Coolier - 新生・東方創想話

いちりんりん!

2010/02/07 01:51:20
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「人気、欲しいなぁ」

 たった一言。日頃の不満をぼそっと呟いただけなんです。
 私、他には何もしてません。本当です。なのに――





















「えーではこれから、『一輪の魅力を発掘し、世間に知らしめよう会議』を始めたいと思いまーす。進行役は『沈めた船の数? 百から先は数えてないわ』のキャプテン・ムラサと」
「『曖昧memineどんとこい、解れば極楽解らにゃ地獄、正体不明こそ世界の真理!』がモットーのぬえちゃんでやるからよろしくー」

 何この展開。全然意味が分からないんですけど。
 どうしてこうなったのか、誰か私に教えてください。切にお願いします。

 普段はそれなりに質素な食事が並ぶ命蓮寺の食堂。
 ここで今始まろうとしているのは、私の望みを叶える目的の特別会議……という名目の拷問タイム。むしろ公開処刑。
 思えば先刻の私の呟きを、そこの馬鹿船長と阿呆正体不明妖怪に聞かれてしまったのが運の尽きだったわ。
 止める間もなく、二人によって命蓮寺一同が集められご覧の有様に。この展開の速さ、伝統のブン屋もびっくりだ。

 とりあえずもう一度言わせてください。本当に、どうしてこうなった。

「よーし、他ならぬ我らが同志一輪のため、船長頑張っちゃうぞー」
「ムラサの主張に意義なーし。こんな機会滅多にあるもんじゃなし、しっかりと楽し……頑張らないとねぇ」

 く、ムラサにぬえ、なんて生き生きとした表情してくれてるのかしら。人の不幸がそんなに楽しいか?
 てめえら人間じゃねぇ! …あ、元々人間じゃないって? そーですか。ハハハ、こやつらめ。

「一輪、心配は要りません。三人寄れば文殊の知恵といいます。
 ならば我々命蓮寺一同が集えば、どんな難問も解ける筈」

 あぐ。お願いだから星、そんな道端に捨てられている子猫のような穢れの無い瞳で私を見ないでっ!
 私の罪悪感が増すから! 根拠は無いし理屈も分からないけど、なんかそんな気がするから!

「ええ、星の言うとおり。一輪。貴女の願い、必ず私達が叶えてあげるから。期待していてね」

 姐さんの慈悲の心に全私が泣いた。ですが、今はその優しさが逆に辛いです。
 はぁ……。この方も星も、絶対大真面目に考えてくれてるんだろうなぁ。あんなに真剣な顔しちゃってるし。
 これならまだムラサやぬえみたく、ネタとして楽しんでる方がまだマシ……でもないか。私の心は複雑です。

「一輪よ」

 そうだ。まだナズーリン、こいつがいた。
 この命蓮寺唯一の理性派にして知性派のナズーリンなら、きっとこのふざけた状況をなんとか――

「激流に逆らうのは止めた方がいい。むしろ激流に身を任せ同化したまえ。
 そうでもないと、ここではやっていけない。やってられるか」

 …………。うん、なんか、ごめん。
 遠い目をしている小さな賢将の表情は、どこか悟りを開いているようにも見えました。
 普段から苦労人やってるのは伊達じゃないのね。
 今度からなるべく私も自重しよう。そうしよう。具体的に何を自重すればいいのかは分からないけど。
 何、姐さんラブを止めろ? 私に死ねとおっしゃるか。

「それじゃあ早速ですが、この議題で論議するに辺り避けられない問題点を提起したいと思いまーす。
 ズバリ! 『何故一輪は不人気なのか?』」

 ムラサ船長! アンカーを一輪の心(ハート)にシュゥゥゥーッ!! 
 でも私のハートは超! エキサイティンするどころか無残に砕け散りました。むーざんむざん。

 いや、こんだけはっきりと言われちゃうとさ……幾ら自覚しててもキツいものはキツいのよ?
 ううっ、『自覚してる』っていう時点でもう色々駄目な気がする……。

「はいはーい」
「ぬえさんの手が早かった。ではどうぞ!」
「地味だから」

 ゲフハァッ!

「ああ、一輪が血を吐いたっ!」
「こらぬえっ! 一輪に謝りなさい!」
「えーだって本当の事じゃん。
 露出少ないし全体的に暗色だしこれといった特徴無いし。皆もそう思ってるくせにさぁ」

 この小娘が……ずけずけと言いたい放題言いやがって……!
 世の中には言っていい事と悪い事ってのがあるんだぞ。
 試しに某冬の忘れ物に向かって『ふとましい』とか言ってみろ。その場で永久凍結確定だ。
 他の禁句例としては花の大妖怪に向かって『鈍足』とかスキマ妖怪に向かって『ババァ』とかがあるそうな。
 何、姐さんもニューババアだと? うっせぇ雲山パンチ食らわすぞ。

「な、何を言っているのです! 私はそのような事」
「思ってないって? じゃあ星あんた、一輪が地味じゃないってとこ挙げてみてよ。私が納得できるようにさ」
「……………………。えっと」

 こらオイドジっ虎、何故そこで口ごもる。
 そこは力強く反論して頂戴よ! いや本当にお願いします。お願いしますから。

「ほーらほーら、どうした毘沙門天の代理様。反論できないのぉ~?」
「…ごめんなさい、一輪。私では役者不足でした……」

 折れるの早っ! そして弱っ!
 正直予測はしてたけど、もう少し粘ってほしかった。
 いや、そこまで期待してたわけじゃないし責めるつもりも無いけど。
 だからね、そんな自分の無力さに心底絶望したって顔でこちらを見ないでください。ますます罪悪感が増すから。
 まったく、こんな面倒臭い奴の部下をやってるナズーリンは心底凄いと思う。ほんとに。

「ぬえ、一輪は地味じゃないわ」
「む、聖」

 やった! まさかの姐さんのフォローきた! これで勝つる!

 そうよ、慧眼の姐さんなら、私自身にすら気付いていない私の魅力をきっと見抜き、理解してくれてる筈。
 さぁ、そこの調子こいてる小娘にビシッと言ってやってください姐さん!

「一輪はね、とても慎ましやかで控えめな格好が大好きのよ。だからけして地味じゃないわ」
「……………」

 追い風かと思ったら、大惨事を引き起こすダウンバーストでした。
 心の飛行機が墜落しかけたけど、何とか踏ん張った私は強い子。悪天候には慣れてます。雲山のおかげで。

 とりあえず姐さん、それフォローになってません。
 むしろ追い打ちになってます。相手を有利にしてます。ほら、ぬえの奴しらけちゃってるよ…。
 憧れの存在に地味って太鼓判押されちゃうって、惨めってレベルじゃないんですけど。もう泣いていいですか?

「流れを切るようで悪いが、挙手だ」
「お、ここでまさかのナズーリン。全然構わないから、遠慮なくどうぞどうぞ」

 と、打ちひしがれてたら思わぬところから助け舟が。ナズーリン、貴女が神か。鼠だけど、
 もうこうなったらあんたに賭けるわ。
 仮にも賢将って通り名についてるんだから、その狡猾にして冷徹な知性で見事な反論をひねり出して頂戴。
 …あれ、さっきも似た流れがあったような。これってデジャヴ?

