Coolier - 新生・東方創想話

あの星をあなたと

2023/07/02 19:58:41
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この作品は、上海アリス幻樂団様「東方Project」の二次創作です。

       「あの星をあなたと」

冬の朝、陽も登った頃。白い息を吐きながら彼女はやって来た。
 「今夜は星が良く見える。妖怪の山山頂から見る星空は綺麗だ。博麗の巫女もいかがだろうか?」
 「そんなに綺麗に見えるもんなの?」
 「あぁ。天狗だけでなく、他の妖怪達もわざわざやって来るほどには絶景だ。」
自慢の三脚を肩に、誇らしげに語るのは、大天狗の飯綱丸龍。
 「にしても、なんでいきなり?」
 「先日のアビリティカードの件でご迷惑をお掛けしたのでな。せめて何か楽しいものを提供しようと思ったまでさ。」
 「はぁ。」
何かと思えばその絡みか。あまり面倒ごとはごめんだが、不思議と興味もある。
 「今回は射命丸の新聞を介して人里にも知らせてある。来てくれるようであれば、守矢神社に来てほしい。」
 「人間も呼んだの?」
妖怪達もいる中で人間など呼んでしまってはどうなることか。
 「あぁ。しかし、安心して欲しい。妖怪達には来ないようにお触れを出しているし、守矢神社までの送迎は私達が責任を持って行おう。少なくとも、君の手を煩わせることはしないさ。」
 「そう。気が向いたら行くわ。わざわざご苦労さん。」
 「お待ちしているよ。」
そうして龍は飛んでいった。
 「・・・星空ね。」
確かに、あまり意識してみることは無かった。
私自身がそんなに興味のあるものでは無かったからだろうか。しかし、妖怪の山の山頂から見る星空はさぞ綺麗なのだろう。今夜は予定もない。行ってみようと思う。
      ◇◇◇◇
人里。普段とあまり代わり映えしないが、どこか浮足立つ者が多い。
 「今日の夜楽しみだな!!」
 「そうだな!!ブン屋の姉ちゃんもきれいだって言ってたしな!!」
 「私、彼と一緒に見に行くんだ!!」
 「ほんと!?それってデートじゃない!!」
すれ違えばそんな声が聞こえる。そんなに楽しみにしているのだろうか。どこかはやる気持ちを抑え、依頼のあった家へ向かう。
 「おはようございます。」
 「あぁ、博麗の巫女様。わざわざお越しいただきまして・・・」
 「えぇ。お任せください。」
一人で住む老婆。毎晩毎晩どこかから声がするらしい。
老婆を退避させ、居間にお札で陣を描く。
 「■■■■■■■■・・・」
術を唱えれば、陣が光り出し、辺りを白い光が覆う。
 「・・・博麗の巫女・・・様?」
陣の中には一人の痩せた老人。一連の現象は、恐らく彼が引き起こしていたのだろう。
 「毎晩毎晩声がするって依頼が来たんだけど、アンタの仕業?」
 「・・・えぇ。私です。」
切なそうに答えた。何か理由があるに違いないだろう。
 「なんでそんな事してんのよ。もしかして旦那さん?」
 「はい。私は数年前に病で死にました。しかし、彼女と別れるのがどうしても辛くて。」
大まかな事情は掴んだ。どうやら悪い者ではないようだ。
 「未練が残っていたのね。何かやり損ねたことでもあったの?」
 「そうですね。もっと思い出を作りたかった。永遠亭の先生にも見て頂いても、余命は長くなく、彼女の横で寝ているだけしか出来なかったのです。」
 「・・・辛かったでしょうね。」
 「えぇ・・・本当に・・・辛かった。毎日毎日負担をかけてばかりで。自分など早く死ねば楽になるだろうとも思いました。結果、私は別れの言葉も言えないまま死に・・・未練とは恐ろしいものですね。」
陣の中に泣き崩れ、震えた声で言葉を紡ぐ。
見ている私もどこか心の奥が痛み出す。
 「・・・博麗の巫女様。私の声が彼女を苦しめているのなら、どうかこの老いぼれを消し去ってください。貴女様なら、出来るはずだ。」
 「・・・」
博麗の巫女である以上、こんなことを言われる前に、問答無用で行動していなければいけない。でも、彼の言う方法は、他の害を加える妖怪達と同じように扱わなければいけないということ。自然に成仏してくれるのならその方が良い。そして、私はある案を口にしていた。
 「たった一つでも、あの人との思い出を作れれば願いは叶うかしら。」
