#これはある年の秋の終わり頃のお話です。
私、八雲藍の朝は遅い
意外に思われるかもしれないが、主人である八雲紫の起床時間が遅いためそれにあわせているのである。
紫様の起床時間は日によって違い、夜中に起きてきたり、昼間に起きていたりとバラバラだが朝に起きてくる事は少ない。
朝早くおきても二度寝したくなるらしく、さらに三度寝、四度寝して結局は夜になるらしい。
そんなわけで朝は私にとって唯一のゆっくり寝れる時間なのだ。
さて、今日は橙が昼に来るのでご飯の用意をしようかと思う。
私の式である橙とは同じ場所に住んではいない。
橙は迷い家に住んでおり、他の動物と暮らしている。
自称迷い家のリーダーらしいが、猫ですらあまりいう事を聞いてくれないらしい。
ちなみに私と紫様が住んでいる場所は妖怪の山でも迷い家でもない。
迷い家ですら普通に来ることはできないが、この場所はさらに来ることが困難な場所である。
どこにあるのか?と聞かれるても簡単に説明することはできない。それ以前に説明してはいけないのだが。
その場所を知っており、入ることができるのは紫様が許可した者だけだからだ。普通はそこに在ることすら分からない。
話がそれたがご飯の用意をしよう。
ご飯は何かって?ご飯とお味噌汁、秋刀魚、煮物、香の物だ。一汁三菜でバランスも良い。
人間は滅多に食べないので、普通の人間と同じようなものを食べるんだよ。
その言い方だと人間を食べる時があるのかって?聞きたい?
まぁご飯前なのでこの話はやめておこうか。
材料をとりに行く前に、ご飯を炊いておこう。
軽く米を洗って鍋にいれ、水を入れる。
ちなみにこの水道がどこから引かれているのかは私もよく分からない。
紫様によると、どうやらある場所の地下水から直接引いているらしい。
そしてかまどにおいて、狐火をセットする。
かまどといっても下に燃料があるわけではない。
火を使う時はたいてい私が狐火を出して済ませている。
もっとも一般的に考えられる狐火とは違い、妖狐の私が出しているから狐火というだけなのだが。
この狐火は妖力によってできており、普通の火とは違い燃料は必要ではない。
そのため鍋に煤がついたりすることもなく、火力の調整も容易なため実に便利である。
まぁ仮に普通の火を使ったところで私が料理する限り焦げがついたりすることはないがね。
もう火にかけるのかって?その点は心配要らない。
今見えている狐火は見た目こそ火だが熱さはない。
身の回りに狐火を纏う場合はこの状態が多い。仮に普通の火の熱さがあったとしても妖獣の私が火傷することは無いけどね。
離れていてもコントロールできるので、米が水を吸う頃に狐火の温度を変えよう。
ちなみにこの米は家庭農園で作ったものだ。
基本的に食事の材料はほとんど家庭農園で賄うことができる。
家庭農園といっても一般に考えられるものとは規模が違う。
様々な種類が植えられており、結界による温度や湿度の調整によって季節の違う野菜でも年中収穫することができる。
もっとも季節にあったものが一番美味しい事に変わりはないけれどね。
では農園にお味噌汁と煮物に使う具を取りに行こうか。
ついでに熟したほかの野菜も収穫していくことにする。
これらは里にもって行き、売ったり交換することになるね。
肉などは私が直接狩りにいってもいいのだが、量が多すぎても困るので里で買ったり交換することが多い。
魚については橙が持ってきたり、簡単な釣りをして調達している。
ちなみに幻想郷では手に入らない海の魚についても紫様がたまにスキマから手に入れてくれる。
今日のおかずのメインである魚は秋刀魚で、昨日紫様から頂いたものを冷蔵してある。
魚は橙の好物なんだ。猫は水に入らないのに魚が好きなのはなぜなのだろうね。
さて、こんなものかな?