「ではその言葉に甘えさせてもらうが……。
 単に、雲山に印象を掻っ攫われているだけではないかね?
 どうみても、それが一番の問題点だと思うのだが」

 ナズーリンのひっさつまえば! きゅうしょにあたった! いちりんはたおれた!

「おわーっ! 一輪が泡吹いて倒れちゃったよ!」
「い、いちりーんっ!」
「いけなかったんだわ……!
 『星蓮船三面ボスは雲山』とか『雲山が本体』とか言ったらいけなかったのよ!」

 ウゲボォ!

「あー、私が言うのもアレだがね、その辺で止めた方がいい。でないと一輪が死ぬ」
「おっとごめんごめん。ついノリで」
「ノリで致命的なダメージを叩き込まれる側としてはたまったものじゃないと思うがね。
 私が言うのもあれかもしれないが」
「でもさ、その割には一輪も余裕あるじゃん。
 結構予想通りのリアクション返してくれてるし、まだ大丈夫っしょ」
「とてもそうは見えないが……そういう事にしておこう。このままでは話が進まない」

 冷静に流すナズーリン。まったく反省の色が見えないムラサ。にたにたと笑うぬえ。
 三者三様の反応だけど、誰一人として私の味方をしようって奴がいないのはどういうわけだ。

「それじゃあ一輪もまだ大丈夫っぽいので、この流れで続けようと思いますが構いませんねッ!」
「無問題~」
「あー、もう好きにしたまえ。ぶっちゃけると、もうどうでもいい。
 むしろさっさと終わらせてくれ」

 何てこった。まだ鬼畜ムラぬえのターンは終了していないらしい。
 成程。つまりこのまま私に何もさせぬまま一方的にフルボッコして終わりという魂胆なのね。よしよく分かった。

「って、んな事させるかァァァッ!!」

 もう堪忍袋の緒が切れた。初めてよ? この私をここまでコケにしてくれたお⑨さん達は……。
 寄って集って人様のウィークポイント集中攻撃しやがって。思い知らせてくれるわ。

「さっきから黙って聞いてれば人を不人気だの地味だの雲山のオプションだの……。
 あんたら真面目に考える気あるのか、あぁ?!
 後さっきから姐さんのセリフがちっとも無くて空気なのよ! 少しはその辺も考慮しやがれってんだこん畜生め!」
「一輪……そんなぼろぼろの姿になっても尚、私の事を気にかけてくれるなんて……。ありがとう」

 よっしゃあ、どさくさに紛れて姐さんの好感度ゲェェット! 何かおかしい気がしないでもないが、別にそんな事はない!

「あの、それを言うのであれば、私もほとんど発言できていないのですが……」
「いや、ご主人が余計な発言をする必要は無いよ。むしろ何も言うな。後生だから」
「そうですか? ナズーリンがそこまで言うのなら、仕方ありませんね」

 ナイスナズーリン、と言いたいところだけど、さっきの件を省みると素直に褒めたくない。
 おっとそんな事よりも、これ以上話が横に逸れる前に軌道修正しなくちゃ。
 まずは、このふざけた会話の内容をきっぱりと否定して流れを断ち切らないと。

「とにかく! 私は地味じゃないし雲山のオプションでもないっ! 以上!」
「「「……………」」」

 沈黙。
 あれ、何この空気。さっきより気まずいんですけど。
 何で皆そんな哀れむような目線で、こちらを見つめているのでしょうか?
 姐さんだけはまだ感動の余韻に浸っているのか、明後日の方向を向いてるけど。

「………まあ、そこは一万歩譲って妥協するとしよう。これ以上話が縺れるのは勘弁願いたいしね」

 さっさと終わらせたいって点には同意するが、一体どこから一万歩だとか妥協だとかそんな言葉が出てくるんだと問い詰めたい。
 むしろ今まで耐えて堪えてきたのはこっちなんですけど。

「しかし、だ。君自身が幾ら否定し拒もうとも、世間がそう評しているのは事実。それは他ならぬ君が一番分かっている筈だが?」
「うぐ」

 反論しようにも言葉が出てこない。
 本当にこの鼠の化身ときたら、誰もが言い渋る正論を立て板に水を流すような感じでさらりと口にしてくるから困る。

「で、結局のところどうなのよ?」
「んー。やっぱり一輪は地味で雲山に印象掻っ攫われた哀れな僧侶利府って事で」
「てめぇら肋骨折れろ。いやむしろ今からへし折ってやるから覚悟しろ」

 誰が伝説のネタ僧侶だ。私はきずぐすりじゃないぞ。

「それですっ!」
「ののわっ!?」
「なんだご主人。いきなり頓狂な声を挙げたりして。なるべくそういう行為は慎んでもらいたいね。私が困る」
「あ、すみません。急に閃いてしまったのでつい」

 部下の鼠に頭を下げて謝る毘沙門天の代理がいた!
 星…さっきも思ったけど貴女本当にナズーリンには弱いのね。いつも思うけど、一体どっちが主なのやら。
 何、お前が言うな? 後で命蓮寺の裏に来なさい。可愛がってあげるから。

「星、一体何を閃いたの?」

 ここでようやく姐さんが会話に復帰。今までずっと余韻に浸っていたというのだから、矢張り姐さんは凄い。
 崇めろ~! 称えろ~! やっぱり姐さんは最高だぁ~! ワハハハハハ。
 ちなみに姐さんの口調が前回より砕けてるのには、別に特別な意味は無いそうな。
 あれ? 『前回』とか、私何言ってるのかしら?

「いえ、今のムラサの発言を聞いて思いついたのですが……。
 その僧侶という個性を全面的に押し出していけば何とかなるのではないか、と」
「はぁ? いやいや星、流石にそr「いいじゃんそれ!」……へ?」

 荒唐無稽もいいところな星の提案に即駄目出ししようとした私をムラサが遮った。
 目を輝かせている船長は、正直不気味だ。なんか怖い……って。
 ぬえに姐さん、さらにはナズーリンまでムラサと同じような顔をしてるーっ!?
 私の脳内で警鐘が鳴り響く。やばい。何がとはいえないけど、何かがやばい。絶対ろくな流れにならないわよこれ。

 いかん、早く止めないと手遅れになる!

