ここは博麗神社の台所。
そこへひとつの影が忍び寄ります。
ぴょこんと頭から突き出た一本のマーベラスな角。モフり甲斐のありそうな鈍色の長い髪と、その毛先のくるんとカールしたキュートな出で立ち。全身から発散するいじらしさのフォビュラス級オーラ。
もうおわかりですね。
そうです。神社やお寺の守護神として絶賛活躍中の激カワ狛犬、高麗野(こまの)あうんちゃんです。今日もアメージングな可愛らしさですね。
両手を丸めて、胸の前で手招くように動かすヘブンリーなポージングで、あうんちゃんはそろそろと台所を進みます。神社やお寺を陰から見守る守護神ですので、家人に見つからないように辺りを窺っているのです。
台所は、その光景を絵に描いて、『朝食』という題をつけて絵画コンクールに応募すれば最優秀賞を受賞できるほどに、朝の時間に似つかわしいものでした。
かまどの上では、まっくろな釜がしゅうしゅうと、お米を炊き上げる声をあげています。小さなお鍋からは、おみそ汁の香気がふんわりと漂い、辺りは大豆に祝福されています。
あうんちゃんは、つんと小さく突き出た鼻先をラブリーに鳴らしました。
すんすん。くんくん。くすんくすん。
「お豆腐とわかめ!」
あうんちゃんの笑顔がぱっと輝き、朝陽の眩しさを凌駕しました。あうんちゃんはお豆腐とわかめのおみそ汁が大好きだからです。
逆に嫌いなものは長ネギです。なぜならそれは極めてポイズンであり、犬や、犬のようなものや、あうんちゃんには優しくないからです。長ネギは今すぐ滅ぶべきでしょう。
あうんちゃんはお鍋を覗き込みました。この世にチャーミングという言葉がなかったとしたら、どのように表現することも出来ずにただ膝を屈して無力さに苛まれるであろう、あうんちゃんのチャーミングな瞳がお鍋の中に向けられます。
そこには、なめこのおみそ汁がありました。
「ぐぬぬー。なめこかぁ」
なめこです。この幻想郷史上に類を見ない悲劇的なおみそ汁の具は、あうんちゃんのチャーミングにも程がある瞳を曇らせた罪のために、速やかに断崖から身を投げ捨てるべきでした。
しかし、あうんちゃんのピースフルでプレシャスな精神は、なめこを慈しみの光で照らしました。それは敵を愛し、自分を迫害する者に祈りを捧げる輝きでした。
なめこのぬめぬめとした部分は、あうんちゃんの慈愛を受け止め、そして真に悔い改めました。
『どうか、私を食べておしまいなさい。そうしなさい。私は博麗の巫女の空腹のためにこの海にいた。しかし、あなたは豆腐とわかめこそが真に巫女を慰めるのだと示してくれた。不調和は正されなければならず、私はこの罪のために閉ざされた暗闇を永遠に彷徨い歩くのだ』
なめこのてかてかとした部分は、量子暗号化された光言語を用いてこのように語りました。菌類のセキュリティ意識の高さには学ぶべきものがあります。
あうんちゃんは、なめこが何かを言っているかさっぱりわかりませんでしたが、とにかくお腹を空かせていたので、なめこをぺろりと平らげました。
全てのなめこを摘み取った指先を、あうんちゃんの長い舌が綺麗に舐めとります。
ぺろぺろ。てろてろ。れろれろりん。
「うーん、思わずつまみ食いしちゃった……けど、お豆腐とわかめの方が絶対に美味しいし、霊夢さんも喜ぶと思うなぁ」
