Coolier - 新生・東方創想話

東方if緋想天「幽明の川渡し」

2010/03/30 13:39:54
最終更新
サイズ
7.5KB
ページ数
1
閲覧数
864
評価数
4/17
POINT
500
Rate
5.83

分類タグ

※※※

妖怪の山は遠い。頂上ならば尚更だ。

物理的に遠いのもあるが、それよりも阻害されることによる遠さのほうが大きい。
だから普通の人間は山を遠目に眺めるだけで済ませるのだ。遠くからでも、春の萌える新緑も、秋の見事な紅葉も見えるから、別に近くに行く必要もない。

「だけど私は普通ではないから、当てはまらない」

山との境界に流れる川を沿いながら私は呟いた。
山の近くという人気のない土地柄に加え、川というのは霊が近付きやすい場所だからか、流石の暑さも気持ち和らいでいるように感じる。
もし山の上に行っても何の解決もなければ、しばらくここ辺りに住んでみるのもいいかもしれない。

「うーん、適度な霊に適度な気温。水のせせらぎがまた体を冷やしてくれるから絶好の避暑地さね」

「なんと」
先客がいた。
それは木陰に寝転んだ、赤い髪を二つに結んだ派手な少女だった。その髪も容姿も風格も派手だったが、何よりも派手なのは、枕代わりにしているものが波打つ刃をした巨大な鎌というところだ。
川岸の木に括られているのは随分とくたびれた舟だったが、人気のないところなのだから彼女の持ち物なのだろう。
川と舟と鎌、三つ揃ったら誰もが思わず考えてしまう。
「死神がいるなんて、ここは三途の川なのか?」
「いやいや、三途の川はもっと向こうだよ」
私に気がついた少女が顔を上げながら、ひらひらと手を振って川のことだけを否定した。
「人が来ないからさ、格好のサボり場所かと思っていたのに。お姉さんは一体何の用でこんな酔狂な処へ来たのかい?」
この死神はどうやらサボっていたらしい。
定職がない私には何か言う権利はないかもしれないが、雰囲気からして彼女はだいぶ前からここにいるようにみえる。働けと言いたい。
「ちょっと上まで。用事があるから」
「妖々跋扈の山に用とは、最近の人間は本当に命知らずだな。そのまま上の冥界にまで行ってしまうよ」
「それは、ない」
もう私には死の世界との縁が無くなってしまった。心遣いは有り難いが、それは無用のものだ。
一応彼女の休憩時間を邪魔するのもいけないので、軽い会釈とともに立ち去ろうと思ったのだが、一歩下がった途端に少女は慌てて立ち上がって私へ鎌を向けてきた。
「ちょいと待ちなさいな、お姉さん。無縁塚ではないと言えども、寿命でもないのにわざわざ死に逝くのを見過ごすわけにはいかない。それにさっきから感じてたんだが…お姉さん、なんかあんたおかしいよ?」
寿命はあるのかい?――と心臓を指差して、暢気な顔を一転させた死神は私に問い掛けた。この流れは弾幕遊びになることは確実だったけれど、私が用のあるのは山の上であってここではない。立ち止まる訳にはいかなかった。
「生憎、私はもう永遠に閻魔様にお目にかかる予定はなくなってしまったんでね…死神らの世話にはならないよ」
まぁ誰だって普通は死にたくはないさね。磊落な笑みを浮かべながらそう言った彼女は、巨大な刃であるにも関わらず軽々と鎌を持ち上げて振りかぶる。聞く耳を持たないとは彼女のことだろうな。
いつの間に出て来たのか分からなかったが、ひやりと冷えるのを肌で感じて初めて川霧が辺りを覆っていることに気がついた。今までよりも、さらに冷気と霊気が強まっている。もう足下は完全に霧に包まれ、周りも白い靄に滲んでしまう。相手との距離感がとりにくく、少しやりにくい場所だ。
だが相手を見ると、鎌を振りかぶったまま動かない彼女はさっきと変わらない笑みを浮かべていた。川霧なんて気にもしないらしい。それだけ川霧が身近にあるものだからだろうか。
「死神にはいくつかの仕事がある。閻魔様の書記、地獄の受け付け、舟渡し…そして輪廻転生から外れたやからに寿命をもたらすことさ。私は舟渡しが本職なんだけどね…たまには違うことをしてもいいだろう」
「私が輝夜を殺せたら、成仏もいいかもしれないけどね…まだ私は死ぬ気はない!」
「うちん処の閻魔様の説教を聞けばその気も変わるさ!!」
言うと同時に、彼女は勢いよく振り下ろした鎌で切り取った風を、私へ投躑する。
轟、という音よりも速く触れるものすべてを切り裂きながら進むそれを、私は炎の渦を作ることで生じた気流で打ち消した。
ある程度距離をおいて上空から札を投げようと飛んでみたが、見下ろしたその視界に何かが急に現れた。それは鋭い速さで私の額に向かって突き進んで来たために、私は慌ててそれを蹴り上げる。
「なんだこれ…?」
蹴ったついでに、落ちて来たものを受け止めてみると、それは六銭だった。
なんでここにこんなものがと考える前に、勝手に反応した身体が横へ飛びすさり、私のいた空間にその問い掛けの答えが突き抜けていた。
六銭が飛んで来た方へ振り向くと、なんと小枝を抉り木に突き刺さるほどの勢いで、小銭を次々と死神が放り投げている。死神とは、ここまで非常識なものなのだろうか。
「隙だらけ!!御命頂戴!」
「おま…金を粗末に扱う奴は馬に蹴られて地獄へ戻れ!!」
私の叫びも意味はなく、まるで水飛沫のように鈍い金色の弾丸が乱れ飛ぶ。
咄嗟の防御で身体の周りに炎を巡らせ、小銭を弾く。きらきらと反射する硬貨がその型をとどめられず熔けてゆくのがみえた。
その流れのまま、視界を炎で覆った私は死神に一気に近付こうと飛び出した。
炎に驚いて私に気付かない彼女の顔がすぐ側にまで狭まる。だが彼女に向かって突き出した拳は空をきるだけだった。とてもじゃないが外すような距離ではないのにと、私の頭が混乱する。
「あっぶないなー…距離を操らなければ焼け焦げていたよ」
そんな私を冷やかす声が、水辺に浮いた死神から聞こえてきた。汗をふく仕草をしているが、そこからは余裕の雰囲気が滲んでいる。
そういえば慧音から、三途の川には一定の距離はなく、案内人に払う賃金…つまりは生前他人に与えた金額によって距離が変わるのだと聞いたことがある。この死神の能力は恐らくそれと関係する、というかそのまんまだろう。
「あんた、ほんとに人間かい?不老不死っぽいし、人間が持つにはちょいと過剰な力も持ってるし」
「何を言う、私は正真正銘、ただの人間だよ。これは長寿で築き上げた力だ、どっかの巫女やらとは違う」
「あはは、あれは反則だから…ほら休んでる暇ないよ、っと!!」
さっきまで自分の仕事をサボっていたやつが何を言うか。
そう言い返したいところだったけど、彼女がどこからともなく取り出した舟に乗って、水も何もない陸地へ向かって突っ込んでくるのを見てそれどころじゃなくなった。
「む、無茶苦茶だろ、それは!!」
防御のために放った弾幕をものともせずに、ひたすら直進してきた彼女は、もう一つの弾と言ってもいい。
後ろへ飛びすさろうとしても何故か距離は遠ざからないし、おまけに小銭を左右にばらまくものだから、私に逃げ場はなくなっていた。
こうなったら力任せだ。
高圧、高密度の緋色の壁を彼女との間に作りだす。同時にその壁から作り出した炎の光弾を無制限にとにかく放ちに放った。
「その程度で止めようなんて、この小野塚小町をナメてもらっちゃ困るよ。止められるのなら止めてみな!!」
初めて名前を聞いて、一文字なければ昔有名だった歌人の娘だなぁと場違いなことを考える。その間にも、小野塚小町は鎌を振るって風を巻き起こし、私の弾を弾きながら近付いてきた。
もう、彼女を止める術がない。

