この巻での焦点は、水橋パルスィに猫耳が生えてにゃーとしか喋れなくなったという通称「猫橋事件」なのだが、結構どうでもいい事件なので先に村紗水蜜が再び地底に住むことになった経緯でも語ろうと思う。
村紗は聖白蓮を乗せる船を操る、船幽霊という種族の妖かしであった。しかし船はトランスフォームして寺になってしまったので今は寺幽霊である。
しかし、寺にいる幽霊とはよく考えるとただのホトケさんである。なので彼女は困っていた。本当に今のままでよいのかと。もっと、自分を高められる場所があるのではないかと。
ホトケさんといえば少しは聞こえがいいが、実態はニートとかそういうものに近かった。役目を終えて死んだわけでもなく働けないわけでもないのだが、白蓮を助けてからというものどーにもやる気がなくなってしまって、働きもせず朝から晩までゴロゴロゴロゴロしていた。
いい加減ナズーリンの視線が侮蔑のそれに変わっていたので、そろそろ真面目にやるかあと思い立ったのはいいものの。いざ寺から出てもどこに行けばいいのかわからなくなってしまい、結局その辺をぶらぶらしただけで戻ってしまうのである。
門前にいる幽谷響子からも、「おぁっす……」とやる気のない挨拶をいただく。敬意の欠片もない挨拶。まさか「おはようございます」の「お」と「す」以外全部略されるとは。かろうじて「は」の母音だけ聞き取れるか聞き取れないかといったところだ。
愛想のいいと評判の彼女ですらこの態度なのだから、村紗はいよいよ威信が地に落ちているのだと自覚した。泣いた。
村紗は感極まって、一輪へすがりつくように喚いた。自分はなんて下劣で甘えた屑野郎なのだ。やってできないことではないはずなのに、己の無気力さ故に何もしないでいるなんてと。
対し一輪はこう答えた。
「自分が卑しいと思えることは、今も自分の精神が洗練されていってるということよ。みつは正しい。自分を信じて、信じた道をきちんと進めば大丈夫。道に迷ったら、私でも誰でも助けるから、安心して頼ってね」
つまり信じた道はあってもやる気がないからダメなんだと言われた気がしないでもなかったわけだが、村紗は素直なので助言をくれた一輪が聖母か何かに見えたのだった。
「イチーーー! 私と婚約してお嫁さんになってよー!」
「って、すぐ調子に乗る……。そういうことは、やることやってから言うべきものよ。それからなら、あー、その、考えてあげる」
「よっしゃがんばる」
村紗は涙を流しながらそう言って、仕事を探しに出かけた。
そして夕方に帰ってきた。
「もうダメだ地底に隠居しよう」
惨敗だった。
幻想郷も何かと不景気なのであった。今年は食用河童の水揚げが極端に少なかったそうであるし、ここ数年、人里が広くなりすぎていて建築も自粛ムードなのである。
それに、人間はなぜか幽霊を嫌う。異常なまでに嫌がる。会った瞬間「ほげえぇ!」って言って逃げる。なぜかは全然わからない。人間に聞いてもわからなかったし、さとりに聞いてもわからないのである。
にゃんにゃんにゃにゃーん。にゃんにゃんにゃにゃん。
「たった一度失敗したぐらいで何言ってるの。元気出して。北京だって頑張ってるんだから」
一輪はいつでも優しかった。
もしこれで、今日だけで三十九回失敗したのだと言ったらどんな顔をするだろう。三十九回「ほげえぇ!」を聞いたって言ったらどうするのだろう。
きっとそれでも優しいのだと、村紗は思った。聖母だから。
しかし。
「パルスィに会いたい」
「んむっ」
つい旧友の名を零すと、彼女は妙によく反応した。
地底にいた頃は、一輪とパルスィの仲はよかったらしく、村紗が寝ている間、二人でよくこっそり飲んでいたらしい。後から聞かされて結構ショックだった話である。
ところが今では村紗のほうがパルスィとよく会っていた。一輪はそれが気に喰わないらしく、パルスィの話を快く聞いてはくれない。
会いに行けばいいのにと言うと、必ず「あんたと違って暇じゃないんだけど」と返されるのでいちいちぐうの音も出なかった。
確かに一輪は忙しそうだった。里の子供たちに毎日見せる入道の芝居のために、寝る間も惜しんで練習している姿を何度も見ている。
「地底に住んで、どうするのよ。仕事があるの? 鬼と酒を呑む仕事とか?」
彼女はあからさまに不機嫌になっていた。
「そりゃ無理だ。それよりパルスィとイチャイチャできる仕事がいいな」
