Coolier - 新生・東方創想話

A Puppet Show ?

2005/01/30 06:38:51
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(環境音・喧噪に近い少女達の声)



私は蓬莱人形である。
名前はまだ無い。
いや、あるけど無い。無いと言ったら無い。
創り主には勿論の事、私を知る者すべてが私の事を蓬莱人形、と呼ぶが
蓬莱人形、などと言うのは『名前』のカテゴリには入らぬ。
名前と言うより種族、もしくは種別とでも言えばいいのだろうか。
つまり仏蘭西人形だの倫敦人形だのと同じ、個体識別の為の『名前』ではなく
ある集団に属する大同小異のモノを纏める為の『ラベル』に過ぎない。
私に向かって蓬莱人形などと呼びかけるのは、あの黒白や紅白に向かって
おいそこの人間、と言うのとほぼ同義の行為だ。
とにかくこれは私の根本的な部分のアイデンティティを現世に繋ぎとめる鎖にはなり得ず、
それゆえに私は『自分は蓬莱人形という名前である』とは認知しない。


……ああ、そうなるとアンタの「上海人形」というのも『名前』ではない、と言うことになるか。


と。


有象無象で詮無い思考を徒然に垂れ流した先、私の目の前にいる相手。
私と同じく確然としたヒトのカタチを持つ、しかし厳然としてヒトならざるモノ。
上海人形、とか呼ばれているヒトガタが、数瞬の間を置いてから、ゆっくりと『言葉』を紡いだ。


(いや、しかし蓬莱人形……とりあえず今は便宜上そう呼ばせてもらう……
もしマスターが実際に「蓬莱人形」を貴方の『名前』として創造していたとしたらどうなる。
とすると、そもそも名前などと言うのはあくまで「第三者によって付与される」ものであり
本人の認知するしないはこの際関係なく、考慮される必要も無いのではないだろうか?)


何を言っている。
例えそうだとしても蓬莱人形と言うのは厳密な意味での名前にはならない。
私の「蓬莱人形」しかり、アンタの「上海人形」という『名前』……いや、『呼ばれ方』しかり、
言うなれば……そうだな、ちょうど先程マスターが私達を連れて外出なされただろう。
その道中でどこかの里の子供たちが虫取りに興じていたのに気が付いたか?
やれ僕はトノサマバッタを捕まえた、だの、俺はモンシロチョウを捕まえただのとはしゃいでいた。
そして蓬莱うんぬん上海うんぬんと言うのは、その「トノサマバッタ」「モンシロチョウ」などと同種なわけだ。
もう一度言う、それらは決して個体識別の為に付けられた『名前』では無い。
恐らくマスターが私とまったく同じ形と性質を持った人形をもうひとつお造りになったとしたら
どちらも同じく「蓬莱人形」とだけ呼ばれるはずだ。
そうだとしたらその時点で既にそれは『名前』ではなく、先程も言ったが『種別』だ。
まさか「プリティホーライ一号」「ダンディホラーイ二号」などと呼ばれる事は有り得まい。


(……確かにその通りかもしれない。……しかし……。
いや、論点をズラす様で悪いが、それについて何か問題でもあるのか?
まさか名前が無ければ自分を見失ってしまう、などと言い出すわけではないだろう?
貴方はアイデンティティと言っていたが、多少は存在の本質に関わる部分とは言えども
他者からの呼び名一つにそこまで振り回される事などそうそう無い筈。
この世のあらゆるモノは、他者からその存在を認知されて初めて「在る」事が出来るようになるとは言うが
結局のところ、自己同一性だの存在の証明だのはあくまで本人次第でどうとでもなるモノだと思うのだけれども)


アンタ、まだワカッてないな。
この幻想郷における『名前』とは、凄まじい影響力と呪術的な拘束力を持ち、
そして何よりそのモノの本質に関わる重要なファクターだ。
名前が無い、というのは要するに存在しないのと同義といっても過言ではない。
それは私達がこの話をする切欠となった、あの門番を見てみればよく分かるだろう?
何の因果か彼女は元来持っていた筈の名前を失い、よく分からない渾名……
いや、仇名とでも表現すべきか。それで呼ばれる様になってしまった。
その後の経過は御覧の通り、もはや誰も彼女の名前など覚えてないではないか。
もともとちゃんとした三面ボスで名前があって、しかも人気だってなかなか高いのにあの扱い、
ろくな描写の無い私達がその様な目に遭ったとしたら……ああ、考えるのも恐ろしい。
くわばらくわばら。せんすいせんすい。烈蹴拳烈蹴拳。