死歌「八重霧の渡し」

「どーん!!」

陸地に上がったというのに少しも衰えなかった速度で、小野塚小町は私を舟で完膚なきまでに轢き殺した。
木の茶色だけだった船の先端に、新鮮な緋が付着する。骨が砕け、臓腑が潰れる音がした。
「って、あれ?随分と抵抗がなかったようなー…」
「…止めたぞ」
一度だけ彼女の声が遠のくが、すぐさま身体が再生されて耳も正常に戻る。
服までは再生できないため血染めの服ままだが、ゆっくりと立ち上がる。

リザレクション

一度死に、再び生き返った私はしっかりと船を掴み、小野塚小町を睨み付けた。
「この舟、よく燃えそうだなぁ?」
「うわっ不老不死を使うなんて卑怯な…てか舟はやめて!!支給物なの!!サボって燃やしたなんてことバレたら」
「一度殺されたお返しだ、閻魔様にでも灸をすえられてこい!!」
「きゃーんっ」
一気に出した最大出力の炎は、瞬く間に舟を炎柱へ変えてしまった。
有り余る炎の力はそのまま川霧さえも吹き飛ばし、後に残るは燃えかすさえもなくなった舟の煙と黒焦げになった死神だけだった。

×××

「無茶苦茶はどっちだよぅ…またあの小言地獄に墜ちるのか…折角開放されたと思ったのに」
「えてして自業自得だよな」
煙を名残惜しそうに眺める小野塚小町に、私は取りあえず率直な意見を述べておいた。
閻魔様はいまだにお目にかかったことはないが、彼女の様子から見るにかなりの説教好きなようだ。これからもできる限り、会いたくはないものである。
「もういいや…こうなったらバレるまで休暇をとることにしよう…」
「いいのか、それで」
よくはなさそうだが、これ以上一緒にいると私まで説教に巻き込まれてしまうかもしれなかったので、早々に退散することにした。
どうにも蒸発した川霧のせいでか、せっかくの川辺も炎天下では涼しいどころか蒸し暑くなってしまった。

3rd stage clear!!
連続投稿です。
書いた流れで妹紅はリザレクションしてますが、これゲームだったらピチュりで残機減るカウントだと思います。
schlafen
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.200簡易評価
11.60名前が無い程度の能力削除
中身は悪くないと思う。
ただ、この手の緋想天ifの作品だったら、最初から最後までを一つの作品として長編に収めた方がいいかと。
12.80名前が無い程度の能力削除
なんだってこう問答無用で襲いかかって来る奴が多いんだw
幻想郷って怖ぇ!
15.70ずわいがに削除
流石は「勝手に話を進める」ことに定評のある小町さんだw
17.90名前が無い程度の能力削除
小町ってすげえぶっ飛んでる子なんだなwこうしてみると