Coolier - 新生・東方創想話

東方if緋想天 last stage

2010/04/30 01:01:40
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「総領娘様は、この先にある天界におられます。負けた以上はもうなにも言いません、地震に関することならば彼女に問うのが一番です」

半ば焼け焦げた永江衣玖は苦笑いをしつつ、私に情報を与えてくれた。
そして一応私には天災のことも知らせたということで、彼女はすぐに新しい忠告相手探しへと旅立ってしまった。
だがあの態度が直らない限り、幻想郷の住民たちとは忠告を告げる度に喧嘩するだろう。

なんてこと忠告しようとは思わなかったけど。

***

ここまで来たのなら、もう行けるところまで行き着くつもりだが、今回はどうも労力と結果が見合っていないような気がしてならない。
帰ったら慧音のご飯を食べて一日の疲れをとろうと心に決め、私は雲居を切り裂き山の果てへと辿り着いた。

「……ここは?」
辿り着いた先は今までの空気の薄さが嘘のようになくなり、雲一つない見事なまでの蒼穹に変わっている。
その突然に開けた視界、太陽の眩しさに思わず目を細めてしまう。手をかざして光を遮り、辺りを見回してみると、そこはまさに絶景だった。
美しく咲き誇る花々、穏やかな風、遠くには青々と繁る木々が見える。風に運ばれて匂うのは、芳醇な桃の香りだ。
「え、いやここ何処は何なんだ?まさか冥界ってわけじゃなさそう……じゃあ先の永江が言ってた通り天界なのか?」
人間が持つ欲を捨てきった者が天人として住まうと噂の、天界。
もし本当にそうだとしたら、私には一番縁がないはずの場所へ来てしまったようだ。
しかし欲を捨てきれそうにない私はともかく、永江の言葉を信じるのなら、幻想郷の大地震を防ぎ私の家の再築に役立ちそうな奴がいるはずなのだが……見渡す限り花畑しかない。