「ねぇよそんなもん」
「なんだよ! あるかもしれないだろ!?」
逆の発想である。いっそ村紗が先にキレてみる。
彼女はよく、周りからキレどころがわからないと言われる。
逆の発想をするからである。
「ねぇよそんなもん!」
「ねぇくねぇよ! たぶん! あるよ! パルスィの紐とかさあ!」
ここで一輪が思わず吹き出したので村紗の勝ちである。
今更プライドもないのでいくらでも自虐できるのだった。
「あれの紐になっても餓死するよね、きっと」
「あはは、だねー」
彼女のクソ寒いボロ家にも住みたいとは思わない。
「でもさ、やっぱりあるよ。パルスィとイチャイチャできる仕事は」
村紗の言葉に、二人は笑顔で見合った。
「ないない」
喧嘩もするけど、仲よしである。
「きっとあるさ」
「ないよそんな」
「あるって」
「ねぇよ」
「あるって!」
「ないっつの!」
「なんかあんだろ絶対!?」
「ねえよそんなもん!!」
「あるもん!!!!」
「ねえよ!!!!!!」
そうして村紗は寺を飛び出した。
というわけで、もうそろそろみんな忘れていると思うが話は冒頭に戻る。
寺を抜けて橋まで来たところで、いつものようにパルスィと出会ったのだが。
そこにいたのはパルスィに似ている猫かもしれなかった。
いや猫っぽいパルスィかもしれなかった。
詳しく言うと、一見パルスィのようだが猫耳が生えていてにゃあとしか鳴かないパルスィもしくは猫であった。
「パルスィ」
「にゃ」
「どうしたのその耳?」
「うにゃにゃんにゃ」
このありさまである。
「趣味?」
「んにゃんにゃ」
「趣味か」
「んにゃんにゃ!」
「趣味じゃしょうがないな」
「んにゃんにゃ!!」
首を縦に振ったり横に振ったりはできるようなので、はいかイエスぐらいは判断がつくのだが。
案外似合ってるし、かわいい。しかしまともに意思疎通ができないのは苦労しそうだなあと、村紗はぼんやり思った。ただでさえパルスィは不幸体質のきらいがあるのだから余計に可哀想である。
「んぐー」
当のパルスィもあまりお気に召さないようだった。終始しかめ面で、猫になってしまった耳を触っている。
この耳は村紗が何か喋るたび、ぴくんと動く。どうやら飾りでなく本当に猫の耳らしい。
こんなもの、どうやってつけたのかといえば全くの謎である。謎の力が働いたとしか思えない。オーラ力とか。
謎の力といえばぬえなので、まあぬえのせいだろうなーという結論に至った。
「ぬえのせいでしょ?」
「……にゃん」
今のは、はいかイエスで言えばイエスであろう。
村紗は思い出す。そういえば、今日は寺でぬえの姿を見ていない。
すごく怪しかった。
「探してみようか」
「ん、うにゃん」
村紗がそう提案すると、どうやらパルスィは後ろについていくことに決めたようで、そっとその傍に寄った。
二人は地底の奥を目指すことにした。
まず、地霊殿へ行く。ちらほらとぬえの友達がいる場所である。
さとりは二人と会うなり即座に状況を把握して言った。
「かわいいペットを連れていますね」
「捨て猫ひろったの。飼いたい?」
「飼いたいです」
パルスィは「えっ」と思ったが後悔するには遅すぎるのだった。
「どうしても?」
「どうしても飼いたいです」
「よく吠えるけど」
「口ぐらい塞げますよ。唇で」
「わかった」
「いいですか」
「明日までに百万円用意しておけ」
「おっと足元見やがりましたねカルト教団」
いつの間にかパルスィは商品にされていた。性的な意味でかもしれなかった。
この瞬間、村紗はニートからペットショップの店員へとクラスチェンジしたのである。おめでとう! ただし性的な意味で。
「用意してやるから月末まで待ちやがってください」
さとりは本気だった。
本気でパルスィをいいように弄ぶ気だった。
「月末ゥ? ククク飲めぬ相談だな。その頃にはもう、こやつは我が従順なペットになっているだろうてフハハハハ」
「うぎぎなんという悪徳商法」
売れなかった動物を自分の所有物にしてわざわざきちんと育ててしまうなんて、とんでもなく残虐で悪徳な店員がいたものである。
その後も一見無意味な値段交渉が続けられていく。ところでぬえはどうしたのと尋ねるべき者は今喋れなかった。
「では村紗。貴方ごと買わせていただくのでセット価格にしてください」
「百万二十五円」
「自分を安売りしてはいけませんよ」
