怖いものなんか、ないと思っていた。
昔々、国を一つ怖がらせていた私にとってはここも同じと考えた。人間も妖怪も、正体不明には対処できない。だから、私は勝てなくとも負けはしなかった。かつて、弓で射られて封印されて以来、命の危険を感じたことはない。聖の加護もあるんだろうけど、それはそれ。
私の食事は、人間の肉ではない。心を食べる。肉も嫌いではないけれど、人間の恐怖が一番の味わい。
出会う前の暗い道でビクビク怯えて、徐々に味を育てていく。特に、寺子屋に通う子供くらいがいい。変に理屈をつけるでもなく、純粋に恐怖する。好奇心は猫を殺す、というようにおびき寄せるにも最適。
そういえば、寺に住み着きつつある唐傘も私と同じ類らしい。若いためか、人の怖がらせ方がなっていない。今度、指導してやろうかとも思う。
誤解されがちだけど、恐怖を食われたからといって感情が欠落するわけじゃない。私が、怖くなるだけ。正体を知っていれば、巫女やら何やらに退治してくれと言える。けれど、正体不明の私はバレない。すでに、少数の人間には顔が割れていて、自身を正体不明にできないとは教えていないから。
実際、人が食われたわけじゃあない。だから、きついお叱りぐらいで終わりだと思う。せいぜい、トラウマが植え付けられてしまうだけ。そんなもの、誰でも一つや二つ抱えているわけで。若いうちからそれを持てるなんて、贅沢じゃないのとか考えてみる。
とにかく、幻想郷は私にとってあの都よりも住みよいところであるには、間違いなかった。
昔は、虹だって天変地異の前触れだと恐れられた。今ではどうだ。単に綺麗だと、騒ぐだけではないか。……正体が割れた、私が言うことじゃないけど。名前は教えていなくても、姿がバレれば相当正体わかる。そもそも、鳴き声だけでわかっちゃう人間もいて困る。
ともかく、今であっても正体不明っていうものは怖い。私の種を使えば、大体の人間と妖怪には通用する。単純に不明になるだけじゃなく、その当人にしか見えないものになるから。聖には、通用しなかったなー。正体わかってたから。バレるまでの、ほんの些細な悪戯。
私は、毎日種を撒きながら……時にはお仕置きを受けながら過ごしていたわけだった。
そんなある日の話である。
太陽の畑を本当の太陽に変えてみたり、彼岸花をちょっと描写できないような赤色にしたりすることにも飽きてきた。第一、あの都に比べて脅かす対象が少なすぎる。そして、慣れすぎている。第一、鵺を見てめんこいとは何だ。失礼と思わないのか。なでなでされすぎて、ああもうお前ら怯えて死ねよもう! 未確認飛行物体の群れ召還すんぞ!
さておき、こんなんでも一応長いこと生きている私。ちょっと千年ほど封印されていたけれど、大体のことは知っています。はい。でも、目の前の状況はちょっとばかり想定外なのです。
端的に言うと、まだ蕾すら出来ていない桜の樹に、大きな大きな黒い何かが刺さっている。子供一人分程度の直径球。なにこれ。もう一度、なにこれ。
妖精とか、悪霊の悪戯で人面が浮き出た柿とかは見たことあるけれど、さすがにこれはない。ちなみに、今はお天道さま真っ盛りの昼である。雲一つない。でも、目の前だけはぽっかりと黒い。
試しに、触ってみることにした。感触はなく、中はヒヤリとしている。冬の寒さとは違う、背筋に来るあの寒気に似ている。正直、長く手を突っ込んでいたくはないと思う。引き抜いてみても、手には何も付いていなかった。今度は、中に何が在るかを確かめるためにもう一度。興味もあるけど、私以上に正体不明がいては困るのだ。アイデンティティで考えて。
今度は方向を変えて、刺さっている枝から手を入れる。また同じ、ゾクリとする感覚がある。枝に沿って手を這わせていくと、やわらかい感触に行き着いた。
嫌な予感がする。嫌な予感がする! 意思よりも早く、体が動く。手を黒い球体から引き抜くと共に、鋭く揃った白い刃が飛び出した。遅く感じる中、思考だけが回る。綺麗だ。もっと、優先されるべき感情はあったはずなのだ。危険とか、憤りとか、安堵とか、疑問とか。自分の腕が噛み切られるかもしれないという時に、それを断とうとする凶器を賞賛するなど。いやぁしかし、この閉じられた門歯は輝かしいほどの白だ。
少しでも遅れれば、これ以上なく滑らかに私の肘より先は彼女の胃の中だ。黒い球は、狩りの為の罠だった。油断したなぁ。あの碁盤みたいな都にいた頃は、こんな向こう見ずな真似は、絶対にしなかったのに!
