紅魔館 十六夜 咲夜
伊吹 萃香がやってきた。
今日は節分。
節分といえば豆撒きだ。
炒った豆を鬼にぶつけるという、あの伝統行事である。
一年間の無病息災を願うというとても大切な行事だが、うちのマイロード・レミリアお嬢様は吸血鬼。
豆撒きなどという理不尽な暴行は断じて認めぬと、スネてお部屋にお引き篭り中だ。
スネたお嬢様まじかわええちゅっちゅしたいわぁ。
そんなこといっとる場合ではない。
豆撒きは一年間の無病息災を願う大切な行事。
大切なお嬢様達のためにも、ここは心を鬼にして行事に参加せねばならない。
私はメイド部隊を指揮し、お嬢様に気付かれぬよう、迅速かつ静粛に豆撒きを開始した。
のちに門番・紅 美鈴は語る。
物音一つ立てずに伊吹 萃香を撃退するメイド部隊は、まるでSWATのようでした、と。
白玉楼 魂魄 妖夢
伊吹 萃香がやってきた。
今日は節分。
節分といえば豆撒きだ。
炒った豆を鬼にぶつけるという、あの伝統行事である。
そんな日に正面きって白玉楼に向かってこようなどいい度胸だ。
この魂魄 妖夢、己の全霊をかけて、白玉楼の庭は踏ませはしない。
私は屋敷に戻ると、大量に買い込んでおいた豆撒き用の豆を、
「おかえり妖夢~。豆撒きの豆ってどうしてこんなにおいしいのかしらね~?」
ずこーっ。
「わお! ずこーっ、てこける人はじめてみたわ。」
うるさい。
それより豆ですよ豆。
鬼が来たので豆で退治します。さあ隠した豆を出しなさい。
「はっはっは、お前の豆はすべて預かった。返して欲しくば・・・けぷっ。ごめん無理。」
ああ畜生! 幽々子さまの食いしん坊万歳!
私はありったけの怒りを籠めて罵声をぶつけると、
幽々子さまのほっぺについたなけなしの豆をつまんで萃香にぶつけた。
八雲家 八雲 藍
伊吹 萃香がやってきた。
今日は節分。
節分といえば豆撒きだ。
炒った豆を鬼にぶつけるという、あの伝統行事である。
鬼の面を被った私は、出るタイミングを失って柱の影からそれを見ていた。
鬼役は私のはずだったのに、いつの間にか萃香殿が紫様と橙に楽しそうに追いかけられているではないか。
ああ畜生! 橙に豆をぶつけられる役は私のものだったのに!!
前日眠れないくらい期待に胸を膨らませていたのにどうしてくれる!?
昨日一日でネピア一箱空けるくらい鼻血が止まらなかったんだぞ!?
いやまて。鬼が二匹居てはいけないというルールなどない。
いざゆかん、桃源郷へ!
「あっ、もう一匹来た~! 鬼は~外~♪」
―ぺちっ、ぺちっ
ああ、イイッ!
もっと、もっとぶつけて橙!!
―ずビシィ!!
痛ァ!? ちょ紫様マジ痛いです!!
時速200kmを越える剛速球で、面に覆われていない喉を狙うのやめてください!!
当たった豆が衝撃で微塵に砕けてますから!!
―ずビシィ!!
永遠亭 鈴仙・優曇華院・イナバ
伊吹 萃香がやってきた。
今日は節分。
節分といえば豆撒きだ。
炒った豆を鬼にぶつけるという、あの伝統行事である。
永遠亭でももちろん行う行事だが、その鬼役の役目は苛烈きわまりない。
なにしろ、永遠亭の居住者は紅魔館とは比べ物にならないほど数が多いのだ。
対して鬼役は一人。
なにこのフルボッコ。兎って寂しいと死んじゃうんですよ知らないんですか?
そんな鬼役に私が当てられて、鬼の面をつけながらもののあはれについて考えていると、
そこに救世主が現れた。
伊吹 萃香。現役の鬼である。
おかげさまで、私は豆撒きという名目の公開処刑から逃れることができた。本当にありがとう。
しかし、それは私がぶつける役に回ることであり、私は救世主たる伊吹 萃香に豆をぶつけなければならないのだ。
ああ、キリシタンを弾圧する踏み絵のようだわ。
心が締め上げられるような苦しさを感じながら、私は萃香にそっと豆をぶつけた。
「へぶあッ!!」
豆をぶつけられた萃香はきりもみ回転しながら後方に吹っ飛び、
カウンターヒットでもないのに黄フロ伝統ワイヤー吹っ飛びで壁に跳ね返った。
うっそぉ強ッ!! 豆強ッ!!
「それかかれ~!!」
隙を窺っていた兎達が一斉に躍り出て、永夜抄5面道中ばりの豆弾幕を展開した。
もうやめてェ! 萃香のコンテニュー回数はとっくにゼロよ!!