「お寺、常に資金難なんだよね。私だけ仕事ないしニートだし。働けるなら安くてもいい」
ちなみに幻想郷の一円は外の世界で言うところの一万円ぐらいであるらしい。にちゃんかどっかで聞いた。
「大変ですね。では貴方はうちで雇うということでどうでしょうか? 主にこいしの世話係」
「えっまじで。やりますやります!」
そのときパルスィに電流のような妄想走る。
世話係。なんと親密で秘密な関係だろうか。こいしちゃんをお風呂に入れるために服を脱ぐ手伝いをする。こいしちゃんに自分の使ったスプーンで「はい、あーん」ってする。こいしちゃんが夜一人で厠に行けないと仰るので付き添ってあげる。こいしちゃんと安眠のため添い寝してあげる……。
しかしそれをやるのはぜーんぶ村紗。
わたしじゃない。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゅわっばんにんんややんあっやにゃにゃあやややや」
許せぬ妬ましいわと申しておられる。
が、理解できるのはもちろん地底のムツゴロウさんことサトゴロリさんだけである。
「じゃパルスィは私の添い寝係ということで」
「にゃっ!? にゃん……」
パルスィはもじもじした。
よかったね。
「ちょっと待ったー! それは私が困る!」
さあイチャイチャするぞと意気込んでいた二人の前に立ち塞がったのは、高額のペットが売れてネオニートにジョブチェンジしたのも束の間あっという間にこいしのメイドさんに電撃抜擢された村紗水蜜その人であった。
睨みを利かせる村紗とさとり。
パルスィも嫉妬によって村紗を睨んでいた。
一触即発。あわや三つ巴のキャットファイトか。
みんな仔猫ちゃんになってしまうのか。
素晴らしい。
「待って、世話係ならぱるさんにしてもらいたいな」
そんな折、突然こいしも参戦してしまったので四つ巴である。
暗がりに、怒りを纏う者らが集う。
「クク―――始め、ますか」
嗤い、ゆらり、さとりが踏み出す。
「是非も無し――――」
一閃、煌く村紗の眼光。
呼応するように、他の二人も床を蹴り、宙へ舞う。
そして広がる弾幕。虹の輪のように。
こうして、パルスィの取り合いなのかさとりの取り合いなのかこいしの取り合いなのか村紗の取り合いなのかいまいち判断がつきにくい戦いの火蓋が切って落とされるのである。
もちろんルールはスペルカードによる弾幕ごっこ。一番美しい弾幕を放った者は心も一番美しいのである。
もっと言えば、一番美しい弾幕を放った者が一番性欲が強い。
しかし、ゲームの開始後すぐに問題が起こってしまった。
四人が思い思いの弾幕を一斉に展開するものだから、あっという間にどの弾が何の弾幕だかわからない状況になってしまったのである。
誰一人冷静でないからこういうことになるのだ。
脳符「ブレインフィンガープリント」。
湊符「幽霊船永久停泊」。
花咲爺「シロの灰」。
反応「妖怪ポリグラフ」。
OHルナティック。
これらが全部混ざってしまった。
画面いっぱいに敷き詰められる、弾、弾、弾。
こんな醜い争いもないのだった。
視界を完全に遮る弾幕というかただの幕の下では、どいつもこいつも自分の弾に当たる、コンティニューした直後に死ぬ、グラボがへこくて弾が点滅する、っていうか処理落ちしてる、一人だけこっそり避けきりスペルを発動して無敵、などなど何でもありの様相であった。
要するにしっちゃかめっちゃかだった。
この戦いは、肉弾戦のあんまり強くないパルスィが最初に脱落した。
つまり途中から肉弾戦になっていたということである。
さらにさとりが得意のスタミナ切れで脱落すると事実上、村紗とこいしの一騎打ちとなったが、そこは村紗、必殺技「前髪をそっと捲っておでこにちゅー」を炸裂させるのである。
彼女はイケメンだった。
そういうのに割と弱いこいしは、混乱し思わずハート弾幕を自分に向けて撃ってしまい勝負が決まった。
ズキュウウウン! と聞こえたような気もした。
村紗がイケメンであったこと、こいしが乙女であったことが勝負を決めた。
最後にはイケメンが勝つのである。おまえらざまあ。
こうしてぬえは忘れられた。
一ヶ月後。
こいしに振り回されたり脱がされたり触られたりする仕事にもようやく慣れてきた村紗はふと、ぬえのことを思い出した。
「あいつ、いっつも黒い服に黒いパンツ穿くから見えてるんだか見えてないんだかわかりにくいんだよなあ」
