その少女は、今日も目覚し時計の音に目を覚ました。
――私はその騒音の元凶に全身全霊で立ち向かい、止めることに成功したのだった。
……なとど言ってみればどこかの英雄譚のような気もするか、
なんて寝ぼけた頭で夢想してみたりもするが、全くそんなことはない。
どうせ目覚しのアラームを止めただけのことである。
そんな適当な状況分析で脳を起動し、朝食もそこそこに済ませ身支度を整える。
彼女には今日、以前から外出する予定があった。
正確には、明日という日のために今日までに済ませなければいけない、というだけで
別に今日である必要はなかったのだが、そこは察して欲しい。
『人間、余裕があると思った時点で余裕なんか無い』
とは、彼女の永きにわたる遅刻経験からくる持論である。正しいかはともかく。
まあそんな自覚があっても全く遅刻癖に改善が見られないあたりが、
彼女の親友の溜め息を誘う大きな要因となっているのだが。
「さすがにこればっかりは遅刻するわけにはいかないわよねえ」
と、少女は自らに言い聞かせるように呟き、浅めの黒い帽子を頭にのせた。
白いリボンがワンポイントになっているそれは、
彼女が外出するときには常にかぶっている、言わば彼女の相棒であった。
「でも帽子が相棒、なんていったら拗ねちゃうかな?
『私はあなたにとって帽子以下なのかしら?』
とか言って」
さて、そろそろ行きますか、我が相棒のために、
と少女は楽しそうに笑って、
ドアも開けずに、晴れやかな夏の街へと姿を消した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「暇ねえ」
幻想郷。その東端に位置すると言われる博麗神社。
これぞ蒼穹と言うべき、というほどに空は晴れ渡っていたが、
まだ朝早いこともあってか、何とも言えず物足りなかった。
何が、というわけではないし、
どうせもう少しすれば茶飲みが日課の黒白魔法使いも来るのだろう。
そんな中途半端な空気をこの神社の主、博麗霊夢はひとことで表現した。
「暇だわ」
よっぽど重大だったようで、2度も言った。
別に、霊夢自身やることが無い、というわけではない。
実際、霊夢の手には箒が握られている。境内をゆるゆると掃除中なのだ。
巫女であっても普段は特にそれらしい仕事もしない霊夢にとっては数少ない、
むしろほぼ唯一と言っていい日常的な仕事である。
あるのだが……
「もういいから今からでも二度寝しちゃおうかしら?
うん、そうしよう。今日一番に来た人に起こしてもらおう」
それでいいのか、とツッコむ邪魔者もここにはいない。
すでにサボる気は十分、布団の用意も万全、早業でもぐりこみ、
お休みなさい、と言えば博麗布団結界が発動するという
そのとき、
「すいませ~ん。誰かいませんか~。すいませ~ん!」
残念ながら、その日一番の客は、見知らぬ少女だった。
「むう、誰よ……」
自分が暇だ暇だ、と言っていたことを忘れたわけではないだろうが、
そこはやはり、眠りを邪魔されたこともあるのか、少し不機嫌さを声にあらわして、
朝一番の客人の応対に出た。
「あ、あなたがココの巫女さん?」
そこにいた少女は、やはり霊夢には覚えの無い人物であった。
「そう、博麗霊夢よ。あんたは?」
そう問いながら、霊夢は目の前の少女を観察する。
どこぞの炎の魔法使いを彷彿とさせるツートンカラーな服装。
里の人間には珍しい、純洋風(?)な感じだった。
なら妖怪か、と妖気を探るが、それも感じられない。人間なのか。
……感じられない?なんで?あれ……?だって……
「ん、まあちょっと人探しにね-。ここに良く来るって聞いてたから」
突然の違和感に飲まれかけた霊夢だが、呑気な声に現実に引き戻された。
「ああ、えーっと、うちに入り浸るやつって結構多いんだけど、誰かしらね……?
妖怪、それとも人間?」
半ばしどろもどろになりながら答える霊夢。
その答えに、白黒少女は一瞬驚いたように目を見開き、
それから、本当に楽しそうに微笑んだ。
「へえ、人間だけじゃなくて妖怪もそんなに来るようになったの?