引いた腕の勢いのまま、後ろへ飛び退く。出来れば、面倒は起こしたくないと思う。楽しいけど、今は聖に迷惑がかかる。この枝に種を植えて、蛇にでも見せようか。それとも、光に化けて逃げるか。
幾ばくもない逡巡の間に、彼女はこちらを視認した。青白い顔に真っ赤な目。陽の光を乱す白に近い金色の髪。鋭くはないけど、まっすぐ私を見ている。意図は、よくわからない。やるか、引くか。逡巡は、続く。
「……眩しい」
彼女は、目を擦ると球の中へ戻っていった。
…………。
……………………。
耳をすます。小さく、小さく規則正しい呼吸が聞こえてきた。考えるまでもない。こいつ、寝た!
「起きろー!」
雰囲気ぶちこわし。張りつめた糸を掴んでいたのは私だけで、あっちは気にも留めていなかった。こちとら、千年も生きてるぬえ様だぞ!
黒い球から引きずり出すと、何とか陽を見るまいと体を捩る。布団をひっぺがされたムラサでもあるまいし! 第一、枝の上で寝るなんてどんな感覚なの! 馬鹿なの?!
樹から下ろしてなお、彼女は寝続ける。傍目から見ると、黒い球から生えた腕を引っ張っているという不可思議な真似だろう。
ええい、どうしてくれようか! まずは、ゆっくり話をしよう! 聖の元でお説教だ! あはははは、聖のお説教は長いぞー。線香一本どころか、束一個無くなるまで続くんだぞー。楽しみにすることだね!
反応はない。
さて、絶賛説教中である。
私が。
線香は、束の半分を突破。そろそろ、正座している足が苦しくなってきた。説教の内容はといえば、「寝ているだけの妖怪を誘拐してきたこと」について。なるほど、端から見ればそうなるのか。もっとも、聖の説教が的を射ているのは最初だけで、後は生活習慣とか普段のことが十割を占める。何度も繰り返されるため、若干洗脳気味。
星の介入が無ければ、束一個では済まなかったかもしれない。おそらく、助け船なんかじゃなく単純に用があっただけだ。毘沙門天の弟子も、容赦はない。鼠も、なんかこっちをなめるように見るし。
とにかく、彼女を今晩泊めるからその間に謝っておけとのこと。足の感覚が正体不明。触られたら終わる。
「ていや」
ぎゃおおおおおお! おのれムラサあああああ!
抵抗も出来ず、私は為されるがまま。虐待だ虐待。いたいけな妖怪をなぶるなんて、ひどい幽霊だ。
「一輪がご飯できたってよ。ていてい」
ああああああああやめええええええええ。
実は、命蓮寺の食事は割と豪勢。献立の豊富さの意味で。聖や一輪は、元々尼と名が付くだけあって精進料理で足りるらしい。片や、寅と鼠は基本肉食ゆえ、一輪が精進料理に密かに肉魚を忍ばせている。本来、生臭は禁じられていたはずだけど、微々たるものだ。昔は、鶏肉なら可とかよくわからない線引きの上に、兎を鳥と言って食べていた。このくらいなら、まだ全然。
そして、そういえば名前も聞いてなかった彼女も卓を囲んでいた。
とりあえず、一通りの教養はあるようで箸で食事をしている。ただ、マナーとかは知らないようで掻き込み飯。あーあー、顔に弁当が山ほどついている。山篭りでもするつもりだろうか。隣の聖にひょいひょい取ってもらっている。そして、よく食べよる。
私の腕を食おうとした時の殺気は、どうした。全く、毒気がないじゃないか。延々と、聖に説教された私は何ですかー。誘拐犯容疑で指名手配ですか? 「封獣ぬえ」って種族名だけで、本名だって名乗ってないもんねー。現行犯だったけども。
さておき、観察する限りただの子供だ。今や、一輪の膝の上を独占中。ええい、みんなはあの状況が見てないからそんな不注意な真似ができるんだ。今にパクッといかれてしまうぞ。
すっかりこの面々になじんでしまったようで、ちょっとジェラシー。唐傘と同様、共通の妹分になってしまった。確かに、見た限りでは生まれたての妖怪にしか見えない。むしろ、ただの食欲旺盛な子供。妖怪ということで、警戒はあっただろうけど、聖含め負けることがあるとは思えない。
時間も経ち、妙な疎外感を抱いたまま夕食は終わった。そのまま、恙無く風呂と晩の座禅、月が上る半ばには灯は落とされた。
坊主と名乗る人間よりも、規則正しい妖怪とはコレ如何に。むしろ、ここからは逢魔が刻に向けて妖怪が起き始める時間。当然、私は眠くない。なのに、何故こいつと同じ布団なのか。聖の罠である。あの人、外見年齢で区別しすぎなのだ。聖よりも、私の方が年上なのに。
もぞりと、隣の塊が動く。寝た振りをしながら、その様子を見守った。大きさが合わない襦袢を引きずって、外を目指す。私以外に、目を覚ましている様子はない。もしかしたら、雲山くらいは気配を感じたかもしれない。でも、誰も動く様子はなかった。