 「えぇ・・・それが一番の願いですが・・・出来るのですか?」
 「任せなさい。」
手順は単純だ。二人を今夜の天体観測に連れていく。今夜限りにはなるが、彼を実体化させ、彼の願いを叶える。そうすれば、彼は成仏するはずだ。
      ◇◇◇◇
 「彼が・・・?」
彼女を家に呼び戻し、話を始めた。
 「えぇ。貴女と思い出を作り切れなかったこと、貴女に別れの挨拶も出来ないまま亡くなったことに未練があったようです。」
 「そんな・・・それを私は・・・」
同じように泣き出してしまった。仕方のないことだ。でもそれだけで終わっては進まないのだ。
 「落ち着いて。今夜、守矢神社のある山で、天体観測が行われます。そこに貴女と旦那さんを連れて行き、その場限りで、旦那さんを実体化させます。あとは、お互いに想いの丈をぶつけ合ってください。」
 「そんなことが出来るのですか?」
 「えぇ。それが、博麗の巫女ですから。」
迎えに行くまでに、気持ちを整理し、ちゃんと伝えたいことを伝えられるようにと、念を押して、私は帰った。
      ◇◇◇◇
 「・・・」
境内の中、先代の博麗の巫女と幼い頃の自分が映った写真を見る。しかし、顔を見ても覚えていない。彼女がどんな人間だったのか、どうして自分はこんなに笑顔なのか。
紫曰く、私の先代は、博麗大結界に異常が生じた際、己の身と力を犠牲に結界を修復させたらしい。その時の記憶も、無い。しかし、写真を見ると、かつての自分は先代と共に笑っている。そんな人の事を忘れているのか?
自分の薄情さに寒気がした。そんな人間が提案したことなど、逆に二人を苦しめることになるのではないか?でも、もう戻る事は出来ない。準備をして、日が暮れるのを待つ。
      ◇◇◇◇
その夜、私は再度この家に来た。勿論、彼女を連れて行くため。
 「こんばんは。」
 「どうもこんばんは。わざわざありがとうございます。」
その目は日中よりも凛々しく、心の底に、ブレない芯があるようだった。
 「いえいえ。まだ時間はあります。ゆっくり行きましょう。」
 「ありがとうございます。」
用意をするということで、先に外でまつことにした。ふと空を見上げれば、星々が輝いている。でも、今から見に行く星はもっと綺麗なのだろうか。
 「・・・巫女様?」
 「はい!?」
いきなり声が聞こえた。隣には、少し申し訳なさそうにこちらを見ているではないか。どうやら、暇しているように見えたのだろう。
 「・・・遅くなって申し訳ありません、お暇でしたでしょう?」
 「いえ、空を見てボーっとしていただけです。綺麗ですよ、ほら。」
彼女も上を見上げた。その瞳が輝いていく。
 「とても綺麗・・・」
 「でも、これよりももっと綺麗に見えるはずですよ。行きましょうか。」
 「はい。」
やはり年を取っているからだろう。普段の私よりも歩くペースが遅い上に、たまに躓きそうになっている。
 「夜道は足元が見えにくいですよね。」
と、自身の右手を差し出す。
 「いえいえ、とんでもない。そんな巫女様の手を借りずとも・・・」
 「気にしないでください。大丈夫ですから。」
自ら彼女の左手を掴んだ。そして、ゆっくりと、共に歩き出す。向かうは、守矢神社。
 「巫女様の手、初めて握りました。とても綺麗。でも、どこか力強い。」
 「そうですか?えへへ・・・」
思えば、誰かと手を繋ぐことなど無かった。あったとしても紫や魔理沙が無理やり私の手を掴んだくらいだろう。しかも、自分の手を優しいと言われたことは、本当に初めてなのだ。
 「巫女様。」
 「はい?」
 「巫女様はどうしてこの仕事をされているのでしょう?先代の巫女様の時代からご活躍を見てきましたが、妖怪や幽霊など、人間では太刀打ちできない相手に、臆することなく立ち向かう事が出来るのはなぜでしょう?」
 「・・・」
はっとした。そんな事考えたことも無かった。
気付けば隣には紫がいて。恐らく、先代の巫女もいたのだろう。そしていつの間にか私が博麗の巫女として存在している。私は、博麗の巫女として以外の生き方を知らないのだ。
 「あの、失礼な質問をしてしまい・・・」
 「いえ・・・自分でもまだ答えが出ていないだけで・・・すみません。」
