「今日は星が綺麗だぜ」
黒魔術師の少女――霧雨魔理沙は、呟いた。夜の冷たい空気に晒された言葉は魔法の森の闇の深淵へと消えていく。
「なんでかな、今日は星が」
異様に輝いているぜ、と言おうとした刹那、闇の向こう側から叫び声が聞こえた。それは恐怖というよりは驚愕、助けを求めているというような悲鳴ではない、少なくとも魔理沙にはそう感じられた。
その叫び声もまた夜の闇にへと消えてしまった。
「ったく、夜くらい静かにして欲しいぜ、人間だったら。」
魔理沙は嫌味を吐いている割には目が笑っていた。興味があるのだ。悲鳴のはずなのに助けを求めていないように聞こえたその声に。助けるな、と言われたら助けたくなってしまう、それが彼女の性分だった。相棒の箒に跨り、声が聞こえた方向へと急ぐ。
魔法の森を下に臨みスピードを上げる。数多の生物を寄せつけないこの地も流石に時間には逆らえず木々が狂気を帯びて赤く染まっていた。
「あー、飛んでると寒いな。秋だったらもうちょっとあったかくても良いのに。」
「森も段々秋色に染まってきたな。紅葉を見るのには向かないが。ここの森が狂うとただじゃすまないからな。」
独り言を紡いでいくが風に流されていく。魔理沙自身もその事は自覚しているが寂しさからかその口からは次々と言葉がこぼれる。
「それにしても人がせっかく星を見ているのを邪魔するとは無礼極まりない奴だぜ」
「へぇ、一人で星を見るなんて意外とロマンチストね、魔理沙」
振り向くと同じ森に住む人形遣い――アリス・マーガトロイドが自分と並行に飛んでいた。もし話しかけられなかったら地面に降りるまで気付かなかっただろう、そう思わせるほど今夜は暗く、彼女は静かにそこにいた。というか飛んでいた。
「なんだ、アリスか」
一瞬魔理沙はアリスの姿を確認するため振り向いたが確認できるとまた前を向き飛行を続けた。
「なんだとは何よ?」
「何でもないぜ。それよりお前はどこに向かってるんだ?私を尾行してるんだとしたら話しかけてる時点で相当の馬鹿だぜ」
魔理沙は皮肉をこめて問いかける。
「違うわよ、たまたま行く方向が同じだったみたいだから話しかけただけよ」
「つまり、お前もあの叫び声のところに?」
「ええ、あの人間のところに」
「どうして人間だって解るんだ?」
「悲鳴を上げるのは古来から人間だけって決まってるのよ」
「私は上げないぜ、悲鳴」
「魔理沙は普通の人間じゃないから」
「別に私ぁ狂ってないぜ」
「月も出てないのに狂ってるとしたら本当に人間か疑うわ」
月が出ていないだと?魔理沙は疑問を抱いて真夜中の空を見上げた。確かにどこを見ても月が見つからない。星が異様に輝いて見えたのもアリスが見えなかったのもこのせいか。
今日は新月だった
「つまり魔理沙が狂ってないのは新月のせいって事よ」
「あのなー」
「ふふ、冗談だって・・・む」
冗談を言っていたアリスの顔が険しくなるのが暗闇の中からでも感じられた。
「あ?どうしたんだ、アリス」
アリスは少しためらってから応えた。
「・・・いや、凄い妖力を感じるわ」
「妖力だぁ?て事は近くに妖怪がいるんだな?」
面倒くさそうに尋ねる。
「ええ、しかもかなり強力な」
『あはは、貴方達。私が強力な妖怪だって?面白いことを言うね。私は弱い妖怪よ』
どこからともなく声がする。魔理沙は呆れたように言う。
「どういうことだ、アリス。弱い妖怪らしいじゃないか」
「私に聞かないでよ。確かに妖力は感じるんだもの」
『あはは、とっても気分が良いよ。今なら貴方達も倒せそう。ね、相手してよ』
闇の向こうから聞こえる声。一見、友好的に聞こえる声もここでは不気味さしか生まれない。
「弱いのか強いのかはっきりして欲しいぜ」
魔理沙の箒を握る両手に汗が浮かぶ。眼が得体の知れない相手を捕らえるために右往左往する。
『ねえ、見える?私のこと』
見えてたら苦労しないぜ、と魔理沙は心の中で呟く。
相手の空を切る音は前から聞こえているのに声は後ろから聞こえる。
人間である魔理沙にとって、この暗闇の中で眼を頼りにして戦うのはあまりにも困難だった。
「魔理沙!正面にいるわ!」