ここ、博麗神社でしょうに、妖怪退治の巫女がいる」
「ええ、入り浸ってくれちゃってるわ。
おかげで人里の人間からは妖怪神社なんて呼ばれるし、お賽銭は入んなくなるし。
まったくいいめいわ、く……?」
――あれ、今こいつ『妖怪も来るようになったの?』って……
なんで昔からここを知ってるような、
なのに最近をしらないような言い方をするのか。
「ねえ」
「なに?」
「あんたさ、何処から来たの。それと、名前くらい教えなさいよ」
「う。……ちょっと家だけは勘弁して。それと名前も勘弁して?」
「なんにもないじゃないのよ……まあいいわ。じゃあご用件は? 名無しさん。
人を探しに来た、って言ってなかったっけ?」
ああ、そうだった。とまるで忘れていたかのように手をポン、とたたく少女。
「そうなのよ、渡したいものがあるんだけどね…………」
「誰に?」
「………………」
「………………」
「………………」
「おーい?」
静寂。
「……やばい、名前なんだったかしら。」
「おい」
「や、やだあ、そんなににらまないでよー。お互いに呼び合う時は困んないのよ。
……ただ本名が、なんだったかなーって。それだけよう」
「それだけでも十分怪しさプンプンじゃないのよ。あんた、ホントにそれが目的?」
「うぐ、可憐な少女が必死で悩んでるっていうのに疑うとかひどいー」
「誰が可憐で少女なのよ自分で言うな。どうせ見かけ通りの歳じゃないでしょうに」
「少女は見かけと心だけで少女たるのよ。少女たらんもの少女であれ!」
「やかましい」
ボケボケな少女の発言にツッコむ霊夢、という構図がいつのまにか出来ていた。
少女の表情は豊かで、
霊夢も先程の違和感さえ無ければ、ただの人間だと思っただろう。
それだけになおさら、怪しさが醸し出されていた。
(それにしても、このやりとりなんか既視感……って、ああああああっ!)
「……ねえ、まさかとは思うけど……あんたの探してるのって、紫?」
「ゆか、り……?」
「八雲紫。妖怪の賢者、とか言われてるやつよ」
「それよ」
ぐっじょぶ、と親指をたてる少女。
マジか。
がっくりと肩を落とす霊夢。
博麗の勘って厄介だわ……、と他人事のように久々に感じた霊夢だった。
「良かったあ。あなたやっぱり紫と知り合い?」
「入り浸り度2位ね」
「おおう、常連じゃない」
(どうせなら1位獲るくらい来てほし……と、とととかは思ってない、思ってないわ)
「おろ? 顔、紅いわよ? 大丈夫?」
「だっ、……なんでもないわよ」
ふふーん?と目を細めて霊夢を見つめる少女。
顔が見事なまでにニヤケていたが、突然何かに気付いたように眉を顰める。
「あれ、あなたがもしかしてあれの……紫の……」
「ゆ、紫の、なによ」
「……なんでもないわ。そっか、ホントだったか。そうよね、これだけ経てばね」
「…………?」
「じゃあ、ひとつお願いしてもいいかしら」
「なに?」
少女は、スカートのポケットから小さな箱をとりだした。
「これ、あなたから紫に渡してほしいの」
薄紫の紙で包んだ上に金色の細いリボンで飾ってある、手のひらほどの小さな箱。
どうみても、贈り物。それもまるでなにかの記念日のような。
「名前は……言わなくても多分わかってくれるわ、カードも入ってるし」
「…………今日、あいつの誕生日じゃないはずよね……?」
「ええっと、ちょっと違うわね。『八雲紫』の誕生日ではないのよ。
……あら、もしかして気になるのかなー? 真っ赤な巫女さん?」
「ばっ! ちっ、ちっがうわよ! いきなり何を……
……はあ……なんだかあんた、紫みたいだわ」
「ふふ、褒め言葉よ、それ。じゃあ、お願いね」
少女はそう言って、早々と立ち去ろうとする。
「待ちなさい」
しかし、霊夢はそれを呼びとめる。
「……どうしたの?」
「ひとつだけ、言わなきゃなんないこと忘れてたわ」
正面から、少女を見据えて言葉を伝える。
「素敵なお賽銭箱はあっちよ、名無しさん」
「あはは……、またの機会にさせてもらうわ、素敵な巫女さん」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ってことがあったのよ」
「へーそーだったの-」
「そーだったのよー」
その夕方、いつも通り紫はウチにやってきた。
こいつももうなんだか日課じみてるわね。
結界の管理やらなんやら、式に任せっぱなしなんじゃないかしら。まったく。
……頑張れ、藍。わたしの分も大結界は任せたわ。
なんでも、おゆはんがちょっと豪華になる予定だとかで誘いに来てくれたんだそうだ。
え、ちょ、紫のほうからお誘い、ってどうするわたし!?
