Coolier - 新生・東方創想話

畜生料理は下衆の味

2019/11/30 23:54:33
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「……コホン。では今回の計画を立案致しました、この吉弔八千慧が乾杯の音頭を取らせていただきます。この度の偶像勢力殲滅計画のひとまずの成果を祝しまして……乾杯」

「乾杯!」
「……ぁー……」
『かんぱーい!』

 畜生達は畜生メトロポリスの新名物、畜生ビールを天に掲げた。
「……っぷはー! 頑張った後の酒は五臓六腑に染み渡るってもんだ。なあ吉弔、饕餮!」
そう言って豪快にジョッキを煽るのは、戦闘力だけなら畜生界最強と目されている勁牙組の組長、驪駒早鬼だ。
「私としては貴方が五臓六腑なんて言葉を知っていたとは驚きですよ」
「……ん……」
 馬らしく騒がしい驪駒とは対称的に静かに酒を飲むのは、知略に長ける鬼傑組長が吉弔八千慧と、プライドの高さが鼻に付くと悪評高い剛欲同盟の盟主、饕餮である。
「さっきからどうした饕餮よ。いつも口だけの生意気なお前がやけに静かじゃないか。それとも、この驪駒様の恐ろしさをやっと理解できたのか?」
「……チッ……」
『申し訳ありませんが……今の饕餮様は喉を悪くして喋るのも辛いのですな。必要ならば私が代弁致しますのでご承知おきを』
 饕餮側近の老オオワシ霊が一歩前に出た。
「ふふん、ろくに前線にも出てこないで不健康な生活ばかりだから体も壊すのだろうよ。お前、名前は?」
『ワシズと申しますが、覚えなくとも結構。次に会う時には貴方は死体でしょうからな』
「ほーう、私を相手に啖呵を切るとは良い度胸だな、気に入った。饕餮に愛想が尽きたらいつでも私のところに来い。はっはっはっはっ!」
「……ケホッ……」
 恨めしげに睨みつける饕餮を鼻で笑い、驪駒は一息でビールを飲み干した。
「馬鹿は死ななきゃ直らないと言いますが……主を目の前で貶したついでにヘッドハンティングをする者などお前くらいでしょうね、驪駒」
「……ん……」『器が大きいのか小さいのか分かりませんね。そして私個人の意見としては饕餮様一筋です。残念ですがお諦めを』
 饕餮本人が無口に不機嫌な顔をして、横のオオワシ霊が即座に考えを言う。さながら腹話術の如く。
「なんだ、残念だな。まあ泥舟が好きってんなら仕方ないなあ!」
 嫌味も馬の耳に念仏のようだ。足が早ければ酔うのも早い。驪駒は既に出来上がりつつあった。
 オオワシ霊の忠義の褒美として、饕餮はその首元を優しく撫で回す。
「まったく、オオカミ霊には同情しますよ。私だったらこんな品の無い者の下など三日と耐えられないでしょうから」
『いや、私らだってそんな組長が好きで下に付いてるッスから』
「お? 嬉しいこと言ってくれるじゃないかオオツカ! 飲め飲め! あははははは!」
 オオツカという名前らしいオオカミ霊のジョッキにおかわりがドバドバと注がれる。この驪駒様が注いだ酒が飲めんのか、そう言わんばかりの勢いで。完全なるパワハラ、アルハラである。
『ほら、驪駒様はちゃんと部下の名前覚えてるでしょ? うちの組長は大事なところは頭に入ってるんッスよ』
「その通りだ! 吉弔なんかどうせ部下は全員使い捨ての駒とでも思って名前も覚えてないんだろう」
『うーん、私はそれでも構わないかなあ。ほらあ、下手に名前を覚えられると雑用とか全部私になりそうじゃないですかあ』
 日和見主義のカワウソらしい、のほほんとした意見であった。
「私の組にまで口出ししてくるとは相変わらず躾がなっていませんね。部下の名前くらいは当然把握しています。そうですね、カワシマ」
『え、ええ……』
 カワシマは向こうの席で畜生サラダを取り分けているカワウソで、このカワウソの本当の名前はカワイであるのだが、鬼傑組では部下の名前が入れ替わる事など日常茶飯事だ。
 逆らう気力を失わせる能力の吉弔が言う以上、彼女の発言が絶対的正義なのだ。

『兄ちゃーん! 畜生唐揚げと畜生風ドリア!』
──は、はーい! 唐揚げとドリアー!

