Coolier - 新生・東方創想話

優しい妖怪  後編

2009/05/02 15:31:00
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 薄く開いた目にまず見えたのは、星と月の光を混ぜた、青い、青い夜の――。
「夜って……」
 部屋が薄暗い。窓際だから、光が入ってきて問題はない程度なのだが。
 ていうか、部屋。ていうか、ベッドか。寝てるのか、私は。
「夜って!?」
 頭の覚醒が遅い。思考がついてこない。
 美鈴は叫びながら、上半身をがばと起こし。
「あぐぁ!?」
 全身に走った痛みで呻いた。
 何だ。驚いて、まず腕を見る。包帯がぐるぐると。
 というか、シャツを着ていない。体を見下ろせばまたも包帯が所々と、素肌。
 というか、何だか巻き方が。
「不細工、というか下手だな……これ」
 誰が巻いたんだ。思考が脇道に逸れた時、美鈴の足のあたりから小さい声が。
「んん……」
 驚いて、動作を小さくしながら、声の方向を見る。
 寝床の真横に椅子をくっつけて、そこに座ったまま、力尽きたように腰を折って。
 シーツの上から、美鈴の腿の辺りに顔をのせて小さな寝息を立てる、銀色の髪。
「咲……夜……」
 呟きと、ようやく起き始めた頭。直前の記憶を再生しだす。
「そうだ、私は、あれでボロボロになって……」
 気絶して、とにかくここに運び込まれて。
「夜まで寝てた……って」
 片手で顔を掴むように覆って、深いため息を吐く。
 完全に起床した己を苛むのは、色々な後悔やら、情けなさやら、起きてようやく感じ始めた全身の痛みやら。
「怪我は、大したことないけどねぇ……」
 ほとんど打撲やら、体内へのダメージだ。気を練って、一晩寝れば大分治る傷。
 普通の妖怪でも、そんな大怪我――ってほどではない、と思う。
 多分、こんなに包帯を巻いたのは――。
「……」
 小さなその寝姿を、正面に見る。じくりと、胸の辺りに、怪我じゃない痛みが。
 起こさないように、細心の注意をはらって、そっと足をどかし、引き抜く。
 シーツを掴んだまま、咲夜の頭がこてんとベッドにつき。
「ぅ……?」
 衝撃に、少し息を乱した咲夜だが、また規則正しいリズムに戻った。
 起きなくてよかったと胸を撫で下ろし、引き抜いた足を見れば。
 当然というか、下半身も下着だけだった。
 誰が脱がせたんだ、と、怪訝な顔をしながら考えを巡らす。
 魔女か、あの魔女か、それとも全員か。
「まあ、いいか。緊急事態……だったわけだし」
 頭をガシガシとかきながら、ふと、さっきまでの考えに戻り。
 そっと、寝床を、四足で這うように咲夜に近づいて、適当な位置で胡坐をかく。
 腿に片肘をつき、手で顔を支え、さっきより近くで咲夜の顔を見つめ。
「あ……」
 気づいた。その静かに眠る横顔の、目尻から頬にかけて、乾いた涙の跡。
「……起きたら、目が、真っ赤になってるわよ」
 泣き腫らして。
 美鈴は、空いた片手で寝床のシーツを握りしめ、低く呻く。
 全身よりも、何よりも、さっきからずっと心が痛い。
 あんな所を見せて、あんな顔をさせて、こんなに包帯を巻かせて、こんなに泣かせて、こんな風に眠ってしまうくらい、こんなに――。
「失格だなぁ、私は……」
 自分でも驚くほど泣きそうな声が出た。
 だから、せめて小さく笑う。駄目な姿だったなら――尚更、いつも通りに戻らなければいけないのだから。
「ごめんね……ごめん」
 起こさないように気をつけて、ガラス細工にでも触れるかのように、銀色の頭を撫でる。
 眠ってまでも心配そうに眉根を寄せていた表情が、少し和らいだように見えた。
 美鈴も微笑む。無理ではない、自然に。
 大分、気持ちも戻せそうになってきた。覗き込んでいた体を離し、手を後ろについて、背筋をやや斜めに伸ばすように。
 窓から入る、夜の光が心地いい。
「夜か……」
 そうだ、夜。
「って、ダメじゃないの!?仕事は!?」
 慌てて背を真っ直ぐに。と、起こさないようにベッドから降りて。
 午前に気絶してから、何もやってない。うわ、駄目だ。
 部屋に少ない家具の一つである、机と二脚の椅子。
 片一個の方に、ベストとシャツとズボンが掛けられていた。
 慌てて袖を通し、鏡で確認。顔にもガーゼが貼ってあったり、包帯が巻かれたりしていた。
 殴られた腫れはほとんどひいている。呆れるほどの回復力。けど、下手くそに切り貼りされたそれを剥がさないで。
 美鈴は眠る咲夜を一瞥してから、音を立てずに部屋を出た。



 廊下を、やや早足で歩きながら、美鈴はどこか別の場所にでも迷い込んだような違和感を感じていた。
 しなければいけないことがたくさんあったはずだ。掃除の監督と補助、洗濯もそう、主の給仕も。一日全部が埋まるほど。
 けれど、今歩く廊下はどうだろうか。所々甘いところはあるが、きっちりと掃除されている。
 そうだ、歩くところ、目につくところ、どこもそう。いつも通りを目指してある。
 覗き込んだ部屋の掃除も、ベッドメイクも完璧に。洗濯物は綺麗に空っぽ。
 そして、違和感の原因は何より――。
「誰もいない……じゃないの」
 館を照らす明かりは、洋館にしては少なめの数の窓から入る夜の明かりのみで、廊下には普段の照明用蝋燭が立てられていない。
 そして、普段なら賑やかに人の行き来する廊下、休憩中の部屋の前。何の物音もしない。
 一体何が。起きてから張ってなかった気の感覚を研ぎ澄ませて、館の全員の位置を探る。
 反応のある場所は二つ。そしてその内の一つに。
「全員集まってる……?何してるんだか」
 何だか手持無沙汰の落ち着かない気分で、美鈴はその場所へ急ぐことにした。

 着いたのは、大食堂。そこから明かりがぼんやり漏れてはいるが、物音はしない。
 ここに来るまでに調子の戻ってきた、気を探るそれで判別できるようになった各人の状態。それを半分信じられない気持ちで、美鈴はそっと、物音を立てないように中に入り込む。
 蝋燭三本程度の明かりと、夜の光で照らされた食堂の全員は。
「うーん……」
「むにゃ……」
「……すぅ……」
「ぐうー……もう仕事出来ない……」
 美鈴の感じた通りに、全員食卓用の長机に突っ伏して眠っていた。中には机の上で寝てるようなのも。
「そんなに夜が更けてたのかねぇ」
 美鈴は呆れと疑問に首をひねり、そっと全員の顔を見回しながら食堂の中を歩く。
 中には、あの真面目一辺倒の緑髪も、見事に眠りに落ちていて。
「あれ……?」
 その緑髪の後ろには、大きな黒板。食堂唯一の明かりもここに置かれていて、そこに書いてある文字を照らしている。
「これ……」
 美鈴の口から、純粋な驚きの吐息が漏れた。
 でかでかと、全員で書きなぐっているその内容は。
『清掃A班 業務完了 疲れた―』
『清掃E班かんりょー しぬ』
『洗濯班 完了 家令長がいないだけでこんなに大変だとは……』
 みんなで、美鈴がいない間の仕事を、どうにかこうにか完遂しようとした報告書のような――。
『給仕班 何とか完了 し、死ぬかと思った』
『お嬢様の笑顔は何考えてるのかわかんないー、でもかっこいい』
『これを毎日やってる家令長本当にすごい』
『もう少しで全部出来るぞ、頑張れラストスパート!』
 全員で励ましあって、私がいなくても――。
『調理班 全部完了 みんな御苦労さま、たくさん食べてくれい』
『咲夜もお手伝いごくろーさま』
『誰か図書館にご飯持ってってー』
『いらないことは書かないように!』
 ちゃんと頑張って、いつも通りに――。
 全部の字を、丁寧に丁寧に読みながら、最後の終わりの方に書かれた言葉。
『↓家令長用のご飯!誰も食べないように!』
 その下に置かれた、大量のサンドイッチ。
 美鈴は無言で一つ手にとって、口に運ぶ。
「あ……」
 おいしかった、涙が出そうになるくらい、本当に。
「ああ……」
 もう一度、食堂を見渡す。
 ああ、そうだ。この子たちにも心配掛けてしまって、そして、疲れ果ててこんな所で眠ってしまうくらい頑張らせて。
「もう、本当に……」
 上を向く。今日一番に危なくなったから。
 目を閉じて、また思い出す。




「何で私たちがここで働かなきゃなんないのよ!」
「嫌だー帰る―」
 ぶつくさ文句を言う妖怪達に、美鈴は一人ずつ脳天にチョップをかまし。
「つべこべ言うんじゃないの!あんたらここが……吸血鬼の館だって知って挑んできて、私に負けた!」
「だから?」
「それで、お嬢様の前で処理の是非を問うたら、命乞いして配下になるって言ったじゃない」
 サーっと妖怪達全員の血の気が引く。
「お嬢様も笑って許可してくれたわよ!さあ働こう!」

「違う!掃除はもっと丁寧に!あんたら何でもアバウトなんだから!」
「掃除なんてしたことないものー!」
 チョップ。
「文句言う前に覚える!……じゃないと、お嬢様に……」
「ひぃぃ!」

「洗濯物を破くなー!」
「ひぃぃ!」

「ここの食べ物に人肉はないわよ、あっても血液くらいかしらね」
 並べられた食事を前に、文句を垂れる。
「人肉なしって……」
「人間の食料なんか食べられないっての、こんな……うめえ!?」
「そんな、まさか……うめえ!?」
 美鈴は、がっつきだす全員を見ながら、呆れたように微笑む。
「おかわりあるわよ」

「ほら、ここがあんた達の部屋、ちゃんと仲良く共同生活しなさいよ」
 今まで一人で生きてきたのに、共同生活なんて冗談じゃない。
「でも、仕事の疲れで立てない……」
「喧嘩する気も起きないわね……」
「……私寝る」
「誰かマッサージしてー」

「ふーむ、あんたどうにか仕事が一番マシね」
 美鈴は、緑色の髪を揺らして仕事する妖怪を見ながら。
「そうですか?」
「うん……そうだ、将来的にはあんたに私の補佐やらすから、他の子のこともまとめて見てあげてちょうだい」
 緑髪は驚いて美鈴を見つめる。
「ただ、そのために……あんたに集中的にみっちり仕事を覚えさすけど」
「ええ!?」

「何……?ええ、何で眼鏡かけたの?」
 美鈴は、緑髪の目のあたりで光るそれを見ながら。
「パチュリー様に頼んで……貰ったんです。少しでも威厳が出るかな、と」
 恥ずかしそうに視線を逸らす緑髪の頭に、そっと手が触れて。
「真面目だねぇ、あなたは……よしよし、じゃあ、頑張ってもらおうかな」
 真っ赤になって俯く。
「あー、頭撫でてもらってる!」
「ずるい!」

「家令長ー!」
「何その呼び方……」
 怪訝な顔をする美鈴。
「私達はメイドですけど、家令長はその格好はなんというか……」
「よくわかんないですから、調べてみたら、館を取り仕切る従者のことを家令って言うらしいです!」
「そうなの?」
 捲し立てるメイド達を、落ち着かせながら。
「で、家令のトップだから家令長!」
「どうですか!?」
 美鈴、呆れた溜息をつき。
「もう好きに呼んで……」

「私達、家令長の料理に感動いたしました!」
「私達もあんな料理を作りたいんです!教えてくださいお願いします!」
 どこで習ってきたのか土下座で。
「ああ、まあ……そろそろ料理の担当してくれる子が欲しいと思ってたとこよ」
 若干その勢いにうろたえながら答える美鈴。
「本当ですか!?」
「が、頑張ります!もう今までの仕事よりずっと!」
「おい」

 パチュリーの実験が失敗した時より酷い爆発音が響いた。
「で、何で厨房が爆発するの!?」
「す、すいません!」
「わかりませーん!」
 どうにか全員脱出しながら、吹っ飛んだ館一階の角に集まって。
「と、とにかく消化ー!」
「誰かパチュリー様呼んできて!」
 バケツを持って正門前の湖に走るのやら、図書館に向かうのやら、右往左往と。
「まあ、とりあえず責任はお前に取ってもらうけど」
「……全身全霊、全員で大工仕事させていただきます」
 二人並んで、朦々と黒い煙を吐く食堂を見つめる、レミリアと美鈴やら。




 色々あって、本当に色々あって。
 次々と出てくる思い出に頬を緩めながら、美鈴は綺麗で、ピカピカで、いつも通りの廊下を歩く。
 ようやく、この廊下なのだ。一つの曇りもなく、夜の光を通してくれる窓なのだ。
 そうだ、それくらいの時間が過ぎて。
 また、先ほどの自分の部屋の前に戻ってきて、静かに扉を開く。
 夜を明かりにした部屋には、さっきと同じ体勢で眠り続ける咲夜。
 近づいて、その体をゆっくりと、優しく抱きあげて。
 靴を脱がせて、さっきまで自分が横たわっていたベッドにそっと寝かせる。
 それでも、ぐっすりと寝入った咲夜は多少身じろぎしただけで、まだ健やかに眠り続けている。
「よく寝る子……」
 美鈴は少し笑って。
「ありがとね、咲夜も。手伝ってくれて……」
 そして、こんなにぐっすり眠るくらい、頑張ってくれて。
 美鈴は、先程まで咲夜が座っていた椅子に座り、寝顔を見つめて、考える。
「私は……」
 弱くなった。確かに、往時よりは弱くなって、それは、きっと。
「――」
 視線を手に下ろし、拳を握ってみる。
 でも、きっと、弱くなっただけじゃない。失ったものと等しいくらい、大事なものを、手に入れたはずだ。
 そして、それは――。
「ここにはもう、私がいなくても、ほとんど大丈夫……だけど」
 でも、あの子たちも、咲夜も、まだまだ危なっかしくて、心配で。
 くすり、と微笑んで、紅髪の。
「まだまだ、だろうね」
 それでもまだ、求め続けてくれるなら。そう思ってくれるなら。
「私は、あなた達の思ってくれる、家令長で、お母さんで」
 紅 美鈴に、なろうじゃないか。
 右手を開き、左の拳でその掌を打つ。ぱしん、と、乾いた音が部屋に響いた。
 行くか。美鈴は立ち上がり、腰を屈めて咲夜の顔を覗き込むと。
 銀色の前髪をかきわけて、その額に軽く唇をつけた。
「行ってきます」
 咲夜の顔は、少し和らいだそれから、さらに笑顔に近づいたように見える。
 美鈴は満足した顔で、今度は振り返らずに部屋を出た。