……よろしい、お邪魔します。と、二つ返事でやってきたのだった。
ちなみに藍によると別にそんな予定は無かったそうだ。
……ご飯なんかで釣らなくたって来るのに、バカ。
食後、わたしは朝方来た謎のあいつのことを紫に話した。
例のプレゼントらしきものは、ちゃんと紫の手に収まっている。
すぐに開けようとしていたのだが、
先に私の話を聞け、とおあずけをかけてある。
「まあ、覗いてたから知ってたんだけどね-」
てめえ。
くっ、お盆ではっ、届かないかっ!
「痛いっ!? 霊夢、十分届いてるわよ頭まで。あと女の子がそんな言葉使わないの」
「まったく……あんたに用があったんでしょうに、なんで出てこないのよ」
「えーと…………修羅場回避……?」
「…………」
プチッと、何か物理的じゃなくキレる音がした。わたしの頭の中から。
「へえ、紫……あんたとあいつ、そう言う関係だったんだ……?」
「ちょっともう、違うわよ。
そういう勘違いをしてほしくないから、私は出ていかなかったの。
それに私にとって彼女は、私たちはそんなものじゃなくて、
……そうね、言うなれば『相棒』、かしら。」
「相棒……?」
紫は静かに立ち上がると、居間をでて、すぐ傍の縁側に座った。
「あら霊夢。綺麗に晴れてるわよ。星も月も……綺麗に見えてるわ」
仕方がないので、わたしも紫の隣りに腰かける。
……確かに、今日は昼からすっきりと晴れていたけど、
夜空もここまで澄みわたっているのは久しぶりに見るかもしれない。
秋の空ではないけれど、すいこまれそうに感じてしまうほどに高く透き通る夜空。
「遥か昔の話よ」
唐突に紫が話し始めた。さっきの続きだろうか。
「遠く過ぎ去った未来(かこ)の話。私が『八雲紫』ですらなかったころ。
私たちは確かにそういう関係にあったわ。いわゆる恋人同士。
お互いに認めあった仲だったし、
恥を忍んで言ってしまえば、身体を重ねたことも一度や二度じゃなかった」
「かっ、身体って……つまり、えーっと……」
「ふふっ、そういうコト、よ」
ああもう、何が「恥を忍んで」よ。
聞いてるこっちのほうが恥ずかしくなってくるじゃない。
「でもね、違ったの。私と彼女はそういう関係にあるべきではなかった。
……ある日、本当に前触れもなく突然に、私たちの間に境界が見えた。
か細い、糸のような境界だったけど、はっきりと。それはね――」
語り続けていた紫の声が、うわずって、途切れた。
わたしは一瞬、本当に紫が泣きだすんじゃないかと思った。
でも、こいつは心だけで泣いたりするやつだから、やっぱりそんなことは無かった。
少しだけ、身を紫に寄せてみる。
「それはね霊夢、『赤い糸』だったのよ。
運命の恋人同士を結びつけるという『赤い糸』、それがどちらにも結び付かず、
真一文字に私たちの間を裂いて通っていたの。
……その時はもう泣いて、泣いて、出来るなら夢にしてしまいたかった。
私たちはこんなに想い合っているのに、境界がそれを否定するのかって」
少し寒くなってきたので、もう少し、身を寄せる。
「境界は当時、私にしか見えなかったから、彼女にはそのことを言えずにいた。
そしてそのまま、幾日も経って、ある区切りの時にやっと言うことが出来たの。
……そうしたらね、あいつ、何て言ったと思う?
