*前作の『ポイントオブノーリターン』の咲夜視点の話となります*
**前作を読んでいなくても分かるように書いています**
いつの間に迷路に入り込んでしまったのだろう?
紅白と白黒に負けたときには既に。それしか分からない。
時間を操る能力をもって生まれ人間に負けたことがなかった私は、初めての敗北に心の底からおびえた。侵入者が、お嬢様の悪戯を止めに来ただけとは限らない。
もし、もし。悪い吸血鬼を討ちに来た、狩人だとしたら?
主人を信じて待つ間、嵐の海に放り出されたような無力感と、予想できるうちの最悪の結末が私を責め立てた。
そして愛しい人の無事を確認したとき、自分が紅く燃え盛る迷路の中にいることを悟った。
私は吸血鬼の主を、種族も主従も越えた思いで、愛してしまっていたのだ。
苦しみから逃れる術は知っていた。
『人間で従者の私を愛してくれることなど無い』そう諦めて距離をおくこと。迷路の出口を探すのでは無く、迷路の入り口に戻ってこの感情の扉を閉め、忘れる。それが正解で、今までどおりの穏やかな生活の続け方だと。
けれど私は気づいてしまった。彼女もまた、私を愛していることに。
迷路は、私がレミリア・スカーレットによって導かれて抜けた直後に二人の炎で燃え崩れた。来るところまで来てしまった私は、選ばなければならない。
二人の恋慕で未だ燃えさかっている道を戻り、炎に巻かれて心を殺すか?
それとも彼女の冷たい手をとって、一時の暖かさを分け合いながら生きていくか?
答えを出せないままに、私の時間は減り続けていく。
「どのような紅茶をご用意いたしましょう」
「さっぱりしたのが飲みたい」
「かしこまりました」
キッチンに向かいながら好きな人の思惑に考えを巡らす。もう秋だが昨晩の雨と今日の晴天で少し蒸し暑く感じる天気だから、喉越しが涼やかなものをご所望なのだろう。となれば、今日は。二日前に買った黄と橙の二つの果実を切り分けていく。小ぶりで繊細な意匠が施された皿に円を描いて盛り付けて、来た道を逆戻り。
手の上にあごを乗せ期待の篭った目で見つめられる間、私の緊張は心地よく高まっていく。これは挑戦。貴方が望むものは何だって分かっているのだという、ささやかなアピール。
「ふむ、とても良いチョイスだわ、咲夜。オレンジティーとレモンティー、どちらを飲むか迷ってしまう」
「どちらも良いものを切りましたから、一杯といわずに二杯お飲みになってはいかがでしょう」
「そうね、そうしようかしら」
柑橘系フレーバーの紅茶が飲みたくなるのではと思って買っておいたこの果物は、幻想郷では手に入りにくい欧州産のものだった。日本産のものでは甘すぎる。カラリと乾いたところで育ったこの果物は瑞々しい香りと紅茶に良く合うほどよい酸味を持ち、香味付けには最適だ。もちろん紅茶はセイロンで、クセのないものを淹れた。
「今日も美味しいわ」
「ありがとうございます」
いつも上がっている口角を更に上げて、歯が見えるほどの笑顔がお嬢様からこぼれた。自分では『あまり大きく笑うよりも、常にうっすらと笑っているほうがカリスマティックでしょ?』と言って歯を見せて笑うのは好んでいないが、私には牙がチラリと見えるくらい口を開けて笑ったこの表情が、どんな顔より魅力的に映る。
「それで今日はどうするの?」
早々と一杯目を飲み干したお嬢さまに二杯目を用意していると、さてそろそろと言ったように尋ねられる。
「人里と神社へ行ってきます」
「そう。一緒に行きたいところだけれど、こんなに晴れていては面倒だわ。キチンと暑さ対策をして出なさい。その銀髪を傷ませては駄目よ」
「かしこまりました、日傘を差して参ります。夕方には戻ります」
ただの気遣いとも受け取れる言葉なのに、心臓が喜んでドクリと跳ねた。
そして――手をすっと伸ばされる。これは最近始まり、常態化した行為。
椅子に腰掛けたままのお嬢さまの左隣に跪く。お嬢様の冷たい右手が私の左手を取り、左手の指が私の髪を梳き愛撫する。呆けたような表情をしているであろう顔は見られないようにうつむき、震える熱い体と吐息を歯を食いしばって押さえ込んで、二度三度と撫で擦られる快楽を受け入れる。
疼く身体に耐えられなくなった私が、きゅっと握る手に力を込めれば終了の合図。手が毛先を弄りながら名残惜しげに離れていく。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「ありがとうございます、行って参ります」
繋がれていた手を放さずにお嬢様の手の平を上向ける。指先と手首近くに一つずつキスを落として、精一杯に心を示し返した。
ようかんを三本ほど人里で買い、それを手土産に神社へ向かう。洋菓子を作って行っても良かったのだがあそこで緑茶以外を出されたことは無いし、最近はアリスがよく出入りしているから和菓子にした。霊夢にアリスの目の前で味を比べられたり、アリスに嫉妬心を起こされたりしてはたまらない。
程なく神社が見え、霊夢が掃き掃除をしている姿が見えた。百メートル位といったところで気付かれたので手を振ると、手を振り返された。最近丸くなったというか愛想が良くなったと思う。ただ単純に『十六夜咲夜はお土産を絶対に持ってくる』と認識されただけでは無い、と思いたい。
「はいお土産の羊羹。普通のと栗と抹茶の三本入りよ」
「ん、ありがと。丁度休憩しようとしてたから、これ切って茶請けにするわ」
中に入っていくのを見送ってさて待つかと思ったら、すぐに戻ってきた。
「アリスがすぐに用意してくれるって。縁側に座って待ってましょ」
今日はいないのかなと思ったら、中に居たらしい。
なんとも仲の良いことだと思って、本当によく一緒にいるわねと冷やかし半分羨ましさ半分で突っ込みをいれると、冷やかしを言われ慣れているのだろう、あんたらもね、と顔色一つ変えずにカウンターされる。一緒にするなと言いたかったが今日は用事があって来たのでそれ以上は何も言わないことにした。
「霊夢はどうしてアリスと付き合おうって思ったの?」
さばさばとした彼女なら構わないだろうと思って、ここ最近悩んでいたことをさらりと切り出してみる。
「惚気話でも聞いてやろうか、っていう様子じゃないわね。どうしたのよ?」
「そうね、アリスの良いところは今度たくさん聞かせてもらうとして、今日は貴方が寿命に対してどう考えてアリスと付き合っているかを尋ねにきたの」
「そういうこと。別に良いけど、参考にならないかもよ?」
「承知の上」
せいぜい百年しか生きられない人間と、数百年は生きることが出来る人外。私と霊夢は確実に愛しい人を置いて先に死んでしまう。それは絶対の未来。
目の前の彼女はそのことをどのように受け止め、覚悟したのだろうか。
「まぁどう考えてるって聞かれても、特に深くは考えていないとしか答えようが無いのだけれど」
「ささいなことでもいいの」
「だから、どう生きたらいいとかそんなのは何も考えていないの。強いて言うなら、楽しいことを諦めて生きるなんて人生がもったいないと思った。それだけよ」
もったいない。笑いもせずにそう言う彼女を、とても霊夢らしいと感じた。そして私は霊夢よりネガティブなのだろう。親しくなってしまえば別れが怖くなる。だから私は離別の時が致命的にならないように、離れるときに痛くならないようにと考えて、お嬢様との関係を一歩踏み出せずにいる。
それを霊夢は、来るだろう痛みと恋人との日々を天秤にかけたとき『楽しく生きなければ損である』という錘を恋人の乗っている台座に乗せたのだ。
私にはその考え方は出来そうにもない、と思う。楽しもうと積極的に動くより、現状維持してしまうのだ。うん、今の会話で霊夢と私の性格は大きく違う、それが明らかになった。
「む。やっぱり参考にならなかったって顔してる」
「ええ、十人十色という言葉を噛み締めていたの。人間って奥深いわね」
「何よそれ。非常に遺憾に思うわ」
横を向くと拗ねたような顔をしていた。悪かったわごめんなさい、と謝ってみてもへーへー、と返されてしまう。困った、気を悪くさせてしまった。どう考えたって私が悪いのだが、何の参考にもならなかったことは事実なのでどうフォローしていいか分からない。
「お待たせ、ってどうしたの。ケンカならよそでやってよ」
良いタイミングでアリスがお茶と羊羹を持って来てくれた。
「いやここ私の家だから、いえアリスは自分の家も同然に居てくれてかまわないけれど」
「来客中よ、イチャつくのは控えてもらえる?」
「ああごめんなさい。まったく霊夢ったら。せっかくお土産まで持っていらしてくれたのだから、キチンとお構いしなくちゃ駄目でしょう?」
「そんなに気にしないでアリス。和菓子は私も食べたかったから買ってきたのよ」
「はいはい私が悪うございました。なによなによ二人して。いただきます!」
茶と黄と緑の羊羹が二切れずつ並ぶ皿を手に取る。まるで最初からこの厚みでしたと言わんばかりの均等な厚みと滑らかな断面で切り分けられたそれは、アリスの手先の器用さをうかがわせた。
「これすごく美味しい。どこで買ったの?」
「アリスのよく行く手芸屋さんの近くよ。今度一緒に行きましょうか」
「むぐぐぐぐぐ」
「ああ急いで食べるから!お茶飲んで、はい。もう、どうしたら羊羹を口回りにつけるのかしら。拭いてあげるから食べるのちょっと止めて」
「もう貴方たち結婚しちゃえばいいと思うのよ。あっ、この栗のやつすごく美味しい。フランドール様に買っていこう」
「けけけっこnゴフゴファ!」
お茶の苦味は絶妙で、羊羹の甘さとよく合い互いに引き立てあっていた。洋食派だと思っていたが、和食も腕を上げているのかもしれない。料理のバリエーションを増やすために今度教えを請うてみようか。
「さぁてと。掃除の続きでもしよっかな」
どうやら糖分が身体に行き渡ったらしく、おやつの前よりもハリのある声だった。気分良さげに歩いていく霊夢をアリスと二人で見送ると影の長さが来た時よりも伸びていて、秋の日の短さを見る。