(……三面?人気?烈蹴拳?……蓬莱……貴方、一体何を言って……)


ああもう、いちいちそんな話の枝葉末節を気にするな。
アンタはいい、マスターに気に入られてる上に此度は最萌本戦に出場と言うじゃないか。
そう言えば上海アリス幻樂団ってアンタとマスターの『名前』が仲良く並んで入ってるな。
まったくもって羨ましい、嫉妬に狂ってついうっかり自分じゃなくてアンタの首吊ってしまいそうだ。


(最萌!?幻樂団!?ちょっと待て、なんか話があらぬベクトルへとそれ始めたぞ!?)


しかも良く考えたらいつぞやの宴会騒ぎの時アンタちゃっかり首吊られてただろ。
私なんぞマスターの役に立ちたくて不気味な色のレーザーぶっ放すので精一杯だったというのに
他人形(ひと)のお株まで奪いやがって、ひきちぎるぞこのチョークスリーパー野郎。
でも首の垂れ下げ方がちょっと甘かったな、ベストは地面と背筋を結ぶY軸に対して115度の角度だ。
ちなみに時たまマスターの方を向いて目をガッと見開き「脳がNoNoパンキッシュ」と唱えると尚良し。


(脳がNoNoパンキッシュ!?何その咒詛!?)


そう言えば今気付いたんだけどアンタと私って随分作りが似てるな。
……いや待てよ、これは……しかし……ああ、そうか、そうだったのか。
あの宴会騒ぎの時にレーザー発射するアンタと自分を見てから
ずっと心に引っかかってた、ささやかなわだかまりが今ようやく解けたよ。
あのさ、あんまりこういう事言いたくないんだけどもしかして私達って
単なるドットの色変えによって生み出された量産品であり
それこそ吹けば飛ぶよな悲しき有象無象だったんじゃないか?


(やめろよ!って言うかドットって何!?)


百歩譲ってもせいぜい服を着せ替えてるだけだな。
まったく、今の今までそんな事にも気付かずに
やれ名前がどうだのアイデンティティがなんだのと
それっぽい事ほざいてた私が途端に哀れに思えてきたよ。
いっそ首でも吊ってもうこれ以上生き恥晒すの止めにしようかな、ハハ。


(いや、それごくありふれた日常のワンシーンだから)


ああ、何と言うことだ。
私は尊厳を保ったまま美しく散る事も許されぬと言うのか。
マスターは一体何を考えて私をお造りになられたのだろう?
もうこうなったらどこぞの哀れな魔彩光のナントカ人形みたいに
愛するマスターに敵めがけてブン投げてもらって華麗に爆散し
せめて少しでもマスターの役に立ってから消え去りたいよ。
って言うかアンタ、あれだけの爆発を幾度と無く巻き起こしても
こうやって普通に動いてるんだから凄く頑丈だよな。
首とか折れたりしないのか。


(余計なお世話だよ!首折れるってそれ貴方だけには言われたくないよ!)


確か……アーティフルサクリファイス、だったかな。
私最初あれの事『アーティスティックサクリファイス』って勘違いしててね。
ああ確かに芸術的だ、流石は私達をお造りになられたマスター、素敵って思ったものだ。
そしてアンタの悲劇的ながらもどこか誇らしい姿には正直感動したな。
すごくキレイだったよアンタ、ドライフラワーみたいで。


(パッサパサなの!?触れれば砕ける骸の風情なの!?いや、確かにいつも危うく灰燼と化しかけてはいるけど!)