謎の力とは一切関係ないことだったが、まあ思い出せただけいいほうである。
実際パルスィに猫耳が生えたところで、ホントどうでもいいのである。案外誰も困らないし、かわいいので他人にとってはむしろやったね程度のものであった。さとりにいたっては家族が増えるよ、やったね燐ちゃんと喜んでいる。
「ねえパルスィ」
「にゃ?」
一ヶ月経つ間に色んなことがあった。初めてお風呂でさとりに身体を洗ってもらったときは鼻血の吹きすぎで死ぬところであった。初めて一緒に寝た夜は緊張しすぎてもう何も憶えていない。部屋に猫トイレが置いてあったときは絶望もした。「冗談ですよ」とさとりに言ってもらえて本気でめちゃくちゃほっとした。猫だから大丈夫と二階から落とされもした。本当に軽い捻挫で済んだ。鈴の首輪をつけられたときは恥ずかしさと煩さで気が狂いそうだった。自分の得意料理がひじきの煮つけという地味な感じの一品であることを何度も思い出してからかわれた。
そんなパルスィは、もう喋れないことに慣れてしまっていた。必要に駆られると案外、適応できるものである。
ひじきの煮つけ馬鹿にすんなし、とだけは言いたかった。
筆談すれば済む話だった。
村紗は、それでも記憶からこの事件を完全に遺失したわけではなかったようだ。パルスィはもう忘れているんじゃないかなと不安で朝も起きられない毎日だったが、それも今日で終わるのである。
「ぬえに白いパンツ穿かせたくない?」
「にゃ」
「だよね穿かせたいよね」
「にゃーあ」
「じゃあ一緒に行こうか」
なんか違う気もしたが、どうせ拒否権などない。
そんなものはさとりに売られてすぐに破られ喪失していた。
いや拒否権の話なんだけどね。
売られてすぐに破られ喪失していた。
腹いせに、パルスィは自らの髪をチェック柄の青いリボンで括った(意せずポニーテールになったがまあいい)。
そして『ひじきの煮つけ ばかにしちゃダメなの。』とスケッチブックに書いて見せた。
「ごめん」
村紗は素直に謝った。
許した。
半ば強引ではあったが久々のデートである。こっそり買い物でも楽しもうかと思って、二人で手を繋いで旧都に来てみたのだが。
大通りの道端に、やけにでかいレッドUFOが着地しているのが見えてしまった。
いや、よく見るとUFO形の家だった。
「……あぁ」
わかりやすいラスボスのアジトであった。
ついに決戦の時が来たようだった。思い返せば長い道のりだった。これを尋ねて三千里は歩いたんじゃなかろうか。くちぶっえっはなっぜー。とおくっまっでっきこえっるっの。
村紗たちは久々に気合を入れ直した。
ここから先は戦闘になるかもしれない。
だが勝算ならある。油断しなければ勝てる戦だ。
しばし見つめ合い、意思を確認。
いける。
前を向く。奥にいる敵を見る。
「フラーッ!」
「にゃーっ!」
意気揚々と声を上げ、UFO形した家の中へと突撃する。
そこに住んでいたのは、貯金と年金で細々と暮らす老夫婦だった。
十数年前、彼らの孫が成人した。最初は喜んだものの、今では仕事に追われていてなかなか会うこともないという。
ごくたまに帰ってくればお金の話ばかりだと、苦々しい顔で話してくれた。
核家族化が最近の風潮だから親子の別居は仕方ないとはいえ、この歳で夫婦ふたりだけというのはやはり寂しいらしい。身体も悪くなり、記憶力も日に日に衰える。お互いいつ死ぬかもわからない。独りになったら、どうすればよいのやら。
夫婦は、揃って暗い顔をしてお茶をすすった。
「お邪魔しました」
そう言って村紗たちは引き返した。
迂闊。これはぬえの罠だった。
ラストダンジョンは確かに目立つ形をしているものだが、いくらなんでも商店街に普通に建っていることなんてなかなかない。千回戻ってきた渓谷の宿場の地下にあったのを掘り当てちゃったアル! とかいうぐらいにない。にゃ。
そんな話を交わしながら大通りをさらに進む。と、見つけてしまったのはグリーンUFOの家。
村紗は唾を飲んだ。
掘り当てちゃったかもしれないアル。
だがちょっと待ってほしい。二発目も誤射かもしれない。
これもぬえの罠かもしれない。だとしたらまずい。気力をごっそり持っていかれる。
二人は先程の様子とは打って変わって、緊張の面持ちだった。クソ古い石橋を叩くように、恐る恐るといった様子で中へ入っていく。
するとさっきの老夫婦が住んでいた。
やられた! またハメられたのだ!