帰るつもりなら、それでいい。単純に、退魔師に襲われたこととして忘れよう。でも、「食事」だとすれば――――
「いい月だね」
「そうだね」
不意打ちのつもりだったけど、驚きはしなかったようだ。野に棲む妖怪は、得てしてそんなもの。精神が強い妖怪は、生存競争にも強い。
「ねえ、今は私しかいないけど食べないの?」
「食べていいの?」
邪気のない視線が、向けられる。挑発のつもりだったけど、いなされたのか無視されたのか。今の言葉に、実行するつもりがないことは私でもわかる。そういえば、地底に心を読むのがいたな。二度と会いたくない。
「できれば、食べないでほしいけど。腕一本無くなっても死なないけど」
「今は、お腹空いてないからいいよ」
両腕を広げたポーズで、彼女は言う。あの黒い宵色の球は、今はない。単純に、光を嫌う妖怪なのか。眠るための簡易の寝室という意味しか、なかったのか。これで球に引きこもられたら、それこそ闇に融ける。ああ、迷った人間を狩るには好都合だね。肉を食べる妖怪からすれば、これ以上の能力はない。
「言っとくけど、あいつら食べても美味しくないよ」
「食べられたくない人は、みんなそう言うよね」
「かじってみた私が言うのよ。間違いないわ」
元来、私は食人はないので全部不味く感じることは伏す。一輪は、どうにも骨っぽい。ムラサは、スカスカして味など無い。星は、肉が堅くて歯が立たなかった。聖は、噛んでみようとしたら周りに総叩き。鼠は捕まらなかった。
そんなわけで、嘘はついていない。満足しない言い方だろうけど、全く偽ってもいない。案の定、あちらさんは納得しないみたいだ。食なんて個人の好みだし、説得する方に無理がある。単純な奴なら誤魔化せるけど、無理があったみたいだ。
今いち、こいつの性格が掴めない。私が引くくらいの殺気があると思ったら、猫のように甘え出す。ただの馬鹿かと思えば、隙はない。騙せると思えば、ご覧の通り。言うこと為すことが、二転三転。
「ところでさ、あの黒いのは何だったわけ?」
私の、正体を隠すための雲とは違う黒。いわば、私のは靄や霞と同じ。わからなければ、それでいい。
「ん、闇だよ」
あっけらかんと、問いに対する解答は出た。なるほど。闇、か。あの寒気は、そのせいだったか。
わからないか怖い、というのは私の能力。人間は、予測できないことに対して恐れを抱く。少なくとも、経験上はそうだ。最初のうちは、私が何の妖怪かわかるまで手出しもできなかった。
そして、活動するにも隠れるにも闇が一番いい。警戒心をあおりながらも、「何処」から「何」が襲いかかるかわからない。潜んでいるのか、潜んでいないのかすら胡乱。散々精神がすり減ったところで、いただきます。
退治されるときも、また同じ。こちらが夜目を持っていたところで、立場が変われば心情もまた変わる。逃げきったと思えば、さらに深い闇から追い立てられる。あの弓の源氏もそうだった。あれだけは、思い出したくない。
「そう。じゃあ闇の妖怪」
「ルーミアだよ」
「貴女に私はどう見える?」
この問いは、出来心。
私は、覚りのように心を読むことはできない。だから、正体不明の私を見せた。私は、正体の全てを明かさぬ妖怪。私がかつて、拠り所とした闇を操るこの妖怪に私はどう映るのか。そう、ただの興味。さぁ、答えてみろ。
「んー、ちまい?」
「何……?」
「何かしたの?」
……。
そういえば、顔とかむっちゃ見せてたしね。恥ずかしい。顔から火が出る思い。出たー! 頭を光球に変えた。自分でも、よくわからない状態。だめだ、あんなに格好つけてシリアスに持っていってこれは無いよ! うあー!
「大丈夫?」
「……駄目」
ここまで、どつぼに嵌るのはいつ以来だろう。できるなら、今だけ地底に戻りたい。でも、覚りだけはやだ。おいでおいでするのが見える。絶対、トラウマ発掘して遊ぶんだ! すーはー。何とか落ち着いた。
「で、結局お前何なのさ」
そう、ここまで散々私がバタバタしたけど、結局ルーミアの正体とかつかめていない。なので、直接聞いてみることにした。矜持とか、そういうのは後にとっておく。
ルーミアは、いっちょ前に腕を組んで考える。ああ、言っていいものか悩んでいるのか。そのくらいの警戒はするか。私も、姿以外は自爆だし。
「さぁ?」
ずっこけた。さぁ、とは何だ。誤魔化すにしても、もうちょっと言葉とかあるでしょ! 別に、強制しているわけじゃないのに! その頭の御札とかさぁ!
「だって、私名前と能力以外自分のこと知らないよ?」
あどけない顔のまま、とんでもないことを言った。自分のことを知らない?
