前略、私上白沢慧音は病気になりました。
いわゆるインフルエンザ、である。感染病の類故、私のかわゆい生徒達に勉強を教えることも、里の守護者としての仕事も、歴史の管理人としての仕事もできない。
歴史の管理人というのはまだ何とかなるとしても、だ。残念ながら、最初の二つは由々しき問題である。教師のいない寺子屋はただの寂れた建物だ。
一応、こんなこともあろうかとそれなりに人脈を作っていたのだが……さて、ここで一つ、問題を出そう。なぁに、配点は高くないさ。
私の代わりに臨時教師を置く。これは決定事項なのだが、だ。もし、その先生が優しい先生だとしたらどうなるだろうか?
いやいや、私も生徒たちには優しくしてるつもりなんだがね?ほ、ほら、愛の鞭という言葉があるじゃないか。それだ、それ。
新しくきた先生の口先の優しさに騙されて、「慧音先生よりなんとか先生のほうがいい」だのなんだの言われてしまったら、私は首を括るだろう。
さて、纏めるとしよう。臨時教師は私よりもなにか決定的に劣っているところがなくてはいけないのだ。そうしないと、私の一教師としての尊厳、そして命にかかわってくる。
かといって、教育が成ってない奴に任せてはいけない。教師たるもの、学がなくてはいけない。仮に、そこらの妖精をとっ捕まえて教師にしたとしよう。
授業は遅々として進まなくなる。そんな意味のない授業をしてはいけない。それに、授業がゆっくりになるということは、子供たちに何の益もないのに「慧音先生より以下略」を言われてしまう可能性が増える、ということだ。そんなことになるならば、身を投げざるを得ないだろう。
それに加えて、それ相応の力も欲しい。生徒を守る力というものがないと、教師失格である。私がいない間に生徒がチンピラや妖怪に襲われようものなら、私は永遠亭まで毒をもらいに行くだろう。
さらに、里の守護者としても成り立つという利点がある。だからこそ、臨時教師には強くあってほしい。
ならば、誰を臨時教師として据えるべきだろうか。まず、もっとも信用できるのがいま私の為に粥を作ってくれている妹紅だろう。強くて優しい、そしてかわいらしい。いや、これは関係ないか。
だが、妹紅は生徒と仲が良い。多少舐められている節もある。妹紅は教師、というよりは用務員のおじさん、事務のお兄さん、購買のおばちゃん的なポジションにあるのだ。
妹紅はそのままで、もっと別の誰かを教師に置きたい。妹紅はあくまでサポートに徹してもらおう。そうすれば、多少無茶な先生も呼べるというものだ。
問題がそこにあるなら、答えを出さなければいけない。そして、呼ぶ臨時教師はもう決まっていた。
彼女なら……生徒に好かれる可能性が低くて教え方がうまい。しかし、なによりもその威圧感から来る重圧に生徒は「慧音先生の方がいい!」と言うだろう。私の病気が治れば、皆が私を歓迎してくれるはずだ。その姿を想像するだけで、ご飯二杯は行ける。
危険はあるかもしれない。でも流石に、人里に出向くこともある彼女のことだ。大きな問題は起こさないはず……いや、起こせないはずだ。……叩いただけで頭蓋骨陥没ということも考えられなくはないが、そこらへんの手加減は何とかしてくれると信じている。
昔よりは穏やかになったし、生徒全員がその名前を知っているからこそ真面目な授業も行われるだろう。クレーム?かかってきなさい。彼女に出せるものならな。私ですらクレームなど躊躇する。それに、妹紅がきっと最大限何とかしてくれるに違いない。だって、私のかわいい妹紅だもの。
……おや、どうやら粥ができたようだ。この食事が終わったら、切りだしてみようか。門外不出状態の私は頼みに行けないからなぁ、はっはっは。
ここは寺子屋。しかし、慧音はいない。始業前でも職員室にいる慧音は、残念ながら新型の妖怪インフルエンザにかかってしまい病気でダウンしていた。
私藤原妹紅は生徒たちと同じく席についている。別に、授業を受けてるわけではなく聞いてるだけ。でも、たまにサポートもするし、体育の時間は参加していた。体を動かすのは嫌いじゃない。
「おい、聞いたか!慧音先生結構重い病気なんだってよ!」
「らしいね。大丈夫かなぁ、先生」
「誰が代わりに先生やんのかな?やっぱ妹紅さん?」
