わかさぎ姫がもんぺの妖怪にさらわれた――。
縄張りを巡回していた時のことだった。私は、わかさぎ姫ともんぺを履いた白髪の少女が小屋に入っていく姿を目撃し、直感でそう思った。
どどどどうしよう。助けに行かないと。でも、よりによってあいつが相手だなんて……。
私とわかさぎ姫は、草の根妖怪ネットワークの仲間だ。共に行動することはないが、それでも力の弱い妖怪同士で情報交換をし、少しでも妖怪としての格を上げようと日々努力する大事な仲間なのだ。
助けなければならない。そう思いながらも、私は竹林の影に身を潜めて頭を抱えていた。
私は竹林で孤独に過ごす一匹狼だ。他の妖怪に襲われないようにひっそりと暮らし、毎日縄張りの巡回をかかさない。これが竹林で長生きするための私なりのコツであった。
そして勿論、私は藤原妹紅の存在を認知していた。
竹林に住む妖怪の中でも頂点に立つ強さを誇り、襲い掛かる妖怪を次々に倒し、様々な妖術を使い、殺されたと思ったら何度も復活するという噂だ。
単独で大した力もない私にとって、決して敵に回してはいけない存在であった。
竹林に住む一部の妖怪は、藤原妹紅は妖怪ではなく人間だと言うこともあったが、私はそんな言葉を信じていなかった。
「人間が妖怪をボコボコにして、しかも何度も復活するわけないじゃん。あれはどう考えてももんぺの妖怪だよ」
私は一部の妖怪の言葉を鼻で笑っていた。
しかし、今となってはその言葉が本当であってほしいと私は願った。
人間が相手ならまだ勝ち筋があるかもしれないが、もんぺの妖怪が噂通りの妖怪だとしたら、私に為す術はない。何度も復活するようなやつに勝てるわけがないのだ。
私が足踏みをしている間にも、時間は刻々と過ぎていく。
ああ、どうしよう。早く、早くしないと。今に姫が……。
あのもんぺの妖怪に取って食われるかもしれない。
わかさぎ姫は気弱で虫も殺せない性格だ。
私の頭の中では、彼女が無抵抗に食べられる様子が容易に想像された。
いつものように私から湖まで出向いておけば、こんなことにはならなかったのに……。
せめて姫が隙を見て逃げることさえできれば……。
そこで私の頭に妙案とは言えないが一つの案が浮かんだ。
そうだ。もんぺの妖怪と戦う必要はない。姫をあの小屋から連れ出し、そして捕まる前に逃げ切ればいい。
小屋の戸を開け、姫を引っ張り出し、そして全力で逃げる。オオカミの姿に変身すれば不意打ちだってできるはずだ。
私はわかさぎ姫を救出する計画を何度も頭の中でシミュレートした。
戸は敢えて一気に開け、オオカミの姿になってできるだけ大きな声で吠える。もんぺの妖怪がひるんでいる隙に、姫の手を取って小屋を飛び出す。
そこからはひたすら逃げる。竹林を飛び出して湖にまで行ってもいいというくらいの勢いで逃げる。
そんな想像を繰り返し、私はようやく小屋に踏み込む決心をつけた。
よし。私ならできる。きっとできる。
自己暗示をかけ、私はその小屋へとゆっくりと近づいた。
今夜の竹林は風がなく不気味なほど静かである。私は足音を立てないように忍び足で歩く。小屋の戸口に手を当てる。深呼吸をして高鳴る鼓動を抑えた。
行くぞ! 姫!
戸口に手をかけ、思い切り横に引こうとした。そうしてわかさぎ姫を助け出すはずであった。
しかし、小屋の戸は私が力を加えることなく開いたのだった。
「あら、オオカミの妖怪?」
戸を内側から開けたのは、小屋の持ち主である藤原妹紅。私は眼前に立ちはだかるもんぺを履いた少女を見て一瞬で悟ってしまった。
あ、終わった。
私は膝から地面に崩れ落ちた。何もかも終わった思い込み、地面にひれ伏した。私の目には既に走馬灯が流れ始めていた。
ああ、妖怪として生まれてまだ50年も生きてないのに。短い生だった。竹林に住み始めてからはまだ50年も経ってない。わかさぎ姫に会ったのはつい最近だ。ああ姫。あなたのこと救ってやれなかったよ……ごめんよ……。
死を悟った私は徐々に意識が遠くなっていた。薄れていく意識の中で、私は藤原妹紅とわかさぎ姫のものと思われる声を聞いた。
「なにかしらこの妖怪。行き倒れ?」
「あ、影狼じゃありませんか。人の小屋の前で寝るなんて不躾ですね」
わかさぎ姫ののんきな声が聞こえた気がした。最後に声を聞けてよかったよ。
誰かに持ち上げられたような感覚があった。きっと藤原妹紅が私を小屋の中へ入れたんだろう。このまま私と姫は一緒に調理されて食糧にされるんだ……。
あの世でちゃんと謝るよ、姫……。
視界にぼんやりと白い霧が映っていた。それが徐々に晴れると、見知らぬ天井とわかさぎ姫の顔が目の前に現れた。
姫……。あれ、私は何をしていたんだ……?
「やっと起きましたね。どうしてあんなところで寝ていたんですか?」
「寝ていた? ちょっと待って。私は確か……」
私は自分が眠る前のことを思い出そうとした。
「そうだ。私はあなたを助けようと小屋に奇襲を」
「助ける? 別に私は危機的状況ではないわよ」
「だって、もんぺの妖怪にさらわれたじゃないか!」
「誰がもんぺの妖怪だって?」
聞きなれない声が聞こえた。声の主を探してみると、白髪を足元まで伸ばし、もんぺを履いた少女が私を睨んでいた。
まぎれもない、藤原妹紅だった。
「ぎゃああああああ! 食われるううう!」
私は素早く起き上がると、わかさぎ姫の手を引いて小屋から脱出しようとする。しかしわかさぎ姫はそれを止めるように私の手を引っ張った。
「何してるんだ姫! 早く逃げるのよ!」
「落ち着いてよ影狼。どうして逃げる必要があるのよ」
「だって! あいつはもんぺの妖怪だぞ!」
「もんぺの妖怪って何よ。私はこれでも人間よ」
「へ?」
妹紅が苛立ちながら放った言葉に私は完全に動きを止める。
そんなバカな。竹林の猛者とも言われるもんぺの妖怪が実は人間だなんて……これはきっと嘘だ。
「あなたはよっぽど私を妖怪呼ばわりしたいみたいね」
妹紅は好戦的な目で影狼を睨みつける。
「影狼。妹紅さんは善良な人間よ。私が影狼に会いに行こうとして竹林で迷っていたら、親切に家にまで上げてくれたんだから」
姫が優しく諭すような声で言った。
確かに。もしも凶悪な妖怪だとしたら、私が気を失っている間に食べられてしまっているはずだ。
「ほんとに?」
「ほんとよ。ねえ妹紅さん」
「私は人間よ」
私は姫と妹紅の言葉を信じ切っていなかった。半信半疑くらいだった。
それでもすぐさま身の危険を感じるようなことはないと判断し、一度腰を落ち着けることにした。
妹紅は食事の準備をしているようだった。私は妹紅への警戒から、戸口に近くなおかつ妹紅から距離を保てる場所に座った。
そして妹紅に聞こえないように、小さな声でわかさぎ姫に耳打ちする。
「とりあえずどういうことか説明してほしいわ。どうして姫があいつの小屋にいるのさ。さらわれたんじゃないの?」
「私は妹紅さんに道を聞いただけよ。この辺りに知り合いのオオカミが住んでるんですけどって」
なんてことを聞くんだ姫は。
「姫……。あいつが私の住処を知っているわけないでしょ」
「どうして? 同じ竹林に住む仲間じゃないの?」
「竹林には強い妖怪がごろごろといるのよ。私みたいな弱小妖怪はそいつらに住処を知られないように隠れながら生きているの。そしてあのもんぺは竹林最強の妖怪だと言われている。そんな奴に住処を知られるわけにはいかないでしょう」
「だから妹紅さんは善良な人間だって」
「善良な人間がこんな危険な竹林で生活するわけないでしょう。あれはきっと人間に化けて相手を油断させて返り討ちにする妖怪だよ」
「そんなまさか……」
「姫は平和な湖で暮らしているから分からないのよ。見てなさい。そのうち本性を出すに違いないわ」
私と姫は調理台の上で魚を捌いている妹紅をちらりと見た。すると妹紅はちょうどその手を止めた。
「今日は活きのいい魚が手に入ったから」と妹紅は笑顔で言った。
ほら! 活きのいい魚って! 絶対姫のことよ! やっぱりあいつは姫を食べようとしてるのよ!
