*
「もしもし、お母さん? 私」
『あら、振り込め詐欺?』
「そんなわけないじゃない」
『冗談よ』
「まったく、もう耳が遠くなったのかしら」
『あら、失礼ね。私はまだ二十歳よ』
「なんで私と同い年なのよ」
『若ければ若い方がいいけど、ほら、法的に、ね』
「何がよ」
『それより、何か用かしら?』
「そうそう。あのね、お盆にそっちに帰るから」
『ふーん、分かった。何日間いる予定?』
「うーん、三日間くらいかな?」
『分かった。じゃあ準備しておくわ』
「準備って、娘が帰ってくるだけなのに準備なんて必要なの?」
『実は貴女の部屋、今物置になってるのよ』
「嘘!?」
『うん。嘘』
「……………」
『ふふ。じゃあ待ってるから。体には気を付けるのよ』
「うん。じゃ、おやすみ」
『おやすみ』
かくして私こと、マエリベリー・ハーンは実家に帰ることになった。
*
夜行バスに揺られること数時間、私は実家のある島根県松江市に帰ってきた。
ここで一応島根県について解説しておかなければならないだろう。
島根県は中国地方にある日本海に面した県で、鳥取県、山口県、広島県、岡山県に囲まれている。日本一老人の多い県として有名(?)だったことのある県だ(ただし、それは四十年も昔の話なので私はそのころのことは何も知らない)。県庁所在地は松江市。有名なものは宍道湖、松江城、石見銀山、くらいの田舎だ。
十年程前、開発の計画が立ち上がったが、県の財政や人口の問題によって、何も作られないままその計画はつぶれた。ちなみに新幹線すら通っていない。よって私はこうして夜行バスに乗っている。
私は夜行バスの窓から街並みを眺めた。面白いほどに何も変わっていない。京都のような喧騒も無い、東京のような古めかしさも無い。人の少ない、普通の田舎。まったく、地味な所だ。
でも、私はここのそんなところが好きだ。地味だから人は集まらないし、そもそも元から人が少ない。なんというか、日本の隙間のような場所だ。
そんなことを考えているうちに、終点の松江駅に到着した。
私は荷物を持ってバスを降り、んんっと一伸びした。長時間同じ姿勢だと辛い。エコノミークラス症候群になってしまう。
とりあえず、お母さんに電話をして、迎えに来てもらおう。タクシーは嫌だ。高い。路線バスも嫌だ。松江市の路線バスは非常に不便だし、何よりもうバスに乗りたくない。歩いて実家に帰るというのも選択肢にあるが、荷物は重いし、天気もあまり良いとはいえないし、ここから家までの距離が遠い。ほとんど最後の手段だ。
「もしもし、お母さん?」
『あら、マリー』
お母さんは、いや、親族全員が私のことを『マエリベリー』ではなく、『メリー』でもなく、『マリー』と呼ぶ。お母さんがはじめに私のことをそう呼び、次第に親族全員が真似しだしたのだ。蓮子の『メリー』はともかく、お母さんの『マリー』はどうかと思う。っていうか『マエリベリー』と呼ぶのが億劫ならはじめからもっと短い名前を付ければよかったのに。
『……今自分の名前に疑問を思ったでしょ?』
「いや、そんなことないわよ」
『ふーん、まあいいけど。それより、何かしら?』
「今駅に着いたから、迎えに来てほしいのよ」
『そう言うと思ってもう来てるわよ』
「え、嘘」
『嘘だと思うんなら駅の南口に来て見なさい』
つーつーつ――
……切られた。
まあお母さんは言っていることはかなり胡散臭いが冗談はともかく嘘はつかない。
私は言われた通りに駅の北口から駅の中を通り、南口へ向かった。
客待ちのタクシーに混じって、かなり古い外車が停まっていた。
間違いない、うちの車だ。
私が近づくと、車からお母さんが出て来た。
「やっほー、マリー。こっち」
うちのお母さん――紫・ハーン・八雲は、上品に笑いながら私に手を振った。
ギリシャ人と日本人のハーフ。私と同じ金髪。百七十以上もある身長。私が最後に会った正月のときと――いや、私が産まれたときと何も変わらない二十代前後の容姿。そして何よりこの胡散臭さ。
これが私の母だ。
私は車のトランクに荷物を積み、助手席に乗った。
「おかえり」
母がそう言うと同時に、車が走り出す。
「ただいま」
私はそう返す。
「お盆の帰省ラッシュで混んでなかった?」
「いや、夜行バスは結構空いてたよ。たぶん国道とか高速道路とかは結構大変なことになってるだろうけど」
「まあそりゃそうよね。いちいち夜行バスを使って帰る人なんてそういないもの」
「何かそれ、私が変人みたいじゃない」
「あら、違うの?」
「……………」
否定できない。
境界を見る程度の能力を持ち、秘封倶楽部という名のオカルトサークルに所属しているのだ。これを変人と言わずして何と言うのだろう。
ちなみに、お母さんも私と同じ『境界を見る程度の能力』を有している。となると、お母さんも変人ということになるのではないだろうか?
