こつこつこつ、こつこつこつと、石畳を踏み鳴らす。
博麗神社の静かな境内に響く硬質な音は、いささかその風景に似合わない。
縁側に腰掛け湯呑を片手にうつらうつらしていた矢先のこと。巫女である博麗霊夢は、眉をひそめてその耳触りな音の主を睨みつけた。
「……やっぱりあんたね。全く、心地良く人が眠りに就こうとしていた時に……」
こつこつ、こつ。
高下駄の高い足音が、鳴り止む。
「はいー? あなたは巫女でしょう。さぼってないできりきり働きなさい」
「さぼりじゃない。これはシエスタよ」
「巫女が外国の風習を取り入れるな」
ぴしゃり、と打ち切るが如く言い放つのは最速の新聞記者、鴉天狗の射命丸文。カメラを首に引っ提げて、腰に手を当てやれやれと呆れたように頭を振る。
そして全く、私が来るといつもこうなんだから、とぼやく。基本的に霊夢は怠惰なのだ。嫌々ながら普段の業務はこなしているが、それ以外の時間は大抵こうして縁側でほのぼのと日光に当たりながら過ごしている。まともな修業をしている時なんて、殆どないと言っても過言ではない。文がそう悪態をつくのも仕方のない話であった。
それでもまたこっくりこっくりと、舟を漕ぎ始める霊夢。いつの間にか手に持った湯呑は床に置かれていた。
これもまたいつものことだ。いつもマイペースで他人がどうであろうと関係ない。どんな時でも自分のしたいようにする、それが博麗霊夢という人間のキャラクターだった。
やれやれ。首を何度か横に振りつつ、文は霊夢の隣に座った。
「……今日は、やけに静かなんですね」
「…………んー?」
「いつもなら賢者様やら黒白やらがたむろしているのに。珍しいこともあるじゃないですか」
「そりゃあ、ね……そう毎日毎日騒がしかったらこっちも疲れるわよ」
「ふむふむ。それはごもっともな話で」
文は何度も頷き、にやりと笑みを浮かべる。そして霊夢の耳元にそっと顔を近付けると、ほとんど聞こえないような声で囁いた。
「――なら、今のこの神社にはあなたと私、二人きりだということになりますねぇ……?」
頬に掛かる吐息。霊夢は目を見開くと反射的に顎にアッパーカットを食らわし、直後に肘鉄砲を胸部にぶち込んだ。
あまりにも突拍子もない出来事になす術もなく吹っ飛ぶ文。板張りの廊下を滑りつつすぐに体勢を立て直すと、何度か咳き込んでから涙目になって言う。
「げほっ、かはっ……ちょっと、いきなり何してくれてるんですか!」
「いや、いきなり気持ち悪いこと言い出したから……つい」
「ついじゃありませんよ! はぁ、全く……」
それでも然程気にしていない様子なのは流石妖怪といったところか。服についた埃を手で軽く払うと、またつつ、と正座しながら床を滑り霊夢の隣にちょこんと収まった。
「……大体、あんたが来るといつもロクでもないことになるじゃない。どうせ今日だって取材に来たんでしょ」
「あや。そんな風に思われていたのですか。まるで疫病神のような――」
「“ような”じゃなくて疫病神なのよ」
「あやややや。これは手厳しい」
苦笑し頬をぽりぽりと掻く文。対して霊夢はそこまで気にしていないような様子で相も変わらず欠伸をするばかりだ。
そんな彼女の隣にある湯呑をひょいと造作もなく取り上げ、文は番茶を一口だけ口に含んだ。
「ま、確かにそういう時が多いですけどね――出涸らしじゃないですかこれ」
「うるさいな。文句言うなら飲むな。と言うかそもそも勝手に飲むな」
「あはは。まぁまぁ、そう怒らず」
止める間もなく文は残った茶を一気に飲み干してしまう。文句を言いつつも結局飲んでしまう彼女に、霊夢は呆れた声を上げた。
「はぁ……お茶を飲みに来ただけならもう帰んなさい。私を撮ってもネタになんかならないでしょうに」