あうんちゃんの灰色の脳細胞が、ブリリアントなロジックを組み上げます。
それは失敗を取り繕うための言い訳に過ぎないのではないか。そのような浅はかな考えは、あうんちゃんに向けるべきではありません。
なぜなら、愛らしさとは正しさに直結するからです。幻想郷の閻魔様である四季映姫が、あんなにも可憐な顔立ちをしていることこそ何よりの証拠です。可愛いは秩序であり、法であり、守らなければいけません。守りたい、この笑顔。
全ての意志はあうんちゃんのぽややんとした微笑みのもとで統合され、数多の心はこうして一つに結ばれます。プレーンなおみそ汁もその例外ではないのです。
「ようし、すぐに具を持ってきて霊夢さんの食卓をより良くしてあげようっと。私って尽くしてるなぁ。まあ、守護神だからねー。みんなを守ってあげないとねー!」
あうんちゃんは、むふふん、と意気込みました。その著しい愛らしさに五月の陽射しはのぼせ上り、強い光線がキラキラと降り注ぎます。今日は汗ばむ一日になりそうです。
しかし、あうんちゃんの季節を先取りした涼しげな装いなら、そんな暑さもへっちゃらです。
あうんちゃんは、まっしろな手足を大胆にも露わにして、眩い裸足を下駄に乗せ、神社の境内を進みます。下駄のかろんかろんという音に合わせて、あうんちゃんの声が聖なるリズムを刻みます。
「あ、うん♪ あ、うん♪ あ、う、ん♪」
朝の静謐な境内に軽やかな歌声を響かせるあうんちゃん。そのあまりに可憐な姿は、世に天使の実在を知らしめます。
服に押し込まれている尻尾も、もし外に出ていたならば、破壊的な可愛らしさを振りまいていたことでしょう。
そんな尻尾がどうして服の下に隠されているのか。それは、ふりふりと振られる尻尾のラブリーな微風が、可愛さのバタフライ・エフェクトを起こしてしまうかもしれないからです。
そのため、可愛さの氾濫が起きないように尻尾を隠しているのです。あうんちゃんはかしこいので。
そうして、あうんちゃんが本能のままに境内を歩いていると、歩く可愛いの概念と化したあうんちゃんに運命が応えるように、野性のお豆腐とわかめが脇にある草むらから飛び出してきました。
「うわぁ、活きの良いお豆腐とわかめだ! やったぁ!」
あうんちゃんのキュートな周波数が空気を伝います。
ですが、ここであうんちゃんのチャーミング・フェイスは、チャーミング・困惑・フェイスに移行しました。
野性のお豆腐とわかめは、それぞれ両脇から飛び出してきたからです。即座に踊りかかりたいところですが、そうした場合、どちらか一方しか得られず、おみそ汁の完全な調和の夢は断たれてしまいます。
そもそもこのようにあうんちゃんを戸惑わせた野性のお豆腐とわかめの罪はあまりに重く、まず極刑は免れません。あうんちゃんの前に現れたからには、飢えた者を前にして自ら火に飛び込むような積極的なアプローチが求められます。近年の食材にはそうした自発性が欠けているのだと嘆く声は、決して少なくないのです。
しかし、あうんちゃんにはとっておきの策がありました。あうんちゃんは一枚のスペルカードを取り出すと、それを発動させました。
すると……なんということでしょう。あうんちゃんが二人に増えたではありませんか。その二つのプリティーの化身の間に生じるラブリー状態の圧倒的ガーリー空間はまさに超越的恋嵐の小宇宙!