「そう言えば、お友達はどうしたの?」
不意にお母さんが訊いてきた。
「お友達? 蓮子のこと?」
お母さんにはよく蓮子の話をしている。
「そう。その子」
「蓮子なら実家に帰ったよ。私と同じように」
ちなみに蓮子の実家は千葉県にある。
そういえば一週間前、私が島根に帰ることを言うと蓮子は羨ましがっていた。
「島根は神話の国だからね。それに、怪談話も結構多いし」
と、言っていた。
怪談話のことなら私も知っている。その昔、島根にやってきたラフカディオ・ハーン(小泉八雲ともいう)がたくさんの怪談話を残した。
ラフカディオ・ハーンのことは島根の人間なら誰だって知っているだろう。特に私は彼と苗字が同じだ。知らないはずが無い。
そういえばこんなことも言っていたような気がする。
「島根には境界にまつわる話があるのよ。黄泉比良坂って知ってる? 島根県と鳥取県の境にある、あの世とこの世の境界のことよ。もしかすると、他にも境界があるかもよ」
『あの世とこの世の境界』
まあ正直そんなもの、見えてもうれしくは無い。もし半分死んだイザナミ神が手を振ってたらと思うとぞっとする。
だがその黄泉比良坂以外の境界があるのなら、見てみたい気もする。
「お母さん」
「ん?」
「松江に境界はあるかしら?」
「あるんじゃないかしらね。というか、どこにでもあるものよ、境界なんてね」
*
私の実家は松江市の八雲町日吉にある。
まるで武家屋敷のような(結構新築だけど)少し大きな家が、私の育った家だ。武家屋敷のよう、といいながら中は和洋折衷で、むしろフローリングの方が多い、意味不明な家だ。
私が「ただいま」と家の扉を開けると、「おかえり」と藍叔母さんと橙姉さんが迎えてくれた。
「あ、帰ってたんだ」
藍叔母さんはお母さんの妹でシングルマザーだ。お母さん同様にどう見ても二十代だ。お母さんほどではないが、かなり背が高い。
橙姉さんは藍叔母さんの娘で、私の従姉妹にあたる。私より五つ年上のはずなのだが、どう見ても十代前半にしか見えない。私が物心ついたときに、彼女の『橙』という名前に疑問を感じたが、彼女の父が中国人だということを聞いて納得したことを今でも覚えている。
「いつこっちに帰ってきたの?」私は藍叔母さんに訊く。
ちなみに二人は長野で二人暮らしをしている、らしい。実際はどうなのかは知らない。
「つい昨日だ。帰省ラッシュで大変だったよ」
「いつまでこっちに?」
「今週一週間は滞在するつもりだ。マリーは明後日には帰るそうだな」
「うん」
「夏休みは長いんだろう? しばらくはこっちにいればいいのに」
「でもこっちの気候に慣れちゃったら京都に帰ったとき地獄だし……」
それに、京都に帰ったらすぐに蓮子に島根の話をしなくてはならない。そういう約束だ。
「そういえば京都は暑いんだっけな」
「うん」
「お母さん」
と、橙姉さんが話に割り込んできた。
「マリーちゃんは長旅で疲れてるんだからせめて荷物を置いて来てもらってリビングで話したら? 玄関で立ちっぱなしだと疲れるでしょ?」
「私も橙の言うことには賛成ね」
と、私の後ろに立っているお母さんも頷く。
「……そうだな。とりあえず、荷物を置いてゆっくり休んでなさい。昼食は私と橙で作るから」
「うん」
私は階段を上がり、二階の自室に這入った。
綺麗なカバーのかかったベッド、少し大きな箪笥、そこそこ本の入った本棚、清楚なカーテン、机に置かれた可愛い小物……
いつ見ても整った部屋だ、と私は思う。
きっとお母さんが私が帰ってくる前に片付けているのだろう。
私は荷物をベッドの上に置き、椅子に腰掛け、ふう、と一息ついた。
やっぱり松江は涼しい。気温は三十度を超えているのだが、京都の気候に慣れてしまったせいかそう思う。それにこの部屋は風通しも良い。
……何だか、少し眠気が……。
「マリーちゃーん! お昼何食べたいー!?」一階から橙姉さんが呼びかけてきた。
「あっ! ええっと、冷やし中華!」
「分かったー! ちょっとみんなで買い物行ってくるー!」
橙姉さんがそう返すと、少し間をおいて車が出る音が外から聴こえた。
「……………」
一人になってしまった。
どうしよう。少し眠いし、このまま昼寝でもしようか?
