「ふんふふーん」
地上に戻ってきていたこいしは、姉であるさとりの部屋にご機嫌な様子で向かっていた。部屋の前につくと、少し助走をつけ、扉を突き抜けるような勢いで部屋に飛び込んだ。
「お姉ちゃん!……ってあれ?」
こいしはいつもは椅子に座って退屈そうにしているさとりを探したが、部屋の中には見当たらなかった。
「あれれ?お姉ちゃんがいないなんて珍しい……これは事件だわ!」
こいしは目を輝かせ名探偵のように指を立てた。
その後腕を組み、誰もいない部屋の中をゆっくりと歩く。あたりを見渡していると、あるものがこいしの興味を引いた。
「むむむ!これは!」
こいしの目にとまったものは紅茶。それもただの紅茶ではない。湯気が出ているのだ。
つまり、さとりが部屋を出て、さほど時間が経っていないことを意味する。
「紅茶が残っているってことはすぐに戻ってくるのかな?」
ホッとしたこいしは、ふかふかのソファーに腰をかけて背筋を伸ばす。
あくびをしたあと、あたりを見渡した。
今度は、さとりを探すためではなく部屋の中を物色するために。
「そういやフランちゃんは、お姉ちゃんの部屋で酷いスペルカード名が羅列された本を見つけたって言ってたなぁ。……何かお姉ちゃんの黒歴史とかないかな」
ニヤリと笑うとソファーから飛び上がるように立ち上がり、机の横にある本棚へ小走りで近づいた。
本棚にあるたくさんの本の中で上の方にあった、一冊だけ分厚く丁重に製本された本。こいしの興味を引くのには充分だった。
「なんだろこれ??」
本を取ろうとしたがこいしの身長からすればその場所は高く、ギリギリ届くかどうかだ。
「あ〜後少しなのにー!」
ピョンピョンと飛び跳ね、届かないこと苛立ちを感じていた。
少し頬を膨らませ、思いっきりジャンプした。
「うわっ!」
結果は本棚ごと倒れてしまい、本の山へ埋まってしまった。
「イテテ……もー!建て付けが悪いんだから!」
帽子をかぶり直して、怒ってはいるものの満足そうに本の山から見たかった本を手に取った。
「立派な本だけどなんの本だろなー」
その本は、他の本のように紙を紐でくくりつけたような粗末なものではなく、幻想郷には珍しい製本された普通の本だった。
こいしがドキドキしながら表紙を捲ると、見た感じ日記のようだった。
「お姉ちゃんの日記ね」
最初のページを見て確信した。
なぜなら、日記なのに自己紹介をしているからである。
日記に書きなれていない姉に呆れながらも、内容が気になっていたこいしの手は無意識に次のページへと伸びていた。
だが、何ページめくっても書いていることは日常的なこと。
自らの妄想上の設定や、自らをモデルにしたオリキャラのようなものは書いていることを期待してたぶん、普通すぎる内容に落胆した。もう読むのをやめようかな……と、思ったときある日付が目についた。
5月14日
こいし。
「えーと……面白いと思ってるのかな?」
急に出てきた自分の名前。おそらく日付とかけているのだろう。
苦笑いしながら、次の5月14日を見た。
5月14日
こいし。
また次の年も。
5月14日
こいし。
薄気味悪く感じるような内容だった。しかし、こいしは逆に興味を持った。
「もしかして暗号かしら?」
再びスイッチが入ったこいしは、帽子のへりをクイッとあげ、恍惚したような目つきでさとりの日記に目を向けた。
「んーまず、5月14日の内容を全部見てみよ」
5月14日は全部で124個もあった。そして、そのうち63個はたった3文字『こいし』と、書いている。
残り61個は他と変わらない、普通の内容だった。
63個全てに共通するのがある時を境目に『こいし』と書かれなくなっている。
この分け目の部分の日記の内容は少し変わっていた。
7月2日
私はショックを受けている。ご飯もろくに喉を通らず、ペット達に心配をかけてしまっていてなんとも情けない。日記を見ると昔を思い出してしまいそうだからしばらく日記は辞め、現実と向き合いたいと思う。
「お姉ちゃんがそんなにショック受けたことあったかな?んー……記憶にないなぁ」
この文章を疑問に思いつつも、次にこいしは、最初に読み飛ばしたある部分に目をつけた。
「もしかしたら、最初の自己紹介に何かヒントが……」
5月14日
いい機会なので日記を始めたいと思う。私、古明地さとりは地霊殿の管理という立場ではあるがとくに面白い内容が書けるとは思ってはいないが、一応毎日書いていきたいと思う。
「書き始めた日も5月14日?お姉ちゃんはそんなに私のことが好きなのかな?」
