バラスのうえに
からすが いっぱ
うたはこれで おしまいさ
いっぱじゃなくて はんぱだね
紅白の装いに身を包む博霊神社の巫女、博霊 霊夢はコタツに入り、右手でせんべいをかじりつつ、左手で新聞を扱う。
『文々。新聞 号外』という表題の隣で躍っている見出しは『秋前倒しか!?レティ・ホワイトロック初観測』であった。
内容は紅葉がまだ残っているこの時期にレティが見つかったというもの。しかし、観測場所の博麗神社の周りは暖かいどころかむしろ寒いので、そこに出る分には、多少前倒しがあっても不思議ではない、と記事は締めている。
霊夢は感じた、号外のくせに結論は「いつも通り」ということに釈然としない、と。
すると、玄関を叩く音がした。
「は~い。ちょっと待ってて」
霊夢は立ち上がりながら新聞を無造作に放り、玄関へ足早に移動しつつせんべいを噛み砕く。そうしてせんべいを飲み込んでから、霊夢は玄関の戸を開けた。
居たのは、首の辺りで整えた黒髪と背に黒光りするカラスの羽に霜をおろし、ぶるぶると震える細身に写真機を首から下げた天狗の少女、射命丸 文だった。
文は霊夢の姿を見るなり、目尻から涙をこぼしては喚きだす。
「いっく、いっく、私、いっく、私は、駄目な奴なんです。いっく、記者としても、天狗としても、いっく、いっく」
「……とりあえず、暖まっていきなさい」
霊夢は思う、あまり長い話を聞かされなきゃいいな、と。
私達は冬になるとある決まり事を遵守するよう、大天狗様直々のお達しが回ってくるんです。それは『冬のレティは放っておけ』です。レティさんが取材にやや非協力的なせいもあって、レティさんの記事は主に初観測とか偶然にも現場を押さえた場合だけで、風聞を元に記事を構成したことはありません、多分。
正直なところ、私はこれが不思議でなりませんでした。他の天狗達が無視を決め込む中、私は冬場のネタ拾いもあって、レティさんとはちょくちょく顔を合わせたりするんです。でも私の知る限り、レティさんは諸々の実害はあれどそんなに害意のない、あんまり妖怪らしくない妖怪で、わざわざ大天狗様が名指してまで天狗全員でよける必要がある妖怪ではない、と常々思っていました。
そこを大天狗様に聞いてみたことはありますが、ちゃんと取り合ってはくれません。他の、特に事情を知っていそうな先輩も曖昧に済ませるばかりで埒がありません。
そこで、今回の早期初観測を建前に、レティさんからこの事態の真相を聞こうと思い、霧の湖で待ち伏せていました。その甲斐あって、私はレティさんが一人でいるところを捕まえることができました。
「レティさん。取材させてください!」
「嫌」
取り次ぐ島もありません。だからといってこのまま行かせるつもりもありません。
そうして、ちょっとした押し問答をして。
「通せんぼしなくてもいいでしょ。私はチルノちゃん達の所に行きたいだけなんだから」
「それが一番の問題です。あの二人を混ぜたら取材になりません!」
私はここぞと捲くし立てました。
「貴女はあの二人に話を振ることで会話の焦点をぼかしたり、逆に踏み込んだ質問などは突っぱねて強引に別の話題にしたりするから、ちゃんと取材を成立させるためには一対一になるしかありません」
「あ、そう。まあ、そんなにネタがないのなら、カラスの話でいいかしら」
カラスと聞いて即座に天狗を連想した私は、「是非!」と声を張り上げていました。
「バラスの上にカラスが一羽居たの」
「はい」
「以上」
ぽかんとなった私、レティさんはその隙に横を通り過ぎようとしますが、私は後ろから抱きついて、涙ながらにレティさんに訴えかけました。
「レティさん、お願いですからちゃんと取材に応じてください。私、今日こそは、という決意でここにいるんですから」
レティさんの表情が曇ります。
「今日は本当にどうしたの?仕事のしすぎでおかしくなった?」
「どうして話をはぐらかそうとするんですか?やっぱり深山を引っ繰り返すような社会派でネチョネテョなエログロ満載だからですか?」
すると、レティさんはやっと聞く耳を持ってくれました。
「よくわからないけど、わかったから、話だけ聞くから、取り敢えず離れて落ち着いて」
