今日も今日とて紅魔館では、大勢のメイドが働いていた。
「はーい! 洗濯物終わり! みんなで干しに行くよー!」
「ちょっと! こんなところにモップ出しっ放しにして! 誰よ! あ、私だ!」
「非常事態発生! 醤油の買い置きがありません!」
「買い出しを許可する!」
さながら戦場であった。
一方その頃、レミリアの部屋には数匹の妖精メイドが呼ばれていた。
いずれも、ここ最近何かしらの功績を上げた者達である。
「えー、ではまずあなた。あなたは確か‥‥」
「はい! とうとうやりました! 一介の妖精の私が、程度の能力を身に付けました!」
「よく頑張ったわね。で、どんな程度の能力なの?」
「はい! 炎を自在に操る程度の能力です!」
「マジで。主役級じゃないの」
「えへへ!」
「それじゃああなたは‥‥今日から、ブラッディーホルンと名乗るといいわ。どう?」
「わあ、かっこいい! ありがとうございます!」
「次にあなたね。えーと‥‥館に迷い込んできた氷精を追い返したんだっけ?」
「はい。舌先三寸で」
「方法はともかく、よくやったわね。あなたは‥‥そうね。ナインブレイカーっていうのはどう?」
「恐縮です!」
「最後はあなたね。あなたはこの一週間、お昼寝も我慢して、周りのメイド達のお手本になるような働きをしてくれているわね」
「ええ、まあ‥‥」
「そんなあなたの名前は、ブラッククロスなんてどうかしら」
「ありがたいんですが‥‥名前を頂けるほどの事でしょうか?」
「十分偉いわよ。門番を見てみなさい。今日の昼寝時間が3時間の大台に乗ったわよ」
「はい。では、ありがたく名乗らせてもらいますね!」
窓から見える正門。
そこに見える美鈴の姿には、妖精メイドの遠慮など一瞬で吹き飛ばせる説得力があった。
「はい、それじゃ解散ね。この後もお仕事頑張ってちょうだい」
「はーい!」
パタパタと駆けていくメイド達。
その後ろ姿を眺めながら、レミリアは満足そうに微笑んでいた。
その日の夕食時だった。
レミリアとフランドール。
それに付き従う咲夜。
パチュリーと小悪魔。
結局6時間の仮眠を終えた美鈴は、食卓を囲んでいた。
「ねえお姉様、メイド達に何かしてあげたの? なんだか喜んでいる子がいたけど」
「ああ、名前を与えたのよ。そう、喜んでいたのね。よかったわ」
「ふーん‥‥」
オムライスをもぐもぐと食べながら、フランドールは更に質問を重ねる。
「お姉様は親しくなった名無しの子にすぐ名前をあげるけど、どうして? 咲夜もそうだったんでしょ?」
「ええ、光栄な事にその通りですわ」
「フラン、名前というのは、凄く大切なものなのよ。あなたも妹様って呼ばれるより、フランドールって呼ばれた方が嬉しいでしょう?」
「うん! そっかあ。そうだよね!」
「特に私達悪魔と呼ばれる者は、その傾向が顕著なの。そんな私に仕える以上、あの子達にも誇り高い名を用意してあげないとならないわ」
「ふーん、そうなんだぁ」
「‥‥もう、あんな悲劇はたくさんだからね」
そう言ったきり、レミリアは黙ってしまった。
咲夜は美鈴、パチュリーは、過去に辛い事があったのだろうと察し、これ以上突っ込んで聞く事はしなかった。
しかし、心の幼いフランドールにその理屈は通用しない。
「どうしたの? 何かあったの?」
「ちょ、フラン様‥‥!」
「いいのよ美鈴。そうね。フランには話しておいた方がよさそうね。私と同じ過ちを繰り返さないために、ね」
そうしてレミリアは、ワインの入ったグラスを傾けながら話し始める。
「今でもいるみたいだけど、数百年前の外の世界には、悪魔祓いを生業にする者が大勢いたのよ。私達の生まれ故郷辺りには特にね」
「へえ」
「その頃の私は、今ほど強い力を持っていなくてね。いわば、見習い吸血鬼みたいなものだったのよ」