どうでもいいが、同じ顔をしてるのでどっちがお爺さんでどっちがお婆さんかわからなかった。
「おやおやゆっくりしていってね」と、お爺さんかお婆さんのいずれか一方が、非常にゆっくりした速度でお茶を淹れてくれた。だがこれもぬえの罠かと思うと迂闊に肩の力を抜けない。
聞けば彼らの息子夫婦は現在別居中で、早く離婚だ慰謝料だと少々揉めているらしい。
どうやら別居の原因は息子の不倫にあるようなのだが、相手の女がこれまた胡散臭い派手な女だった。
息子は妻からの慰謝料請求に見向きもせず、女に対し相当の金やアクセサリーなどをつい先日まで貢いでいた(無論妻には内緒である)のだが、あるとき彼から「バックれたよあの女。PHS繋がんねーし。マジありえねーべ。わや」との報告がこの家にかかる。女に騙し取られた額は数百万に上った。
彼は怒りに任せ警察へ相談に行き事情を説明したのだが、これがいけなかった。ある日、警察から職場に連絡が行った際に不倫別居していることが明るみになってしまい、社内は騒然。職場からの見る目が変わってしまったことが耐え切れなくなり、彼は退社せざるを得なくなるまで追い詰められてしまった。退社の報告を受けたのがおとといであった。
彼は女のために借金まで抱えているらしく、もはや一人で妻への慰謝料を払うことはできそうにないという。そこでとばっちりを受けたのがこの老夫婦というわけである。父であるお爺さんが、知らない間に息子の保証人にされていた。
大変そうだった。
お邪魔しました。
思ったよりもぬえは手強いのかもしれない。そう思い始めた巳の三つ。ちょっと休憩をしようと、二人は大通りを右に曲がって細い路地裏を進んでみた。この先には、旧都の知る人ぞ知る名茶店「どろっと」がある。
だがそっちにあった、イエローUFO形の家。
なんでブルーUFOじゃないのかなと思ってつい入ってみると、そこに住んでいたのがブルーUFOだった。
イエロー住まいのブルー。二十八歳。独身。フリーター。
彼は先日、ぬえから「お前使えねえ」と言われ一方的に首を切られたのだという。
元々の不器用さが祟り大学を卒業できず中退した彼はずっとフリーターとして生活していた。若い頃はアルバイト先を転々としていたが、ぬえの元には五年というそこそこ長い期間従事してきた。
しかしある日突然ぬえから「私ルナシューだけどクリアラーだから」と告げられる。一方的なリストラ宣言だった。彼は懸命にすがりつこうとしたものの、ほとんど対話の余地もなく失職させられてしまった。
仕方なく現在は派遣会社と契約を結んだものの、派遣先がなかなか決まらない状況だという。
ひどい話だがあれを上司に選んでしまったという責任も多少あるかもしれなかった。
あるいはよほど切迫していたのだろうか。
おのれぬえ。許さぬえ。
そういう話は勇儀に頼めばいいツテを紹介してくれるかもよと、村紗はアドバイスだけしてその場を去った。
世の中、世知辛い。
二人は疲れていた。路地裏の穴場である茶屋「どろっと」で草だんごをしゃぶって休みたかった。
「どろっと」の奥さんはある有力な地主の家の生まれだったが、みょんなことから当時修行中の身だった今の旦那さんと出会い、あれよあれよという間に婚約までしてしまった。