「寿命に対してどんな風に考えて、か」
ポツリと、アリスが呟いた。ちくりと、胸が痛んだ。まさか。
「……聞いてたの?」
「上海にお茶を持って行かせたら、たまたまね。話題が話題だったから出るに出れなくて」
「いえ、気を使わせて、ごめんなさい」
彼女とはしたくない話だった。人間の彼女をもつ種族魔法使いのアリスに寿命の話は残酷だろう。彼女を傷つけたくない。謝って、忘れてとお願いして、別の話題を振ろう
そう思って横を向くと、彼女がこちらを見ていた。空色の瞳の、その透明さと綺麗さに見入ってしまって声が出ない。
「あのね、咲夜。聴いて欲しい話があるの」
「……私でよければ聴くわ」
空色の悲しげに、少し陰った。
「霊夢と付き合ってて、今とても楽しいわ。けれど胸が潰れそうなくらい辛いことが一つ、あるの」
「うん」
「霊夢が私より早く死んじゃうことなんて全然平気なくらい、ううんそれもすごく嫌だけど、もっともっと辛いことがあって」
私は何も言えない。それよりも、もっと辛いこと?見当がつかない。アリスの顔が自嘲的な笑いに歪む。
「霊夢がね、時々だけど、泣くの。夜、横に並んで寝てるとふっと起きだして、寝てる私の顔を見てごめんなさいなんて言って、それから私に背を向けて泣くの。多分、私を置いて死んでしまうことに罪悪感があるんだと思う」
「それは」
「隠せていると思っているんじゃない?しっかりばっちりバレてるあたり可笑しいわよね。私は悲しいけれど」
甘いものに慣れていってしまうほど、苦いものに耐えられなくなってしまうのだろう。
悲壮感に溢れた瞳から目が放せない。彼女の悲しみから逃げることは、私の好きな人からも逃げることだと思った。
「もうね、悲しくて辛くて悔しくて仕方ないわよ。霊夢を泣かせる私の存在が悲しいし、霊夢を泣かせるのが辛くて堪らないし、私が横にいるのに霊夢がコソコソと隠れて泣くのが悔しい」
「隠れて泣くのは、貴方のほうが辛いと分かっているからだと思うわ」
「ええ、きっと霊夢はそう思っているのね。けれど私は、私のために泣かれるほうがずっと辛いの。一緒にいる間はずっと笑っていて欲しいのに、私が泣かせてるのよ?その間にも時間は過ぎていくし、これから先二人で楽しいことを沢山していこうって決めたのに、それと同じくらい泣いて暮らしていくのかと思うと、ね」
やだ、話が大分それちゃった。これじゃあただの愚痴ねごめんなさいと言う謝罪で話が止まった。
話を変えようと思って話題を探していたらふと、この前あったやり取りを思い出した。差し出がましいかもしれないと思ったけど、その内容をアリスに話すことにする。
「前にね、図書館でお嬢様が『この本は嘘を書いていて読むに値しないわ』って、読んでいた本を途中で放り投げたの。パチュリー様が『この本はどんな嘘をついているのかしら』って尋ねて、お嬢様がつまらなさそうに、というか呆れたように言ったわ」
自分の心を切り分けながら思い合う貴方たちの夜が、少しでも明るくなればいいなと思いながら言葉を出していく。
「『大切な人が居れば楽しいことは二倍になって、悲しいことは半分こ、なんて。これ本気で言ってるなら大切な人との関係が歪か、足し算が出来ない人でしょうね。そうじゃなければ大嘘もいいところだわ』って」
「へぇ。それ家族ものの小説とか、絵本でも使われるくらいのよく聞くフレーズなのよ?ケチをつけた人なんて初めて聞くわ。どこがどう、うそだ、なんて……」
訝しげに出たアリスの声が尻すぼみになって、口端が引いて結ばれる。『嘘』の箇所が、分かったのだろう。いらぬお節介かもしれない。けれどここまで来たら最後まで友達面をさせて欲しかった。
歩み寄って、ぶつかって、距離を測って、また歩んで。人との関係って、そんな風に続けて行くものだから。
「お嬢様が言うにはね、『私の大切な人が悲しんでいるなら、私も一緒に悲しくなる。どこが半分こよ。一足す一は二でしょうが。慰めあったりして解消は早くなるかもしれないけど、悲しみの絶対量は変わらないわ』だって。
……ねぇ、アリス、話し合ってみて。我慢する、じゃなくて二人の悲しみや辛さを一緒に解決していくことは、貴方たちにとって難しくないことだと思うの」
端正な顔が無表情にこわばり、それが解けると同時にアリスの空色の瞳は曇天を経てボロボロと大粒の雨を降らし始めた。口元を押さえた手を伝って、あるいは直に、服に降り注いでいく。涙を拭うのは私の役目じゃないから、ハンカチを貸してあげる。
それからしばらく、アリスが時折漏らす嗚咽と木の葉がさざめく音を聞いていた。
霊夢にこの状況を見られたらどうなるだろうと心配し始めたとき、視界の端でアリスがこちらを向いたのが見えた。真っ直ぐに顔を見ると悲しげな笑みは消えていて、今はどこか申し訳なさそうな苦笑いが浮かんでいる。
「みっともないところ見せちゃったわね」
「そんなことない、綺麗だったわ」
「やめてよ。レミリアに言いつけるわよ?」
「貴方に手を出したら退治されるでしょ。そういう意味じゃなくて」
というか。待って待って。
「ちょっと待って、どうしてそこでお嬢様がでてくるの」
「だって貴方レミリアの恋人じゃない、浮気は良くないわ」
「それ嘘よ。何処でそんなこと聞いたの?天狗?」
「いや、貴方たち二人の様子を見てたらそうだろうなぁって。と言うか、違うの?あんなにお互い意識してるのに?」
「私は従者なんだからお嬢様の一挙一動気にするのは当たり前でしょう。仕事よ、仕事……ってなによその顔は」
勘違いは勘違いした方が認めてくれないといつまでも終わらない押し問答になってしまうのに、貴方なに言ってるの?みたいな顔をされても困る。けれど眉根を寄せて私を凝視するアリスにたじろいで、言い返せない。
「宴会中にチラチラ目を合わせて、相手に触り上戸のやつが近づいてきたら露骨に嫌そうな顔して引き放して、帰るときには寄り添ってそそくさと飛んでいく貴方たちは恋人同士にしか見えないのだけれど、本当に違うの?」
「違うわ」
いや、私だって客観的に聞けば『こいつら付き合ってるな』と勘違いしても仕方ない態度だと思う。けど、当事者的にはそんなつもりは無いわけで。これはちょっと、いやちょっとどころではなく。
「……なんか、恥ずかしい」
「えっすごい今更」
今更って。自分が赤面している気がしてアリスと反対方向を向いたらアリスの人形が居て、冷やかすように肩をツンツンしてきた。逃げ場なし。もうやだ。
「やぁね、甘酸っぱくてなんだかもぞもぞしちゃう」
「うるさい、毎日一緒にいる貴方たちなんてさっさと結婚しちゃえばいいのよ」
「そしたら咲夜、ウエディングケーキ作ってくれる?」
「宴会のフルメンバーが二回おかわり出来るくらい大きいのをプレゼントするわ」
「んー無駄に良い返事。なら料理と式場もお願いしようかな。ドレス着たいから神前式じゃなくて西洋式にしたいのよ」
「お色直しは七回よね、分かってるわ。お嬢様に頼んであげる」
だから、なにも心配せずに、いつも笑ってたくさん幸せになればいい。
「それはそうといつ告白するの?」
「さも私がさっきから恋愛相談をしていた風にさらっと言うの止めてくれる?」
アリスのニヤニヤ笑いで、私の友達思いの微笑はぶち壊しになった。
「だぁって、ねぇ。じれったいのよ。貴方たち両思いなんだからさっさとくっついちゃえばいいのに」
「そう、言われても」
「レミリアから、なんて待ってちゃダメ。気持ちは決まってるみたいだけどプライドが邪魔をしてるのかしら、告白してくる様子がないわ。進展させたいなら貴方次第なのよ」
「そ、そうかしら?」
「そうなのよ。それに、聞いてよ咲夜。さっきの逸れちゃった話の本題なんだけれどね」
晴れたと思った空色が、ふっと、また陰った。
「今の生活がどうかって訊かれたら、幸せですって即答出来るくらい幸せだわ。なんでもっと早く告白しなかったんだろうって、よく思うのよ」
アリスの声は幸せを中に詰め込まれて、ちりちりと震えていた。共に過ごす時間を必死にむさぼって、それでもまだ掻き集めずにはいられない彼女の言葉は、そのままあの人の言葉のように聞こえて私の心を穿つ。
何も言えない。そうでしょうねと言って、頷くことしか出来ない。
「あ、今の話はただの惚気話じゃなくて、いわば試供品よ。幸せのお試し版をどうぞ、ってね。私の話を聴いて恋人が欲しくなったでしょ?」
「ええ、貴方はすばらしい販売員みたい。良いものを教えてくれてありがとう、私も欲しくて堪らなくなってしまったわ」
軽口に隠して私を急かすアリスに、こちらも軽口で忠告を受け取る。
「どういたしまして。こちらこそ『足し算を教えてくれてどうもありがとう』って伝えておいて」
「急にそんなこと言っても意味が分からないと思うわ」
「知ってる?恋人同士って言うのはお互いのことが気になるし、だから隠し事は無しになんでも話すのよ?もちろん今日のことだって話してくれてかまわないわ」
「分かった、なるべく早く伝えられるようにします!これでいいでしょう?今日はありがとう、もう行くわ」
「ん。いつもお土産ありがとう。今度来るときはレミリアも一緒にいらっしゃい」
そんなに急かさなくてもいいじゃないかと言おうと思ったが、このお節介は友情からきてるものだと分かっていたのでやっぱりやめた。
臆病な私には、こういう友人が必要で大切にすべきなのだ。
紅魔館の手前に生い茂る林の中に降りて、途中から歩いて行くことにする。少し考える時間が欲しかった。
告白、か。……はあ、我ながら情けないが、どう考えたって上手くいきそうにもない。これが初恋だから告白の経験など無いし、いざ告白!という場面で自分がお嬢様の前でまごまごしてしまうのが、容易に予想出来た。
どうしたものかとひとり立ち止まって首を捻る。うーん……
あぁ!
