チョコレートを一欠けら。
一欠けら含めば香ばしい香りが口いっぱいに広がる。
ほんのりと甘くて、ちょっぴりほろ苦い。
ミルクより、どっちかと言えばビターがお好き。
私の大好きなお菓子。
チョコレートを一欠けら。
*******
「おっそいなぁ」
先程買い出しに出たきり、中々帰ってこない親友に対して悪態をつきつつ、私はアルコールを喉に通す。
一緒に行こうと言ったのに、彼女ときたら『飲んだくれは大人しくまってなさい』なんて捨て台詞と共に、私の家を出てから既に一時間。
流石に遅すぎる気もするけれど、まぁ問題ないか。
変質者とかに遭遇しても、彼女なら撃退出来るだろう……多分。
なにしろ世界を狙える左の持ち主だもの。
左を征する者世界を征すとかなんとか、どこかのおっちゃんが言ってた気もするし。
『明日の為に其の一、横隔膜上部を的確に、えぐり込むようにして撃つべし』みたいな。
……どうでもいいや。
「あー、もう退屈だわー」
ぐっと背を伸ばすと、バキバキといった不穏な音が体中から響き渡った。
あ、やばい、めちゃめちゃ気持ちがいい―――
『グギッ』
「はうっ!」
*******
熱帯夜とはよく言ったもので、室内の温度は二十五度を軽く上回り、じめっとした空気が篭って肌に纏わり付く。
少しは変わるかと窓を開けてみたけれど、余計にじめっとした空気が流れ込んで来たので慌てて閉めた。
……諦めて、この部屋唯一の冷房(?)である、扇風機様に頼り切ることにした。
いい加減夏が真っ盛りな感じなため、扇風機一つではつらい感じもしないわけでもないけれど、クーラーなんて贅沢品を設置できるだけの余裕も無いので却下。
とゆうか秘封倶楽部の活動費を私が負担している時点で、そんな文明の利器の設置は夢物語だし。
先程まで友人が独占していた扇風機の首ふりを停止して、自分の方に固定。
あー、涼しい。
「はあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁん」
扇風機様に向けて情けない声を向けると、更に情けなくなって聞こえた。
やば、ちょっと楽しくなって来たわ。
そんなくだらない事をひとしきり楽しむと、私はベットに腰を下ろした。
じめじめと蒸し暑い部屋の中にゆらゆらと漂う蚊取り線香の煙りをぼんやりと横目に眺めながら、私は空になった空き缶を床に置く。
そして、残り少なくなったほろ苦いお菓子を口に放り込んだ。
チョコレートを一欠けら。
******
どうでもいいことだけれど、時計のズレを直すのって面倒よね。
直しても、どうせまたズレるわけだし……
電波時計を買ってもいいけれど……それでも、やっぱりそうはしないのは貧乏な学生の性か、或は自らの体質故か。
だって、時計なんて見なくても、星と月を見れば時間わかりますもん、私。
とゆうか、そんなお金あったらクーラー買いますわよ奥さん、うふふふふ。
え?今時電波時計は安いって?
馬鹿ねぇ、出費は押さえるものよ。
秘封倶楽部の活動の為に。
話しを戻そうかしら。
そんなわけで、時刻は深夜二時をまわ……
あ、いや、部屋の時計は七分二十四秒ズレてるんだから、まだ二時前か。
そんな時間だというのに、彼女は未だに帰ってこない。
まさか、深夜徘徊で捕まってたりしないわよね?
また窓を開け放ち、空に浮かぶ月を眺め―――
られなかった。
めちゃめちゃ曇ってらっしゃるわ。
まぁ、それでも時間はわかりますけど。
蓮子はなんで時間がわかるのん?
ウサミミですけどー。
******
頭の芯が重く、世界が斜めに見えるようになった頃。
……ようするに家に置かれたアルコール類を飲み尽くした頃になって、彼女は漸く家に戻って来た。
「ただいまー」
扉の開く音に続くように、彼女の陽気な声が響き渡る。
彼女は、部屋に入るなり酒臭っと叫び、私の口にあのお菓子を捩込んでくる。
「滅びろ、アルコール臭」
「うふふ、メリーこそ凄いアルコール臭よー」
「ふはははは、チョコレートを喰らえー」
「ぐふはっ」
ぐいぐいと容赦なく押し付けてくるものだからあえて指ごとしゃぶりついてみると、ひゃあという可愛らしい悲鳴をあげて、彼女は飛びのいた。
うふふ、可愛い反応するなぁメリー。
うん、メリー超可愛い。
口には出さないけどね。
出したらきっと別の物まで出す羽目になりそうだものね。
主にお酒とかお酒とかお酒とか。
口に含んだ甘いお菓子を舌の上で転がしながら、私は頬を緩める。
チョコレートを一欠けら。
にしても、メリーって双子だったかしら?
******
「でさぁ、何でこんなに遅かったのよ?」
「あぁ、うん。なんかね、お酒を買ってさっさと帰ろうかなあと思って、近道がてら公園を通ったのだけどね?」
「うん」
「寝ちゃった」
……はい?
何ですって?
というか、メリー、イマ、ナントオッシャイマシタ?
「だから、私も酔いが回っていたのね。公園のベンチでこう、すやすやと……」
「それで遅かったの?」
「たっぷり寝ちゃったわ」
「あはは、ばっかでー」
「うふふ、本当よねぇ」
からからと私が笑うと、メリーもくすくすと笑う。
メリーは、彼女が買ってきた缶カクテルを投げて寄越すと、乾杯と言って缶を傾けた。
私もそれに乾杯と答える。
再び、喉を流れていく熱い液体に心地よさを感じながら、私は窓の外を見上げる。
時刻は三時、星は未だ見え、夜明けは未だ遠い。
チョコレートを一欠けら。
甘いお菓子を口に含みながら、彼女と一緒に他愛のない話し。
鼻孔を擽る甘い香に、私達は二人で微笑みあった。
END
でも蓮子は譲れない、あの子は私の娘だ!!(大嘘)
短かったですけど、癒されました。
最後に一つ、カクテルは投げてはいけません、明けた瞬間慌てる嵌めになりますヨ?
扇風機に向けた蓮子の脱力するような声とか、指ごとしゃぶられたメリーの
可愛い声も良かったですし、お酒を飲んで何気ない会話をしながら
深夜の時間を過ごす彼女たちが面白かったです。
来ると思っていたぜ、その質問!
その問いには迷わずこう答えよう!
全く考えていなかった。
本当に……申し訳なかったと思うWW
>何気ない会話
↑これって肝心な事だと思うんですよねー
しかし公園は