とは言え……何事にも例外というものは存在している。
これもどこぞの紅魔の館に関わる話だが……あそこの侍女長が居るだろう。
彼女は今でこそ十六夜咲夜などと名乗っているが、もともとは別の名前だったそうだ。
何かを名付ける、と言うのは相当な力が無いと出来ない事であり、
生半可な存在がその様な事をやっても、それによって付けられた名前は
所詮付け焼刃であり大して出来の良くないメッキ細工にすぎぬ。
そこへ行くとあの侍女長に「十六夜咲夜」という『名前』を与えたのは
運命を操る紅い悪魔、夜の王たる吸血鬼であるかのレミリア・スカーレットと言うではないか。
彼女はそこらの吹けば飛ぶよな妖怪だの人間だのとは存在の強度から何から全てが違う。 
侍女長は人間だから、もともとの名前を付けたのも普通の人間の筈。
ならばあの紅魔が侍女長に与えた「十六夜咲夜としての運命」に逆らう事など出来ない。
他の存在に対する影響力のレヴェルが比べるのも失礼なほどに段違いなのだから。


(急にまたシリアスになってるし……もしかして情緒不安定なんじゃないか?
うん、その線は捨て切れないな。年がら年中、四六時中首吊ってるんだし
脳への酸素供給が断絶している可能性は非常に高いだろう。脳無いけど)


そうそう……他者に与える影響といえばアンタ、あの宴会騒ぎの時
首吊られるだけじゃ飽き足らず、これでもかってほどに
マスターのとなりで可愛さをだだ漏れにして振り撒きまくってたな。
それはアレか?知らず知らずの内に人間の深層意識に巧妙に入り込む
サブリミナル的手法を用いた近代的かつ画期的な自己アピール大作戦か?
しかし残念だったな、実はあの時私がアンタよりコマ切れの間隔で
このプリティな姿を現したり現さなかったりしていたんだ。
見えている時間は短いほど効果的だと聞いたんで現れていたのはゼロ秒だけど。


(何そのワサビを付けすぎたら生クリームで中和するって言うのを凌ぐレベルのトンデモ理論!?)


しかし何だね、以前に比べれば私達もだいぶん人気が出てきたとは思うのだが
やはりどうしたって人形であるという要素は存外に不利であるな。
まあ、私達の使命は敬愛するマスターを影となり日向となり支える事である故に
それ以外のことはまったくもって眼中に無いので別に人気など気にせぬが。
いや、嬉しくないとは言ってないぞ。誰だって嫌われるよりは好かれる方が気持ちいい筈。
しかしあくまでそれは気持ちは嬉しいというそれだけのモノであって
みんなアリガトー!明日からのライヴも頑張るからねー!とか言ってみたい訳では決して無いのだ。
その辺りはしっかりと認識しておいて貰いたい(はぁと)


(いや、何だかんだいって建前がはがれ落ちかけてるから)


アンタなぁ、そんな人の言葉尻にばかり気を向けていてどうするんだ。
一切気にするなとまでは言わないが、いくら他者を否定してもそれはあくまで
まったくもって無駄で無意味で無為な行為であると言うことは忘れるなよ。
否定と批判と批評と肥満はそれぞれ違うんだから。
れっつぎぶいっとあうぇい、けなしてないでたまにゃ亡霊も人も妖怪も褒めろよ。


(もはやどこからツッコんでいいのか分からないよ!いつ私が他者をけなしたって言うんだ!?)


首吊り蓬莱人形ってのは流石に残酷だろう。


(流すなよ!!って言うかそれ貴方の事じゃないか!!)


魔彩光の上海人形ってのもどことなく微妙だけどな。
マサ行こう、みたいに聞こえない事もないし。
ところでマサ君との結婚式には呼んでくれるのか。


(マサ君!?)


照れる必要は無い、日毎夜毎に寝食を忘れてふたりで首を吊り合った仲ではないか。


(勝手に妙な歴史を捏造するなよ!気持ち悪い!!)


まあ、初めての二人の共同作業だからな。
部外者の私が口を挟むような問題では無かったか。
じゃあ、ノブ君と末永く幸せにな。


(ノブマサ二股かけてるの!?)


人形のくせに二股ってのは流石に残酷だろう。


(同じ様な事を二回言うなよ!二股以前にノブとマサなんて聞いた事も無い!!)


二股かけてふったまたげた(ぶったまげた)、みたいな。


(全然うまくないよ!もういいよ!)



