Coolier - 新生・東方創想話

流星

2013/04/08 23:29:25
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冷たい木枯らしは真っ直ぐ顔の横を吹き抜けて行って、ぱさぱさり、と髪の毛を揺らす。
冬の夜空は燦々と輝く星達に彩られ、宝石箱を掻き回したようにいたずらに瞬く。
白い息は二人分浮かんでいて、それに合わせるように二人分のお喋りが聞こえる。


「ねえ蓮子、どういうつもりよ。いきなり呼び出したりなんかして」
「まあまあ。あ、ちょっと待っててよ」

片方の、黒い帽子を被っているほう。宇佐見蓮子は自販機の存在に気付き、ポケットから財布を出してごとんごとんと缶を二つ出す。

「はい、寒い中来させちゃったから私のおごりよ」
「お、おしるこ」
「……あ、本当はココアでも、と思ったけど、売り切れててね」


そう言うと、缶のプルトップを慣れた手つきで開け、ちびちびと飲み始める。
もう片方の、白い帽子を被っているほう。マエリベリー・ハーン、通称メリーは不服そうな顔をしながらも缶で暖を取る。
 
蓮子ははふ、と暖かい息を出した。

「私、結論から言わない事象はあんま好きじゃないんだけどさ」
「ええ、良く知ってるわ」
「今日は、前提から入ってみようと思ってね」
「その心は?」
「それを言っちゃあ、今日呼び出した意味がないわ」

ふふふ、と一人含み笑いをする蓮子に、メリーはまた納得のいかなさそうな顔をした。


こんな寒い日に呼び出して、しかも夕方、突然。今日は夜に遠くに行ってみようと。蓮子は何を考えているのだろうか。
……いや、もとより考えている事が分かるような相棒ではない。私は考える事を放棄して、目の前にあるおしるこの缶を開けた。湯気がゆっくりと立ち昇る。

「それより見てよ。今日の星空。雲一つなくて、地平線の向こうまで澄み渡ってるわ」

歩きながら上を見続ける蓮子は危なっかしい。躓かないかしら、と心配しつつも進行方向の先の空を見上げる。
すると、眼前に広がる群青の闇が私の目を覆い尽くした。散らばる星々はスパンコールのように空を縫い、まるで、大きな一つのドレスのようだった。

「……綺麗ね」
「あんまり上ばっかり見てたら、蹴躓くわよ」

む、と目線を蓮子に戻す。いつの間にか彼女は道を真っ直ぐ見据えており、おしるこをぷはぁ、と飲み干していた。
こういう要領の良いところが、腹立つのよねぇ。




「メリー、もうすぐ目的地よ」

三十分ほど歩いただろうか。メリーのおしるこはもうすっかり冷え切り、あたりは人気がなくなっていた。
京都は安全なところで、女子二人で歩いていても何事も無い。こういう時、京都に住んでて良かったなぁと思う。

「着いたわ! ここよ!」

大きいビルの廃墟のようなところを指さして、蓮子は言った。
周りには色とりどりの雑草が生い茂っており、人がいる気配は全く無い。京都にもこんなところがあったのか、と思うくらい荒れていた。
蓮子は目の前にあるフェンスをひょい、と軽い身のこなしで乗り越え、きょろきょろと周囲を確認する。

「ま、待ってよ蓮子」

よいしょ、と私もやっとフェンスを乗り越え、すと、と地面に降りる。蓮子は目をきらきらと輝かせ、

「メリー! ここの屋上へ行くわよ!」

と高らかに言った。


「えぇ、こんなに歩かせといて、また階段を上るの?」

そう言った時には、蓮子はビルの外にある螺旋階段を、かんかんかんと靴音を立てて登り始めていた。




ビルは十一階まであって、その上が屋上だよと蓮子は螺旋階段の上から言う。
あまりにも早く登って行くものだから、足がついていかない。蓮子のスピードにあわせる事はない、自分の速度で登ろうと決めて速度を緩めた。


すると、遠く遠くに、酉京都の夜景が目の端にちらりと輝いた。その夜景は、とても小さく、私達の歩いてきた距離を表していた。

「メリー、はやくう」

蓮子がずっと上から呼ぶ。はいはいと返事をして、一度緩めかけた足をさっきより速いスピードで動かして階段を登る事にした。



やっと、屋上まで登ってきた。意外に階段はきつくて、ふうと一息つく。
遠くに見える小さい酉京都の夜景は健在で、私達の周りの暗さを際立たせていた。
蓮子はずっと自分の懐中時計を見つめ続けている。


「蓮子、こんなところまで来て何を」
「空を見上げて、メリー」
「え」

真上を見上げた。きらきらと瞬く星はそのままに、先程見上げた時より黒い空になっている。

「〇時一八分二〇秒、二一秒、二二秒」

蓮子が時計を見ずにカウントする。

「二三秒」

そう言うと、ぴたりとカウントは止まった。その瞬間。



 

ぴゅん、と空に光が走った。

その後も、ぴゅん、ぴゅんと争うように光が駆けてゆく。

やがて、沢山の光がこちらに降ってくるように散ってくる。



首が痛くなるほどずうっと上を見上げていた。蓮子も、一緒に空を見上げているようだった。


「獅子座流星群よ、これが見せたかったの。……メリー。前提はここで終わりよ」

獅子座流星群。心の中で言葉を反芻する。



「あのね、私、メリーと結婚したいな、って思うの」

視線は空のまま、どくんと胸が高鳴った。


「メリーと、ずっとずっと同じ空を見上げていたいの」

一閃の光はすうっと空を裂く。


目線を蓮子に戻した。星のように、綺麗な目をしていた。



「これが、私の結論。メリー、ついてきてくれるかな」


この言葉によって、秘封倶楽部は終わりを告げる事になる。



――でも。





「蓮子……。私、なんて言ったらいいか分かんないけど、けど……。私、貴女について行きたいわ。ずっと、ずっと」

蓮子はぐうう、と俯いて、そして、


「やったー! メリー、大好き!」

私に抱きついてきた。どさりと尻餅をついたが、蓮子がものすごく嬉しそうな顔をしていたので、じんじんとした痛みすらも幸せだった。







かくして、秘封倶楽部はサークルとしての活動を終える事となった。


しかし、これからも二人、もとい夫婦は、新しいスタートを切ったのであった。


めでたし、めでたし。
2001年の獅子座流星群を見た方はいるのかな。
私が見たのは、忘れもしない小学校一年生の時でした。
あれは、本当に綺麗でしたね。
自分が天文を好きになったのは、その影響です。
伏見やまと
[email protected]
http://twitter.com/xxxzzxxx_
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コメント



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6.100プロピオン酸削除
やっと結婚したか。おめでたいなチクショウ!
14.70奇声を発する程度の能力削除
めでたし、めでたし
16.803削除
タグが「蓮メリ結婚しろ」だと思ったら……本当に結婚しちゃったよ!?
この時代の日本では同性婚もありなんでしょうかね。
17.100非現実世界に棲む者削除
蓮メリ結婚おめでとう!