「あんた、おかしいんじゃないの?!」
「なんだと」
「だって、あんた自身のことだよ?! 知らないわけないじゃない!」
「えー」
えー、じゃない。闇を操っている妖怪が、こんな適当でいいの? よくないよね。きっと良くない。もし、未成熟の子供であったとしても本能で感じるところはあるはずだ。食欲ばかりの、毛玉なんかじゃああるまいし。
もしかして、その御札で色々と封印されているのではにだろうか? 闇を操るなんて、それこそ百鬼夜行に相応しいくらい。例えば、人型を取るために御札で色々と制限したために、自分のことを含めて忘れてるとか。
「ねえ、その御札取ってみない?」
「やだよ。触れないし、取ろうとするとやな気持ちになる」
「ううん、本気ものの封印か。じゃあ聖とか紅白じゃないと」
「取ろうと思ってる?」
「んや、やめておく」
さすがに、封印を興味本位で解こうとするほど命知らずじゃない。何より、封印の話に触れたところからルーミアの眼が鋭くなった。何かがあるということは確実でも、暴いた後にどうなるかわからない。聖の時とは、違うんだ。今回は、諦めておく。
ただの子供にしか見えない体躯に、何が封じられているのか。やはり本質は、昼間のアレなのだろう。妖怪らしく人を喰い、妖怪らしく闇に棲まう。そして、自身が知らない以上は正体がバレることもない。
なるほど、これほどまでに妖しく怪しい存在も此処には居ない。自分も知らないのだ。正しく、誰にもわからない。ただ、私のようにひたむきに正体を隠そうとしているわけでもない。気のみ気のまま、寝床すらも定まっていないのだろう。枝で寝るような奴だし。どうやって、バランスとってたんだろ。食べたいときに食べて、眠いときに寝れるとか欲望に忠実すぎる。
むしろ、欲望に歯止めがないのかもしれない。何でもわかっているようで、その実何もわかっていないのだ。
とりあえず、わかったことは一つ。何を聞いても、何一つわからないということ。全ては徒労であり、聖に説教された分損をした。
多分、食欲が前に出ているのは決して満たされることがないから。一時の空腹は満たせても、何が闇を満たせようか。
人間には怯えられ、妖怪からは一方的に頼られ、巫女には祓われる。ルーミアは、私以上に孤独なのかもしれない。
当人に、その気はないだろうけど。
「ねえ、ぬえ」
「ん?」
「こっちからも、一つだけ聞いていい?」
「どうぞ」
私は、見た。
月のない夜なのに、紅く無邪気な目とその下に並ぶ白いあの牙を。相変わらず綺麗な、ゾッとするほど綺麗な歯。
私は、彼女に恐怖する。
「今日はお腹いっぱいだけど、」
でも、恐怖だけではない。
どちらかと言えば、冷や汗たっぷりのスリル。
こんなに、冷える夜なのに。
「次にあったら、貴女は食べてもいい妖怪?」
言葉に装飾も、遠慮もない。おそらく、彼女の空腹に立ち会えば私は捕食対象になる。でも、また昼間のようにかわしてやろう。あんなにも、綺麗で怖いけど憎めないのもまた事実。
私のように、闇に潜む妖怪は常に彼女と隣にいるのだから。
「食べられるものならね!」
大見得を切った。持ち玉を、全て叩きつけてやった。
挑戦を売ったルーミアは、三日月のような顔。足に震えが来るのは、きっと怖いから。
とにかく、次は彼女を怖がらせてやろうと思う。……思えば、あの唐傘と対して変わらない。なんとも情けない。千年も地底にいて、私はどれだけ弱くなったのか。そりゃあ、あの小娘たちにも負ける。
聖にくっついて、修行でもしてみようかな。
「じゃあ、楽しみにしておくねー」
最後まで、邪気なくルーミアは応じた。ところで、最後まで両手を広げたままだったけど、疲れないのかなアレ。
どうにか驚かせようと、色んなところに種を仕掛けておいたけど、全く驚かなかった。むぅ。むしろ、目の前にご馳走とか人間の山でも見せたほうが驚くのかも。喜びで。
……つくづく、私の本懐じゃない。
次にあったとき、それはいつだろう。こういった夜のたびに、怯えるか。多分、怯えないんだろうなぁ。私は鵺で、あいつに見つからないようにあいつを怖がらせよう。そして、うまくいかずに悔しがるんだ。予想は、脳裏で映像になる。胡散臭い予言よりは、当たるだろう。
さて、ルーミアも寝床に戻ったし私も戻ろう。まず、種が効かないなら、もっと古典的にいこうか。水をかけて、たたき起こすとか。……違うなぁ。
久しぶりに、楽しい気がする。是が非でも、驚く顔を見てやろう。まずは、おはようドッキリから。布団の中に、鼠でも入れてやろう。そのためには、誰よりも早く起きなくちゃいけない。となれば、さっさと寝よう。
楽しみで、笑いが漏れる。静かにしないと、誰かが起きてしまう。気をつけて、私は寝床へ戻ることにした。部屋の中は真っ暗で、真ん中の布団を領土としている私は何人か跨いで自陣へと帰還。いそいそと、布団に潜り込む。あれ、ルーミアはどの布団使ってるんだろ。まぁ、いいか。全部の布団に仕掛ければいいし。
さて、おやすみなさい。
明日の朝をお楽しみに!