「緋色の雲、それは非想の気

非想の気、それは生物の本質」

そこへ現れた高らかな謳い文句、
太陽から降り注ぐ光ように飛び降りてきた、石に乗る意思の強そうな青い髪の少女、

「天気は非想天の本質なり」

石を大地に打ち込み、緋色に揺れる刃の剣を一振りして、少女は文句を締めた。
……なんと形容しようと突然現れた以上は、不審者以外の何者でもない。
不審な彼女は、優美に柔らかそうな髪をかきあげた。育ちがいいのだろうが、どことなく永江のやつに似た雰囲気……つまりは自分が他者よりも上の立場にいることが当たり前だと思ってるような雰囲気だ。
この幻想郷にはそんなやつらしかいないのか。いや慧音とかは違うけどね。
「こんにちは、ごきげんよう、ここまでどうもご苦労様だわ」
「……はぁ」
そんなたくさん挨拶されてもどれに対して返事をしたらいいか判らない。
「なによ、地上の民のくせに随分とノリが悪いわね」
私の反応がどうも不満だったらしく、少女は頬を膨らませて抗議してきた。なんとなしにだが私の脳裏に“唯我独尊”と“自分本位”という言葉が過る。
「それにしてもよく来たわね。あなたは私が集めていた非想の気を追ってここまで来たのでしょう?」
「いや、私は家の再築を……って何?」
「さいちく?え、あなた自分から出てるそれに気がついてなかったの?うっわ鈍感」
少女が指差した先、つまりは私の身体を見つめてみるが、緋色のものなど見当たらない。何か変わっているところでもあるだろうか?
「ほら、それよそれ。あなたから立ち上ってるやつよ」
それを見つけてほしいのか、やたら主張する少女の言葉に圧されてもう一度自分の身体をよく観察してみた。
「………ふむ」
すると、たしかにうっすらと緋色の霧が私から漏れるように出ている。一度認識すると、なぜ今まで気がつかなかったのか不思議になるぐらいしっかりと私の目にそれは映っていた。
「なんだこれ?陽炎ってわけじゃなさそうだけど」
「ふふん、それは非想の気、あなたの気質。私はこの緋想の剣を使い集めることで、その人の気質を表した気候を巡らせることができるの。ちょっと凄いでしょ」
ちゃっ、と上段の構えで緋色に光る剣を持ち上げて少女が自慢する。
……再び私の頭のなかで“自画自賛”という言葉が過った。しかし初対面のくせに馴れ馴れしいな、こいつ。
「こんなもの、集めてどうするんだ」
「そんなの当たり前じゃない、異変よ」
「は?」
「異変を起こしたかったのよ。この天界はいつでも優美優雅の平和な世界、刺激的なことなど全くなくて退屈ったらありゃしない。
もういい加減に飽きたから、地上の民を見よう見まねに異変を起こしてみたのよ。
するとどうかしら、時を止めるメイドや雨宿りの魔法使いなんかが続々来るじゃないっ!!今まで退屈だったことが嘘のようよ!!」
喜びからか、くるりと青い髪を翻しながら少女は一回転する。まだ話を聞いたばかりだが、はやくも私のなかでは彼女との友好値は最低を叩き出していた。天界と月は似ているのか、どことなく輝夜を思い出させるので余計に苛々する。
「見たところ、あなたの天気は“炎天”のようね。燃え盛り、皆を地べたに這いずらす暑い天気。地上の民らしいじゃない」
「じゃあなんだ、ここ最近ずっと馬鹿に暑かったのはお前が私の気質を集めていたからってことか?」
「その通り、よくできましたー」
幼子を褒めるような口調で少女は拍手する。もうこちらも拍手したくなるほど私の怒りの炉に火をくべる態度だ。
「……で、異変の起こしたがりなお前は何なんだよ」
「あら、私としたことが喜びに先走って名乗るのを忘れてしまったわ。
私の名前は比那名居天子。高貴なる天人にして大地を揺るがす者。
私を止めない限り、あなたの周りから暑さが消えることはないわよ!!」
「………」
こいつに限ったことじゃないが、幻想郷の住民は基本的に自分に酔いやすく、相手方の都合など聞かずに自分の都合を押し付ける。
もちろんと言わずもがな、私も含めた傾向だ。だから相手のペースに巻き込まれることは好きではない。輝夜のように上から目線な相手のペースなら尚更だ。
「つまりだな、お前は異変の原因になって異変解決されたいとな」
「その通りよ!!その気になれば、地震も起こしちゃうわよ!!」
「やっぱ博麗の神社壊したのはお前か。しかし地震は困るな、ただでさえ壊れた家が完全に崩壊する……お前の意思にのせられた気がして癪だが、そんなにこの不尽の炎を味わいたいなら期待に応えてやる!!」
そしてついでに私の家も建て直してもらうっ!!
「そうよ、その調子よ!!解決してみなさい、この狂おしくも美しい異変を!!」
そう言うと同時に思い切り振り上げた緋想の剣を、比那名居天子は花々が咲き誇る大地へ突き刺した。
まるで沸騰して泡立った湯のように、ぼこぼこと大地が膨れ上がる。だが泡の代わりに吐き出されたものは、先程の比那名居が乗っていたような巨大な石だ。潰れた杭のような形をした石は、私に楔を連想させる。
いくつも漂う石を従え、比那名居は私へ突進してきた。彼女に当たるのはもちろん、回転し出して威力の増している石に当たるのも御免被りたい。
突進する相手方へ、私も走り出して間合いを詰める。
一歩、その差で先に私の間合いとなった。石と比那名居の間を潜り抜け、ついでに蹴りを一発と試してみたものの、さすがに上手くいかなかった。
「っあまぁいっ!!」
走り出した勢いのまま距離をとろうとしたら、背後から比那名居の勝ち誇ったような声が届く。
嫌な予感が過り、身体を捻って振り返った。
「くらえっ、守りの要っ」
永遠亭の月兎のように、比那名居は指鉄砲をこちらへ向けていた。兎と違うところと言えば、彼女が撃ち出すものが幻影ではなく巨大な石というところだろう。
いや洒落にならないだろうそれは!!
「殺す気か!!」
「大丈夫よ、張りぼてだと信じたら或いは!!」
「或いは何なんだ!理想と現実には必ずギャップがあるんだぞ!」
これ、経験論。
寸でのところで放射された石を避け、再び始まりと同じ距離で比那名居と向かい合う。
「ちまちましているのは好みじゃないわ、どんどん行くわよっ」

