Coolier - 新生・東方創想話

お空とお星様

2009/10/10 07:00:53
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『外』に出た。





空を知った。
雲を知った。
星を知った。




言葉ではなく、目で知った。





それは、綺麗で、綺麗で、綺麗だった。

綺麗しか言えないのは、ボキャブラリが足りないかららしい。
ボキャブラリっていうものが何なのかは良くわかっていないのだけど。

ともかく、綺麗だった。



空は見るだけで気持ち良かった。

雲はすごくおいしそうだった。

星は今にも掴めそうほど、たくさん光っていた。





気持ち良い空を、気持ちよく飛ぶ。
風が気持ち良い。
こんなに冷たい風を浴びるのは、初めてだった。



おいしそうな雲に、かぶりつく。
味はしなくて、湿っぽくて・・・
すごくがっかりした。



星は輝いていた。
輝く星を掴もうと思ったんだ。
あの綺麗な宝物を。




だから、こうして夜の空を飛んでいる。




皆心配しているかもしれない。
偉い人は怒っているかもしれない。
ご主人様は、どう思っているかな?


黙って出てきてしまった。
夜に外に行くのはダメだと言われてたから。
ともかく、悪いことをしているってことは、わかってた。





でも、でもね。


掴んでみたかったんだ。
一度でいいから、あの宝物を掴んでみたかったんだ。
私に『広がり』をくれた空と星が・・・お星様が・・・欲しくなったんだ。




馬鹿だな、と自分で思う。
掴める訳がないことは知っている。


でも、夢見たっていいじゃない。
少しでも近づきたかっただけなんだから、近づいてみてもいいじゃない。




抜け出したことは、後でちゃんと謝ろう。

そう決めて、とりあえず楽しむ事にした。

ぐんぐんと近づいてくる・・・

違う

近づいていく、お星様を楽しむ事にした。












・・・ん?
なんだろう、あれ。


空しか見ていなかった私は、チラっと見えた大きなものを目で追った。
追った結果、横を見た。



おっきいなぁ・・・
まずはそう思った。



・・・あれ?
どこかで見たことがあるような気がする。
次にそう思った。



まあ、忘れたんなら仕方が無い。
物事っていうのは忘れるものなのだ。
仕方ない、仕方ない。


気を取り直して、ソレに近づいてみる事にした。







少し近づくと、誰かがソレの中から出てきた。
黄色い・・・あれは妖怪かな?


「こんばんは。良い夜ですね」


話しかけられて、ちょっとビックリした。
ビックリしたけど、自然と“良い夜ね”と返してしまった。


「あなたも、船で空の旅を?」


・・・ああそうか。アレは船だ。
名前が出てこなかった。
船だなんて名前、滅多に聞くことも使うこともないから。

“違うわ” そう言った。
だって、私は星を見にきただけ。
船なんて、見に来てはいないのだから。



「まぁ・・・そうですよね。立派な羽が生えていますし」


少し笑いながら、黄色い妖怪は私を見た。
なんていうか、私をみる彼女は綺麗だった。
姿や形が綺麗とかじゃなくて。
目が綺麗だった。
だからついつい、“綺麗ね”って言ってしまった




少し顔を赤くしながら、妖怪は慌てた。
上手く口が動かせていないみたいで、言葉にはなっていなかったけど・・・
なんか、ソレを見てまた可愛いと思った。


そのままの流れで、名前を聞く。
聞いても無駄かもしれないけど、聞いた。
聞きたかった。




「私ですか?私は・・・星です」
“ショウ?”
「そうですよ。毘沙門天様に師事を頂く、寅丸星と申します」
“・・・和尚様?”
「・・・・・・・・・はい?」





ショウと聞いて、最初に浮かんだのが和尚様だった。
だって和尚様って、ショウって人を敬って呼んでいるんでしょう?
誰かが私にそう教えてくれたから、多分間違いない。



「えっと・・・和尚ではないですよ。名前が星というだけです」
“ショウなのに?”
「え・・・ええと・・・むぅ・・・」



なにやら黙ってしまった。
ショウは、うんうんと唸ってばかり。

上手く伝わってないのかもしれないと不安に思って、和尚様が敬った呼び方だと教えてあげた。
ちょっと時間がかかったけど、ちゃんと伝わったはずだ。



「・・・・・・・・・・・・ぷッ」



え?ちょ・・・え?

「・・・あは・・・あはは、はははは・・・あはははっはははははは!ははははははっはっはははは!!」


ショウは突然笑い出してしまった。
変なことは言っていないはずなんだけれどなぁ。

“なにがおかしいのよ”
「ははっは!いや・・あっははは!・・・ごめんなさいッ・・・ぅくはははっははは!」


良くわからないけど、なんかかなり頭にきた。
弾幕でも打ち込んでやろうかと思ったところで、ショウはようやく落ち着いた。


「いやぁ・・・そんな風に言う方は初めてでしたよ。なんというか・・・あなた、素敵な方ですね」
“・・・へ?”