いや、それは何だか時間が勿体ない気がする。
「……あ、そうだ」
墓参りに行こう。お盆だし。
*
少し歩いて、私は家の近所にある集合墓地にやってきた。
入り口で桶を借り、水を入れる。
思えば大晦日以来だ。まあ墓に来るタイミングなんて大晦日とお盆以外にはないのだが。まあ仮にあるとすれば、誰かが死んだときくらいか。
もっとも、まだ私が生まれてから誰も死んではいない。
「まだ誰も死んでない、はず」
少なくとも、私の覚えている限りは。
祖父母はお母さんがまだ十代の頃に亡くなっている。二人とも、交通事故だそうだ。
藍叔母さんの旦那さんは私の生まれる三年程前に病気で亡くなっている。
そして、私のお父さん。
お父さんは――分からない。
私は知らないのだ。お父さんの生死どころか、今どこにいるのかも、何をしているのかも、顔も、声も、影も、形も、何もかも。
私が物心ついた頃には、もうすでに“父”という存在は、うちにはいなかった。
お父さんについて、お母さんは何も話さない。私がいくら訊いても、お母さんは断固として口を開かなかった。
あるとき、私は写真だけでも残っていないかと家中を探したことがある。しかし、うちにはそもそも“写真”と呼ばれる物が存在しなかった。これには私も驚いた。うちには父の記憶どころか、形に残る思い出すらなかったのだ。
そういえば、私も写真を撮らない。それどころかカメラすら持っていない。
今度蓮子と撮ってみようか。大学を卒業して離れ離れになったとき、何も形に残っていないのは少し寂しい気もするし。それに、お父さんのように蓮子の顔が出てこなくなるのも嫌だ。
私は『八雲家之墓』と書かれた墓石に水をかけ、持っていた線香に百円ライターで火をつけ、それを供えて拝むと、ふと空を見上げた。
さっきよりも雲は厚く、黒くなっている。
雨が降らないうちに帰ろう。
私は墓場を後にした。
*
家に帰るとまだ誰もいなかった。
携帯で時間を見ると、まだAM11:40くらい。私が出たのはAM11:10くらいだから、まだ帰っていないのだろう。渋滞に巻き込まれたという可能性もある。
とりあえず、私はみんなが帰ってくるか、雨が降るまで縁側でお茶でも飲んで涼むことにした。
年寄りくさいかもしれないが、京都のような都会ではそんなことはできないので大目に見てほしい。
と、いうわけで、私はキッチンで冷たい麦茶をコップに注ぎ、縁側に出た。夏は冷たい麦茶に限る。
縁側に出て、
思わず足が止まり、視線がそれに釘付けになった。
何で――
何でうちの、
何でうちの庭に、こんな、その、
何でこんな『境界』があるのだろう?
まさしくそれは、境界、隙間、裂け目、何とでも呼べる代物だった。
それは、うちの庭の、何も無い、本当に何も無い、しいて言えば空気のあるところにあった。
何かとの境界。
人一人入れるような隙間。
宙に浮いた裂け目。
私は縁側にコップを置いて、その辺にあったサンダルを履き、それの横にまわった。
まさに、二次元の物体だ。横からでは見えない。
私はふと蓮子の言葉を思い出す。
『他にも境界があるかもよ』
あったよ、蓮子。他にもあったよ。しかもよりにもよってうちの庭に。
私は恐る恐る、それの中に指を入れる。なんと見えるだけじゃなく触れる……。
この隙間は、一体どこにつながっているのだろう?
