湯飲みの茶は既に冷めきって水面に茶渋が溜まっている。
茶菓子の砂糖漬けキュウリも若干乾いている。
ノックもなく戸を開けた霧雨 魔理沙が軽快に声を掛ける。河城 にとりは重い首を上げたが、犬走 椛は上げなかった。
「霊夢は、どうした。」
「めんどくせぇとよ。ま、仕方ねぇだろ。」
「、、、ま、仕方ないな。魔理沙、これ、観てくれよ。」
河城 にとりは暗い声で返す。作業机の2段目の引き出しと、それを開く取っ手を探して引き開き、奥行96、幅155、高さ25mmの黒い板箱を取り出す。
薄箱型の機材をボタン操作しホルダーを兼ねた上蓋を開ける。彼女は一瞬躊躇いつつ板箱を挿し、その手で上蓋を押し閉じた。
機材と16インチのブラウン管に電源を入れる。そばにある腰掛へ霧雨 魔理沙を引き寄せ、自身も別の腰掛に座った。
電気じみた共鳴音、画面右上に緑の「ビデオ」表示が浮かぶ。河城 にとりはテープを再生させた。
画面一杯に砂嵐が走る。間もなく真っ黒な日の丸フレーム内を月夜に雲が流れるような、ノイズ交じりの映像が出る。月ではなく人かもしれない。
壁が映る、画面左側の姿見越しにツインテールの少女が黙々と活字を選んでいる。0.5秒だけ姿見が右に移動しすぐ左に戻る。右には左と同じ少女が机に両肘突き、両手で顔を覆うのが見えた。
新聞記事が映る。しかしその全文は不規則に蠢き、文面の解読は困難だった。画面右側で緩やかに揺れる見切れた大見出しは「...道の危機!!」を訴えていた。
のそのそと歩く手持ちカメラが開けた林道を前進する。空は明るく人はいない、遠くに構造物が見えた。
ぎらぎらと揺らめく水面の手前に頭巾で顔を隠した人が立ち、画面外へ指を差す。
画面一杯まで接近した左目がこちらを見つめている。黒目の向こうに白い字が浮かび「私は」と書いてある。目は2回瞬きした。
落葉と幹ばかりが広がる森の画面中央にコンクリート造りの井戸がある。ぶ厚い蓋は押し開かれ、その縁に立て掛かっている。
間もなく映像が砂嵐に替わる。河城 にとりは停止ボタンを押した。
「先週失踪したはたての部屋にあったらしい。最初に見つけたのは文、8日前のことだ。文は色んな奴と観て、椛は6日前に文から借りて観て、同じ日にダビングして私も観た。そして昨日、文は高空撮影中にバッテリーが爆発して墜落し右羽を折った。同じ日に1羽が食中毒で血を吐き、1匹が転んだ拍子に釘で手を貫いた。椛の言うに皆8日前に観たらしい。恐らくこのテープは視聴後1週間で不幸になる呪いが掛かっている。頼む魔理沙、私達を助けて欲しい。」
霧雨 魔理沙は立ち上がり、河城 にとりを殴り倒した。
「さしずめ、呪いのVHSと言った所か。」
「違う、VHSじゃない。」
「はたてが消えてその部屋にあったんなら犯人ははたてだ。見つけ出してとっちめりゃ呪いも消えるぜ。失踪の理由は?」
「多分ビデオだ、テープとテレビの実用化以降、文は映像化に成功したがはたては失敗した。携帯で1枚撮るのとテープに1分焼き付けるのじゃ必要なエネルギーの桁が違う。映像と念写は相性が悪すぎた。焦ったはたてもノイローゼ同然だったよ。」
「あった。」
姫海棠 はたての自室、古新聞を散らし何かを探す霧雨 魔理沙は1部の新聞を取った。一面大見出しは「新聞報道の危機!!」。紙をパラ、パラとめくり、あるコラムを指差した。
「ルポライターの気まぐれ散歩。気まぐれっつーより気晴らしだな。」
西日の明るい、開けた林道を2匹と1人の少女が歩いている。遠くに構造物が見える。
「麓から湖に向かう道、途中にある古井戸の蓋に座って日光浴するのが大好きなんだと。」
落葉と幹ばかり広がる森の中央にコンクリート造りの井戸がある。開かれた蓋の中を霧雨 魔理沙が覗き込む。姫海棠 はたてと目が会った。
「うゎ!す、すぐ引き上げろ!はたての奴、水に浮いてやがる!」
河城 にとりが井戸に飛び降り姫海棠 はたてを見ると彼女は全力で絶叫した。姫海棠 はたては河城 にとりを見つめ2回瞬きした。
八意 永琳は彼女を鬱病と診断した。
夜明け後、帰路の途中で犬走 椛が霧雨 魔理沙を引き留めた。
「呪いは終わってない!にとりが棒キュウリに当たって赤痢になった!」
霧雨 魔理沙は眉をひそめた。
「にとりより先に見たお前が、何で無事なんだよ。」
動揺した少女等が河城 にとり宅へ駆け付けると、犬走 椛が壁の姿見を指差して尻もちを着いた。頭巾で顔を隠した河城 にとりの幻影がその中でどこかを指差していた。そこにはビデオプレイヤーとテレビがあった。
「そうか、分かったぞ。椛、ダビングの仕方教えろ。」
博麗神社、その巫女の前に立ち、霧雨 魔理沙は暗い声で言った。
