Coolier - 新生・東方創想話

死神失格 前篇

2010/02/20 15:24:16
最終更新
サイズ
10.23KB
ページ数
1
閲覧数
980
評価数
1/10
POINT
500
Rate
9.55

分類タグ

あたいは死神。
死霊の渡し守。
ところでお前さんは死霊なのに喋れるのかい。珍しいねぇ。

「                      」

もちろんお前さんの言い分もわかるよ。
そんな奴今迄にだっていくらでもいたからねぇ。
でもあたいに噛みついて来るってのは筋違いってもんだ。あたいはただの渡し守だからどうすることもできないさ。
既に審理を一回受けているおまえさんは何となく自分の行き先には感づいているんだろう?
なら、いいじゃないか。
お前さんなら良い輪廻先だろうさ。

「                      」

とは言ってもだ、死は誰もが避けられないものだからしょうがないさ。
たとえそれが望まないものであったとしても。
それよりも次の輪廻でどうしようかと考えるほうがあたいは建設的だと思うけどねぇ。

「                      」

それはできない。
あたいも仕事なんだ。そんなことしたらいろいろとまずい。
そこに情状酌量の余地はないよ。
それにそいつはあたいの預かる領分じゃないしね。

「                      」

あの人はそんなことは思わない。
絶対にだ。

「                      」

冷血?無慈悲?
そんなことをあの人に言われたら……。
あたいは……。
……。
渡すだろうか……?
きっと渡すだろう? いや、渡すだろうか?
渡さないかもしれない? いや、渡さない?
決められない?
今までそんなこと考えもしなかった。
考えるまでもないと思っていた。
果たしてあたいはどうするのだろうか?
自分自身が分からない。
白黒つけることができない。
あの人ならできるのだろうか。
こんなことを考えること自体がいけないのか?
とりあえずこいつを渡してしまおう。そうすれば解るかもしれない。
そうだ渡してしまおう。
こいつが何を言おうと渡してしまえば、問題はない。
早く乗れよ。
五月蠅いやつだ。
早くあたいの前からいなくなってくれ。
頭が痛くてしょうがない。
あの人のことを考えさせるな。
そんなことはないとわかってはいても考えてしまう。
さっきの言葉がひどく心に残る。
だから、早く渡れ。
もうすぐ彼岸だ。
早く、この場からこいつを消し去ってほしい。
頭が痛い。
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。
そうだ、こいつを渡し終わったら早退しよう。
きっと体調不良と言えばあの人も許してくれるだろう。
寝ればこの鬱屈とした気持ちも落ち着くさ。
そう、きっとそうだ。
睡眠があたいを助けてくれるさ。
きっと……。










「全く小町は何日休んでいるんですか!!ただでさえ人員が少ないのに!!」
いつものように部下を叱責する上司の姿があったが、上司だけで部下の姿はなかった。
「風邪で2週間も休むなんてありえませんよ!小町のことだからきっと良い機会と思って休んでいるに違いありません!!」
昼休み、映姫は自分のオフィスで部下の長期欠勤について声を荒げていた。
小町は2週間職務を休んでいた。理由は体調不良。
「早く戻ってきていただかないと、他方から代理で出てもらっている死神にも申し訳無いですし……。というか本当に小町は何をしているんでしょか?」
確かにそうだ。
何でこんなにも長く休むのだろうか?
確かに少しこじらせて長引くことはあるだろうが、他の死神よりも体の丈夫な小町に限ってそんなに長引くとは考えにくい。
だとすれば何か理由があるのだろうか?
「とにかく、今日小町の家に行ってみましょう。一応上司としても部下が心配ですし、やむを得ない事情ならばきちんと手続きを取ってあげましょう」
しかし妙だ。
小町はいままでサボることはあっても、休むことはなかった。
むしろ三途の川の渡しといった死神としては末席の方の職場でもやりがいを持ってやっているようであった。
なのに何故?
おそらく本当に体調不良なのだろうと、映姫は結論付け午後の職務に向かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


いつも以上に慌ただしい午後の職務を終え、帰り支度を終えた映姫は小町の家へと向かった。
小町は業務上便利だからと三途の川の近くに自宅を構えている。
是非曲直庁からそれほど歩くというわけでもないので、映姫は徒歩で行くことにした。
まぁ、徒歩ぐらいしか交通手段がないのではあるが。
小町の家の周辺は川に近いからか冬でもないのにかなり冷え込んでおり、割かし薄着だった映姫には少し肌寒かった。
両の手を擦りながら歩いて行くと、小町の家に着いたが何故か電気がついていなかった。

