぼとかを考えると、あまり美味しそうに見えないので。
>33さん
自己チェックの限界を感じるこの頃……ありがとうございます
>与作さん
>王者のカリスマ、幼女のカリスマに、作中でミスチーが見せた職人のカリスマが加われば、向かうところ敵無しだと思います。それらが両立するもんなのかは知らないですけど。
総合してみると女社長かしら。
でも現場に出る訳ですから、全てが両立すると「現場監督のカリスマ」ですね。
真のガテン系の魅力が加われば、もはやおぜう様に死角はありません。
>59さん
タイアップしている「守屋小町」「八坂397」もお忘れなく
>謳魚さん
誤字指摘ありがとうございます。しかも3つも……自己チェックに限界を感じるこの頃ですorz
>どなたか二号店への道を御存じないですか。
見つけたら教えて下さい。自分は一号店すら道を存じないものでorz
>秋刀魚食いたくなった
ぼちぼち旬の時期も過ぎます。
八百屋やスーパーにダッシュしたってきっと損はありません。
秋鯖秋茄子旬モノ色々、味わうことは罪ではないのです。
>けーね
下種けーねというフレーズが自然に思いつきました。
後日談ですが、悪いことは続かないですから、ぐーやがカリスマを発揮して告発してくれました。
販売ルートは永遠亭のものになって一件落着。
そしてその愛に感動したもこたんの取り分は11万円になりました。
そんな心温まるハートフルストーリー。
次回はホラーに戻りたいなぁ。
なんてやったら通報される世の中じゃ・・orz
面白いというか比喩表現がくどすぎるのにすんなり読めるのがすげえと思った、まるで脂の乗った秋刀魚のようなSSだぜ・・・
妹紅の後日談に吹いたwwwww
あと、2行目に幻想卿の誤字がありました。
しかしけーね先生のピンハネ率がヤクザのしのぎどころじゃないレベルに・・・
それが俺の、ノブレス・オブリージュ。
それほどこのSSには秋刀魚への愛が溢れている……!!
だがしかしけーね腹黒すぎwwwwwwwwwwwww
あとけーねは外道
炭の話が聞けて面白かったです。描写も巧いですね。
しかし。
だまされ続けるもこーが不憫でならん・・・
でも,のうかりんに検定されるなら本望.
最後のところ非定期になってますが不定期では?
そして紅魔館の面子はとても素敵だwwwww
文だけでこんだけ表現できるのはすげぇとおもった!
秋刀魚の美味さたるや、永遠に続く生も無限を誇る智慧も無意味なものと感じられるものだからな。
ということで犯罪者の二人は永遠に秋刀魚を禁じられ、妹紅たんにはゆかりんの監視の下で働いてもらって、報酬は全部秋刀魚になったとか風の噂に聞きましたが聞き違いでしょうかね?
騙されとるやんw
だがしかし!それでも俺は 醤 油 が 至 高 で あ る と強く主張する!!
極限まで濃縮された旨味と滋味!そしてポン酢にはない塩味が秋刀魚自身に海を思い出させる!
ポン酢では成しえない五味への到達が秋刀魚を最高の一品へと押し上げるのだ!!
自分は何もかけずに食べる派。でも時々ポン酢に浮気
よしサンマを食べよう。
けーね最低だなwww
秋刀魚を焼いて食べるだけなのに、これほどのボリュームと輝きを持ったSSとなっているのが凄いです。
東方らしさもしっかりでてますし。
あと、たぶん誤字の連絡。
沈下→鎮火
読んでて腹が減ってきた
>>ktほど陸揚げしたそうなので
品切れになる前に買ってきますね
どこだったか、「を」が「わ」になってました。
読むのに夢中で場所覚えてなくて済みません。
いや、これはいい紅魔館。
秋刀魚の七輪焼きは先月食べましたが、見事に網に引っ付いたのは秘密。
>>沈下→鎮火
>>「を」が「わ」
それぞれ修正させて頂きましたありがとうございます。
またご指摘の通り生粋のかな打ちです。ブラインドタッチ?何それ、美味しいの?
醤油も良いと思います、加工したって良いと思います。
何しても良しが秋刀魚の美味しさですから。
ちなみにこの話のもこたんはどんな状況でも幸せを噛み締めてます。
この話のけーねは今頃くさい飯を食べながら鉄格子にミソ汁をぶっかけて、虎視眈々と復権を狙ってます。
というかこのカリスマ駄々漏れのおぜう様がなんともまぁ…
他の方々も最高でしたwww
なぜ後一月早く読まなかったああああああああああああああ!!!
まあいいや、明日食おう。 そう思える作品でしたw
自分は秋刀魚は醤油派ですね。
ワタの部分と身を一緒に口にして、苦味を感じながら食べるのがデリシャス。
実に腹が減る話でした!
けーねはひどいと思うが妹紅もおかしいと気づいていいと思う
でも二人とも幸せそうだからいいか・・・
そして本編のオチと後書きのオチに吹いたw
料理も瀟洒なメイド長と火起こしの夜雀、そして職人の蓬莱人間がカッコよかった。
秋の始まりにオススメな一本だな。
美味しそうなSSでした。ありがとうございました。
秋が待ち遠しいですね。