乾坤「荒々しくも母なる大地よ」

スペルカードまでご用意とは、随分と地上に興味を持っているんだな。
なんて感想を考えている暇は、比那名居が緋想の剣を大地へ突き刺すと同時になくなった。
一面平らだったはずの大地が、急激に隆起を始める。
「な、んっ……!?」
比那名居を中心として隆起の波が発生する。前兆の揺れで体勢を崩した私に、荒々しく盛り上がった大地が直撃した。
自然現象に容赦という言葉はない。
身体ごと脳を揺さぶられ霞む視界に、再び緋想の剣を大地へ突き刺そうとかまえる比那名居がはいる。
延々と隆起に吹き飛ばされ続けるなんて埒が明かない。かと言って身体はまだ直撃のダメージから回復しきれていない。朧な炎ながらも翼を作り上げ、なんとか飛翔して大地の円柱を回避した。
「あははっ、火の鳥なんて面白い!!次いくわよ!!」

霊想「大地を鎮める石」

蒼穹に、光輝く雪が舞う。
大地に触れた幾多もの雪は、その数だけ先程の比那名居が周りに侍らせた巨大な岩を生み出した。
「大地を揺らす巨大ナマズを押さえ込むための楔となる要石よ!」
その要石の一つに飛び乗り、比那名居天子は高らかに自慢した。どうやら私が楔というイメージを持ったのは間違いではなかったらしい。
産み出された要石は、緋色に霞む弾で弾幕を作り出した。掠めて避け、それは一個体の弾というよりも緋色の小さな弾を高密度に固めたものだと判別する。
「それはあなたの気と反した気を集めたもの、直撃すればただじゃすまないわねぇ」
「どいつもこいつも容赦がないというか、えげつないよなぁ…!!」
死なないとはいえ、痛いものは痛いのに。よく生きて死ぬやつは弾幕遊びに参加できるな、とつい感心してしまう。
生きていないやつも弾幕遊びしてるけど。
生きてるのも、生きていないのも、死なないのも、この幻想郷では大した差じゃないんだろう。
ある意味、究極の刹那主義社会。遊んでいる瞬間をどれだけ美しく飾れるか、それには生き死になど関係がない。
だからこそ、幻想郷は美しいし、私という存在でも受け入れてくれる。
「弾幕遊びの先輩として教えてやるが、スペルカードはそう一気に使えばいいってもんじゃあないんだ」
緋色の弾幕を潜り抜け、炎を纏わせた拳で要石を突く。拳は深々と石を抉り、なかで炎を巡らすことで私は石を破壊した。
そういえば大昔の無茶な修行で、何回も死にながら岩を砕くなんてことしていたものな。今まで忘却されていたものでも、魂に刻まれるほどには身に染み付いていたのだろう。やっぱり日々の積み重ねが大事なのか。
「素手で要石を砕いちゃうなんて、あなた天人!?」
「そんなわけあるか、私はただの人間さ」
次々に浮かび上がる石を砕いていきながら、私は比那名居との距離をつめて行く。
「しかし、さっきまでは輝夜に似てると思ってたんだけど……」
雪の白と弾の緋色の紅白が行き交う美しい空間をかい潜りつつ、思わず呟いてしまう。
「どうも私に似てるなぁ……こいつ」
派手好きなところとか、
緋色を好んでるところとか、
暇で退屈を喰い尽くしてたところとか。
「これで不老不死だったらちょっと笑いではすまされないな、どうなんだい!?」
私と比那名居の間を阻む最後の石を砕き、私は問いかける。
「え?不老不死ぃっ?そんなの、死神を蹴飛ばし続ければ簡単になれちゃうわよ!?」
比那名居は新たに要石を産み出すが、その音が大きくて叫ばないと声が届かない。
辛うじて聞こえた回答に、私はずっこけて緋色の弾に当たりかけてしまう。
そんなもの?不老不死ってそんなものなの!?
でも私だって岩笠を蹴っ飛ばして不老不死を得たのだから似たようなものかもしれない。
「……似てるかもしれんが、気が合わん!!」
瞬時に火の鳥を右腕に宿らせ、私は思いきり降り下ろした。