 美鈴の足が向かうのは、先ほど気配を感じたもう一つの場所。
 そこには二人分の気配があって、多分。
「――」
 美鈴は主の食事用のホールの扉の前、一度立ち止まって考える。
 さて、中に入ったら。
「もう、きっと――」
 決意はあっても、不安と、微かな寂しさが紛れるわけではない。
 それが美鈴を躊躇させる。しかし。
「入れ」
 あくまでも、いつも通りの声が扉の向こうから響く。
 びく、と、身を竦ませる美鈴。
 それ以上の声は来ない。
「ふぅ……」
 主に背中を押されちゃ、従者失格だ。
 だから、自分で扉を掴み、自分で足を踏み出す。
 それでも、この寂しさも悲しさも、それでどこかに行くわけじゃなくて、いつまでもついて回ってくるだろうが。

「おはよう」
 部屋に入った美鈴に、開口一番嫌味を飛ばす主。
 からからと、嬉しそうに笑いながら、椅子に座っている。
「あら、ようやく?」
 主の前には卓、向かい合って魔女。
 こちらも美鈴が入ると、本から顔をあげて視線を向ける。
 座る二人の前には、グラスと、大小種類様々の酒瓶が立ち。床にも転がり。転がり――。
「転がりすぎでしょ」
 美鈴はとりあえず、卓に近づきながら瓶を拾い集める。
 手に持った瓶を見つめて。おう、よかった。どれも美鈴が適当に作った葡萄酒であったり。
 酒蔵に大事に大事にしまってあるビンテージでも勝手に開けられたら、たまったもんじゃない。
「ええ……ええ、おはようございます、お嬢様」
 美鈴は腕に抱えた酒瓶を丁寧に床の一角に立てながら、主の嫌味にようやく返事をする。
「大変だったそうじゃないか」
 グラスに注がれた赤紫色を傾けながら、レミリア。
 白い、いつものドレス。後ろで尻尾のように括った青白い髪が揺れる。
「私がね」
 パチュリーも、グラスをくっと煽って美鈴を睨んだ。
「まあ、大変は大変でしたけども……パチュリー様に何か危害が?」
 卓の横に控えるように立った美鈴は、本当に不思議そうな顔で頭をかきながら。
「助けていただいたのは覚えてますし、ありがたかったですけど」
「それはいいわよ。その前に、ちょっとお嫁に行けなくなるところだったの」
 憮然と答えるパチュリーに、美鈴は、何が……?、というか、行くつもりだったの?、と表情だけで語る。
「まあ、パチェが嫁に行けなくなったら私がもらってやるわよ。それより……」
 いやん、と、不気味に身を捩るパチュリーを無視しながら、レミリアは言葉を続ける。
「負けたのか?」
「……そう、とられても、仕方はないと思います。勝敗が明確に、決したわけではありませんが」
 答える美鈴は、身を固くする。
「ふむ……じゃあ、こう聞くわ」
 レミリアは美鈴の返答にいまいち満足しなかったらしく、ほとんど睨みつけるように見つめながら。
「弱くなった?」
 その問いかけに、美鈴は、ぐ、と黙り込み、すぐには答えない。
 鉛のような沈黙が、空間に漂う。
 レミリアも、特に返答は促さない。もう一度グラスを傾けて。
 いつの間にかまた本の世界に戻っているパチュリーと自分、両のグラスに酒を注ぐ。
「ええ……はい、弱くなりました」
 たっぷり時間をかけてから、美鈴は努めて普通の声で答えた。
「……そうか」
 今度はレミリアの言葉が重くなる。
「そうよね。ああ、そうでしょうとも、わかりきっていた結末だ」
 大袈裟に手を振って、呆れたような声を出して。
「原因は、わかっているだろ?」
 若干の怒りと、悲しみを滲ませて、美鈴を睨む。
「……妖怪のくせに、妖怪なんて身分のくせに」
 視線を真っ直ぐ受け止めながら、美鈴は訥々と語り始めた。
「己の本分も忘れて――生きていたんです」
 目を伏せ。
「あの子のために、あの子達のために、優しく生きられると、生きていたいと」
 自分の想いを確かめるように。
「そう、思っていたんです」
 静かに語り終える美鈴を睨む、レミリアの視線はぶれない。
「そうだ、私達の本分は『畏れ』にある」
 またも口に酒を含み。
「妖怪は、精神の生き物だ。己の在り方が、力と存在に結びつく」
 飲み下し。
「妖怪らしく生きられなければ……人も襲わず、恐れられもせず、ましてや人間のように優しく生きているだけでは」
 息を吐く。
「力は落ち、身体は衰え――行き着く果てが、この身と、お前の現状だよ、美鈴」
 くく、と、自嘲気味に笑って。
「そうですね。私達は、そんな面倒くさい生き物で」
 美鈴も笑う。そこに、寂しさと、悲しさを漂わせて。
「それを踏まえた上で、だ。今一度、選択の時よ、我が従者」
 レミリアは、声と顔を、抜き身の白刃のようなそれに戻す。
「お前は今後――どう生きる?なあ、紅 美鈴」

 レミリアの問いと、その射抜くような視線を受ける美鈴は、ふ、と、力を抜いたように笑う。
「私は……」
 答えは、この部屋へ来る前に決めていた。
「これから、どんどん弱くなります」
 それでも、この胸を締め付ける悲しみが。
「人間が老いていくように」
 掻き毟るような寂しさが。
「思うように動けなくなって、仕事も出来なくなって」
 そうだ、消えるわけがない。どんどん膨らんで。
「見る影もないほど、みっともなくなってしまうかもしれません。それでも」
 駄目だ、笑え。
「老いた人間のように、仕事を、次の世代へ譲って……未来を紡ぐ」
 後ろ手に、拳を握り締める。
「誰も殺さず、優しく……楽しく……そう、生きようと、決めました。だから」
 一度、目を閉じて、一粒だけあふれ出たそれを頬へ滑らせ。
「私はもう、貴方の隣へ、並び立てません」
 笑う。それがもう、半分意地だとしても。
 言葉を受けるレミリアは、動かない。身体も、視線も、表情も。
 そしてもう一人、パチュリーは本から視線を外し、呆れたような、それでいてどこか納得しているような、そんな視線を美鈴に向けていた。
「それは……あの子のため?」
 随分あってから、ようやくレミリアは重々しく口を開いた。表情は変えない。
「そうですね、多分一番はそうかもしれません」
 美鈴は、銀色の髪と笑顔を心の中に映しながら。
「それでも、私の選択は、生き方は、あの子のためだけじゃなくて」
 そこからスライドのように次々と、妖怪メイド達の顔や、姿や。
「この館に住まう者全員のためになるようにと、考えているのですが」
 目の前の吸血鬼や、紫の魔女に繋がり、そして、金色の――。
「それは、流石に私の思い上がりでしょうか」
 そう言い終えて、いつもの笑顔を。今度は自然に。
「……ああ、ああ、まったく、そうだろうとも」
 その言葉を受けて、少しだけ驚いた顔をしたレミリアは、戻す表情を少しだけ崩したそれに変えて。
「お前の勝手な思い上がりで、振り回されてばかりだな」
「もう少し言わせていただけるなら、どっちが、といった心境ですが」
 目を合わせて、くすりと微笑む二人の間にパチュリーの声が割って入る。
「おっと、どっちも私のセリフでもあるわよ」
 とりあえず二人とも空き瓶を投げつけた。しかし向こうも奇跡的な椅子けんけんで避ける。
「――まあいいさ、振り回されるのも慣れた、我が親友のおかげで」
 椅子の足一本のみでとんとんと移動し、また元の位置に戻った魔女を目を細めて睨みながら。
「さて……今の仕事を譲ると言ってもだ、後任はどうする?」
 その声は、まだ少しだけ納得していない。
「とりあえずは、今の我が副長に任せようかと」
 しばらくぶりのシリアスな姿勢が疲れたのか、レミリアは卓に体を寄せて肘をつき、頬を、ついた手に乗せる。
「あの緑色の髪か……確かに度胸はあるな。お前がぶっ倒れてる間の晩餐だがね、立派に給仕を務めてくれたよ。サポートに回る他のメイドはガチガチだったけど」
 思い出して微笑む主。
「ええ、腕はいいです。あの子になら、とも思いますが――もう一つ、思い描いている未来もありまして」
「もう一つ?」
「はい。もし……あの子が、いろんなことを学んで、可能性を全て吟味した上で……」
 語る、美鈴の目は遠くを見つめるように。
「それでも、この未来を選択してくれるなら」
 まだ遠い先の、紅い館で。
「私は、あの子――咲夜こそ、この館の全てを取り仕切り、お嬢様の隣に並び立ってくれる存在になると、信じています」
 メイド服に身を包んだ、銀色の髪の少女が――。
 そんな未来を、頭の中に描きながら、美鈴は優しく笑う。
「……あの泣き虫のお姫様がねぇ」
 美鈴の語るそれを、いまいち信じられないといった表情で、レミリアは聞きながら。
「あいつに――咲夜に、私にお前を捨てさせるほどの価値が、本当にあるのかしら」
「ええ、ありますとも。当然ですよ――お忘れですか?」
 疑問符を顔に出すレミリアに、美鈴は笑いながら。
「だって、お嬢様が選んで、私が決めた子じゃないですか」
 その言葉に、一瞬呆気にとられた表情になると。
「はっ!はははははははは!!」
 はしたないくらいの大笑いを見せる。
「そうか!そうだったな、あれは確かに、私が選んだ運命だ!」
 手を叩き、目の端から涙をこぼすほどに。
「そして、お前が決めた運命だ!ああ、忘れていたよ、今の暮らしが――楽しすぎて」
 笑い声は、段々と静かになっていく。
「あの子なら」
 顔をおさえて、くぐもった笑い声をもらす主に、紅髪の従者はそっと口を開く。
「きっと、今以上に騒々しくて、退屈しなくて、楽しい毎日を、この館へ引っ張ってきますよ」
 笑い声はやみ、顔を隠していた手は外され、それでも主の表情は、いつも通りの笑顔のままで。
「それは楽しみだ」
 顔を見合せて、レミリアは笑う、美鈴も笑う。
 そして二人はその笑顔のまま、顔を横に向けて、本を読み続ける魔女を見て。
 視線に気づいた魔女も、待ってましたとばかりに顔を隠していた本をどけて、満面の不気味な笑顔を。
 あんまりの表情に、改めて吹き出す二人と、それにつられる魔女の自然な笑い声が部屋に響いた。

「了解だ、美鈴。お前の望む運命が来たあかつきには、どこでも望む閑職に飛ばしてやる!」
 レミリアの、芯の通った声。
「それまでは、今の立場を少しの間は続けながら――あいつらを立派に教育してみせろ!以上だ!」
「御意!」
 美鈴は、胸の前に右手、礼をするように指をつけながら真っ直ぐ垂直に立て、その掌を左拳で打って鳴らし、応える。
「しばしの暇よ、我が従者。しかしなあ……」
 レミリアは、満足そうにその様子を見ていた顔を、少し困った笑顔に変えて。
「お前には、己の力を捨て去る道なんて、選んで欲しくなかったのだけどね」
 美鈴は、その言葉に、にんまりと笑い。
「何を言ってるんですか。私達のために、最初にその生き方を選んでくれたのは、他でもない――あなたじゃないですか、我が主」
 目を丸くしたレミリアは、横の親友を向く。
「そうだったかしら?」
 魔女、本からさっと顔を上げ。
「どうだったかしら」
 さっと戻す。
「そうですとも、今でもしっかり覚えていますよ」
 いつまでだって、忘れる筈がないではないか。
 今でも続く、人を一切食べないその食生活を。
 血の代わりに、浴びるほど飲むようになった酒を。
 現在と重ならない、昔の姿を。
「――あらまあ、年取ると物忘れが激しくていかんね……」
 珍しく純粋に照れて、そっぽを向きながら頬をかく主を、優しく見つめながら。
「それに、捨て去るつもりもないですよ。そりゃ、力は落ちますけど」
 右拳を顔のあたりまで上げて握りしめ。
「だからって、負ける気は毛頭ないです。ええ、この館に危害を加える者あらば」
 突き出して、空を打つ。
「全力で、守りぬく覚悟です」
 それを見ながら、レミリアは悪戯っぽい笑みになると。
「そんなこと言ったって、お前これからどんどん力落ちるぞー。やーい、やーい。その内、そこら辺の何でもないのにやられちゃうわね」
 そうして、『まあ、私は力がどん底まで落ちても生涯現役だがな』、と胸を張る。
「子供ですか……」
 美鈴は呆れた表情で溜息を洩らす。
「子供だよ」
 しかし、レミリアはそれまでのふざけた態度を一気に解いて。
「これからずっと子供だろうさ。だから美鈴、その覚悟が言葉だけじゃないのなら……」
 見つめる。
「どんなにみっともなくても、どんなに泥臭くなってもいい、この館の守り、お前に任せる」
 その言葉に美鈴は、顔を少し、悲しさに歪めて。
「……はい」
 今度は芝居がかった礼はせず、シンプルにただ頷いた。

 多少しんみりしてしまった空気を入れ換えるために、美鈴は体を伸ばしながら。
「しかし……もし、仕事を譲るとなると、この服も譲らなきゃなりませんねぇ」
 紅黒い男性侍従服、緑髪のあの子はともかく、咲夜に似合うだろうか。
「は?何言ってるんだ、そんなもんお前一代で止めときなさいよ」
 しかし主は、訝しげな顔で美鈴を睨む。
「え?しかし、閑職に移ってもまだこの服ってのもですし、肩書的にもこの服を着てそう呼ばれる感じですし――そう言えば、それを意図してこの服をくださったのではないんですか?」
 ぐるぐると疑問の回る顔で問い返す美鈴に、呆れたようにレミリアは。
「あのな……元々その服は、お前にメイド服が壊滅的に似合わないから、わざわざ着せてるだけだぞ、私の趣味込み」
「は!?」
 今明かされる衝撃の事実であった。
 横で聞き耳を立てていたパチュリーが盛大に吹き出す。
「緑髪も咲夜も、メイド服似合ってるし、似合いそうじゃないか。かーわいいんだもの、そのまんまで十分よ。ああ、お前の肩書?家令長な、代替わりしたらメイド長とかにしようか」
 あまりのことに真っ白に硬直して何も言えない美鈴。
 パチュリーの遠慮なき爆笑と、机を叩く音が部屋にこだまする。
「まあ、今の仕事を譲ったら、その服を着られないってのは同意だな。新しい服を手ずから作成してやろうじゃないの」
 悪戯っぽく笑う吸血鬼に、美鈴は引き攣った笑顔を向けて。
「ええ、お願いします。今度はちゃんと、女らしい服装で」