魔理沙が苦戦しているのに気付いたアリスは助言を与える。
『場所がわかってても攻撃は避けられる?』
後ろから声がした。思わず魔理沙は振り向く。
「魔理沙!」
アリスの声は遅すぎた。声が届くより早く「奴」は振り向いてスキだらけの魔理沙の背中に「奴」の一撃が入る。鈍い音がして魔理沙が吹っ飛ぶ。ワンテンポ遅れて「くぁっ・・・!」と断末魔の叫びが響く。
「魔理沙!」もう一度叫ぶ。
「・・・だ、大丈夫だぜ」
全く大丈夫そうにない声を出す。足をふらつかせながらも立ち上がり、帽子の中から八卦炉を取り出す
「アリス!そいつを引き止めてくれ!」
な、無茶なこと言わないでよ。のどまで出掛かっていたその声を飲み込みスペルカードの詠唱へと変えた。
「魔符『アーティフルサクリファイス!』」
アリスの眼は相手の妖力を捕らえることで「奴」の位置を把握し、アーティフルサクリファイスの爆風で相手がひるんだことをも確認した。
『ひゃっ!』
「奴」が悲鳴を上げる。
「倫敦人形と蓬莱人形を展開っ!人形置操に移行!」
隙を見逃さずアリスは詠唱を続行した。
倫敦人形が霧のように「奴」を取り囲み各々も弾幕を創る。「奴」は人形を軽く一掃。
しかし遅れて急速に接近した蓬莱人形には次の攻撃が間に合わず人形は「奴」取り囲むように収束した。
「奴」はまとわり付く人形を壊していったが壊していくほど身体が不自由になるのを感じた。
糸だ。
人形を操る糸。それが自分にまきついているのだ。それをアリスは確認し一瞬の安堵を浮かべたがすぐさま
「魔理沙、あなたから4時の方向に上方60度に向けて撃って!」
と的確な指令を出す。
「全力で行くぜ。恋符『ファイナルスパーク』!」
魔理沙は足を踏ん張る。
刹那。夜が輝いた。「奴」の叫び声は閃光の轟音によって掻き消される。
さっきとは間逆の光景だった。形勢も背景も。
全てを貫く光が闇を飲み込んでいく
アリスに召喚された人形たちも砂の城のように崩れていく。
そして・・・
黒魔術師の少女――霧雨魔理沙は、呟いた。夜の冷たい空気に晒された言葉は魔法の森の闇の深淵へと消えていく。
「なんでかな、今日は星が」
異様に輝いているぜ、と言おうとした刹那、闇の向こう側から叫び声が聞こえた。それは恐怖というよりは驚愕、助けを求めているというような悲鳴ではない、少なくとも魔理沙にはそう感じられた。
その叫び声もまた夜の闇にへと消えてしまった。
「ったく、夜くらい静かにして欲しいぜ、人間だったら。」
魔理沙は嫌味を吐いている割には目が笑っていた。興味があるのだ。悲鳴のはずなのに助けを求めていないように聞こえたその声に。助けるな、と言われたら助けたくなってしまう、それが彼女の性分だった。相棒の箒に跨り、声が聞こえた方向へと急ぐ。
魔法の森を下に臨みスピードを上げる。数多の生物を寄せつけないこの地も流石に時間には逆らえず木々が狂気を帯びて赤く染まっていた。
「あー、飛んでると寒いな。秋だったらもうちょっとあったかくても良いのに。」
「森も段々秋色に染まってきたな。紅葉を見るのには向かないが。ここの森が狂うとただじゃすまないからな。」
独り言を紡いでいくが風に流されていく。魔理沙自身もその事は自覚しているが寂しさからかその口からは次々と言葉がこぼれる。
「それにしても人がせっかく星を見ているのを邪魔するとは無礼極まりない奴だぜ」
「へぇ、一人で星を見るなんて意外とロマンチストね、魔理沙」
振り向くと同じ森に住む人形遣い――アリス・マーガトロイドが自分と並行に飛んでいた。もし話しかけられなかったら地面に降りるまで気付かなかっただろう、そう思わせるほど今夜は暗く、彼女は静かにそこにいた。というか飛んでいた。
「なんだ、アリスか」
一瞬魔理沙はアリスの姿を確認するため振り向いたが確認できるとまた前を向き飛行を続けた。
「なんだとは何よ?」
「何でもないぜ。それよりお前はどこに向かってるんだ?私を尾行してるんだとしたら話しかけてる時点で相当の馬鹿だぜ」
魔理沙は皮肉をこめて問いかける。
「違うわよ、たまたま行く方向が同じだったみたいだから話しかけただけよ」
「つまり、お前もあの叫び声のところに?」