・ ・ ・



「シャンハーイ!」

「ホラーイ!」



「またあの人形達じゃれ合ってるぜ。ホント持ち主に似て女好きだよな。
しかも人形同士で女同士なんてまさにアブノーマルここに極まれりだ。
作り主も今頃草葉の影で泣いてるぜ、うわーん死に恥さらしちゃってるよーとか言って」

「いや、草葉の影どころか魔理沙の隣にいるから」

「ああ知ってるぜ、俗に言うアンデットだろ?」

「墓から這い出して来た前提で話を進めないでよ」



「シャンハーイ!」

「ホラーイ!」



「ところでアリス、あいつらが何て言ってるのか分かるか?」

「さあ……メシおごれー!とでも言い合ってるんじゃないの?」

「ハハハまっさかぁハハハ」

「アハハハちょっと待って何どさくさに紛れて私の露西亜人形かっぱらおうとしてるのよ
こらこっち向きなさいこのゴキブリ熱ッ!?いや、室内でダブルスパークとかありえないの極致だから!」



「シャラクサーイ!」

「ホラーレヴィーア!」



いつもとは違う路線で行ってみるテストを。
なんだか随分上海と蓬莱の口調がアレになりましたが
こういうのも俺設定と言うのでしょうか。言いますね。ごめんなさい(待て)


ちなみに名前だのアイデンティティ云々だのは
完全にでまかせ書いてますので適当に流しておいてください。
あまりにもアホな事書いてますので、万が一真面目に読もうとすると
恐らくその下らなすぎる内容にムカつく事請け合いですので(オイ)
c.n.v-Anthem
http://www.geocities.jp/cnv_anthem/
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コメント



0.5900簡易評価
17.無評価名前が無い程度の能力削除
最初路線変更されたかと思いましたが、安心して脳漿吹きました。
いえ、路線は確かに変わっているのですが、狂気っぷりが変わっていなくて愉快痛快でした。
普段の氏が派手に狂ったスッパテンコーなら今回のは、…東方のキャラはたいがい静かに狂ってますね。
20.60TAK削除
いつもとは違う路線ですか~。これはこれで面白かったです。
…しかし、蓬莱人形はどこからあんな知識の数々を…。
22.70SO削除
上海人形の壊れっぷりが面白かったです。

上海人形も不死鳥人間のスペルカードや、アレンジCDのタイトルになってたりと
脇役キャラでは意外と活躍している気が致しますが。名前だけは(笑
23.無評価SO削除
蓬莱人形ですね・・。
すみません。
25.70名前が無い程度の能力削除
ストレス症っぽい蓬莱人形と苦労してそうな上海人形にコイン一個。
45.70名前が無い程度の能力削除
「シャンハーイ!」
「ホラーイ!」

このシンプルな言葉にあれだけの意味が隠されていようとは・・・。
55.80名前が無い程度の能力削除
ロックだぜ、ホラーイ
67.90無為削除
誰も突っ込んでないからもしかしたらタブー(禁忌)なのかもしれないがそれに突っ込むことこそシューターの心意気。なのかもしれない。

>>「ホラーレヴィーア!」
それはキモケーネの「掘られて逝きな!」では(ホラーレヴィーア!
68.70名前ガ無い程度の能力削除
とりあえずホラーイを俺にくだs・・・(ナントカサクリファイス
74.70名前を決めかねる程度の能力削除
相変わらず、良い破綻していますね。
これがグッドコップバッドコップと言われる手法ですな。(注:違います)
最近、あなたのPNを見るだけで吹き出すようになってきたよ。
91.100名前が無い程度の能力削除
他の作品と全く雰囲気は違いますが、面白さは少しも衰えず。
最初の哲学談義から、静かに静かに、掛け合い漫才に移していくその手法、
お見事、と言う以外に言葉が思い浮かびません。
烈蹴紅球波――――!! とか好きだったなぁ~
というわけで、「シャラクサーイ!」「ホラーレヴィーア!」
134.80名前が無い程度の能力削除
宴会騒ぎ=萃夢想。

永夜抄の上海人形の色から見て、萃夢想にいたのは実は蓬莱人形じゃないかという話もあった様な気も。
だから頑張れホラーイ