 そんな談笑を、いつまでも続けていたかったのだが。
「行くんだろう?」
 ふと、レミリアは優しい笑顔のままそう切り出す。
「ええ、そろそろ」
 美鈴は、また主に背中を押されたことを少し恥じながら。
 とりあえず、先ほど投げた瓶の破片だけを回収。
「寂しそうですね?」
 準備をしながら、冗談めいた気持で、そんなことを主に言ってみると。
「寂しいよ」
 返答は、へそ曲がりな普段の主の予想とは大きく違って。
「寂しいに決まってるだろう。お前と、どれだけ……」
 目線の前で手を組んで隠しながら、主はか細い声でそう呟く。
 美鈴は、胸を刺す痛みをまた感じながら、先程の発言を後悔した。
「まあ、いいさ。今夜は今まで百余年の感傷を肴に、朝まで酒蔵を荒らし回ろう」
 そうして主は、目を隠していた手を胸の前にスライドさせ、ふっと笑う。
「そうですね、ただの感傷なら、せめて笑っていてください」
 美鈴も、精一杯作った笑顔と共に。それこそが、美鈴の選んだ主なのだから。
「そうだな。お前に選ばれた私のままなら、一つ言っておかなければいけないわね、美鈴」
 その言葉に、こちらに向き直る美鈴を視線で射抜きながら。
「昼のことよ。お前に、過去のことで負い目があると思っているなら――って、考えてね」
 思い出し、表情の曇る美鈴に笑いかけ。
「これだけは覚えておけ、美鈴。お前がどんな閑職につこうが、どんな風になろうが、この館に住まう限り、お前の主は私であり、私が雇うのはお前だ」
 美鈴の記憶は、さらに昔に繋がる。
「なればこそ、それが成立する限り、お前を迎え入れる時に交わした契約を、私は一切違えるつもりはない」
 はっと、軽い驚きの顔で主を見やる美鈴に、レミリアは笑みを濃くして。
「お前の罪は、私が全て背負おう。だから、勝ってこい美鈴、己の過去に」
 いつかの時をなぞるような主の言葉。美鈴は咄嗟に何かを言いかけて、しかし、動く唇は言葉を紡がず、それを噛んで黙り込む。
 そんな美鈴を見て、レミリアは仕方なさそうに続ける。
「何もかも背負って、潰されないのが君主ってものよ。お前が心配することじゃない、預かってるのはお前だけじゃないしな」
 目を流して、魔女を見やり。
「パチェも、咲夜も、あいつらも。最終的には、私が背負って立ってやるとも」
 ばちんと、片目をまばたいてみせる。意外そうな顔で友を見たまま、少し朱に染まる魔女の頬。
 そうして、必死に泣きそうな顔を笑顔に戻そうとする美鈴に、いつものように笑いかけて。
「行ってこい」
「行ってきます!」
 少し混じった鼻声をさとられないように、美鈴は腹の底から吼えた。

 美鈴が一礼し、部屋から出やる寸前。
「ああ、そうだ。忘れてた、めいりーん」
 レミリアが思い出したようにぽんと手を叩き、美鈴もパチュリーもずっこける。
「か、かっこよく決まってたのに……何ですか一体」
 かくかくとした動きで振り返る美鈴。
「お前、これから寄るんでしょう?」
 二人の抗議の視線を軽くいなしながらレミリア。
「――ええ、寄りますよ。あの方にも許可をいただかないと」
 何でもないことのようにそう言う美鈴に、レミリアは少々呆れて、しかし、嬉しそうに笑いながら。
「それならいいのよ。たまには外に出ないと、健康に悪いぞとでも伝えてちょうだい」
 パチュリーも、その言葉に続いて。
「ああ、そうそう。それならついでに、本を返すように言ってちょうだい。ヘロドトスが持ってかれっぱなしで」
「自分で言えばいいのに……」
 美鈴は溜息。レミリアとパチュリーは綺麗に声を合わせて。
「めんどくさいのよ。ついでだ、ついで。ほら、行ってらっしゃいな」
 追い払う仕草まで息ぴったりに。
 その様子に思わず吹き出して、思った。
 やっぱりこれくらい気の抜けてた方が、私達には似合ってるのかもしれないな。
 美鈴は入る時や、先ほどまでとは全く違ってしまった気合いで扉を開く。
「はいはい、それじゃ行ってきますから、あんまり飲み過ぎないでくださいよ」
 上半身だけ振り向いてそう言いながら、扉を出て、閉めた。
 歩きだしたら振り向かない。気分は軽い、若干の寂しさと悲しさと、それを隅に追いやってしまえるほどの嬉しさと。
「最後まで、気遣ってもらっちゃって」
 気を遣うのは、私の得意分野だというのに。やっぱり、自分は従者気質だな、いつまでも甘えてしまって。
 軽く笑う美鈴の頬を、また一粒だけ滑り落ちた。



 美鈴は地下を歩く。先ほど寄ると言ったその場所は、魔女要塞のさらに奥。
 妖怪メイドも近づかない、近づかせないその地下の最奥に一つの部屋がある。
 それこそが美鈴、本日最後の目的地であった。外から見ただけでわかる、図書館とはまた違う、異様な雰囲気を放つ扉。
 押し開いて。部屋から漏れだす空気は、生温く、循環のなされていない様を思わせる。
 闇をぶちまけたような室内、照明は目指す先に蝋燭一つ。
 美鈴は足を踏み出す。得体の知れない何かが知らず這い寄るような雰囲気を持つその室内を、特に気負いもなしに。
 時々襲いかかる蜘蛛の巣を、気をつけて手で掃いながら。
 進む先に見えるは、明かり、そして豪奢な紅のソファ。こちらに背を向けるそれに座る、照明に負けず輝く金色の――。
「あら、久しぶり」
 背中だけを向けて、本を読み続ける金色の小さな頭から声が響いた。明るい声。
「お久しぶりです、フランドール様」
 美鈴は、こちらを向かぬその姿に微笑みながら、挨拶を返す。
「上は中々大変そうなことになっているね」
 ぺら、と、ページを捲りながら喋る。
「御存じでしたか?」
 美鈴が軽く驚きながら問い返すと、金髪のフランドールは片手をソファの背より少し高く掲げた。
 露わになる、真白い、ミルクのような肌。小さなそれは、まだ少女にすら届かない幼さを思わせる。
「大抵は」
 そう言って掌を上に向けると、そこに小さな蝙蝠が一羽。
 羽ばたき、飛び立って、美鈴に近づき。
 その体の周りをぐるりと一周飛ぶと、また掌に戻り、降り立つ。
「これでわかる」
 優しく、眷属のすり寄るその手を軽く握り。また開けば、そこには手品のように何もなくなっていた。
「手酷くやられたね、美鈴。かわいそうに」
 美鈴は、たははと頭をかいた。
「お恥ずかしい限りで」
「そうだね。もしあれがまた来たら、ここへ連れておいで。私が……」
 撫でるような甘い声。
「壊そうか?」
 瞬間、大気が鳴るような、波動の如き威圧が飛んでくる。
「いえ、お手を煩わせるには至らないかと」
 しかし美鈴は、周囲を侵食するようなそれを図太くいなしながら笑う。
「あら、そ。勝算があるのかしら?弱くなった貴方に」
 フランドールは気の抜けたように言いながら、威圧を収縮させる。
「まあいいわ。今日は何の用?」
「はぁ、ま、一つだったはずですけど……色々ありまして」
 美鈴は苦笑い。
「まず、お嬢様から。『たまには外に出ないと健康によくないぞ』との伝言です」
「鏡でも見せておいてちょうだい」
 本に意識を戻しながら、フランドールは投げやりに答える。
「いやいや、お嬢様は活発ですよ。この前だって、『私は太陽を克服した!』と叫びながら、どでかい麦わら帽子をかぶって家庭菜園の収穫をしていました」
 美鈴は真面目な顔で、大好物は自分で育てたトマトである主を擁護。
「つっこまないよ」
 しかし、フランドールは無視を決め込む構え。
「ええー……パチュリー様なら今ので空中三回転つっこみはしてくれますのに……それに事実ですし」
 不満そうに口を尖らせる。
「ああ、そうそう、それと、そのパチュリー様の伝言で『ヘロドトスを返せ!』とのことです」
「うん?そうそう、あれはペルシャ戦争のとこが面白くて返し忘れてたって――はぁ……そこの机に持ち出したのが色々積んであるから、適当に持っていっちゃって」
 フランドールは、いい加減弛緩した空気に嫌気がさしながら、適当に返事。
「それで、それだけ?」
「いえ、最後に一つ」
 美鈴は、真面目な声に戻す。
「今の仕事に、少々お暇をいただくことになりました」
 フランドールの体が、ぴたと、その纏う雰囲気ごと一瞬止まる。
「へえ……そうなんだ」
 やっと興味の向いたような声で。
「出て行くの?」
「いえ、まあ何というか……隠居って感じですかね。この館には厄介になり続けたいと思います、よろしく」
 最後に近づくにつれて、恥ずかしそうに平坦になる美鈴の声に、くすくすとフランドールは笑いながら。
「それでも、お姉様の隣にはもう立たないんだ……それで?」
「まあ、その許可を、フランドール様にもいただこうかと」
 笑い声はやまない、返す声に混じらせながら。
「私に?構わないよ、別に貴方と主従を交わしたわけでもないし」
「だとしても、私はフランドール様の従者でもあるつもりでしたので――勝手な思い込みですけど」
 鈴のようなその音は、唐突に止まった。
「――なら、私が許可を与えなければ、貴方はお姉様から離れないかしら?」
 試すような問いかけ。冗談か、本気か、どちらも含んだような。
「……いいえ、腹は決まってます。もし、そうおっしゃるのでしたら、こちらは平身低頭、いくらでも土下座の構えです」
 しばしの沈黙を挟んで、フランドールは息を吐いた。
「――私なんて、無視すればいいのに……」
 仕方ないといった、呆れの感情のリズムで。
 それを聞いた美鈴は、頑とした態度で言い返す。
「そういうわけにも参りません。だって、大事な――」
「あー、その先は言わないでいいよ、もう。あいつといい、その言葉恥ずかしいの」
 ええー、言わせてくださいようと抗議する美鈴に、溜息。またこのペース。
 面白くなさそうに、流れるような金の髪をぐしゃぐしゃとかき――しかし、悪い気はしていない自分に、ふっ、と吹き出す。
「わかった。紅 美鈴、紅き館が当主の妹として、貴方の申し出、許可しよう」
「ありがとうございます!!」
 本当に、嬉しそうなその声。
 やっほうと、背後で喜ぶ美鈴を頭に描きながら、フランドールは本の続きに戻る。
「ほら、行った行った。いつまでもこんなとこにいていいわけでもないでしょ?」
「――はい、それでは失礼いたします」
「しかし、そうなると、お姉様は寂しがるだろうね……」
 私も、つまらないよ、美鈴――。何気なく、冗談めかして言ったその中に、悲しくなるほどの優しさが込められていて。
 美鈴はしばらく、一度もこちらを振り向かなかったその背を見つめ続けながら、もう一度言おうか迷った言葉を――。
「あの、フランドール様、本当にたまには――」
「美鈴」
 過剰なほどに感情を乗せる普段の様とは違う、固い声がそれを静止する。
「この身がそうである以上……私は外に出る気はないし、出す気はないよ」
 その声を聞いた以上は、美鈴はもう続きは言えなかった。だから、代わりに。
「いつか……こんな部屋に閉じこもっていられないほどに、騒々しい日々がやって来ると思います。だから、その時には」
 返ってくる言葉に乗ってきた感情は、包み隠さない本当の、無垢な幼き少女。フランドール・スカーレット。
「貴方がそう確信するなら――私は信じて、いつまでも待ってるよ、美鈴」
 紅い髪の従者は、今日一番の笑顔でそれを受け止め、その部屋から立ち去った。




 向かうは、明日。選び取る運命は――。





「……わかってはいたけど、まさか昨日の今日で本当に来るとはね」
 いつもの侍従服で美鈴、館の敷地外、正門を左に立つ。
「大した傷じゃないですよ……最後のあれが当たっていないからですが。そちらはどうですか?」
 向き合うは、黒女。昨日と変わらぬ時刻にて。
「あんたと同じでしょうね……けど、まあ、問題はない」
 笑って答える美鈴。受ける黒女もいつもの無表情を本当に少し笑顔にし、ふと、自分から右、正門の方向を見て。
「今日は昨日に劣らず観客が多い――?反省はしていないんですか、狙いますよ?」
 物騒な物言いとは真逆に、視線の先に微妙に微笑みかける。送る先には、館中の妖怪メイドと最前列に銀髪の少女、そして、面白くなさそうに紫の魔女。
 送られた微笑みに、一部のメイドはブーイングを送り返す。
「してるわよ。もう絶対にそんなことはさせないし……あんたは――いや、それに保険もかけてる」
 美鈴も正門の観客達を見て、安心させるように笑いかける。湧く観客席。
「……やめましょう、気が抜ける。何だかペースが奪われてる気がしないでもないですが、目的は昨日と同じですよ」
 黒女、構え、空気が張るような殺気を出す。黙り込む観客席。
「……いいわよ、来なさい。今度は、どういう形にせよ決着がついたなら、あんたに私の――謝罪じゃない、決意をやろう」
 美鈴も構える、腰を落とした武の構え。しかし、張り出す気に殺意はない。
「今日こそは」
「ええ、決着つけようじゃないの」
 美鈴は一発地面を踏み打つ。乾いた音が響き。
「そうですね、お互いの」
「過去に」
 動き出す。

 動き出して、すこんと。
 黒女の拳が見事に美鈴の体に突き刺さっていた。
「うげっ!?げっほげっほげっほ!」
 あまりのことに呆然と、追撃が出せない黒女を尻目に、咽ながらも後ろに飛んで逃れる美鈴。
 とりあえず紫の魔女とギャラリーの一部が見事な連携でずっこける。仕事に真面目な緑髪と一部のメイド、咲夜はそれをまったく無視しつつ、しかし不安気な視線を美鈴に向けている。
「あー、痛い!なんてことよ、まったく……」
 打たれた箇所をさすりながら悪態をつく美鈴に、ぽかんとした表情のまま黒女は向き直り。
「え?あれ……?すいません……つかぬことをお聞きしますが……」
 目と目の間を思案顔で押さえながら。
「もしかして、昨日より弱くなりました?」
 その言葉に、美鈴は苦笑しつつ。
「どうだかね……いや、多分強くなったよ、昨日より」
 また構える。
「そして、負ける気はない。あんたに、この館へ手出しさせる気もね。だから、本気で来な。あんたにとって私がどう見えようが――」
 言う間に、舌打ち一つで黒女は飛び込んでくる。
「まあいいですよ!あなたがどうであろうが」
 完全に足を上げて側頭部を刈る蹴り、美鈴はガードで受けつつ。
「倒れたら、今度はあそこの魔女!そして最後に吸血鬼!」
 しかし、黒女は踏ん張り、ガードごと押し潰す勢いで振った足をさらに進め、美鈴を地面へ叩き落とす。
「ぐっ!」
「手間が省ける」
 今度は戸惑わない。追撃は続く。