こいしは頬を緩ませ、ご機嫌に少し体を揺らした。
しかし、下にある絵を見て笑顔は消える。
「……この絵」
その絵では2つのサードアイがこちらを見ていた。こいしの本を持つ手が震える。
その時、急に扉が開いた。
こいしは咄嗟のことに驚き、能力を使ったあと、読んでいた本を本の山へと投げ捨てた。
「はー……なんでお空の話に私も付いて行かなきゃいけないのよ。紅茶が冷めちゃったじゃないの」
「いやー、だってさとり様はここの管理者じゃないですか。紅茶ならすぐ温めれますよ?」
「やめて。この部屋が火の海になるのが目に見えるわ」
部屋に入ってきたのは、さとりとペットのお空。
「なんで本棚が倒れてるのよ……」
さとりは見るからに落胆している。こいしは心の中で(無意識だから仕方ないと割り切ってもらおう)と、考えていた。
さとりはそんなことを知る由もなく、ゲンナリとした表情で本を拾っていた。
「まぁまぁさとり様。手伝いますから落ち込まないで」
「何冊か折れてるし最悪……」
さとりはこいしがさっきまで読んでいて投げ捨てた本を拾い上げ、自分の机の上に置いた。
「あれ?さとり様?その本はしまわなくていいんですか?」
「これは日記なの。せっかくだから今日の分を書いとくわ」
こいしは今日が5月14日だということを思い出した。
さとりに気づかれないように、こっそりと書いているすぐ後ろに移動する。
5月14日
今日は、お空を連れて守矢神社へ向かった。相変わらずお空の記憶力で困ったものだ……
「もー!さとり様やめてくださいよ!」
「実際のことじゃない」
「そーですけど……」
「まぁ、いいわ。早いところ本棚を修理するわよ」
「あー!待ってくださいよ!さとり様〜」
さとりが部屋を出たのを確認すると、能力を解いた。
そしてもう一度日記に目をやった。
普通の内容だ。こいしはそう感じていた。
では、なぜ最初の方はこいしと書いていたのか?
なぜ1年の間日記を書いていなかったのか?
なぜ、その1年から先は普通の内容だったのか。
こいしは自らのサードアイを触りながら考える。
そして、何か分かったかのように日記に書いてあった文字を消し、新たに文字を書いた。
5月14日
こいし。
地上に戻ってきていたこいしは、姉であるさとりの部屋にご機嫌な様子で向かっていた。部屋の前につくと、少し助走をつけ、扉を突き抜けるような勢いで部屋に飛び込んだ。
「お姉ちゃん!……ってあれ?」
こいしはいつもは椅子に座って退屈そうにしているさとりを探したが、部屋の中には見当たらなかった。
「あれれ?お姉ちゃんがいないなんて珍しい……これは事件だわ!」
こいしは目を輝かせ名探偵のように指を立てた。
その後腕を組み、誰もいない部屋の中をゆっくりと歩く。あたりを見渡していると、あるものがこいしの興味を引いた。
「むむむ!これは!」
こいしの目にとまったものは紅茶。それもただの紅茶ではない。湯気が出ているのだ。
つまり、さとりが部屋を出て、さほど時間が経っていないことを意味する。
「紅茶が残っているってことはすぐに戻ってくるのかな?」
ホッとしたこいしは、ふかふかのソファーに腰をかけて背筋を伸ばす。
あくびをしたあと、あたりを見渡した。
今度は、さとりを探すためではなく部屋の中を物色するために。
「そういやフランちゃんは、お姉ちゃんの部屋で酷いスペルカード名が羅列された本を見つけたって言ってたなぁ。……何かお姉ちゃんの黒歴史とかないかな」
ニヤリと笑うとソファーから飛び上がるように立ち上がり、机の横にある本棚へ小走りで近づいた。
本棚にあるたくさんの本の中で上の方にあった、一冊だけ分厚く丁重に製本された本。こいしの興味を引くのには充分だった。
「なんだろこれ??」
本を取ろうとしたがこいしの身長からすればその場所は高く、ギリギリ届くかどうかだ。
「あ〜後少しなのにー!」
ピョンピョンと飛び跳ね、届かないこと苛立ちを感じていた。
少し頬を膨らませ、思いっきりジャンプした。
「うわっ!」
結果は本棚ごと倒れてしまい、本の山へ埋まってしまった。
「イテテ……もー!建て付けが悪いんだから!」
帽子をかぶり直して、怒ってはいるものの満足そうに本の山から見たかった本を手に取った。
「立派な本だけどなんの本だろなー」
その本は、他の本のように紙を紐でくくりつけたような粗末なものではなく、幻想郷には珍しい製本された普通の本だった。
こいしがドキドキしながら表紙を捲ると、見た感じ日記のようだった。