守矢神社 八坂 神奈子
伊吹 萃香がやってきた。
今日は節分。
節分といえば豆撒きだ。
炒った豆を鬼にぶつけるという、あの伝統行事である。
早苗がなにやら張り切って準備をしていたと思ったら、この行事のためだったのか。
幻想郷に来てからというもの、早苗はとても生き生きとしていて、
「無理しなさんな、神奈子。」
ありがと諏訪子。
幻想郷に来てからというもの、早苗はやけにテンションがおかしくて、あたしとしてはとても心配である。
常識に捕らわれてはいけない、常識に捕らわれてはいけない、と呪文のように繰り返す早苗の姿は、
見ていてとても痛ましい。これが噂の邪気眼ってやつか。
そんな中、本職の鬼である伊吹 萃香がこの神社にやってきた。
できることなら、このまま鬼の登場のないまま、穏便に2月4日を迎えたかったところだったのだが。
「来ましたね! この日のために準備を万全にしておいたのですよ!!」
早苗がきらきらとした瞳を萃香に向ける。
嫌な予感しかしない。
「喰らいなさい!! 五穀豊穣ダイズシャワー!!(遺伝子組み換えでない)」
うわぁそれ今日のために用意したの?
しかもあの大豆、なんか妙にきらきらと・・・。
「ただの大豆だと思わないことですね! 貴方の動きを阻害するための納豆仕様です!!」
陽光にきらめく黄金の糸。からし入りか!?
ああ、境内に納豆ばら撒いちゃったよこの子。
守矢神社境内に満ち溢れる空前絶後の『お父さんの足の臭い』。
「やったぁ! やりました八坂様!」
首尾よく萃香を撃退し、満面の笑みを向けてくる早苗。
いや、うん。わかったから掃除しよう。な?
笑顔のまま凍りついた早苗の顔がとても痛々しかった。
博麗神社 博麗 霊夢
伊吹 萃香はまだこない。
今日は節分。
節分といえば豆撒きだ。
炒った豆を鬼にぶつけるという、あの伝統行事である。
そういうわけだからちょっと外回りしてくらぁ、と出かけたっきり、萃香は帰ってきていない。
いくらなんでも時間かかりすぎ。
私はめんどくさく思いながら腰を上げ、萃香を探すことにした。
萃香は家出した子供みたいに、神社の裏で膝を抱えていた。
なにやってんのよアンタ。
「いろいろ回ってきたよ。みんなと楽しく豆撒きした。いやぁ、鬼として冥利に尽きるね。」
わざわざ豆をぶつけられるためにいろんな場所回るなんて、あんたマゾなの?
違うよぉ、と萃香はカラカラと笑って返した。
「いいかい霊夢。鬼って言うのはね、必要悪なんだよ。
疫病、災害、人間の持つ負の感情。そういったものを鬼に乗せて、人は鬼を退治するんだ。
そうすることで人は一家の無病息災を祈り、一年を笑顔で暮らす。
鬼って言うのはさ、無くてはならないものであると同時に、人に退治されなければいけないものなんだ。」
いや、そんなことどうでもいいから中に入りなさいよ。
私まで寒いじゃない。
「いや、だからさ、その・・・。」
なによ、はっきりしないわねぇ。
言いたいことがあるならはっきり言いなさい。
「今日は・・・、外で寝るわ!
今日は節分だし、あたしってば鬼じゃん?
ほら、鬼は~外~ってね。」
うるせぇ、いいからとっとと中に入れ馬鹿!
私は萃香の襟首を掴んで持ち上げると、縁側から部屋の中に放り込んだ。
「ちょっと、霊夢!? あたしのことは別に心配いらないからさ―――」
はぁ、コイツは・・・。
あのねぇ、一家の無病息災を祈るのが豆撒きなんでしょう?
アンタが風邪でも引いちゃあ本末転倒じゃない。
「あぅ・・・。」
おかえり、萃香。
「・・・うん、ただいま!」
しんみりとした暖かい話をありがとうございます
爆笑しましたw
今年も博麗神社は妖多めの愉快な場所になるんだろうなあ
俺も萃香たんと一本の恵方巻きを両端から食べたいんだがどうすればいいんだろう
でもみんなもうちょっと加減してあげようよw
>>7さん
萃香は極限まで疎の状態で我々の周りに(ry
あえて鬼を内に入れて克服すれば、
災厄に対する耐久力も高まると思うのですがどうでしょう。
でも幻想郷の住人相手なら、災厄も裸足で逃げ出す気が……
面白かったです。
ラストは突っ走って落とすか、減速して落とすかで変わりそうですが、これは良かった。
やっぱ霊夢は良い女だな。うん。
それはそれとして、とりあえず早苗さん落ち着こうか
俺が言いたいのはそれだけだ
幻視できました!
きっとそうだ。
そうですよね?
暇人さんの小説は大好きだなぁw霊夢といい貧乏巫女といいww
てか豆まきはだね、本来豆を煎るときの大きい音で鬼を退けるから、文花帖に書いてあったお嬢様が豆を持つとやけどするとか言うのは間違った解釈なんだよね。そう思うとZUNさんもやっぱり普通の人間だなぁと思えるから不思議だね
もう半年ぐらい遅れてしまいましたが、本当にありがとうございます!
笑わせてもらって、しんみりさせてくれて、とてもよい作品でした。
読み終わった後、幸せな精神状態になれる。まさにほのぼの。
暇人さんの違う傾向の作品も好きですが、やはりこういうタイプが一番楽しいです。
これからも応援してますので、頑張ってくださいね。