ぐぅ。
昔々、国を一つ怖がらせていた私にとってはここも同じと考えた。人間も妖怪も、正体不明には対処できない。だから、私は勝てなくとも負けはしなかった。かつて、弓で射られて封印されて以来、命の危険を感じたことはない。聖の加護もあるんだろうけど、それはそれ。
私の食事は、人間の肉ではない。心を食べる。肉も嫌いではないけれど、人間の恐怖が一番の味わい。
出会う前の暗い道でビクビク怯えて、徐々に味を育てていく。特に、寺子屋に通う子供くらいがいい。変に理屈をつけるでもなく、純粋に恐怖する。好奇心は猫を殺す、というようにおびき寄せるにも最適。
そういえば、寺に住み着きつつある唐傘も私と同じ類らしい。若いためか、人の怖がらせ方がなっていない。今度、指導してやろうかとも思う。
誤解されがちだけど、恐怖を食われたからといって感情が欠落するわけじゃない。私が、怖くなるだけ。正体を知っていれば、巫女やら何やらに退治してくれと言える。けれど、正体不明の私はバレない。すでに、少数の人間には顔が割れていて、自身を正体不明にできないとは教えていないから。
実際、人が食われたわけじゃあない。だから、きついお叱りぐらいで終わりだと思う。せいぜい、トラウマが植え付けられてしまうだけ。そんなもの、誰でも一つや二つ抱えているわけで。若いうちからそれを持てるなんて、贅沢じゃないのとか考えてみる。
とにかく、幻想郷は私にとってあの都よりも住みよいところであるには、間違いなかった。
昔は、虹だって天変地異の前触れだと恐れられた。今ではどうだ。単に綺麗だと、騒ぐだけではないか。……正体が割れた、私が言うことじゃないけど。名前は教えていなくても、姿がバレれば相当正体わかる。そもそも、鳴き声だけでわかっちゃう人間もいて困る。
ともかく、今であっても正体不明っていうものは怖い。私の種を使えば、大体の人間と妖怪には通用する。単純に不明になるだけじゃなく、その当人にしか見えないものになるから。聖には、通用しなかったなー。正体わかってたから。バレるまでの、ほんの些細な悪戯。
私は、毎日種を撒きながら……時にはお仕置きを受けながら過ごしていたわけだった。
そんなある日の話である。
太陽の畑を本当の太陽に変えてみたり、彼岸花をちょっと描写できないような赤色にしたりすることにも飽きてきた。第一、あの都に比べて脅かす対象が少なすぎる。そして、慣れすぎている。第一、鵺を見てめんこいとは何だ。失礼と思わないのか。なでなでされすぎて、ああもうお前ら怯えて死ねよもう! 未確認飛行物体の群れ召還すんぞ!
さておき、こんなんでも一応長いこと生きている私。ちょっと千年ほど封印されていたけれど、大体のことは知っています。はい。でも、目の前の状況はちょっとばかり想定外なのです。
端的に言うと、まだ蕾すら出来ていない桜の樹に、大きな大きな黒い何かが刺さっている。子供一人分程度の直径球。なにこれ。もう一度、なにこれ。
妖精とか、悪霊の悪戯で人面が浮き出た柿とかは見たことあるけれど、さすがにこれはない。ちなみに、今はお天道さま真っ盛りの昼である。雲一つない。でも、目の前だけはぽっかりと黒い。
試しに、触ってみることにした。感触はなく、中はヒヤリとしている。冬の寒さとは違う、背筋に来るあの寒気に似ている。正直、長く手を突っ込んでいたくはないと思う。引き抜いてみても、手には何も付いていなかった。今度は、中に何が在るかを確かめるためにもう一度。興味もあるけど、私以上に正体不明がいては困るのだ。アイデンティティで考えて。
今度は方向を変えて、刺さっている枝から手を入れる。また同じ、ゾクリとする感覚がある。枝に沿って手を這わせていくと、やわらかい感触に行き着いた。
嫌な予感がする。嫌な予感がする! 意思よりも早く、体が動く。手を黒い球体から引き抜くと共に、鋭く揃った白い刃が飛び出した。遅く感じる中、思考だけが回る。綺麗だ。もっと、優先されるべき感情はあったはずなのだ。危険とか、憤りとか、安堵とか、疑問とか。自分の腕が噛み切られるかもしれないという時に、それを断とうとする凶器を賞賛するなど。いやぁしかし、この閉じられた門歯は輝かしいほどの白だ。
少しでも遅れれば、これ以上なく滑らかに私の肘より先は彼女の胃の中だ。黒い球は、狩りの為の罠だった。油断したなぁ。あの碁盤みたいな都にいた頃は、こんな向こう見ずな真似は、絶対にしなかったのに!
引いた腕の勢いのまま、後ろへ飛び退く。出来れば、面倒は起こしたくないと思う。楽しいけど、今は聖に迷惑がかかる。この枝に種を植えて、蛇にでも見せようか。それとも、光に化けて逃げるか。
幾ばくもない逡巡の間に、彼女はこちらを視認した。青白い顔に真っ赤な目。陽の光を乱す白に近い金色の髪。鋭くはないけど、まっすぐ私を見ている。意図は、よくわからない。やるか、引くか。逡巡は、続く。
「……眩しい」
彼女は、目を擦ると球の中へ戻っていった。
…………。
……………………。
耳をすます。小さく、小さく規則正しい呼吸が聞こえてきた。考えるまでもない。こいつ、寝た!