「お嬢様にもそんな時代が‥‥それが今はこんなに小生意気になってしまって」
「うっさい。そんなある日、私は一人のエクソシストと対峙する羽目になったの」
「ええ!?」
「勿論、未熟とは言え、そこいらの者に負ける私じゃなかったわ。ただ、まずい事に相手は凄い力を持つ人間だったの。お爺ちゃんだったんだけどね」
「それで、どうなったの?」
「私とヨボヨボのエクソシストの戦いは、三日三晩に及んだわ。お父様も私の居所を把握してなくてね。孤立無援だった。もうこっちも必死なわけよ」
「うんうん」
「そして、ついに決着の時がきたの。知ってる? 悪魔は名前を知られると、力が急激に下がるのよ」
「あ! パチュリーに聞いた事があるよ!」
フランドールは一瞬パチュリーに視線を向ける。
姉の過去の戦いを聞き、その手には汗が握られているようだ。
「当然、私は名乗らなかった。だけど、その相手は予想よりも恐ろしい力を持っていた。悪魔に名を与え、調伏できるほどにね」
「ええ!?」
「戦いの最後の一幕、今でも思い出せるわ」
『お前は凄まじい力を持っているね。きっと、高貴な血を引く悪魔なんだろう』
『‥‥‥‥』
『後数年もすれば、きっと私の手には負えなくなるだろう。だが、今は私の勝ちだよ』
『くっ‥‥』
『さあ、私にお前の誇り高い名を教えてはくれないか?』
『断るわ!』
『そうか‥‥なら仕方が無いね。私が名を与え、封じさせてもらうよ』
「退魔師の名において、この魔の者に新たな名を与える。彼はそう言った。そしてその言葉が、決着の合図だったわ」
『この者の名は、パンチョリーナ!』
『ええ!? い、いやああああ! そんなのいやああああ! 待って! 教えるから! 私の名はレミ‥‥』
「‥‥え?」
「パ、パンチョ‥‥なんですって?」
「パンチョリーナよ。その数年後に彼が老衰で倒れるまで、私は吸血鬼パンチョリーナとして封印されていたのよ」
「‥‥‥‥」
「あの一件で、私は教訓を得たわ。相手が強そうなエクソシストで、しかもネーミングセンスがまずそうな場合、素直に名前を教える、ってね」
「‥‥‥‥」
「どう? 私がどうして名前にこだわるか、わかったでしょう?」
「う、うん‥‥」
「それはもう‥‥」
「十分過ぎるほどに‥‥」
フランドール達は、目線を落とし、キョロキョロとしていた。
気まずい雰囲気が伝わってくる。
「お、お嬢様がそんな事になって、前の当主様は大層お怒りになったのでは?」
「ああ、お父様ね。たしかに心配してくれたみたいで、封印が解かれてすぐに迎えにきたんだけどねぇ‥‥」
『レミィ! お前、パンチョリーナに改名したんだって!? パンチョリーナ・スカーレットか! ダーッハッハッハ! こりゃいいや! 人間もなかなかやるなあ! はっはっはっは!』
「身内に殺意を抱いたのは、あれが初めてだったわね」
「うわあ‥‥」
「ま、そんなところよ。ね? 名前って大切でしょう?」
「うん! 私、フランドールでよかったぁ」
「それはさておき、その件が無くても、あの子達に名前は付けたかったと思うけどね」
「どうしてですか?」
「だって‥‥家族は、名前で呼びたいじゃない?」
「ところで、そのエクソシストに何か報復はしたんですか?」
「言ったでしょう? 彼が死んだから私の封印が解かれたの。‥‥あ、一応復讐はしたわね」
「どんな?」
「あの頃は私も幼かったからね。ちょっと大人気無かったわね。自分でもゾッとするわ。彼の子孫にね‥‥」
「ゴクッ‥‥」
「20代そこそこからハゲ散らかす呪いかけてやった」
「えー」
「はーい! 洗濯物終わり! みんなで干しに行くよー!」
「ちょっと! こんなところにモップ出しっ放しにして! 誰よ! あ、私だ!」