かくかくしかじか。
「ふぅん。で、心当たり、ね……」
そういったきり、しばらく、レティさんは黙り込みました。
そして、宙を彷徨っていた視線はそのまま対面の私へ。
「力ずくでなら、答えてあげてもいいかな」
レティさんは微笑みとウィンクを投げかけてきました。
「手合わせは禁じられているって……」
言い終わらぬうちに、レティさんは一歩踏み込んできました。
口元にだけ微笑を残して、口籠もった私の瞳の奥を覗き込むかのように、レティさんは顔を近付けてきました。
「するの?しないの?」
不意に、水も凍り始める寒気が、私の足元より忍び寄るのを感じました。次の瞬間、私は団扇を振り切った後でした、防衛本能がそうさせたのです。起こった突風は霧を、寒気を、そしてレティさんを吹き飛ばしました。
我に返った私が見たのは、水平に広げた両手を軸に、縦にくるくると回るレティさんの体が、放物線の軌跡を描きつつその勢いとは裏腹につま先からやんわりと地に降り立つ所。
団扇を構える私に、その姿勢を保つレティさんは、微笑む形を崩さぬまま目を細めて私を見、その右左の掌には寒波に飲まれた風が渦巻いているという有様でした。
「嬉しいわ、するのね」
私が弁解する間もなく、交差したレティさんの両手から、重なっては解き放たれた寒さが、風に押されて私に迫ってきました。私も風で返すしかありませんでした。
寒さを飲み込んだ暴風にレティさんは曝されましたが、風を堪える仕草も一瞬のこと、暴風へと進んで身を躍らせてみせたレティさんは、眼に見えるくらいの寒波で暴風を侵すと、暴風にさらなる寒波を織り込んで叩き付けてきたのです。
これはまずいので風を止めようと試みましたが、レティさんの寒波と混ざり合った風は私の制御を受け付けず、純粋な猛威として誰彼構うことなく暴れ回っていたのです。こうなってしまえば極寒の暴風により強く干渉して、早い話が力比べをして負けた方が極寒の暴風に晒されるということでした。
その時、風の無力化に失敗して凍りかけた私はその結論へと至り、遮二無二になって風を起こしました。レティさんも寒波を以て風の流れを変え、私に流れ込むようにしていました。
起こしすぎた風がぐるぐると渦を巻いて、寒さに至っては一呼吸で肺の中まで凍りつきそうな程でした。
若干凍りかけていた私は、スクープのことも何も忘れて、「こんなもの食らいたくない」の一心で、とにかく必死に風を起こし続けました。相手も風を堪えている、苦しい筈だ、そんなようなことを自分に言い聞かせました。
その果てに、私は会心の風を吹かせたのです。やった、と思った私は、レティさんの顔を見るだけの余裕が生まれました。
レティさんは笑顔でした、それはもう、キラキラと輝く位の。間を置かずに返ってきた私の会心の風を巻き込んだ暴風は「文ちゃん、がんばってー」というレティさんの陽気な伝言も乗っかっていました。
それでやっと気付いたんです、「私達、今、吹雪のぶつけ合いをしている」って。
「それで、ここまで逃げてきた訳?」
こたつに入った文は、湯飲み二つ挟んだ対面の霊夢にうなずいた。
「なるほどね。大天狗様がなんで理由をちゃんと言わなかったのか気になるけど、まあ、よかったじゃない、霜が掛かった程度の被害で済んで」
「いえ、まだ続きがあるんです」
霊夢は眉をひそめた。
「なに?」
「レティさん、幸せのお裾分けとか言って、あの状態で居座っているみたいなんです」
「どこに?」
「深山に」
からすが いっぱ
うたはこれで おしまいさ
いっぱじゃなくて はんぱだね
紅白の装いに身を包む博霊神社の巫女、博霊 霊夢はコタツに入り、右手でせんべいをかじりつつ、左手で新聞を扱う。
『文々。新聞 号外』という表題の隣で躍っている見出しは『秋前倒しか!?レティ・ホワイトロック初観測』であった。
内容は紅葉がまだ残っているこの時期にレティが見つかったというもの。しかし、観測場所の博麗神社の周りは暖かいどころかむしろ寒いので、そこに出る分には、多少前倒しがあっても不思議ではない、と記事は締めている。
霊夢は感じた、号外のくせに結論は「いつも通り」ということに釈然としない、と。