 極道軍団の打ち上げ場所に選ばれてしまった料亭もとんだ災難である。しかしブラックな労働環境こそ畜生界が畜生たる由縁。前世の畜生なる所業を悔やんでも時既に遅し。
「……くぅーっ! やっぱニンゲン共をゴミのように扱って作らせるメシは最高だ! そう思わんか吉弔! 饕餮……はアメ舐めてるか」
「…………」
「ま、それは同意しますよ。ですがこれも一時の勝利に過ぎません。もう人間を騙して私の駒として使う奇策は通用しないでしょうし、他の対策を考えなければ」
「……ぁ……」『クク、それについてはトウテツ様は既に独自で動いておりましてな。此度不調を押して参加なされたのもその周知を兼ねているのですよ』
 饕餮代理のワシズが再び口を挟む。
「おや、我々にも聞かせて良い計画なのですか。事後承諾となれば当然、私を納得させるものでなければきっちりと落とし前を払ってもらいますが」
「聞いてやろうじゃないか。プライドと欲の皮だけが一流のお前らに何が出来るのか」
「……フッ……」
 一歩間違えれば即座に頸牙と鬼傑の二組を敵に回すこの局面においても、その二人の威圧を流せる饕餮は流石である。
『簡単な話で御座いますよ。騙して連れてくるのが無理ならば、向こうから来たくなるように仕向ければ良いのです。既に餌は撒いております故、直にここも地上の人間が姿を見せるようになるでしょうな』
「……なるほど、後はなし崩しに巻き込んでしまえばいいと。その者の実力次第でしょうが」
『ここまで来るような物好きならば問題は無いでしょう。ほうら、噂をすれば早速、ですな』

──ガラガラ。
 引き戸を開けて新たに6名様。それは畜生界の霊長類と違って、ちゃんと足の付いた人間の団体であった。

『うおっ、ここも畜生霊でいっぱいですなぁ』
『かわいいー!』
『にくー!』
『動物園みたいで楽しいですね。やっぱり来てみて正解だったでしょう?』
『私としては良からぬ欲に満ちていて居心地が悪いのだが……耳当てを新調して正解だったよ』
『まったく、私は久々に足生やして歩いたからクタクタだよ』

 灰、桃、紺、青、亜麻、薄緑。
 髪色からして特徴的な集団だ。それぞれが勝手な感想を言って案内の霊を待っている。

『ここに観光に来たいと言い出す人間が居るとは思いませんでしたが、まさしく渡りに船と言うやつですな』
「……待ちなさい。あれのどこが人間ですか。百歩譲って三人は人間の枠に入れてもいいですが、その他の一人は妖怪で、二人は死人ではないですか」
「まあ半分の三人もいれば上出来だろう。吉弔だって子分が連れてきた三人に痛めつけられたんだしな!」
「あれは実力を試しただけです。それに調子に乗って痛い目に合ったのは驪駒もでしょう」
 スカした組長二人の代わりに配下のオオカミとカワウソが火花を散らす。本人達は真剣だが、観光客側からは小動物がじゃれあっているように見えるのか、黄色い歓声が上がり好評のようだ。
「フン、まあいいでしょう。饕餮の手引きで来た人間共については不問とします」
「…………」『ご理解いただけて何より。まあ、此度の作戦にしましても、我々が何の妨害もなく地上まで行けたのはひとえに饕餮様のおかげですからな。地獄の沙汰もなんとやら、鬼を黙らせるには腕ずくよりこれが一番でございます』
 オオワシが賎しい表情を浮かべるのに合わせ、饕餮が親指と人差し指で輪っかを作った。銭のサインである。
「忘れてはいませんよ。お前の組が高慢に振る舞っていられるのは財力ありきだと。ですがくれぐれも、奴らが偶像側に抱き込まれる事など無いように」
「ああそうだな。特にあの角みたいな変な髪型にマントを羽織った女、あいつは格が違うな。奴が向こうに付いたらお前らの組はひとたまりもないだろうよ」
「自分は平気と思っているようですがその慢心が身を滅ぼすのです、驪駒よ。私としては横にいる青い女の方も気にかかりますね。今も笑っているようで、時折我々を値踏みするように冷徹な眼を向けています」
「ああ、お前と同類の畜生って感じだな。自分以外はみんな実験用のネズミとでも思ってそうで虫酸が走るよ」
 驪駒と吉弔の二人はそれぞれに、この畜生界を揺るがしかねない危険人物を即座に見抜く。
 驪駒は野生の勘で、吉弔は観察眼で。正反対の二人だが行き着く所は同じである。
 組長達との間の緊張感は、やがてその客が地下階に通されるまで途切れなかった。

