ふと、趣向を思いついたのでパチェを寝室に呼ぶことにした。
もちろん咲夜他、メイドには内緒で。
「レミィ、一体何の……」
部屋のドアを開けたところで、我が友人は硬直した。
思わず本を落とした辺り、本気で驚いているらしい。
「まずドアを閉めるんだ。誰かに見られたら面白くない」
「あ、えと、はい」
変な返事をして、パチェはドアを閉める。
しかし、ここまで驚かれるとは思わなかった。
これは楽しみだ。
「……で、どうやったの?」
「かくかくしかじか」
「そんなことが本当に可能なのかしら?」
「まぁ、できてるし」
「ところどころバランスもおかしいわよ?」
「うん、そこを見てもらおうと思って呼んだんだ」
それから半刻くらい、私とパチェは調整を行った。
ドアの表に「入るな!」と書いておけば、呼ばない限り誰も入ってくることはない。
やっと決まったのが、窓はがないからわからないけど陽が頂点を過ぎた時刻ぐらいのはず。
今朝、咲夜と別れた後からずっと「これ」を行っていたのだ。
夜型の私としては、そろそろ活動限界。
「あふ……じゃあパチェ、もう一眠りすることにするわ」
「ええ。私は図書館に戻るわ」
笑顔で手を振るサービスまでつけて、見送ってやった。
「へくちっ」
くしゃみも出た。
まぁ、自分の体を見れば当然といえば当然。
さっさとベッドに潜り込んで、眠りに落ちることにした。
眼が覚めた私は、咲夜ではなく妖精のメイドを一匹呼んだ。
特に働きは期待していないが、門番を呼んでくることはできる。
というわけで、ベッドから出ずに妖精を遣わせて二度寝。
ま、寝付く前に門番が来たけど。
案の定、全力で驚いた。
偽者かとか言い出したから、割と本気で殴ったら静かになった。
……石頭め、手が痛くなったじゃないか。
「お嬢様……であってますよね?何か用ですか?」
「服貸して。」
「へ?」
「サイズが合わないんだよ」
「えーと、お嬢様のが小さいんで門番隊の子用に作ったのでもいいですか?一応ドレスっぽいのですけど」
「構わないわ」
「んじゃちょっと待っててください」
軽やかな足取りで門番が出て行ったが、口止めするのを忘れていた。
咲夜とかに漏らさないか心配だ。
いや、確実に漏らして咲夜が服を拵えて持ってくるというのが眼に見える。
……自分からは動くことはできない。
部屋を裸のままうろうろしている間に、姿見に映った自分の体に気が付いた。
……。
思い立ってやったはいいけど、どうも違和感。
視点の高さにどうしても慣れない。
体の大きさに合わせていろんなところに肉付けをパチェと行ったが、そこのバランスも気になるところ。
ふと、近くのクローゼットにあった普段のドレスを体に合わせてみる。
小さい。
襟に上を合わせると、腰まで衣服でカバーできる。
常時であれば、膝の下に裾がある。
何故か、口がにやける。
多分咲夜くらいの背になっているが、なかなかのものだ。
仕掛けのタネのために弾幕ごっこまでは出来ないだろうけど、時々ならやってもいいかもしれない。
突然のノック。
「お嬢様、お目覚めでございますか?」
咲夜だ。
私は慌ててドレスをクローゼットにしまう。
乱暴に開けたので戸が外れてしまい、大きな音を立てた。
「お嬢様?!」
ドアノブが激しく動く。
咲夜がドアを開けようとしているのだろう。
(なんで咲夜が来る?!門番が漏らしたのか?!)
しかし、美鈴から聞いたのであれば悠長にドアノブにかじりつく事はないだろう。
その辺の事情はさておき、隠れなくてはならない。
ベッドに戻ろうとして、天蓋を支える柱に膝を打った。
柱が折れて天蓋が傾く。
地味に痛い。
普段のサイズなら、当然ぶつけるはずもない。
「くっ……失礼します!」
(あ、まずい)
ついに咲夜が業を煮やしたようだ。
とにかく、シーツを被って体を隠そうとした。
しかし、次の瞬間には咲夜が部屋の中に侵入を果たしていた。
ドアを見れば、人が通れるくらいの穴が開いていた。
……切り取ったのか。
そんな無茶をした本人は、といえば。
「…………」
固まっていた。
赤目なあたり、本気で焦っていたのだろう。
奇妙な沈黙のまま、時間が過ぎる。
「お待たせしまし……あれ?」
門番再来。
なんてタイミングで来るんだコイツ。
事態が飲み込めない、とばかりにキョロキョロしている。
さっきのお前と全く同じなのだが。
それがきっかけになったのか、咲夜の目が青へ戻っていった。
同時に涙も流れた。
予想外。
「え?!」
「咲夜さんどうしたんですか!」
動揺する私と門番。
そんな二人をよそに、口に手を当てて涙を流し続ける咲夜。
「美鈴……」
「はい!何ですかっ!」
無駄に元気がいい門番。
「お嬢様が……あんなに立派になられて……」
「へ?」
「咲夜?」
「はい……わかってます」
咲夜は涙をぬぐって答えた。
「私が立派な婿を探してまいります!」
何がわかったというのか。
何がわかったというのか!