「姫、やっぱり逃げたほうが」
「私を魚と勘違いして食べようとするのは影狼くらいなものだから」
わかさぎ姫はジト目で影狼を睨む。私には返す言葉がなかった。
妹紅は捌いた魚を煮付けにしているらしい。鍋で煮ている間に、今度は獣肉を取り出した。
「獣の肉も手に入ったんだけど、食べるかしら?」
今度は獣肉だって!? まさか……。
妹紅の言葉に私はガタガタと震え、涙目になりながら姫に訴える。
「姫、もう帰ろう。ほんとに。死んじゃうから」
「まだ言ってるの……」
わかさぎ姫はすっかり呆れた様子で私の言葉を受け流す。
姫にとって妹紅は、通りすがりの妖怪に食事をご馳走してくれる親切な人間という印象しかないのだろうか。
「だって、おかしいよあいつ。人間のくせに竹林に住んでるし、道を聞いただけの姫を小屋に入れて食事までご馳走するなんて普通じゃないよ」
「私の話聞いてるのかしら」と妹紅は二人の間に割って入った。
「ひいいっ」
「妹紅さん、この子妹紅さんが怖いらしいんですよ」
「こら言うなバカ!」
私は咄嗟に叫んだが時すでに遅し。
妹紅は「そう……」と呟いてしばらく考え込んでしまった。私の目には絶望しか見えていない。
殺される……。
そんな私とは対照的に、わかさぎ姫はのんきに私たちの様子を見て笑っていた。
「影狼は怖がりねえ」
わかさぎ姫は子どもをあやす母親のように、私の頭を撫でてきた。私は涙目のままわかさぎ姫にしがみついた。
「ちょっと表に出ましょうか」と妹紅は笑顔で言った。
私は再び死を覚悟した。妹紅の笑顔は私にとって悪魔の微笑みにしか見えなかった。
「ちょっと準備があるから、先に出てて」
そう言うと妹紅は流しの下の棚をごそごそと漁りだした。
私はもはや逃げる気力もなくなってしまっていた。わかさぎ姫は私を小屋の外に引っ張り出した。程なくして妹紅が七輪を持って出てきた。
七輪?……まさか、私たちを殺してからあれで焼いて食べるつもり!?
「そこの狼さん、私は人間だから妖怪の肉なんて食べないよ。だからそんな震えないでよ」
妹紅の目は、今日私が見た限りでは一番優しげだった。そこで私はようやく警戒心を少し解こうとする。
もしかして、本当に人間なの?
しかし私の束の間の休息はものの数秒で終わった。
妹紅は手のひらに炎を宿し、それを種火にして七輪に火を入れた。
やっぱり人間じゃないよ! 人間は手から炎なんて出さないもん!
「影狼ったら火が怖いの? 野生の獣みたいねえ」
わかさぎ姫がうふふと私を馬鹿にした。
「私は手から火を出す人間がこの世の何よりも怖いわ」
「あなたはことごとく私を化け物扱いするのね」
妹紅はため息をつきながら肉を焼き始めた。鶏くらいの大きさの肉の塊が七輪の上に乗せられる。しかし鶏の肉とは形状が違う。何という獣だろうか。
七輪はぱちぱちと音を出し始め、静かな竹林にはその音だけが響いていた。
「以前小屋の中で七輪を使っていたらボヤ騒ぎになってね。それ以来外で使うようにしているの」
妹紅は本当にここで生活をしているかのような口ぶりだ。手から出る炎のおかげで竹林でも無事に過ごしていけるということなのだろうか。
「ど、どうして姫を小屋に連れ込んだの?」
「連れ込んだって、ひどい言い草ね。今日は食糧がたくさんあるから、腐らせてももったいないと思ってご馳走しようとしただけよ」
「ほら、やっぱり妹紅さんはいい人でしょ」
「に、人間のくせにどうして手から火が出る?」
妹紅は七輪の火加減を見ながら答えた。
「人間だって、修行をすれば仙人にもなる。手から火が出たっておかしくないわ」
「でもあんた、竹林で最強なんでしょ?」
「そうなの?」
妹紅はびっくりしたような表情で顔を上げた。肉の美味しそうな香りが漂ってきた。
「まあ、昔はそこらじゅうの妖怪を無意味に殺したりした。でも、それがひどく空しいことだって気づいてからはやめたわ。おかげで戦闘に慣れて妖術も使えるようになったんだけどね」
「でも、生身の人間が竹林の妖怪を次々に殺せるはずが……」
すると妹紅は遠くを見る目で空に向かって伸びる竹を見つめた。
「いろいろ事情があるのよ」
何か隠してる。私たちに言えない何かがあるんだ。
こいつの仲間になれば竹林での私の暮らしは安泰だ。でもまだこいつは信用できない。
七輪に乗せられた肉を裏返すと、表面に網の形をした焦げ目がしっかりとついていた。
「姫って肉食べるの?」
「食べるわよ。私を何だと思ってるの?」
「人魚でしょ。プランクトンとか食べてそうじゃん」
「それただのお魚じゃない。失礼しちゃうわ」
「あ、膨らんだ。ふぐみたい」
「だから私は妖怪だってば」
姫と睨み合っていると、火の下限を見ていた妹紅が私たちのやり取りに思わず噴き出した。
「あはは。あんたたち仲がいいのね」
初めて妹紅の気の抜けた顔を見たような気がした。お腹を抱えて笑う妹紅を見て、少しだけ警戒心が薄れる。
「そうよー。この子ったら、初対面で私のこと食べようとしたのよ」
「だって、身体の半分は魚じゃんか! それにあの時は食糧に飢えてたのよ!」
「それで、どうやって仲良くなったの?」
わかさぎ姫がおっとりとした声で続きを話す。
「お互い身の上話をしてたら盛り上がったのよねー。この辺りにはいつごろから住んでるかとか。妹紅さんは、ずっと竹林に住んでるの?」
妹紅は「ああ、うん……」と曖昧な返事をして目を逸らした。
肉がいい焼け具合になってきたらしく、七輪の火を弱めていた。素手で燃えている炭を掴んで。
やっぱりこの人おかしいよ。
「そろそろ焼けるから、小屋の中に入っておいて」
妹紅の小屋に戻ると、魚の煮つけのいい香りが鼻をくすぐった。見ると鍋の下で炭が小さな炎を燃やしていた。
これじゃあ外で七輪を使っても火事の対策になってない。妹紅は火に関して危機感が薄いのかもしれない。
妹紅は上に乗せた肉ごと七輪を持って帰ってきた。肉は香ばしい香りを小屋の中に充満させる。
七輪を一旦床に置き、妹紅は台所の引き出しをごそごそといじる。
「しまったわ。箸が二膳しかない」
「それなら、私たち二人で一膳使いましょう。いいでしょ影狼」
「うん。構わないよ」