「お姉ちゃんの日記ね」
最初のページを見て確信した。
なぜなら、日記なのに自己紹介をしているからである。
日記に書きなれていない姉に呆れながらも、内容が気になっていたこいしの手は無意識に次のページへと伸びていた。
だが、何ページめくっても書いていることは日常的なこと。
自らの妄想上の設定や、自らをモデルにしたオリキャラのようなものは書いていることを期待してたぶん、普通すぎる内容に落胆した。もう読むのをやめようかな……と、思ったときある日付が目についた。
5月14日
こいし。
「えーと……面白いと思ってるのかな?」
急に出てきた自分の名前。おそらく日付とかけているのだろう。
苦笑いしながら、次の5月14日を見た。
5月14日
こいし。
また次の年も。
5月14日
こいし。
薄気味悪く感じるような内容だった。しかし、こいしは逆に興味を持った。
「もしかして暗号かしら?」
再びスイッチが入ったこいしは、帽子のへりをクイッとあげ、恍惚したような目つきでさとりの日記に目を向けた。
「んーまず、5月14日の内容を全部見てみよ」
5月14日は全部で124個もあった。そして、そのうち63個はたった3文字『こいし』と、書いている。
残り61個は他と変わらない、普通の内容だった。
63個全てに共通するのがある時を境目に『こいし』と書かれなくなっている。
この分け目の部分の日記の内容は少し変わっていた。
7月2日
私はショックを受けている。ご飯もろくに喉を通らず、ペット達に心配をかけてしまっていてなんとも情けない。日記を見ると昔を思い出してしまいそうだからしばらく日記は辞め、現実と向き合いたいと思う。
「お姉ちゃんがそんなにショック受けたことあったかな?んー……記憶にないなぁ」
この文章を疑問に思いつつも、次にこいしは、最初に読み飛ばしたある部分に目をつけた。
「もしかしたら、最初の自己紹介に何かヒントが……」
5月14日
いい機会なので日記を始めたいと思う。私、古明地さとりは地霊殿の管理という立場ではあるがとくに面白い内容が書けるとは思ってはいないが、一応毎日書いていきたいと思う。
「書き始めた日も5月14日?お姉ちゃんはそんなに私のことが好きなのかな?」
こいしは頬を緩ませ、ご機嫌に少し体を揺らした。
しかし、下にある絵を見て笑顔は消える。
「……この絵」
その絵では2つのサードアイがこちらを見ていた。こいしの本を持つ手が震える。
その時、急に扉が開いた。
こいしは咄嗟のことに驚き、能力を使ったあと、読んでいた本を本の山へと投げ捨てた。
「はー……なんでお空の話に私も付いて行かなきゃいけないのよ。紅茶が冷めちゃったじゃないの」
「いやー、だってさとり様はここの管理者じゃないですか。紅茶ならすぐ温めれますよ?」
「やめて。この部屋が火の海になるのが目に見えるわ」
部屋に入ってきたのは、さとりとペットのお空。
「なんで本棚が倒れてるのよ……」
さとりは見るからに落胆している。こいしは心の中で(無意識だから仕方ないと割り切ってもらおう)と、考えていた。
さとりはそんなことを知る由もなく、ゲンナリとした表情で本を拾っていた。
「まぁまぁさとり様。手伝いますから落ち込まないで」
「何冊か折れてるし最悪……」
さとりはこいしがさっきまで読んでいて投げ捨てた本を拾い上げ、自分の机の上に置いた。
「あれ?さとり様?その本はしまわなくていいんですか?」
「これは日記なの。せっかくだから今日の分を書いとくわ」
こいしは今日が5月14日だということを思い出した。
さとりに気づかれないように、こっそりと書いているすぐ後ろに移動する。
5月14日
今日は、お空を連れて守矢神社へ向かった。相変わらずお空の記憶力で困ったものだ……
「もー!さとり様やめてくださいよ!」
「実際のことじゃない」
「そーですけど……」
「まぁ、いいわ。早いところ本棚を修理するわよ」
「あー!待ってくださいよ!さとり様〜」
さとりが部屋を出たのを確認すると、能力を解いた。
そしてもう一度日記に目をやった。
普通の内容だ。こいしはそう感じていた。
では、なぜ最初の方はこいしと書いていたのか?
なぜ1年の間日記を書いていなかったのか?
なぜ、その1年から先は普通の内容だったのか。
こいしは自らのサードアイを触りながら考える。
そして、何か分かったかのように日記に書いてあった文字を消し、新たに文字を書いた。
5月14日
こいし。
なぜかぞくっと来た…。