「非常事態発生! 醤油の買い置きがありません!」
「買い出しを許可する!」
さながら戦場であった。
一方その頃、レミリアの部屋には数匹の妖精メイドが呼ばれていた。
いずれも、ここ最近何かしらの功績を上げた者達である。
「えー、ではまずあなた。あなたは確か‥‥」
「はい! とうとうやりました! 一介の妖精の私が、程度の能力を身に付けました!」
「よく頑張ったわね。で、どんな程度の能力なの?」
「はい! 炎を自在に操る程度の能力です!」
「マジで。主役級じゃないの」
「えへへ!」
「それじゃああなたは‥‥今日から、ブラッディーホルンと名乗るといいわ。どう?」
「わあ、かっこいい! ありがとうございます!」
「次にあなたね。えーと‥‥館に迷い込んできた氷精を追い返したんだっけ?」
「はい。舌先三寸で」
「方法はともかく、よくやったわね。あなたは‥‥そうね。ナインブレイカーっていうのはどう?」
「恐縮です!」
「最後はあなたね。あなたはこの一週間、お昼寝も我慢して、周りのメイド達のお手本になるような働きをしてくれているわね」
「ええ、まあ‥‥」
「そんなあなたの名前は、ブラッククロスなんてどうかしら」
「ありがたいんですが‥‥名前を頂けるほどの事でしょうか?」
「十分偉いわよ。門番を見てみなさい。今日の昼寝時間が3時間の大台に乗ったわよ」
「はい。では、ありがたく名乗らせてもらいますね!」
窓から見える正門。
そこに見える美鈴の姿には、妖精メイドの遠慮など一瞬で吹き飛ばせる説得力があった。
「はい、それじゃ解散ね。この後もお仕事頑張ってちょうだい」
「はーい!」
パタパタと駆けていくメイド達。
その後ろ姿を眺めながら、レミリアは満足そうに微笑んでいた。
その日の夕食時だった。
レミリアとフランドール。
それに付き従う咲夜。
パチュリーと小悪魔。
結局6時間の仮眠を終えた美鈴は、食卓を囲んでいた。
「ねえお姉様、メイド達に何かしてあげたの? なんだか喜んでいる子がいたけど」
「ああ、名前を与えたのよ。そう、喜んでいたのね。よかったわ」
「ふーん‥‥」
オムライスをもぐもぐと食べながら、フランドールは更に質問を重ねる。
「お姉様は親しくなった名無しの子にすぐ名前をあげるけど、どうして? 咲夜もそうだったんでしょ?」
「ええ、光栄な事にその通りですわ」
「フラン、名前というのは、凄く大切なものなのよ。あなたも妹様って呼ばれるより、フランドールって呼ばれた方が嬉しいでしょう?」
「うん! そっかあ。そうだよね!」
「特に私達悪魔と呼ばれる者は、その傾向が顕著なの。そんな私に仕える以上、あの子達にも誇り高い名を用意してあげないとならないわ」
「ふーん、そうなんだぁ」
「‥‥もう、あんな悲劇はたくさんだからね」
そう言ったきり、レミリアは黙ってしまった。
咲夜は美鈴、パチュリーは、過去に辛い事があったのだろうと察し、これ以上突っ込んで聞く事はしなかった。
しかし、心の幼いフランドールにその理屈は通用しない。
「どうしたの? 何かあったの?」
「ちょ、フラン様‥‥!」
「いいのよ美鈴。そうね。フランには話しておいた方がよさそうね。私と同じ過ちを繰り返さないために、ね」
そうしてレミリアは、ワインの入ったグラスを傾けながら話し始める。
「今でもいるみたいだけど、数百年前の外の世界には、悪魔祓いを生業にする者が大勢いたのよ。私達の生まれ故郷辺りには特にね」
「へえ」
「その頃の私は、今ほど強い力を持っていなくてね。いわば、見習い吸血鬼みたいなものだったのよ」
「お嬢様にもそんな時代が‥‥それが今はこんなに小生意気になってしまって」
「うっさい。そんなある日、私は一人のエクソシストと対峙する羽目になったの」
「ええ!?」