すると、玄関を叩く音がした。
「は~い。ちょっと待ってて」
霊夢は立ち上がりながら新聞を無造作に放り、玄関へ足早に移動しつつせんべいを噛み砕く。そうしてせんべいを飲み込んでから、霊夢は玄関の戸を開けた。
居たのは、首の辺りで整えた黒髪と背に黒光りするカラスの羽に霜をおろし、ぶるぶると震える細身に写真機を首から下げた天狗の少女、射命丸 文だった。
文は霊夢の姿を見るなり、目尻から涙をこぼしては喚きだす。
「いっく、いっく、私、いっく、私は、駄目な奴なんです。いっく、記者としても、天狗としても、いっく、いっく」
「……とりあえず、暖まっていきなさい」
霊夢は思う、あまり長い話を聞かされなきゃいいな、と。
私達は冬になるとある決まり事を遵守するよう、大天狗様直々のお達しが回ってくるんです。それは『冬のレティは放っておけ』です。レティさんが取材にやや非協力的なせいもあって、レティさんの記事は主に初観測とか偶然にも現場を押さえた場合だけで、風聞を元に記事を構成したことはありません、多分。
正直なところ、私はこれが不思議でなりませんでした。他の天狗達が無視を決め込む中、私は冬場のネタ拾いもあって、レティさんとはちょくちょく顔を合わせたりするんです。でも私の知る限り、レティさんは諸々の実害はあれどそんなに害意のない、あんまり妖怪らしくない妖怪で、わざわざ大天狗様が名指してまで天狗全員でよける必要がある妖怪ではない、と常々思っていました。
そこを大天狗様に聞いてみたことはありますが、ちゃんと取り合ってはくれません。他の、特に事情を知っていそうな先輩も曖昧に済ませるばかりで埒がありません。
そこで、今回の早期初観測を建前に、レティさんからこの事態の真相を聞こうと思い、霧の湖で待ち伏せていました。その甲斐あって、私はレティさんが一人でいるところを捕まえることができました。
「レティさん。取材させてください!」
「嫌」
取り次ぐ島もありません。だからといってこのまま行かせるつもりもありません。
そうして、ちょっとした押し問答をして。
「通せんぼしなくてもいいでしょ。私はチルノちゃん達の所に行きたいだけなんだから」
「それが一番の問題です。あの二人を混ぜたら取材になりません!」
私はここぞと捲くし立てました。
「貴女はあの二人に話を振ることで会話の焦点をぼかしたり、逆に踏み込んだ質問などは突っぱねて強引に別の話題にしたりするから、ちゃんと取材を成立させるためには一対一になるしかありません」
「あ、そう。まあ、そんなにネタがないのなら、カラスの話でいいかしら」
カラスと聞いて即座に天狗を連想した私は、「是非!」と声を張り上げていました。
「バラスの上にカラスが一羽居たの」
「はい」
「以上」
ぽかんとなった私、レティさんはその隙に横を通り過ぎようとしますが、私は後ろから抱きついて、涙ながらにレティさんに訴えかけました。
「レティさん、お願いですからちゃんと取材に応じてください。私、今日こそは、という決意でここにいるんですから」
レティさんの表情が曇ります。
「今日は本当にどうしたの?仕事のしすぎでおかしくなった?」
「どうして話をはぐらかそうとするんですか?やっぱり深山を引っ繰り返すような社会派でネチョネテョなエログロ満載だからですか?」
すると、レティさんはやっと聞く耳を持ってくれました。
「よくわからないけど、わかったから、話だけ聞くから、取り敢えず離れて落ち着いて」
かくかくしかじか。
「ふぅん。で、心当たり、ね……」
そういったきり、しばらく、レティさんは黙り込みました。
そして、宙を彷徨っていた視線はそのまま対面の私へ。
「力ずくでなら、答えてあげてもいいかな」
レティさんは微笑みとウィンクを投げかけてきました。
「手合わせは禁じられているって……」
言い終わらぬうちに、レティさんは一歩踏み込んできました。
口元にだけ微笑を残して、口籠もった私の瞳の奥を覗き込むかのように、レティさんは顔を近付けてきました。
「するの?しないの?」