 しかし――。
(しかしなあ……)
 そうは言っても、美鈴自身も結構ショックを受けていた。
 頭を踏みつぶそうと、振り下ろされる足を、首を捻って何とか避けつつ。
 何せ決心して、昨日の今日で。
(ここまで力が落ちるとは……)
 何と精神に影響されやすい自分の体だろうか。初めて妖怪になったことを後悔したかもしれない。
 起き上がろうとしつつ、ガードは解かない。何故なら絶対に途中で蹴り飛ばされる。
 そして、避けられない。しゃがんだ姿勢、予想通りの位置に攻撃が来る。踏ん張って、それでも吹き飛ばされ。
 思い描く動きと、実際の体が、昨日より同期しない。幸い、目だけは見えているが。
(体が追いつかないんじゃ意味がない!)
 ごろごろと飛ばされた勢いで後ろに転がりつつ、それを利用して起き上がる。
 と、同時に拳が来た。見えちゃあいるが間に合わないので、せめて覚悟しつつ顔面で受ける。
「くぉっ!」
 威力で二、三歩、後ろに踏みつつ、しかし、思う。
 もう一つ幸いにも。
「た、耐久力だけは昔並みだわね……!」
 痛い、痛いし効いてるけど、耐えられないわけじゃないぞ。
 そうだ、これほどの守勢に回りながらも、美鈴の身体も、気持ちも全く折れない。
 先ほどの言葉を撤回する気も、さらさらなかった。
 連撃、もはや蹴りやら拳やら判別するのも面倒なので、亀のように防御を固くしたままで。しかし、ただ耐えながらも、美鈴は考える。
 自信なら、この身から溢れ出るほどにある。負ける気も全くない。
 それでいて、勝機は――。
(これから考えるって!!)
 そんなもんは、自信と確信の後から自然についてくるものだ。

 正門前に押し合い圧し合いで全員集まったメイド達と、咲夜。と、魔女。
 いつものよくわからない不機嫌顔の魔女を除いた面々は、ほとんど祈るような気持ちで眼前を。
 美鈴が防御したまま、一つもやり返せずに、蹴り飛ばされたり殴り飛ばされたりの光景を見ていた。
 不安で、不安で、それでも、それを、出てきた所に必死に押し戻すような全員の表情。
 思い返すは、朝の食堂で。

「多分、というか絶対というか、あれが今日また来ると思うのよ」
 朝食を食べ終えて一息つく全員の注目を集めながら、美鈴が立ったままそう言った。
 全員、一瞬呆気にとられ、空中にそこかしこから集めて混ぜた巨大な疑問符でも浮かび上がるような光景を想像した後。
「あれって、昨日のあれですか?真っ黒な敵ですか?」
 メイドの一人が手を上げて聞き返す。
「うん、そう」
 美鈴が軽く答えると。
「た、大変じゃないですか!」
「どーするんですか!?」
「そ、そうだ、パチュリー様!パチュリー様ならきっと何とかしてくれる……!」
 認識と同時に、上へ下への大騒ぎになる。
「あー、ちょっと――」
 美鈴が頭をかきつつ、全員を静まらせようとすると。
「静かにしなさい!!」
 それより早く、緑髪のメイドの声が響き、全員の動きはピタッと一時停止していた。
「家令長の話はまだ終わってないでしょ!……続きが、あるんですよね?」
 促すように、こちらを真っ直ぐ見つめてくる。
 美鈴は、役を取られた情けなさと、それでも彼女がここまで出来るという嬉しさと、半々ずつの笑いをしながら。
「そうね……今日あいつがまた来たら、もう一度、戦ってみようと思うの」
 全員が、美鈴を見た。その視線に浮かぶ感情は――。
「昨日は情けないとこ、見せちゃったけどね」
 それを真っ直ぐ受け止めながら、美鈴は続ける。
「今日は、大丈夫。信じてもらえないかもしれないけど、それでも、私は勝つ気でいるよ。あいつはぶっ倒すし、あんた達にも、手出しさせるつもりはない」
 美鈴は自分の席から、ゆっくりと移動する。一番その感情を向けてくる、向かいの席へ。
「だから、信じてほしい。もう一度だけ、みんなにも見ててもらいたいんだ」
 隣に立った自分を見上げる、銀色の髪を撫でながら。
「大丈夫だって、何せ私は――」

 そうだ、だって今戦っているのは。
(侍従仕事のプロフェッショナルで!)
(厳しくて!)
(でも、頼もしくて!)
 メイド達は。
(私が、一番尊敬する人で!)
 緑髪のメイドは。
(優しくて、強くて)
 思う。
(この館の家令長で、みんなの――)
(私の、お母さんで!)
 銀髪の咲夜が、唇の動きだけで言葉を紡ぐ。
 だから、信じている。今はやられてたって、きっと。
 現れそうになる不安なんて、心の中でボコボコにして押し込めて。
 全員、今は信じて、見つめ続ける。

 視線を感じていた、そこから滲み出てきそうなほどの想いも。
 それだけでよかった、力になってくれる。
 さっきから殴られ続けて、考えていた必勝の策。
 ようやく浮かんだというか。
(つまりは、私に今あるのは耐久力と目のみ)
 閃光のような体の動きも、故事に謳われる矛のような攻撃も、今はもうない。
 しかし、体内で気を練れば、まあ往時に少しは近づいた攻撃も放てるかもしれない。
(だから、今ある手札で狙うべきは――)
 とにかく、全ての攻撃を耐えながら、必殺の気を体内で練り。
(機を見て、全力で放つ!!)
 まさに、一撃必倒。全ての武が目指す究極の理想であり。
(何ともみっともないことよね……)
 こんなにボコボコにされて、それでも、耐えて耐えて、機を待つ。
 なんて泥臭い。しかし、それがこれからの紅 美鈴なのだ。
 主から離れ、過去から離れ、力から、何もかもから離れて、新しく歩む道なのだ。
 そこに、一抹の寂しさこそあれ、何の後悔も存在しない。
 蹴りが腹に突き刺さる。
 それでも折れぬ体に、さらに連続で。
 しかし、折れない。
 これが私だ。私の戦い方なんだ。
 美鈴は新しい自分を、ゆっくりと身体に馴染ませながら。
 せめて苦しい顔だけは、相手にも、皆にも見せないように。薄く笑って、ただ耐え続ける。

 信じていたって、見つめていたって、一方的な展開は一向に変わらない。
 美鈴が防戦に入って、もうどれくらい経っただろうか。
 いい加減、相手も焦れてくるほどに、ただ殴られ、蹴られ。
 それでも倒れない。しかし、相手に反撃の一つも加えない美鈴。
 そこにどんな意図があるのか、まるでわからなくたって、絶対にメイド達は信じ続ける。
 それでも――。
「……ばって……」
 小さく呟くように、聞こえ始めるその声。
 色々なとこから出始める、祈るようなそれを、呆れた顔で魔女は聞きながら。
 横目でそれを少し見て、次に眼前の美鈴を見る。
 情けない。過去の姿と重ねれば、溜息もつきたくなるようなその姿。
「いい加減!」
「がっ!?」
 苛立ちをそのままぶつけるかのような、強烈な足の振りに、美鈴が吹き飛ばされる。
 飛ばされ、倒れ、それでもすぐに立ち上がろうとする。しかし、遂にどこかにガタでもきたのだろうか、ままならない動き。
 ようやくの有効打に、少し溜飲が下がったか、悠然と、ゆっくり距離を詰める黒女。
 パチュリーは今度こそ、本当に溜息をついた。
 吐いて、また祈るような視線と、震えるような呟きを漏らす一団を一瞥し。
 美鈴に向き直ると。
「立ちなさい!美鈴!紅 美鈴!」
 普段のそれからは、想像も出来ないほどの、腹の底からの大声が響いた。
「立て!お前の選んだ道は!」
 本当に、ギョッとしたような視線が自分に集まるのを無視しながら。
「レミィにあんな顔させて!私に何の相談もしないで!」
 そう、これは地味に傷ついたのよ。
「そうやって選んだ道は!生き方は!こんなもんじゃないんでしょう!?」
 だから叫ぶ、半ば八つ当たりの感情も含めつつ。
「だったら立ちなさい!立って、勝って、戻って、私とまた酒でも飲み交わそう!だから――」
 そうだ、私の、もう一人の友人。
「頑張れ、紅 美鈴!!」
 一番大きくそう叫んでから、無理をさせすぎた肺が悲鳴を上げる。
「がはっ!?げほっ、げほっ、げほっ!」
 慌てて背中をさすろうとする近くのメイドの手を払いのけ、咽ながらも、その一団を、ぎっ、と、睨み。
「ごほっ!お、お前達も、そうよ!信じてるだけで、見つめてるだけで、それでも、がはっ、あ、溢れ出る感情を、呟いてるだけで!ごほっ、おえぇ!」
 一際大きい咳と共に、口から血が溢れ出てきた。びしゃびしゃと地面に吐き捨てる。
「そんなんで、伝わるわけないでしょ!声に出せ!出して、自分達の大切な人なら、何も手出しできないなら、せめて」
 しかし、吐血のおかげか、喉の通りは幾分マシに戻った。また、視線を戻し。
「精一杯、応援するわよ!!さぁ!!」
 その先は、驚いてこちらを見たまま動きの止まっていた黒女、そして立ち上がろうとする美鈴。
「が……頑張れ!!頑張れ、お母さん!!」
 それから一番に、咲夜の喉が、拙い、それでも、気持ちをそのまま形にしたようなその叫びを響かせ。
「が、頑張って!!頑張ってください家令長!!」
「頑張れー!!ファイトです!!」
「家令長、頑張ってー!!」
 伝播するように、次々とメイド達の口からも響き始め。
「ええい!!立つのよ美鈴!今日は本当に出血サービスだけど!!」
 パチュリーも叫んで。
 それは大きな波のようになって、美鈴の体に届き始める。

 一団から離れた場所、庭の敷地内の木の枝に、一羽の紅い蝙蝠が逆さに止まっている。
「そうよ、立て」
 深く、暗い、地下の一室で、また本を読みながら。
 それでも、ページを一向にめくらないその影が呟き。

 飲み過ぎの体を、豪奢な寝床に横たえ、低く呻きながら天蓋を見つめ続けるその主が。
「運命は手繰り寄せるもの……でも、まあ、私は毛の先ほども、お前の決意を疑っちゃいないよ」
 だから今は寝かせておくれ、と、寝がえりをうつ。

 声がする。それは、感じる想い以上の、信じる視線以上の力となって。
 全員の声はもちろん、聞こえるはずのないような声も、届いた気がした。
 我が部下達、我が友人、我が主、その妹。
 そして、私の――。

 耳障りだった。
 突如湧き始めて、今や無視できないほどに大きくなったその波。
 距離を詰め、追撃を加えることすら忘れ、黒女をそれを見つめていた。
 ああ、本当に――。
 少しだけ、口の端に笑みを作ると。
「でも、今は、必要ないですから」
 昨日と同じような妖気の弾を作り、狙う。着弾も、そう、昨日と同じで。
 本当はその光景が、少しだけ――。
 観衆の足元。そこで炸裂するそれは、衝撃の残滓と、地面の破片を撒き散らす程度。多少怪我はしても、妖怪なら、命だけは心配あるまい。
「黙ってて、ください!!」
 静かに発射した。

 着弾は、予想より大分、かなり、近かった。
 閃光と、爆発の風から、手をかざして守る視界のその先に。
 やがて煙だけとなった、着弾地点のその中に。
 立っている、ちゃんと立ち上がって、その身で背後の全てを庇い。
「どうした……どこ狙ってるのよ……?私はまだ――倒れちゃいないわよ」
 服は、腕を前にかざして防いだそこは全て、また防ぎ切れなかった部分が少々吹き飛び。
 熱と衝撃が身を焼き、剥き出しになった肌の所々を赤黒く染め。
 しかし、それでも、戦闘開始から全く変わらない、青い瞳の輝きは消えず。
 紅 美鈴は、確かにそこに立っている。
 突然のこと、一瞬のその光景に、メイド達からの声援は一時中断していた。
 が、美鈴が後ろを振り返って、笑う。少し煤のついたその顔で。
「どうしたの?応援、嬉しかったんだけどな」
 固まっていたメイド達のその身が、安心でほぐれていく気がした。
 また、湧き上がってくるその想いと、言葉を。
「ええい、こっちはいいから!!」
 魔女がいち早く、苛立たし気に叫び。
「お、お母さん!!前!前!そんでもって、頑張って!!」
 続く咲夜が慌てて叫んで。
「か、家令長、大丈夫ですか!?でも、頑張ってください!」
「後でちゃんと手当してあげますからねー!」
 声援が再開される。

 位置を変えて、向かい合う二人。
「何故ですか……?」
 黒女は、呆然と問うた。その気持ち、とまではいかないが、意図は相手に読まれていたと思っていたから。
「ちょっとね、妖怪だけじゃなくて――人間の子供も、特別体の弱いのも、あの中にはいるの」
 美鈴は、確かにわかっていた。それを伝えるような答えを。
「なるほど……確かに、危険を冒してでも、その身で庇うはずだ。悪かったですね」
 黒女は無表情でそれを受け取る。
「でもね、たとえあの中に、そういう特別なのがいなくても――私は、迷わずそうしていただろうよ」
 美鈴、今一度決意の表情で構える。
「……なんとなく、わかりますよ。でも、もう、どうでもいい」
 黒女は一瞬、身を沈め。
「あなたの損傷度から見ても、これで、最後!!」
 跳ねるように、一気に近づく。
 そう、美鈴の体力と精神力からいっても、これが最後の攻防。
 勝つのは――。

 槍のような、美鈴の目ですら追い切れなかった蹴りが顔に刺さっていた。
 美鈴は素直に、今日一番の速度と衝撃と威力だと、遠のきそうになる意識の隅でチラと考え。
 上をくるんと向こうとした眼球を、無理矢理相手に戻す。
 しかし蹴りは、かろうじて、生まれついての石頭、その額で受けていた。それが、最後の最後、一介の力を美鈴の中に残す結果となり。
「……っ!?」
 まだ光の消えぬ瞳で、足の裏ごしから睨まれた黒女は息を呑む。
「八極って言葉の意味……知ってるか……?」
 途切れ途切れに美鈴が問う。
 体力はもう残り一発のみ。
「知りません、よ!」
 吐き捨てるように呟きながら、額に刺さっていた足を引き、次の拳を振るおうとする黒女。
 焦れたようなその表情。止めと確信したそれを防がれた動揺。
 スローのように引き伸ばされた時間の中で、美鈴の目がそれを捉える。
 機は、まさに今ここ。
 拳を振りかぶる動きに合わせ、相手にさらに左足を一歩踏み込む。
 地震でも起こさんとするような、力強い震脚。
 その音が届く前に、左腕は下に、右腕は体を回すように斜め上後方に振り。
 肩を相手の胸へ、照準をつけ。
「大爆発のことよ」
 気は、すでに破裂せんばかりに。
「――ッ!?」
 完全にカウンター。避ける間はなくとも、目だけがそれを捉えた黒女の表情は、気の抜けたようで。
 肩から、そして背。
 体を回すように、渾身でぶつけ、打つ。
 拳は握りしめ。接触、衝撃、同時にありったけの気を全て流し込み。
 体はすでにほぼ半回転、背中全面が相手を打つ頃になってようやく。
 本当に、何かが爆発するような音が追いついて、響き。
 爆音と共に、その打を受けた黒女が、叩きつけた毬のように、風に舞う木の葉のように、地面を数回バウンドしながら、くるくると吹っ飛んでいった。
 観衆達が、その一瞬で、今までの声を飲み込んで、見えた光景はようやくそこからだった。
「――っはぁ!はぁっ……はぁぁ……」
 踏み込んだ地面はへこみ、亀裂すら走るそこに佇み、相手に背を向けた――打を放った形のまま、美鈴が荒い息をつく。
 跳ねる、跳ねる、転がる、転がる、転がる――。
 着地数メートルの地点で、ごろごろと、ようやく黒女が止まった。止まり、転がり倒れたままぴくりとも動かない。
「や……やりすぎでしょ……」
 気と、打の衝撃の残滓で、煙すら立ち昇る美鈴の背を見て、魔女が低く呟いた。