「悪いわね。普段ここにお客が二人も来ることはないから」
食器に魚の煮つけを乗せ、肉を取り分ける。三人の前にそれぞれ肉と魚が用意された。
妹紅は手を合わせて「いただきます」と言った。それを合図に私たちは食事を開始した。
私と姫は箸が一膳しかないから、順番に食べることにした。
わかさぎ姫が美味しそうに肉を頬張る。箸を待っている間に、私は妹紅のほうをチラチラと見ていた。
真っ白の髪に赤い瞳。おおよそ普通の人間には見えない。歳は人間だとしたら二十前後くらいだろうか。
「どうしたの狼さん。私の分はあげないよ」
「なっ、違う。別に欲しいわけじゃない」
こちらに全く気付いていないように見えたのに。やはり藤原妹紅、油断できない。
わかさぎ姫が箸を渡してきたので、私は魚の煮つけを食べることにする。
すっと箸を入れて一口食べると、魚のうまみとたれの甘味が口に広がった。美味しい。妹紅はなかなか料理上手なようだ。
「お箸が二膳あるってことは、普段誰かがここに来るんですか?」
わかさぎ姫の質問にハッと気づかされる。確かにそうだ。ずっと一人ならばお箸は一膳でいい。食器類もこんなにはいらない。
「うん。たまに私の友人がやってくるの。というか、今日やってくるはずだったんだけど。人里のほうで事件があったみたいで、今日は来られなくなったの」
「それで食材が余ってたんですね」
「そうよ。そこにタイミングよく人魚さんがやって来たから」
「人魚さんじゃなくて、私はわかさぎ姫よ」
「あら、そういえば名前を聞いていなかったわね。そっちの狼さんは?」
なんだこの雰囲気は。まるでこれからもよろしくみたいな空気じゃないか。
「い、今泉影狼よ」
「影狼は妹紅さんと同じでこの竹林に住んでるのよ」
「そうなの」
妹紅が親近感を持った目で見つめてくる。なんだか恥ずかしい。
「この子警戒心が強くてねー、友達も少ないのよ」
「ちがっ、私は、その……一匹狼なだけだ」
確かに友達はわかさぎ姫くらいしかいない。竹林には群れでいるような妖怪はいないし、互いが互いを警戒している。
私はこの竹林に住むようになってからずっと一人だった。縄張りを守り、毎日懸命に生きてきた。
わかさぎ姫と出会ってからは、竹林の外に住む他の妖怪とも少しずつ仲良くなった。みんな妖怪として格が高いとは言えない奴らばかりだ。
「私も一匹狼よ。ずっと一人で竹林で暮らしている。たまに来る友人はつい最近できたのよ」
「あらあら、影狼とおんなじね」
口元に笑みを浮かべてわかさぎ姫がおっとりした口調で言った。
私と妹紅が同じ境遇だって?
そんなこと、あるはずがない……。たぶん。
食事を済ませると、妹紅はお酒を取り出した。わかさぎ姫は「わーい」と嬉しそうに声を上げる。
私はもう妹紅への警戒をほとんど解いていた。お酒で酔わせて何かするとか、そういうことはないと思った。
姫は最初は勢いよく飲んでいたが、酔いが回りだすと途端にペースが落ち、小屋の床に横になった。そしてそのまま寝息を立て始めた。
姫が眠ってしまい、私は妹紅と正面から向き合うことになってしまった。
「ちょっと外に出ましょう」
「はい」
小屋の外に出ると、夜の冷たい風が気持ちよかった。風に煽られて竹たちはゆっくりと左右に揺れる。もちろん、暗くてほとんど見えないが。
「少し寒いわね」
「そうですか? 私はちょうどいいですよ」
「あなたは獣だもんね」
そう言って妹紅は肩を震わせた。その姿を見て、やはり妹紅は人間なんだと思う。
妹紅は一旦小屋に戻り、新しい竹の炭を持ってきて火をつけた。
そして竹炭を間に挟んで私たちは向かい合った。
「今日は久しぶりに賑やかな食事ができてよかったわ」
「私もです。いつもは一人ですから」
「……私も、ずっと一人だったよ。だから一人でいることには慣れていた。でも、今日友人が来ないと分かったとき、ふと寂しいと思ってしまったのよ」
「それが、わかさぎ姫を小屋に入れた理由ですか?」
「そうね。だってあの子、見るからに人畜無害そうじゃない」
「ええ、それはもう」
わかさぎ姫は危機感が圧倒的に不足している。襲ったり襲われたりしたことがないみたいだ。いや、私は一度襲ったけど……。
「寂しいのは慣れてると思ってたけど、本当は我慢してただけなのかもしれないわね」
「分かります。私もわかさぎ姫に出会うまではずっと一人で、寂しくないと思ってました。でも、今はわかさぎ姫に会えないと寂しいと思うことがあります」
本当は誰もがみんな寂しいんだ。孤独でいる奴は、それを我慢できるだけで。
「私たち、どこか似ている部分があるみたいね」
「そうですね」
「もう夜も遅いわ。泊まっていきなさい」
「いいえ、もう帰ります。これ以上いたら、また寂しくなりますから」
「……そうね」
小屋に戻るとわかさぎ姫が可愛い寝顔を覗かせていた。ほっぺをつんつんしてみても起きない。
仕方ない。姫はおんぶしていこう。湖に着くまでに起きるかもしれないし。
わかさぎ姫を背負い、小屋を出る。竹林は闇に包まれていて、数メートル先は何も見えない。
妹紅と別れるときに言葉は交わさなかった。お互い、目配せをしただけだった。
妹紅は知っていたのだ。別れの挨拶をすると後に寂しくなることを。
長い時間を共に過ごしてしまうと、別れるときに辛いことも。
きっと、今後竹林で出会っても私たちは親しくはならないだろう。
せいぜい挨拶や会釈をする程度だ。
妹紅は最後まで笑顔で私たちを見送ってくれた。竹林から夜空に向けて飛び立ち、湖を目指す。
どこかで獣の鳴き声がする。狼のように月に向かって孤独を叫んでいるのかもしれない。
湖に到着すると、背中のわかさぎ姫がごそごそと動いた。起きたらしい。
「姫、湖に着いたぞ」
「ううん、影狼? 私寝ちゃってた?」
「うん。妹紅の小屋でぐっすりな」
「頭いたい」
「湖の水でも飲んだらどうさ」
湖のほとりで姫を下ろすと、彼女は水の中へ静かに入っていった。そして沈んでいく途中で振り返る。
「なーんか忘れてるような、そうでもないような」
「うん?」
姫は目を閉じ、俯いて考え込む。そのまま寝てしまいそうに見える。
何だろう。忘れてる?