「起きろー!」
雰囲気ぶちこわし。張りつめた糸を掴んでいたのは私だけで、あっちは気にも留めていなかった。こちとら、千年も生きてるぬえ様だぞ!
黒い球から引きずり出すと、何とか陽を見るまいと体を捩る。布団をひっぺがされたムラサでもあるまいし! 第一、枝の上で寝るなんてどんな感覚なの! 馬鹿なの?!
樹から下ろしてなお、彼女は寝続ける。傍目から見ると、黒い球から生えた腕を引っ張っているという不可思議な真似だろう。
ええい、どうしてくれようか! まずは、ゆっくり話をしよう! 聖の元でお説教だ! あはははは、聖のお説教は長いぞー。線香一本どころか、束一個無くなるまで続くんだぞー。楽しみにすることだね!
反応はない。
さて、絶賛説教中である。
私が。
線香は、束の半分を突破。そろそろ、正座している足が苦しくなってきた。説教の内容はといえば、「寝ているだけの妖怪を誘拐してきたこと」について。なるほど、端から見ればそうなるのか。もっとも、聖の説教が的を射ているのは最初だけで、後は生活習慣とか普段のことが十割を占める。何度も繰り返されるため、若干洗脳気味。
星の介入が無ければ、束一個では済まなかったかもしれない。おそらく、助け船なんかじゃなく単純に用があっただけだ。毘沙門天の弟子も、容赦はない。鼠も、なんかこっちをなめるように見るし。
とにかく、彼女を今晩泊めるからその間に謝っておけとのこと。足の感覚が正体不明。触られたら終わる。
「ていや」
ぎゃおおおおおお! おのれムラサあああああ!
抵抗も出来ず、私は為されるがまま。虐待だ虐待。いたいけな妖怪をなぶるなんて、ひどい幽霊だ。
「一輪がご飯できたってよ。ていてい」
ああああああああやめええええええええ。
実は、命蓮寺の食事は割と豪勢。献立の豊富さの意味で。聖や一輪は、元々尼と名が付くだけあって精進料理で足りるらしい。片や、寅と鼠は基本肉食ゆえ、一輪が精進料理に密かに肉魚を忍ばせている。本来、生臭は禁じられていたはずだけど、微々たるものだ。昔は、鶏肉なら可とかよくわからない線引きの上に、兎を鳥と言って食べていた。このくらいなら、まだ全然。
そして、そういえば名前も聞いてなかった彼女も卓を囲んでいた。
とりあえず、一通りの教養はあるようで箸で食事をしている。ただ、マナーとかは知らないようで掻き込み飯。あーあー、顔に弁当が山ほどついている。山篭りでもするつもりだろうか。隣の聖にひょいひょい取ってもらっている。そして、よく食べよる。
私の腕を食おうとした時の殺気は、どうした。全く、毒気がないじゃないか。延々と、聖に説教された私は何ですかー。誘拐犯容疑で指名手配ですか? 「封獣ぬえ」って種族名だけで、本名だって名乗ってないもんねー。現行犯だったけども。
さておき、観察する限りただの子供だ。今や、一輪の膝の上を独占中。ええい、みんなはあの状況が見てないからそんな不注意な真似ができるんだ。今にパクッといかれてしまうぞ。
すっかりこの面々になじんでしまったようで、ちょっとジェラシー。唐傘と同様、共通の妹分になってしまった。確かに、見た限りでは生まれたての妖怪にしか見えない。むしろ、ただの食欲旺盛な子供。妖怪ということで、警戒はあっただろうけど、聖含め負けることがあるとは思えない。
時間も経ち、妙な疎外感を抱いたまま夕食は終わった。そのまま、恙無く風呂と晩の座禅、月が上る半ばには灯は落とされた。
坊主と名乗る人間よりも、規則正しい妖怪とはコレ如何に。むしろ、ここからは逢魔が刻に向けて妖怪が起き始める時間。当然、私は眠くない。なのに、何故こいつと同じ布団なのか。聖の罠である。あの人、外見年齢で区別しすぎなのだ。聖よりも、私の方が年上なのに。
もぞりと、隣の塊が動く。寝た振りをしながら、その様子を見守った。大きさが合わない襦袢を引きずって、外を目指す。私以外に、目を覚ましている様子はない。もしかしたら、雲山くらいは気配を感じたかもしれない。でも、誰も動く様子はなかった。
帰るつもりなら、それでいい。単純に、退魔師に襲われたこととして忘れよう。でも、「食事」だとすれば――――
「いい月だね」
「そうだね」
不意打ちのつもりだったけど、驚きはしなかったようだ。野に棲む妖怪は、得てしてそんなもの。精神が強い妖怪は、生存競争にも強い。