 本来ならここで歓声でも上がるところだが、決勝打のあまりの凄まじさに、しばしリアクションを忘れる観衆達。
 と、ボロボロの美鈴が、突如ぜんまい仕掛けのようにぎりぎりと動き出し。
 振り向き、黒女のぶっ飛んで行った方向を確認すると、ゆっくりと、やや引きずるように歩きながら、そのぐったりとした死に体に近づき始めた。
「と、とどめや……とどめを刺す気や……」
 メイドの一人があわあわと呟く。
 もはや応援どころではない、全員固唾を呑んで見守る中、美鈴は行く。
「……っ……!?……っは……!」
 姿を確認出来るほどまでに近づけば、それが痙攣するように震え、必死で動こうとしながら、小さく呻いているのが見えた。
「立てないでしょ。当り前よ、ありったけの気をぶち込んだ」
 並の妖怪なら、三日はまともに動けない。
 美鈴は静かに語りかけながら、震えるその体を足元に見下ろす位置に立つ。
 しかし、動けぬはずのその体は、どうにかして力を振り絞り、うつ伏せの状態から仰向けになり、美鈴の顔を見上げた。
「ええ……っ……すさまじい……完全に、負け……ですよ……」
 大きく息を吸い、酸素の足らない肺に必死に送り込みながら、途切れ途切れに黒女が声を発する。
「そうね、そしてこれで……」
 美鈴はその体を跨いで、拳を振り上げる。
 黒女の苦しそうな顔が、それを確認して、確かに少しだけ微笑み。
「終わり!!」
 振り下ろす、狙いは頭。完全に叩き潰すつもりで。

 全員、今度は咲夜も反応出来ない中で、その拳は。
「――なんてね」
 前回のように、ぴたりと、当たるべき鼻先ぎりぎりで止まっていた。
 美鈴が黒女のぽかんとした表情を見て、少し吹き出し。
 しゃがみ込むようにしていた体を伸ばし、直立になって、メイド達の方を振り返ると。
「勝利!!」
 笑いながら、ぐっと親指を立てて前に突き出し、そう叫んだ。
 決着であった。


 今度こそ本当に、割れんばかりの歓声が。
 いやっほうと飛び上がる一部のメイドの姿と、それに混じって跳ねる咲夜。
 着地して後、もう我慢できんとばかりに駆け出したのは、誰が先だっただろうか。
 それでも、美鈴に向って走る先頭は、きっちり、その銀の髪で。
 他のみんなを、押し合って転ばないように、微妙に速度調整させながら、それでも自分も走り寄るのは緑の髪で。
「ええい、ちょ、待ちなさい!!誰か!担げー!!」
 叫びながら、先頭集団から遅れて、よろよろと走るのは紫の髪で。
 美鈴はその光景をちらと見てから、視線を黒女を見下ろすそれに。
「私の決意は、まあ、こんなものよ」
 今度こそ気の抜けた表情で、その言葉に反応する黒女。
「……確かに、私は恨まれてるかもね。あんただって、私がのうのうと生きているのは、耐えられないのかもしれない」
 美鈴の表情は少しだけ曇る。
「それでも、そういう誰かに対して、私が謝罪しかあげられないのは変わらない。本当は、懺悔ってのはこんなもんじゃなくて、求められるなら、命すら差し出して償う想いで生きなきゃいけないのかもしれないけれど」
 しかし、曇る表情を無理矢理にでも、笑顔に変え。
「それでも私は、そう思うべき罪を、預けてしまったから」
 運命に逆らって、なお折れることないその背中に、背負ってもらってしまったから。
「だから、せめて、それでも楽しく生きていたいと思うことだけでも、許して欲しい」
 そうして、素直に頭を下げた。
「――すまない」
 その謝罪に、黒女は少しだけ微笑み、美鈴を見ていた視線を空に向ける。
 ややあって、頭を上げた美鈴の横で、何やら物凄い足踏みの音が近づき過ぎてるような。
 気づいて、横を向こうとした瞬間。
「お母さーん!!」
「家令長ー!!」
「やりましたねー!!」
 視界がいきなり垂直に傾く。
「のぉわ!?」
 ズタボロの体に、脇から追い打ちのように仕掛けられた二、三人の全速力タックルを受けて、叫びながら美鈴は地面にひっくり返った。
「痛ったたた!いや、本当に痛い!?何!?」
 急いで身を起こせば、お腹のあたりに抱きついてこっちを見上げる、一番最初の到着者のその姿。
「ご、ごめん、お母さん!大丈夫!?」
 そして、その下に、足の先までずらずらと、着順に抱きついてくるメイド達。
「す、すいません!嬉しすぎて怪我してたの忘れてました!」
「ていうか、私に乗ってるの誰ー!?おもーい!」
「ああ、もう!上の方から離れていきなさい!」
 緑髪がその簡易ピラミッドを引っぺがしながら叫ぶのを聞いて、美鈴は笑う。
 そして、目の前の、心配そうに覗き込む蒼い瞳を覗き返しながら。
「はいはい、大丈夫だよ。咲夜こそ、勢いよく飛びついて、怪我ない?」
「うん!」
 満面で頬笑み合いながら、美鈴はその銀色の髪を撫でた。
 その光景を見るメイド達の間にも、その笑顔がうつっていく――。
「ははっ、ははははは!」
 と、突如、広がろうとする笑い声に、聞き覚えのないそれが混ざって、何事かと静まり返った。
「いや、すいません……私です」
 その、やや不思議な沈黙に、寝転がって空を見たままの黒女が、悪いと思ったのか名乗り出た。
「……ねえ、美鈴さん」
 初めて、名を呼んだ気がする。
「私は、本当はね、友人の仇なんてどうでもよかったんですよ」
 返事はない。聞こえていなくても、続けるつもりではあるが。
「いや、どうでもいいなんてことはないですが、優先度は低かったんです。何せ、私らには短くても、人には遠い過去のことですし」
 見上げる空が、青い。
「友人は、納得ずくで逝きました。噂の吸血鬼に喧嘩を売るんだ、なんて馬鹿なことを、笑いながら言って。一方的な虐殺ではなく、ちゃんとした決闘の上でのことなら、妖怪の間でそれは、何ら咎められることではない」
 青すぎて。だから、軋む体を必死に動かし、手で視界を覆い隠す。
「……きっと私は、羨ましかったんです。妖怪としての公正なる果し合いの末に、自分より強力な誰かに負けて、あっちに旅立った友人が」
 ――羨ましいのは、本当にその生き方だけだっただろうか?しかし、今となってはそれこそどうでもいい。
「だから、私もそうなりたかった。そして、せめてそうやって果てるとしても、誰かに、私は何て強敵だったと、憶えて欲しかった。それで、修行なんてして」
 今思い返せば、なんとも呆れてしまう。少し、自嘲気味の笑いが漏れ出た。
「だって、私は妖怪です。妖怪なんです。そういう風に生きることしか、私には出来ないんですよ――」
 その時、誰かが、勢いよく立ちあがる音が聞こえて、最後の言葉にかぶさるように。
「違うもん!!」

 美鈴は、自分の腹から勢いよく立ちあがった咲夜を驚いて見つめ。
「そんなことないよ!」
 メイド達も、目を丸くして、その小さな体が、寝ころぶ妖怪に近づいていくのを呆然と。
「違う生き方だって、妖怪だって、きっとできる!だって」
 近づいて、本当に驚いてこちらを見る妖怪の片手を、両手で掴む。
「この館の人達は、みんな、みんな、優しいもの!」
 咲夜は、自分でもよくわからず必死だったし、少し怒ってもいた。
 だって、自分を変えてくれたのは、その妖怪のみんななのだ。
「お母さんだって!」
 美鈴が、小首をかしげながら自分を指さす。
「メイドのみんなだって!」
 全員が、またもぽかんと自分を指さし。
「ぱ、パチュリー様だって!」
 言い淀みに複雑な感情が表れていたと思われるが、幸い、ようやっと走り終え、到着したばかりのパチュリーに気にする余裕はなかった。
 ぜひぜひと息を荒げながら、呼ばれた己の名に、またもわけもわからず、確認を取る様に自分を指さして。
「お嬢様だって!」
 その頃丁度布団の中で勢いよくクシャミをしたレミリアは、突然の己の不調に驚愕し、風邪の心配をした。
「みんな、みんな、優しいもん!」
 そうだ、自分に、そう生きたいと思わせてくれたのは、その妖怪のみんなで。
 だから、掴んだその手を、必死に起き上がらせようと引っ張る。
「だから、あなただって、この館で暮らせば、きっと……!」
 必死に引っ張って、引っ張られて、その上半身は半ば腹筋が辛い体勢まで起き上がる。
 目の前、美鈴が、笑いだすのが見えた。つられて、メイド達が。
 何より、本当に本気の顔で、自分を引っ張るその少女の姿。
 知らず、己も少し吹き出して。自嘲でも、演技でもない、本当に久しぶりの、自然な笑顔で。
 握られた、その手を――。
















 手を、握られた。
「うひゃぁ!?」
 慌てて、感触のする方を向けば。
「おお、いい声」
 真っ黒い、墨のような髪。それを後ろで高くまとめて、館を動く全員と同じメイド服。
「……な、何よ、副長」
 咲夜は握られた手を振り解き、まだ落ち着かない心臓で、その人物に訊ね返す。
「何はあなたですよ、メイド長。呼び止めても、通り過ぎようとするし」
 内勤副長、内勤トップとしてのメイド長の補佐。咲夜より少しだけ背の高いその人物は、無表情にそう告げる。
 それは機嫌が悪いわけでも、怒ってるわけでもなく、大体いつもこんな顔なのだ。
「――そう?ごめんなさいね」
 咲夜は常の冷静を被り直すと、澄ました顔で。
「それと、顔。さっきまですごい不機嫌そうでしたよ」
 じくりと、痛いところを突かれて、咲夜の顔が少し崩れ。
「ははん、親子喧嘩ですな、咲夜ちゃん」
 無表情を、少しだけ笑みに歪ませてそう指摘する黒髪の副長。
 が、言った次の瞬間、首をさっと横に傾け。
 さっきまでの頭の位置を凄まじい速度で通り抜けたナイフが、背後の壁に突き刺さっていた。
「優しくない……」
 頭を元の位置にゆっくり戻しながら。
「優しいわよ、避けさせてあげたんだから」
 咲夜は冷たい笑顔で。いつの間にか、刺さったナイフはその手元に戻っていた。
「それで、呼び止めた用は何?」
 いつものメイド長が、話を戻す。
「ええ、パチュリー様が紅茶を持ってきてほしいとのことで」
 その報告に、咲夜は傍目からは判別できない、微妙に嫌そうな顔をした。



 意識が、潜っていた底から、水面へ顔を出すように、表層へ引き上げられ――。
 仰向けに、腕を枕にして眠っていたはずの美鈴の体。
 いきなり片足をずばっと動かして、見事な柔軟さで足の甲を顔の前に来るまで曲げ上げる。
 その意図は、足の裏での防御。タイミングばっちりで、その上に氷塊が落ちてきて、見事に乗せてキャッチ。
「げっ!?」
 目をつぶったままの美鈴の顔の上で、驚愕の呻きが聞こえた。
 ちょいと足の先だけ動かし、氷をどこかへ放ると、さらに背を少し逸らして、足をさらに顔の先、頭の上の辺りまでやる。
 そこからふわっと、足を半円を描くように戻そうとすると、途中の辺りでふくらはぎに何かが乗る感触と抵抗。
「あらっ!?」
 それはまさしく誰かの股の間。少し力を入れて、足に乗ったそれを上へ跳ね上げる。
「うわわ!」
 空中で慌てた声を出してるそれを、まだ目をつぶったまま美鈴は確認しない。
 一度すこんと、触れるように蹴ってその体を回転させて、そいつの正面に自分が来るように調整。
「おうっ!」
 落ちてきたタイミングで、跳ね上げたその足の脛の部分でそいつの股の間を、すとんと優しく受け止めて。
「わわわわ!?」
 足を傾斜にすれば、脛に乗ったその小さな体は、足のレールを一回でんぐり返って、腹の上に跨いで座り込んだ感じで止まった。
「うむむ……ぐるぐるする……」
 目を回す姿、その青い髪と服、どでかいリボンを、美鈴は首だけ動かして、ようやく目を開けて確認し。
「おはよう、チルノ」
「むむ……!お、おはよう、美鈴」
 その妖精は、回していた目を頑張って戻しながら、美鈴の腹の上でふんぞり返った。