「ああっ、思い出したわ!」
「な、なに?」
「影狼に伝えることがあったのよ。それで私は湖からはるばる竹林まで行ったんだったわ」
私も合点がいく。そういえば妹紅に道を聞いたとか言っていたな。
「それで、その内容は?」
「今度の草の根妖怪ネットワークの定例会、時間と場所が変更になったのよ」
「あ、そんなことなの」
「ネットワーク内で竹林に住んでるのは影狼だけだから、誰かが伝えに行かなきゃいけなかったのよ」
私はわかさぎ姫から新たな時間と場所を聞いた。
要件を済ませるとわかさぎ姫は眠そうに湖に沈んでいった。ぽちゃんという水音を最後に辺りは静まり返った。
私もさっさと住処に戻って眠ろう。今日はなんだかとても疲れた。
住処に帰って布団に入るとすぐに眠気に襲われた。
薄れていく意識の中で、私は妹紅と語り合ったシーンを思い出していた。
本当は我慢しているだけ。
そうだ。本当は、誰かに寄り添って眠りたい。
でも私は一匹狼の妖怪としてこの世に生を受けた。私にはその運命を背負うしかないのだ。
妹紅の作った竹炭、あったかかったなあ。
ああいう優しい温もりの中で眠りたい。
「ああもう……」
だからだめなんだ。こうやって他者と接触するたびに、恋しくなっちゃうから。
私も、そして妹紅もきっと、終わりのないジレンマの中で生きているんだ。
後日、定例会での議題に私は驚いた。
『今泉影狼氏のネットワーク離脱について』
「ちょっと、なんでこんな議題なの!?」
異論を呈すると、次々と私に非難が浴びせられた。
「竹林の猛者と仲間になったらしいじゃないか」
「もんぺの妖怪と対等に渡り合ったって聞いたよ」
「そんなもんもはや草の根妖怪って言わねーよ。さっさと出て行け!」
「弱いふりしてグループに入ってきて、実はわかさぎ姫ちゃんが目当てだったんだろ!」
最後なんて言いがかりもいいところである。
「違うわ。妹紅はもんぺの妖怪なんかじゃない。れっきとした人間よ! それに危険な相手ではない!」
私がそう訴えると、メンバーのみんなは私のことを鼻で笑った。
「竹林で最強なのに人間なわけないでしょ!」
「手から炎を出す人間がいるか!」
「異様に長い白髪と赤い目はどう考えても人間じゃない!」
それらはこの前、全部私が妹紅に向かって突っ込んだ内容である。でも彼女は人間なのだ。
孤独を寂しく思う、普通の人間なのだ。少なくともその部分に関しては。
「わかさぎ姫、何とか言ってよ。あなたも一緒にいたでしょ?」
「うん。妹紅さんは人間だって言ってたし、私が一人で会っても襲われなかったし、特に危険視することはないと思うわ」
姫の言葉に数名の妖怪がぶつぶつと文句を言っている。
そりゃあそうだ。妹紅は竹林最強にして妖怪殺しというのが、私たちの間でもっぱらの噂だったのだから。
実際に会った私ですら、疑いを取り除くまでに時間がかかった。ましてや会っていないこいつらに納得させるのは難しい。
「じゃあこうしましょう」と姫が人差し指を立てる。
「影狼には妹紅さんの行動を監視する役になってもらうのよ。今はひとまず妹紅さんは敵としておいて、今後の動き次第で判断すればいいのよ。影狼は竹林に住んでるし、他に適役もいないわ」
普段おっとりしているわかさぎ姫のセリフとは思えないほど的確な発言だった。他の妖怪たちも納得したようで、姫に拍手を送っている。
「ということで、よろしくね、影狼」
「うん、まあ監視するだけならね」
下手に接触を図れと言われないだけましだ。
わかさぎ姫は気付いているのだろうか。私と妹紅が互いに孤独に生きる身であることを。
おっとりしていても世渡りは上手なのかもしれない。
「もし藤原妹紅が仲間になったらどうなるんだろうな」
「藤原妹紅を先頭にして私たちが徒党を組めば、幻想郷最強の妖怪軍団になれるわ!」
どこかでそんな声が聞こえた。そんなことは絶対にあり得ないと私は断言できる。妹紅はきっと馴れ合いは嫌いなタイプだろうから。
定例会から一か月の間、私は妹紅の様子を観察した。妹紅はいたって普通の生活を送っていて、妖怪を殺すようなことはしなかった。
竹を切って竹炭にしたり、道に迷った人間を案内したり、人間のお嬢様と弾幕ごっこをしたりしていた。
私が妹紅の様子を報告するたびに、ネットワーク内での妹紅の株が上がっていった。あれ、意外にいいやつじゃん、といったふうに。
もんぺの妖怪とは、実は私が最初に言ったのだということを最近思い出した。ドヤ顔で人間説を否定していたのだから恥ずかしい。
もはや妹紅を脅威とみなす者はネットワーク内にはいなかった。
妹紅は次第にみんなの記憶から離れていき、しばらくすると誰もその名を口にしなくなった。
代わりに、今度は人里に住んでいる妖怪について、よく定例会の議題に上がるようになった。
首が飛ぶというなんとも怖い妖怪である。
みんなが忘れ去ってしまっても、私はいつまでも妹紅のことを覚えていた。
忘れられなかったのだ。あの日交わしたあの短い会話が。
私は勝手に妹紅さんのことを仲間だと思っている。
同じ竹林に住み、孤独を貫く仲間である。
それはまるで片思いのように一方的な思いだけど。
今日も定例会に行く途中、妹紅に出会った。彼女は死んだ猪を引きずっていて、私は目を白黒させた。
「な、なにやってんですか妹紅さん!」
「仕掛けた罠に猪が引っかかってたの。今夜は猪鍋よ。あなたもどう?」
猪鍋だと。
食べたい……。
最近獣の肉をあんまり食べてない。想像しただけで……。
「よだれ出てるわよ」
「ひゃっ、って、これはっ」
「あはは、そんなに食べたいのかしら」
「……」
「今夜、私の小屋においでよ」
妹紅の目はとても優しげで、母親のような温かさを感じた。
「いいんですか?」
「ええ。私たちは孤独に生きる仲間でしょう?」
仲間――。
まさか妹紅からそんな言葉を聞けるとは思ってなかった。
「はい!」
嬉しくてたまらなかった私は、満面の笑みでそう答えた。
縄張りを巡回していた時のことだった。私は、わかさぎ姫ともんぺを履いた白髪の少女が小屋に入っていく姿を目撃し、直感でそう思った。
どどどどうしよう。助けに行かないと。でも、よりによってあいつが相手だなんて……。
私とわかさぎ姫は、草の根妖怪ネットワークの仲間だ。共に行動することはないが、それでも力の弱い妖怪同士で情報交換をし、少しでも妖怪としての格を上げようと日々努力する大事な仲間なのだ。
助けなければならない。そう思いながらも、私は竹林の影に身を潜めて頭を抱えていた。
私は竹林で孤独に過ごす一匹狼だ。他の妖怪に襲われないようにひっそりと暮らし、毎日縄張りの巡回をかかさない。これが竹林で長生きするための私なりのコツであった。
そして勿論、私は藤原妹紅の存在を認知していた。
竹林に住む妖怪の中でも頂点に立つ強さを誇り、襲い掛かる妖怪を次々に倒し、様々な妖術を使い、殺されたと思ったら何度も復活するという噂だ。