そうです。これがあうんちゃんのスペルカート、狛符『独り阿吽の呼吸』です。一人で獅子と狛犬の二つの顔を併せ持つ、あうんちゃんならではの幻想郷的言語です。
「あーちゃんはそっち!」
「おっけー、うーちゃん!」
二人のあうんちゃんはお互いに呼び合いながら、野性のお豆腐とわかめに素早く飛びかかりました。
そして、愛らしい着地を決めた愛らしい二人のあうんちゃんの愛らしさが拳の形を取っているかのような愛らしい拳が、野性のお豆腐とわかめを捉えました。あうんちゃんパンチは見事命中し、野性のお豆腐とわかめを捕まえることができました。
神社を囲む草木とやわらかな風がひそひそと話し合い、今行われた二人のあうんちゃんの狩りを吟味します。次第にその声には熱気がこもり、何か目に見えない大きなものを築き上げようとしているようでした。
さわさわ。ざわざわ。ざあざあざあ。
風が絡み合い、枝は大いに揺れ、無数の葉がスタンディングオベーションで、二人のあうんちゃんに敬意を表しました。
「やったね、あーちゃん」
「やったぜ、うーちゃん」
二人のあうんちゃんはハイタッチを決め、お互いの髪に鼻先を埋め合い、それからハグをして、一人のあうんちゃんに戻りました。
一人に戻りましたが、そのチャーミングな瞳の輝きは些かも衰えを知りません。そのきらめきを浴びせられた人々は、この世には夜へと沈む太陽と沈まない太陽があるのだと知ることになります。
太陽の如き不変の可愛さとお豆腐とわかめを携えたあうんちゃんは、博麗神社の台所に意気揚々と戻りました。
他には誰もいないことを確かめた後、再び台所へと入り込みます。お鍋の中の褐色の海に黒と白を浮かべると、あうんちゃんの大好きなお豆腐とわかめのおみそ汁の完成です。
だけど、あうんちゃんはもうつまみ食いなどしません。あうんちゃんの守護神としての誇りがそうさせるのです。
このとっても美味しくなったおみそ汁は霊夢さんに食べてもらいたい。
そんな確固たる思いを胸に、あうんちゃんはよだれをぼたぼた垂らしながら、台所を去っていきました。何度もお鍋の方に縋るような目を向けるあうんちゃんの背中からは、小さいながらも守護神の風格が感じられます。
あうんちゃんが守護神の務めを果たした後。
ばたばたと慌ただしい足音と共に、博麗神社の台所に巫女の霊夢がやってきました。眉を吊り上げ、剣呑な雰囲気を漂わせています。
そこへ霊夢におそるおそる続くように入ってきたのは、光の三妖精のサニーとルナとスターでした。
霊夢は三妖精を前にして、お鍋を指さしました。
「あんたたちの仕業でしょう! 私が香のものを取りに床下に行ってる間におみそ汁の具を全部食べてしまうなんて妙ないたずらをして!」
「違いますって! 霊夢さんにいたずらなんて、そんなとんでもないですよ!」
「そうですよ! これからしようとは思ってましたけど、まだ何もしてないんですから!」
「私は止めたんですけど、二人がはりきっちゃって! 私は止めたんですけど!」
三妖精は各々が好き勝手に話し出しました。
朝食前だった霊夢は腹の虫が二重に納まらなかったので、苛立ちを隠さずに突きつけるように言いました。
「じゃあ、これは何なのよ。ほら、おみそ汁の具が何も……」
突然、霊夢は黙り込んでしまいました。具がなかったはずのおみそ汁に、お豆腐とわかめが入っているのを見たからです。
三妖精はおかしな様子を見せ始めた霊夢を、そろそろと窺うように見上げます。
霊夢は考え込むように唇を引き結んでいましたが、やがてその白いほっぺにはじわじわと赤みが射しました。
そして、あー、とか、うー、とか言葉にしようとして上手くいかなかったような声をあげ、それから三妖精に言いました。