男子生徒達のざわめきが聞こえる。私のところに慧音の様子を聞いてきた生徒もいた。やっぱり慕われてるじゃない慧音、無駄な心配をする必要なんてなかったんだ。私が粥を浴びる必要もなかったんだ。
それにしても、本当に彼女は来てくれるのだろうか。もうすぐ始業の時間だというのに、職員室に人の気配はない。一応了承はもらったが……最悪私がやる、というより実際私の方がいい気がする。
―――耳を澄ますと、足音が聞こえた。それは、生徒の靴とは違う質感の音だ。来てくれたのか、始業に遅れることもなく……事前準備なしのぶっつけ本番でやるというのか。
時間を告げる鐘の音、そして同時にガラガラと開く扉。生徒全員が注目し、そして一瞬でその顔が青くなる。彼女は、笑顔だった。笑顔で挨拶をしたが、生徒は誰も返事をしない。蛇に睨まれた蛙、というよりかはヤマタノオロチに睨まれたおたまじゃくし、という方が正しいだろう。
「あら、挨拶はないのかしら?」
「お、おはようございます先生!」
「よくできました」
私は今日初めて「よくできました」を「次はねぇぞガキ共」のニュアンスで聞いただろう。生徒たちの言わされてる感で溢れかえってる返事を聞いて、彼女―――風見幽香は満足げに頷いた。
幽香はまっすぐに教壇に向かい、私の方を見てくる。今日一日はエスコートしなさい、と眼が語っていた。エスケープしたい。私は、兎になりたい。
何故、風見幽香が教師をすることになったのか。それは、慧音に頼まれた私が頼み込んだからに他ならない。
そう、私が慧音からそれを切りだされたのはつい昨日のことだった。
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私は、寝込んだ慧音の看病のために粥を作って上げたのであった。しかし。私が持って行った時には慧音は布団の上に胡坐をかいて座っていた。三種の神器の剣を片手に持ちながら、である。その思いつめた姿に、危うく粥の入った鍋を落としとしそうになった。
考えても見てほしい。病気にかかった友人の為に粥を作って持っていったところ、そこで真剣な表情で刃物を持った友人が胡坐、だ。介錯を頼まれる流れにしか見えなかった。
「慧音!早まっちゃ駄目だ!」
「早まる…?そんなことより妹紅、私は考えたんだ。話を聞いて欲しい」
何やら、重要な話があるらしい。しかし、今の慧音はどう見ても危険だった。刃物怖い。私死なないけど刃物怖い。痛いのはいやだ。
とりあえず、慧音から剣を奪う。そして流れるような動作で布団の中に押し込んだ。竹林式介護術其ノ三「自殺志願者を宥めてとりあえず明日を迎えさせる」が、こんな所で役に立つとは想像もしていなかった。ちなみに、竹林式介護術は百八式まである。
慧音は、布団の中では満足に動けないことを悟ってか、顔を出して、咳こみながらつらつらと話し始めた。
「なあ妹紅」
「なんだい、慧音」
「私がいない今、誰かに臨時教師をやってもらわなきゃいけないだろう」
「そうだね。でも、そのくらい私がやるから、心配しないで」
「いや、妹紅にはやらせるわけにはいかないんだ……大丈夫、案は考えてある」
私は、ただ感心していた。これこそが慧音だ。厳しいし、石頭だし、満月の日には後ろに立たれたくはないけど、それでも生徒のことを何よりも思いやる心を持っている。病気になっても、臨時教師を考えるくらい常識なのだろう。
慧音がそこまで考えている、だったら私だって自分にできることをしたい。そのくらい私が呼んでやるよ、笑顔でそう言った私に慧音も笑顔でありがとう、と返した。
「で、それは誰なの?」
「風見幽香」
「ごめん、前言撤回」
今この瞬間の私の返答の素早さはきっと幻想郷最速になっただろう。ああ、私の愛すべき友人略して愛人は狂ってしまったのだろうか。ウイルスが脳にいってしまったに違いない。
さっき、剣を持っていた時点で気付くべきだったのである。気付けなかった自分が恥ずかしい。お粥など投げ捨てて今すぐにでも慧音を永遠亭へ郵送するのが私の使命であろう。
「妹紅、一度言ったことを撤回するのは良くないぞ」
「仕方ないなぁ、こんなにお粥作っちゃったし、輝夜にでも投げつけてこようかなー」