虚人「ウー」

「えっ、きゃあっ!?」
緋色も白も、降り下ろした先にあるものは全て炎の紅蓮に染まる。比那名居天子も例外ではない。大地には炎の轍ができ、要石も何もかも抉り削られた。
「まだまだ行くぞっ!!」
今度は両腕に炎を宿らせ、胸元の位置で交差するように降り下ろす。爆風が私の髪を煽り、肌を焼き焦がした。
十字に象られた炎の爪痕が唸りをあげて、真っ直ぐに比那名居へと向かって伸びる。
「その調子よ、やればできるじゃないの!!!この刺激を私は望んでいたのよ!!」
だが二回目はうまくいかなかった。
一度は直撃したにも関わらず、比那名居は元気に要石に乗って空中を飛び交うことで私の攻撃を避けていた。そのうえ小さな要石を取り出して私に攻撃までしているのだから、弾幕遊びの初心者とは思えない。
変化のない日常で相手がいなかったのだとしたら、ずっと独りで夢想していたのだろうか。こんな、無縁であるはずの生死と隣り合わせになれるような遊びを楽しめる日を望み続けたのだろうか。
私の僅かな考え事の間にも、比那名居は「ウー」を避け続ける。ついには私のスペルカードが先に燃え尽きた。
「ん、もうおしまいなの?だったら、炎も見飽きたわ。そろそろ終幕といきましょうか!!」

天地「世界を見下ろす遥かなる大地よ」

「ついてきなさい、炎天の人間!」
先に使われた乾坤のスペルカードとは反対に、比那名居を中心に大地が盛り上がる。隆起は制限を知らず、どんどんと比那名居を上空、いやそれ以上の場所へと連れていった。
「……はぁ、もとを辿れば竹に家を壊されただけなのにな」
私を置いて盛り上がってゆく大地を見上げながら、呟いた。なにかしら愚痴を言っておかないと、この遊びが楽しいことを認めてしまう。

相手は我儘で解決されたいから異変を起こすようなやつだし、
道中なんて八つ当たりで喧嘩を吹っ掛けられたり船に轢かれたり、
はては腕をもがれたり雷に当たって黒焦げにされたけど、
それでも、
全て単調で変わらない日々を過ごしていた頃では考えられない日常だ。

退屈だった日々は毎日を毎日と認識できるほどに刺激的な日常へ変わったのだ。
経験したからこそ断言できる、
変化のない永遠の中に生きるよりも、変化のある須臾で生きる永遠が素晴らしい。
そして、自分の住まう場所が永遠ではないとしたら、尚更のことだ。

――炎の翼を広げ、比那名居天子の待つ遥か上空を睨む

この幻想郷が泡沫の夢だという認識は私が幻想郷にいると認識した瞬間からある。所詮、現実から忘れ去られた幻想が行き着く果ての郷。
その郷でさえ忘れられ行くもの、幻想があるのだ。
留置場、とでも比喩できようか。完全に忘れ去られる、つまり泡沫が水面に上がりきるまでの僅かな時間を私たちは過ごしている。
だからと言って、結果には何も残らないと言って、空虚に身を喰われた時の私のように、怠惰に身を曝すことは間違っている。その事を、私はここで学んだ。