「……ふう。それにしても吉弔、やっぱりお前は見る目がある。あいつらが入ってきた瞬間にピリッと来てたのは私とお前くらいだ」
「……ぁ……」『ちなみにトウテツ様は既に知っておられましたので、ええ』
「何ですか急に。誉められてもこちらは気味が悪いだけです」
「まあそう言うな。敵対さえしていなければ私が本当に欲しいのは吉弔、お前なんだ」
 驪駒が吉弔に肩に手を置いた。心の準備が全く出来ていなかったのでさしもの吉弔の顔もひきつっている。
「やめなさい、いきなり、こんなところで……!」
「私は今でも悔やんでいるんだよ。あの時、お前を全力で引き留めていればと。吉弔、道は別れてしまったが私は今でもお前を……」

『ヒューヒュー!』
『濡れ場よー!』
『組長ステキー!』
『いいぞ、脱げー! 脱がせー!』
 品の無い歓声が各所から飛ぶ。所詮チンピラの集団である。

「く、驪駒……?」
「子分にしてずっとこき使いたかったのに……」

──パァン!
 吉弔の張り手が驪駒の頬に炸裂した。

『ブーブー!』
『組長のアホー!』
『空気読めー!』
『頭驪駒かよー! 驪駒だったわー!』
 遠慮の無い野次が飛ぶ。所詮チンピラの集団なので。

「き、吉弔ォ!! ここでは暴力は御法度だってのが決まりだったよなあ!?」
「お前が悪い! 饕餮もそう思いますね!?」
「……ぅん……」
 饕餮は、吉弔の手によって驪駒の顔に作られた紅葉に笑いを堪えながら。
「ほら見なさい! 2対1で私の勝ちです。よってこの件は不問です!」
「お、お前らいつの間に通じ合ってたんだよ! 聞いてないぞ私は!」
『組長座るッス! 今のは贔屓目に見ても驪駒様が悪いッス! シッダウン!!』
 配下のオオカミ霊にまでなだめられ、組長としての立場の手前、渋々と驪駒は着席した。

『驪駒様はほんと見た目に全振りなところありますからねえ……女の子はあれでみんなコロッといっちゃうんッス』
『しかし優しいのはその一時だけで後は大体乱暴なのでしょうな』
『悪いホストがよくやるやつだねえ。頭がウマシカなおかげでそこまでいかないけど』

 なのにあれが畜生界最強なんだものなあ。各組の畜生霊達はため息をこぼした。
 驪駒はつややかな鬣を自分で撫でて気を落ち着かせる。
「……あーもー、しかしなー、ここの人間霊なんて取るに足らん雑魚しかいないのに、何だよ最近の人間は。会う奴会う奴とんでもないのばっかりじゃないか。さっきの話なんだが、何でか知らんが私が生きてた頃の飼い主を急に思い出したよ」
「はぁ、またその話ですか。お前の隙あらば昔の飼い主語りにはうんざりですよ。大体何でしたっけ、聖徳太子? お前の言うその者のエピソードなど絶対に嘘でしょう」
「……ん……」
 饕餮も同意した。驪駒の飼い主愛は徹底しており、どこから手に入れてきたのか地上で流通している社会の教科書の聖徳太子像を持って喧伝して回るほどである。
 生前にどのような偉人に飼われていたか、畜生界ではそれもステータスになるのだ。
「十人の声を聞き分けてそれぞれに的確な助言をした、でしたか。それすらも嘘臭いのになんですかお前は。毎日空を飛んで飼い主を職場に送っていた? いや、絶対に嘘でしょう。飛ぶように速いという言葉はありますが絶対に話を盛ってるでしょう。そもそも本当に聖徳太子の馬だったんですか? 同じ黒駒だからって嘘を吐いてるのでは?」
「なにをー!! 本当だい、本当に太子様は私に乗って空飛んだし、ジュウナナジョーケンポ?も作ったんだいッ!!」
『く、驪駒様、落ち着いて……』
 どうにも驪駒組長は飼い主の話をすると急にハートが弱くなる。配下の共通の悩みの種である。