「あの皆」
「そうよ、考えてみたら今幻想郷で僧侶属性持ってるのって一輪だけじゃん。
 だったらそれを活かさない手は無いっ!」
「あ、あの」
「成程、ご主人にしては実に具体的で筋が通った提案じゃないか。中々悪くないと思うよ」
「だから」
「まさしく『その発想はなかった』だわね、こりゃ。よぉぉぉし、俄然燃えてきた! 船長頑張っちゃうぞー!」
「いやだからあn」
「よかった……。これで一輪の悩みも解消されるのね。星、貴女の閃きに感謝します」
「めるぽ」
「そ、そこまで持ち上げられると、なんだか恥ずかしいですね……。でも、私の案が役立てるのならば本望です」
「……………」

 だ……誰も聞いちゃいねぇっ……! 渾身の、渾身のめるぽまで流されるとはっ……不覚っ……! 想定外っ……!
 いやアゴ芸してる場合じゃないでしょ私。『ざわ… ざわ… 』じゃねぇよ。

 そんな私を置き去りにして、会話はさらにヒートアップしていく。

「となると、誰をモチーフにするかが重要よねっ! 私としてはやっぱり伝説の僧侶利府で――」
「駄目駄目そんなの。それだと一輪をスキンヘッドにしないと駄目じゃん。
 折角頭巾を被ってるんだし、ここはシスター怜奈で!」
「君は実に馬鹿だな。そんな型はまりのシスター像を意識したところで目立てる筈が無いだろう。
 そもそも怜奈は盗賊の恋人と元祖馬鹿兄貴という要素が必要不可欠だ。
 この幻想郷でその条件を満たすのは不可能に近い」
「むぅ、だったらナズーリンは、何かいいアイディアあるの?」
「ふむ、そうだな。私としてはシスター聖羅を推そう。
 既存のシスター像に縛られない破天荒な性格にくせのある成長、
 支援会話も充実しているし何よりツインテールが文句なしだ」
「だーかーらー、一輪は頭巾を被ってるのがポイントなんだって言ってるじゃん。
 ツインテール如きの為に惜しげなく頭を曝け出すなんて馬鹿げてるわ」
「む、ツインテールを馬鹿にするとは捨て置けないな。あれはいうなれば獣耳に通じる要素だというのに」
「あ、あの、私は聖女差負意がいいと」
「『杖空振るのが仕事』とか『芝と妹のイベント終わったら用済み』のプリーストぉ?
 駄目駄目、空気化加速するだけじゃん」
「そ、その不遇な境遇こそに、一輪との共通点も見出せると思うのですが」
「ならいっそ襟巣にしましょう。弟の為に身を投げ出すあの献身には心を打たれます」
「「「いやそれは無理がある」」」

 何、この某手ごわいシュミレーション歴代シスター会談。
 ネタがこぁすぎて…おっと誤字、コアすぎるわよ。誰得にも程がある。
 ちなみに私が好きなのはシスター絵連。
 魔防幸運は一応人間ユニットじゃ最強だし。防御が紙すぎるとか光魔法が使い辛いとか言うな。

「――――!」

 『ワシはセ氏利亜が好きだ!』って?
 あのね雲山、そいつはシスターじゃなくてヴァルキュリアだから。魔道軍笑。あ、魔乳軍将だっけ?
 って、いやいやいや。今重要なのはそんな事じゃないでしょ。

「しっかし時代も変わったよねぇ。まさか杖でボコスカ殴れるようになる日が来るとは思わなかったわ。
 上級職のインフレは流石にアレだったけど」
「私としては海賊とか山賊が味方にならなくなった点が不満っちゃ不満かも。バーサーカー大好きだったのにー!」
「ふむ、確かに私も色々と思うところが無いわけでも無いな。
 職種変更は悪くないアイディアだったが、如何せん穴が多すぎた。
 せめてクリア後特典などにしておけば無難だったろうに」
「皆、不満や不平を並べるだけではいけないわ。
 いらない子なんていない。好きな子を育てて活躍できるように戦略を練る。
 それこそがあのシリーズの魅力なのだから」
「聖の言うとおりです。
 確かに漆黒ハウスの理不尽さには閉口しましたし電圧斧将軍のネタっぷりには憐憫の情が湧く程でしたが、それら全てを受け止め楽しむのが、本来の在るべき形なのです」
「まぁ一理あるっちゃあるかもね。『……と、ゆだんさせといて…ばかめ、しね!』とかもいい思い出だし」
「縛りプレイとかで興味なかったキャラに愛着湧いたりもするし」
「そうです。それこそが楽しむ心に違いは無いという平等の証明。あぁ、なんと素晴らしい事でしょう」

 ………。駄目だこりゃ。

「はぁー……」

 このままここにいても埒が明かない。
 そう判断した私はただのF○談義に突入してしまった他の面々を放置し、ひっそりと食堂を後にした。
 














 晴天の清々しさも、今の私には何の励ましにもならない。むしろ空風の冷たさが身に凍みる。
 そーいや昔、涙を流さない為に上を向いて歩こうっていう歌があったっけ。歌う気なんてさらさらないけど。

「あー…抜け出してきたのはいいけど、これからどうしよう」

 当ても目的も無く勢いで行動した結果がこれ。認めたくないものよね、若さ故の過ちって。
 何? 年考えてから発言しろ? よしお前私のテーマ曲の名を言ってみろ。

 よくよく考えてみれば、私は諸々の事情で地上の人妖との関わりをほとんど持たずに過ごしてきたんだから当然の形…なのよね。
 最近こそ人里の人間やらそこらの妖怪やらと交流があるけど、それもほとんどが聖や星を信仰したりナズーリンに依頼したりといった連中がほとんど。
 ……あれ、これって結構良くないんじゃ? 『永遠亭に告ぐ引きこもり勢力、その名は命蓮寺!』とか新聞に書かれたらしゃれにならないような……。
 
 …………。
 ま、まあ、その辺はおいおい考えて対処していけばいいわよね、うん。

「…っとと。いつの間にかこんなところに来ちゃってたのね」

 気が付くと、目の前には巨大な滝が。
 ここは幻想郷でもかなりの勢力を誇っている妖怪の山付近。
 轟々と流れ落ちる滝の光景が好きで何回か見物に来たから、この場所の事はそこそこ知ってる。

「されど、今は滝どころか一滴の水すら落ちず……か」

 今私の前にあるのは豪快な動の自然美では無く、冷たく凍りついた静の自然美。
 ここ数日の大寒波であちこちの水流が凍結したって雲山が言ってたけど、ここも例外じゃなかったってわけか。

 ぼんやりと、大自然が生み出した氷の芸術を見上げてみる。
 一見頑強で如何なる物も受け付けない厳しさが溢れているけど、どこか脆く、儚さを感じるのは何故だろう。

「今の私の心境にぴったりだから、とか? はは……いくらなんでも自虐が過ぎるぞ、雲居一輪」

 自嘲気味に呟いてみるも、気分は晴れず。むしろますます暗くなった気がする。

 ちなみに今この場には私しかいない。雲山には『しばらく一人にしてほしい』って頼んで、席を外してもらった。
 凄く嫌そうな顔をしてたけど、気まずい雰囲気のまま無言で並んでいるよりはずっとまし、だと思う。

 何で私、こんなところでネガってるんだろう。
 自己嫌悪は更なる自己嫌悪を呼び、思考はどんどん負の螺旋を描き下へと堕ちていく。
 駄目だと分かっているのに止められない。これが巷でいう安置スパイラルって奴なのね。
 え、それは紅蓮だって? 何それ??