「出かけているのでしょうか?小町ー、小町ー」
トントンとドアをノックすると、ドアが開き暗い部屋の中から小町が出てきた。
「ああ、映姫様でしたか。すいません、今まで寝ていたもので……。どうぞ入ってください」
どことなく疲れきったような声で小町は言った。
「そうでしたか。起こしてしまったようで申し訳ありません。で、お体の具合はいかがですか?」
何となく小町が痩せたような気した映姫は小町に訊ねた。
「概ね大丈夫です。大事には至ってないので心配しなくても大丈夫ですよ。映姫様は忙しいのですから、あたいなんか気になさらないでください」
「そういうわけにはいかないです。私はあなたの上司なのですから心配はします。ましてやこんなに長期で休まれたら心配するなというのが無茶な話です」
「本当にすいません。本当に体調がすぐれなくて……。でもそろそろ戻れそうなんでそれまでご迷惑をおかけします」
その様子からは大丈夫そうであったが、長い付き合いである映姫は見逃さなかった。
「小町……あなた本当に大丈夫ですか?本当につらいなら私の方から秦広王などの方にお願いすることもできるんですよ?」
「……」
小町は何も言わなかった。




あの人があたいを心配している。
心配なんか掛けちゃいけない。
確かに大丈夫じゃないさ。
でもこれはあたいの問題。
あたいがこんなんだから起きた問題。
そんなことであの人に迷惑をかけるわけにはいかない。
体調不良なんて嘘ついて迷惑掛けるなんて……。
いや、体調不良なのか?
不良?
どこが?
体調が?
それともあたいが?
死神として?
そうかもしれない……。
あの人を見ていると、あいつの言葉が甦る。
まるであいつがあたいの前に黄泉返ったみたいに。
あの人がいると、心が痛い。
一緒に居たいけど、痛い。
あたいなんかが一緒に居てはいけないぐらい立派なあの人。
あいつにさえ会わなければこんなことはなかったはずなのに……
本当に「はず」?
もともとそうなのだとしたら?
とても恥ずかしい人生を送ってきたんじゃないか?
そもそも今この人と一緒にいること自体分不相応な行為なのではないか?
あたいはこの人と一緒に居てはいけない?
それともあたいがいけない?
何がいけなくて何が良い?
心の中に疑問しか湧かない。
その全てに白黒つけることができない。
あの人はできるのだろうか?
たぶんできるだろう。
そういう点でもあたいは失格なのだろうか?
否定したいけど肯定できなくはない。
中途半端でグレー。
あの人には一番似合わない色。
だからそんなあたいは側に居るのが似合わない?
これも否定できない。
じゃあどうしたらいい?
側にいなけりゃいい?
むしろあたいが居なけりゃいい?
ほんとうにどうしたらいい?
やつのことばがあたいをしばる。
かんがえがどんどんさくそうしていく。
もうかんがえることすらめんどうになってきた。
もうなにもかんがえたくない、
そのしこうじたいがあたいをくるしめる、
もうすべてがめんどうくさい
うっとうしい
かゆ……うま……
……



「……小町?」
心配そうに映姫が小町の顔を覗き込む。
「……大丈夫ですよ。ちょっと考え事をしてただけです。すいません」
「それならばいいですが……。本当に辛いなら正直に言ってくださいね。ある程度の措置はしますので」
「本当に大丈夫です。そうだ!折角いらっしゃった事ですしご飯食べていってください」
「あ、それならば私が作りますよ。小町はゆっくり休んでください。」

その気遣いが今はあたいを苦しめる。でもあの人の責任ではない。

「あ、食欲はありますか?」

その優しさは今のあたいには向けられてはいけない。

「あるなら精の出るものにしましょう。早く元気になっていただかないと職務にも支障が出ますしね。」

どうして失格のあたいにあの人は優しくしてくれるのか?