お互いに暗い雰囲気になり、その後、私と彼女は特に会話することも無くなってしまった。
      ◇◇◇◇
 「あ、霊夢さん!!」
 「あぁ、早苗。」
守矢神社に着くと、既に人々が待機している。
その中でも、整列させていた早苗に声を掛けられた。
 「これはこれは、守矢の風祝様。」
隣の彼女は早苗に手を合わせ始めた。
 「ありがとうございます。にしても霊夢さん、珍しいですね。」
にこやかなスマイル。その後、耳打ちしてきた。
 「今度、ね。」
小声で返した。
しばらく待っていると、文や龍が来た。
 「皆様お待たせ致しました。これより、皆様を山頂にご案内いたします。専用の車をご用意しているので、ご利用ください。射命丸、案内を。」
 「はい。皆様、こちらにお並びください!!」
後ろにあったのは、とても大きな車。恐らく河童か、山童にでも作らせたのだろうか。
 「おや、博麗の巫女。」
 「えぇ、来てやったわ。」
列に並んでいると、龍が声を掛けてくる。
 「巫女様、こちらは?」
 「えぇ、こちらは・・・」
 「私は、飯綱丸龍。里で発行されている文々。新聞の作者、射命丸の上司です。」
 「・・・ということです。」
少しカッコつけながら私の紹介を遮った。
 「にしても博麗の巫女、このお方は?里の人か?」
 「えぇ。今回訳あってご一緒してるの。」
 「そうか。なにはともあれ、ごゆっくり。」
 「えぇ、ありがとう。」
龍は去っていった。
 「巫女様は本当にいろいろな方とお知り合いなのですね。」
 「えぇ、まぁ、仕事柄というところでしょうか。今日のこのイベントも彼女から聞いたんですよ。」
 「そうなんですか。」
社内に乗り込み、席に着く。全員が乗り終えると、文がアナウンスを始めた。
 「皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。これより、この車両はこの山の山頂へ移動します。移動中は、安全のため、決して席を立ちあがらないようにお願いします。それでは、発進です。大きく揺れますのでご注意ください。」
文が席に着くと、龍がスイッチを押す。エンジンの音が響き、車体は浮き上がる。
 「「おおー!!」」
乗客の歓声が上がる。隣の彼女も楽しそうだ。
 「本日皆様をご案内いたします、飯綱丸龍と申します。山頂では地上よりも星々が綺麗に見えるでしょう。また、本日は流れ星が見えるかも知れません。もし見えたら、消える前にお願い事を三回唱えると、叶うかも知れませんね。到着までの間、窓から見える景色と音楽をお楽しみください。」
どこか落ち着いたような、それでいてどこか心を掻き立てるピアノの音。彼女が景色をみてのんびりとしている間に、この後の手順を考える。到着次第、少し離れたところで準備をする。準備が整い次第、彼を実体化させ、彼女の元へ連れて行く。それが終われば、天体観測が終わるまでは、私は干渉せずにいるつもりだ。
そして、車は進み、もうすぐ山頂に着くであろう頃、ピアノの音は止まり、再び文が席を立つ。
 「お待たせ致しました。この車はもうすぐ山頂に到着します。その後は、ごゆっくり星空をお楽しみください。」
      ◇◇◇◇
 「いやぁ巫女様、凄かったですね。こんなに人が乗っているのに、浮かんで、しかも音楽も聴ける。」
 「えぇ、とても楽しい道中でしたね。さぁ、降りましょうか。」
 「はい!!」
車から降り、空を見上げる。
 「「うわー!!」」
満天の星空。確かに、地上からでは絶対に見えないだろう。私の心も浮足立つ。
 「綺麗ですね、巫女様。」
 「えぇ。私もこんなにきれいな星空は初めて見ました。」
しばらく二人で星空を見ていると、文がやって来た。
 「こんばんは、霊夢さん。」
 「あら、文。」
 「あ、文々。新聞の・・・」
 「えぇ。いつもご愛読ありがとうございます。そしてようこそいらっしゃいました。」
 「いつも楽しく読ませて頂いてます。」
 「ありがとうございます。にしても霊夢さん、珍しいですね。」
 「えぇ、ちょっと訳アリでね。」
 「あやや?スクープの予感がしますね?」
 「スクープ!?私、新聞に載るんですか?」
隣で彼女が驚きだす。だが、どこかまんざらでもなさそうだ。
 「それは無理ね。」
 「・・・そうですか。では、また次の機械にお願いしますよ!!」