『…………あ、やっぱりそう思った?』
なんて、なんでもないような顔して、そう宣いやがったのよ。
さすがに私も頭にきたから、一発お見舞してやったわ。もちろんグーで」
む、もうこれ以上近づけないわ。ええい、ゆかりの膝を枕にしちゃえ。
「でもね、あいつを殴った瞬間にまた見えたのよ。
色は分からなかったけど、今度はしっかりと二人の間をつなぐ命綱みたいな糸。
『恋人、っていうのも魅力的なんだけどね。
もし、私たちの間にそれよりも強い繋がりが創れるなら、私はそれでもいいと思う』
――ああ、これは殴ったあとのあいつの言葉ね。
今度は嬉しくて泣きそうだった。だって、わかったから。
たとえ恋人じゃなくても、私たちはもっと強く繋がることができるっ、てね。
……だから、私たちは『相棒』。
『生涯の朋』、『最大の理解者』、『一蓮托生』、『宿敵と書いてともと読む』?」
――さすがにこれは違うかしらね。
そう言って、いつになく純粋に笑う紫の顔を見上げていると、
昼間のあいつの楽しそうな笑顔が脳裏に浮かんできた。
「……やっぱり、なんだか似てるわ、あんたたちって」
「あら、褒め言葉よね、それ」
「おんなじこと言ってたわよ、あいつも」
あ、ゆかりの膝、なんか癖になりそう……
「ふあああ……」
「霊夢? もうおねむ? 夏だからってこんなところで寝たら……」
「……あとで、布団、つれてって、スキマ使わないで……」
「完全に寝る気ね……」
うるさい、あんたのひざがわるい。
それでも「しかたないわねえ」って言いながらちゃんとしてくれるゆかり大好き。
でも……そうだ、これだけは、聞いて……聞かないと……。
「ねえ……いろいろと、聞きたい、けど……じゃあ、わたしたちの『糸』、は……?」
ふわっと、あったかい何かに包まれたような気がした。ああ、もう限界…………。
「大丈夫。大丈夫よ、霊夢」
ずるい。そんな言葉を、聞きたいんじゃ、なかった、のに……
……でも……ありがとう、ゆかり……
◇◇◇◇◇◇◇◇
縁側には、霊夢と紫。
霊夢が眠りへとおちた今、目覚めているものは紫しかいない。
そして、そんな彼女たちを見ているのは夜空と月と夢幻の星たち。
……それと、もう一人。
「そんなところで覗き見なんて、趣味が悪いんじゃないかしら?」
紫が夜空を見上げて誰ともなく話しかける。
すると、すぐ隣りの何も無い空間が水面のようにゆらいだ。
その中から一人の人影が現れて、そのまま紫の隣りに腰かける。
もちろん、確認せずとも誰かなんてわかりきっていた。
「私に言えたことじゃないわよ? これでおあいこ」
「なんで出てこないのよ、私に用があったんでしょう?」
「修羅場回避よ」
「人のセリフをとるな」
あはは、と思わず声をあわせて笑う。
「じゃ、プレゼントも無事届いたようですがあらためて。
……誕生日おめでとう、メリー」
軽いようだが心がこもっていることがわかる一言。
だがその一言を贈られた人物は少しばかり頬を緩めて……首を横に振った。
「残念だけど、その言葉を言うにはちょっと遅かったようね」
いつのまにか、時計の針は天頂を過ぎていた。もう日付は変わってしまっている。
「まったく……5分も遅刻よ、蓮子」
「あ、あら、まだ4分37秒しか経ってないわよ?」
「待ち合わせに一日の猶予があったっていうのに、遅刻する方がおかしいのよ」
「相変わらず手厳しいわ。ああ、メリーの愛が足りない……」
「愛情は生憎売り切ってしまいまして、再販の予定もございませんわ。
…………わかってるくせに」
紫の膝枕で穏やかに寝息をたてている霊夢に視線をおとす。
「じゃあ、やっぱりその子が……この前言ってた、メリーの良い人?」
「良い人って……。うん……そう、よ……たぶん」
「なあによそれ。いつもは思い切りの良いメリーさんにしては歯切れの悪い言い方ね」
「だって……また思い出しちゃったんだもの」
少しでも揺らせば、壊れてしまう。
そんなものであるかのように、紫は、霊夢を抱き寄せる。
「あのころだって、蓮子と一緒に居たときだって、こんなことになるなんて思わなかった。
何も疑わずに、蓮子とずっと一緒に居られると思ってた。
本当に突然だったのよ、あれが見えたのは。
蓮子と私は運命の人じゃない。たったそれだけの真実に私はやられちゃった……」
「最初はね」
「なに?」
「私も思ったんだ。そんな境界(もの)関係あるか! って。
でもね……」
「…………」