「こうなったらいっそ『鬱だ氏のう』 そうしよう……って。へ?」

 不意に背後から聞こえてきたか細い二人の少女の声。
 私すら怖気だつほどに沈み込んでいたそれに釣られ、振り向くと。







 二人の少女が互いをしっかと抱き合い、滝つぼへと身を躍らせていた。








「なっ、お馬鹿っ―――!」

 考えるよりも先に私の体は動いていた。
 落ちゆく二人を追いかけるように飛び出して、掴もうと手を伸ばす。

「くぉの……っ!」

 無理やり加速し、何とか追いついて捕まえる事に成功したが、しかし如何せんスピードが出過ぎていた。
 空中停止しようと踏ん張ってみるものの、まるで効果が無い。流石に二人抱えて飛ぶのは私でも無理だ。

「く……駄目……か……」

 どんどん迫り来る地面。加速している現実とは裏腹に、感じるときの流れは実にゆっくりしている。
 これが極限状態の超スロー体感って奴なのね。
 色々な思いが頭の中に次々と浮かんでは消えていく。

 ――ああ、最後にもう一度だけ、姐さんの顔が見たかったなぁ。

 そんな事を考えながら、私は静かに目を閉じて。
 やがて訪れるであろうその瞬間を待った。





「スパイダーストリングスッ!!」




「……へ?」

 やけに気合のこもった声が聞こえたかと思うと、どこからともなく蜘蛛の糸が飛んできて私達の体に巻きついた。
 そのおかげで地面に激突するというすれすれの地点で落下は停止。……したはよかったけど。
 
「うおぅっ!?」

 直後勢いよく引き戻され、そのまま空中へと投げ出されました。
 びょい~んって擬音が頭に浮かんだのはきっと条件反射だと思う。だってあまりにぴったりな表現だもの。
 今なら縁日の水風船の気持ちが理解できる。いやむしろヨーヨー?

 そんなこんなで。私達は三人仲良く、滝つぼの傍にある茂みへと墜落したのでした。あべし。











「ふぅ、危ない危ない。よかったね。私がいなかったら貴女達今頃柘榴の実みたいになってたよ」
「ソーデスネ。アブナイトコロヲタスケテイタダキ、マコトニアリガトウゴザイマシタやまめサン」
「………あっれー、おかしいな。感謝の気持ちを欠片も感じないぞ?」
「イエイエソンナコトアリマセンヨコンチクショウガ」
「わー根に持たれてる感ありありだー。
 それと念のために言っておくと、私は畜生じゃなくて虫だからね。そこんとこよろしく」

 陽気にからからと笑うその顔が憎たらしくて殴りたくなったけど、
 一応恩人……じゃなくて恩妖だから思いとどまった。
 落ち着け私。こんな事で爆発してたら笑いものだ。Be cool……Be cool……。よし落ち着いた。

 済んでのところで私達を救ってくれたのは、地底にいた頃の知り合いの一人、黒谷ヤマメ。
 疫病だか疾病だかなんだかを操る程度の力を持っている土蜘蛛であまり評判はよろしくないらしい。
 まあ、元からはみ出し者ばかりの地底じゃあまり関係ない話だし、私はそういう風評で判断したりしないけど。

「しかし驚いたわ。我らが不人気ーズ希望の星である秋姉妹を迎えにきたら、
 昔の顔なじみと一緒にフォールインフォール真っ最中とは。
 貴女に心中願望があったなんて知らなかぱぎっ」

 物凄く失礼な事を言われたので右ストレートでぶん殴った。殴った拳が痛い。土蜘蛛って結構外皮硬いのね。
 そしてフォールインフォールとか、それで上手いこと言ったつもりか。
 こっちとら生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだよ。

 って、んん? 今聞き慣れない単語があったような?

「え、『不人気ーズ』??」
「お、流石は一輪。早速食いついたね。嬉しいよ。やっぱり未来の確定不人気キャラは格が違ぎゃべっ」

 下から勢いよく突き上げるアッパーカットを人体急所の顎にお見舞いしてやった。
 我ながら素晴らしい一撃だと思うわ。
 土蜘蛛は顎が弱点なのかとかそもそも顎があるのっておかしいとか色々突っ込みどころはあるけど、
 気にしたら負けよ。

「いたた、今のは少し効いたかも。一輪、貴女ボクサーの素質あるんじゃない?」
「見様見真似よ。知り合いのね」

 一時期ボクシング漫画にハマっていた雲山が毎日シャドーやってたのは私しか知らない秘密。
 明日の雲山、雲山の一歩。
 パンチを放つ度に暴風が吹き荒れるから、泣いて頼んで止めてもらったのはいい思い出。

「私のパンチの話はどうでもいいから、質問に答えてくれる?」
「そうそう。不人気ーズの話だったっけね。んじゃ、着いてきて」
「はい?」

 説明しろと言ったら、着いてこいと返された。意味不明にも程があるんですけど。

「口で説明するより、実際に見てもらった方が手っ取り早いし分かりやすいからね。それではしゅっぱーつ」
「あ、ちょっとヤマメ!」

 ろくに説明もせず、ヤマメはすたすたと明後日の方向へ向かい歩き出した。慌ててその後を追う。
 はぁ、なんでこんな事になったのだろう。
 今日は厄日に違いない。そう考え、私は心の中で深いため息をついた。

 ちなみに私が命がけで助けようとした二人の少女……秋姉妹とやらは
 糸に縛られ、ずるずるとヤマメに引っ張られてます。
 それでいいのか秋の神様。
















「はい到着っと」
「ほへー……」

 ヤマメに連れられて来た場所は、地底の町外れにある小さなあばら屋。しかしいざ中に入ってみると。
 そこはまるきり別世界でした。

 とてつもなく広い空間に、ところ狭しと並べられるはみょうちくりんなカラクリ。確か河童の機械だったか?
 壁には四角い画面がこれまたいくつも貼り付けられていて、全てが違う光景を映している。
 むぅ、これが外界の映画って奴なのかしら。

 そしてそれを眺めどんちゃん騒ぎをしているのは奇怪な様相の連中。
 地底で見知った顔もいるが、それ以上に話すどころか見たことすらない外見の存在が多い。
 むしろ人の姿をしている奴が少ないって、ここはどこぞのお化け屋敷か。
 水木し○るがいたら狂喜するわね、きっと。

「えっと、何、この………何?」

 何というか、言葉にし難い雰囲気に飲み込まれ、上手く言い表せない。
 そんな私をヤマメはニヤニヤしながら眺めている。
 畜生、こいつ楽しんでやがるっ!