告白する場面を想像して、練習をしてみるのはどうだろう。シミュレーションして成功へのイメージを作ることが出来れば、告白する勇気も持てるはず。周囲の状況や二人の状態まで組み込んでシミュレーションすればより万全だろう。お嬢様のことなら私が誰より理解している。妄想、もとい想像することなど容易いことだ。
うん、これは良さそう。というか今はこんなことしか出来ないし、とにかく何でもしてみるしかない。
深呼吸をし、思考の海に沈む――――
――――月明かりがテラスに降り注ぐ。雲一つなく、月が陰らない夜。今宵以上に綺麗な月はそうそう無いだろう。逢瀬を極上のワインでほんの少し高ぶらせて、万端の準備にだめ押しを。
お嬢様の手に導かれて跪くと二人の秘密の行為が始まった。
つつっと吸血鬼らしい冷たい手に撫でられて、耳元近くの薄い皮膚から全身に快感が伝播する。腰が退けるが、この繊細な手に慣れてしまった私はもっと強い刺激が欲しくて、跪いたままに動けない。
首筋から耳元を経由し顎に手をかけられて、仰ぎ見ると気が付けば愛しい人しか見えない程に近くなっていた。紅い宝石の瞳がギラギラと輝いて私を照らす。自分の藍色のそれもきっと、濡れて光っているだろう。
牙の覗く艶めいた笑みから、ふぅっと吐息が漏れた。果実酒の香りに酔わされる。
心が、溶けて。
もう――――
――――無理です。本当にありがとうございました。
地面に突っ伏してしまいそうになるのを踏ん張ってこらえて、額を木に押しつける。もう私は駄目かも知れないと思うくらいのとんでもない桃色妄想をしてしまったことを恥じた。一言も喋れなかったことが情けなさ過ぎる。妄想の中だけでも口説けない、どこまでも受け身な自分が嫌になった。
もういいや、おとなしく帰って夕食後にまた練習しよう。日が落ち始めて空は橙色に染まっている。帰り着いたらすぐに夕食の支度を始めなくてはいけない。脂の乗ったサーモンがあるからそれを捌いて、マリネがいいだろうか?それがいいな。昨日の夕食は肉料理だったから今日は魚をメインにしよう。
自分の腑甲斐なさに全力で目をつむり、桃色を払拭して紅い館の完全従者に頭を切り替えた。
林を抜けて館の前の整えられた平地に出ると、見慣れた門前にお嬢様と美鈴が立っていた。早く「お帰り」って言われたくて走りたくなる気持ちを、メイド長に求められる品性でもって抑える。けれど足は素直な気持ちそのままに早まった。
「お帰り、咲夜」
「お帰りなさい咲夜さん」
「只今戻りました」
嬉しい気持ちが胸を満たす。従者としてあるまじきことかもしれないが実は、おかえりを言われるのが好きだった。愛しい人たちが私の帰りを喜んでくれるのを、幸せに感じる。
「今から夕食の準備をするので、一時間後くらいに食堂にきていただけますか?」
「分かった。楽しみにしてる。……ねぇ、咲夜。今夜二人でお茶会をしましょう」
「分かりました。では夕食のあとに飲みたい銘柄とお菓子を伺います」
えっ?とか言わなかった自分を褒めてあげたい。さっきの妄想を思い出してかぁっと顔が熱くなったので、失礼しますと言い残して早々とこの場から退散する。
チラリと振り返ると、お嬢様と美鈴が見つめあってなにごとかを話していた。
お嬢様の表情は分からないが、美鈴の顔には笑顔が浮かんでいてすこし妬ける。あの二人は私の入り込めない繋がり方をしているから、きっと互いにしか見せない顔が沢山ある。夜には私と一緒にいるはずだからと我慢は出来たが、やっぱり妬けて仕方がないので美味しい料理を作らなくてはと気合が入った。
「紅茶とお菓子はいかがしましょう?」
「んー、紅茶じゃなくていいや、ワインだして。さっきより良いやつ。つまみもいらない」
そう言われて、ようやく自分の失敗に気づいた。夕食に赤ワインを出したのがまずかった。いや、美味しいと褒められてすごく嬉しかったけど、夕食にワインを嗜んだあとはほぼ百パーセント飲みなおすことを失念していた。そして更に八十パーセント以上の確率で、より上物のワインを所望することも忘れていた。旬のサーモンにあわせて良いワインを夕食に出していたから、かなり良いワインを用意しないといけない。
窓の外を見る。
――雲一つなく、月が陰らない夜。今宵以上に綺麗な月はそうそうないだろう。逢瀬を極上のワインでほんの少し高ぶらせて、万端の準備にだめ押しを――
きっと私は未来を見る程度の能力があるに違いないなんて、激しい現実逃避をはじめてみる。が、すぐにやめた。雲が無ければ月は表情を変えず、栓を抜いてないワインはボトルの中でひそやかに熟成されていくだけで、現状が変わることはないのだ。
ここまで来れば、私がすぐそこに居るのを感知されているだろう。お嬢様の待つ部屋の前までたどり着き、二秒静止し一秒間に二回ノックをする。もう振り返ることも出来ない私は、愛しい人へまた一歩近づいた。
拾われて連れ帰られたときも、数日後に正面から顔をあわせたときも、春の暖かい夜のような十数年も、ずっとずっとドキドキして過ごしてきた。だから、出会った夜からずっとレミリア・スカーレットに恋していたんだって、気がつかなくって。
見ていたい、見つめられたい、触れたい、触れられたい、抱きしめたい、抱きしめてほしい。失いそうになって初めて自分の気持ちに気づき、気づいてしまえば求めるものに限りはなくて、自分の欲深さにほとほと呆れてしまった。従者ごときが主人に懸想などしていいはずもない。実らず散るしかない恋。私に許されたのは自然に散るまで生きることだった。
散るだけのはず、だったのに。
お嬢様が手招きをしている。日々の端々で私を求めて甘い声で囁いて、蕩けさす仕草で目を奪っていく。日々を止められず、抗えない私は、恋路を一歩ずつ踏み出して行くばかり。
もう、私の恋に逃げ場所はない。この細い道の上で、私の心が後戻りを許さない。
「紅茶、お飲みになります?」
「結構よ」
何を言っているんだ私は。ワインを飲んでるのに、紅茶を飲みたくなるわけないだろう。
真正面からの視線に照れて変なことを口走ってしまいさらに恥ずかしくなったので、目線を深く下げて紅茶を淹れる。見えないから分からないけど、多分というかほぼ確実にお嬢様はこちらを向いているだろう。それに気がついてる様にするのと気づいてない様にするのは、どちらの方が可愛げがあるのだろうか?