「ねえ、今は私しかいないけど食べないの?」
「食べていいの?」
邪気のない視線が、向けられる。挑発のつもりだったけど、いなされたのか無視されたのか。今の言葉に、実行するつもりがないことは私でもわかる。そういえば、地底に心を読むのがいたな。二度と会いたくない。
「できれば、食べないでほしいけど。腕一本無くなっても死なないけど」
「今は、お腹空いてないからいいよ」
両腕を広げたポーズで、彼女は言う。あの黒い宵色の球は、今はない。単純に、光を嫌う妖怪なのか。眠るための簡易の寝室という意味しか、なかったのか。これで球に引きこもられたら、それこそ闇に融ける。ああ、迷った人間を狩るには好都合だね。肉を食べる妖怪からすれば、これ以上の能力はない。
「言っとくけど、あいつら食べても美味しくないよ」
「食べられたくない人は、みんなそう言うよね」
「かじってみた私が言うのよ。間違いないわ」
元来、私は食人はないので全部不味く感じることは伏す。一輪は、どうにも骨っぽい。ムラサは、スカスカして味など無い。星は、肉が堅くて歯が立たなかった。聖は、噛んでみようとしたら周りに総叩き。鼠は捕まらなかった。
そんなわけで、嘘はついていない。満足しない言い方だろうけど、全く偽ってもいない。案の定、あちらさんは納得しないみたいだ。食なんて個人の好みだし、説得する方に無理がある。単純な奴なら誤魔化せるけど、無理があったみたいだ。
今いち、こいつの性格が掴めない。私が引くくらいの殺気があると思ったら、猫のように甘え出す。ただの馬鹿かと思えば、隙はない。騙せると思えば、ご覧の通り。言うこと為すことが、二転三転。
「ところでさ、あの黒いのは何だったわけ?」
私の、正体を隠すための雲とは違う黒。いわば、私のは靄や霞と同じ。わからなければ、それでいい。
「ん、闇だよ」
あっけらかんと、問いに対する解答は出た。なるほど。闇、か。あの寒気は、そのせいだったか。
わからないか怖い、というのは私の能力。人間は、予測できないことに対して恐れを抱く。少なくとも、経験上はそうだ。最初のうちは、私が何の妖怪かわかるまで手出しもできなかった。
そして、活動するにも隠れるにも闇が一番いい。警戒心をあおりながらも、「何処」から「何」が襲いかかるかわからない。潜んでいるのか、潜んでいないのかすら胡乱。散々精神がすり減ったところで、いただきます。
退治されるときも、また同じ。こちらが夜目を持っていたところで、立場が変われば心情もまた変わる。逃げきったと思えば、さらに深い闇から追い立てられる。あの弓の源氏もそうだった。あれだけは、思い出したくない。
「そう。じゃあ闇の妖怪」
「ルーミアだよ」
「貴女に私はどう見える?」
この問いは、出来心。
私は、覚りのように心を読むことはできない。だから、正体不明の私を見せた。私は、正体の全てを明かさぬ妖怪。私がかつて、拠り所とした闇を操るこの妖怪に私はどう映るのか。そう、ただの興味。さぁ、答えてみろ。
「んー、ちまい?」
「何……?」
「何かしたの?」
……。
そういえば、顔とかむっちゃ見せてたしね。恥ずかしい。顔から火が出る思い。出たー! 頭を光球に変えた。自分でも、よくわからない状態。だめだ、あんなに格好つけてシリアスに持っていってこれは無いよ! うあー!
「大丈夫?」
「……駄目」
ここまで、どつぼに嵌るのはいつ以来だろう。できるなら、今だけ地底に戻りたい。でも、覚りだけはやだ。おいでおいでするのが見える。絶対、トラウマ発掘して遊ぶんだ! すーはー。何とか落ち着いた。
「で、結局お前何なのさ」
そう、ここまで散々私がバタバタしたけど、結局ルーミアの正体とかつかめていない。なので、直接聞いてみることにした。矜持とか、そういうのは後にとっておく。
ルーミアは、いっちょ前に腕を組んで考える。ああ、言っていいものか悩んでいるのか。そのくらいの警戒はするか。私も、姿以外は自爆だし。
「さぁ?」
ずっこけた。さぁ、とは何だ。誤魔化すにしても、もうちょっと言葉とかあるでしょ! 別に、強制しているわけじゃないのに! その頭の御札とかさぁ!
「だって、私名前と能力以外自分のこと知らないよ?」
あどけない顔のまま、とんでもないことを言った。自分のことを知らない?