「考えてみて、怖くなった。
メリーが見たのは横に遮る境界、というか糸ね。
だから『赤い糸』の話みたいに、私たちを正しく結びつけている糸もあるはず。
それを投げ捨ててまで『今』にこだわり続けたら、もしかしたら……
……もしかしたら、メリーを永遠に失うんじゃないか、ってね」
――だから、『今』を捨てても、そちらに縋った。
「おかげさまで今もこうしてメリーの隣りにいるわ。良きかな良きかな」
「……なんだか、そう考えるとあのころからあんまり変わってないわね、私たち」
「どの糸でつながろーと結局のところ、行き着くのは同じ場所なのよ。
でも、繋がらない糸を無理矢理結び合わせようとすれば……」
「……そう、だからこそ、私は怖いのよ。霊夢との今の関係が正しいものなのか……。
蓮子の時はなんとかなったかもしれない。でも今度また『あれ』が見えたら私は……」
「悩みなさいよ」
「……え……?」
「その子に『縛られた』のも、その子を『縛った』のもメリーの責任。
せいぜい悩んで、選びとりなさい」
「……蓮子の愛が足りないわ」
「生憎切らしておりまして。
……そうね。代わりに、『友情』、なんていかがですかメリーさん?」
「ふふ……」
「あはは……」
――ああ、これだから私たちときたら……
「だからその子、失くしたりしちゃだめよ? メリー。
なんせ私のサポートがあるんだから。
……あ、そうだ。
『誕生日おめでとう』は残念ながら遅刻にカウントされちゃったけど……」
こんなのはどう? と言ってくるりと一回転。紫の正面に立つ。
そして、満天の星空にも負けない満面に浮かべた笑顔で、ひとことだけ。
――あたらしい恋おめでとう、メリー。我が相棒。
――ありがとう、蓮子。私の相棒。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「じゃあせっかくだから開けてもいいかしら、プレゼント」
「ああ、おあずけされてたわねえ、あの子に」
「まあ、逆にタイミングは良かったのかしら」
薄紫の包装紙を開き、包まれていた小さな箱を開けると……
「なにかしら……ふもっ!?」
突然視界が闇に包まれた。
どうやら箱から飛び出してきた何かに顔から突っ込んでしまったようだ。
……おいそこで爆笑してるれんこ。びっくり箱とはいい度胸ね。
「くふふふふ、ふふ、び、びっくり箱なんかじゃないわよ……あははは……!」
「なんなのよ、もう……」
顔を上げると、いつのまにかあの手のひらほどの箱ではなく、
代わりに、小さな花の詰まったバスケットが私の両腕に収まっていた。
「あのときも言ったでしょ。赤い糸の向こう側には必ず誰かが待ってるんだ、って」
「……ばかれんこ……ありがとうしんじゃえ」
「ええ!?今の結構決まったと思ったのに、酷い!?」
「ありがとう、って言ったじゃない」
「しんじゃえ、は言い過ぎだと思うのだけど……」
「大丈夫よ、だって蓮子だもの」
「喜んでいいのか分からないわメリー……」
「……ふふっ、冗談よ。本当にありがとう、蓮子」
「どういたしまして。『必ず訪れる』ものくらい、絶対に掴まなきゃダメよ」
バスケットの中には月光に照らされ金色に輝く立金花(リュウキンカ)。
――花言葉は……
◇◇◇◇◇◇◇◇
―――おまけ―――
目覚めたらそこは紫の家でした。
「そっか、昨日はあのまま膝枕で……」
きもちよかったなあ…………紫のひざ……
……な、なんか暑くなってきたわ。なんでかしらね。
うん、きっと顔が紅くなってるとかは無い。ないったらない。
あ、も、もう朝御飯のにおいがしてる。
こんなみょんな気分は食べてふっとばそう。うん、それがいい。
居間の襖を開けると、
「あら、おはよう霊夢。良く眠れたかしら」
「おはよう、ゆか……なんであんたがここにいるのよ」
「ん-?あ、おはようさーん、霊夢ちゃん」
昨日のあやつが紫の隣りに鎮座してやがりました。
◇◇◇◇◇◇◇◇
紫の話によると、こいつの名前は宇佐見蓮子。
妖怪なのに妖力隠しを使ってまで外の世界に住んでるやつなのだそうだ。
そんでもって『外側』の博麗神社の管理者でもあるそうで。
「……って、そんな重要なこと聞いた覚えないんだけど」
「そういえば、言ってなかったわねえ」
「あんたねえ……」
「それに……博麗大結界が不安定だった初期こそ必要不可欠な役だったけれど、
今は、実はもう必要無いくらいなのよ」
え……?それってどういう……?