「……あんたたち、朝ごはん食べてく?」
三妖精は元気に頷きました。先ほどのびくびくとした様子はどこへやら、美味しいものが食べられると知って、きゃあきゃあとはしゃいでいます。
ただ一人、納得のいかない霊夢は難しい顔でお鍋を覗き込んでいました。
「別の妖精のいたずらかしら。具を変えてしまうなんて変なことをするわね。まっ、具材が増えたことだし、いいかな」
このように、あうんちゃんの守護は人知れず、巫女知れず、過ぎていくのです。
それでもあうんちゃんはお寺や神社を守り続けます。あうんちゃんはお寺や神社、そして何よりそこにいる人たちのことが大好きで、みんなに喜んでほしいからです。
もしもお寺や神社の中で、何かを口ずさむような声が聞こえたら。
そこであうんちゃんは、あの可愛い笑みを咲かせているのかもしれません。
そこへひとつの影が忍び寄ります。
ぴょこんと頭から突き出た一本のマーベラスな角。モフり甲斐のありそうな鈍色の長い髪と、その毛先のくるんとカールしたキュートな出で立ち。全身から発散するいじらしさのフォビュラス級オーラ。
もうおわかりですね。
そうです。神社やお寺の守護神として絶賛活躍中の激カワ狛犬、高麗野(こまの)あうんちゃんです。今日もアメージングな可愛らしさですね。
両手を丸めて、胸の前で手招くように動かすヘブンリーなポージングで、あうんちゃんはそろそろと台所を進みます。神社やお寺を陰から見守る守護神ですので、家人に見つからないように辺りを窺っているのです。
台所は、その光景を絵に描いて、『朝食』という題をつけて絵画コンクールに応募すれば最優秀賞を受賞できるほどに、朝の時間に似つかわしいものでした。
かまどの上では、まっくろな釜がしゅうしゅうと、お米を炊き上げる声をあげています。小さなお鍋からは、おみそ汁の香気がふんわりと漂い、辺りは大豆に祝福されています。
あうんちゃんは、つんと小さく突き出た鼻先をラブリーに鳴らしました。
すんすん。くんくん。くすんくすん。
「お豆腐とわかめ!」
あうんちゃんの笑顔がぱっと輝き、朝陽の眩しさを凌駕しました。あうんちゃんはお豆腐とわかめのおみそ汁が大好きだからです。
逆に嫌いなものは長ネギです。なぜならそれは極めてポイズンであり、犬や、犬のようなものや、あうんちゃんには優しくないからです。長ネギは今すぐ滅ぶべきでしょう。
あうんちゃんはお鍋を覗き込みました。この世にチャーミングという言葉がなかったとしたら、どのように表現することも出来ずにただ膝を屈して無力さに苛まれるであろう、あうんちゃんのチャーミングな瞳がお鍋の中に向けられます。
そこには、なめこのおみそ汁がありました。
「ぐぬぬー。なめこかぁ」
なめこです。この幻想郷史上に類を見ない悲劇的なおみそ汁の具は、あうんちゃんのチャーミングにも程がある瞳を曇らせた罪のために、速やかに断崖から身を投げ捨てるべきでした。
しかし、あうんちゃんのピースフルでプレシャスな精神は、なめこを慈しみの光で照らしました。それは敵を愛し、自分を迫害する者に祈りを捧げる輝きでした。
なめこのぬめぬめとした部分は、あうんちゃんの慈愛を受け止め、そして真に悔い改めました。
『どうか、私を食べておしまいなさい。そうしなさい。私は博麗の巫女の空腹のためにこの海にいた。しかし、あなたは豆腐とわかめこそが真に巫女を慰めるのだと示してくれた。不調和は正されなければならず、私はこの罪のために閉ざされた暗闇を永遠に彷徨い歩くのだ』
なめこのてかてかとした部分は、量子暗号化された光言語を用いてこのように語りました。菌類のセキュリティ意識の高さには学ぶべきものがあります。