紅茶を淹れ終わって顔を上げると案の定、お嬢様は私を見ていたようだった。紅茶を少し飲んで気持ちを落ち着ける。うん、顔を下げていて良かった、多少薄いけど飲める程度には淹れられた。
「今日は何をなさっていたのですか?」
「久しぶりにパチェと長い時間話したわ。調子が良かったみたい」
「それは良いことですね。ちょっと前に小悪魔が『気管支炎に効く茶葉を手に入れた』と言っていましたから、それが関係してるかも」
パチュリー様の喘息の改善のために小悪魔がハーブの勉強をしていたことを知っているから、感慨深いものがある。
「あと、小悪魔の淹れた紅茶が思いのほか美味しかったわ。本が好きな悪魔だからと期待していなかったのに、なかなかどうしてああも上手く淹れてくれるとはね。今は貴方には劣るけれど、もしかしたらもしかするわよ」
「本当ですか?小悪魔に紅茶の淹れ方を教えたのは私なんですよ。負けずに精進しなければなりませんね」
「ほう、初耳だわ。どれだけの時間をかけて教えればあんなに上手に淹れられるようになるのかしら」
「一ヶ月もかかりませんでしたよ」
「日夜特訓でもしてやったの?」
「いいえ。私にも他の仕事が有りますから。教えたのは実質三日程度です」
「ほう」
お嬢様に褒められるほどの紅茶を淹れられるようになったことに驚くが、彼女が努力家なのは知っているし、基本をしっかり守って丁寧に紅茶を淹れているのだろうと思うと納得した。素直に嬉しく、教えた甲斐があるというものだ。
しかし、私よりは美味しく淹れられるはずはない。そこは、それとなく反論したくなった。
「もともとお茶の心得があったのね?」
「初めてだと言っていました」
「上手に淹れられる道具を渡した。当たりでしょう?」
「初めに使っていたポットは私のお下がりで、今使っているのは小悪魔が人里で買ってきたものですよ。淡い紫の唐草模様が描かれた綺麗なものなので、確かに美味しく感じるかもしれませんが」
小悪魔よりも上手に淹れられることを分かって欲しいだけで特に困らせるつもりがなく、首を傾げて眉を寄せるお嬢様が可愛かったので「ヒントをお出ししたいのですが」と提案してみると、「ヒントを提示することを許可するわ」と返された。
さて、すぐに分かってくれるかどうか。
「ありがとうございます。先ほどああはいいましたが、私は小悪魔より美味しい紅茶を必ず淹れられます」
「たいした自信だこと。やっぱり何か秘訣があるのね?」
「ですが、私は小悪魔よりも美味しい紅茶を淹れることが出来ません」
「何を言っているの、さっきと矛盾しているわ」
「アリスは私たちより美味しいお茶を淹れることが出来ます。けれど私と小悪魔はアリスより美味しい紅茶を淹れることができます」
「何よそれ」
お嬢様は何度答えても当たらないことに苛立っている様子。しかし私はなにも矛盾したことを言っていない。私とお嬢様、小悪魔とパチュリー様、アリスと霊夢で、それぞれが最高のものを淹れ、味わっているのだ。
「お手上げよ。私にはこの言葉遊びを解けないわ」
「答えは結構シンプルなんですよ?でもまぁ、そろそろ答えを言っても宜しいでしょうか」
「許可しよう」
私がみなまで言わずとも本意に気づいてくれないだろうかと願ったいたけれど、他の人が淹れた紅茶を飲むこともほとんど無かっただろうし、今までずっと「咲夜が淹れる紅茶はいつも美味しい」と言ってくれていたことに免じて答えを教えてあげることにする。
「美味しい紅茶をいれるはどうしたら良いか。その答えですが……相手のことを考えて淹れるんです」
「ふむ、それで?」
「それだけです」
「は?」
私の表情を読むようにまっすぐ見つめてくる。答えが抽象的だから、さらに解説が必要なのかもしれない。
「小悪魔には『一回一回真剣に淹れて、感想を聞き漏らすな』と教えました。それだけです」
「分かったわ。飲む相手の好みの味を把握しろってことなのね?」
「正解です。おめでとうございます」
お嬢様の顔に笑顔が咲いた。
「不可解なヒントだと思ったけど合点がいくわ」
ワイングラスを楽しげに揺らしながらヒントと答えを確認していくお嬢様を、そっと見つめる。酒気でほんの少しだけ赤くなっている顔は、見つめていたいけど見ていてはいけない気がするほどの妖艶さを醸しだしていた。
「悪魔の私にはちょっと難しい問題だったわ。心……思いやりというのかしら?で、美味しい紅茶が淹れられるなんてちっとも考えたことなかった」
「小悪魔もアリスも人間ではありませんよ?それに、そのやり方を教えてくれたのは美鈴ですし」
「あれらはとても人間臭いでしょう。特に美鈴」
「それもそうですね」
確かに、情に厚かったり親切だったりする彼女たちは、私や霊夢などよりもよっぽど人間らしい気さえしてくる妖怪たちだ。そう思うと面白く感じてしまい、みんなには悪いけど笑うことを止められない。お嬢様も同じことを考えているのだろう、声を出して笑っている。
嬉しいことは嬉しい、楽しいことは楽しい。人も妖も感じることや思うことに差はないのだって誰かが言っていたけど。それはきっと日々の人妖の交わりと、今この場で私たちが体現しているこういうこと。だから、
「そう、それじゃあ『私のことを誰よりも知っている人間の娘』にお願いするわ。今日の月はとても綺麗だと聞いているの。一緒に眺めてくれないかしら」
なんてお誘いをいつものように受けて。笑顔の余韻が残る空気のまま、お嬢様の手をとった。
いつもより繋いだ手の温度差が激しい。窓辺に並び立って月を見た瞬間にアリスとの会話や告白のことを思い出してしまったせいで、手だけじゃなく全身が熱くなっているのがわかる。
こんなに私の手が熱ければきっとお嬢様もおかしいと気づいているでしょうに、どうして何も言わないのか。
不思議に思い横目で様子を伺うと、夜の女王様はお気に入りの絵画に夢中だった。あぁ、月、お好きですものねと小さくため息を吐いても気づいてくれず、なんとなく寂しくなる。愚かな嫉妬。五百年もの間連れ添ったあの天体と十年そこらの小娘が同じ扱いを受けるなど有り得ない。
「「あ」」
だからせめて、麗しく高潔な彼女の隣に立っていられるようにと、努力してきたのに。主人と目が合って驚いた声をあげてしまう従者は、なんと無様なことだろう。
ああでも目が合っただけなのに、どうしてだろう、お酒も飲んでないのに動悸がしている。それに気づいたと同時に繋がっている手に隙間がないことにも今更気づいて、眩暈がした。落ち込んでいた次の瞬間に簡単に高ぶる自分の心が分からない。何度目があっても何度でも見惚れてしまう彼女の瞳のなか、紅く染まった自分が映っていることに恋心が歓喜の声をあげる。
五感に布を被されたように、感受性ばかりが鋭敏になっていた。
「好きなの」
だから、愛しい人から発せられた音を上手く受け取れない。
「好きなの、咲夜。そして貴方に好かれたくて仕方ないの」
紅い宝石のなかに先ほどと変わらない自分の姿を見つけてようやく、自分が告白されているのを理解する。
「貴方の気持ちを聞かせて頂戴」
手が一瞬だけ解かれて、向かいあった状態でまた深く繋がれる。優しく捕まえられてしまった私は、時を止めても逃げられなくなった。
共に過ごした日々が頭の中を駆け巡るが、どうしたらいいかわからない。数多の命令を機転と経験則でこなしてきたのに、こんなに大切なとき正しい行動が分からないなんて。自分の詰めの甘さに幻滅する。
「咲夜」
「はい」
「傍に居て、欲しいの」
「いつだってお側に居ります」
「もっとよ。もっと近くに居て欲しいの」
「今だってもう、こんなに近いのに?」
そう、いつだって貴方の一番近くに私が居て、私はそれで幸せだから。
ちっぽけな人間の娘を不器用ながらに大切にしてくれる貴方に、それ以上を望むなど傲慢過ぎること。
「抱き締めるには遠いわ」
「キスをするにも遠いですね」
「そしてダンスをするにも遠いわ」
行く先に、今までよりも満ち足りた生活があるのは分かっている。けれどそのもっと行ったところで貴方に辛く長い道が待っているのも分かっていて、それがどうしようもなく怖い。
孤独に震える夜のあの心細さと絶望を、私が貴方に用意する。それがどうしても耐えられない。
「私とのダンスは、きっと可笑しなものになるでしょう」
「何故、そう思うの?」
「私と貴方の生きる長さは違うから、リズムもちぐはぐになったりして」
「同じ曲を踊るのよ?ずれたりするわけないじゃない」
「私は貴方のごく僅かな時間だけパートナーで、貴方のたったワンフレーズの相手にしかなりえなくて」
「そのワンフレーズをとびきり素敵に踊りましょう」
「ダンスパーティに一人貴方を置いていくくらいなら、最初からパートナーになりたくない」
宝石の煌きのその瞳を、ただそっと照らしだす十六夜月でいさせてほしい。
鮮やかな紅の貴方が、私の死で濁ってほしくない。
眼を伏せて嫌われるかもしない恐怖と戦いながら、ダンスを断る訳を必死になって紡ぐ。貴方とのダンスを受ける勇気が無いのに、繋がれた手を私から離すことも出来ない私はとても、きっと誰から見ても我儘な臆病者だ。
ふさわしくない、と思う。貴方にはふさわしくない、とるにたらない人間なのだと思うと、じわじわと黒い悲しみが心を蝕んで行く。
そう、こんなに黒い命を貴方に捧げるわけには――
「咲夜」
どくり。
大切な名前を呼ばれて、黒が散った。
「二択よ」
息をのむ。愛する人の表情が、私の心を穿っていく。
ひとかたの生として私を求める姿から、目が離せない。祈るような眼差しにじりじりと追い込まれる。いつだって強気な貴方にそんな顔をさせてしまうことに焦り、勇気がもてない私を紅の炎が囲っていくような錯覚がおきた。
手に、きゅっと力がこもって。
私たちの手が震えていることと、その体温が似通っていることに気がつく。
「ひと時共に踊り、私に思い出を残すか。ダンスパーティを眺める私を、一歩下がってみているか」
ああ。
私の死を受け入れる覚悟の愛に、ためらう全ての理由は燃やされた。
「ダンスに応じてくれるなら、あと一歩こちらへ」
貴方の隣で、一緒に楽しんで笑って。お互いを抱えて泣いて。
繋がれた手に隙間はないけれど、一つにはなれないことを知っているのなら。
いつかの別れも、耐えてくれますか?
「私と共に、一つの愛と一つの人生を踊りましょう?」
貴方の生涯の中で、死ぬまで生きて、良いですか?
一歩踏み出して、大きな漆黒の翼に包み込まれる。
優しい窮屈さに涙がこぼれ、蒼白い髪に吸われて消えた。
**前作を読んでいなくても分かるように書いています**
いつの間に迷路に入り込んでしまったのだろう?
紅白と白黒に負けたときには既に。それしか分からない。
時間を操る能力をもって生まれ人間に負けたことがなかった私は、初めての敗北に心の底からおびえた。侵入者が、お嬢様の悪戯を止めに来ただけとは限らない。
もし、もし。悪い吸血鬼を討ちに来た、狩人だとしたら?