――撒き散らす火の粉を置いて、私は比那名居を追い続ける

究極の刹那主義社会、いいじゃないか。私はもう停滞しない。
此処にいるのだと声の限りに叫んで、後悔を振り払い怠惰を切り裂いて、月まで届かなくとも突き進んでやる。

だから、退屈に殺されていた我が儘天人、お前も

好きなだけ思うがままに
望み、臨み、挑めばいい
幻想郷はその全てを赦すから

たどり着いた先に広がる、真っ黒な空と煌めく星粒。この月と地球の狭間にいるような、どの場所とも言えない場所が何処なのか理解する必要はない。此処が比那名居と遊ぶ最後の場所だと理解していればそれでいい。
不思議と落ち着いた気分で、私は見たこともない空間に漂っていた。
「今から放つのが私のラストスペルよ」
緋想の剣と呼ばれた剣を軽やかに回しながら、比那名居天子は宣言した。
剣は回転する毎に纏う緋色の輝きを強めている。まるで、そうすることで剣を輝かす何かを集めているようだ。
さっき私とは相反する気の弾を造っていたからな……その類いかもしれない。
「これで私が勝ったら家の建て直し、手伝えよ」
「さっきから再築うんたら言ってるけど、そういえばあなたはどうして私の処まで来たの?」
「お前が起こした地震で……いやそうだな、ただ退屈だったんだよ」
私は言いかけの言葉を飲み込んで、適当な理由を見繕う。僅かに不審がった比那名居でも、私の言う理由に大いに納得したらしく、大きく頷いた。
「やっぱり退屈は毒よね!」
「あぁ、そうだな……だが」
「……?」
「世の中を楽しく生き続けるには、私たちはそれなりに遠慮ってのをしなきゃいけない。人間の寿命なんて不老不死からしてみればマッチの火どころか飛び散った火の粉に等しいからな。
永遠を生きるから須臾を気にせずとも良い、なんてことはないんだ。お前は今回、それを間違えた」
「なによ、なにが言いたいのよ」

そう、幻想郷は全てを赦す

だけど

その住民までもが赦すと思ったら、大間違いなんだよ!!

「つまりはな、人様に迷惑かけるなってこと!!!」
まったく同等のタイミングで高められた非想の気、そして紅蓮の炎が互いを染めるよう急激に膨れ上がり、一気に爆ぜる。
「悪いが、お前の道は此処で行き止まりだ!!」
「我が天道を往く!それが私の望み!阻むものに容赦はないわ!!」