「あんた、おかしいんじゃないの?!」
「なんだと」
「だって、あんた自身のことだよ?! 知らないわけないじゃない!」
「えー」
えー、じゃない。闇を操っている妖怪が、こんな適当でいいの? よくないよね。きっと良くない。もし、未成熟の子供であったとしても本能で感じるところはあるはずだ。食欲ばかりの、毛玉なんかじゃああるまいし。
もしかして、その御札で色々と封印されているのではにだろうか? 闇を操るなんて、それこそ百鬼夜行に相応しいくらい。例えば、人型を取るために御札で色々と制限したために、自分のことを含めて忘れてるとか。
「ねえ、その御札取ってみない?」
「やだよ。触れないし、取ろうとするとやな気持ちになる」
「ううん、本気ものの封印か。じゃあ聖とか紅白じゃないと」
「取ろうと思ってる?」
「んや、やめておく」
さすがに、封印を興味本位で解こうとするほど命知らずじゃない。何より、封印の話に触れたところからルーミアの眼が鋭くなった。何かがあるということは確実でも、暴いた後にどうなるかわからない。聖の時とは、違うんだ。今回は、諦めておく。
ただの子供にしか見えない体躯に、何が封じられているのか。やはり本質は、昼間のアレなのだろう。妖怪らしく人を喰い、妖怪らしく闇に棲まう。そして、自身が知らない以上は正体がバレることもない。
なるほど、これほどまでに妖しく怪しい存在も此処には居ない。自分も知らないのだ。正しく、誰にもわからない。ただ、私のようにひたむきに正体を隠そうとしているわけでもない。気のみ気のまま、寝床すらも定まっていないのだろう。枝で寝るような奴だし。どうやって、バランスとってたんだろ。食べたいときに食べて、眠いときに寝れるとか欲望に忠実すぎる。
むしろ、欲望に歯止めがないのかもしれない。何でもわかっているようで、その実何もわかっていないのだ。
とりあえず、わかったことは一つ。何を聞いても、何一つわからないということ。全ては徒労であり、聖に説教された分損をした。
多分、食欲が前に出ているのは決して満たされることがないから。一時の空腹は満たせても、何が闇を満たせようか。
人間には怯えられ、妖怪からは一方的に頼られ、巫女には祓われる。ルーミアは、私以上に孤独なのかもしれない。
当人に、その気はないだろうけど。
「ねえ、ぬえ」
「ん?」
「こっちからも、一つだけ聞いていい?」
「どうぞ」
私は、見た。
月のない夜なのに、紅く無邪気な目とその下に並ぶ白いあの牙を。相変わらず綺麗な、ゾッとするほど綺麗な歯。
私は、彼女に恐怖する。
「今日はお腹いっぱいだけど、」
でも、恐怖だけではない。
どちらかと言えば、冷や汗たっぷりのスリル。
こんなに、冷える夜なのに。
「次にあったら、貴女は食べてもいい妖怪?」
言葉に装飾も、遠慮もない。おそらく、彼女の空腹に立ち会えば私は捕食対象になる。でも、また昼間のようにかわしてやろう。あんなにも、綺麗で怖いけど憎めないのもまた事実。
私のように、闇に潜む妖怪は常に彼女と隣にいるのだから。
「食べられるものならね!」
大見得を切った。持ち玉を、全て叩きつけてやった。
挑戦を売ったルーミアは、三日月のような顔。足に震えが来るのは、きっと怖いから。
とにかく、次は彼女を怖がらせてやろうと思う。……思えば、あの唐傘と対して変わらない。なんとも情けない。千年も地底にいて、私はどれだけ弱くなったのか。そりゃあ、あの小娘たちにも負ける。
聖にくっついて、修行でもしてみようかな。
「じゃあ、楽しみにしておくねー」
最後まで、邪気なくルーミアは応じた。ところで、最後まで両手を広げたままだったけど、疲れないのかなアレ。
どうにか驚かせようと、色んなところに種を仕掛けておいたけど、全く驚かなかった。むぅ。むしろ、目の前にご馳走とか人間の山でも見せたほうが驚くのかも。喜びで。
……つくづく、私の本懐じゃない。
次にあったとき、それはいつだろう。こういった夜のたびに、怯えるか。多分、怯えないんだろうなぁ。私は鵺で、あいつに見つからないようにあいつを怖がらせよう。そして、うまくいかずに悔しがるんだ。予想は、脳裏で映像になる。胡散臭い予言よりは、当たるだろう。
さて、ルーミアも寝床に戻ったし私も戻ろう。まず、種が効かないなら、もっと古典的にいこうか。水をかけて、たたき起こすとか。……違うなぁ。
久しぶりに、楽しい気がする。是が非でも、驚く顔を見てやろう。まずは、おはようドッキリから。布団の中に、鼠でも入れてやろう。そのためには、誰よりも早く起きなくちゃいけない。となれば、さっさと寝よう。
楽しみで、笑いが漏れる。静かにしないと、誰かが起きてしまう。気をつけて、私は寝床へ戻ることにした。部屋の中は真っ暗で、真ん中の布団を領土としている私は何人か跨いで自陣へと帰還。いそいそと、布団に潜り込む。あれ、ルーミアはどの布団使ってるんだろ。まぁ、いいか。全部の布団に仕掛ければいいし。
さて、おやすみなさい。
明日の朝をお楽しみに!
ぐぅ。
ただちょっと句読点が覆いかな?
ルーミアの雰囲気出ててすごくいいと思いますよー。
ルーミアもかわいいし、命蓮寺のみんなも良い味出してる
作品集100にはまだまだこんな面白いSSが埋もれているのか…
ぬえがやたら人間臭いせいで、ルーミアの妖怪っぽさが際立って面白い。
それにルーミアもなんかのらりくらりとしつつカリスマがあってカコイイ