「また殴られたい? 今度はコークスクリューいってみる?」
「あはは、それは遠慮しとく。ごほん。それでは改めまして。
 雲居一輪様、本日は遠く地上からわざわざ足を運んでいただき、誠にありがとうございます。
 ようこそ、地底世界の隠された秘境、不人気ーズのたまり場へ。我々は貴女を歓迎いたします」

 尤もらしくかしこまり、ペコリと礼をするヤマメの姿は結構様になっていた。
 ぐっ、少しカッコいいかもと思ってしまったじゃないの。

「いや、それはまあ、いいんだけど。とりあえず説明してくれない?
 正直何が何やら、さっぱり状態で……」
「はぁ~さっぱりさっぱり」
「!?」

 これ以上無いほど気の抜けた声が頭の上から聞こえたような気がしたので確認したけど、何もいなかった。
 やばい、幻聴まで聴こえ始めてる。一輪……私、疲れてるのね。

「んー説明も何も、見たまんまだとしか言いようがないのよね、これが。辺りをじっくり見てごらん。そうすれば何となく理解できると思うよ」
「は、はあ」

 どうやらヤマメに説明を期待するのは無意味らしい。
 ぼうっとしていても仕方ないので、私は言われるがままに周りを観察する事にした。





                                                       ハイカラ少女観察中………




「では本日の議題。『夢消失』と『Bad Apple!!』ではどちらが神秘的か!」
「ふふん、比べるまでもないわね。夢消失に決まってるわ。
 あの切なく物悲しいメロディは旧作でも随一、いいえ東方シリーズでも頭一つ抜けているもの」
「はっ、馬鹿馬鹿しい。
 今あちこちで大ブレイク中の『Bad Apple!!』に勝てるわけないでしょ」
「何ですって! たかが道中曲のくせに!」
「そっちこそたかが騒霊のくせに!」




「あばよ~小兎っつぁん~!」
「まてーい教授ー!」
「おいおい、あの二人また酔っ払って鬼ごっこしてるよ。おい助手、止めなくていいのか?」
「あ~、面倒だからパスするぜ~。私が一番『ぜ』を上手く使えるんだぜ~!」
「お前もか」




「ねぇどんな気持ち? 三妖精で唯一名無しの本読み妖怪に人気で負けて、ねぇどんな気持ち??」
「スターが三妖精どんけつで酒が上手い!」
「うわーんあんた達なんか死んじゃえー!!」




「カラスです……。給料アップしてもらえると喜んでいたら、死亡フラグだったとです……」
「妖忌です……。早く立派になった孫の顔がみたいとです……」
「キクリがククリでぎっくり腰のサクリファイスをゆっくりしていってね!」
「メイドさんや、ワシの飯はまだですかな?」
「10年前に食べましたでしょう、亀の長老様」










 何このカオス空間。それが率直な感想でした。
 とりあえず分かったのは、ここにいるのが今の幻想郷では
 ほとんど存在を知られていない連中ばかりだという事。
 そして―――

「これまでの人気投票で、最下層グループを形成してる連中ばかりだって事よ」
「やっぱりね…」

 道理でどこか自虐的な台詞が多いわけだ。
 まるでさっきまでの私を見ているよう……いかんいかん。危うくここの空気に呑まれるところだったわ。

「『まるで私みたいだわ』、とか考えてるでしょ」
「!? な、なんで」
「わからいでか。だって一輪凄く分かりやすいし」

 そ、そうだったのか。まったく自覚が無かったわ……。
 ん? て事は、姐さんに対する私の熱いリビドーもバレバレって事?
 それって由々しき事態……でもないわね、うん。

「てのは冗談だけど。ま、なんとなく分かっちゃうんだよねー。
 ま、ここにはそういう連中ばっかりが集まってるってのもあるけど」

 そう呟くと、ヤマメは目を細め、遠くを見やった。
 その表情は、先程までとは違い深い哀愁と、一種の悟りが表れている。

「つまり、ここはその、一般的にいう不人気な方々が集まって騒ぐところ……なの?」
「うん、大体それで合ってる。でも単純な馴れ合いってわけでもないんだな、これが」
「? それって「あーこんなところにいた。探したのよヤマメ」
「おっ来た来た」

 どういうことなの、と尋ねようとした私の言葉を遮って登場したのは、
 何とか顔と名前ぐらいは認識できる連中だった。

「困るよー。仮にもヤマメは不人気ーズのまとめ役って立場なんだから、
 相応の振る舞いをしてもらわないと」
「とかなんとかリリカは言ってるけど~、
 本当は厄介ごとをまとめて押し付けたいだけだったりして~♪」
「や、やぁねぇメルラン姉さん、そそそんなわけないじゃんアハハ」
「気温は冬ですが、暦の上ではもう春ですよ~」
「リリーは凄いなー。
 Win版登場キャラでは前回人気投票最下位だったのに、いつも明るく振舞えて。
 私達も見習わないとね、スーさん!」
「…………」
「『ヤマメがいなかったから寂しかった』? はいはい、キスメは可愛いね。私の宝物だよ」
「………♪」

 うぐ、流石にこれだけの人数で一斉に喋られると聞き取りづらいわ……。
 とりあえず、この人(?)達も不人気キャラという哀しみを背負っているって事は分かった。
 だって全体的に目立った特徴が見当たらないし、キャラの扱い難しそうだし、影も薄そうだし…って、
 全部私が言える事じゃないわよね……。

「で、ヤマメの隣にいるのが?」
「うん。前から話してる雲居一輪。紹介するね一輪。
 この娘達は私がリーダーやってる不人気ーズ活動推進派幹部だよ。
 人呼んで『Win版不人気五人衆』」

 何そのどこぞの組織っぽい胡散臭い呼び名。
 しかも私の数え間違いじゃなければ、五人衆なのに六人いるっぽいんですけど。

「五人衆なのに六人いるのは気にしないでいいよ。リリカとメルランはセットでカウントしてるから」
「あーさいですか」
「ちょっと待てや土蜘蛛。誰が虹川美人四姉妹のいらない子で出がらしだって?」
「いや誰もそんな事は言ってないから」

 確かにセットにするなら長女もいないとおかしいわね。
 もう一人忘れてる気がするけど、別にそんな事はなかったわ。

「初めまして、地味輪さん!
 『不人気なのに不人気ネタですらいぢられない』が枕詞の
 メディスン・メランコリーだよ。よろしくね」

 思わず心の中で『うわぁ……』と呟いてしまった。
 純真無垢な笑顔でとんでもない自虐の台詞を口にされると、ここまで強烈なものなのか……って。

「いやいや、私一輪だから。地味輪じゃないから、ね?」
「あ、ごめんなさい! いつもヤマメが『地味な一輪、略して地味輪』って言ってたから…」

 てめぇの仕業か土蜘蛛。

「よしヤマメ、とりあえず歯ぁ食いしばれ」
「オーケー一輪、ときに落ち着こう。謝るからとりあえずその固めた拳を緩めたまえ」
「いけ~殴れ~蹴れ~投げ飛ばせ~! ボコスカ最高~!」

 傍で躁霊(誤字にあらず)が煽ってきた。こちとら見世物でやってるわけじゃないんですけど。

「はぁー…。何かもう馬鹿馬鹿しくなってきたから帰ってもいい?」
「まあまあそう言わずに。
 将来お世話になるんだし、今のうちに慣れ親しんでおいて損は無いと思うよ?」
「一寸待て。私、ここの一員になるなんて一言も言ってないんだけど?」
「ちょっとちょっとヤマメ、話が違うじゃん。
『今回の人気投票で不人気確定の有望株がいる。絶対加入間違いなし!』って
 太鼓判押してたじゃん」
「大丈夫、そこは絶対揺るぎないかrあぎゃぱっ」

 テンプルにコークスクリューを叩き込まれた土蜘蛛は、きりもみ回転しながら吹っ飛んで壁に激突しました。
 でも謝ろうとは思わない。流石に、もう限界。

「ヤマメ貴女ね! さっきから私の事おちょくってからかって馬鹿にして……! それで楽しんでるでしょ!」
「へへ…『あばよパワーストーン、永久にサヨナラだぜ』なパンチをありがとう。次の目標はリベラだね」
「茶化さないで! こっちの気持ちも知らないでよくも……!」