主人を信じて待つ間、嵐の海に放り出されたような無力感と、予想できるうちの最悪の結末が私を責め立てた。
そして愛しい人の無事を確認したとき、自分が紅く燃え盛る迷路の中にいることを悟った。
私は吸血鬼の主を、種族も主従も越えた思いで、愛してしまっていたのだ。
苦しみから逃れる術は知っていた。
『人間で従者の私を愛してくれることなど無い』そう諦めて距離をおくこと。迷路の出口を探すのでは無く、迷路の入り口に戻ってこの感情の扉を閉め、忘れる。それが正解で、今までどおりの穏やかな生活の続け方だと。
けれど私は気づいてしまった。彼女もまた、私を愛していることに。
迷路は、私がレミリア・スカーレットによって導かれて抜けた直後に二人の炎で燃え崩れた。来るところまで来てしまった私は、選ばなければならない。
二人の恋慕で未だ燃えさかっている道を戻り、炎に巻かれて心を殺すか?
それとも彼女の冷たい手をとって、一時の暖かさを分け合いながら生きていくか?
答えを出せないままに、私の時間は減り続けていく。
「どのような紅茶をご用意いたしましょう」
「さっぱりしたのが飲みたい」
「かしこまりました」
キッチンに向かいながら好きな人の思惑に考えを巡らす。もう秋だが昨晩の雨と今日の晴天で少し蒸し暑く感じる天気だから、喉越しが涼やかなものをご所望なのだろう。となれば、今日は。二日前に買った黄と橙の二つの果実を切り分けていく。小ぶりで繊細な意匠が施された皿に円を描いて盛り付けて、来た道を逆戻り。
手の上にあごを乗せ期待の篭った目で見つめられる間、私の緊張は心地よく高まっていく。これは挑戦。貴方が望むものは何だって分かっているのだという、ささやかなアピール。
「ふむ、とても良いチョイスだわ、咲夜。オレンジティーとレモンティー、どちらを飲むか迷ってしまう」
「どちらも良いものを切りましたから、一杯といわずに二杯お飲みになってはいかがでしょう」
「そうね、そうしようかしら」
柑橘系フレーバーの紅茶が飲みたくなるのではと思って買っておいたこの果物は、幻想郷では手に入りにくい欧州産のものだった。日本産のものでは甘すぎる。カラリと乾いたところで育ったこの果物は瑞々しい香りと紅茶に良く合うほどよい酸味を持ち、香味付けには最適だ。もちろん紅茶はセイロンで、クセのないものを淹れた。
「今日も美味しいわ」
「ありがとうございます」
いつも上がっている口角を更に上げて、歯が見えるほどの笑顔がお嬢様からこぼれた。自分では『あまり大きく笑うよりも、常にうっすらと笑っているほうがカリスマティックでしょ?』と言って歯を見せて笑うのは好んでいないが、私には牙がチラリと見えるくらい口を開けて笑ったこの表情が、どんな顔より魅力的に映る。
「それで今日はどうするの?」
早々と一杯目を飲み干したお嬢さまに二杯目を用意していると、さてそろそろと言ったように尋ねられる。
「人里と神社へ行ってきます」
「そう。一緒に行きたいところだけれど、こんなに晴れていては面倒だわ。キチンと暑さ対策をして出なさい。その銀髪を傷ませては駄目よ」
「かしこまりました、日傘を差して参ります。夕方には戻ります」
ただの気遣いとも受け取れる言葉なのに、心臓が喜んでドクリと跳ねた。
そして――手をすっと伸ばされる。これは最近始まり、常態化した行為。
椅子に腰掛けたままのお嬢さまの左隣に跪く。お嬢様の冷たい右手が私の左手を取り、左手の指が私の髪を梳き愛撫する。呆けたような表情をしているであろう顔は見られないようにうつむき、震える熱い体と吐息を歯を食いしばって押さえ込んで、二度三度と撫で擦られる快楽を受け入れる。
疼く身体に耐えられなくなった私が、きゅっと握る手に力を込めれば終了の合図。手が毛先を弄りながら名残惜しげに離れていく。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「ありがとうございます、行って参ります」
繋がれていた手を放さずにお嬢様の手の平を上向ける。指先と手首近くに一つずつキスを落として、精一杯に心を示し返した。
ようかんを三本ほど人里で買い、それを手土産に神社へ向かう。洋菓子を作って行っても良かったのだがあそこで緑茶以外を出されたことは無いし、最近はアリスがよく出入りしているから和菓子にした。霊夢にアリスの目の前で味を比べられたり、アリスに嫉妬心を起こされたりしてはたまらない。
程なく神社が見え、霊夢が掃き掃除をしている姿が見えた。百メートル位といったところで気付かれたので手を振ると、手を振り返された。最近丸くなったというか愛想が良くなったと思う。ただ単純に『十六夜咲夜はお土産を絶対に持ってくる』と認識されただけでは無い、と思いたい。
「はいお土産の羊羹。普通のと栗と抹茶の三本入りよ」
「ん、ありがと。丁度休憩しようとしてたから、これ切って茶請けにするわ」
中に入っていくのを見送ってさて待つかと思ったら、すぐに戻ってきた。
「アリスがすぐに用意してくれるって。縁側に座って待ってましょ」
今日はいないのかなと思ったら、中に居たらしい。
なんとも仲の良いことだと思って、本当によく一緒にいるわねと冷やかし半分羨ましさ半分で突っ込みをいれると、冷やかしを言われ慣れているのだろう、あんたらもね、と顔色一つ変えずにカウンターされる。一緒にするなと言いたかったが今日は用事があって来たのでそれ以上は何も言わないことにした。
「霊夢はどうしてアリスと付き合おうって思ったの?」
さばさばとした彼女なら構わないだろうと思って、ここ最近悩んでいたことをさらりと切り出してみる。
「惚気話でも聞いてやろうか、っていう様子じゃないわね。どうしたのよ?」
「そうね、アリスの良いところは今度たくさん聞かせてもらうとして、今日は貴方が寿命に対してどう考えてアリスと付き合っているかを尋ねにきたの」
「そういうこと。別に良いけど、参考にならないかもよ?」
「承知の上」
せいぜい百年しか生きられない人間と、数百年は生きることが出来る人外。私と霊夢は確実に愛しい人を置いて先に死んでしまう。それは絶対の未来。
目の前の彼女はそのことをどのように受け止め、覚悟したのだろうか。
「まぁどう考えてるって聞かれても、特に深くは考えていないとしか答えようが無いのだけれど」
「ささいなことでもいいの」
「だから、どう生きたらいいとかそんなのは何も考えていないの。強いて言うなら、楽しいことを諦めて生きるなんて人生がもったいないと思った。それだけよ」
もったいない。笑いもせずにそう言う彼女を、とても霊夢らしいと感じた。そして私は霊夢よりネガティブなのだろう。親しくなってしまえば別れが怖くなる。だから私は離別の時が致命的にならないように、離れるときに痛くならないようにと考えて、お嬢様との関係を一歩踏み出せずにいる。
それを霊夢は、来るだろう痛みと恋人との日々を天秤にかけたとき『楽しく生きなければ損である』という錘を恋人の乗っている台座に乗せたのだ。
私にはその考え方は出来そうにもない、と思う。楽しもうと積極的に動くより、現状維持してしまうのだ。うん、今の会話で霊夢と私の性格は大きく違う、それが明らかになった。
「む。やっぱり参考にならなかったって顔してる」
「ええ、十人十色という言葉を噛み締めていたの。人間って奥深いわね」
「何よそれ。非常に遺憾に思うわ」
横を向くと拗ねたような顔をしていた。悪かったわごめんなさい、と謝ってみてもへーへー、と返されてしまう。困った、気を悪くさせてしまった。どう考えたって私が悪いのだが、何の参考にもならなかったことは事実なのでどうフォローしていいか分からない。
「お待たせ、ってどうしたの。ケンカならよそでやってよ」
良いタイミングでアリスがお茶と羊羹を持って来てくれた。
「いやここ私の家だから、いえアリスは自分の家も同然に居てくれてかまわないけれど」
「来客中よ、イチャつくのは控えてもらえる?」
「ああごめんなさい。まったく霊夢ったら。せっかくお土産まで持っていらしてくれたのだから、キチンとお構いしなくちゃ駄目でしょう?」
「そんなに気にしないでアリス。和菓子は私も食べたかったから買ってきたのよ」
「はいはい私が悪うございました。なによなによ二人して。いただきます!」
茶と黄と緑の羊羹が二切れずつ並ぶ皿を手に取る。まるで最初からこの厚みでしたと言わんばかりの均等な厚みと滑らかな断面で切り分けられたそれは、アリスの手先の器用さをうかがわせた。
「これすごく美味しい。どこで買ったの?」
「アリスのよく行く手芸屋さんの近くよ。今度一緒に行きましょうか」
「むぐぐぐぐぐ」
「ああ急いで食べるから!お茶飲んで、はい。もう、どうしたら羊羹を口回りにつけるのかしら。拭いてあげるから食べるのちょっと止めて」
「もう貴方たち結婚しちゃえばいいと思うのよ。あっ、この栗のやつすごく美味しい。フランドール様に買っていこう」
「けけけっこnゴフゴファ!」
お茶の苦味は絶妙で、羊羹の甘さとよく合い互いに引き立てあっていた。洋食派だと思っていたが、和食も腕を上げているのかもしれない。料理のバリエーションを増やすために今度教えを請うてみようか。
「さぁてと。掃除の続きでもしよっかな」
どうやら糖分が身体に行き渡ったらしく、おやつの前よりもハリのある声だった。気分良さげに歩いていく霊夢をアリスと二人で見送ると影の長さが来た時よりも伸びていて、秋の日の短さを見る。
「寿命に対してどんな風に考えて、か」
ポツリと、アリスが呟いた。ちくりと、胸が痛んだ。まさか。
「……聞いてたの?」