そう言って、私は摺り足で出口まで急ぐ。が、しかし後ろから慧音に足を掴まれてしまった。摺り足でなければ転んで大惨事だった。
このまま永遠亭まで引っ張っていこうかな、とも思う。どうせお粥を食べさせ終わったら連れて行くつもりだったし、話を聞いたらなおさらだ。
でも、慧音が事切れるだろうから私はそれを出来ない。こんなになっても……私の愛人だもの…。
「妹紅の手作りの粥を捨てるなんてとんでもない!……じゃなくて、頼む妹紅…!お前以外に誰に頼ればいいというんだ!」
「豆腐屋のおじさんとか……阿求とか?」
最初の慧音のセリフは聞かなかったことにした。私の料理を楽しみにされていた、ということで喜ぶべき事に違いない。
ちなみに豆腐屋のおじさんはいつも慧音の胸ばかりを見ている変態だ。多分二つ返事で風見幽香のところへ飛んで行き、そして帰らぬ人となるだろう。
彼が紅魔館に豆腐を届けに行くのも、門番の胸目当てであるとの噂が絶えない。胸がなんだ、畜生。
「阿求なんて行かせたら風見幽香のSM教室1時間100円札三枚コースだぞ!そんな、無茶だ!彼女の体力じゃ厳しい!」
「私にその三枚のコースを受けて来いってか慧音!?」
「それは違うぞ!妹紅が三枚コースなんてあり得ないじゃないか!私なら十枚は出す!」
私は熱々の粥入り鍋を置いて、慧音をかなり抑え気味に殴った。私は泣いていい気がする。慧音はいつもはこんな奴じゃない、はず。違うんだ。そう、違うんだ。病気に当てられたんだ。満月の日もまた、違うんだ。
そして、数時間の争論の末……慧音が剣を拾って首筋に当てた時点で私の負けは確定した。そう、結局私が風見幽香に頼みに行くことになってしまった。一応今日は臨時で寺子屋を休みにしている。もう、宿題でも出して一週間休みにしてしまった方が気が楽だろうに。
それにしても、あの後結局私に降り注いだ熱々のお粥を超える災難を私は受け止めなければいけないのだ。そう考えると、だんだんと憂鬱になる。私が死なないなど関係なく、向こうは99%殺しにかかってくるだけで殺されはしない。待つのは苦しみだけである。快楽?馬鹿野郎。
まあ、腐れ縁として納得するしかないのか。私が人里になじめたのも元はと言っては慧音のおかげだし、なんだかんだいっていつもよくしてもらっている。今こそ、恩を返す時だ、もう仕方ないものとしてあきらめるしかない。そう思いながら私は飛ぶ。ああ、恩を仇で以って返してやりたい。
そんなこんなでため息を213回ついた時点で私は太陽の畑についてしまった。20回ほど前に竜宮の使いが現れた気がするが気にしなかった。空気を読んで教師代わってやってくれよ!
今日はここにはいないとか言う奇跡にすがりたい、でももう視界に入ってしまった。いるよ、風見幽香。めっちゃこっち見てるよ。やばいって。あれ殺気出てるって―――
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大体こんな感じである。日が暮れるまでの押し問答の末、快くOKをもらった。そう、快く。まともに話を聞いてもらうまで一時間かかったりだの、拘束具だの、蝋燭だの、そんなことは断じてなかった。そう、断じてない。病気が治ったら慧音に一発ヴォルケイノなどと考えてるわけがないじゃない、あはは。
今、私の財布の中に入っている板垣退助がニヤニヤしている気がする。破り捨ててやろうか!いや、もったいないからそんな事出来ないけど!生活がほぼ自給自足だもの、たまにはおいしいものを食べたっていいじゃない。それにしても、本当に十出るとは思わなかったよ。
結局あの後、私は夜雀の屋台にいって亡霊嬢並の買い占めをしてきた。やけ食いだ。やっぱり腹十三分目を超えてからが本番、二十分目で死ぬ。何度か事故って死んだ私にはそれがわかる。
そう私が思案しているうちに出席をとり終わったようだ。生徒たちの顔が青い、なにかあったのかと教室を見渡すと、その原因が分かった。そう、恒例となったとある生徒の遅刻である。今日に限って早く来てくれればよかったのになぁ。
「じゃあ、授業を始めましょうか。蓬莱人、科目は」
「……国語」
私に振るなよ、事前に調べとけよ。まさか、何も調べてないでぶっつけ本番なんじゃ―――あ、伝えたの昨日だったわ。ごめん、今のなし、私というか慧音の所為だから。今日が終わったら打ち合わせをするから許して、とアイコンタクトをする。