単独で大した力もない私にとって、決して敵に回してはいけない存在であった。
竹林に住む一部の妖怪は、藤原妹紅は妖怪ではなく人間だと言うこともあったが、私はそんな言葉を信じていなかった。
「人間が妖怪をボコボコにして、しかも何度も復活するわけないじゃん。あれはどう考えてももんぺの妖怪だよ」
私は一部の妖怪の言葉を鼻で笑っていた。
しかし、今となってはその言葉が本当であってほしいと私は願った。
人間が相手ならまだ勝ち筋があるかもしれないが、もんぺの妖怪が噂通りの妖怪だとしたら、私に為す術はない。何度も復活するようなやつに勝てるわけがないのだ。
私が足踏みをしている間にも、時間は刻々と過ぎていく。
ああ、どうしよう。早く、早くしないと。今に姫が……。
あのもんぺの妖怪に取って食われるかもしれない。
わかさぎ姫は気弱で虫も殺せない性格だ。
私の頭の中では、彼女が無抵抗に食べられる様子が容易に想像された。
いつものように私から湖まで出向いておけば、こんなことにはならなかったのに……。
せめて姫が隙を見て逃げることさえできれば……。
そこで私の頭に妙案とは言えないが一つの案が浮かんだ。
そうだ。もんぺの妖怪と戦う必要はない。姫をあの小屋から連れ出し、そして捕まる前に逃げ切ればいい。
小屋の戸を開け、姫を引っ張り出し、そして全力で逃げる。オオカミの姿に変身すれば不意打ちだってできるはずだ。
私はわかさぎ姫を救出する計画を何度も頭の中でシミュレートした。
戸は敢えて一気に開け、オオカミの姿になってできるだけ大きな声で吠える。もんぺの妖怪がひるんでいる隙に、姫の手を取って小屋を飛び出す。
そこからはひたすら逃げる。竹林を飛び出して湖にまで行ってもいいというくらいの勢いで逃げる。
そんな想像を繰り返し、私はようやく小屋に踏み込む決心をつけた。
よし。私ならできる。きっとできる。
自己暗示をかけ、私はその小屋へとゆっくりと近づいた。
今夜の竹林は風がなく不気味なほど静かである。私は足音を立てないように忍び足で歩く。小屋の戸口に手を当てる。深呼吸をして高鳴る鼓動を抑えた。
行くぞ! 姫!
戸口に手をかけ、思い切り横に引こうとした。そうしてわかさぎ姫を助け出すはずであった。
しかし、小屋の戸は私が力を加えることなく開いたのだった。
「あら、オオカミの妖怪?」
戸を内側から開けたのは、小屋の持ち主である藤原妹紅。私は眼前に立ちはだかるもんぺを履いた少女を見て一瞬で悟ってしまった。
あ、終わった。
私は膝から地面に崩れ落ちた。何もかも終わった思い込み、地面にひれ伏した。私の目には既に走馬灯が流れ始めていた。
ああ、妖怪として生まれてまだ50年も生きてないのに。短い生だった。竹林に住み始めてからはまだ50年も経ってない。わかさぎ姫に会ったのはつい最近だ。ああ姫。あなたのこと救ってやれなかったよ……ごめんよ……。
死を悟った私は徐々に意識が遠くなっていた。薄れていく意識の中で、私は藤原妹紅とわかさぎ姫のものと思われる声を聞いた。
「なにかしらこの妖怪。行き倒れ?」
「あ、影狼じゃありませんか。人の小屋の前で寝るなんて不躾ですね」
わかさぎ姫ののんきな声が聞こえた気がした。最後に声を聞けてよかったよ。
誰かに持ち上げられたような感覚があった。きっと藤原妹紅が私を小屋の中へ入れたんだろう。このまま私と姫は一緒に調理されて食糧にされるんだ……。
あの世でちゃんと謝るよ、姫……。
視界にぼんやりと白い霧が映っていた。それが徐々に晴れると、見知らぬ天井とわかさぎ姫の顔が目の前に現れた。
姫……。あれ、私は何をしていたんだ……?
「やっと起きましたね。どうしてあんなところで寝ていたんですか?」
「寝ていた? ちょっと待って。私は確か……」
私は自分が眠る前のことを思い出そうとした。
「そうだ。私はあなたを助けようと小屋に奇襲を」
「助ける? 別に私は危機的状況ではないわよ」
「だって、もんぺの妖怪にさらわれたじゃないか!」
「誰がもんぺの妖怪だって?」
聞きなれない声が聞こえた。声の主を探してみると、白髪を足元まで伸ばし、もんぺを履いた少女が私を睨んでいた。
まぎれもない、藤原妹紅だった。
「ぎゃああああああ! 食われるううう!」
私は素早く起き上がると、わかさぎ姫の手を引いて小屋から脱出しようとする。しかしわかさぎ姫はそれを止めるように私の手を引っ張った。
「何してるんだ姫! 早く逃げるのよ!」
「落ち着いてよ影狼。どうして逃げる必要があるのよ」
「だって! あいつはもんぺの妖怪だぞ!」
「もんぺの妖怪って何よ。私はこれでも人間よ」
「へ?」
妹紅が苛立ちながら放った言葉に私は完全に動きを止める。
そんなバカな。竹林の猛者とも言われるもんぺの妖怪が実は人間だなんて……これはきっと嘘だ。
「あなたはよっぽど私を妖怪呼ばわりしたいみたいね」
妹紅は好戦的な目で影狼を睨みつける。
「影狼。妹紅さんは善良な人間よ。私が影狼に会いに行こうとして竹林で迷っていたら、親切に家にまで上げてくれたんだから」
姫が優しく諭すような声で言った。
確かに。もしも凶悪な妖怪だとしたら、私が気を失っている間に食べられてしまっているはずだ。
「ほんとに?」
「ほんとよ。ねえ妹紅さん」
「私は人間よ」
私は姫と妹紅の言葉を信じ切っていなかった。半信半疑くらいだった。
それでもすぐさま身の危険を感じるようなことはないと判断し、一度腰を落ち着けることにした。
妹紅は食事の準備をしているようだった。私は妹紅への警戒から、戸口に近くなおかつ妹紅から距離を保てる場所に座った。
そして妹紅に聞こえないように、小さな声でわかさぎ姫に耳打ちする。
「とりあえずどういうことか説明してほしいわ。どうして姫があいつの小屋にいるのさ。さらわれたんじゃないの?」
「私は妹紅さんに道を聞いただけよ。この辺りに知り合いのオオカミが住んでるんですけどって」
なんてことを聞くんだ姫は。
「姫……。あいつが私の住処を知っているわけないでしょ」
「どうして? 同じ竹林に住む仲間じゃないの?」
「竹林には強い妖怪がごろごろといるのよ。私みたいな弱小妖怪はそいつらに住処を知られないように隠れながら生きているの。そしてあのもんぺは竹林最強の妖怪だと言われている。そんな奴に住処を知られるわけにはいかないでしょう」
「だから妹紅さんは善良な人間だって」
「善良な人間がこんな危険な竹林で生活するわけないでしょう。あれはきっと人間に化けて相手を油断させて返り討ちにする妖怪だよ」
「そんなまさか……」
「姫は平和な湖で暮らしているから分からないのよ。見てなさい。そのうち本性を出すに違いないわ」
私と姫は調理台の上で魚を捌いている妹紅をちらりと見た。すると妹紅はちょうどその手を止めた。
「今日は活きのいい魚が手に入ったから」と妹紅は笑顔で言った。
ほら! 活きのいい魚って! 絶対姫のことよ! やっぱりあいつは姫を食べようとしてるのよ!