ところが奥さんの父親である大地主は結婚に猛反発。この家の娘をよりにもよって貧民の団子屋ごときにくれてやるなど言語道断だと怒り狂ったそうだ。
父親は娘のお見合いを数々断行。大商人のボンボン息子とか、ナントカ村の同じ地主の息子だとか、若い貿易商だとかを次々紹介されたが、彼女は聞き入れなかったどころか、怒りに任せてこう言い放ってしまった。
「お父様、わたくしはもう心に決めているお人がいますのよ。どうしてわたくしの愛している殿方ではいけないというのです。わたくしはどうせ女ですけれど、自分の生涯の伴侶ぐらい、自分で決められますわ」
これに父親は激怒。そうして最後の決裂をすると、彼女は、
「それでも、どうしてもダメだと仰るなら、わたくしにも考えがございます」
そう言い捨て、二度と父の前に姿を現さなかった。屋敷には、『わたくし、妊りましたの。』という書置きだけが残った。
そんななかなか「どろっと」した過去をお持ちの奥さんが作る団子は、そうして結婚した旦那さん秘伝の味である。これまた「どろっと」するぐらいに柔らかい触感が、意外に何とも味わい深いのである。
のだが、最近この隠れた名店に問題ができてしまった。
先に気づいたのはパルスィだった。「どろっと」しか見えてなかった村紗は、彼女にくいくいと袖を引っ張られてからようやく異変を知った。
すごく地味な一角であるはずのここに、なぜかUFO形の家が建ってしまったのである。
しかも一際大きい。
どのくらい大きいかというと、あれがラスボスのアジトであろうことが一目見てわかってしまうぐらい大きい。
さらに言えば虹色に輝いていて非常に眩しかった。一体どれだけ電気を使っているのか想像もつかない。
なんかもううんざりだった。しかし見つけた以上入らないわけにはいかなかった。なんでぬえと戦っているのだったか村紗は憶えちゃいないが、これが彼女たちがわざわざ旧都に出てきた理由なのである。
無駄に自動のドアをくぐる。するといきなりクラッカーを鳴らされた。
「おめでとうございます! 貴方が記念すべき一万人目のカm……お客様です! 特典として私の歌をプレゼント!」
悪徳業者という名のぬえのお出ましである。
「うぅつくしいじんせいよぉ~! かぎるぃないよろこびよぉ!」
と思ったら松崎しげるだった。
どっちも黒いから間違った。
メモリーグラス。
じゃないや愛のメモリーだった。
言わずと知れた名曲である。メモリーグラスは堀江淳だ。
歌が終わると、二人は自然と拍手をしていた。
美しい歌声をプレゼントしてもらえたし、悪徳商法とかどうでもいいかな。二人がそう思っていると、彼はいきなり自分の顔をビリビリと破き中からぬえが出てきた。
「ダマされたなダボが!」
松崎しげるから松崎しげるが出てきたのかと思った二人は一瞬意味が分からなかった。
その刹那の隙を突き、ぬえは村紗にパンチを入れようと突進した。
すっごいスピードである。
その速度は宇宙の膨張を連想させるがごとき速さであった。ちなみに重要なので書き加えると、宇宙と書いて「こちやさなえのむね」と読む。
しかし一瞬、ほんの一瞬の判断により、村紗はパンチを歯で受け止めることに成功したのである!