 怒りが込み上げてくる。純粋で、やり場の無い激しい感情。
 今までずっと押さえ込んで、表に出さないようにしてた私の本音。
 それを笑いの種にされて、それでも笑ってやり過ごせる余裕なんて今の私には無い。

「うん、やっぱりそうだよね。そうでない方がおかしいもん」
「何を知った風な口を――」
「当たり前じゃん。だってさ、ここにいる皆が『そう』なんだから」
「………え?」

 その言葉には、今まで聞いたどれよりも深く、実感が込められていて。
 感情のまま掴みかかろうとした私の体は思わず静止してしまった。

「忘れたの? ここにいるのは不人気ーズ。
 不人気の烙印を押され、不遇な立場を嘆く奴らの集まりだって事を。
 貴女が今立ってる場所なんて、私達はとうの昔に通り過ぎちゃってるんだから、ね」

 遠い目をしたまま、淡々と語るヤマメ。
 ふと周りを見ると、皆神妙な面持ちで黙って聞き入っている。さっきまでどんちゃん騒ぎしてたのが嘘のようだ。

「でも、だったら尚更!」
「『理解できない』って? そりゃそうさね。私達だって、昔はそうだったよ。
 ろくな出番も無く、話題にもされず、
 いざ登場してみれば耳に飛び込んでくるのは『不人気』だの『誰こいつ』だのそんな言葉ばっかり。
 ネタキャラにされるだけされて、飽きられたらポイなんてのも珍しい話じゃなかったね」
「…………」
「だけどさ、こうして似た者同士で集まって、
 愚痴って泣いて喚いて叫んでしてるうちに、ふと気付いたのよ。
 『あれ、私だけじゃないんだ』ってね。
 似たような境遇で、どっこい頑張ってる連中がこんなにもいるんだって」

 パンパンと埃を払い、立ち上がったヤマメの表情は、さっきまでの憂いに満ちたものとは一変したとても誇らしげなものだった。

「そしたら、急に何だか嬉しくなってきちゃったんだよね。
 極々少数しかいない寂しい人気者じゃなくて、たくさんいる賑やかな不人気者である事がさ。
 他の皆も一緒。『上にいると落ちる心配が尽きないけど、いつも下ならそんな心配無縁だ』とか、『人気上位の連中が血眼で地位を保とうとしてるの笑えるw』とか、まさにその発想は無かったって感じでどんどん盛り上がって。
 気がついたらこんな感じになってたんだ。これこそ笑い話じゃない?」
「だ、だけどそれって、単なる開き直りなんじゃ……」

 一理はあると思う。思うけど、どうしてもこうとしか思えない。
 だけど、そんな私にヤマメが返したのは心地よい笑顔。

「否定はしない。だってぶっちゃけそのとおりだし。ね、皆」
「そ~そ~。でもそれこそが重要なのよ~」
「メルラン姉さんは楽観的すぎるけど、そこは同感。ネガネガやるのはルナサ姉さんだけで十分ってね」
「心が春なら、いつだって春ですよ~」
「私、人気は確かに無いけど、仲良しならたくさんいるよ。
 永遠亭の永琳達とかアリスとかここにいる皆とか。後スーさん! だから平気!」
「………」
「『私は、ヤマメがいれば、それでいいよ』? うんうん、私もキスメがいてくれて嬉しいよ」
「………♪」

 ただ強がったり、やせ我慢したり、空元気で虚勢を張ったり。
 それがどんなに辛くて哀しいか。私は身を持って知っている。
 だからこそ断言できる。
 今、私の目の前で笑っている連中は。騒いでいる連中は。心の底から楽しんでいるのだと。

 ……素直に、凄いと思った。

「貴女達、強いのね……。羨ましいわ。でも、私にはとてもじゃないけど無理。そんな考え方……」
「何をおっしゃる一輪さん。私が見込んだ人材が、そんな小さい器のキャラなわけ無いでしょうに」
「いや、だけど」
「あーもう、じれったい。しょうがないな、だったらとっておきのヒントをあげる。
 『人気が無い? 逆に考えるんだ。
 自分の魅力に気がついて理解してくれる存在は、本当に自分を好いてくれているんだ』ってね」
「―――!!」

 鈍器で思い切り頭をぶん殴られたような衝撃が、私の全身を駆け巡った。
 そんな考え方は無かったから、というわけじゃない。
 むしろ逆。その考え方を誰よりも深く理解し、実践している人が身近にいるのを思い出したから。
 そしてだからこそ、私はその人と一緒に在り続けたいと願っているから。

 誰よりも多くを認め、受け入れようとしたが故に、
 多くに忌み嫌われ、恐れられ、封印されてしまったあの人。

 ……そうだ。理解し受け入れてくれる存在が多いか少ないかなんて、取るに足らない些細な事。
 一人でも『いる』か『いないか』。それが何よりも重要な事なんだ。

 あの人には、『いる』。理解し受け入れてくれる存在が、確かに『いる』。
 そして、私にも―――

「……いるじゃない。それなりに私の事を理解して、受け入れてくれてる連中が」

 皮肉屋でとっつきにくいけど、根は悪い奴じゃない小さな賢将とか。
 矢鱈行動が積極的でちとやんちゃが過ぎるけど、気性はまっすぐな船長とか。
 悪戯ばかりする問題児だけど、いないと寂しい正体不明とか。
 生真面目で融通が利かないけど、少し抜けてるのが可愛らしい毘沙門天代理とか。
 どこまでも優しくて穏やかで、でも何より私達の事を気にかけてくれる
 あの人……姐さんだってきっとそうだ。断言できる。

 だって、そのくらい命蓮寺にいる連中は分かりやすくて、お人よしなんだから。

「お? どうやら吹っ切れたね。いい顔してるよ、今の一輪」
「……ヤマメ、さっきはごめんね。思いっきり殴っちゃった。今度お詫びするわ」
「気にしないでいいよ。こっちも嫌な思いさせちゃったのは事実だし。お互い様って事で」
「…ありがとう。でも埋め合わせは絶対するからね」
「いいって言ってるんだけどなー。ま、らしいといえばらしいか。直にそれどころじゃなくなるだろうし」
「?」

 どういう意味か分からず首を傾げる私。
 でもその疑問は、直後に近くの画面から聞こえてきたアナウンスですぐに解ける事になる。



”臨時ニュースです。
 幻想郷人気上位ランカー、十六夜咲夜、そして射命丸文の二名が命蓮寺を襲撃する模様。
 彼女らの目的は新規キャラ参入によるランキング変化阻止、及び自獲得票数の保守。
 臨時ニュースです……”



「な………!」
「うーん、危惧していた可能性の一つが現実になったか」
「や、ヤマメ貴女、こうなるって分かってたのっ!?」
「うんにゃ、分かってたわけじゃないさ。ただ予感はしてたよ。
 何せ前例があるしね。過剰防衛に走る奴が出てもおかしくなかったって事」
「前例?」
「地霊殿の小五ロリ介入による順位変動。通称『サードアイインパクト』。
 まー前回の時は秋姉妹の獲得票数八割増しで私達は盛り上がってたから、
 あまり気にかけてなかったんだけどね」