驚きすぎて、従者のねじは数本消し飛んだようだ。
優雅に一礼、次の瞬間には咲夜はこの部屋にいなかった。
時を止めて移動したらしい。
……普段は優秀なのに、一度抜けると底を知らん。
そこが珠に疵か。
「お、お嬢様!どうするんですか?!」
「……そのうちに戻ってくるでしょ。その前に、服ちょうだい」
ぶっちゃけ、ずっと寒かった。
「それで、どんな仕組みなんですか?」
門番が持ってきた服は、真紅の長袖チャイナドレス。
上半身は温かいが、下半身はスリットのためにあまり変わらない。
結局、咲夜のメイド服を拝借した。
もちろん、ヘッドドレスとエプロンは外して。
「うん、この手を思いっきり握ってみなさい。」
美鈴は不思議な顔をしたが、程なく私の左手を握った。
吸血鬼の強靭な肉体が、思いきり握った程度で壊れるとは思いもしなかったのだろう。
実際には私の左手は四散し、小さな蝙蝠に変化……いや、戻ったと言ったほうが正しい。
門番は、それを見て仕掛けに気付いたようだ。
そう、体のサイズを蝙蝠を取り込むことで調整した。
割と大量に取り込んだ結果、咲夜と同じくらいの背の高さに到達。
さすがにここまでサイズを変えれば、皆驚くらしい。
「自由に体型変えられるって便利ですね」
門番が羨ましそうに見てくるが、体の維持に思ったより気を使う。
いつもよりもスペカの威力や、体の動きが鈍いというか重い。
つまり、総じて能力は下がっている。
今回のように、ふざける時しか使えないということだ。
まぁ、体が重いのは肉付けしているから当然か。
というわけで、あまり便利ではない。
「あれ?じゃあ妹様も」
「できるだろうね。妹だし」
「咲夜さんの着せ替え魂に火がつきますね」
「やめてくれ……」
門番は機嫌よく、仕事に戻っていった。
しかし、最初にチャイナドレスを持ってきた辺りお前も好きだろう絶対。
……そうか、フランもできるんだな。
地下に遊びにいって教えてあげようと思う。
本当なら、これから巫女とか白黒とか亡霊とかにこの姿を見せて遊ぼうと思った。
が、いろいろあってなんか疲れた。
フランに見せて、元の姿に戻ることにしよう。
これが、本日最大の間違いだった。
地下室。
当然私の屋敷なんだから、ノックなんかしないで扉を開ける。
フランは、自分のベッドの上で絵本を読んでいた。
気付いたフランは、私と眼があった。
きょとんしたあとに、三日月のように歪ませて私に襲い掛かってきた。
違う!違うよ!
私だって!
ちょっと大きくなったくらいで、わからないのか?!
「あははははははははは!」
フラン大歓喜。
もう止まらない。
能力が軒並み低下している私には、到底かなわない。
私はひたすらに逃げ続けた。
ちょっどかーんするな!
「本当にお姉様?」
「最初からそう言ってるじゃない……」
ごっこじゃない弾幕から逃げ切って、ようやくフランと会話を始めた私。
パチェや門番に話した内容を、フランにも教える。
「私にもできるの?」
「私にできたならフランにもできるでしょ」
そういって、私の蝙蝠を少し分けてみた。
頭半分くらい私の身長が減る程度。
「えっと、こうかな?」
自分で試行錯誤しながら、蝙蝠を取り込んでいく。
……私よりも要領がいい。
みるみる内に、服がぱつんぱつんになっていった。
……あれ?
「なんであんた、胸に重点的に蝙蝠溜め込んでるのよ」
「べ、別にいいでしょ!」
「まぁ、別にいいけど。」
門番か咲夜でも意識してるのだろうか。
いいけど。
フランはその後も、脚を長くしてみたりしていた。
気に入ったらしい。
そして、またもやノック。
「妹様……こちらにお嬢様はいっらっしゃいますか……?」
あ、デジャヴ。
申し訳なさそうに、咲夜がドアを開く。
本気で婿探しとかしていたのだろうか……?
冗談だと思っていたのに。
「……」
「……」
「あ、咲夜だ!どう?これどう?」
また硬直。
フランだけが、止まった時の中を動いている。
「お二人は……無理です……」
咲夜、意味不明な言葉を遺して失神。
……。
疲れてるのだろう、きっと。
フランと相談して、咲夜をフランのベッドに寝かせた。
「じゃあ、今日はお姉様の部屋で寝ていい?」
「ま、仕方ないわね」
……そういえば、私の部屋ひどいことになってなかったっけ。
はしゃぐフランが、部屋の惨状をみたらどう思うだろう。
……ま、いいか。
部屋はあとで咲夜か門番にでも直してもらおう。
姉妹で一緒に寝るなんて、いつ以来だろう。
今夜ばかりは、紅い姉妹によい夢を。
了
大人なお嬢様と妹様・・・・・・いやっほおい!
それはそうと、もう少し大きくなった時の具体的な描写が欲しかったです。
あと、咲夜さんは何をどうするつもりだったんだろ?
この台詞で爆笑した私は間違いなく小学生並み・・・OTL
内容はもうちょっと深くても良いと思いますが面白かったです。
逆に減らせば更に幼くなr(ry
妙につぼに入った
絵が無いからこそ面白みが増してるというか。うん、もっと読みたいです
なかなか新鮮で面白いないようだった。
でも終わり方や分量などちょっと中途半端なのが残念。
もっと練り込まれた作品だったら文句無く100点だったのに。