「姫、やっぱり逃げたほうが」
「私を魚と勘違いして食べようとするのは影狼くらいなものだから」
わかさぎ姫はジト目で影狼を睨む。私には返す言葉がなかった。
妹紅は捌いた魚を煮付けにしているらしい。鍋で煮ている間に、今度は獣肉を取り出した。
「獣の肉も手に入ったんだけど、食べるかしら?」
今度は獣肉だって!? まさか……。
妹紅の言葉に私はガタガタと震え、涙目になりながら姫に訴える。
「姫、もう帰ろう。ほんとに。死んじゃうから」
「まだ言ってるの……」
わかさぎ姫はすっかり呆れた様子で私の言葉を受け流す。
姫にとって妹紅は、通りすがりの妖怪に食事をご馳走してくれる親切な人間という印象しかないのだろうか。
「だって、おかしいよあいつ。人間のくせに竹林に住んでるし、道を聞いただけの姫を小屋に入れて食事までご馳走するなんて普通じゃないよ」
「私の話聞いてるのかしら」と妹紅は二人の間に割って入った。
「ひいいっ」
「妹紅さん、この子妹紅さんが怖いらしいんですよ」
「こら言うなバカ!」
私は咄嗟に叫んだが時すでに遅し。
妹紅は「そう……」と呟いてしばらく考え込んでしまった。私の目には絶望しか見えていない。
殺される……。
そんな私とは対照的に、わかさぎ姫はのんきに私たちの様子を見て笑っていた。
「影狼は怖がりねえ」
わかさぎ姫は子どもをあやす母親のように、私の頭を撫でてきた。私は涙目のままわかさぎ姫にしがみついた。
「ちょっと表に出ましょうか」と妹紅は笑顔で言った。
私は再び死を覚悟した。妹紅の笑顔は私にとって悪魔の微笑みにしか見えなかった。
「ちょっと準備があるから、先に出てて」
そう言うと妹紅は流しの下の棚をごそごそと漁りだした。
私はもはや逃げる気力もなくなってしまっていた。わかさぎ姫は私を小屋の外に引っ張り出した。程なくして妹紅が七輪を持って出てきた。
七輪?……まさか、私たちを殺してからあれで焼いて食べるつもり!?
「そこの狼さん、私は人間だから妖怪の肉なんて食べないよ。だからそんな震えないでよ」
妹紅の目は、今日私が見た限りでは一番優しげだった。そこで私はようやく警戒心を少し解こうとする。
もしかして、本当に人間なの?
しかし私の束の間の休息はものの数秒で終わった。
妹紅は手のひらに炎を宿し、それを種火にして七輪に火を入れた。
やっぱり人間じゃないよ! 人間は手から炎なんて出さないもん!
「影狼ったら火が怖いの? 野生の獣みたいねえ」
わかさぎ姫がうふふと私を馬鹿にした。
「私は手から火を出す人間がこの世の何よりも怖いわ」
「あなたはことごとく私を化け物扱いするのね」
妹紅はため息をつきながら肉を焼き始めた。鶏くらいの大きさの肉の塊が七輪の上に乗せられる。しかし鶏の肉とは形状が違う。何という獣だろうか。
七輪はぱちぱちと音を出し始め、静かな竹林にはその音だけが響いていた。
「以前小屋の中で七輪を使っていたらボヤ騒ぎになってね。それ以来外で使うようにしているの」
妹紅は本当にここで生活をしているかのような口ぶりだ。手から出る炎のおかげで竹林でも無事に過ごしていけるということなのだろうか。
「ど、どうして姫を小屋に連れ込んだの?」
「連れ込んだって、ひどい言い草ね。今日は食糧がたくさんあるから、腐らせてももったいないと思ってご馳走しようとしただけよ」
「ほら、やっぱり妹紅さんはいい人でしょ」
「に、人間のくせにどうして手から火が出る?」
妹紅は七輪の火加減を見ながら答えた。
「人間だって、修行をすれば仙人にもなる。手から火が出たっておかしくないわ」
「でもあんた、竹林で最強なんでしょ?」
「そうなの?」
妹紅はびっくりしたような表情で顔を上げた。肉の美味しそうな香りが漂ってきた。
「まあ、昔はそこらじゅうの妖怪を無意味に殺したりした。でも、それがひどく空しいことだって気づいてからはやめたわ。おかげで戦闘に慣れて妖術も使えるようになったんだけどね」
「でも、生身の人間が竹林の妖怪を次々に殺せるはずが……」
すると妹紅は遠くを見る目で空に向かって伸びる竹を見つめた。
「いろいろ事情があるのよ」
何か隠してる。私たちに言えない何かがあるんだ。
こいつの仲間になれば竹林での私の暮らしは安泰だ。でもまだこいつは信用できない。
七輪に乗せられた肉を裏返すと、表面に網の形をした焦げ目がしっかりとついていた。
「姫って肉食べるの?」
「食べるわよ。私を何だと思ってるの?」
「人魚でしょ。プランクトンとか食べてそうじゃん」
「それただのお魚じゃない。失礼しちゃうわ」
「あ、膨らんだ。ふぐみたい」
「だから私は妖怪だってば」
姫と睨み合っていると、火の下限を見ていた妹紅が私たちのやり取りに思わず噴き出した。
「あはは。あんたたち仲がいいのね」
初めて妹紅の気の抜けた顔を見たような気がした。お腹を抱えて笑う妹紅を見て、少しだけ警戒心が薄れる。
「そうよー。この子ったら、初対面で私のこと食べようとしたのよ」
「だって、身体の半分は魚じゃんか! それにあの時は食糧に飢えてたのよ!」
「それで、どうやって仲良くなったの?」
わかさぎ姫がおっとりとした声で続きを話す。
「お互い身の上話をしてたら盛り上がったのよねー。この辺りにはいつごろから住んでるかとか。妹紅さんは、ずっと竹林に住んでるの?」
妹紅は「ああ、うん……」と曖昧な返事をして目を逸らした。
肉がいい焼け具合になってきたらしく、七輪の火を弱めていた。素手で燃えている炭を掴んで。
やっぱりこの人おかしいよ。
「そろそろ焼けるから、小屋の中に入っておいて」
妹紅の小屋に戻ると、魚の煮つけのいい香りが鼻をくすぐった。見ると鍋の下で炭が小さな炎を燃やしていた。
これじゃあ外で七輪を使っても火事の対策になってない。妹紅は火に関して危機感が薄いのかもしれない。
妹紅は上に乗せた肉ごと七輪を持って帰ってきた。肉は香ばしい香りを小屋の中に充満させる。
七輪を一旦床に置き、妹紅は台所の引き出しをごそごそといじる。
「しまったわ。箸が二膳しかない」
「それなら、私たち二人で一膳使いましょう。いいでしょ影狼」
「うん。構わないよ」