どこまで授業が進んでいるか、そこらへんの生徒に聞き始めた。可哀想に、尋ねられた生徒は皆声が震えている。そして、授業が始まった。
いや、始まらなかった。走る音、そしてドアを開ける音が教室に響く。遅れましたー、そう言った生徒の笑顔が凍りついた。幽香はむしろ笑顔だった。
「あら、どうしたの?」
「え、ええと、あの、その、あれ、あ、う」
「ど・う・し・た・の?言い訳とかそういうのは嫌いだから、簡潔に述べて?」
「ね、寝坊しましたごめんなさい許してください!」
「正直でいいわね、次はないわよ?」
彼は慧音に対しては言い訳を使い、そして毎回頭突きを喰らっている生徒だった。ついに彼が本当のことを口にした…。今日は雨が降りそうだなぁ、血の雨が。
幽香は一度は許そうとしたようだが、ふと思い返して生徒たちに言う。
「いつも先生はこういうときどうしてるのかしら?」
「……し、叱って終わりです!」
「彼女にしては効果の薄いことするのね。……私、嘘も嫌いなの。いつもは、どうしてるのかしら……蓬莱人?」
私に振るなよ。
と、いってもだ。ここで私が本当のことを言ったらあの子の頭は吹き飛んでしまう。嘘を言ったら、私の体が吹き飛ぶに違いない。
生徒たちが期待の眼差しで眺めてくる。幽香が笑顔で見つめてくる。どうする、妹紅!考えるんだ、妹紅!ここで間違えた解答を出すわけにはいかないっ!天国の、いや永遠亭の慧音の為にも!
「……私が見せしめに頭突きされる」
「嘘おっしゃい」
くそっ、ばれた!でもまだ今なら間に合う……私は生徒達を護らなきゃいけないんだ……そうだ!
「まずはじめは叱るだけ、2回目は厳しく叱り、3回目は呼び出しで……それ以降は頭突き」
「あら、彼女いつも頭突きしてるイメージがあったんだけど、案外過程踏まえてるのね。……貴方は何回目かしら?」
「2、2回目です!」
うまく分けた。実際22回目だけど、これなら2回にも聞こえる。嘘はついてないはず、かなり屁理屈だけど。
それを聞いて、幽香は納得した、という感じでそして厳しく叱った。……詳しい描写はできない、耳と目をふさいだから。でも、それでも生徒の顔を見ればその厳しさが分かった。
その重い空気の中、授業が始まった―――
一日が終わった。感想を言うならば、風見幽香は教師に向いている。恐怖政治状態になるが。今日だけで何人の生徒が涙を流したことか。もうそんなに幼いわけでもないのに。でも、教えるのには向いていた。
幽香は帰ったが、全生徒そして私は寺子屋に残った。クラスの委員長とも言える生徒が立ち上がり、そして口を開いた。
「……明日から、どうしようか」
重苦しい沈黙が寺子屋を包む。その様子はまさしく葬式。私はどうすることもできなかった。何ができるって言うんだ。半数が涙を流すこの状況、皆たった一日で心が折れてしまった。私も若干ブレイクダウン。
そんな中、一人の生徒が立ち上がった。それは、あの豆腐屋の息子だった。
「み、みんな!こう考えようよ!ほら、優しい大人って皆、胸がでかいじゃん!」
さて、いきなりおかしな方向に話が逝ってしまった今日この頃ですがいかがお過ごしでしょうか。
まさに豆腐屋の息子、としか言いようがない。豆腐屋の血をすごく濃く引き継いでしまっている。将来がいろんな意味で心配だ。
そんな阿呆なことで皆が元気になるわけがない―――そう思っていたのだが、実際はそうではなかったようで。
「た、確かにそうだ!」
「慧音先生とか、竹林のお医者さんとか、お寺のお姉さんとか!」
「幻想郷を護ってくれる賢者様も胸がでかいって聞いたことあるよ!」
「父ちゃんがよく豆腐届ける館の門番さんも胸がでかい……そう、胸が大きくなるほど人は優しくなっていくんだ!」
「胸が小さい大人は……優しくないわね。ママとか、いつも私に文句ばっかり」
「それなら幽香先生は……すごく優しい人なんだ!怖いけど……」
「明日からがんばってこう、皆!」
超理論すぎる。しかし、この生徒たちにわかる例を出して否定するにはどうすればいいんだろうか。反例をだすか、しかしすぐに思いつかない。