私が此処で事情を話そうものなら、二人のプライベートが割れてしまう。それは避けたい事態だ。だが、文も何かを感じ取ったのだろうか、素直に引き下がった。
 「巫女様・・・」
もう彼女も分かっているのだろう。決行の時だ。
 「では、これから旦那さんを実体化させます。時間はこのイベントの終了時までです。それまでは私は間に入ることはしないので、もう、お分かりですね?」
 「・・・えぇ。」
 「では、ここで待っていてください。」
人込みから離れた。地面に陣を描き、術を唱える。白い光に包まれたが、幸い、他の客には気付かれていないようだ。
 「巫女様・・・」
 「えぇ。少し行ったところに彼女が待ってるわ。このイベントが終わるまでしかこの効果は持たない。どうか、悔いの無いように。」
 「はい、行ってきます。」
陣の中に現れた彼は、急いで彼女の元へ。
 「・・・そういうことだったのか。」
 「!?」
物陰から龍が出てきた。
 「珍しいこともあると思えば。あの男は霊体だったのか?」
 「・・・えぇ。実は・・・」
彼女の家で起きていた事象、それは彼によるものだったということ、その理由、その結果今に至るということ。全てを話した。
 「・・・なるほど、確かにそれはどうにかしてあげたいものだ。そしてそんな場に選んでもらえて光栄である。」
 「・・・なんか利用したようで悪いわね。」
 「いいのさ。私達に不利益があるわけでもない。何より、君が二人の事を考えて出した結論だ。誇りに思ってくれ。」
 「・・・ありがとう、龍。」
 「あぁ。」
      ◇◇◇◇
 「タエさん!!」
聞き覚えのある声が私を呼んでいる。慌てて後ろを振り返れば、ヨボヨボの体で、息を切らしている彼がいる。
 「・・・充さん!!」
彼の体を抱きしめる。博麗の巫女様が仰っていた通り、実体がある。温もりがある。紛れもなく、彼だ。満天の星空の下、私は彼と再会したのだ。
 「博麗の巫女様が助けて下さったんです。だからこうしてタエさんと・・・」
 「知ってます!!充さん、貴方の声、聞こえなくてごめんなさい!!巫女様からお聞きした時、私・・・」
 「いいんですタエさん!!人間に霊の声など届くはずない。貴女が自分の事を覚えていてくれただけで、それだけで十分なんです。」
充さんも私のことを強く抱きしめてくれる。
 「タエさん、僕も貴女に伝えたいことがいっぱいあるんです。」
 「私もです。この星空が終わるまでの時間。一緒にいてくれますよね?」
 「もちろん!!」
 「・・・良かったわね。」
陣を片付け、彼を追ってみれば、既に二人は抱き合っていた。互いに涙に目を腫らしている。満天の星空も相まって、とても美しい姿だった。私の心もぐっと熱くなる。不覚にも、私までうるっと来ているのだ。
 「・・・なるほどなるほど。流石霊夢さんですね。」
 「!?」
またも後ろを取られた。乱雑に目元を擦り、後ろを向く。
 「・・・何よ、上司も部下もいきなり来るなんて趣味悪いわね。」
 「それはそれは。にしても、理由が分かって安心しました。全てはあの二人の為だったんですね。」
 「えぇ。」
 「・・・飯綱丸様曰く、”もうすぐ流星群が見えるかも知れない”とのことです。霊夢さんもゆったりと空を見上げてみては?」
 「そうするわ。」
改めて空を見上げる。輝きを放つ星々。人間も妖怪も、この宇宙に比べれば小さい者なのだろう。
 「なぁなぁ!!あれがオリオン座のベテルギウス、そんであれがおおいぬ座のシリウス、あれがこいぬ座のプロキオンって言うんだぜ!!」
 「すげーな!!これが冬の大三角ってやつか!!」
 「すごく綺麗ね・・・」
 「だろう?あれが冬の大三角なんだけど、君には冬のダイヤモンドを見せてあげる。」
 「え!?ダイヤモンド!?」
 「あぁ。プロキオンから見てポルックス、カペラ、アルデバラン、リゲル、シリウス。これを繋ぐと・・・?」
 「本当だ!!ダイヤモンド!!」
 「君にこのダイヤモンドをあげるよ。」
 「も~!!カッコつけちゃって!!」
いろんな声が聞こえる。友達と、恋人と。でも・・・私には誰もいない。いや、それはそうだろう。誘ってもいないのだから。
 「・・・私は別にいいのよ。」
自分に言い聞かせるように呟く。でも、どこか満たされない。魔理沙がいないから?