「悪いわね。普段ここにお客が二人も来ることはないから」
食器に魚の煮つけを乗せ、肉を取り分ける。三人の前にそれぞれ肉と魚が用意された。
妹紅は手を合わせて「いただきます」と言った。それを合図に私たちは食事を開始した。
私と姫は箸が一膳しかないから、順番に食べることにした。
わかさぎ姫が美味しそうに肉を頬張る。箸を待っている間に、私は妹紅のほうをチラチラと見ていた。
真っ白の髪に赤い瞳。おおよそ普通の人間には見えない。歳は人間だとしたら二十前後くらいだろうか。
「どうしたの狼さん。私の分はあげないよ」
「なっ、違う。別に欲しいわけじゃない」
こちらに全く気付いていないように見えたのに。やはり藤原妹紅、油断できない。
わかさぎ姫が箸を渡してきたので、私は魚の煮つけを食べることにする。
すっと箸を入れて一口食べると、魚のうまみとたれの甘味が口に広がった。美味しい。妹紅はなかなか料理上手なようだ。
「お箸が二膳あるってことは、普段誰かがここに来るんですか?」
わかさぎ姫の質問にハッと気づかされる。確かにそうだ。ずっと一人ならばお箸は一膳でいい。食器類もこんなにはいらない。
「うん。たまに私の友人がやってくるの。というか、今日やってくるはずだったんだけど。人里のほうで事件があったみたいで、今日は来られなくなったの」
「それで食材が余ってたんですね」
「そうよ。そこにタイミングよく人魚さんがやって来たから」
「人魚さんじゃなくて、私はわかさぎ姫よ」
「あら、そういえば名前を聞いていなかったわね。そっちの狼さんは?」
なんだこの雰囲気は。まるでこれからもよろしくみたいな空気じゃないか。
「い、今泉影狼よ」
「影狼は妹紅さんと同じでこの竹林に住んでるのよ」
「そうなの」
妹紅が親近感を持った目で見つめてくる。なんだか恥ずかしい。
「この子警戒心が強くてねー、友達も少ないのよ」
「ちがっ、私は、その……一匹狼なだけだ」
確かに友達はわかさぎ姫くらいしかいない。竹林には群れでいるような妖怪はいないし、互いが互いを警戒している。
私はこの竹林に住むようになってからずっと一人だった。縄張りを守り、毎日懸命に生きてきた。
わかさぎ姫と出会ってからは、竹林の外に住む他の妖怪とも少しずつ仲良くなった。みんな妖怪として格が高いとは言えない奴らばかりだ。
「私も一匹狼よ。ずっと一人で竹林で暮らしている。たまに来る友人はつい最近できたのよ」
「あらあら、影狼とおんなじね」
口元に笑みを浮かべてわかさぎ姫がおっとりした口調で言った。
私と妹紅が同じ境遇だって?
そんなこと、あるはずがない……。たぶん。
食事を済ませると、妹紅はお酒を取り出した。わかさぎ姫は「わーい」と嬉しそうに声を上げる。
私はもう妹紅への警戒をほとんど解いていた。お酒で酔わせて何かするとか、そういうことはないと思った。
姫は最初は勢いよく飲んでいたが、酔いが回りだすと途端にペースが落ち、小屋の床に横になった。そしてそのまま寝息を立て始めた。
姫が眠ってしまい、私は妹紅と正面から向き合うことになってしまった。
「ちょっと外に出ましょう」
「はい」
小屋の外に出ると、夜の冷たい風が気持ちよかった。風に煽られて竹たちはゆっくりと左右に揺れる。もちろん、暗くてほとんど見えないが。
「少し寒いわね」
「そうですか? 私はちょうどいいですよ」
「あなたは獣だもんね」
そう言って妹紅は肩を震わせた。その姿を見て、やはり妹紅は人間なんだと思う。
妹紅は一旦小屋に戻り、新しい竹の炭を持ってきて火をつけた。
そして竹炭を間に挟んで私たちは向かい合った。
「今日は久しぶりに賑やかな食事ができてよかったわ」
「私もです。いつもは一人ですから」
「……私も、ずっと一人だったよ。だから一人でいることには慣れていた。でも、今日友人が来ないと分かったとき、ふと寂しいと思ってしまったのよ」
「それが、わかさぎ姫を小屋に入れた理由ですか?」
「そうね。だってあの子、見るからに人畜無害そうじゃない」
「ええ、それはもう」
わかさぎ姫は危機感が圧倒的に不足している。襲ったり襲われたりしたことがないみたいだ。いや、私は一度襲ったけど……。
「寂しいのは慣れてると思ってたけど、本当は我慢してただけなのかもしれないわね」
「分かります。私もわかさぎ姫に出会うまではずっと一人で、寂しくないと思ってました。でも、今はわかさぎ姫に会えないと寂しいと思うことがあります」
本当は誰もがみんな寂しいんだ。孤独でいる奴は、それを我慢できるだけで。
「私たち、どこか似ている部分があるみたいね」
「そうですね」
「もう夜も遅いわ。泊まっていきなさい」
「いいえ、もう帰ります。これ以上いたら、また寂しくなりますから」
「……そうね」
小屋に戻るとわかさぎ姫が可愛い寝顔を覗かせていた。ほっぺをつんつんしてみても起きない。
仕方ない。姫はおんぶしていこう。湖に着くまでに起きるかもしれないし。
わかさぎ姫を背負い、小屋を出る。竹林は闇に包まれていて、数メートル先は何も見えない。
妹紅と別れるときに言葉は交わさなかった。お互い、目配せをしただけだった。
妹紅は知っていたのだ。別れの挨拶をすると後に寂しくなることを。
長い時間を共に過ごしてしまうと、別れるときに辛いことも。
きっと、今後竹林で出会っても私たちは親しくはならないだろう。
せいぜい挨拶や会釈をする程度だ。
妹紅は最後まで笑顔で私たちを見送ってくれた。竹林から夜空に向けて飛び立ち、湖を目指す。
どこかで獣の鳴き声がする。狼のように月に向かって孤独を叫んでいるのかもしれない。
湖に到着すると、背中のわかさぎ姫がごそごそと動いた。起きたらしい。
「姫、湖に着いたぞ」
「ううん、影狼? 私寝ちゃってた?」
「うん。妹紅の小屋でぐっすりな」
「頭いたい」
「湖の水でも飲んだらどうさ」
湖のほとりで姫を下ろすと、彼女は水の中へ静かに入っていった。そして沈んでいく途中で振り返る。
「なーんか忘れてるような、そうでもないような」
「うん?」
姫は目を閉じ、俯いて考え込む。そのまま寝てしまいそうに見える。
何だろう。忘れてる?