『なのに驪駒様はやたらと語りたがるんッスよね……』
『勁牙組も大変だねえ……』
『ま、我ら神獣の長と比べてお一人だけただの馬ですからな。きっとコンプレックスを抱えているのでしょう』

 驪駒本人も、聖徳太子の自慢はしても自身のエピソードは決して語ろうとしない。
 まあ当然である。飼い主を落馬させたショックで絶食したとか、飼い主が死んだショックで絶食してそのまま死んだとか、そのような逸話を語れるはずもなく。
「大体お前、聖人に飼われていた馬のくせして畜生界に落とされるとは。でなければその飼い主が、お前が知らないだけで相当な畜生だったに違いありませんよ」
「き、吉弔ッ!! 太子様まで侮辱するのは許さんぞ! もうルールなんて知ったことか、表に出ろッ!」
 驪駒はビール瓶を手に千鳥足で立ち上がった。ちなみに生意気な奴をビール瓶で殴ってシメるのは畜生相撲界では伝統となっている。
「ハハッ、ついに馬脚を表しましたね。三つ巴のにらみ合いを最初に崩した馬鹿が排除される! それが一番厄介なお前であることを私はずっと待っていたのです。さあ饕餮!」
「…………!」
 吉弔と饕餮の二人も互いを支え合いながら立ち上がる。
 一人では驪駒には敵わなくても二人ならば勝ち目はある。三つ巴では強い者から狙うのが鉄則なのだ。
「……失望したよ。お前が私でなく小癪な饕餮を味方に選んだ事がなァッ!」

『乱闘だー!』
『馬刺しにしろー!』
『ブッ飛ばせー! 』
 野次の勢いも最高潮。もはや誰にも止められない。
 そう思われたのだが──。

──へ、へいちょー!!

 助けを求める人間霊の言葉に、畜生達は一斉に振り返った。
 まさに、そこにいたのは畜生達共通の天敵。

「袿姫様からは例え敵でもお客様として来てる以上は神様のように扱えと言われていたが……お前達はもはや客ではない!」

 偶像兵長、杖刀偶磨弓。創造神である埴安神袿姫の手で作られた土偶兵士である。
 彼女は今、血のこびりついた骨切り包丁を構えて畜生達の前で仁王立ちだ。

──へいちょー! お助けをー!

「今は兵長ではなく料理長と呼べ!」

──料理長ー!
──我らがアイドル!
──可愛いよー!

 限界オタク系人間霊の湿った歓声が沸き起こる。
 兵長改め料理長は今、特別に作ってもらった袿姫とお揃いのエプロンを身に付けていた。つまり主への忠誠心が強さに直結する磨弓の武力が、現在は未曾有の極限状態まで高まっているのだ。
「お、お前、偶像の! 何でこんな所に……!?」
「ハッ、お前たちには『Honey's kitchen』という店名が読めなかったか? ここのオーナーは我らが主の袿姫様だ。私はお前達が客で来たというから念の為駆り出されたのだ!」

 はにっ、ハニッ、はにっ。
 磨弓の応援としてコック帽を被った埴輪も駆けつけた。
 この店、ホールスタッフは人間霊に押し付け、スキルが要求される調理スタッフの全員が埴輪ドローンだったのである。

「……ぉぃ……」
「どこの馬鹿者でしたか。この店を選んだ馬鹿は」
「……私だ。だってほら、安くて旨いって評判だったから……」
『驪駒様ァ……』
 埴輪に人件費は必要ない。だから驚きの安さで料理を提供できるのだ。
 無機物によるオートメーション化で有機体の仕事が奪われる。この現代の地獄のような現実は着実に畜生界にも迫っていた。
「……何が人間霊をこき使って作らせた飯は美味いですか。この馬鹿舌めが」
「き、吉弔だって同意してただろうが! 私一人に擦り付けようとしないでお願いだから!」

『カッコ悪いッス……』
『吉弔様まで……』
『饕餮様が本調子ならばこうはならなかったのですがなあ……』
 組員から落胆の声が上がる。この後に待っている惨事から目を背けたいが為に。

「どうせ貴様ら、今はろくに動けないだろう。なんたって畜生ビールを馬鹿みたいにガブ飲みしていたからな。あの酒はな、強烈なアルコール度数に反して飲みやすく仕上げた、相手をお持ち帰りすることに特化した作りになっているのだ!」
「ど、道理で足がふらつくはずです……」
 畜生ビールの名は伊達ではない。畜生界は飲食物まで畜生なのだ。
 ちなみに畜生唐揚げは、ゼロカロリー理論で揚げているのでどれだけ食べても太らないという謳い文句で販売されている。

