Coolier - 新生・東方創想話

笑顔になったフランドール

2011/12/25 01:39:06
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ここは幻想郷にある悪魔の屋敷、紅魔館。
人々に悪魔の屋敷として恐れられる紅魔館から似つかわしくない可愛げな少女の声が聞こえてきます。

「咲夜、咲夜、お昼のお片づけの手伝いをちゃんとやったわ、だから早くシールをちょうだい!!」

少し興奮した様子で少女――悪魔の妹フランドール・スカーレット――は首に紐でかけられている
既にいくつかシールの貼られているカードを差し出しました。

「はい、妹様とても助かりました。なのでシールを一枚進呈いたします」

そう言ってメイド長の咲夜は空白のスペースに花丸の真ん中に『よ』と書かれた
通称『よかったシール』を一枚追加しました。

ソレを見てフランドールは満面の笑みを作ります。

「えへへ、見て咲夜、もう七枚もシールが溜まったわ!あと三枚で私の所にもサンタさんは来てくれるのね?」

フランドールからの問いかけに

「はい、よかったシールを十枚集めた良い子の所には必ずサンタさんは来てくださいますわ」

咲夜はにこやかな笑みを浮べて答えました。

ソレを聞いてフランドールはますます笑顔になります。
『あとちょっとでサンタさんが今夜プレゼントを持ってきてくれるんだ』
そう思うと嬉しくて嬉しくて自然と笑顔になるのが止められませんでした。

そんなフランドールの笑顔につられて咲夜からも自然と笑顔がこぼれます。

「あら、楽しそうね二人共?」

そんな二人に声がかけられました。
二人は反射的に声のした方を見ると、そこにはフランドールの姉で紅魔館の主であるレミリアが立っていました。

「お姉様!見て見て!ほら、よかったシールがもう七枚も溜まったのよ!」

レミリアの姿を見た瞬間フランドールは胸を張ってレミリアに自慢しました。
その様子を見てレミリアはヤレヤレと言う感じで優しい笑みを作りフランドールの頭を撫でてあげました。

「フフ、凄いじゃないフランあと少しで貴女の所にもサンタさんが来てくれるわね?」

「うん、あとたった三枚なのよ!!楽しみだわ!」

「この後はシールの為に何をするのかしら?」

「この後はね美鈴の所に行って一緒に門番のお手伝いをするの、その後はパチュリーの所で小悪魔と一緒に
本のお片づけ、そして最後は今夜のパーティーの準備のお手伝いそれでシールが全部溜まるわ!!」

「ちゃんと計画を立ててるのね偉いわ。じゃあもう美鈴の所に行った方がいいわよ?図書館の本の多さは
凄いんだから急がないとパーティーの準備に間に合わなくなるわよ?」

「え?こうしちゃいられないわ美鈴の所に行って来る!!」

レミリアの言葉にフランドールは慌てて門に向かっていきました。

「全く、落ち着きの無い子ね……」

レミリアは首をすくめて溜息交じりに呟きました。
フランドールを煽って慌てさせたのはレミリアなので咲夜は何ともいえない表情でした。
ですがレミリアにはフランドールを煽って慌てさせた理由がありました。

「あー……、さ、咲夜?」

レミリアの声は少しだけ上ずっていました。

「はい何でしょうお嬢様?」

「えー、と、その、ね、さっき庭で干している洗濯物の取り込みを手伝ったわ、それにおやつの片付けも
ちゃんとやったわ、だからね?」

そう言って顔を赤らめながらレミリアも咲夜によかったシールの貼られたカードを差し出します。
咲夜も心得たものでにこやかな笑みを浮べてカードにシールを貼り付けました。
レミリアのカードはこれで十枚のよかったシールが揃い、ソレをみてレミリアは笑顔になります。