あうんちゃんは、なめこが何かを言っているかさっぱりわかりませんでしたが、とにかくお腹を空かせていたので、なめこをぺろりと平らげました。
全てのなめこを摘み取った指先を、あうんちゃんの長い舌が綺麗に舐めとります。
ぺろぺろ。てろてろ。れろれろりん。
「うーん、思わずつまみ食いしちゃった……けど、お豆腐とわかめの方が絶対に美味しいし、霊夢さんも喜ぶと思うなぁ」
あうんちゃんの灰色の脳細胞が、ブリリアントなロジックを組み上げます。
それは失敗を取り繕うための言い訳に過ぎないのではないか。そのような浅はかな考えは、あうんちゃんに向けるべきではありません。
なぜなら、愛らしさとは正しさに直結するからです。幻想郷の閻魔様である四季映姫が、あんなにも可憐な顔立ちをしていることこそ何よりの証拠です。可愛いは秩序であり、法であり、守らなければいけません。守りたい、この笑顔。
全ての意志はあうんちゃんのぽややんとした微笑みのもとで統合され、数多の心はこうして一つに結ばれます。プレーンなおみそ汁もその例外ではないのです。
「ようし、すぐに具を持ってきて霊夢さんの食卓をより良くしてあげようっと。私って尽くしてるなぁ。まあ、守護神だからねー。みんなを守ってあげないとねー!」
あうんちゃんは、むふふん、と意気込みました。その著しい愛らしさに五月の陽射しはのぼせ上り、強い光線がキラキラと降り注ぎます。今日は汗ばむ一日になりそうです。
しかし、あうんちゃんの季節を先取りした涼しげな装いなら、そんな暑さもへっちゃらです。
あうんちゃんは、まっしろな手足を大胆にも露わにして、眩い裸足を下駄に乗せ、神社の境内を進みます。下駄のかろんかろんという音に合わせて、あうんちゃんの声が聖なるリズムを刻みます。
「あ、うん♪ あ、うん♪ あ、う、ん♪」
朝の静謐な境内に軽やかな歌声を響かせるあうんちゃん。そのあまりに可憐な姿は、世に天使の実在を知らしめます。
服に押し込まれている尻尾も、もし外に出ていたならば、破壊的な可愛らしさを振りまいていたことでしょう。
そんな尻尾がどうして服の下に隠されているのか。それは、ふりふりと振られる尻尾のラブリーな微風が、可愛さのバタフライ・エフェクトを起こしてしまうかもしれないからです。
そのため、可愛さの氾濫が起きないように尻尾を隠しているのです。あうんちゃんはかしこいので。
そうして、あうんちゃんが本能のままに境内を歩いていると、歩く可愛いの概念と化したあうんちゃんに運命が応えるように、野性のお豆腐とわかめが脇にある草むらから飛び出してきました。
「うわぁ、活きの良いお豆腐とわかめだ! やったぁ!」
あうんちゃんのキュートな周波数が空気を伝います。
ですが、ここであうんちゃんのチャーミング・フェイスは、チャーミング・困惑・フェイスに移行しました。
野性のお豆腐とわかめは、それぞれ両脇から飛び出してきたからです。即座に踊りかかりたいところですが、そうした場合、どちらか一方しか得られず、おみそ汁の完全な調和の夢は断たれてしまいます。
そもそもこのようにあうんちゃんを戸惑わせた野性のお豆腐とわかめの罪はあまりに重く、まず極刑は免れません。あうんちゃんの前に現れたからには、飢えた者を前にして自ら火に飛び込むような積極的なアプローチが求められます。近年の食材にはそうした自発性が欠けているのだと嘆く声は、決して少なくないのです。
しかし、あうんちゃんにはとっておきの策がありました。あうんちゃんは一枚のスペルカードを取り出すと、それを発動させました。
すると……なんということでしょう。あうんちゃんが二人に増えたではありませんか。その二つのプリティーの化身の間に生じるラブリー状態の圧倒的ガーリー空間はまさに超越的恋嵐の小宇宙!