ふと思った頃には、私の身体は半分以上それの中に這入っていた。
*
気がつくと、私は見たことも無い場所に立っていた。
おそらく、森か林の前だろう。すぐ目の前に異常に大きな木々が生い茂っている。
暑い。
さっきまでの曇り空がまるで嘘のようだ。空を見ると雲一つ無い。
私は辺りを見渡す。
今私が立っているところは道、ではあるが道路ではない。どうやらここは山の中か、あるいは――
「隙間の向こう側か。……まあ、あれだけ身体を入れたんだもの。そのまま向こう側へ行ってしまったんだわ」
とりあえず、冷静になろう。今はいつもと違って蓮子がいないんだ。一人で何とかしなければ。
「と、一人で何とかとは言ってみたものの、その何とかってのが何なのかさっぱりだわ」
どうしようかと思ったそのとき、奇妙な建物が眼に留まった。
大きいか小さいかで言えば大きい、が、まるで古びた倉庫のような小屋。辺りにはこれまた古びた、そして色々な種類の看板が飾ってあり、玄関と思われる扉のうえにはさらに古い、木製の大きな看板が飾ってある。そして極め付けには、家の裏(だと思う)から異常に背の高い(小屋の背丈の二倍半はあるだろう)ひまわりの花が一つだけ、顔を出している。
はっきり言って、近づきたくなかった。
明らかにこの建物はおかしい。
ただでさえこんなおかしい森(だと思う)の前に建っているのだ。
「いや、こんなおかしい森の前に建っているからこそ、こんなんじゃなきゃいけないのかも」
とりあえず、廃墟という感じはしないので這入ってみることにした。誰でもいい、何でもいいから、ここがどこか訊かなくては。
一応ノックして、扉を開ける。カランカランとベルがなった。
「いらっしゃい」
建物の中に入ると、そう声がした。
男の人が、カウンターらしき物の奥に座っていた。
歳は私と同じくらいか、少し上だろう。だが白い髪をしていて、正確な歳が分からない。背は座っていて良く分からないが、高め。和服と洋服の中間のような服を着ていて、顔は中性的で、眼鏡をしている。そして、眼鏡の奥の金色の瞳が、薄暗い建物の中でもよく分かった。
「――おっと、初めてのお客さんみたいだね。ここは香霖堂。見ての通りの古道具屋さ。ここでは主に外の世界の珍品を扱っている。まあ頼まれればマジックアイテムの生成もしたりするけどね。そうだ、まだ自己紹介をしていなかった。僕はこの香霖堂で店主をやっている者だ」
男――香霖堂店主は誰に訊ねられるでもなく、完全に営業の笑顔でそう言った。
「香霖堂……」
なるほど。よく分からないが、とにかくここは島根県松江市でも、私のいた世界でもなく、香霖堂という古道具屋らしい。
「ねえ、香霖堂さん」私は店主さんに訊く。「ここは一体何なの?」
「さっきも言ったとおり、ここは香霖堂さ」
「そういうことじゃなくて、ここは、この世界は――」
「その質問には、僕は答えられないよ」店主さんは私の問いを遮って言った。
「……どういうこと?」
「逆に訊くけど、君は自分の住んでいるところについて、答えることが出来るかい?」
「……………」
私の住んでいる場所。
京都府京都市の大学付近のアパート。
あるいは島根県松江市の八雲町日吉。
それくらい、ちゃんと言える。しかし、言ったところで彼は理解できるだろうか?
逆に、私がこの世界のことを彼から訊いて、どれだけ理解できるだろうか?
「まあ、その代わりと言っちゃなんだけど、君が欲しい物を提供してあげよう。せっかくのお客さんだからね」
店主は笑顔で言う。
「欲しい物、ね……」
何だか少し腹が立ってきた。そんな物でごまかされたって今は仕方ない。こうなったら、絶対にこんな古道具屋になんか無いものを言ってやる。
私が今欲しくて、絶対に無いもの――
「私は、私の思い出が欲しい」
私はそう言ってやった。
「思い出、ね……」
店主は考えるように顎をさすった。
どうだ、私の家にだって無いんだ。こんなところにあるわけない。
「ちょっと待っててくれ。少し探してくる」
店主は少し考えたかと思うと、立ち上がって店の奥へ這入っていった。
え?
どういうこと?
私が困惑している間に、店主は戻ってきた。一枚の写真を持って。
「すまないね。探したんだけど、一枚しかなかったよ」
店主は私に写真を手渡す。
写真に写っているのは、赤ちゃんと、お母さん。
紛れも無く、マエリベリー・ハーンと、紫・ハーン・八雲。
「これ……そんな、どういう……」
「さあね。僕にはさっぱり分からないよ」
「お父さんは!? お父さんの写真は無いの!?」
夢中で店主に掴み掛かる。
こんな写真があるなんて夢にも思わなかった。
なら、もしかすると、お父さんの写真も、ここにあるんじゃないだろうか?
私が喉から手が出るほど知りたい父の顔を、この人は知っているんじゃないだろうか?
「残念だけど、ここにはそんなものは無いよ」
掴んでいた手を、払われる。
「ほら、お迎えだ」
足元から、感触がなくなる。
落ちる。
どこへ?
どこかへ。
「またね、マエリベリー」
そう聴こえたような気がしたが、たぶん気のせいだと思う。
*
「マリー、ご飯よ」
と、言われて私は目を覚ます。
………………………あれ?