「うふふ、これで今年サンタさんが来てくれる事は確定ね!」

羽をパタパタと羽ばたかせて喜びました。

これがレミリアがフランドールを煽った理由でした。

ここは悪魔の屋敷である紅魔館、悪魔の屋敷ですから本来ならクリスマスとは縁があってはいけない場所です。
ですがフランドール以上にレミリアはクリスマスを楽しみにしていて、サンタさんを心待ちにしていました。
名高い悪魔としてはクリスマスやサンタさんを楽しみにしている何てとても恥かしい事だとレミリアは考えていました。
だから自分がクリスマスを楽しみにしている事は誰にも知られたくなかったのです。
彼女のプライドがどうしても許しませんでした。

なので今夜のパーティーはフランドールが楽しみにしているから仕方なく行なう事になっていますし
フランドールと一緒にレミリアもよかったシールを集めている事は咲夜以外誰もしりません。

そこでフランドールと違い、クリスマスを楽しみにしている悪魔は恥かしいと思っているレミリアは
シールを集めている事がフランドールにばれるのが嫌だった事とシールが早く欲しかったため
フランドールを煽るような事を言ったのでした。

でも一年に一回今日の日だけはメイド妖精や咲夜に何でも命令するレミリアが自発的にお手伝いをするので
屋敷の住人の誰もが、レミリアが今日と言う日を楽しみにしているのを理解していました。



――



「はいフランドールお嬢様、本の整理を手伝っていただいたのでシールを差し上げます」

「ありがとう小悪魔!!」

「いえいえ、私も助かりましたから、あと一枚でサンタさんが来て下さいますね」

「うん」

純白の服にこれまた純白の羽を付けた天使コスの小悪魔からシールを貰いフランドールのカードには
これでシールが九枚溜まりました。

とても悪魔らしくない格好の小悪魔と悪魔らしくない楽しげな会話をするフランドールを見て図書館の魔女は
とてもツッコミをいれたい衝動に駆られましたが二人共楽しそうだったのでグッと堪えました。

「ところでフランドールお嬢様はサンタさんにプレゼントは何をお願いしたんですか?」

「何も頼んでいないわ、だって何でもいいもの」

「え?そうなん、ですか……?」

それはまた、プレゼントを用意するサンタさんが困りそうだなぁ、と小悪魔は思いました。
そう思っている小悪魔を気にせずフランドールは続けます。

「うん、だって今まではフランが悪い子でプレゼントは貰えなかったから……」

ずっと地下に閉じ込められていたのは自分が悪い子だったからで、だからサンタさんは来てくれなかった。
フランドールは寂しそうに言いました。

「でも今年は違うわ!咲夜にどうしたらサンタさんが来てくれるのか教えてもらったし、それで頑張って
よかったシールも集めたわ!だからサンタさんが来てくれるのならプレゼントは何でもいいの
初めてだものこんなに楽しみなの、だからサンタさんから貰えるのなら嬉しいから何でもいいの!」

フランドールは本当に嬉しそうに言いました。
嘘偽りの無い彼女の本心だったのでしょう。

「じゃあ、妹様あと一枚しっかりとシールを貰える様にしないとね」

「うん!!」

それまで蚊帳の外だったパチュリーの言葉にフランドールは力強く答えました。

サンタさんが来てくれるまで残りのシールは一枚、最後のお手伝いはパーティーの準備です。



――



パーティーは盛大で華やかでした。
綺麗に飾られた部屋にクリスマスツリーそして美味しそうな料理の数々、メイド妖精は歌い
紅魔館だけのパーティーでしたのでゲストはいませんでしたがとても楽しい雰囲気でした。

よかったシールもしっかり十枚集まりフランドールも上機嫌でパーティーを楽しんでいました。
普段はあまり飲まないお酒も口にしました

だから最後の最後の油断してしまったのです。

『クリスマスケーキは私が運ぶわ!』

パーティーの準備が終って咲夜に最後のよかったシールを貰った時フランドールはそう口にしました。

パーティーの最後の締めのクリスマスケーキ、咲夜が普段作るケーキよりも気合を入れて今日この日のために
作った特製クリスマスケーキ。

もしも咲夜がこの場にいれば時を止めて無事だった事でしょう。
もしも美鈴がフランドールの隣にいたのなら巧みな体裁きで無事キャッチした事でしょう。
もしもパチュリーが飲みすぎで小悪魔と共にこの場から離れていなければ魔法で無事だった事でしょう。