 確かに初登場でいきなり13位は破格の順位だ。
 東方好きの諸氏がどれほどロリk…紳士であるかという
 いい証明になったのは有名な話だけど、正直今はどうでもいい。

 ろくでもない理由で命蓮寺が、私の居場所が滅茶苦茶にされそうなのだ。そんな事……。

「絶対に許すもんですかっ!!」

 叫ぶが早いか、飛び出そうとした私だけど。

「スパイダーストリングスッ!」
「ふぎゃっ!」

 ヤマメの糸が足に巻きつき思い切りずっこけた。うぐぅ、鼻が痛い。

「な、何するのよヤマメ! 早くいかないと皆が――!」
「焦る気持ちは分かるけど、今は頭を冷やして考えなよ。
 あの二人はどっちも飛びぬけた実力の持ち主だ。
 おまけに組んでるとなれば単純に考えても戦力は二倍以上。
 まともに相手しようってのは無謀すぎるよ」

 片や時間を自在に操るパーフェクトメイド、片や幻想郷最速の烏天狗。
 弾幕勝負は元より実戦能力も秀でているこの二人に同時攻撃されたら、
 元々戦闘志向が強くない命蓮寺勢はかなり厳しい。
 ましてや襲撃者の目的が目的だ。
 この間の風祝みたく反則じみた攻撃を仕掛けてくる可能性も極めて高い。
 あ、勿論あの後きっちりとお礼参りはしたわよ? 私と雲山で。

「それはそうだけど、今はそんな事を言ってる場合じゃ」
「だーかーら、落ち着きなってば。正攻法が無理ゲなら、搦め手で攻めるのがセオリー。
 そして幸いここには、その手に長けてる連中が揃ってる。
 ならそいつを活かさない話は無いでしょ」

 にやりと笑うヤマメ。それは命蓮寺にいるあの悪戯娘がよく見せる笑みによく似ていた。
 つまり、悪巧みっぽい事を考えてる顔だ。

「まさかヤマメ、貴女……?」
「そのまさかさ。よし、我こそはと思う奴、ここに集まれ!
 楽しい作戦タイムとしゃれこもう!」























「な、ナズーリン、どうして私をかばったりなど!」
「はは、まったく…だよ……。
 どうやら私も……相当毒されていたらしいな……。逃げろ……ごしゅ……じん……」
「ナズーリィィィンーッ!!」

 不意を衝かれた星を咄嗟にかばったナズーリンは、千本ナイフを全身に受け倒れた。
 動かなくなった部下を抱きしめ、泣き叫ぶ星。

「まずは一匹。チョロチョロと目障りな鼠を始末してやったわ。
 次はドジっ虎、貴女の番よ」
「くっ」

 だが襲撃者はそんな寸劇に動じない。当然だ。
 今の彼女達は修羅。目的を果たすためなら過程や方法など選ばない。

「よくもナズーリンを、ナズーリンをやったなぁぁぁぁっ!」
「この駄メイドめ! 覚悟しろぉぉぉっ!」

 ムラサがアンカーを、ぬえがトライデントを構えて左右から同時に突っ込んだ。
 しかしその攻撃は咲夜の周囲に突如巻き起こった風の壁に阻まれてしまった。

「なっ」
「ふふふ、私がいる事をお忘れなく。
 尤も、かの春雪異変自機仕様のフルボム装備咲夜さんを止められる方など、
 まずこの場にはいないでしょうが」
「な、ならまず天狗、あんたから死ね!」
「待てぬえ、早まるんじゃ――!」

 ムラサの静止も聞かず突っ込んだぬえのトライデントは虚しく空を切った。
 かわされた、とぬえが思う間も無く。

「緋想天初期版仕様『幻想風靡』っ!」
「ぬえらばっ!?」
「ああ、ぬえーっ!」

 いまや懐かしのチート性能スペカが直撃し、ぬえは墜落した。

「突進見てから風靡余裕でした。
 これぞ幻想郷最速の成せる技。自重しないというのは素晴らしいものです」
「普段なら殺意が芽生えるところだけど、味方である今は頼もしい事この上無いわね」
「お褒め預かり恐悦至極。しかしこの同盟は一時の物。
 利害さえ一致すれば、普段の敵は友となる。次はありませんのでご了承くださいね」
「貴女に言われるまでも無い。それ以上は望まないし必要無い。
 必要なら組む。不必要なら組まない。ただそれだけの話よ」
「そこまですっぱり割り切ってくれるなら、むしろこちらも好都合というものです。
 さて、それでは時間も押している事ですし、ちゃっちゃと残りを片してしまいましょう」
「元よりそのつもりですわ」

 強かな笑みを顔に貼り付けた二人の修羅が次なる標的を定め、ゆっくりと歩を進める。
 命蓮寺勢でいまだ動けるのは星にムラサ、そして聖。

「ちぃっ! 何か手を打たないと……。でも星はあの様だし……」

 ナズーリンを抱きかかえたまま、うつろな目で
 『ナズーリン…ナズーリン…』と繰り返している星。
 あれでは実質戦闘不能だ。当てには出来ない。
 舌打ちするムラサだが、状況が状況だけにこれはしょうがない。

「だけどまだ希望はある!
 もうすぐ聖にかけられたサイレスの効果が消える筈。そうすれば!」
「―――! ―――!」

 そう、先程から一言も発していなかった聖は『喋らなかった』のではなく
 『喋れなかった』のだ。
 サイレス状態になると一切の魔法は使えなくなり、言葉も出せなくなる。
 身体強化魔法を使えない聖などただの優しいお母さんに過ぎず、
 出来る事といえば涙を浮かべながら必死に腕を振り回し、訴えるぐらいだった。
 だがサイレスの効果とて永久ではない。
 一定のターン……要するに時間が経過すれば自然に回復する。
 そして既にそれなりの刻が経っている。後少し待てば――

「サイレスが解けるのを待っているなら、それは無駄よ。だって解けないから」
「!? 何を言ってるのよ。スリープだろうがバサークだろうが、時間が経てば回復するわ」
「ええ、基本的にはね。だけど残念。今回のサイレスはトラ○ア仕様。
 パチュリー様がわざわざあの古道具屋に出向いて手に入れた特注品よ」
「な、何ですってー!? あの射程命中反則、レスト以外回復不能の鬼畜仕様だとーっ!?」

 終盤でサイレス→スリープ→リセットの悪夢を経験したムラサの顔が青ざめる。
 杖ユニット育成を怠り、捕獲もろくにしなかったせいでもあるが、
 逆にそんなプレイでよく終盤までいけたものだと評価してやりたい。

「まあ、流石に命中100%とはいかなかったようですがね。
 流石は封印された大魔法使い、魔法防御と幸運の高さには定評があるようで」
「こ、この恥知らず共め……!」
「何とでも言いなさい。勝てばよかろうなのよ」
「私怨はありません。が、人気投票の為なら消すもやむなし。さぁ、お別れです!」
「ち、畜生……! ちくしょおぉぉぉぉーっ!!」

 目前に迫るナイフと風の弾幕にムラサが叫んだ、その時だった。

「そこまでよ、道を踏み外した人気キャラ共め!」
「っ!」
「何奴っ!」
「あ……」

 声のした方を見上げると、先程命蓮寺を飛び出した雲山の主が仁王立ちのポーズで浮いていた。
 はいてなかった。















 決まった。我ながら完璧と言わざるを得ない登場だったわ。
 御覧なさい、襲撃者達も驚愕の余り固まって……。

「おやおやこれはこれは。誰かと思えば、一なんとかさんではありませんか」
「そういえば貴女いなかったのね。すっかり失念してたわ。地味だから」

 言葉のナイフとかまいたちで反撃されました。くそ、かなり痛い。
 だけど今の私はもう、さっきまでの卑屈な一輪じゃない。
 精一杯、私のやるべき事をやりとげるまで!