材料が揃ったのでもどって料理をしよう。
冷蔵してあった秋刀魚を常温に戻す。
私は冷気を使うのが得意なわけではないが、修練によって並の雪女ぐらいのことは出来る。
解凍が終わるまでの間にお味噌汁と煮物の準備をしよう。
昨日は紫様が早めに寝たので昼すぎに起きるかもしれないので多めに作っておくことにする。
ちなみにこの包丁はある妖怪に鍛えてもらったもので、切れないものはあんまり無いという。
料理以外に使ったことが無いので何が切れないのかは私でも良く分からない。蒟蒻は切れた。
妖怪なので素手で切ることも出来るが、包丁の方がおちついて料理が出来るので気に入っている。
お味噌汁と煮物準備は完了っと・・・秋刀魚も解凍できたようだし焼き始めよう。
しばらく時間があまるので台所のほかの部分で片付けられる部分は片付けておき、居間のテーブルも綺麗にしておく。
自分で言うのもなんだが掃除はいきとどいているので特に綺麗にする必要はないのだが、気分の問題である。
そろそろ秋刀魚の片面が焼けるころだ、ひっくり返しておこう。
お、準備が済んだところで橙が着たようだ。
よく来たね橙。今日のおかずは橙の好きな魚だよ。ふふっ嬉しいかい。橙が嬉しいと私も嬉しいよ。
まずは手を洗ってきなさい。その後はいい子にしてまっているんだぞ。うん、いい返事だ。もうすぐ出来るからね。
お味噌汁と煮物もいい感じになってきたようだ。少し味見をする、うん、ばっちりだ。
橙も手を洗って戻ってきて居間に正座している。
いい子にするようにとは言ったけれどそこまでしなくていいのに、それにあの形では足がしびれるだけだ。
まぁそういう橙も可愛いので見守っておくことにする。今度正しい正座の形を教えてあげよう。
よし、出来た。
さぁ、いただきましょうか。
え、自分の分のご飯がない?当然じゃないか、だって君は―――
あっ、紫様! もう起きてこられたのですね。
先に声をかけて下されば魚を一緒に焼いておいたのに。
えっ、もう冬眠なされるのですか。
今起きたところじゃないですか、そんなに寝てばっかりだとあっいえなんでもありません。
寂しくなりますね・・・冬眠するのは明日の夜ですか?
分かりました。その前に『アレ』ですね。
あれ、なに怯えた顔をしているんですか?
逃げようとしても無駄ですよ?
―――――風呂場―――――
「紫様も洗うの手伝ってくださいよ!あっ こら暴れるな!」
「藍に任せるわ」
「ぬいぐるみが好きなのはいいですけど付喪神になるまで抱いて寝るとか紫様ぐらいですよ」
「藍が抱かれてくれたらぬいぐるみなくても大丈夫よ?」
「冬眠の間ずっと抱かれてたら死んじゃいますよ。(興奮しすぎて)」
「ひどいわひどいわ」
「それにしてもぬいぐるみの付喪神ってなんでこう洗濯を嫌うんでしょうかね」
「体の中まで濡れちゃうからじゃない?」
「かといって洗わないわけにもいかないでしょう、この子紫様の涎とかついてましたよ」
「涎じゃないわよ」
「えっ」
「えっ」
こうして紫様の冬眠前には寝室のぬいぐるみの大洗濯が行われるのである。
付喪神になっても、ただのぬいぐるみだった時の記憶が蘇るのか洗濯されることを嫌うものが多い。
付喪神になったぬいぐるみは紫様の寝室に置くわけにはいかないので、家庭農園の管理などにあたってもらうことになる。
大体のぬいぐるみは大事にされたことに恩を感じて自主的に仕事をしてくれるので助かる。
そろそろ家庭農園を管理してるぬいぐるみも飽和してきたし、また新しい種類の野菜でも植えてみようかな?
それにしてもぬいぐるみたちが農園を管理するという光景・・・可愛いのか怪しいのか分からないが他の人には見せられないな・・・
人型のぬいぐるみだよ
こんな路線の話がもっと読みたいですね。
後書きのぬいぐるみが反則的に可愛すぎる。
クマさん! クマさん!
ゆかりんに抱かれていた時の具合やらなにやらの感想を詳しく!
日本の猫は魚が好きってのは人間の影響ですよね
さすがゆかりん、乙女の鉄則を心得ている
そしてウサギ何気にM
こういうのは大好きだw
クマになりたい
猫が魚を好きなのは日本人が昔から魚を猫に餌として使っていたかららしいですよ
>猫
普通の猫は魚を食べられる環境にないことを考えると、
橙が魚好きだとしたらきっと藍様や紫様の影響ですね!
どう挟んでくれても構わんぞ!
>「えっ」
>「えっ」
えっ