「まあようするにね」
紫の話を、蓮子が引き継ぐ。
「外の世界もそんなに悪くない、ってことよ。
確かに『妖怪』としての力は無いに等しくなるけどね。
こっちは楽園なのかもしれないけど、もう少しあっちの行く末を見ていたいな、って」
「早いとここっちに来ればいいのに、って前から言ってるんだけどね」
「まあそう急かさないでくださいな」
かわいい生徒もいるしね……そう言う顔に、陰はなさそうに見える。
わたしが妖怪の心配なんて柄じゃなかったか。
……そう、心配なんて、必要なかった。
突然、蓮子の顔がニヤリ、と歪む。
「……ところで、お二人さん?私が昨日こっちに来たのは二つ理由があるのよ。
ひとつはまあ、昨日果たしたんだけど、同時にもう一つ増えちゃったのよねえ。
それは、あなたたちの日常的な関係について、よ」
「「え……?」」
思わず、紫と声が重なった。
「私の能力は簡単に言うと『空間に関わる』、ようするに干渉することなんだけどね。
その能力の応用で、念写なんてことができるのよ。
それでたまに幻想郷を外から写したりしてるんだけど」
「念写?」
「カメラ……写真機でその場には『無い』ものを写したりする技術よ。
それで蓮子さん、それと私たちにどういう関係があるのかしら?」
「よくぞ聞いてくれました!」
ほいっ、と蓮子はテーブルの上に写真を何枚か広げた。
……あれ? わたしと紫が写ってるけど…………なっ、ちょっ、こんなの何時……!?
「まったく、真っ昼間からアツアツ過ぎるんじゃないかしら、お二人さん?」
……ぼふっ、という音が、顔からした気がした。ついでにとなりの紫からも。
「れえええんこおおおおおぉぉぉぉぉ!」
わたしよりもひと足先に復活したらしい紫が仕掛けるが、もうそこに蓮子の姿は無い。
顔がいまだ真っ赤なままの、紫とわたしだけがのこされた。
「ああああああ……もう蓮子のバカぁ。いっそ出入り禁止にしてやろうかしら……!」
「無理じゃない……? あいつなら気合いで入って来そうよ。勘だけど」
「蓮子に屈してはいけないのよ霊夢!売られたケンカは…………」
そのとき、テーブル上の空間がゆらめくように動き、一枚の紙が落ちてきた。
それには万年筆のようなもので、走り書きがされている。
――二人の出逢いを心から祝福します。 宇佐見蓮子
P.S. これからはもう少し、人目を気にしてからにするように――
それがトドメとなって、わたしと紫はこんどこそ二人そろって撃沈したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
○月△日 天気 ハレ
要注意妖怪……宇佐見蓮子
紫さえもてこずらせる、真性の困ったちゃん。
ちくしょーおぼえてなさい。
わたしはあんたを超えてやるんだから。
蓮子さん素敵すぎ
この設定は好きだわー
二人を引き離さないでくれてありがとう!
あと藍より橙の方がよっぽど空気のような気がします
良い、実に良いです
2828の二乗化のタイムラグって奴でしょうか。
確かに秘封だと蓮子の方が困ったちゃんですしねw
メリー=紫を、秘封倶楽部の解散なしに描いて……
大好きです、ていうかもう、愛してます
ツインドライブよりこっちなイメージでした。新婚合体!
て、この蓮子なら可能か
うまいこといってるの、凄いわ。
最高でした
蓮子には誰も勝てないんじゃないだろうか・・・
蓮メリとゆかれいむをこんな幸せな気分で同時に読めるのは久々です。
新しい相棒という関係に乾杯!
いいですね~こういう設定。
この考えが普及してほしいぐらいです