「さて、種明かしの時間は終わりだ。貴様らに念仏は必要ない! 食材となって罪を贖うがいい!」

 畜生達の悲鳴が店内に響き渡る。
 畜生と偶像の勢力争いは、今再び偶像側の一歩リードとなった。

 ◇

 一方その頃、下の階で食事を楽しんでいた観光客の人間こと神霊廟ご一行はというと。
「何やら上が騒がしいのう。所詮は畜生じゃから無理もないが」
「飯時にうるせえのはお前も一緒だがな」
 物部布都と蘇我屠自古。初めて食べる古代魚の刺身に切ない表情を浮かべている。
 絶滅種特有の悲哀な風味が、一族を滅ぼされた彼女らの境遇と共鳴したらしい。
「ただいま戻りましたよ~。埴輪がちょこちょこお料理してて面白かったですよ。ね、こころちゃん」
「うん。可愛かった……」
 霍青娥と秦こころ。二人は揃って厨房を覗きに行っていた。
 お子様というのは店の中でじっと料理を待てない性であるので。
「神子ー、あんまり食べてないけどどうしたー? 何か気になるのかー?」
「うむ、それもあるし、ここの食事は仙人には毒気が強すぎる……」
 宮古芳香と豊聡耳神子。マヨネーズが山のようにかかった畜生フライを頬張る芳香を見て、神子は軽い吐き気がしていた。
 食事は程々に、神子はずっと昔の事を考えていたのである。

「何故か……私があの頃飼っていた黒駒の事を急に思い出してね」
「ああ、太子様とよく空を飛んでいたあの駿馬ですか。太子様の事しか見てなくて私が触ろうとするとそっぽ向かれましたわ」
 神子が青娥と初めて出会ったのも、黒駒に乗って空を舞っていた時だった。
「私が落馬しただけで塞ぎ込むような繊細な馬だ。私がいなくなった後はきっと長くはなかったのだろうなと、上で暴食していた下品な霊を見ていたら気になったのだよ」
「お察しの通りですわ。豊聡耳様が眠りに付いた後、クロちゃんは全くご飯を食べなくてそのまま……」
「私の黒駒に勝手なあだ名を付けないように。それで青娥、あの子はちゃんと弔ってくれたのだろうね」

「ええ、痩せ細っていたのであまり美味しくはなかったですけど……」

「食べたのか!?」
「あの子の血肉は今も私の身体の一部となって私達と一緒に生きているのです。なんと感動的なお話でしょうか……」
 青娥がハンカチで涙を拭うフリをする。
「はあ……覆水盆に返らず、か。今更言っても仕方あるまい。死者を食べて生きるのは自然の摂理と思って……それでも青娥の倫理観はどうかと思うが……」
 その頃からの長い付き合いの邪仙に今まで何度呆れたかは到底数え切れるものではないが、屠自古はある種の義務感を持ってこう言うのだった。

「お前みたいな畜生の腹に収まったんじゃ、黒駒の奴も畜生界に落ちてたりしてな」
頭驪駒で書いた軽いノリの話。
なんとか半殺しで勘弁してもらった後、饕餮は庭渡様に頼んで喉の調子を治してもらえました。

以下、オオカミ霊の言い訳。
『馬の目と人の目では見える世界が違うから仕方ないんッス。まさか女の子の姿になってるとは思わないじゃないッスか。決してうちの組長の眼が節穴ってワケじゃないんッス』
石転
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コメント



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1.100名前が無い程度の能力削除
 とても楽しめました。
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白く良かったです
3.100ヘンプ削除
ヤクザ三人組がとても可愛かったです
4.100封筒おとした削除
畜生的なほのぼのでよかったです
5.90南条削除
面白かったです
危ないやつらなのに妙にほのぼのとしていてよかったです
気が付いたら読み終わってました
9.100終身削除
どこぞの名産品よろしく名前に取り敢えず畜生ってつけとこうみたいな感じの料理なのかと思ったらちゃんとゼロカロリー理論とかいろいろと効果があって面白かったです どうして早鬼が畜生界に来たのかという話が出てからのオチの流れで笑いました