「ああっ、思い出したわ!」
「な、なに?」
「影狼に伝えることがあったのよ。それで私は湖からはるばる竹林まで行ったんだったわ」
私も合点がいく。そういえば妹紅に道を聞いたとか言っていたな。
「それで、その内容は?」
「今度の草の根妖怪ネットワークの定例会、時間と場所が変更になったのよ」
「あ、そんなことなの」
「ネットワーク内で竹林に住んでるのは影狼だけだから、誰かが伝えに行かなきゃいけなかったのよ」
私はわかさぎ姫から新たな時間と場所を聞いた。
要件を済ませるとわかさぎ姫は眠そうに湖に沈んでいった。ぽちゃんという水音を最後に辺りは静まり返った。
私もさっさと住処に戻って眠ろう。今日はなんだかとても疲れた。
住処に帰って布団に入るとすぐに眠気に襲われた。
薄れていく意識の中で、私は妹紅と語り合ったシーンを思い出していた。
本当は我慢しているだけ。
そうだ。本当は、誰かに寄り添って眠りたい。
でも私は一匹狼の妖怪としてこの世に生を受けた。私にはその運命を背負うしかないのだ。
妹紅の作った竹炭、あったかかったなあ。
ああいう優しい温もりの中で眠りたい。
「ああもう……」
だからだめなんだ。こうやって他者と接触するたびに、恋しくなっちゃうから。
私も、そして妹紅もきっと、終わりのないジレンマの中で生きているんだ。
後日、定例会での議題に私は驚いた。
『今泉影狼氏のネットワーク離脱について』
「ちょっと、なんでこんな議題なの!?」
異論を呈すると、次々と私に非難が浴びせられた。
「竹林の猛者と仲間になったらしいじゃないか」
「もんぺの妖怪と対等に渡り合ったって聞いたよ」
「そんなもんもはや草の根妖怪って言わねーよ。さっさと出て行け!」
「弱いふりしてグループに入ってきて、実はわかさぎ姫ちゃんが目当てだったんだろ!」
最後なんて言いがかりもいいところである。
「違うわ。妹紅はもんぺの妖怪なんかじゃない。れっきとした人間よ! それに危険な相手ではない!」
私がそう訴えると、メンバーのみんなは私のことを鼻で笑った。
「竹林で最強なのに人間なわけないでしょ!」
「手から炎を出す人間がいるか!」
「異様に長い白髪と赤い目はどう考えても人間じゃない!」
それらはこの前、全部私が妹紅に向かって突っ込んだ内容である。でも彼女は人間なのだ。
孤独を寂しく思う、普通の人間なのだ。少なくともその部分に関しては。
「わかさぎ姫、何とか言ってよ。あなたも一緒にいたでしょ?」
「うん。妹紅さんは人間だって言ってたし、私が一人で会っても襲われなかったし、特に危険視することはないと思うわ」
姫の言葉に数名の妖怪がぶつぶつと文句を言っている。
そりゃあそうだ。妹紅は竹林最強にして妖怪殺しというのが、私たちの間でもっぱらの噂だったのだから。
実際に会った私ですら、疑いを取り除くまでに時間がかかった。ましてや会っていないこいつらに納得させるのは難しい。
「じゃあこうしましょう」と姫が人差し指を立てる。
「影狼には妹紅さんの行動を監視する役になってもらうのよ。今はひとまず妹紅さんは敵としておいて、今後の動き次第で判断すればいいのよ。影狼は竹林に住んでるし、他に適役もいないわ」
普段おっとりしているわかさぎ姫のセリフとは思えないほど的確な発言だった。他の妖怪たちも納得したようで、姫に拍手を送っている。
「ということで、よろしくね、影狼」
「うん、まあ監視するだけならね」
下手に接触を図れと言われないだけましだ。
わかさぎ姫は気付いているのだろうか。私と妹紅が互いに孤独に生きる身であることを。
おっとりしていても世渡りは上手なのかもしれない。
「もし藤原妹紅が仲間になったらどうなるんだろうな」
「藤原妹紅を先頭にして私たちが徒党を組めば、幻想郷最強の妖怪軍団になれるわ!」
どこかでそんな声が聞こえた。そんなことは絶対にあり得ないと私は断言できる。妹紅はきっと馴れ合いは嫌いなタイプだろうから。
定例会から一か月の間、私は妹紅の様子を観察した。妹紅はいたって普通の生活を送っていて、妖怪を殺すようなことはしなかった。
竹を切って竹炭にしたり、道に迷った人間を案内したり、人間のお嬢様と弾幕ごっこをしたりしていた。
私が妹紅の様子を報告するたびに、ネットワーク内での妹紅の株が上がっていった。あれ、意外にいいやつじゃん、といったふうに。
もんぺの妖怪とは、実は私が最初に言ったのだということを最近思い出した。ドヤ顔で人間説を否定していたのだから恥ずかしい。
もはや妹紅を脅威とみなす者はネットワーク内にはいなかった。
妹紅は次第にみんなの記憶から離れていき、しばらくすると誰もその名を口にしなくなった。
代わりに、今度は人里に住んでいる妖怪について、よく定例会の議題に上がるようになった。
首が飛ぶというなんとも怖い妖怪である。
みんなが忘れ去ってしまっても、私はいつまでも妹紅のことを覚えていた。
忘れられなかったのだ。あの日交わしたあの短い会話が。
私は勝手に妹紅さんのことを仲間だと思っている。
同じ竹林に住み、孤独を貫く仲間である。
それはまるで片思いのように一方的な思いだけど。
今日も定例会に行く途中、妹紅に出会った。彼女は死んだ猪を引きずっていて、私は目を白黒させた。
「な、なにやってんですか妹紅さん!」
「仕掛けた罠に猪が引っかかってたの。今夜は猪鍋よ。あなたもどう?」
猪鍋だと。
食べたい……。
最近獣の肉をあんまり食べてない。想像しただけで……。
「よだれ出てるわよ」
「ひゃっ、って、これはっ」
「あはは、そんなに食べたいのかしら」
「……」
「今夜、私の小屋においでよ」
妹紅の目はとても優しげで、母親のような温かさを感じた。
「いいんですか?」
「ええ。私たちは孤独に生きる仲間でしょう?」
仲間――。
まさか妹紅からそんな言葉を聞けるとは思ってなかった。
「はい!」
嬉しくてたまらなかった私は、満面の笑みでそう答えた。
怖がりな妖怪たちが異文化コミュニケーションする物語、面白かったです。
何人も友達の死を見ているだろうからそこら辺複雑そう
...こともないか 割り切ってそう
かげ☓もこもいいね
あ、先生がこっち見てる
というか、思い込みの激しい影狼ちゃんが可愛い!
ほとんど同じで感動した