 逢魔が時の紅魔館、燃えるような夕日の照り付ける正門の上に、紅と青。
 相変わらず仰向け、手を枕に寝転がったままの美鈴と、その腹の上に乗って悔しがるチルノ。
「あー!何でバレたの!?完全に寝てると思ったのに……」
 バタバタと手を振るチルノは、美鈴の帽子を握っている。
「まだまだ修行が足りないね。バレバレだったわよ」
 美鈴は欠伸一つと共に、悠々と。
「わかった!帽子をどけた時に気づいたんだな!?うむぅ、帽子の上から落とすべきだった……」
 妖精とは元来、悪戯をするために生きているようなもので、チルノも例外ではない。
 いつも門の上で寝てる美鈴である。湖を縄張りとするチルノは、この近所の偉そうな館に、幾度となく悪戯しに来襲し、全ての試みでこの門番に対してのそれは返り討ちにあっていた。
 最近唯一無敗を誇る、美鈴の趣味の一つである。
 美鈴は思案顔で失敗の理由を考えたり、と思えば急に思い出したように悔しさにのたうつ、その落ち着きのない姿を見て、くすっと笑う。
 誰かと重なる、その姿を。
「……」
 ――懐かしい夢を、見ていた気がする。そんなもの見たところで、何も変わらないのだけど。
 現状、自分が弱い理由を思い出したくらいだ。忘れていたわけでもないんだが……。
「それで納得してくれないのかね……お姫様は」
 暮れる空に合わせて吐いたメランコリックな文句に、チルノが気づいて動きを止める。
「ん?どったの、美鈴?冴えない顔しちゃってさ」
 不思議そうに覗き込んでくる青を、ちらっと視線を下げて捕まえて。
「いや、ちょっと最近ねぇ……負けが込んでて、悩んでるのよ。自分の弱さに」
 その言葉に、チルノはぶすっとした表情になると。
「何言っちゃってるのさ。美鈴、あたいよりもっと強いじゃないの」
 そう言って、その後に。
「まあ、あたいはまだ最強の途中だから、いずれ追い越しちゃうけどね」
 得意顔で胸を張る。本当にころころと、よく変わる表情。
「そうね……追い越されるのは、案外早いかもしれないわね」
 弱々しく笑いながら、そう呟いた。
 チルノがまた、ぽかんとした表情になるのを見ながら。
「私は、これ以上は強くなれないんだよ――力も、どんどん落ちてくし……」
 それは、目の前の妖精に語りかけているわけではない。
 どこか遠くに向けて、ぽつぽつと、力なく漏らす。
「だから……」
「どっせぇぇい!!」
「ぐっふぅ!?」
 胸に突然の衝撃。
 正体は、突如立ち上がり、飛びあがってボディープレスを仕掛けてきたチルノであった。
「な、なにすんのよ……」
 ごほごほと、咽ながら問い質す美鈴の前に、ぐいっとチルノの顔が近づいて。
「美鈴、かっこ悪い!!」
 生来吊り上がり気味の目をさらに上げて、チルノは叫ぶ。
「か、かっこ悪い?」
「そうよ、かっこ悪い!何よ、さっきから文句ばっかり!自分は弱い弱いって諦めちゃって!」
 捲し立てるチルノに、美鈴もむっとした表情で。
「だって――仕方ないでしょ、あんたとは違うのよ」
 そうだ、私は、昔と同じじゃないのに。
「そんなことない!!――たとえ、そうだって、止まったままはダサいでしょ!?」
 チルノはさらに音量を上げて叫ぶ。
「あたいは強くなるけど、美鈴も強くなって欲しいもん!もう強くなれないって、諦めて、止まったまんまなんかで居てほしくない!」
 チルノは真っ直ぐ美鈴を見つめる。力強い瞳、何も言い返させないと言わんばかりの。
「弱くなるって、それで止まっちゃうことなの!それがかっこ悪いって言うのよ!!」
 一際大きくそう言って、チルノの言葉は止まった。美鈴を見たまま、一気に喋り過ぎて酸素不足の妖精が、荒い息をつく。
 美鈴はしばし、雷に打たれたように呆然としていたが。
「――私は、まだ、止まってないのかな」
 ぽつりと、そう訊ね返して、のしかかられていた上半身を起こす。
「わわ!?」
 胸の上にいた妖精は、ずるっと腿の上に。
「どうかしら?」
 少しだけ、いつも馬鹿なくせに、肝心の本質だけは本能で理解しているこの妖精にすがりたい気持ちだった。
「――止まってたって、また歩き出せばいいじゃないの。少なくともまだ、あたいより強いんだから」
 自分を見つめる、美鈴の瞳を、見上げるふうに見つめ返しながら、チルノは言い返す。
 まだ、ここから歩けって――。突き放された気分だったけれど、それが心地いい。
「きついなあ……」
 歩く力は、残っているのだろうか。けれど、まあ。
「そうね、お前に負けたら終わりだな」
「あにさ!?」
 くすっと笑って、かっと怒った表情になる妖精の、その青い髪を撫でる。
「ありがとう、チルノ」
 そう言って、優しく撫でていく内に、緩んでくるその怒り顔。
 日はもうすぐ沈む。空には群青が混じり始めて――。



「ついてこなくたっていいじゃない」
 トレーにティーセットをのせて、図書館へ向かう咲夜。
「仕事は終わってますもの。暇つぶしです」
 その後ろからついていく副長。
 こう言う時は、本当に仕事を終わらせているから食えない妖怪なのである。
「あー、もう。優秀な補佐を持てて幸せだわ」
 諦めて、急ぐ。図書館への道のりは、昔と比べて、とかく長くなってしまった。
 魔女要塞の主、直々に望んだ配置である。
「魔理沙はどうなったのかしら……」
 ふと、口をついて出た疑問に。
「あの娘っ子なら、今日も追撃を振り切って二階の窓からガラスをぶち破って逃げていきましたよ」
 目に浮かぶ。咲夜は苦悩の表情で、あの悪友をいずれ一発ぶん殴る腹を決め。
「ええい、お茶の宅配です!」
 悩めるテンションのままに、到着した図書館の馬鹿でかい扉を、叫びながら開ける。
「メイド長、瀟洒、瀟洒」
 後ろから小声で指摘が入れば。
「……紅茶を頼まれましたの、パチュリー様に、おほほ」
 すわ何事かという顔でこちらを見る小悪魔に、丁寧に取り繕う。
「え、ええ……ええ。素敵なデリバリー、御苦労さまです」
 扉のすぐ側には、カウンターのように立派な机が置かれ、大抵そこで作業していて、今もしていた小悪魔が、引き攣った笑顔で応対。
 童女のような体躯と、肩につく長さの深く濁った赤い髪、親切心からか、頭の横にわかりやすい羽がついた、黒いワンピースの素敵な司書である。
「我が主は、あちら……の、またいつもの奥の方に、わはは」
 小悪魔は、とりあえず気まずくなりかける場の雰囲気を晴らそうと画策。
 主人の場所を伝えるということで達成しようとしたそれは、ここからその姿を確認出来ないので断念となった。
「わかっておりますわ。そちらこそ、司書のお勤め御苦労さまです」
 咲夜は優しげな笑顔で、その必要がないことを伝える。
 そう、目の前に広がる魔女要塞のそれは、本に埋まりそうだった昔とは違う。
 それは一種、館とは別の建物とでも見紛うような広さと複雑さ。
 相も変わらず陽の光は一切入って来ないが、幾多もの照明に照らされる、薄暗くも、落ち着いた雰囲気の室内。
 その壁、上下左右も全てをびっしりと本棚。さらに、通路を新たに作る様に壁から離れた内部にも本棚。
 数えるのも辟易する程の本棚をもって、ようやく魔女の蔵書は全て収まること相成った。
 床にはもう、本の塔など一つもない。それどころか、埃も、汚れも。あろうことか、数人の妖精メイド達まで、妖怪メイドの監督の下、本の整理や掃除に動いているほどである。
 現在のこれは、大分あの魔女の理想に近づいたのではあるまいかと、咲夜は一人静かにそう思った。
 ――と、思う視界の隅。小悪魔が真顔で、咲夜をちょいちょいと手招き。
「……余計なことかもしれませんがね、ストレスは溜めない方がいいですよ、美容の大敵ですからね、ええ」
 何事かと寄せた顔に、ひそひそとそう語りかける。本気の声色である。
 少し顔を離して、にこにこと笑顔を返しながら。
「さっきのは、忘れた方がいいですよ」
 耳元で。
 理解してくれた小悪魔も、つられてにこにこ顔で、ぶんぶんと残像を作らんばかりの勢いで首を縦に振る。
 そしてその笑顔のまま、どうぞどうぞと何故だか必死のジェスチャーで図書館の奥へ招き入れるのを、また笑顔で享受し。
 パーフェクトメイドは行く、その後ろに若干呆れ顔の供を連れて。

 魔女の居場所はすぐわかる、何せ。
「あー……」
 来る度に、溜息が漏れるのを誰が止められよう。
 増えた家具、図書閲覧用の長机が数個、利用者のために置かれるようになっても、一つだけ、その年季の入った物書き机は変わらない。
 一般開放(真面目な利用者は館の住人以外滅多に訪れないが)区画から、御家の恥とばかりに、巧妙に本棚で見えないように隠されたそこに、この図書館の主。
 そう、目の前の、昔から一向に整理されない、本の塔と、散乱する羊皮紙と、その他文具雑貨で構成された彼女の城。
「紅茶を、お持ち、しました!」
 副長と協力し、主を覆い隠す本の塔を左右にがっと退けて。
「そう、御苦労」
 その言葉、急に開いた目の前に、本と睨み合いを続けながら、顔も上げずに魔女は応えた。

 いかん、と、副長は無表情に思った。危機感の感じられない表情だが、やや真剣である。
 咲夜の笑顔が濃くなっている。危険な兆候である。
「はい、どうぞ、パチュリー様」
 そんな副長の考えとは裏腹に、優しい声で差し出された紅茶を、魔女は本を読み続けたまま受け取って。
「そう言えば、何やら怒鳴り声が聞こえたような気がしたのだけれど」
 ずず、と、一口啜って、そう切り出した。
「気のせいじゃないでしょうか」
 むしろ、答える咲夜の笑顔が引き攣って見えるのを、気のせいだと思いたい。
「そうかしら。ま、そうよね、ええ」
 特に深く追求するでもなく、パチュリーは話を打ち切った。
「それより、今日の魔理沙はどうされたのですか?」
 今度は咲夜が切り込む。明らかに疑問以上のものが込められたそれであるが。
「逃がしたわよ。あの白黒鼠、日に日にこういう腕だけ上がっている気がするわね。年寄りには捕まえるのがきついの何の」
 そう言って、突如本から視線をあげると、咲夜の顔を見つめる。
 笑顔に少し疑問を混ぜる咲夜。魔女はその目から何かを掴み取ったように。
「何かあったでしょ」
 途端、少々居心地悪そうになった咲夜の表情を見て、ふっと魔女は笑う。
「さっきの話題、自分で出しといて、そんな顔してちゃいけないわよね」
「……わかるんですか」
 咲夜は、苦々しい顔のまま。そこに、普段のメイド長はいない。
「わからいでか。怒ってたり、悲しんでたりなんてね、隠してたって、思っている以上に表に出るものよ。まあ、怒ってるのはすぐわかったけど」
 ぱたんと、本を閉じると、呆れたように笑って、パチュリーはようやく向き合う。
「感情なんて、押さえつけるもんじゃないわ。お前はそこら辺が未熟よ、咲夜」
 少し冷めてきた紅茶をぐいと飲みながら。
「親子喧嘩でしょ」
「……違います」
 咲夜は、視線を外して、呟くように答える。
「じゃあ、使えない部下と言い争った。こう表現した方が、お前の好みかしら」
 咲夜は、一瞬かっとなった表情を向け、しかし、それを押さえつける。冷たい目で、魔女を睨み。
 それを受けて動じず、魔女は半分まで飲み干した紅茶に、机のどこかから引っ張り出してきたブランデーをどくどくと注ぐ。
「……またその飲み方」
「ええ、こればかりはどう言われようとやめられないわね」
 それをまた、ぐいと煽り。
「やめられないのは――変わらないのは、それだけじゃないじゃないですか。その机だって、真面目な司書はもう来たっていうのに」
 咲夜は、とにかく何かを言い返したかった。このまま、この話題を攻め続けられるのが嫌だ。言い返している内に、話題が逸れてくれればいい。まったく、どいつもこいつも――。
「ああ、これはねえ……仕方ないわよ、片づけられないのは、学者や魔法使いの習性みたいなもので。逆にそういう人種で綺麗にしてる奴が見てみたいわね、きっと物凄い変人だろうな」
 自分を上げた棚が高すぎて見えない発言であった。若干、険しかった顔が呆れに緩む咲夜。
「まあ、そうね、私は変わらないわ。多少のことではね。――でも、美鈴は変わった」
 何気ない風に魔女はそう言ったが、咲夜が硬直するには十分だった。
「それが、咲夜には受け入れられないことかしら?――話を変えようとでも思った?甘い甘い」
 魔女のその笑顔は、楽しんでいるわけではない、仕方のないといった風で。
「――耐えられなくて、抱えきれないようなものならね、私に吐き出してごらんなさい。少なくとも私は、そういう立場だと自負しているのだけれど」
 悪魔の善き友人は、少しだけ優しく笑う。

 そう言う風に、見透かされるように笑われるのを、悔しいと思うようになったのはいつからだったろうか。
「……わかりませんよ、パチュリー様には」
 咲夜はぶすっと、呟くように。
「わかってるわよ、咲夜よりは」
「私より?」
 はっ、と、咲夜は口を歪ませる。
「ええ、美鈴のことならね。大丈夫よ、あれは」
 パチュリーも、対抗していやらしい笑みを浮かべる。人を馬鹿にしたような笑いなら、本家をなめてはいけない。
「どんな風になったってね、肝心なとこは変わらないって」
「――恨んでないんですか、門番のことを」
 本泥棒を通す彼女に、いい気分は抱いていないだろうと。ちょっとだけ、そう考えて、警戒していた。
 咲夜はむっとした表情の中に、恐る恐るといった感情や、意外といった気持ちも込めて。
 子供のようにころころと変わるそれを見て、パチュリーは嬉しそうに。
「恨んでるわよ、時々は」
「何ですかそれ」
 からかわれているのだろうかと構える咲夜。しかし、魔女にそのつもりはない。
「そんなものってことよ。時々恨むし、時々怒る。誰にだってね、お嬢様にもよ。だから喧嘩もする」
 目をつぶって思う。時折、酒の肴の最後の一個を争って殴り合う友を。だって、あの天ぷら、レミィが絶対一個ちょろまかしてたわ。うん、絶対。
「でも、根幹ではこう思ってる。美鈴は、この館に危害を加える者なら、絶対に通さないし」
 そう、昼寝してたって、誰かに負けたって、弱くなったって。
「どんな風になっても、私の誇れる友の一人であってくれるとね」
 自分の癖のように、変わらないものがまだまだ残っているのだと。
「本を守り切れないのは、私の失態であり、責任よ。多少は諦めてもいる。楽しんでも、ね。こんなもんは、魔法使い同士の、避けられない衝突だわよ」
 ――本当はずっと聞くのが怖かった本心を、あっさりと吐露してくれるのだから、咲夜はやり切れない。
「しかし、門前で追い返してくれないのは時々恨む。でもまあ、信頼はそれより勝ってるわよ。――魔理沙だってね。彼奴への恨みと好感の比率はひっくり返ってるけども」
 彼女は、私の母親も、悪友も、心底悪くは思っていないのだ。少しだけ、心が軽くなる。
「――信じてるんですね……」
 咲夜は、少し俯いて。
「ええ、咲夜が信じるよりはね」
 妖しい笑顔で、魔女。それは、ちょっとした悪ふざけのつもりであったのだが。
「――ッ!?」
 やってはいけない最後の一突きであった。
「……私だって……」
 俯いたまま、咲夜はぼそぼそと呟く。咲夜の中で少しだけ軽くなった心が、もう少し吐き出してもいいんじゃないかと告げている。そうだ、からかわれた勢いに任せて。
 後ろで成り行きを見守っていた副長が、ヤバいといった表情になる。無表情と変わりがないようにも見えるが、ヤバいのだ。
「私だって、わかってますよ!!そんなこと!!」
 顔をがばっと上げて、咲夜が叫ぶ。その顔は、どうにもならない感情を持て余す子供のような。
「をわ!?」
 慌てて頭を下げた魔女。頭上をナイフが通り抜け、逃げ遅れた帽子をさらっていく。
「どんな風になっても、本当の本当は変わってないんだって!!いつまでも、そうであってくれるって!!」
「おう!?」
 今度は顔面に二、三本迫りくるそれを、何とか指の間で挟んでキャッチ。言うまでもなくマグレであった。
「でも、それでも、ちょっとくらい、昔みたいにかっこいいお母さんで!そんな風な姿を見せて欲しいって!」
 叫びながら、やったらめったらにナイフを投げ続ける咲夜。
「そう思うくらい、いいじゃないですかー!!」
 完全にキレていた。
「お、お、落ち着きなさい咲夜!ステイ!」
 もはやアクロバティックな動きを見せつつ奇跡のグレイズ避けを続けながら、叫ぶパチュリー。
「からかいすぎ」
 被害を受けないように後ろに下がりながら、副長が溜息と共に呟く。
「ふざけすぎ」
「自業自得」
 天井に近い上の方の本の整理をしていた、古参の妖怪メイドも楽しそうに呟く。
「そして、それでこそ我が主」
 盛大に弾幕の音が響きだした図書館の奥の方を見ながら、小悪魔は嬉しそうに。
「ええいもう、それでしか本音を語れないってんなら!仕方ないわよね、咲夜――喧嘩ぁ、上等よぉぉ!!」
 もう、あきらめた溜息をついて笑うと、空中に飛び上がって魔女は叫ぶ。