「痛!! ば、馬鹿な、私の攻撃を……」
このときなんと、村紗の歯によってぬえの手の甲の中指の付け根のグーをすると出っ張った山みたいになるとこの肌がガリッと音を立てて削れるという地味に痛いカウンター攻撃が炸裂していた。
ただし村紗の歯も一ミリぐらい欠けたが、幽霊だから気づいたら元に戻っているだろうから大丈夫。問題ない。
「そんな攻撃で大丈夫か、ぬえ。次は私の番っ!」
村紗は立ち上がりそう言うと、目を見開いて右手を振り上げ――――
「これはブルーUFOの分ッ!」
――――振り上げた右手を下ろして、ぬえの頬にキスをした。
「これは老夫婦の分ッ!」
続いて首筋にキスをする。
「そしてこれは、パルスィの分ッ!!」
さらに、さっきつけてしまった手の傷を優しくなめてやる。唾液が染みたのか、ぬえがぴくっとして声を漏らしたが村紗は気にする様子もない。
それよりもパルスィが、自分をまだ忘れていなかったことへの安堵とぬえへの嫉妬との狭間で揺れていることのほうが重要である。
「最後にこれは! 散っていった、松崎しげるの分だッ!!!」
村紗はぬえに唇を重ねた。
美しい人生よ。
限りない喜びよ。
素敵なBGMをバックに、見下ろし型のカメラが回転しながら引いていく。
「ぬえ……この世に大切なのは?」
「愛しあうことだけよ、ムラサ」
いい最終回だった。
パルスィは爆発した。
ぬえが民事裁判にかけられてから数日経った頃。
パルスィの状態は依然治っておらず、まださとりのペットとして残飯を食わされ続けていた。いい加減プライドがずたずたである。むしろ、死にはしないことを考えると一生これでいいような気がしてくる始末だった。
結局ぬえは犯人でないただの悪徳商人だったらしく、真犯人は未だ目星さえついていない。
当然だった。彼らは、初めから彼女らに捕えられるような相手ではない。
よもや事件の真犯人があの秘密結社フリーメイソンだとは、彼女たちには知る由もないのである。
最後に少しだけ説明しておこう。
彼ら秘密結社は、来たる二〇一二年のある日に、マヤちゃんという幼女の予言を借りて人類を滅ぼし、新人類(New Type Jinrui)の繁栄を目論んでいるのである。
新人類(New Type Jinrui)とは、薬品によって人と動物の遺伝子をなんか融合みたいなことをさせ誕生する全く新しい人類である。
動物の特徴はよく耳や尻尾として現れ、肉食動物並みの強い運動能力を備えながら、理屈はよくわからないが高い免疫力やめちゃくちゃ高度な知能を持つなんかとにかく凄い人類が誕生するのでそいつらに次の時代を任せましょうということなのだ。
薬品の開発は、かの有名な英霊である諸葛孔明氏も関わった一大プロジェクトである。かつてMANJUUの開発で培った経験をもとに開発が進められていったと、彼自身の著書である「SUISHI NO HYOH!!」(227年/漢中王出版社)には書かれている。
その薬品の何番目だったかの実験体として選ばれたのが鷺澤美咲という当時都合上十八歳以上の少女だったのだが、この辺でなんかよくわからん時空の歪みにより間違ってパルスィに投与されてしまったのである。
誰にだって間違いぐらいあります。
ミスをした責任は、ミスをした本人が一番わかっています。ちょっとの間違いでいつまでもガミガミ講釈を垂れることをせず、ほどほどにして次の仕事を任せてあげてください。
それが部下の能力を伸ばす近道です。
すると鳩山さんのようになれます。
もっともフリーメイソン内部では、この投薬の失敗について、彼らの目論見を阻止せんと暗躍するエージェント組織「Hihoo! JAPAN」の仕業だという見解で一致している。この戦いの行方は筆者にも予想がつかず、今後の動向に、筆者も目が離せない。正直、調子に乗って上四段落ぐらいすごい無駄なこと書いたなーって思ってる。藍消しといてね
さて、残念ながらそろそろいい加減寝る時間だし幻想郷は相変わらず平和だし、何より締切りがいい加減息がかかって恥ずかしいぐらい近づいているので、ここで筆を置かせていただくことにして、さっさと寝ようと思う。
めでたしめでたし。
以上
推敲は藍がやっておくこと!
ボケが多くて追いつかないw
次にイメージしたのはなんだかもう笑い声の抑え方を忘れたまま推敲する作者の姿。
お次のイメージは「ヘイ! へい! ヘイ!」とタグをつけまくる作者の姿。
そして「ロックンロォォォル!」と作品名を入力して投稿する作者の姿。
つまりは混沌。私には真似できない領域。妬ましや。
>水橋パルスィに猫耳が生えてにゃーとしか喋れなくなったという通称「猫橋事件」
…kwsk、ぜひともkwsk
猫パルスィが可愛すぎるのがいけない
そのときの猫の声は草柳さんだったが
にゃー
こんなとんでもないものが2000点行ってないのはどう考えてもおかしいよ
めっちゃ良かったです