「いやいや。巫女はネタの宝庫です」
「はぁ? 喧嘩売ってんの?」
「暴力は反対ですよ。それに事実を言ったまでです」
「事実って……あんた滅多にまともな記事書かないじゃ――」
そう言い掛けて、はっとする。
成程、成程。何度も呟き、霊夢は首をこきこきと鳴らす。突然の行動に文は不思議そうにしていたが、その目が笑っていない表情から察するに状況が穏やかでないことは明らかであった。
「理解したわ。ネタがなくても捏造する。そういうことでしょ? 今すぐ出てけ」
「へ? は? いやぁ、そんなことするわけないじゃない――」
「出ていかないなら追い出してやる」
「わぁっ! ちょ、待って下さい! ストップストップ!」
「待たない」
袖をまくって手にはお札。顔は至って無表情。見えない感情の裏に静かな怒りを感じた文は、思わず後ずさりしつつ両手を前に突き出して言った。
「だーかーら! 違いますって! 今日は取材が目的じゃないんです!」
「……取材、じゃない?」
「そうですそうです!」
ぶんぶんと頭を縦に振る文。なら何よ、と不審そうな態度を崩さない霊夢に、続けてこう抗弁した。
「えぇっとー……ざ、雑談などを一つ?」
「ないわ」
「ありますよ! すぐに否定しないで下さい!」
とりあえずその物騒な物をしまってそこに座りましょう、との文の言葉に、どうして主導権が握られてしまっているのだろうと疑問に思いつつも従う霊夢。まぁいちいち退治するのも面倒臭かったし言い訳ぐらいは聞いといてやるか、とは内心の言葉だった。
「そもそも、ですよ。他の妖怪は特に目的もないのに霊夢さんに会いに来てるじゃないですか。いっつもたむろしてるあの有象無象」
「うんまぁいるけど。それが?」
「どうして私は同じ扱いにならないんですか?」
「あんたに限っては“目的がない”ってことがないからよ」
「ちょっ」
「いいじゃない。あんた“だけ”よ。特例特例。喜びなさい」
「特例って……せめてもうちょっとマシな特例にですね……」
ややがっくりと、肩を落として嘆息する文。そんな彼女を見かねたのか、霊夢はややあってから口を開いた。
「……ま、ぁ。確かに、あんたとはそれなりの付き合いになってるしね……他の奴らとは、ちょっと違うかも」
「はい……?」
「いや、あんた“だけ”ってのが自分でも引っ掛かってね……何でかなって、考えてみたから」
「ふむ……そういえば、あの間欠泉異変の時も、私は疑問に思っていましたが……どうして、あなたは私を選んだんです?」
「うん? どういうこと?」
「ですから、あの時他にも二人。スキマ妖怪と鬼があなたに協力を申し出てたじゃないですか。それなのにあなたは、私を選んだのが不思議でして……あぁいや、新聞のネタになったので大助かりだったんですけどね」
「あぁ、なんだそのこと。それは簡単よ」
「と言うと?」
文が尋ねると、霊夢は首を小さく傾けて言った。
「紫の言いなりにはなりたくなかったし、萃香も大体同じ感じだったから。その点あんただけは目的がはっきりしてたから。それだけよ」
「……なーるほど。それもまた“取材”、と。そういうわけですね」
「その通り」
ふむふむ。何度も頷く文。ざっくばらんな説明ではあるが、それだけに単純で分かりやすく得心したようである。
さて、と立ち上がる霊夢。「どうしたのですか?」と文が問うと、何気ない所作で答えた。
「お茶を淹れようと思って。あんたと喋ってて喉渇いたのよ。湯呑の中身は全部飲まれちゃったし」
「あはは、そう言えばそうでしたっけね。……ところで霊夢さん」
「何?」
「私が特別扱いというのなら、……あなたの中で、私はいったいどんな存在なのですか?」