「ええ、あの人間のところに」
「どうして人間だって解るんだ?」
「悲鳴を上げるのは古来から人間だけって決まってるのよ」
「私は上げないぜ、悲鳴」
「魔理沙は普通の人間じゃないから」
「別に私ぁ狂ってないぜ」
「月も出てないのに狂ってるとしたら本当に人間か疑うわ」
月が出ていないだと?魔理沙は疑問を抱いて真夜中の空を見上げた。確かにどこを見ても月が見つからない。星が異様に輝いて見えたのもアリスが見えなかったのもこのせいか。
今日は新月だった
「つまり魔理沙が狂ってないのは新月のせいって事よ」
「あのなー」
「ふふ、冗談だって・・・む」
冗談を言っていたアリスの顔が険しくなるのが暗闇の中からでも感じられた。
「あ?どうしたんだ、アリス」
アリスは少しためらってから応えた。
「・・・いや、凄い妖力を感じるわ」
「妖力だぁ?て事は近くに妖怪がいるんだな?」
面倒くさそうに尋ねる。
「ええ、しかもかなり強力な」
『あはは、貴方達。私が強力な妖怪だって?面白いことを言うね。私は弱い妖怪よ』
どこからともなく声がする。魔理沙は呆れたように言う。
「どういうことだ、アリス。弱い妖怪らしいじゃないか」
「私に聞かないでよ。確かに妖力は感じるんだもの」
『あはは、とっても気分が良いよ。今なら貴方達も倒せそう。ね、相手してよ』
闇の向こうから聞こえる声。一見、友好的に聞こえる声もここでは不気味さしか生まれない。
「弱いのか強いのかはっきりして欲しいぜ」
魔理沙の箒を握る両手に汗が浮かぶ。眼が得体の知れない相手を捕らえるために右往左往する。
『ねえ、見える?私のこと』
見えてたら苦労しないぜ、と魔理沙は心の中で呟く。
相手の空を切る音は前から聞こえているのに声は後ろから聞こえる。
人間である魔理沙にとって、この暗闇の中で眼を頼りにして戦うのはあまりにも困難だった。
「魔理沙!正面にいるわ!」
魔理沙が苦戦しているのに気付いたアリスは助言を与える。
『場所がわかってても攻撃は避けられる?』
後ろから声がした。思わず魔理沙は振り向く。
「魔理沙!」
アリスの声は遅すぎた。声が届くより早く「奴」は振り向いてスキだらけの魔理沙の背中に「奴」の一撃が入る。鈍い音がして魔理沙が吹っ飛ぶ。ワンテンポ遅れて「くぁっ・・・!」と断末魔の叫びが響く。
「魔理沙!」もう一度叫ぶ。
「・・・だ、大丈夫だぜ」
全く大丈夫そうにない声を出す。足をふらつかせながらも立ち上がり、帽子の中から八卦炉を取り出す
「アリス!そいつを引き止めてくれ!」
な、無茶なこと言わないでよ。のどまで出掛かっていたその声を飲み込みスペルカードの詠唱へと変えた。
「魔符『アーティフルサクリファイス!』」
アリスの眼は相手の妖力を捕らえることで「奴」の位置を把握し、アーティフルサクリファイスの爆風で相手がひるんだことをも確認した。
『ひゃっ!』
「奴」が悲鳴を上げる。
「倫敦人形と蓬莱人形を展開っ!人形置操に移行!」
隙を見逃さずアリスは詠唱を続行した。
倫敦人形が霧のように「奴」を取り囲み各々も弾幕を創る。「奴」は人形を軽く一掃。
しかし遅れて急速に接近した蓬莱人形には次の攻撃が間に合わず人形は「奴」取り囲むように収束した。
「奴」はまとわり付く人形を壊していったが壊していくほど身体が不自由になるのを感じた。
糸だ。
人形を操る糸。それが自分にまきついているのだ。それをアリスは確認し一瞬の安堵を浮かべたがすぐさま
「魔理沙、あなたから4時の方向に上方60度に向けて撃って!」
と的確な指令を出す。
「全力で行くぜ。恋符『ファイナルスパーク』!」
魔理沙は足を踏ん張る。
刹那。夜が輝いた。「奴」の叫び声は閃光の轟音によって掻き消される。
さっきとは間逆の光景だった。形勢も背景も。
全てを貫く光が闇を飲み込んでいく
アリスに召喚された人形たちも砂の城のように崩れていく。
そして・・・
ただ、これ単品としては短すぎるし、話の展開……はギリギリ分かったけど、それでも訳が分からないのでこんな点数を置いておきます。
個人的には、魔理沙には悪いけど『断末魔を上げたなら死ねよや』とも思っちゃったり。