「全人類の緋想天」

比那名居は膨大に溜め込んだ気を集束させ、私めがけてレーザーのように射出した。一瞬で緋色に染まり尽きた視界のなか、弾くこともできないその攻撃を避けるほんの僅かな隙間を見つけて滑り込む。
遠距離では不利だ、私は足元の空気を爆ぜて一気に間合いを詰めた。レーザーになり損ねた緋色の気が弾幕となって周りに散らばるが、その程度の密度では温すぎる。
弾幕を避けきり放った炎に比那名居は直撃するが、彼女はそれに構わずさらに緋色の気をかき集めていった。
その態度に嫌な予感が走り、瞬時の判断でバックステップを踏み後退する。
だが身体よりも僅かに引くのが遅れた右脚が、緋色によって遮断された。
「いったぁああっ!!」
掌を強く握って痛みに耐えながら、炎を義足に崩れた身体のバランスをたてなおす。
緋色のレーザーが比那名居から、二本……いや四本放たれていた。
「あれ、痛いで済むものだったかしら」
まるで後光のようにレーザーを放つ比那名居がさりげなく呟いている。そんな疑問に思うような攻撃するなよな、と心のなかで愚痴った。
「この緋色は全ての人類の非想の気。喜怒哀楽には当てはまらない無限に近い気質が萃まったもの……ある意味、さとりにでもなったようでしょう?」
「知るか、痛いだけじゃないか」
「みたところ人間のようなのに、あなたはこの緋想天に耐えている。ただの人間なら、触れただけでも要領を超えた非想に耐えられないはずなのに……何回死んでいてもおかしくはないのに。ほんと地上は不可思議で一杯ね」
もう私ったら今日だけで何回死んだだろう、と頭の片隅で考えていたら比那名居も似たようなことを思っていたらしい。
「私を疑問に思うなら、肝をくり貫き口に含めば良い。生きてなお地獄を味わう不老不死になれるだろうよ」
「地上の不老不死っ!?ほっんと知れば知るほどちんちくりんね!!」
「ちんちくりんってなんだ、ちんちくりんって!!」
口合戦に合わせてさらに紅蓮と緋色が宙を行き交う。二人の弾幕はまるで夕日の花火のように、協奏曲のように、弾けては暗闇の宙に消えてゆく。
さすがに今までの弾幕遊びと死にすぎた疲労で、私は時おり緋想天をもろにくらってしまう。だが比那名居も比那名居で、非想の気を集めるのには集中力がいるのか動きは鈍り、避けられるような私の炎にまで当たっている。
互いに、限界が近い。
「もう終わらせる。私は早く帰って慧音のご飯をたかりに行くんだ」
そう言いながら取り出した、一枚のスペルカード。
「けいね?その人もあなたみたいに面白いの?私もついていこうかしら、あなたを倒して、ついでに噂の巫女に逢ってから!!」
スペルカードの力で身体がちりちりと焼け焦げる感覚、内から宿した炎が私を永遠の弾幕へと変えてゆく。
「巫女はやめておけ、巫女は。あいつには容赦という言葉がまるでないからな」
「じゃあ、もう一度あなたが私と遊んでくれるのかしら……こんな遊びを知っちゃったら、私はこれまで以上に退屈を我慢できなくなるわ」
「もうちょっと慎みを覚えたら、かまわないさ」

準備が整う。
さあ、永遠の宴を始めよう。

「月も太陽も、地上さえも見ている。全てに中途半端となってしまった私にはお誂えだ。
始めるぞ、今宵の弾幕はお嬢ちゃんのトラウマになるだろう……っ!!」

私を焼いて、煙を燻せ、
月まで届け、不死の煙
私のラストスペルカード、




「インペリシャブルシューティング」



***

「なるほど、以前に歴史を作り上げたときに皆の天候が異なっていたのは、その比那名居天子という天人が原因だったのですね。
妹紅がここ最近ずっと私の家で何をするわけでもなくただひたすらごろごろしている理由も判りました」
「わかってくれたのなら嬉しいよ、なんか妙に棘が含まれている気がしてならないけど」

外では耳を狂わせるほどの蝉の声、
内では身を溶かすほど籠った熱気。

どちらも耐えきれない私は畳の上にうつ伏せで寝転がっている。
滴る汗がしみ込む畳の目を数えながら、私は先に起きた異変の顛末を大まかに慧音にせつめいしていた。それが今日の分の慧音に対する報酬と言うか、家賃代わりだ。

私は未だに元気よく生え続ける竹のせいで住むことが叶わない家の代わりに、慧音宅にお邪魔している。

お邪魔というか、ほぼ同棲していた。

自分の家にいると起きてみたら竹が身体を貫いていました、みたいになりかねないのだ。そんな拷問に遇うぐらいなら慧音宅で三食ご飯付きでゆったりとしていたほうが何倍もいい。
しかし暑い夏の間は慧音の家でごろごろ涼むのがいつものことだけど、今年は炎天続きだったうえに慧音宅の人口密度も上昇しているので、あまり涼めている気がしない。やっぱり竹林に穴でも掘って冬眠ならぬ夏眠でもしていればよかっただろうかと思うけど、目の前にいる慧音に頭突きで起こされることは明白なので、もうやる気にはなれない。
そしてさすがにただ居候を続けるのは気が引けるので、最近は慧音の寺子屋授業の手伝いをしている。だが、それがどうにも慧音には不評らしい。

