また、置いてある。
私はベッドの横のサイドボードを見て呟く。
くまのぬいぐるみがひとつだけポツンと置いてあるだけのサイドボードには花束が置いてあった。
送り主は誰か。そんなのはとっくに分かっている。
お姉様だ。私を地下に入れてから一度も会いに来てくれないお姉様は毎月決まった日に花束を置いていくのだ。
しかも毎回同じ花だ。
最初はなぜ置いてあるのか、誰がおいたのか分からなかったが毎月同じ花が届けられるたびに不思議に思いその花について調べたのだ。
調べたとたんに直ぐに送り主はお姉様だと分かった。
その理由は花言葉だ。
置いてある花は毎回決まって紫のクロッカスと紫のヒヤシンス。
クロッカスとヒヤシンスは他にも色がたくさんあるのに何故紫だけなのか、それが気になり調べたのだ。
昔貰った花について書いてある本を開きまずクロッカスを探す。すぐに見つかった。
花言葉は『後悔』。これを見ただけで既にわかったが念のためヒヤシンスも探す。
花言葉は『ごめんなさい』と『許してください』だった。
こんなきもちを私にたいして抱くのはこの館には一人しかいない。
お姉様だ。
お姉様はきっと私がお姉様のことを恨んでいると思っているのだろう。
だからこそ博識なお姉様は言葉の代わりに花を送ってくるのだ。
でもそれは違う。お姉様は根本的に間違っている。
そもそも私はお姉様のことを恨んでなんかいないし謝ってもらわなくたっていい。
それを伝えるすべがあればいいのだが生憎私は地下から出れないしお姉様も会いに来ないので伝えられない。
とは言えまだ花を送ってくると言うことはお姉様は私が許していないと思っているのだろう。
私は置いてある花をてにもつ。あっという間に粉々になってしまった。
千切れた花を元通りサイドボードにおき、『どうして何もいってないのに許してないと確信してるんだろう。』と考えながらまた眠りにつく。
この疑問は花言葉を調べ終えたあとから引っ掛かっている事柄であったがいまだに結論は出ていなかった。
「はあ…まだ駄目なのね…」
深夜。私は眠る妹のそばで呟く。
私の目の前には何時ものごとくばらばらになった花束が転がっていた。
紫色のクロッカスとヒヤシンス。聡明な妹はもう既にこの花たちの意味を知っているだろう。
知っているにも関わらず粉々になっていると言うことはまだ許されていないということだろう。
私は悲しくなったがすべて自分のせいなので泣き言は言わない。
妹と向き合えない私が唯一できることが花言葉だった。
花を送ることで私の気持ちを知り、許してくれるのではないか。
そんな淡い期待はあっさりと破られた。
しかし臆病な私はこれからも花を送り続けることぐらいしかできない。
私は肩を落としながらフランの部屋を出る。
出るときにお姉様大好きという言葉が聞こえたがきっと幻聴だろう。
起きるともう花は無くなっていた。
でも特に何も思わない。
だってきっと来月も再来月も、花束は送られてくるだろうから。
毎月必ずおんなじ日、
私が地下に…閉じ込められた日に。
いつかきっと伝えたい。お姉様のことを恨んでなんかないと言うこと、それから
お姉様のことを愛していると言うことを。
「お姉様…愛してるよ。」
部屋で1人呟いた。
私はフランの部屋を出るとすぐに人里の花屋に電話をかける。
いつも通りの紫色のクロッカスとヒヤシンス。そして追加でチューリップと薔薇を依頼する。
チューリップと薔薇を足したのはもうひとつ伝えたいことがあるから。
それはあなたを愛していると言うこと。
私にはあなたを愛す資格はないかもしれない。
それでも愛しているんだと言うことだけは伝えたいのだ。
「フラン…愛しているわ。」
私は部屋で1人呟いた。
チューリップの花言葉は『親愛』…そして
薔薇の花言葉は『愛してる』。