「あんたがどんな存在か?」
「はい。先程言った異変でも、利害関係が一致していたから私を選んだというわけではなさそうでしたし……なら、どういうことなのかなぁと」
「ふぅん……そうね。対等とかが妥当じゃない?」
流すような霊夢の答え。けれど文はにんまりと笑顔を浮かべて、成程成程、そうかそうか、と満足げに一人ごちた。
「……なによ、いきなり笑って気持ち悪い……何かいいことでもあったわけ?」
「いやいや。ただ……そう、霊夢さんがまさか、私のことを友達と思ってくれているなんて、考えてもみなかったものですから」
「なっ――友達なんて一言も言ってないわよ! 対等よ、た、い、と、う!」
「あら。対等な関係こそが友人のそれだと私は思っていたのですが……違うのですか?」
「違う!」
「……あやややや」
取り付く島もなく全力で否定され、先程とは対照的に落ち込む。あそこまで無下に切り捨てられてしまえばそれもまた仕方のないことだと言えよう。
打って変わって黙り込んでしまった文。その様子の一部始終を見ていた霊夢は、「ああもう!」と吐き捨てるように叫び、文の手を乱暴に引っ掴んだ。
「あんたも喉渇いたでしょ! 上がってお茶でも飲みなさい! って言うか飲ませる!」
「あらあら、それはどうもご丁寧に。それじゃあご好意に甘えるとしましょうか」
はっとなった霊夢が再度文の顔を見ると、そこには落ち込んでいた色などかけらも残っておらず、ただ喜色満面が広がっていた。
「――~~っ!!」
「あぁ、そうそう。ついでと言っちゃあなんですが、ご飯も頂くことにしましょう。ちょうど小腹が空いていますし」
「あんたっ、この期に及んで図々しいことを……!」
ずけずけとした物言いに流石にかちんときたのか、再度懐から、今度は封魔針を取り出し構える。
それでも文はにっこりと笑って、うそぶくようになんのてらいもなく言った。
「ほら、そうやって怒るところもかわいい。そういうところが大好きですよ、霊夢さん」
「――――もうっ! いいわよ分かったわよ! おにぎりでもなんでも作ってやるわよもう!」
「おや、霊夢さんの手作りおにぎりですか。これは楽しみですねぇ。きっと腋で握ったとてもおいしい――」
「握らない!」
冗談すら全力で否定し、文の手を掴んだままのっしのっしと奥へと歩いて行く霊夢。座った状態のままだった文は対応しきれず体勢を崩し、そのまま床を引きずられていく。
引きずられながら文は思う。あぁ、やはりこの人間は、私を退屈させない唯一の存在だな、と。
どんな照れ隠しなんだよ、とも思うが、しかしこれはこれで楽しいので何も言わない。何よりその赤く染まった横顔は、何物にも代えがたいとてもとても貴重なそれではないか。
どうせだから写真に収めておきたかったが、生憎この体勢ではシャッターをまともに切ることもできまい。第一そんなことをしたら今度こそ本気で怒って追い出されることだろう。わざわざ自分から虎の尻尾を踏むような真似をすることもない。
それに――
「――この表情は、写真に収めたところで魅力が薄れてしまいますから。直接私の網膜に焼き付けるのが一番です」
「何? なんか言った?」
「いえ別に。と言うか引きずられて痛いんですけど」
「文句言うなら出てけ」
「分かりました分かりました。黙りますよっと」
そうして、二人の会話は止まる。
博麗神社に響く音。耳に届くのは、鳥たちがさえずる声と、衣擦れの音と。
「ゴッ」という何か硬質な物がぶつかる音に、その度に発せられるうめくような声だけだった。
博麗神社の静かな境内に響く硬質な音は、いささかその風景に似合わない。