「わかりましたが、納得はしていませんよ」
「ええー」
私が不満の声をあげると、慧音はすかさず突っ込みのチョップを入れた。地味に脳天を突かれる辺り、結構いたい。
「妹紅が寺子屋の授業を手伝ってくれるという発想は嬉しいです。ですが、それに伴う被害もあって少しばかり頭が痛いのですよ」
「たとえば?」
「子どもたちと遊んでくれるのはいいけれど時折大人げなくなることや不老不死だからって子どもがしばらくご飯を食べることができなくなるような怪我具合で平気に訪れてきたりいつの間に拾ってきたりついてきたりした妖怪やらが子どもたちをからかったりすることです」
一息で言われた。
でもその全てが正解なので、ぐうの音も出ない。

「つまりは迷惑ってこと?ほんと地上の人たちは心が狭いわねぇ」

そこに空気を読まず、私よりもだらだらとしている青い髪の少女が気怠そうにつぶやいた。
比那名居天子、先の異変の元凶が私と一緒に慧音宅で寝転んでいた。ちなみに”いつの間に拾ってきたりついてきたりした妖怪”とはこいつやフラン、そしてこいしのことだ。特に日中だろうと夜中だろうと平日だろうと現れるのはこの比那名居である。
「誰のせいだと思ってるんだ、この原因め」
動くのも億劫なので、畳の上に放り投げた足だけを持ち上げて、仰向けの比那名居めがけて振り下ろす。ぐぇ、と蛙のつぶれたような声が聞こえた。
「こら、はしたないぞ」
至極真っ当な突っ込みが慧音から出てくるが、慧音自身も暑さにはまいっているらしく言葉だけの突っ込みに留まった。誰も彼もが暑くて動く気力がない。はやく秋が訪れてきてほしいものだ。
「痛いわね。私だって疲れてるのよ?あの後あんたが好きなだけ死んで生き返る弾幕放ったら、巫女が来て本当に容赦なく襲ってくるし…極めつけはちょっと神社を別荘代わりにしようとしたら妖怪にめっためたにされたし」
「「自業自得だ」」
綺麗に慧音と私の声が重なった。だが雑音に近い蝉の声が直ぐさま不協和音を奏でてその声を消し去ってしまう。それを比那名居は炎天は暑いわねと話題を変えることでうやむやにした。
面倒くさかったのでその話題にのろうとするが、先の会話で私の家がまだ再築されていないことを思い出す。
「あ、そうだ。私の家は神社みたくしないでちゃんと何もせずに建て直せよ?呪術には知識あるから変なことしてもばれるからな」
「竹林のぼろ家なんて別荘にしても面白くないし…普通に適当に建てるわよ。ねぇ、それよりも暑さには熱さで対抗するって聞いたわ。ひとつ弾幕遊びといかない?」
「一人でやってろ、もう私は動かないぞ」
「えええひどいわ!!遊んでくれるって言ったのに、約束したのに」
「うわぁあっ引っ付くなしがみつくな暑苦しい!!」
「妹紅…遊ぶのなら外でやってくれ……」

比那名居に無理矢理足を引きずられ、私は縁側から外に放り出される。そんな元気があるならさっさと家の建て直しに取りかかってほしいものだ。だがそれよりも今は、乾いた大地に放りだされたせいで土埃まみれになった怒りが、私の頭を煮えたぎらせる。

望むことを肯定したのは私なのだ。永遠の宴だろうと、言葉の責任を取れというのなら踊り遊び続けよう。

「ああもうっ、この炎天下で融け尽くすまでやりあってやるよ!!!」
「それでこそ私を焦がす存在ね!!さぁ、狂おしい幻想をはじめましょう!」
すいません、最後のエピローグ部分は眠気に負けている場所がありますorz

書き終わりました。緋想天妹紅ルート。
天子との弾幕遊びを書いているうちに、似た者同士であるような気がしてきて最初は「家こわしたやつをこてんぱんにする」と考えていた妹紅は「迷惑かけたらいけないんだぞ」とほんの少しオブラートに包んだ思考に変わってきました。自分を投影できるような天子に先輩として幻想郷との付合い方を提示したのではないかと。こてんぱんにはしたけど