少しお酒も入っていてシールも全部溜まって油断しきっていたフランドールは躓いてしまいました。
その拍子に手から離れたケーキは小さな弧を描いてそのまま『べシャ』という音をたて床に落ちてしまいました。

フランドールの中で世界が止まりました。

目の前の光景が信じられませんでした。
何が起こったのかまるで解りませんでした。

でも一瞬の後思い出しました。
咲夜がこのケーキを作るのにどれだけ頑張っていたのかと言う事ともう一つ
それは、よかったシールを貰うためのルールでした。

よかったシールは良い事をしたら一枚貰えるシールです。
ですが悪い事をしてしまったら一枚なくなってしまうのです。

ソレを思い出してフランドールの目に涙が溜まっていきます。

すかさず美鈴のフォローが入りました。

「大丈夫ですよ妹様、咲夜さんのケーキは美味しいですから落ちても美味しくいただけます」

その言葉にレミリアも便乗します。

「ええそうね、落ちた所は全部美鈴が食べるから私たちは落ちていない所を食べましょう」

レミリアの言葉に周りのメイド妖精達からも
「確かに美鈴さんなら美味しくいただいても大丈夫ですね?」
「門番長なら問題ないですよね?」
「かっこいいです美鈴門番長」
等と聞こえてきて

「ちょっとちょっと!?私の扱いそんなんなの!?」

慌てた美鈴の言葉に笑がおきました。
一致団結して美鈴の自虐系ネタで笑いをとろうとしました。

ですがフランドールには効果はありませんでした。

ポロポロと大粒の涙が目からこぼれていき、すぐに大きな泣き声も加わりました。

ついさっきまであんなに楽しかったのに
サンタさんに来て貰えるようにあんなに頑張ってお手伝いもしたのに
最後の最後でこんな失敗をしてしまうなんてあんまりだ。

どうにか宥めようとする美鈴やレミリア、メイド妖精達の言葉は何もフランドールの耳に入りませんでした。
ただただ、悲しくてフランドールは泣き続けます。

ああ、自分は何て馬鹿なんだろう?
どうしてケーキを運ぶだなんて言ってしまったのだろう?
調子に乗って、お昼の時ならきっとこんなミスはしなかったのに……

フランドールの泣き声を聞いてすぐに咲夜が駆けつけました。
同時にパチュリーと小悪魔も戻ってきました。
彼女達は部屋を一目見て何が合ったのかを覚りました。

三人は無言で頷きフランドールの元に駆け寄り言いました。

「大丈夫ですよ妹様、ケーキの落ちた部分は美鈴が残さず食べてくれますから」

「そうですよ、美鈴さんなら美味しく食べてくれますよ」

「妹様、私達は落ちていない場所を食べましょう?」

咲夜達はレミリア達がやった掛け合いと同じ事を言いフランドールを宥めようとしました。
ですがこのやり取りは一度滑っているネタであった事を三人は知りませんでした。
ここでもやはり美鈴は犠牲になったのだ。

自分の失敗が悔しくてフランドールは泣き続けました。

楽しいはずのクリスマスパーティーは後味の悪い終わり方をしました。



――



その後ケーキを落としてしまった分減ったフランドールのよかったシールは後片付けを手伝う事で無事十枚揃いました。
ですが十枚揃ってもフランドールに笑顔が戻る事はありませんでした。