それとも早苗?妖夢?まさか紫?いや、きっと心の中に引っかかっていた彼女だ。先代の巫女。彼女はこの空を見たことがあるのだろうか。そんな問いが心の中でループしている。
 「・・・母さん。」
誰の事だろう。私に母さんっていたっけ。
 「霊夢。」
どこからか私を呼ぶ声。魔理沙や知っている者の声ではない。
 「!?」
後ろを見れば、巫女服の女性がいる。どこかで見たような。そう、先代の巫女だ。
 「立派になったな。先代として、母親として鼻が高い。」
 「先代・・・!?」
思わず駆け寄り、抱き着こうとしたが、空を切った。
 「私も触れられないのが辛い。でも、お前は大丈夫。」
 「でも!!私は・・・貴女の事・・・」
 「そうだろうな。私が仕組んだから。」
 「なんで!!」
私、あの写真を見て、あんなに心が痛んだのに・・・。
 「・・・前を向いていてほしいからだ。お前は博麗の巫女。守るべきものがある。それを守るために、戦わなければならない。でも、過去の思い出が道を塞ぐ時がある。だから、お前の道を塞がないように消したんだ。しかし、辛い思いをさせていたようだな。」
 「そうだよ・・・。」
 「ごめんな、霊夢。せめて私の名を伝えておこう。」
 「名前?」
 「博麗・・・」
聞き取れないまま彼女は消えてしまった。
 「・・・なんなのよ・・・。」
しかし、不思議と心は晴れていく。私の名前を呼んでくれたこと、写真で見たような笑顔を見せてくれたこと。私の事を娘と思っていたこと。それだけで不思議と心が晴れた。
私が求めていたのは、会話をすることだったのかもしれない。そう考えれば全てがすっと心に落ちていく。
 「あ、あれって!?」
思わず声に出ていた。周りの人がこちらを見る。
 「え、ほら、あれ、流星群じゃないかなって!!」
とんちんかんな嘘だ。指を指した先には何も見えないはず。人々もきょとんとしている。
 「え、えっと・・・」
瞬間、本当に流星群が現れた。
 「「おお!!」」
まさか本当に降って来るとは。
      ◇◇◇◇
 「タエさん!!あれ!!」
 「!?」
充さんが指さした先には、流星群。確か願いを三回唱えると願いが叶うのだとか。
 (私が今日の日を忘れずにいられますように。)
心の中で三回唱える。
 「タエさんは何をお願いしたんですか?」
 「・・・秘密。」
 「ははは・・・流石タエさん。」
 「充さん!?」
彼の体が薄くなっている。もう時間が来たのか。
 「あぁ、どうやら時間のようです。」
 「そんな!!まだまだ・・・」
 「タエさん。」
急に真面目な顔でこちらを見る。
 「最後の最後まで負担をかけてごめんなさい。そして、ありがとう。死ぬ間際、それが言えなかったのが何よりの心残りだったんです。そしてもう、今度こそ終わりです。」
涙が止まらない。また彼を失うのか。もうこの声を聞けないのか。
 「泣かないでください、タエさん。」
 「!?」
「成仏しても、一緒です。タエさんが私を忘れない限り、私は貴女の心の中にいます。」
いろいろな言葉が込み上げる。でも、それを伝えている猶予はない。だから最後に。
 「忘れるわけ無いでしょう。私も、最後まで貴方の隣にいれて良かったです。」
 「ありがとう、タエさん。」
彼は消えてしまった。そして、イベント終了の声が聞こえた。
      ◇◇◇◇
 「・・・いかがでしたか?」
帰りの車内で彼女に聞いてみた。
 「えぇ、話が出来ました。私も前を向いて生きていけそうです。ありがとうございます、巫女様。」
 「お役に立てて何よりです。」
そして守矢神社からの帰り道。
 「・・・なんで私がこの仕事をしているのか、でしたよね。」
おもむろに問う。
 「え、えぇ。」
 「私が博麗の巫女として生きているからです。大切なこの世界を守るために。大切な人を愛するために。」
 「・・・」
 「私の名前は、博麗霊夢。どうか霊夢とお呼びください。」
 「・・・はい、霊夢さん。」
こうして、彼女の依頼と天体観測は終わった。
彼女を家まで送り、神社に戻る。
 「おーい!!霊夢!!」
そこには、魔理沙や妖夢など、仲間がいた。
 「行ってこい、霊夢。仲間が待ってる。」
後ろからも声がした。
 「えぇ、先代であり、母さん。」
ふと空を見上げれば、二つの星が輝いた。
久しぶりに投稿しています。
感想等お待ちしております。
〔削除済み〕
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コメント



0.90簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
皆で夜空をのぞむ、美しいと思います。良かったです。
3.70夏後冬前削除
書きたいストーリーに対する熱量がすごく伝わってきました。
4.100南条削除
面白かったです
老夫婦を見守りながらちょっと寂しくなってしまう霊夢がかわいらしかったです