「上海にお茶を持って行かせたら、たまたまね。話題が話題だったから出るに出れなくて」
「いえ、気を使わせて、ごめんなさい」
彼女とはしたくない話だった。人間の彼女をもつ種族魔法使いのアリスに寿命の話は残酷だろう。彼女を傷つけたくない。謝って、忘れてとお願いして、別の話題を振ろう
そう思って横を向くと、彼女がこちらを見ていた。空色の瞳の、その透明さと綺麗さに見入ってしまって声が出ない。
「あのね、咲夜。聴いて欲しい話があるの」
「……私でよければ聴くわ」
空色の悲しげに、少し陰った。
「霊夢と付き合ってて、今とても楽しいわ。けれど胸が潰れそうなくらい辛いことが一つ、あるの」
「うん」
「霊夢が私より早く死んじゃうことなんて全然平気なくらい、ううんそれもすごく嫌だけど、もっともっと辛いことがあって」
私は何も言えない。それよりも、もっと辛いこと?見当がつかない。アリスの顔が自嘲的な笑いに歪む。
「霊夢がね、時々だけど、泣くの。夜、横に並んで寝てるとふっと起きだして、寝てる私の顔を見てごめんなさいなんて言って、それから私に背を向けて泣くの。多分、私を置いて死んでしまうことに罪悪感があるんだと思う」
「それは」
「隠せていると思っているんじゃない?しっかりばっちりバレてるあたり可笑しいわよね。私は悲しいけれど」
甘いものに慣れていってしまうほど、苦いものに耐えられなくなってしまうのだろう。
悲壮感に溢れた瞳から目が放せない。彼女の悲しみから逃げることは、私の好きな人からも逃げることだと思った。
「もうね、悲しくて辛くて悔しくて仕方ないわよ。霊夢を泣かせる私の存在が悲しいし、霊夢を泣かせるのが辛くて堪らないし、私が横にいるのに霊夢がコソコソと隠れて泣くのが悔しい」
「隠れて泣くのは、貴方のほうが辛いと分かっているからだと思うわ」
「ええ、きっと霊夢はそう思っているのね。けれど私は、私のために泣かれるほうがずっと辛いの。一緒にいる間はずっと笑っていて欲しいのに、私が泣かせてるのよ?その間にも時間は過ぎていくし、これから先二人で楽しいことを沢山していこうって決めたのに、それと同じくらい泣いて暮らしていくのかと思うと、ね」
やだ、話が大分それちゃった。これじゃあただの愚痴ねごめんなさいと言う謝罪で話が止まった。
話を変えようと思って話題を探していたらふと、この前あったやり取りを思い出した。差し出がましいかもしれないと思ったけど、その内容をアリスに話すことにする。
「前にね、図書館でお嬢様が『この本は嘘を書いていて読むに値しないわ』って、読んでいた本を途中で放り投げたの。パチュリー様が『この本はどんな嘘をついているのかしら』って尋ねて、お嬢様がつまらなさそうに、というか呆れたように言ったわ」
自分の心を切り分けながら思い合う貴方たちの夜が、少しでも明るくなればいいなと思いながら言葉を出していく。
「『大切な人が居れば楽しいことは二倍になって、悲しいことは半分こ、なんて。これ本気で言ってるなら大切な人との関係が歪か、足し算が出来ない人でしょうね。そうじゃなければ大嘘もいいところだわ』って」
「へぇ。それ家族ものの小説とか、絵本でも使われるくらいのよく聞くフレーズなのよ?ケチをつけた人なんて初めて聞くわ。どこがどう、うそだ、なんて……」
訝しげに出たアリスの声が尻すぼみになって、口端が引いて結ばれる。『嘘』の箇所が、分かったのだろう。いらぬお節介かもしれない。けれどここまで来たら最後まで友達面をさせて欲しかった。
歩み寄って、ぶつかって、距離を測って、また歩んで。人との関係って、そんな風に続けて行くものだから。
「お嬢様が言うにはね、『私の大切な人が悲しんでいるなら、私も一緒に悲しくなる。どこが半分こよ。一足す一は二でしょうが。慰めあったりして解消は早くなるかもしれないけど、悲しみの絶対量は変わらないわ』だって。
……ねぇ、アリス、話し合ってみて。我慢する、じゃなくて二人の悲しみや辛さを一緒に解決していくことは、貴方たちにとって難しくないことだと思うの」
端正な顔が無表情にこわばり、それが解けると同時にアリスの空色の瞳は曇天を経てボロボロと大粒の雨を降らし始めた。口元を押さえた手を伝って、あるいは直に、服に降り注いでいく。涙を拭うのは私の役目じゃないから、ハンカチを貸してあげる。
それからしばらく、アリスが時折漏らす嗚咽と木の葉がさざめく音を聞いていた。
霊夢にこの状況を見られたらどうなるだろうと心配し始めたとき、視界の端でアリスがこちらを向いたのが見えた。真っ直ぐに顔を見ると悲しげな笑みは消えていて、今はどこか申し訳なさそうな苦笑いが浮かんでいる。
「みっともないところ見せちゃったわね」
「そんなことない、綺麗だったわ」
「やめてよ。レミリアに言いつけるわよ?」
「貴方に手を出したら退治されるでしょ。そういう意味じゃなくて」
というか。待って待って。
「ちょっと待って、どうしてそこでお嬢様がでてくるの」
「だって貴方レミリアの恋人じゃない、浮気は良くないわ」
「それ嘘よ。何処でそんなこと聞いたの?天狗?」
「いや、貴方たち二人の様子を見てたらそうだろうなぁって。と言うか、違うの?あんなにお互い意識してるのに?」
「私は従者なんだからお嬢様の一挙一動気にするのは当たり前でしょう。仕事よ、仕事……ってなによその顔は」
勘違いは勘違いした方が認めてくれないといつまでも終わらない押し問答になってしまうのに、貴方なに言ってるの?みたいな顔をされても困る。けれど眉根を寄せて私を凝視するアリスにたじろいで、言い返せない。
「宴会中にチラチラ目を合わせて、相手に触り上戸のやつが近づいてきたら露骨に嫌そうな顔して引き放して、帰るときには寄り添ってそそくさと飛んでいく貴方たちは恋人同士にしか見えないのだけれど、本当に違うの?」
「違うわ」
いや、私だって客観的に聞けば『こいつら付き合ってるな』と勘違いしても仕方ない態度だと思う。けど、当事者的にはそんなつもりは無いわけで。これはちょっと、いやちょっとどころではなく。
「……なんか、恥ずかしい」
「えっすごい今更」
今更って。自分が赤面している気がしてアリスと反対方向を向いたらアリスの人形が居て、冷やかすように肩をツンツンしてきた。逃げ場なし。もうやだ。
「やぁね、甘酸っぱくてなんだかもぞもぞしちゃう」
「うるさい、毎日一緒にいる貴方たちなんてさっさと結婚しちゃえばいいのよ」
「そしたら咲夜、ウエディングケーキ作ってくれる?」
「宴会のフルメンバーが二回おかわり出来るくらい大きいのをプレゼントするわ」
「んー無駄に良い返事。なら料理と式場もお願いしようかな。ドレス着たいから神前式じゃなくて西洋式にしたいのよ」
「お色直しは七回よね、分かってるわ。お嬢様に頼んであげる」
だから、なにも心配せずに、いつも笑ってたくさん幸せになればいい。
「それはそうといつ告白するの?」
「さも私がさっきから恋愛相談をしていた風にさらっと言うの止めてくれる?」
アリスのニヤニヤ笑いで、私の友達思いの微笑はぶち壊しになった。
「だぁって、ねぇ。じれったいのよ。貴方たち両思いなんだからさっさとくっついちゃえばいいのに」
「そう、言われても」
「レミリアから、なんて待ってちゃダメ。気持ちは決まってるみたいだけどプライドが邪魔をしてるのかしら、告白してくる様子がないわ。進展させたいなら貴方次第なのよ」
「そ、そうかしら?」
「そうなのよ。それに、聞いてよ咲夜。さっきの逸れちゃった話の本題なんだけれどね」
晴れたと思った空色が、ふっと、また陰った。
「今の生活がどうかって訊かれたら、幸せですって即答出来るくらい幸せだわ。なんでもっと早く告白しなかったんだろうって、よく思うのよ」
アリスの声は幸せを中に詰め込まれて、ちりちりと震えていた。共に過ごす時間を必死にむさぼって、それでもまだ掻き集めずにはいられない彼女の言葉は、そのままあの人の言葉のように聞こえて私の心を穿つ。
何も言えない。そうでしょうねと言って、頷くことしか出来ない。
「あ、今の話はただの惚気話じゃなくて、いわば試供品よ。幸せのお試し版をどうぞ、ってね。私の話を聴いて恋人が欲しくなったでしょ?」
「ええ、貴方はすばらしい販売員みたい。良いものを教えてくれてありがとう、私も欲しくて堪らなくなってしまったわ」
軽口に隠して私を急かすアリスに、こちらも軽口で忠告を受け取る。
「どういたしまして。こちらこそ『足し算を教えてくれてどうもありがとう』って伝えておいて」
「急にそんなこと言っても意味が分からないと思うわ」
「知ってる?恋人同士って言うのはお互いのことが気になるし、だから隠し事は無しになんでも話すのよ?もちろん今日のことだって話してくれてかまわないわ」
「分かった、なるべく早く伝えられるようにします!これでいいでしょう?今日はありがとう、もう行くわ」
「ん。いつもお土産ありがとう。今度来るときはレミリアも一緒にいらっしゃい」
そんなに急かさなくてもいいじゃないかと言おうと思ったが、このお節介は友情からきてるものだと分かっていたのでやっぱりやめた。
臆病な私には、こういう友人が必要で大切にすべきなのだ。
紅魔館の手前に生い茂る林の中に降りて、途中から歩いて行くことにする。少し考える時間が欲しかった。
告白、か。……はあ、我ながら情けないが、どう考えたって上手くいきそうにもない。これが初恋だから告白の経験など無いし、いざ告白!という場面で自分がお嬢様の前でまごまごしてしまうのが、容易に予想出来た。
どうしたものかとひとり立ち止まって首を捻る。うーん……
あぁ!