縁側に腰掛け湯呑を片手にうつらうつらしていた矢先のこと。巫女である博麗霊夢は、眉をひそめてその耳触りな音の主を睨みつけた。
「……やっぱりあんたね。全く、心地良く人が眠りに就こうとしていた時に……」
こつこつ、こつ。
高下駄の高い足音が、鳴り止む。
「はいー? あなたは巫女でしょう。さぼってないできりきり働きなさい」
「さぼりじゃない。これはシエスタよ」
「巫女が外国の風習を取り入れるな」
ぴしゃり、と打ち切るが如く言い放つのは最速の新聞記者、鴉天狗の射命丸文。カメラを首に引っ提げて、腰に手を当てやれやれと呆れたように頭を振る。
そして全く、私が来るといつもこうなんだから、とぼやく。基本的に霊夢は怠惰なのだ。嫌々ながら普段の業務はこなしているが、それ以外の時間は大抵こうして縁側でほのぼのと日光に当たりながら過ごしている。まともな修業をしている時なんて、殆どないと言っても過言ではない。文がそう悪態をつくのも仕方のない話であった。
それでもまたこっくりこっくりと、舟を漕ぎ始める霊夢。いつの間にか手に持った湯呑は床に置かれていた。
これもまたいつものことだ。いつもマイペースで他人がどうであろうと関係ない。どんな時でも自分のしたいようにする、それが博麗霊夢という人間のキャラクターだった。
やれやれ。首を何度か横に振りつつ、文は霊夢の隣に座った。
「……今日は、やけに静かなんですね」
「…………んー?」
「いつもなら賢者様やら黒白やらがたむろしているのに。珍しいこともあるじゃないですか」
「そりゃあ、ね……そう毎日毎日騒がしかったらこっちも疲れるわよ」
「ふむふむ。それはごもっともな話で」
文は何度も頷き、にやりと笑みを浮かべる。そして霊夢の耳元にそっと顔を近付けると、ほとんど聞こえないような声で囁いた。
「――なら、今のこの神社にはあなたと私、二人きりだということになりますねぇ……?」
頬に掛かる吐息。霊夢は目を見開くと反射的に顎にアッパーカットを食らわし、直後に肘鉄砲を胸部にぶち込んだ。
あまりにも突拍子もない出来事になす術もなく吹っ飛ぶ文。板張りの廊下を滑りつつすぐに体勢を立て直すと、何度か咳き込んでから涙目になって言う。
「げほっ、かはっ……ちょっと、いきなり何してくれてるんですか!」
「いや、いきなり気持ち悪いこと言い出したから……つい」
「ついじゃありませんよ! はぁ、全く……」
それでも然程気にしていない様子なのは流石妖怪といったところか。服についた埃を手で軽く払うと、またつつ、と正座しながら床を滑り霊夢の隣にちょこんと収まった。
「……大体、あんたが来るといつもロクでもないことになるじゃない。どうせ今日だって取材に来たんでしょ」
「あや。そんな風に思われていたのですか。まるで疫病神のような――」
「“ような”じゃなくて疫病神なのよ」
「あやややや。これは手厳しい」
苦笑し頬をぽりぽりと掻く文。対して霊夢はそこまで気にしていないような様子で相も変わらず欠伸をするばかりだ。
そんな彼女の隣にある湯呑をひょいと造作もなく取り上げ、文は番茶を一口だけ口に含んだ。
「ま、確かにそういう時が多いですけどね――出涸らしじゃないですかこれ」
「うるさいな。文句言うなら飲むな。と言うかそもそも勝手に飲むな」
「あはは。まぁまぁ、そう怒らず」
止める間もなく文は残った茶を一気に飲み干してしまう。文句を言いつつも結局飲んでしまう彼女に、霊夢は呆れた声を上げた。
「はぁ……お茶を飲みに来ただけならもう帰んなさい。私を撮ってもネタになんかならないでしょうに」
「いやいや。巫女はネタの宝庫です」
「はぁ? 喧嘩売ってんの?」
「暴力は反対ですよ。それに事実を言ったまでです」