でもとりあえず、その生徒たちにプライドをかけて一言だけ言わなければいけないことがある。私は椅子をけっ飛ばして立ち上がった。
「胸が小さくて悪かったなこの野郎!」
泣きまねをしながらいや若干泣きながら私は職員室へと逃げるように走った―――
慧音がいない職員室はどこか冷たい雰囲気がある。まるで、木のない焚火のようだ。いま、この職員室には花と炎しかない……ありゃ、このままだと暖かくなってしまう。いい例えは、ないものか。
「どう思うよ、風見幽香」
「何がよ……さっきの馬鹿らしい話かしら?」
私が予想した通り、風見幽香はまだここにいた。そのうえ、どうやら隠れてあの話を聞いて居たらしい。ニヤニヤ、ニヤニヤ。顔に笑顔が張り付いてて、一発殴りたくなってきた。殴れないけど。反撃がこわすぎて手が出せないけど。
「あなた小さいものね」
「うるせぇ。……で、どうだった?教師体験は」
「悪くないわね。だって生徒は先生に逆らえないじゃない?」
「問題だけは勘弁してよ?殺害とか」
「うふ……あの子たちが真面目なら、ね」
私は頭が痛くなってきた。最悪の場合はやり合う必要があるかもしれない。打ち合わせを終えて帰路に就く間もずっとそのことが頭を支配していた。
しかし、それは杞憂だった。生徒たちは若干というかほとんど胸理論の力で気力を出し真面目に勉強を始めた。テスト全員満点で生徒のテンションがやばい。
なんということでしょう、生徒の学力はあっという間に向上していったのです。漢字が読めるようになり、四則演算が完璧になり、幻想郷の歴史は記憶に刻まれた。
特に生物はすさまじいことになった。どんだけ花の知識があるんだ、おい。流石としか言いようがない。タンポポの名前なんて私も知らなかった。
あとは、体育。皆体力がかなり上がった。幽香となぜか私も参加することによってすさまじい運動量となったからである。3-4、私のチームが負け越している。
しかし、その弊害もあった。私のトラウマにもなったし、皆のトラウマにもなっただろう。たまに問題を間違えると、静かにキレた。あの笑顔は生徒たちの心に深い傷を残した。
こっそりと私に相談する親御さんもいたが、こればっかりはどうしようもない。土下座して帰ってもらった。それを何十回繰り返したことか。私の精神も病みそうだった。
そして、一週間。慧音の病気が治った。明日が、慧音の帰ってくる日と決まった。今日のこの授業が幽香の教える最後の授業だった。生徒たちは喜びをあらわにした。幽香に見えないようにこっそりと。30秒で見破られたけど。
「あら、これが最後の授業じゃない。そうね、抜き打ちテストと行きましょうか」
「…」
「その顔は何よ?心配しなくても、これの返却は……慧音先生がやるわ。点数なんて気にしなくていいから、気楽にいきなさい」
いまさらそんなこと言われても……という顔だったが、生徒たちは何も言わない。いや、もうこの光景は当たり前のものになっている。授業中も静かで、答えをいうときのみ空元気を出す。それが当たり前になってしまっていた。
私にもプリントが配られた。幽香が教えた大体のことがそのテストには出ていた。難しい、と思われるものもあるけれども生徒たちはすらすらと解いている。しかし、こう問題を見て気付いたことがあった。幽香はもしかして―――
ついにインフルエンザが治った。これでまた教鞭を振るうことができる。生徒たちは私を待ってくれているだろうか、きっと待っていてくれるはずだ。そのために風見幽香を呼んだんだ……しかし、緊張する。
妹紅から最後にやった、といわれるテストの束とその問題を受け取った……何、こんな難しいことまで?いや、違う。真意は……そうか、なるほど。
その問題はまだまだ生徒たちには難易度の高い「基礎」を問う問題、きっと授業も基礎を中心にやったに違いない。応用は任せた、ということか。見事に蕾まで育て上げたんだな……後は私が花を咲かせるまでだ。幽香殿には感謝せざるを得ないようだ。
しかし、気になるのは成績だ。流石に平均点は5,6割だろう。仮に私が休んだ時間中必死に教えても7割取らせるまでいけるかどうか……まあ、結果は返却のときにじっくりと見ることにしよう。
鐘が鳴り、深呼吸をして私は教室に入った。生徒達はこの短い間でどこか凛々しくなっていった。と、私に気付いた生徒たちが皆駆け寄ってくる。