5/4 フリーレスにてコメントしましたが、この作品の纏めは自分のHPにて掲載することにしました。リンクにてまず1st~4th stageまで、ページ終わりから5th~last stageまでの掲載ページに飛べます。


私の残念パソコンクオリティのため、装丁等はまったくできていません。ご了承ください



このあとは妹紅と三つの別れを書ければなぁと思っていますが、プロットで心が折れてます
schlafen
http://tool-1.net/?id=eveningcalm&pn=58
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コメント



0.340簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
通して読んでの総評としては、「悪くない」といったところ。
一話ごとの長さを気にして分けて投稿したようですが、分けて、しかも途中の投稿に大きく間が開いたこともあり、いまいち話に集中出来ないと感じます。
他の作者の方にも緋想天ifを書いた人がいますが、それらを見た限りでも最初の数話を改めて吟味し、全ての話を統合してみることを推奨します。
3.無評価schlafen削除
ご指摘、ありがとうございます。たしかに書いている時期もかなり間が空いていたので、もう一度書き直してまとめてみます。
7.90名前が無い程度の能力削除
上記で言われてるように、私も期間が空きすぎて気を削がれてしまっていた事もあってか、前回までの話の流れってどんなだっけ? と思いだしながら読む事になっちゃいました。
まぁ私の記憶力の残念さが大きな原因でもありますがw
とは言え、執筆のペースなどは作者の都合によって人それぞれなので気にしなくてもいいよ。

纏めて出し直すのも良いとは思いますが、以前の作品を消したり、ただ繋げただけで再投稿というのを好まない読者も多いので(叩かれてるのを見た事あるので)気を付けた方が良いです。
9.無評価schlafen削除
ご指摘ありがとうございます。二つの意見を考慮して、自身のHPに纏めてみました。さらに時間がかかりますが、4th stage辺りを全て書き直したうえで全話纏めたものをこちらに投稿しなおそうかと思います。
11.100名前が無い程度の能力削除
完全に後日纏めて読めば、投稿に間が開いてるとか流れを忘れちゃうとかいう不具合には全く無縁なのであった。(つまりは今回そっち派)
こんな風に、名前読みや過去作品漁りで読みに来る輩もおりますので、そこまで気にしなくてもいいんじゃないかなぁとも思うんですが。
もっとも最初の三話くらいは、短編読みきりものとしてならともかくそのまま繋いじゃってもいいくらいの短さでしたけどね。
お話としてはきちんと纏まっていましたし、すごく「らしさ」があったので個人的には好みですが。

悠久を呼吸するはずの彼女たちでも、刹那主義に傾倒するものなんですかねぇ。
いやむしろ、生きているという実感は刹那的な刺激や輝きによってしかもたらされないものなのかもしれませんね。
もっと言うなれば、生の本質は刹那であるのか。
そういえば深の弾幕結界にも夢幻泡影の名が冠されていたしなぁ。幻想すらも、いやきっと幻想だからこその泡沫。
だから、生とは対極にあるどこぞの亡霊姫とかは、ふわふわとおっとり文字通りの悠久をたゆたう在り方をしているのか。
12.90ずわいがに削除
東方らしさ、緋想天らしさ、それぞれのキャラをよく描き切りましたねぇ。まさに原作準拠って感じです。
妹紅のあっけらかんとした感じや天子のかりすま(?)や慧音の飄々とした態度もイメージぴったりでした。
読んでて楽しかった。限りなく一次に近い二次、原作には無いけどあってもおかしくない物語。こういうの好きですよ。
13.無評価schlafen削除
評価ありがとうございます。やはり自分の書いた作品が評価されるととても嬉しいです…!現在同時進行のssが二三作あるので暫く緋想天if改稿には手をつけられそうにないのですが…いつかもう一度書き直したいです