「はいはい、みんな避難はこっちですよ」
 突如始まった弾幕戦に、おろおろと、どうしていいかわからずに固まっていた妖精メイド達を、副長がまとめ上げて。
「今日の仕事は一時中断です。食堂に行って、晩御飯でも待ってなさい」
 はーい、と、返事しながら図書館から出て行くのを、無表情に見送る。いや、微妙に微笑んでいるのだが。
「さて、私も一応避難しますけど、あなたはよろしいので?」
 副長が横を向けば、司書受け付け用机、そこに座って、持ち手の棒付きのオペラグラスを覗く小悪魔。
「ええ、ええ、よござんすよ。をほほ。面白そうですし」
 持った小道具に合わせた口調でそう返答。オペラグラスから視線を外さず、必死で逃げ回る主を捉え続ける。
「何より、私は司書ですもの。本を守らなければいけませんの」
 副長は、この肝が太いのか細いのか、よくわからない、ただ非常にノリだけはいい悪魔に訝しげな視線を向ける。
「いつもながら、よくわかりませんねえ、あなたは。ま、怪我だけはしませんように」
 小悪魔は、片手をささっと振るだけで応える。
「まあ、たまにはこういうのも、あの子のためにはいいんでしょうね」
 出て行く前にちらと、図書館を飛び回りながらナイフを乱投する咲夜の姿を見て、溜息をついた。

 しかし、二人とも忘れてはいけなかった。地下にはもう一人、住人がいるのだということを。
「うるっせええぇぇぁぁ!!」
 見事な巻き舌の叫びと共に、封印されてたようなされてなかったような豪勢な扉が蹴破られる。
 地下掃除担当の妖精メイド達がわーわーと、何故だか嬉しそうに叫びながら逃げてくる後ろから。
 真っ赤なオーラでも立ち昇らせんばかりの雰囲気をまとい、流れるような金の髪。
 紅い洋服、宝石のような異形の羽を揺らし、どすんどすんと廊下を歩く悪魔の妹が現れた。
「まさか物理的に騒々しいとは思わんかったわ……」
 いつかのことを、思いだすように呟きながら。
 何せ地下室、音がとにかく響きやすい、特に弾幕。一日に何回も何回も図書館で首領蜂やられては、落ち着いて茶も飲めなきゃ、本も読めない。
「おらおら、早く逃げなきゃ喰っちまうわよ!」
「きゃー!きゃー!」
 逃げ惑う妖精メイド達にサービスの脅しを。姉より残忍な言い回しな辺りが、札付きの所以である。
 怒りのままに、図書館前につけば、またも扉を蹴破って。
「いい加減に、しろぉぉ!!」
 カチコミ。
 ――数瞬後、蹴破られた扉から。
「熱ぅぅ!?誰か、水を!!ウォーターを!!」
 物理的な意味で尻に火がついた小悪魔が這う這うの体で逃げ出して来た。
 悪魔の館の毎日は、本当に騒々しい。





 いつも通りの、騒々しい夜が明けて翌日。
 いつもの昼下がりを、美鈴は昼寝じゃなく、門の上で座り込んで瞑想しながら過ごしていた。
 色々と考え込むにはこれがいい。いや、本来は邪念を祓って、無の境地に立つ目的の修行のはずなんだが。
「も、門番長が修行を……か、かっこいいです!あれが強さの秘密ですね!」
 背後から妖精メイド達の声が聞こえる。そう言われる気分は悪くない、悪くないけど、別にこれやったから強くなるわけじゃないぞ。
「いえ、あれはそう見せかけた居眠りのパターンですから、近づいちゃいけませんよ」
 緑髪の外勤副長の声。いくらなんでも辛辣に過ぎやしないだろうか、寝てない、寝てないよ私は。
 心の中で、溜息を吐く。まあ、仕方ないか。
 思い返すは、昨日の夜――。

「……何かありましたか?」
 久しぶりに、魔女から呑もうと誘われた美鈴は、夜勤以外のメイドも眠る丑三つ時に訪れた図書館を見回して。
 まあ、中々どうして、酷い有様であった。本棚は倒れ、所々本は散乱し、閲覧机はひっくり返り、小悪魔は苦悩の表情で司書机にうつ伏せで眠っている。その尻には何故か氷嚢が。
「何かありましたか!?ありましたよ!」
 物書き机の城壁を左右へどかし、多少のスペースを作ると、パチュリーは突然半ギレで叫ぶ。
 美鈴は面食らった表情で肩をすくめると、ひっくり返ったそこらへんから椅子を一脚発掘し、物書き机の真向かいに置いて座る。
 魔女はむすっと、まあ普段より不機嫌の色が濃い表情で、スコッチの酒瓶とグラスを二つ、机のどこかから取り出して。
「まあ、呑みながら話すわよ。色々とね」
 声を落ちつけて言うと、美鈴にグラスを投げ渡し。
 まず自分のを注ぎ、そして、差し出す美鈴のそれにもなみなみと注いだ。

 二人で一瓶空ける頃には、大体の顛末を聞き終えて。
 美鈴は、少々苦悩した表情で、机に片肘をつけて、顔を抱え込むよう。
「――咲夜は……」
 溜息と共に。
「もう、私に、母親を求めていないのかと思ってたんですけどね……」
 その言葉に、眼差しを少し優しくしながら、魔女はグラスを傾けると。
「子供はね……いつまでだって求めてるわよ、全面的ではなくとも、少しはね。それに、求めてるのは咲夜だけじゃないだろうし」
 だらしない姿勢のまま、パチュリーに視線を向けて。
「そういうものですか……そうか……」
 緑髪の態度を思い返す。あれは、そういうことだったのだろうか。
「少しは、気づいてたんじゃないの?」
「まあ、諦めることで、言い訳して――目は背けてたかもしれませんね」
 向き合うのが、怖かったわけじゃない。ただ、頃合いかと勝手に思い込んでいただけで。
「そんなものはないし……生きている限りは……」
 ダサいまんまじゃ、また怒られる。
「そうね。たまにはかっこいいとこ、見せてあげたら?」
 魔女が、からからと笑う。
「……ええ、まあ、少しくらいは。頑張るとしましょうか」
 顔を上げて、背筋を伸ばす。
「自信の方は、良さそうね?そっちも必要かと思ったけど」
「そっちの方も、少し前に発破をかけられましてね」
 一気にグラスを飲み干す、体に火を入れるように。
「へえ、誰に?」
「もう一人の、我が良き友人に」
 青い髪の氷精と、そして目の前の――。
「……ありがとう、パチュリー」
 滅多には言わない、その言葉。顔を見合せて、二人は笑う。

 考え込む意識の端に、その感覚が届く。
 流星のような勢いで、近づいてくる。
「勝つって思って、勝てるなら、苦労はないんだけどね」
 美鈴はゆっくり目を開いて、空を見る。
「あの時みたいな切羽詰まった状況でもないけど……まあ、出来るだけは頑張ってみるか」
 立ち上がって、門から飛び降りると、すぐ近くで妖精メイド達の作業を監督していた緑髪に歩み寄る。
「あら、おはようございます」
 こちらに気づいて、そう事務的な笑顔を向ける我が副長に苦笑しつつ。
「ごめん、ごめん」
 美鈴の背に届くような人物は、館にいない。鼻の先くらいまで近づくと、少し見下ろしながらその頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「わっ!?えっ、ちょ、何ですか!?」
「今日は勝ってくるよ」
 生真面目な表情を崩して、ぽかんと見上げるそのメイドに、満面の笑みを。
「だから、みんなと一緒に応援しててちょうだい」
 一気に茹であがったようになるその頬を見て、緑色の頭を軽くぽんぽんと叩くと、美鈴は門の方へ歩き去っていった。


 酒も好きだが、紅茶も好きだ。
 そしてとにかく、好きなものを楽しんで生きるのが、この館の当主である。
 今日も己が世界を見渡す正面テラスにて。
「そしてここに繋がる運命、ってね」
 日陰を作るパラソルの下、緩やかな傾斜を作るチェアに、その身、九歳くらいの少女のような体躯を深く沈める。
 肩にかかる長さの、蒼白いクセ髪が、風に揺れて。
「はぁ、何でしょう?」
 横で茶の支度をする咲夜が、主の呟きに反応する。
「何でもないさ、独り言」
 少しだけ目を細めて、レミリアは遠くを見る。
「独り言ついでだ、紅茶は砂糖二さじ」
「はい」
「変な物は入れてないだろうね?」
「多分」
 よろしい、と、レミリアは紅茶を受け取る。
 本人は瀟洒と完璧を自負しているようだが、実際相当な天然であるこの従者。
 真面目な顔で、紅茶に異物を突っ込むチャーミングさは、思わず正門まで飛んで行って、美鈴の顔を無言で見つめてしまうほどだ。
 それにしたって、前回のスッポンの血は何事だったのだろうか。いくら吸血鬼だからって。
「もしや今夜オッケーの合図……」
 ひとりごちながら、紅茶をすする。ごく普通のアッサム。
 今夜はダメらしい。
「残念」
 困った笑顔の従者をおいて、レミリアの思考は飛び続ける。
「そう言えば、聞いたぞ。図書館でやらかしたそうじゃないか」
 くすくすと笑いながら、いきなりそう問うてきた。
 咲夜は少々頬を染めて。
「すみません、お恥ずかしい限りです……」
「なに、いいじゃないの。途中からフランも混ざったって、私も行けばよかったなぁ」
 からからと、笑い声を大きくして。
「御冗談を」
 咲夜は、頬の温度を何とか下げようと苦心しながら、努めて平静な声で。
「そんなことはないさ。安心したよ、お前はそういうところ、最近押し込めようとするからね」
 レミリアは視線を流して、咲夜を見つめる。
「咲夜、私は機械のような従者が欲しいわけではないし、完璧と瀟洒は、それと上手く折り合いをつけたとこにあるのよ」
 その言葉に、咲夜は少しだけ従者を外して。
「よく……わかりません……」
 主の意図が読めない羞恥と、悔しさを、素直に顔に出す。
「今はそれでいい。そして、そういうお前を私は気に入っているのさ」
 優しく微笑み。
「何より、感情なんてぶっ放してなんぼだ。私のように、お茶目に生きなさい」
 片目をつぶってみせる。
「あ、はい……」
 受ける咲夜は微妙な表情。
 これ、パチェにはたまにやると効くんだけどなぁ……。
 内心少しショックを受けながら、体を背もたれから勢いよく離すと、椅子に胡坐をかく。
「さて、もう一人はどうなるだろうね……」
 視線は正面、空には弾幕。色とりどりの、虹のような。
 ぐいっと紅茶を一気に呷ると、おかわりを催促しようと、咲夜の方を見て。
 そこにいるのは、不安な視線を空に向ける、いつかの少女――。
 レミリアはふっと息を吐くと、視線を戻す。
「今度は見せてもらおうか、美鈴」

 戦場はズルズルと、守る美鈴が押されながら後退し。
 正門から大分離れたところから始まったそれは、今やそこを背水に構える位置となった。
「今日は、粘るじゃないか!?何事だ!」
 叫びながら、その横を追随するオプション。そこから今日は、直進する光線を放出しながら空を滑り続ける白黒。
「あー、くそっ!やっぱり強いな、魔理沙!!」
 光線を、降らせ続ける光の粒で何とか弾きながら、美鈴も叫ぶ。
「当たり前だ!私は、神すらぶっ倒す女だぜ!!」
 彩りの乱舞の隙間を、掠りながら飛び抜けて。
 決定的な二発の光が。
「ぐっ!?ああ、もう!」
 美鈴の体を焦がし、スペルが解除される。
「残り一枚!」
「あんたもでしょ!」
 美鈴は下がるのをやめる、魔理沙もホバリングに。
「ああ、そうさ。私は一発当たれば終わり、お前は耐えきれなきゃ終わりさ。楽しいだろ?震えるだろ?」
 危ない笑顔で、嬉々と語りかける魔理沙。
「狂人め……あんたのせいで八方から説教くらってんのよこっちは」
 荒い息をつきながら、睨みつける美鈴の耳に声が届く。
「門番長ー!!頑張ってー!!」
「どうか、どうか、私達の仇をー!」
「修行の成果をー!」
 相当頑張ってるし、仇だって取ってやるとも、だからあれは強くなる修行じゃないって!
 心でツッコミながら、声の方を見下ろす。
 正門に集まって、美鈴を見上げる妖精メイド達と――。
「え!?今回は応援なし!?」
 こちらに小さく手を振るだけの、緑髪と、久々に日の下に出てきた魔女。
「何だあの三文芝居」
 魔理沙も呆れて見下ろす。
「いいでしょ?あれを背負ってるのよ、私は」
 まあ、今はあの子達のためでいいか。あそこじゃなくても、どこかで見ている子がいるなら、それも含めて。
「そりゃ、うらやましい。だったら――」
 魔理沙が、飛び出す構えを。
 美鈴も構え、片足を少し上げ。
「背負ったもんの重さで、墜ちろ!!」
 叫びと共に、踏み抜く足の打音が響く。

 最後のスペル。
「極彩」
 颱風。空中にぶちかます震脚と共に、弾幕が展開する。
 美鈴の背後から、暴風の如く、宝石のような七色の弾がバラバラと発射されていく。
「避けきる」
 呟きと共に、己に迫るそれの隙間を縫うように飛び始める魔法使い。
 吹き荒れる軌道は完全なランダム、発動者にさえ制御できない自然の猛威。
 発動すれば、あとは相手の被弾を祈りながら。
「耐え抜くって!」
 魔理沙のオプションから発射され続ける光線を、嵐を壁とすることで防ぎながら。
 しかし、スペルで防いでも、ダメージは通る。倒れれば、スペルはそこで解除。
 美鈴は耐える、魔理沙は飛ぶ。
 左から、紅。下を潜って、青。捻って避けきり、紫。嫌な色だ、掠っていく。
 倒れろ、倒れろ、倒れろ。魔法使いは撃ち込みながらも、念じる。実際必死である。
 しかし、必死だからこそ、笑いながら飛ぶ。いつも私はそうやって。
 避けた先、道がない。避ける時間も取れないって。
「そうやって勝ってきたんだ!」
 叫びと共に、発動させる。

 Bomb spell set !!