「慧音先生…」
「ど、どうしたんだ皆?」
私を取り囲み、そして裾をつかんでくる。天にも昇るような喜びを噛みしめ、それを隠しながら生徒たちに尋ねる。瞬間、生徒たちは泣きだした。私に抱きついてくる生徒もいる。慧音先生の方がいい、という言葉を聞いて私は死んでしまいそうだった。
そう言えば妹紅は―――いない、まあそういうときもある。いつもいるわけではないからな。そんなことよりも、今の私はまさに喜びの絶頂だ。もう暫くこのままでもいい、と思うがとりあえず皆を宥めて断腸の思いで席に着かせ、そして余韻に浸りながら出席を取る。……お、全員出席だ珍しい。
出席を取りながら、テストを一人一人返していく。100点、100点、100点…?おや、まさか……馬鹿な!全員100点だと?嘘だ!そんな……嘘だ。何故、私よりも教え方がうまいというのか。誰か、介錯を頼む。
いや、落ち着いて考えてみれば何か裏があるに違いない。私は生徒たちに問いかけた。
「すごいな、皆。しかし……どうしてここまで点を取れた?」
「こ、怖かったんです先生…。だから、必死に勉強しました!」
「低い点数を取ったりすると……初めは叱られて二回目は厳しく叱られて……三回目に呼び出されてそれからは……頭突きです」
「妹紅さんが一度代わりに喰らったんですけど、もう……なんというか、赤くて散らばって…」
なるほど、恐怖を与えて……か。しかし、こんなにも泣かれるとな。そんな勉強法は、私にはできない。頭突きはするけど。私の頭突きは愛の鞭だ。幽香の頭突きは殺人兵器だ。
とりあえず生徒たちで頭突きを喰らったものがいないのが幸いである。妹紅が散らばったらしい、どれだけやばいんだ頭突き。
「まあ、幽香先生はすこし怖かったかもしれないが……」
「少しじゃないですすごくです!めっちゃです!やばいくらいです!」
「……やばく怖かったかもしれないが、しかし、間違ったことはいってなかっただろう?皆、幽香先生の言ったことを忘れずに、これからも勉学に勤しもうじゃないか」
「はい、慧音先生!」
それにしても、真面目になったものだ。口調も丁寧になったし、授業を始めれば静かになる。風見幽香は大きなものを残してくれた。
いやまあ、いろんな意味でな?
後、豆腐屋の息子wwwww
このゆうかりんの授業に出てみたい
幽香先生お疲れ様でした!
息子の将来が色んな意味で楽しみwww
敢えて鞭として振る舞った彼女に拍手を。
それは俺にとって誘蛾灯やハエ取り紙に等しいものだ。馬鹿な男と豆腐屋親子に乾杯。
慧音先生、生徒達に慕われて喜びを噛みしめるのは結構なんだが、子供達の比較対象が
幽香さんという時点で何か間違っている気がするんだが? 胸はでかいが器は……、イヤナンデモアリマセン。
妹紅さんはあれだ、とにかくお疲れ様。それと頑張れ、強く生きろ。
んで、幽香先生。
彼女がどんな表情、仕草で子供達のためにテストの問題用紙を作っているのか想像するだけで何か幸せになれる。
こういう宿題は大歓迎だ。ありがとう作者様。
>そう、私が慧音からそれを切りだされたのはすぐ昨日のことだった→つい昨日のことだった、などは如何でしょう
>お粥など投げ捨てて今すぐにでも慧音を永遠亭へ郵送するのが
→ギャグ表現としては普通にアリだし、作者様の意図もそうだと思うのですが、一応〝搬送〟なども選択肢として
>そう考えると、考えると憂鬱になる→ミス? 強調表現としてはちょっと不自然のような
>ああ、恩を仇で持って返してやりたい→でもって、あえて漢字を使うなら〝で以って〟かな?
>空気を読んで教師変わってやってくれよ!→代わってやって
>幽香は一度は許そうとしたようだが、ふと思い出して生徒たちに言う→ふと思いついてor思い返して、等々
みんな子供たちのことを思っていて、特に夜も寝ないで授業を考えるゆうかりんなんて素敵じゃないですか。
最初はその先生の授業が厳しくて1年のころはみんな嫌がっているんですが、3年にもなるといつの間にかその先生のことを好きになっているいい先生でした。
それにしても、なんつー「女王の教室」だ…
超理論クソワロタ
学生時代をついつい思い出した
あのクソ教師!って人が、社会に出てみると懐かしかったりとか