不意に、水も凍り始める寒気が、私の足元より忍び寄るのを感じました。次の瞬間、私は団扇を振り切った後でした、防衛本能がそうさせたのです。起こった突風は霧を、寒気を、そしてレティさんを吹き飛ばしました。
我に返った私が見たのは、水平に広げた両手を軸に、縦にくるくると回るレティさんの体が、放物線の軌跡を描きつつその勢いとは裏腹につま先からやんわりと地に降り立つ所。
団扇を構える私に、その姿勢を保つレティさんは、微笑む形を崩さぬまま目を細めて私を見、その右左の掌には寒波に飲まれた風が渦巻いているという有様でした。
「嬉しいわ、するのね」
私が弁解する間もなく、交差したレティさんの両手から、重なっては解き放たれた寒さが、風に押されて私に迫ってきました。私も風で返すしかありませんでした。
寒さを飲み込んだ暴風にレティさんは曝されましたが、風を堪える仕草も一瞬のこと、暴風へと進んで身を躍らせてみせたレティさんは、眼に見えるくらいの寒波で暴風を侵すと、暴風にさらなる寒波を織り込んで叩き付けてきたのです。
これはまずいので風を止めようと試みましたが、レティさんの寒波と混ざり合った風は私の制御を受け付けず、純粋な猛威として誰彼構うことなく暴れ回っていたのです。こうなってしまえば極寒の暴風により強く干渉して、早い話が力比べをして負けた方が極寒の暴風に晒されるということでした。
その時、風の無力化に失敗して凍りかけた私はその結論へと至り、遮二無二になって風を起こしました。レティさんも寒波を以て風の流れを変え、私に流れ込むようにしていました。
起こしすぎた風がぐるぐると渦を巻いて、寒さに至っては一呼吸で肺の中まで凍りつきそうな程でした。
若干凍りかけていた私は、スクープのことも何も忘れて、「こんなもの食らいたくない」の一心で、とにかく必死に風を起こし続けました。相手も風を堪えている、苦しい筈だ、そんなようなことを自分に言い聞かせました。
その果てに、私は会心の風を吹かせたのです。やった、と思った私は、レティさんの顔を見るだけの余裕が生まれました。
レティさんは笑顔でした、それはもう、キラキラと輝く位の。間を置かずに返ってきた私の会心の風を巻き込んだ暴風は「文ちゃん、がんばってー」というレティさんの陽気な伝言も乗っかっていました。
それでやっと気付いたんです、「私達、今、吹雪のぶつけ合いをしている」って。
「それで、ここまで逃げてきた訳?」
こたつに入った文は、湯飲み二つ挟んだ対面の霊夢にうなずいた。
「なるほどね。大天狗様がなんで理由をちゃんと言わなかったのか気になるけど、まあ、よかったじゃない、霜が掛かった程度の被害で済んで」
「いえ、まだ続きがあるんです」
霊夢は眉をひそめた。
「なに?」
「レティさん、幸せのお裾分けとか言って、あの状態で居座っているみたいなんです」
「どこに?」
「深山に」
妖々夢では本当に遊んだだけなんだろうなあ。とか妄想してみる。
1ボス連中の中で、どうにも底がしれない感じのレティ。
冬の彼女は正にアンタッチャブルですね。
引っ越してきたばかりの神様たちはとんだとばっちりだなww
しっかしレティかっこいいな。まさに黒幕って感じでw
「力ずくで~」や「するの?しないの?」のセリフがかなりエロっぽ…色っぽく感じられてドキッとしましたwwwいや俺がえろいだけかもしれんですが。
彼女は太ましいんじゃない!!グラマラスなんだよきっと!!!
春夏秋はともかく、冬になれば強さや底知れなさは段違い、みたいな
そういう季節の限定された個性というのも彼女の魅力なんでしょうね
天狗にとっては分が悪いんでしょうね。
ありがとうございました
紫や八坂さまとは違うベクトルで、『くろまく~』感がハンパねぇです。
どっちかというと、前者は一個意思的な黒幕で、レティは超自然的な黒幕かな。
底が見えない感じとか、目的より過程に生きてる感じとか。
東方にハマりたての頃はレティと幽々子が姉妹とかだと思ってた
二人とも何となく纏う雰囲気が似てる
要するに、レティさんマジ黒幕;ww
たとえば飛行機が飛んでる高さの気温はマイナス50度とかまでいくし、それほど高くなくても、冬に生身で風受けて飛んでたら体感気温はマイナス50度どころじゃないはず