「霊夢、これ、観てくれよ。」
おわり
茶菓子の砂糖漬けキュウリも若干乾いている。
ノックもなく戸を開けた霧雨 魔理沙が軽快に声を掛ける。河城 にとりは重い首を上げたが、犬走 椛は上げなかった。
「霊夢は、どうした。」
「めんどくせぇとよ。ま、仕方ねぇだろ。」
「、、、ま、仕方ないな。魔理沙、これ、観てくれよ。」
河城 にとりは暗い声で返す。作業机の2段目の引き出しと、それを開く取っ手を探して引き開き、奥行96、幅155、高さ25mmの黒い板箱を取り出す。
薄箱型の機材をボタン操作しホルダーを兼ねた上蓋を開ける。彼女は一瞬躊躇いつつ板箱を挿し、その手で上蓋を押し閉じた。
機材と16インチのブラウン管に電源を入れる。そばにある腰掛へ霧雨 魔理沙を引き寄せ、自身も別の腰掛に座った。
電気じみた共鳴音、画面右上に緑の「ビデオ」表示が浮かぶ。河城 にとりはテープを再生させた。
画面一杯に砂嵐が走る。間もなく真っ黒な日の丸フレーム内を月夜に雲が流れるような、ノイズ交じりの映像が出る。月ではなく人かもしれない。
壁が映る、画面左側の姿見越しにツインテールの少女が黙々と活字を選んでいる。0.5秒だけ姿見が右に移動しすぐ左に戻る。右には左と同じ少女が机に両肘突き、両手で顔を覆うのが見えた。
新聞記事が映る。しかしその全文は不規則に蠢き、文面の解読は困難だった。画面右側で緩やかに揺れる見切れた大見出しは「...道の危機!!」を訴えていた。
のそのそと歩く手持ちカメラが開けた林道を前進する。空は明るく人はいない、遠くに構造物が見えた。
ぎらぎらと揺らめく水面の手前に頭巾で顔を隠した人が立ち、画面外へ指を差す。
画面一杯まで接近した左目がこちらを見つめている。黒目の向こうに白い字が浮かび「私は」と書いてある。目は2回瞬きした。
落葉と幹ばかりが広がる森の画面中央にコンクリート造りの井戸がある。ぶ厚い蓋は押し開かれ、その縁に立て掛かっている。
間もなく映像が砂嵐に替わる。河城 にとりは停止ボタンを押した。
「先週失踪したはたての部屋にあったらしい。最初に見つけたのは文、8日前のことだ。文は色んな奴と観て、椛は6日前に文から借りて観て、同じ日にダビングして私も観た。そして昨日、文は高空撮影中にバッテリーが爆発して墜落し右羽を折った。同じ日に1羽が食中毒で血を吐き、1匹が転んだ拍子に釘で手を貫いた。椛の言うに皆8日前に観たらしい。恐らくこのテープは視聴後1週間で不幸になる呪いが掛かっている。頼む魔理沙、私達を助けて欲しい。」
霧雨 魔理沙は立ち上がり、河城 にとりを殴り倒した。
「さしずめ、呪いのVHSと言った所か。」
「違う、VHSじゃない。」
「はたてが消えてその部屋にあったんなら犯人ははたてだ。見つけ出してとっちめりゃ呪いも消えるぜ。失踪の理由は?」
「多分ビデオだ、テープとテレビの実用化以降、文は映像化に成功したがはたては失敗した。携帯で1枚撮るのとテープに1分焼き付けるのじゃ必要なエネルギーの桁が違う。映像と念写は相性が悪すぎた。焦ったはたてもノイローゼ同然だったよ。」
「あった。」
姫海棠 はたての自室、古新聞を散らし何かを探す霧雨 魔理沙は1部の新聞を取った。一面大見出しは「新聞報道の危機!!」。紙をパラ、パラとめくり、あるコラムを指差した。
「ルポライターの気まぐれ散歩。気まぐれっつーより気晴らしだな。」
西日の明るい、開けた林道を2匹と1人の少女が歩いている。遠くに構造物が見える。
「麓から湖に向かう道、途中にある古井戸の蓋に座って日光浴するのが大好きなんだと。」
落葉と幹ばかり広がる森の中央にコンクリート造りの井戸がある。開かれた蓋の中を霧雨 魔理沙が覗き込む。姫海棠 はたてと目が会った。
「うゎ!す、すぐ引き上げろ!はたての奴、水に浮いてやがる!」
河城 にとりが井戸に飛び降り姫海棠 はたてを見ると彼女は全力で絶叫した。姫海棠 はたては河城 にとりを見つめ2回瞬きした。
八意 永琳は彼女を鬱病と診断した。
夜明け後、帰路の途中で犬走 椛が霧雨 魔理沙を引き留めた。
「呪いは終わってない!にとりが棒キュウリに当たって赤痢になった!」
霧雨 魔理沙は眉をひそめた。
「にとりより先に見たお前が、何で無事なんだよ。」
動揺した少女等が河城 にとり宅へ駆け付けると、犬走 椛が壁の姿見を指差して尻もちを着いた。頭巾で顔を隠した河城 にとりの幻影がその中でどこかを指差していた。そこにはビデオプレイヤーとテレビがあった。
「そうか、分かったぞ。椛、ダビングの仕方教えろ。」
博麗神社、その巫女の前に立ち、霧雨 魔理沙は暗い声で言った。
「霊夢、これ、観てくれよ。」
おわり