「事実って……あんた滅多にまともな記事書かないじゃ――」
そう言い掛けて、はっとする。
成程、成程。何度も呟き、霊夢は首をこきこきと鳴らす。突然の行動に文は不思議そうにしていたが、その目が笑っていない表情から察するに状況が穏やかでないことは明らかであった。
「理解したわ。ネタがなくても捏造する。そういうことでしょ? 今すぐ出てけ」
「へ? は? いやぁ、そんなことするわけないじゃない――」
「出ていかないなら追い出してやる」
「わぁっ! ちょ、待って下さい! ストップストップ!」
「待たない」
袖をまくって手にはお札。顔は至って無表情。見えない感情の裏に静かな怒りを感じた文は、思わず後ずさりしつつ両手を前に突き出して言った。
「だーかーら! 違いますって! 今日は取材が目的じゃないんです!」
「……取材、じゃない?」
「そうですそうです!」
ぶんぶんと頭を縦に振る文。なら何よ、と不審そうな態度を崩さない霊夢に、続けてこう抗弁した。
「えぇっとー……ざ、雑談などを一つ?」
「ないわ」
「ありますよ! すぐに否定しないで下さい!」
とりあえずその物騒な物をしまってそこに座りましょう、との文の言葉に、どうして主導権が握られてしまっているのだろうと疑問に思いつつも従う霊夢。まぁいちいち退治するのも面倒臭かったし言い訳ぐらいは聞いといてやるか、とは内心の言葉だった。
「そもそも、ですよ。他の妖怪は特に目的もないのに霊夢さんに会いに来てるじゃないですか。いっつもたむろしてるあの有象無象」
「うんまぁいるけど。それが?」
「どうして私は同じ扱いにならないんですか?」
「あんたに限っては“目的がない”ってことがないからよ」
「ちょっ」
「いいじゃない。あんた“だけ”よ。特例特例。喜びなさい」
「特例って……せめてもうちょっとマシな特例にですね……」
ややがっくりと、肩を落として嘆息する文。そんな彼女を見かねたのか、霊夢はややあってから口を開いた。
「……ま、ぁ。確かに、あんたとはそれなりの付き合いになってるしね……他の奴らとは、ちょっと違うかも」
「はい……?」
「いや、あんた“だけ”ってのが自分でも引っ掛かってね……何でかなって、考えてみたから」
「ふむ……そういえば、あの間欠泉異変の時も、私は疑問に思っていましたが……どうして、あなたは私を選んだんです?」
「うん? どういうこと?」
「ですから、あの時他にも二人。スキマ妖怪と鬼があなたに協力を申し出てたじゃないですか。それなのにあなたは、私を選んだのが不思議でして……あぁいや、新聞のネタになったので大助かりだったんですけどね」
「あぁ、なんだそのこと。それは簡単よ」
「と言うと?」
文が尋ねると、霊夢は首を小さく傾けて言った。
「紫の言いなりにはなりたくなかったし、萃香も大体同じ感じだったから。その点あんただけは目的がはっきりしてたから。それだけよ」
「……なーるほど。それもまた“取材”、と。そういうわけですね」
「その通り」
ふむふむ。何度も頷く文。ざっくばらんな説明ではあるが、それだけに単純で分かりやすく得心したようである。
さて、と立ち上がる霊夢。「どうしたのですか?」と文が問うと、何気ない所作で答えた。
「お茶を淹れようと思って。あんたと喋ってて喉渇いたのよ。湯呑の中身は全部飲まれちゃったし」
「あはは、そう言えばそうでしたっけね。……ところで霊夢さん」
「何?」
「私が特別扱いというのなら、……あなたの中で、私はいったいどんな存在なのですか?」
「あんたがどんな存在か?」
「はい。先程言った異変でも、利害関係が一致していたから私を選んだというわけではなさそうでしたし……なら、どういうことなのかなぁと」