皆楽しみにしていたケーキを台無しにしてしまった事を気にしていたのです。

がっかりと肩を落として寝室である地下に向かうフランドールをレミリアは黙って見送りました。
昼間見た嬉しそうな彼女が嘘のようでした。

きっと自分の所にはサンタさんは来てくれない。
よかったシールが十枚に戻ってもフランドールはずっとそう言っていました。

「……ねぇ咲夜?」

「はい、何でしょう?」

「フランの所にもサンタさんはきっと来てくれるわよね?」

「はい、ちゃんとシールを十枚集めましたからきっと来てくださいます」

「そう……、咲夜、大至急紙とペンを用意して!」

咲夜の言葉を聞いてレミリアは力強く咲夜に命令しました。



――



パーティーの片付けが終りレミリアとフランドールが寝てしまった頃、サンタさんはまずレミリアの元を訪れました。
サンタさんは戸を静かに開き、気配でレミリアが起きてしまわぬ様に時間を止めて枕元にプレゼントを置きました。
その時サンタさんの視界に一つの便箋が映りました。

『サンタさんへ』と書かれているのは間違いなくレミリアの字でした。
サンタさんは中を確認します。
そこには彼女の妹であるフランドールが今日と言う日をどれ程楽しみにして、自分が来る事をどれ程楽しみしていたか
そのために今日一日どれだけ頑張ってお手伝いをして良い子だったのかが記されいました。
その中にはケーキを落としてしまいガッカリした様子も克明に記されていました。

そして最後に
『妹は今日とても良い子でした、だからサンタさんがプレゼントを持ってきてくれていると信じています
どうかお願いです、元気になれる様に妹にプレゼントと一緒にメッセージを残してもらえないでしょうか?
あの子は本当に今日一日良い子に頑張っていたんです、お願いします』
と記されていて、一緒に便箋も用意されいました。

ソレを見てサンタさんは呟きました。

「かしこまりましたお嬢様、きっと明日の朝妹様が笑顔を取り戻せるようにして起きます」

サンタさんはその場で手紙を書くとフランドールの元へと向かいました。

きっと明日の朝にはフランドールも笑顔を取り戻せている事でしょう。
何と言うかレミリアとフランの幼児化が、推定で小学校低学年くらになってしまいましたwww
フランの失敗のモデルは私の姪でフォローの時のネタの美鈴は私がモデルになっています。
まぁケーキ落ちた場所がテーブルの上でしたので全部平らげましたが……

姪に絵本プレゼントとして買っていたのでちょっと絵本っぽい雰囲気を意識してやってみたのですが
難しいもんですね
これから姪の枕元にプレゼント置いてきますが見つかったらどうしょうかなと戦々恐々しております。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
少しでも楽しめたのなら幸いです。

奇声を発する程度の能力様
ありがとうございます。
子供用絵本は柔らかな温かい系の話がいっぱいで割りと好きです。

5様
Thank youコメント!

あ様
私もこのコメントで思い出しました。
あ、そういやあったなぁ……、と

10様
よかったシールはミステリーサークルにもなる素晴らしきデザイン!

SARAyear様
大丈夫だよって言ってもずっと泣いていました。
そしたら姉が「大丈夫、○○が全部食べてくれるから」って言って姪が「ほんと?」って聞いてきたから
後には引けませんでしたwww
まずはお腹(の中)を鍛えましょう。

コメントありがとうございました。
H2O
http://twitter.com/H2Oekijou
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コメント



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1.100奇声を発する程度の能力削除
絵本ちっくな良いお話で温かさがとても伝わってきました
5.100名前が正体不明である程度の能力削除
NICEほのぼの!
8.100削除
昔見たクレしんのアニメを思い出した
10.100名前が無い程度の能力削除
よかったシールは幻想郷でも大活躍ですね。
お嬢様の妹様を想う気持ちに胸が温かくなりました。
良い紅魔館だわ。
13.100SARAyear削除
子供って失敗を必要以上に気にしちゃいがちですからね。つーか自分がそういう子供でしたw
レミリアも咲夜もみんながみんなフランを温かく見守ってくれている雰囲気がとても良かったです。

俺も落ちた部分のケーキを完食できるようなイケメンになりたい()
21.100名前が無い程度の能力削除
妹想いなレミリア様カッコカワイかった