告白する場面を想像して、練習をしてみるのはどうだろう。シミュレーションして成功へのイメージを作ることが出来れば、告白する勇気も持てるはず。周囲の状況や二人の状態まで組み込んでシミュレーションすればより万全だろう。お嬢様のことなら私が誰より理解している。妄想、もとい想像することなど容易いことだ。
うん、これは良さそう。というか今はこんなことしか出来ないし、とにかく何でもしてみるしかない。
深呼吸をし、思考の海に沈む――――
――――月明かりがテラスに降り注ぐ。雲一つなく、月が陰らない夜。今宵以上に綺麗な月はそうそう無いだろう。逢瀬を極上のワインでほんの少し高ぶらせて、万端の準備にだめ押しを。
お嬢様の手に導かれて跪くと二人の秘密の行為が始まった。
つつっと吸血鬼らしい冷たい手に撫でられて、耳元近くの薄い皮膚から全身に快感が伝播する。腰が退けるが、この繊細な手に慣れてしまった私はもっと強い刺激が欲しくて、跪いたままに動けない。
首筋から耳元を経由し顎に手をかけられて、仰ぎ見ると気が付けば愛しい人しか見えない程に近くなっていた。紅い宝石の瞳がギラギラと輝いて私を照らす。自分の藍色のそれもきっと、濡れて光っているだろう。
牙の覗く艶めいた笑みから、ふぅっと吐息が漏れた。果実酒の香りに酔わされる。
心が、溶けて。
もう――――
――――無理です。本当にありがとうございました。
地面に突っ伏してしまいそうになるのを踏ん張ってこらえて、額を木に押しつける。もう私は駄目かも知れないと思うくらいのとんでもない桃色妄想をしてしまったことを恥じた。一言も喋れなかったことが情けなさ過ぎる。妄想の中だけでも口説けない、どこまでも受け身な自分が嫌になった。
もういいや、おとなしく帰って夕食後にまた練習しよう。日が落ち始めて空は橙色に染まっている。帰り着いたらすぐに夕食の支度を始めなくてはいけない。脂の乗ったサーモンがあるからそれを捌いて、マリネがいいだろうか?それがいいな。昨日の夕食は肉料理だったから今日は魚をメインにしよう。
自分の腑甲斐なさに全力で目をつむり、桃色を払拭して紅い館の完全従者に頭を切り替えた。
林を抜けて館の前の整えられた平地に出ると、見慣れた門前にお嬢様と美鈴が立っていた。早く「お帰り」って言われたくて走りたくなる気持ちを、メイド長に求められる品性でもって抑える。けれど足は素直な気持ちそのままに早まった。
「お帰り、咲夜」
「お帰りなさい咲夜さん」
「只今戻りました」
嬉しい気持ちが胸を満たす。従者としてあるまじきことかもしれないが実は、おかえりを言われるのが好きだった。愛しい人たちが私の帰りを喜んでくれるのを、幸せに感じる。
「今から夕食の準備をするので、一時間後くらいに食堂にきていただけますか?」
「分かった。楽しみにしてる。……ねぇ、咲夜。今夜二人でお茶会をしましょう」
「分かりました。では夕食のあとに飲みたい銘柄とお菓子を伺います」
えっ?とか言わなかった自分を褒めてあげたい。さっきの妄想を思い出してかぁっと顔が熱くなったので、失礼しますと言い残して早々とこの場から退散する。
チラリと振り返ると、お嬢様と美鈴が見つめあってなにごとかを話していた。
お嬢様の表情は分からないが、美鈴の顔には笑顔が浮かんでいてすこし妬ける。あの二人は私の入り込めない繋がり方をしているから、きっと互いにしか見せない顔が沢山ある。夜には私と一緒にいるはずだからと我慢は出来たが、やっぱり妬けて仕方がないので美味しい料理を作らなくてはと気合が入った。
「紅茶とお菓子はいかがしましょう?」
「んー、紅茶じゃなくていいや、ワインだして。さっきより良いやつ。つまみもいらない」
そう言われて、ようやく自分の失敗に気づいた。夕食に赤ワインを出したのがまずかった。いや、美味しいと褒められてすごく嬉しかったけど、夕食にワインを嗜んだあとはほぼ百パーセント飲みなおすことを失念していた。そして更に八十パーセント以上の確率で、より上物のワインを所望することも忘れていた。旬のサーモンにあわせて良いワインを夕食に出していたから、かなり良いワインを用意しないといけない。
窓の外を見る。
――雲一つなく、月が陰らない夜。今宵以上に綺麗な月はそうそうないだろう。逢瀬を極上のワインでほんの少し高ぶらせて、万端の準備にだめ押しを――
きっと私は未来を見る程度の能力があるに違いないなんて、激しい現実逃避をはじめてみる。が、すぐにやめた。雲が無ければ月は表情を変えず、栓を抜いてないワインはボトルの中でひそやかに熟成されていくだけで、現状が変わることはないのだ。
ここまで来れば、私がすぐそこに居るのを感知されているだろう。お嬢様の待つ部屋の前までたどり着き、二秒静止し一秒間に二回ノックをする。もう振り返ることも出来ない私は、愛しい人へまた一歩近づいた。
拾われて連れ帰られたときも、数日後に正面から顔をあわせたときも、春の暖かい夜のような十数年も、ずっとずっとドキドキして過ごしてきた。だから、出会った夜からずっとレミリア・スカーレットに恋していたんだって、気がつかなくって。
見ていたい、見つめられたい、触れたい、触れられたい、抱きしめたい、抱きしめてほしい。失いそうになって初めて自分の気持ちに気づき、気づいてしまえば求めるものに限りはなくて、自分の欲深さにほとほと呆れてしまった。従者ごときが主人に懸想などしていいはずもない。実らず散るしかない恋。私に許されたのは自然に散るまで生きることだった。
散るだけのはず、だったのに。
お嬢様が手招きをしている。日々の端々で私を求めて甘い声で囁いて、蕩けさす仕草で目を奪っていく。日々を止められず、抗えない私は、恋路を一歩ずつ踏み出して行くばかり。
もう、私の恋に逃げ場所はない。この細い道の上で、私の心が後戻りを許さない。
「紅茶、お飲みになります?」
「結構よ」
何を言っているんだ私は。ワインを飲んでるのに、紅茶を飲みたくなるわけないだろう。
真正面からの視線に照れて変なことを口走ってしまいさらに恥ずかしくなったので、目線を深く下げて紅茶を淹れる。見えないから分からないけど、多分というかほぼ確実にお嬢様はこちらを向いているだろう。それに気がついてる様にするのと気づいてない様にするのは、どちらの方が可愛げがあるのだろうか?