私は辺りを見回す。
縁側、和室、コップ、庭、そしてお母さん。
……私の家?
「マリー、先に食べるわよ」
お母さんが私の顔を覗き込む。
「どういうことなの?」
「何が?」
「私は確か隙間の向こうに……」
「何? 隙間の向こうに行ったの?」
「うん。で、そこで写真を――」
あれ? 写真?
「ない?」
写真が、無い。
立ち上がって身体中を探す。ポケットの中とか、スカートの中とか、帽子の中(あれ、あの時被ってたっけ?)とかを、くまなく探す。が、無い。
「お母さん、写真知らない?」
「写真?」
お母さんはきょとんとした顔で私を見つめた。
「そんなもの知らないわよ」
「そんな、確かにもらったはずなのに!」
「もしかして、隙間を覗いて気絶したのかもよ。お母さんも経験あるわ、そういうこと」
「……………」
まあ、確かにそうかもしれない。経験者がこう語っているわけだし……。
「とにかく、お昼を食べましょう。お昼はそうめんよ」
「え? あれ?」
かくして私の隙間の向こうでの体験は、あろうことか“夢オチ”という形で片付いた。
*
橙姉さんとゲームをしたり、藍叔母さんと話をしたり、お母さんと買い物をしているうちに、三日経ってしまった。時が過ぎるのは早い。
私たちは松江駅のホームにいた。なんとなく、帰りはJRを利用することにした。新幹線よりは幾分か遅いが、夜行バスよりは速い。
「本当にもう少しいればいいのに」
橙姉さんが少し残念そうに言う。
「わがまま言うな、橙。マリーだって都合があるんだ」
藍叔母さんが言う。橙姉さんはまるで子供だ。私より年上なのに。
「でも、本当にもう少しいて欲しかったな……」
今度はお母さんが甘えた声で言う。これは恥ずかしい……。
「まあまあ、ちゃんと大晦日には帰ってくるから」
「ホント? 彼氏作って帰らない、なんて事、ない?」
「まさか」
私はそう言って笑う。……少し胸が痛んだ気がする。
特急列車がホームに這入って来て、止まる。私はこれに乗るのだ。
「……じゃあ、そろそろ行かなきゃ」
「そうか、じゃあな、マリー」
「大晦日、楽しみにしてるよ」
荷物を持って、列車に乗り込む。
「またね、マエリベリー」
そう聴こえたような気がしたが、たぶん、気のせいじゃないだろう。
なかなか面白かったですまさか親子とくるとは…
しかし、紫が母親なのは解りますが、その式まで血縁なのはどうだろう。
ただそう言ってるだけで実際は繋がってはいないという事なのかな。
続きギブミー!
でも続き見てみたい。
最近、家族設定が多いぜ~
この場合メリーはクォーターですねぇ。
紫がわざわざこういう回りくどい育て方をした理由も気になります。
なかなか興味深かったですよ。あと、紫霖は大好物です。
紫霖は三度の飯より大好きです。
超設定でしたが全然オーケーでした。
式神が血縁というのは実際にそうではなくて名目上という解釈でいいんですかね?
紫霖でどんぶり三杯いけます。
あと
>有名なものは宍道湖、松江城、石見銀山、くらい
せっかくだから島根原発も加えてやってw(←県庁所在地にある日本唯一の原発
男はそう言い残すと、突如として足元に開いた隙間の向こうへと消えていった…
さあ、早く幻想郷と外の境界を曖昧にする作業に戻るんだ
↑にふいたw
この間帰ったばっかだけどもっかい帰ろうかなぁ…
…他の方のコメントを読んでて、「紫りん(ゆかりん)」と読めることに気づき吹いてしまったのは内緒(りんの漢字がない(泣))
みんなが可愛いのでとにかくおk
そのあたりならチャリですら30分くらいで着くわwww
続きを期待してたり
島根か……遠いな……
まぁ、千葉が近いしいいや(何
続き、やると最早東方じゃあなくなりますけど、それでもやってほしいですか?
個人的にはこれ以上風呂敷を広げると収集できなくなると思ってますが……。
まあやるとなれば蓮子視点の話ですかね。それでも十分東方じゃあなくなりますが。
時間が余計にかかる?
HAHAHA
もし、続きが有るのならもう少し全体的に掘り下げた説明が欲しいです
霖之助と紫の関係や、メリーの産まれるまでのあれやこれやが有ったら
非常に読んでみたいですね
何となく逆のような気が
それだけで満点を献上したいお年頃。
米レス失礼
紫・ハーン・八雲という珍奇な名前に笑いました。