「あ、小町は食べられないものとかありますか?」

今のあたいはあなたには似合わない。
あなたはあたいに近づくべきではない。
離れないとあたいが白であるあの人を染めてしまいそうで。
あの人は白でなくてはいけない。
あたいみたいにグレーではいけない。

「さあ、できましたよ。一緒に食べましょう。ん?どうしたんですか?」
「いや、大丈夫です。ちょっとぼうっとしてました。さ、食べましょう」
映姫の作った料理を二人で食べた。
それはとても温かく、とても微笑ましい光景であった。

「とても美味しかったです。それでは職務もたまっていることですし私はこの辺で失礼します」
「本当にありがとうございました。映姫様の料理とってもおいしかったです」
「ありがとうございます。それでは私は帰りますが、お体の方に気をつけて。何度も言ってますが自分の体を最優先にしてください。それでは」
「はい、養生します。映姫様も帰り道気をつけて」

自宅へと帰っていく映姫を見つめながら見えなくなるまで小町は見送った。


本当にあの人は優しい。
今はその優しさに救われてもいるし、追いつめられてもいる。
あたいはどうしたらいい?
その優しさに報いることができない。
そのことがあたいを苦しめる。
どうしたらいい?
一緒に居る事がとても苦しい。
そもそも一緒に居なければいい?
これしかないのか?
それもありかもしれない。
そうしてしまおうか?
そうだ、そうしよう。
何でそんな簡単な事に気がつかなかったのか。
ならば、甘んじてその手を使おう。
それで苦しみから解放されるなら……。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



今日の空はどんよりと曇っている。
そんな日は気分もどんよりとするもんだが、そんなことは言ってられない。
閻魔の仕事は忙しいのだ。
今日もいつものように制服に着替え、庁へと向かう。
昨日の様子から察するにきっと小町も今日から仕事に来るでしょう。
そうしたら今日は仕事が終わったら食事にでも誘おうかしら。
なんてことを考えながら映姫は法廷へと向かう。
すると向こうから庁勤めの死神がやってきた。
いつも思うのだが、この子たちは何で応対がこんなに丁寧なのだろうか。
と言っても小町の応対が一般には褒められたものではないので、それに慣れているだけかもしれない。
まぁ、彼女たちの場合は庁で実績を残せば閻魔へと昇格できる身分なので、閻魔である私に対して丁寧になるのは分かりますが。
「要件は何でしょうか?できるだけ手短にお願いします。始業時間まであまり時間がありませんので」
個人的には彼女らはあまり得意ではないので事務的に言った。
「四季映姫様の部下である小町からお手紙です。個人的に渡してほしいと言っていたので、お渡しします」
「(小町は呼び捨てなのね…)はい、確かに受け取りました。お疲れ様です。どうぞ職務に戻ってくださって結構ですよ」
受け取った茶封筒を右手に持ち、自分のオフィスへと向かっていく。
個人的に渡してほしいというくらいなのだから公の場で見るものではないだろうという配慮だった。
小町からの封筒は是非曲直庁の印の入った公式の封筒であった。
普段は書類を裸で持って来るような小町なので若干の違和感はあったが、構わず封を開け中身を見た。
体調が戻らないのでもう少し休みが欲しいといった旨の文書だろうと思っていた。
しかし、その文書を見た後そのあと私は声を出すことができなかった。












                 辞職願




このたび私小野塚小町は一身上の都合により当文書をお受け取りになったそのときより
現在の職を辞させていただきたくございます。
誠に急な事で非常に申し訳ありませんが、ご容赦願いたく存じます。


                        三途之河渡     小野塚小町



是非曲直庁 裁判官        四季映姫・ヤマザナドゥ殿















それは紛れもなく辞職届だった……。
はじめましての方ははじめまして、御剣龍sと申します。
二回目の投稿となります。
今回のはタイトルからわかるかと思いますが、某有名文学作品に私自身が影響を受けて書いた作品です。
小町が今回のような状態に陥ったらどうなるのだろうかと、夢想しながら書き上げました。
後篇もあるのであとがきはそちらにまとめようと思います。
前篇でいうならば前篇は決して明るい話ではありません。そうした「つもり」です。
こんな拙い文章を最後まで読んでいただけたのであれば幸いです。
そしてもしよろしければ後篇の方も読んでいただき感想をいただければ幸いです。
御剣龍s
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.430簡易評価
8.70ずわいがに削除
とんでもなくネガティブの渦に囚われていますね
さて、続きではどうなるんでしょうか……