紅茶を淹れ終わって顔を上げると案の定、お嬢様は私を見ていたようだった。紅茶を少し飲んで気持ちを落ち着ける。うん、顔を下げていて良かった、多少薄いけど飲める程度には淹れられた。
「今日は何をなさっていたのですか?」
「久しぶりにパチェと長い時間話したわ。調子が良かったみたい」
「それは良いことですね。ちょっと前に小悪魔が『気管支炎に効く茶葉を手に入れた』と言っていましたから、それが関係してるかも」
パチュリー様の喘息の改善のために小悪魔がハーブの勉強をしていたことを知っているから、感慨深いものがある。
「あと、小悪魔の淹れた紅茶が思いのほか美味しかったわ。本が好きな悪魔だからと期待していなかったのに、なかなかどうしてああも上手く淹れてくれるとはね。今は貴方には劣るけれど、もしかしたらもしかするわよ」
「本当ですか?小悪魔に紅茶の淹れ方を教えたのは私なんですよ。負けずに精進しなければなりませんね」
「ほう、初耳だわ。どれだけの時間をかけて教えればあんなに上手に淹れられるようになるのかしら」
「一ヶ月もかかりませんでしたよ」
「日夜特訓でもしてやったの?」
「いいえ。私にも他の仕事が有りますから。教えたのは実質三日程度です」
「ほう」
お嬢様に褒められるほどの紅茶を淹れられるようになったことに驚くが、彼女が努力家なのは知っているし、基本をしっかり守って丁寧に紅茶を淹れているのだろうと思うと納得した。素直に嬉しく、教えた甲斐があるというものだ。
しかし、私よりは美味しく淹れられるはずはない。そこは、それとなく反論したくなった。
「もともとお茶の心得があったのね?」
「初めてだと言っていました」
「上手に淹れられる道具を渡した。当たりでしょう?」
「初めに使っていたポットは私のお下がりで、今使っているのは小悪魔が人里で買ってきたものですよ。淡い紫の唐草模様が描かれた綺麗なものなので、確かに美味しく感じるかもしれませんが」
小悪魔よりも上手に淹れられることを分かって欲しいだけで特に困らせるつもりがなく、首を傾げて眉を寄せるお嬢様が可愛かったので「ヒントをお出ししたいのですが」と提案してみると、「ヒントを提示することを許可するわ」と返された。
さて、すぐに分かってくれるかどうか。
「ありがとうございます。先ほどああはいいましたが、私は小悪魔より美味しい紅茶を必ず淹れられます」
「たいした自信だこと。やっぱり何か秘訣があるのね?」
「ですが、私は小悪魔よりも美味しい紅茶を淹れることが出来ません」
「何を言っているの、さっきと矛盾しているわ」
「アリスは私たちより美味しいお茶を淹れることが出来ます。けれど私と小悪魔はアリスより美味しい紅茶を淹れることができます」
「何よそれ」
お嬢様は何度答えても当たらないことに苛立っている様子。しかし私はなにも矛盾したことを言っていない。私とお嬢様、小悪魔とパチュリー様、アリスと霊夢で、それぞれが最高のものを淹れ、味わっているのだ。
「お手上げよ。私にはこの言葉遊びを解けないわ」
「答えは結構シンプルなんですよ?でもまぁ、そろそろ答えを言っても宜しいでしょうか」
「許可しよう」
私がみなまで言わずとも本意に気づいてくれないだろうかと願ったいたけれど、他の人が淹れた紅茶を飲むこともほとんど無かっただろうし、今までずっと「咲夜が淹れる紅茶はいつも美味しい」と言ってくれていたことに免じて答えを教えてあげることにする。
「美味しい紅茶をいれるはどうしたら良いか。その答えですが……相手のことを考えて淹れるんです」
「ふむ、それで?」
「それだけです」
「は?」
私の表情を読むようにまっすぐ見つめてくる。答えが抽象的だから、さらに解説が必要なのかもしれない。
「小悪魔には『一回一回真剣に淹れて、感想を聞き漏らすな』と教えました。それだけです」
「分かったわ。飲む相手の好みの味を把握しろってことなのね?」
「正解です。おめでとうございます」
お嬢様の顔に笑顔が咲いた。
「不可解なヒントだと思ったけど合点がいくわ」
ワイングラスを楽しげに揺らしながらヒントと答えを確認していくお嬢様を、そっと見つめる。酒気でほんの少しだけ赤くなっている顔は、見つめていたいけど見ていてはいけない気がするほどの妖艶さを醸しだしていた。
「悪魔の私にはちょっと難しい問題だったわ。心……思いやりというのかしら?で、美味しい紅茶が淹れられるなんてちっとも考えたことなかった」
「小悪魔もアリスも人間ではありませんよ?それに、そのやり方を教えてくれたのは美鈴ですし」
「あれらはとても人間臭いでしょう。特に美鈴」
「それもそうですね」
確かに、情に厚かったり親切だったりする彼女たちは、私や霊夢などよりもよっぽど人間らしい気さえしてくる妖怪たちだ。そう思うと面白く感じてしまい、みんなには悪いけど笑うことを止められない。お嬢様も同じことを考えているのだろう、声を出して笑っている。
嬉しいことは嬉しい、楽しいことは楽しい。人も妖も感じることや思うことに差はないのだって誰かが言っていたけど。それはきっと日々の人妖の交わりと、今この場で私たちが体現しているこういうこと。だから、
「そう、それじゃあ『私のことを誰よりも知っている人間の娘』にお願いするわ。今日の月はとても綺麗だと聞いているの。一緒に眺めてくれないかしら」
なんてお誘いをいつものように受けて。笑顔の余韻が残る空気のまま、お嬢様の手をとった。
いつもより繋いだ手の温度差が激しい。窓辺に並び立って月を見た瞬間にアリスとの会話や告白のことを思い出してしまったせいで、手だけじゃなく全身が熱くなっているのがわかる。
こんなに私の手が熱ければきっとお嬢様もおかしいと気づいているでしょうに、どうして何も言わないのか。
不思議に思い横目で様子を伺うと、夜の女王様はお気に入りの絵画に夢中だった。あぁ、月、お好きですものねと小さくため息を吐いても気づいてくれず、なんとなく寂しくなる。愚かな嫉妬。五百年もの間連れ添ったあの天体と十年そこらの小娘が同じ扱いを受けるなど有り得ない。
「「あ」」
だからせめて、麗しく高潔な彼女の隣に立っていられるようにと、努力してきたのに。主人と目が合って驚いた声をあげてしまう従者は、なんと無様なことだろう。
ああでも目が合っただけなのに、どうしてだろう、お酒も飲んでないのに動悸がしている。それに気づいたと同時に繋がっている手に隙間がないことにも今更気づいて、眩暈がした。落ち込んでいた次の瞬間に簡単に高ぶる自分の心が分からない。何度目があっても何度でも見惚れてしまう彼女の瞳のなか、紅く染まった自分が映っていることに恋心が歓喜の声をあげる。
五感に布を被されたように、感受性ばかりが鋭敏になっていた。
「好きなの」
だから、愛しい人から発せられた音を上手く受け取れない。
「好きなの、咲夜。そして貴方に好かれたくて仕方ないの」
紅い宝石のなかに先ほどと変わらない自分の姿を見つけてようやく、自分が告白されているのを理解する。
「貴方の気持ちを聞かせて頂戴」
手が一瞬だけ解かれて、向かいあった状態でまた深く繋がれる。優しく捕まえられてしまった私は、時を止めても逃げられなくなった。
共に過ごした日々が頭の中を駆け巡るが、どうしたらいいかわからない。数多の命令を機転と経験則でこなしてきたのに、こんなに大切なとき正しい行動が分からないなんて。自分の詰めの甘さに幻滅する。
「咲夜」
「はい」
「傍に居て、欲しいの」
「いつだってお側に居ります」
「もっとよ。もっと近くに居て欲しいの」
「今だってもう、こんなに近いのに?」
そう、いつだって貴方の一番近くに私が居て、私はそれで幸せだから。
ちっぽけな人間の娘を不器用ながらに大切にしてくれる貴方に、それ以上を望むなど傲慢過ぎること。
「抱き締めるには遠いわ」
「キスをするにも遠いですね」
「そしてダンスをするにも遠いわ」
行く先に、今までよりも満ち足りた生活があるのは分かっている。けれどそのもっと行ったところで貴方に辛く長い道が待っているのも分かっていて、それがどうしようもなく怖い。
孤独に震える夜のあの心細さと絶望を、私が貴方に用意する。それがどうしても耐えられない。
「私とのダンスは、きっと可笑しなものになるでしょう」
「何故、そう思うの?」
「私と貴方の生きる長さは違うから、リズムもちぐはぐになったりして」
「同じ曲を踊るのよ?ずれたりするわけないじゃない」
「私は貴方のごく僅かな時間だけパートナーで、貴方のたったワンフレーズの相手にしかなりえなくて」
「そのワンフレーズをとびきり素敵に踊りましょう」
「ダンスパーティに一人貴方を置いていくくらいなら、最初からパートナーになりたくない」
宝石の煌きのその瞳を、ただそっと照らしだす十六夜月でいさせてほしい。
鮮やかな紅の貴方が、私の死で濁ってほしくない。
眼を伏せて嫌われるかもしない恐怖と戦いながら、ダンスを断る訳を必死になって紡ぐ。貴方とのダンスを受ける勇気が無いのに、繋がれた手を私から離すことも出来ない私はとても、きっと誰から見ても我儘な臆病者だ。
ふさわしくない、と思う。貴方にはふさわしくない、とるにたらない人間なのだと思うと、じわじわと黒い悲しみが心を蝕んで行く。
そう、こんなに黒い命を貴方に捧げるわけには――
「咲夜」
どくり。
大切な名前を呼ばれて、黒が散った。
「二択よ」
息をのむ。愛する人の表情が、私の心を穿っていく。
ひとかたの生として私を求める姿から、目が離せない。祈るような眼差しにじりじりと追い込まれる。いつだって強気な貴方にそんな顔をさせてしまうことに焦り、勇気がもてない私を紅の炎が囲っていくような錯覚がおきた。
手に、きゅっと力がこもって。
私たちの手が震えていることと、その体温が似通っていることに気がつく。
「ひと時共に踊り、私に思い出を残すか。ダンスパーティを眺める私を、一歩下がってみているか」
ああ。
私の死を受け入れる覚悟の愛に、ためらう全ての理由は燃やされた。
「ダンスに応じてくれるなら、あと一歩こちらへ」
貴方の隣で、一緒に楽しんで笑って。お互いを抱えて泣いて。
繋がれた手に隙間はないけれど、一つにはなれないことを知っているのなら。
いつかの別れも、耐えてくれますか?
「私と共に、一つの愛と一つの人生を踊りましょう?」
貴方の生涯の中で、死ぬまで生きて、良いですか?
一歩踏み出して、大きな漆黒の翼に包み込まれる。
優しい窮屈さに涙がこぼれ、蒼白い髪に吸われて消えた。
咲夜さんとレミリアの恋情も霊夢とアリスの恋情も、行き着く先の愛情も、咲夜さんとアリスの友情も。
全てがグッとくる作品でした。
作者さんのおかげでこれくらいのあますぎない恋愛模様が好物になりそうだ!
脇役なんだろうけど霊夢とアリスのお互いの考えと気遣い方が切なくて…。
でもこの2組ならどんなことがあろうと進んでいけると信じてる!
最高のレミ咲ですね。
このふたりをもっと見てみたい。読んでみたいです。
あまいあまいあまいレミ咲、最高を遥かに通り越して最高です。
言葉足らずで申し訳ありません。
この小説はずったんばっこん転がりまわりたくなる程度の能力
を持っているに違いない・・・!
咲夜サイドの方が、さらに甘さに磨きがかかったように思います。
ずったんばっこんごろごろごろ本当にありがとうございました・・・!
この2人なら未来の悲しみも乗り越えていける、と信じています。
もうこの2人は結婚すればいいよ!
前作が気になるのぜ!