 道も時間もないなら、吹き飛ばせ。

 Master spark !!

 弾幕の台風を突き抜けてくる光の奔流を確認して、美鈴は少し身震い。
 そう、何度となく、美鈴のささやかなプライドごと、体をぶち折ってきたこの砲撃。
 耐えられるか、決意は気づいた、覚悟はもらった。自信は――。
「ま、間に合った!美鈴ー!あたいも、応援するから!勝てー!!」
 荒い息と共に、下から響く声。自信は、思い出した。
 腕を前に構えて、身を庇い。
 飲まれる。

「スペルが!」
 道は、開いた。しかし、嵐は。
 砲撃着弾の煙が晴れる。そこには直立不動、沈まない、紅い髪が。
「――っかぁ……!?はぁ……っ!ギリギリだし……!そんでもって、またこんな戦法!」
 開いた口から少し煙を吐く。紅 美鈴は、確かにそこに立っている。嵐は、今少しだけ止まらない。
「ええい、発射のタイミングを!」
 開いた道を閉じるように弾が迫る、まだ避ける、避ける。
「ミスっ!」
 しかし、続かない、出し尽くした。一発被弾。
「ったぁぁー!!ちくしょぉぉ!!」
 二発、三発、と、立て続けにその宝石は魔理沙の体に衝突。
 断末魔と共に、被弾の煙を吹いて、流星のような箒は高度を下げて。
 正門を越え、庭の芝生に不時着。が、勢い止まらず、しばらくごろごろごろと転がって、ようやく大の字、仰向けで魔理沙は止まった。
 美鈴も、その後を追っていた。いち早く魔理沙の側に着地すると。
「積年の、恨み!」
 悔しそうに美鈴を見つめる顔に、拳を打ち込む。と、見せかけて、やはり寸止め。
「あんた、目つぶらないのね……ま、今日は私の勝ちって」
 鼻先に拳を突き付けられてもこっちを睨んだままの魔理沙の額を、軽く指で弾く。
「痛っ!?ああ……負けたぁー!!くそ!」
 それを受けて、痛そうに額をさすると、魔理沙は空に向かって吼えた。その声は、精一杯の悔しさを込めて、しかし、楽しそうに。
「今日ばっかりは門前払いよ」
「まったく……何だってんだ、今日に限って……」
 体力の限界が来た美鈴も、魔理沙の隣にどすんと座り込んで。
「今日だけじゃないわよ……ちょっと、まだまだこれから先も、頑張らなきゃいけない理由を思い出したんだ。すまんね」
 魔理沙に向って笑顔を、受ける魔理沙も苦々しく笑いながら。
「しかし――まるで私が悪者みたいじゃないか……」
 二人視線を向ける先、正門から妖精メイド達がこちらに走って来ている。その中には、緑色の髪や、青い髪も混じって。
「悪!」
 集団から、一人飛び出す。おどろおどろしい、低い叫び声。
「者!」
 紫色の髪、普段の運動不足を感じさせない猛スピードで。
「でしょうがぁぁぁ!!」
 隣、魔理沙の笑顔が、一瞬で恐怖に引き攣るのを見て、美鈴は静かに合掌した。

「今日は勝ったか。お見事、美鈴」
 レミリアは、目を細める。
 庭園を見渡すテラスから見えるわ、墜落していく魔理沙の姿。
「褒められた試合内容じゃなかったけどね、それが今のお前なら、どうあろうと私は任せ続けるさ」
 頼むよ、美鈴。
 小さく呟きながら。
「咲夜も、よかったじゃない?久々に、門番を褒められ――」
 振り向く先に、咲いているのは。
「おっと」
 慌てて顔を戻す、ありゃ独り占めしちゃ悪い。
 戻した視線の先では、状況が変わっていた。仰向けに倒れる魔理沙の隣に座る美鈴。お前らどこの青春物語だって。
「おおっ!?」
 身を乗り出す。美鈴に走り寄るメイド達の集団から飛び出す、我が友人の姿。
 そのまま、がばと上半身を起して、必死で立ち上がって逃げようと片膝をつく魔理沙に、飛び上がって。
 美しいシャイニングウィザード。
「魔女だけに……!」
 そこから、起き上がって流れるようにスピニング・トー・ホールドに繋げている友人、突如勃発した第二試合会場。なんとも、まあ。
 一度目を閉じ、からからと笑って。
「さて、行くか」
 立ち上がるレミリアに、咲夜が慌てたように。
「は、はい?え、どちらに?」
 レミリアは咲夜の横を通り過ぎて、扉へ向かいながら。
「庭だよ、たまには野点だ。パチェの玄人プロレスも見てあげなきゃならんし」
 別名、関節技の魔女である。
「何より」
 たまには、頑張る従者に褒美をやらねばなるまい。
 慌てて、ティーセットをまとめる咲夜。
 振り返る、レミリアの後ろをついてくる、その顔は。
 名前通りの、花が咲いたような、満面の笑顔。
「存分に見せてあげなさいな、私一人で楽しむには勿体ない」







 彼女がそう生きるのは、いつだってそのためなのだから。







 
いつだって笑顔が一番です


知らない方は初めまして、知っているという奇特な方は本当にお久しぶりです
失踪はしていませんでした、どうもです

さて、今回は何人の方が覚えているかはわかりませんが、前回の予告どおりにひたすら明るい(というわけにはいかなかった部分もある)お話です
タグ通り、笑顔のお話です、そのまんま
故に笑顔やら笑うという表現をうんざりするほど用いました
笑顔に関する語彙の貧弱さ故に、使いまわしの表現が多い辺りは勘弁してもらいたかったりします

さて、そして、今回の主役は美鈴です
一度彼女のお話は書くべきだと、ずっと思っていました(実際、過去の作品には二度ほど出ていますが……)
何せ自分が原作をやって初めて詰まったボスも美鈴であれば、初めて東方の二次創作で面白いと思ったのも、彼女が主役のお話でありました
それ故、いつか自分も彼女を題材に書くぞ!とずっと思っていて、というか頭の中で色々妄想して
ようやく一つだけ形にできそうだなと頑張って、完成したのがこの作品であります
彼女の魅力は自由度ですね、色々な方の色々な美鈴に触れながら、自分も自分の想う美鈴像というものを組み上げるようになりました
界隈に溢れる色んな魅力的な美鈴の中の末席にでも加えていただけたなら幸いです

準主役は咲夜さん、この人も色々な咲夜さん像がありますね
かっこいい咲夜さんも好きですが、今回はまだまだ未熟な咲夜さん、というのを意識して書いてみました
歳も、それほど魔理沙や霊夢と離れていない感じで、彼女らと同じ少女っぽさと、発展途上さを
何より自分が好きでたまらない親子設定にしてしまいました、いや大好きですね、親子ネタ
瀟洒さはちと足りませんが、こんなお茶目な咲夜さんも楽しんでいただけたなら幸いです

そして紅魔館のみなさん、色々とキャラ崩壊気味であったり、オリジナルな設定を詰め込みまくったりして
お気に召さなかったらすみません
でもまあ、自分が想う紅魔館の面子の方向性というのも、ここである程度書けたと思います
かっこいいのか悪いのか、そんな人達で
基本的には「呑んべぇのレミリア」から、お嬢様もパチュリーもそう変わってませんね
前作?知らんなぁ~、そんなことは!
いつも騒々しい館であることを思いながら、これも気に入っていただけなら


さて、本っ当に長々とすみません、ここまでお付き合いいただきありがとうございます
今回は自身最長記録の長編ということで、込み上がる気持ちを抑えきれなくて、すいません
あとがきなんて、本当にもう読み飛ばしてもらってもかまいませんので
まあ、もし投稿出来れば、次作も付き合っていただければありがたいです
本当に、こんな「ぼくのかんがえた紅魔館」的な作品を読んでいただきありがとうございました


最後の最後にもう一つだけ
今回作中に、出来ればいつか書く機会があればいいなぁと思うネタの伏線が結構張ってあったりします
今回で回収されないという謎すぎるシロモノなので、無視していただいて構いません
できれば回収したいなぁ、できるかな……
それを抜きにしても、オリジナルな解釈を説明もなく多用している困ったちゃんなので
もし「わけわかんねーよ作者!」などと思うところなどございましたら、遠慮なく質問していただければ、出来るだけ答えたいと思います
それでは


6/18
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ロディー
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コメント



0.5330簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
パチェさん元気すぎw三冠とIWGP両方獲れるんじゃないか
お嬢様の優しさや、咲夜さんや他の紅魔館のメイド達の感情の豊かさが良かったです
そして何より前に進む門番がカッコいい
3.100煉獄削除
レミリアの威厳と優しさ、美鈴の溢れんばかりの愛情がとても素敵ですね。
咲夜さんが母と慕い、館のメイドたちも彼女に憧れたりと
ほのぼのしていたり、魅せてくれる戦いがあって良かったです。
最後には魔理沙に勝ち、続いてパチュリーのプロレス技炸裂戦へと
もつれこんだのには笑みを浮かべました。
目を背けずにまた進み始めた美鈴と、彼女に向けられる咲夜さんの満面の笑顔が良い。
賑やかで、でも笑顔が溢れている紅魔館はとても面白かったです。
7.100名前が無い程度の能力削除
美鈴、お嬢様、パチュリーさんの間の絆がとてもよろしいですね。
それと、パチュリーさんがとても面白かったです。最高。
14.100名前が無い程度の能力削除
あったけっぃ
16.100名前が無い程度の能力削除
全体的に少しあっさりしすぎてるかもしれない
けど、この点数をつけられる出来
21.90コメントする程度の能力(ぇ削除
今回も一気に読めました、間の取り方とか美鈴の美鈴らしさとか良く出てたな
レミ様はこのしゃべり方かっこよさ過ぎる

…首領蜂をドンパチと読ませるの自重w
24.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしいの一言。
これは百点を出すしかないじゃないか。
26.100名前が無い程度の能力削除
うおおお これはいい紅魔館!!
ふらんちゃん男前すぎて吹いたwww
31.100K-999削除
登場人物の皆さん、ちょいと魅力が溢れすぎじゃあありませんか?
美鈴や咲夜は言うに及ばず、妖精メイド一人一人までに溢れる、なんか頬が緩む(ニヤニヤしてしまう)魅力。

だがMVPは間違いなくパチュリー様。
33.100名前が無い程度の能力削除
なんと言えばいいのか
やっぱいいね、親子
良かったです。100点以上以外はつけられません
34.100名前が無い程度の能力削除
まず純粋に楽しかった。
そして上でも言われてますが出てくるキャラ全員が魅力に溢れていました。
黒女のようなポジションのキャラまで魅力的に描くのは素直に凄いと思います。
あとやっぱりパッチェさんが面白すぎた。
36.100名前が無い程度の能力削除
ウォッカ飲みながらみてたらパッチェさんが異様なヘビードランカーで噴いた。

全体的にキャラクターが優秀で面白かったです。子どもの一言って結構的を射てるんですよね…
37.100名前が無い程度の能力削除
なんか暖まるお話でしたねぇw
眼福です
44.100名前が無い程度の能力削除
美鈴の物語の、一つの完成型を見せてもらった気がします。
素晴らしい作品をありがとうございます。
46.100名前が無い程度の能力削除
緑色にメガネと聞くと、某超重神のドリルメイドを思い出しますね。
キャラが生き生きとしてて、とてもよかったです。読んでるこっちが笑顔になりました。

こういうパッチェさんも大好きですw
47.100名前が無い程度の能力削除
やはり美鈴はこうでないと
49.100名前が無い程度の能力削除
美鈴だからこそ輝くお話!
51.80名前が無い程度の能力削除
キャラクターの立て方がいいですね。
特にパチュリー様。おもしろすぎる。
55.100名前が無い程度の能力削除
美鈴いいですね。
紅魔館の住人の絆がすごく伝わってきました。
57.100名前が無い程度の能力削除
パチュリー様はプロレス玄人なんだ・・・
64.100名前が無い程度の能力削除
熱いパチェもいいな
66.100名前が無い程度の能力削除
誤字報告
「そうやって選んで道は!生き方は!こんなもんじゃないんでしょう!?」
「選んだ」ですね。

なんというか全員で美鈴を応援する場面で不覚にも涙が・・・
70.90名前が無い程度の能力削除
ああ、お嬢はだんだん子供になっちゃってるのか
いいお話でした
75.100名前が無い程度の能力削除
いつも、何度読み返してもパチェさんの叫ぶシーンで泣きそうになるのを堪えるのが大変です。

素晴らしい作品をありがとうございます。
81.100名前が無い程度の能力削除
魔女だけにw
シャイニングウィザードが本気でツボでしたw
84.100名前が無い程度の能力削除
強美鈴GJ。 それに尽きる。
88.100名前が無い程度の能力削除
まさに母強しな美鈴を見させていただきました
89.100名前が無い程度の能力削除
納得の弱さ、愛ゆえに。
95.100名前が無い程度の能力削除
お嬢様の肉体年齢の表記で気づいたが、若返ってるのか・・・
魔理沙フルボッコで笑いましたw
131.100Admiral削除
これは…いいですね!
過去のお話におりキャラをちりばめて上手に料理されている、
一流のシェフのフルコースを味わう感じでした。
副長&眼鏡緑髪メイドが生き生きと描写されていて好みです。
最高のお話でした。ありがとうございました。
134.100名前が無い程度の能力削除
紅魔館主要メンバーは勿論、サブキャラまで、いい味をだし過ぎてるぐらい。
チルノで感動した・・・。
魔理沙がどうみても悪役だけど、そんなとこも含めて魅力的に書き上げられるそのセンスに脱帽。
141.無評価名前が無い程度の能力削除
10年ぶりくらいに読みに来たけど、未だに色褪せない名作。めーさくだけに……。
物語中、一貫して登場人物への作者の愛が深く感じられる。この紅魔館の物語をまた読んでみたい。