ますますワケがわからない。
頭の中がこんがらがるのが、自分でもわかった。



“ワケがわからないわよ”と、軽くふてくされる。
すると、笑顔のショウは懐から変なものを取り出した。

・・・これは



“・・・塔?”
「ええ、毘沙門天様の宝塔です。本来はこういう使い方はしてはいけないのですが、今は書くものがありませんので・・・」



そういうと、ショウは塔を持って、星にかざした。
すると、鈍い色をしていた塔が輝きだす。
光が、沸いて出てきた。


“うわぁ!”と、ただ驚くことしかできなかった。
驚くくらい、綺麗だった。
もう何度目かはわからないけど、綺麗って言うしかなかった。

まるで、それは・・・そう。
目の前に、お星様が在るかのようだった。



塔は光る。
眩しくて、他の星がかすんでしまう。

あふれ出してくる光は、少しづつ動き出す。
うにょうにょと、まるで蛇のように空を這いずる。
細い一本が光から這い出て、また細い一本が光から這い出て。
空に、縦と横に規則正しく並ぶ。

いつしか、それは一つの文字となった。
そこには、ただ一文字。

『星』と書かれていた。


“・・・・・・ほし?”
「いえ、あっているけれど違いますね。これでショウって読むんですよ」


またびっくりして、言葉が出てこなくなった。
ただ、ショウの方を見ることしかできない。
え?ということは、どういうことなのか。


“ショウは、お星様なの?”
「・・・いいえ、違いますよ。私は和尚でもなければ、星でもありません。ただの神様の弟子ですよ」



そばで煌く、文字通り『星』と書かれたきらきら星。
その光を受けて、素敵に輝くショウ。
それは、私が探しに来たお星様に見えた。

いや、

もう、私の中では、ショウはお星様だった。
こんなに輝いてる妖怪なんて、見たことがなかったから。



「・・・ところで、あなたの名前はなんというのですか?」



文字を消し、元の暗さに戻る世界。
闇を呼び戻したショウが、軽く尋ねてきた。


“私?私は・・・・・・”





ふと、自分の名前を言う時に、なんだかぴったりだなと思った。
なにがって、私とショウが。
運命的にぴったりじゃないか。





“私は、霊烏路 空。そらって書いて、うつほ”
「うつほさんですか」



そう確認して、また微笑む。
その微笑みに、たまらなく我慢できなくなって
星の眩しい光から、目を逸らした。



「よければ、私たちの船に寄っていきませんか?多分、皆さん気に入ってくれますよ」

そういって、私の後ろをショウは指差した。


気がついたら、船は目と鼻の先にまで来ていた。
音はしない、ゆったりとした動きなのだが、周りを飛ぶ妖精がやかましいせいで、どうにも賑やかに見える。


「いかがです?」


そう誘われて、首は縦に動いた。
心で決める前に、体が動いていた。

何がそうさせたのかはわからない。
わからないことは考えても時間の無駄だろう。

それにまぁ、仮に考えても大して変わらないだろう。
きっと心も、そう決めただろうから。








船の入り口に向かう途中、私は言った。


“・・・和尚様じゃなかったけど、やっぱりあなたは星だったじゃない”
「へ?何がですか?」


私の心が決めたこと。
わかるわけが無いから、説明はしてやらない。
ポカンとしたショウの顔を見て、ふふんと笑ってやった。
理解できていないショウは、私の顔を進む方向を交互に見ながら、なんとも不思議そうな顔をしていた。




空の私と、星のショウ。
なんか、素敵だと思った。
気がつかないうちに、笑ってしまう。
まるでこの空のように、気持ちよく作る笑顔。







船の入り口についたところで、振り返る。
目指していた空と星は、未だにきらきらと光っている。

でも、もう上に向かう必要はなかった。


目的のものは、見つけたから。









お空とお星様は

おくうとおしょうさまは



ゆっくりと、笑いながら、船の中へと消えていった。
思いついたら、書くの止まりませんでした。
こんな出会いがあってもいいと思うんです。
お空は地獄烏なわけですから、空や雲や星を見たら感銘を受けるのではないかなぁと書き始めました。

いい加減、レイアリのネタが溜まってきました。
次こそはレイアリで投稿したいものです。
ほむら
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コメント



0.1350簡易評価
4.80名前が無い程度の能力削除
あの、さっきから雲山がモジモジしてんですけど
5.80名前が無い程度の能力削除
月は誰ですかね。
9.100名前が無い程度の能力削除
綺麗な話だなぁ…(´ー`)
こういう雰囲気大好きです。
15.90名前が無い程度の能力削除
おくうのふわふわした感じがよく伝わってきました。
きれいないいお話だと思います。
22.90名前が無い程度の能力削除
きれいなお話をありがとう
あなたの書く話は何かいつも惹かれるものがありますね
27.80名前が無い程度の能力削除
翼をもちながら地底に封印されていた空。初めて見た夜の星空。そこで迎えた、一つの出会い。
空にとって、この出会いは大きく輝く経験のひとかけらになったのでしょうか。