「ふぅん……そうね。対等とかが妥当じゃない?」
流すような霊夢の答え。けれど文はにんまりと笑顔を浮かべて、成程成程、そうかそうか、と満足げに一人ごちた。
「……なによ、いきなり笑って気持ち悪い……何かいいことでもあったわけ?」
「いやいや。ただ……そう、霊夢さんがまさか、私のことを友達と思ってくれているなんて、考えてもみなかったものですから」
「なっ――友達なんて一言も言ってないわよ! 対等よ、た、い、と、う!」
「あら。対等な関係こそが友人のそれだと私は思っていたのですが……違うのですか?」
「違う!」
「……あやややや」
取り付く島もなく全力で否定され、先程とは対照的に落ち込む。あそこまで無下に切り捨てられてしまえばそれもまた仕方のないことだと言えよう。
打って変わって黙り込んでしまった文。その様子の一部始終を見ていた霊夢は、「ああもう!」と吐き捨てるように叫び、文の手を乱暴に引っ掴んだ。
「あんたも喉渇いたでしょ! 上がってお茶でも飲みなさい! って言うか飲ませる!」
「あらあら、それはどうもご丁寧に。それじゃあご好意に甘えるとしましょうか」
はっとなった霊夢が再度文の顔を見ると、そこには落ち込んでいた色などかけらも残っておらず、ただ喜色満面が広がっていた。
「――~~っ!!」
「あぁ、そうそう。ついでと言っちゃあなんですが、ご飯も頂くことにしましょう。ちょうど小腹が空いていますし」
「あんたっ、この期に及んで図々しいことを……!」
ずけずけとした物言いに流石にかちんときたのか、再度懐から、今度は封魔針を取り出し構える。
それでも文はにっこりと笑って、うそぶくようになんのてらいもなく言った。
「ほら、そうやって怒るところもかわいい。そういうところが大好きですよ、霊夢さん」
「――――もうっ! いいわよ分かったわよ! おにぎりでもなんでも作ってやるわよもう!」
「おや、霊夢さんの手作りおにぎりですか。これは楽しみですねぇ。きっと腋で握ったとてもおいしい――」
「握らない!」
冗談すら全力で否定し、文の手を掴んだままのっしのっしと奥へと歩いて行く霊夢。座った状態のままだった文は対応しきれず体勢を崩し、そのまま床を引きずられていく。
引きずられながら文は思う。あぁ、やはりこの人間は、私を退屈させない唯一の存在だな、と。
どんな照れ隠しなんだよ、とも思うが、しかしこれはこれで楽しいので何も言わない。何よりその赤く染まった横顔は、何物にも代えがたいとてもとても貴重なそれではないか。
どうせだから写真に収めておきたかったが、生憎この体勢ではシャッターをまともに切ることもできまい。第一そんなことをしたら今度こそ本気で怒って追い出されることだろう。わざわざ自分から虎の尻尾を踏むような真似をすることもない。
それに――
「――この表情は、写真に収めたところで魅力が薄れてしまいますから。直接私の網膜に焼き付けるのが一番です」
「何? なんか言った?」
「いえ別に。と言うか引きずられて痛いんですけど」
「文句言うなら出てけ」
「分かりました分かりました。黙りますよっと」
そうして、二人の会話は止まる。
博麗神社に響く音。耳に届くのは、鳥たちがさえずる声と、衣擦れの音と。
「ゴッ」という何か硬質な物がぶつかる音に、その度に発せられるうめくような声だけだった。
照れる霊夢さん可愛いよ
ストレートなのににじみ出るとはこれいかに。
ごちそうさまでした。
あれ、どこかで聞いたような・・・
あやれいむ、ごちそーさまでしたっ!
にやにやさせていただきました。感謝。
キタキタおry
あやれいむいいですね。