「勿論、未熟とは言え、そこいらの者に負ける私じゃなかったわ。ただ、まずい事に相手は凄い力を持つ人間だったの。お爺ちゃんだったんだけどね」
「それで、どうなったの?」
「私とヨボヨボのエクソシストの戦いは、三日三晩に及んだわ。お父様も私の居所を把握してなくてね。孤立無援だった。もうこっちも必死なわけよ」
「うんうん」
「そして、ついに決着の時がきたの。知ってる? 悪魔は名前を知られると、力が急激に下がるのよ」
「あ! パチュリーに聞いた事があるよ!」
フランドールは一瞬パチュリーに視線を向ける。
姉の過去の戦いを聞き、その手には汗が握られているようだ。
「当然、私は名乗らなかった。だけど、その相手は予想よりも恐ろしい力を持っていた。悪魔に名を与え、調伏できるほどにね」
「ええ!?」
「戦いの最後の一幕、今でも思い出せるわ」
『お前は凄まじい力を持っているね。きっと、高貴な血を引く悪魔なんだろう』
『‥‥‥‥』
『後数年もすれば、きっと私の手には負えなくなるだろう。だが、今は私の勝ちだよ』
『くっ‥‥』
『さあ、私にお前の誇り高い名を教えてはくれないか?』
『断るわ!』
『そうか‥‥なら仕方が無いね。私が名を与え、封じさせてもらうよ』
「退魔師の名において、この魔の者に新たな名を与える。彼はそう言った。そしてその言葉が、決着の合図だったわ」
『この者の名は、パンチョリーナ!』
『ええ!? い、いやああああ! そんなのいやああああ! 待って! 教えるから! 私の名はレミ‥‥』
「‥‥え?」
「パ、パンチョ‥‥なんですって?」
「パンチョリーナよ。その数年後に彼が老衰で倒れるまで、私は吸血鬼パンチョリーナとして封印されていたのよ」
「‥‥‥‥」
「あの一件で、私は教訓を得たわ。相手が強そうなエクソシストで、しかもネーミングセンスがまずそうな場合、素直に名前を教える、ってね」
「‥‥‥‥」
「どう? 私がどうして名前にこだわるか、わかったでしょう?」
「う、うん‥‥」
「それはもう‥‥」
「十分過ぎるほどに‥‥」
フランドール達は、目線を落とし、キョロキョロとしていた。
気まずい雰囲気が伝わってくる。
「お、お嬢様がそんな事になって、前の当主様は大層お怒りになったのでは?」
「ああ、お父様ね。たしかに心配してくれたみたいで、封印が解かれてすぐに迎えにきたんだけどねぇ‥‥」
『レミィ! お前、パンチョリーナに改名したんだって!? パンチョリーナ・スカーレットか! ダーッハッハッハ! こりゃいいや! 人間もなかなかやるなあ! はっはっはっは!』
「身内に殺意を抱いたのは、あれが初めてだったわね」
「うわあ‥‥」
「ま、そんなところよ。ね? 名前って大切でしょう?」
「うん! 私、フランドールでよかったぁ」
「それはさておき、その件が無くても、あの子達に名前は付けたかったと思うけどね」
「どうしてですか?」
「だって‥‥家族は、名前で呼びたいじゃない?」
「ところで、そのエクソシストに何か報復はしたんですか?」
「言ったでしょう? 彼が死んだから私の封印が解かれたの。‥‥あ、一応復讐はしたわね」
「どんな?」
「あの頃は私も幼かったからね。ちょっと大人気無かったわね。自分でもゾッとするわ。彼の子孫にね‥‥」
「ゴクッ‥‥」
「20代そこそこからハゲ散らかす呪いかけてやった」
「えー」
それにしても、パンチョリーナ・スカーレット。うーん、一日三回くらい無意味に口ずさみたくなるwww
『パンチョリーナ=スカーレット』を早口で三回ほど口に出したら違和感が昼寝しました。
案外語呂が良いですね。
俺は、俺は・・・まだ20代前半なのに・・・
確かに⑨をブレイクしたがwww
そして史上希に見るノリノリなお父様。
後お嬢様その呪いは勘弁してください