そうです。これがあうんちゃんのスペルカート、狛符『独り阿吽の呼吸』です。一人で獅子と狛犬の二つの顔を併せ持つ、あうんちゃんならではの幻想郷的言語です。
「あーちゃんはそっち!」
「おっけー、うーちゃん!」
二人のあうんちゃんはお互いに呼び合いながら、野性のお豆腐とわかめに素早く飛びかかりました。
そして、愛らしい着地を決めた愛らしい二人のあうんちゃんの愛らしさが拳の形を取っているかのような愛らしい拳が、野性のお豆腐とわかめを捉えました。あうんちゃんパンチは見事命中し、野性のお豆腐とわかめを捕まえることができました。
神社を囲む草木とやわらかな風がひそひそと話し合い、今行われた二人のあうんちゃんの狩りを吟味します。次第にその声には熱気がこもり、何か目に見えない大きなものを築き上げようとしているようでした。
さわさわ。ざわざわ。ざあざあざあ。
風が絡み合い、枝は大いに揺れ、無数の葉がスタンディングオベーションで、二人のあうんちゃんに敬意を表しました。
「やったね、あーちゃん」
「やったぜ、うーちゃん」
二人のあうんちゃんはハイタッチを決め、お互いの髪に鼻先を埋め合い、それからハグをして、一人のあうんちゃんに戻りました。
一人に戻りましたが、そのチャーミングな瞳の輝きは些かも衰えを知りません。そのきらめきを浴びせられた人々は、この世には夜へと沈む太陽と沈まない太陽があるのだと知ることになります。
太陽の如き不変の可愛さとお豆腐とわかめを携えたあうんちゃんは、博麗神社の台所に意気揚々と戻りました。
他には誰もいないことを確かめた後、再び台所へと入り込みます。お鍋の中の褐色の海に黒と白を浮かべると、あうんちゃんの大好きなお豆腐とわかめのおみそ汁の完成です。
だけど、あうんちゃんはもうつまみ食いなどしません。あうんちゃんの守護神としての誇りがそうさせるのです。
このとっても美味しくなったおみそ汁は霊夢さんに食べてもらいたい。
そんな確固たる思いを胸に、あうんちゃんはよだれをぼたぼた垂らしながら、台所を去っていきました。何度もお鍋の方に縋るような目を向けるあうんちゃんの背中からは、小さいながらも守護神の風格が感じられます。
あうんちゃんが守護神の務めを果たした後。
ばたばたと慌ただしい足音と共に、博麗神社の台所に巫女の霊夢がやってきました。眉を吊り上げ、剣呑な雰囲気を漂わせています。
そこへ霊夢におそるおそる続くように入ってきたのは、光の三妖精のサニーとルナとスターでした。
霊夢は三妖精を前にして、お鍋を指さしました。
「あんたたちの仕業でしょう! 私が香のものを取りに床下に行ってる間におみそ汁の具を全部食べてしまうなんて妙ないたずらをして!」
「違いますって! 霊夢さんにいたずらなんて、そんなとんでもないですよ!」
「そうですよ! これからしようとは思ってましたけど、まだ何もしてないんですから!」
「私は止めたんですけど、二人がはりきっちゃって! 私は止めたんですけど!」
三妖精は各々が好き勝手に話し出しました。
朝食前だった霊夢は腹の虫が二重に納まらなかったので、苛立ちを隠さずに突きつけるように言いました。
「じゃあ、これは何なのよ。ほら、おみそ汁の具が何も……」
突然、霊夢は黙り込んでしまいました。具がなかったはずのおみそ汁に、お豆腐とわかめが入っているのを見たからです。
三妖精はおかしな様子を見せ始めた霊夢を、そろそろと窺うように見上げます。
霊夢は考え込むように唇を引き結んでいましたが、やがてその白いほっぺにはじわじわと赤みが射しました。
そして、あー、とか、うー、とか言葉にしようとして上手くいかなかったような声をあげ、それから三妖精に言いました。
「……あんたたち、朝ごはん食べてく?」
三妖精は元気に頷きました。先ほどのびくびくとした様子はどこへやら、美味しいものが食べられると知って、きゃあきゃあとはしゃいでいます。
ただ一人、納得のいかない霊夢は難しい顔でお鍋を覗き込んでいました。
「別の妖精のいたずらかしら。具を変えてしまうなんて変なことをするわね。まっ、具材が増えたことだし、いいかな」
このように、あうんちゃんの守護は人知れず、巫女知れず、過ぎていくのです。
それでもあうんちゃんはお寺や神社を守り続けます。あうんちゃんはお寺や神社、そして何よりそこにいる人たちのことが大好きで、みんなに喜んでほしいからです。
もしもお寺や神社の中で、何かを口ずさむような声が聞こえたら。
そこであうんちゃんは、あの可愛い笑みを咲かせているのかもしれません。
このほのぼのとした空気が好きです。
そのキューティクルを思いっきりもふもふしたい…
あうんちゃん可愛い…
ほのぼのさせてくれるなぁ。
天空璋の新キャラみんな可愛いですよね