「余裕こいていられるのも今のうちよ。この一輪さんが来たからには、
 貴女達五体満足で帰れると思わない事ね」
「さーてそれでは今年の干支でもあるドジっ虎からかっさばくとしましょう」
「猫鍋ですね。分かります」
「人の話を聞けェェェェッ!!」

 こいつらスルースキルも半端じゃないわね。
 流石はパーフェクトメイドに伝統のブン屋と称される事はあるわ。

「五月蝿いわね。私達は今とても忙しいの。
 貴女みたいな不人気確定キャラに構っている暇なんて無いのよ」
「まったくですね。
 ぶっちゃけ人気キャラ確定の鼠とドジっ虎とニューババァと
 絶対領域さえ始末してしまえばノルマ達成ですし」
「こら待て、一輪はともかく私まで不人気扱いとは納得いかないわよ!」

 お前はどっちの味方だ船長。後で覚えてなさいよ。

「ぐぐ……。と、とにかく、貴女達は私が止める! 覚悟ぉ!」
「はいはいボムボム」
「はいはい風靡風靡」
「ぎゃふん」

 瞬殺ってレベルじゃありませんでした。ぐっ……まさか一発も入れられないなんて……!
 思いのほか受けたダメージが大きかったようで、すぐに立ち上がれない。
 悔しそうに見上げる私を、メイドが冷めた視線で見下ろしてくる。

「ふん……。知ってる? 東方新作で新勢力が出来るとね、決まって一人は不人気が出る。
 そんなキャラはネタで散々弄くられて、やがてポイされるのがお約束。
 貴女の事よ、一なんとかさん」
「ぐっ………」
「不人気キャラは不人気キャラらしく、己の分を弁えて行動していればいいのです。
 まあ我々人気キャラの苦労など不人気キャラには到底理解できないでしょうが」

 クカカカと笑う烏天狗。お前はどこの悪魔超人だ。
 性格的にはあながち間違ってもないけど。

「はんっ……上流階級独特のご高説どうも。
 でもね……そんな事、どうでも……いいのよ……っ……!」

 気力と根性で無理やり体を起こす。途端に全身に奔る激痛。くそっ、目が霞むわ……。

「まさか立ち上がるとはね。でも運命は最早決している。
 貴女では変えられない。覆せない。
 貴女とそこのセーラー服と虎を始末して、
 命蓮寺一行の幻想郷堪能ツアーは終幕というわけよ」
「しかし万が一という言葉もあります。
 念には念をいれ、ここはきっちりと止めを刺してあげましょう。せめてもの情けです」

 メイドがナイフを取り出し、烏天狗が団扇を構えた。
 絶体絶命。前門の虎、後門の狼。前門が星だったら楽勝なんだけど、ね。

「………そう、ね。どうやらここまでみたい」
「今更悟っても遅いわよ。これでチェックメイト」
「ええ。………ただし、貴女達がね」
「この期に及んで何を――っ!?」

 ナイフと風が放たれるその瞬間。
 突如メイドと烏天狗の周囲に無数の糸が出現し、あっという間に縛りつけた。

「な、何ですかこれはっ!」
「うぐぐ、だ、脱出できないッ! 不意を衝かれただと……? この咲夜が!?」

 必死になってもがく二人だけど、糸から逃れる事は出来ない。
 それどころか糸はさらに増えてがんじがらめになっていく。

「無理無理。私の体内で作り上げた特性の粘着糸だ、
 人間は勿論烏天狗程度の筋力で引き千切れる代物じゃないよ。何せ鬼の折り紙付きだからね」
「あ、貴女は地底の土蜘蛛!」
「よ、よくもこんなっ!」

 何も無い所から突然ヤマメが現れた。
 でも私は驚かない。何故なら知っているから。

「まったく、登場が遅いわよ……ヤマメ。間に合わなかったらどうしようかと思ってたわ」
「ごめんごめん。三妖精が土壇場でケンカしちゃってね。
 それを宥めるのに時間かかっちゃった。とりあえず間に合ったみたいだし許して」

 カラカラと笑うヤマメの後ろに三妖精が現れ、くすくすと笑う。
 もう説明するまでもないと思うけど、念の為に一応してあげるわ。

 ヤマメが立てた計画は実にシンプルで分かりやすいものだった。
 まず私があからさまに目立つ登場をして、襲撃者達の注意を引き付ける。
 その間に三妖精の能力で姿と音と気配を消したヤマメが襲撃者達の周囲に
 糸を設置し、チャンスを待って一網打尽にするというもの。
 本家東方に登場こそしてないけど、やっぱり三妖精の能力ってかなり厄介だと思う。
 こいしちゃんの下位互換とか言っちゃ駄目よ。

「さて、と。これで形勢逆転だね。どう、さっきまで散々馬鹿にしていた不人気キャラにやられる気分は?」
「ぐぐぐ……」
「ぬぬ……」
「貴女達人気キャラ様にしてみれば、
 私達不人気キャラなんて路傍の草同然かも知れないけどね。
 少なくとも人気=実力ってわけじゃない事。
 偶には足元も見ないと掬われるってね。
 ま、今回は調子に乗りすぎた貴女達の自業自得って事で、許して頂戴な」

 そう告げたヤマメの口調に皮肉や嘲笑の意味合いは込められていない。
 要するに、言いたかっただけって奴でしょうね。
 だって凄くいい笑顔してるもの。正直眩しいくらいの、飛び切りの笑顔を。

「さて、と。それじゃあきっちりケリを付けましょうか。皆、Pを一輪に!」
『いいですとも!』

 ヤマメの号令が飛ぶと、いつの間にか現れていた不人気ーズの皆がこぞって
 Pを放出し始めた。
 無数のPが宙を舞い、私の体に集まってくる。ぐんぐん力が湧いてくる。

 ………よし。この全てのPを、雲山に!
 いつから雲山いたんだとかいう突っ込みは受け付けない!

「――――!」

 どんどんでかくなる雲山。威圧感も暑苦しさもマシマシだ。
 そして私は懐からスペカを取り出す。スペカ名は、言うまでもないわよね?

「あ、あやややや、何だか滅茶苦茶嫌な予感がするんですけど―――っ!?」
「や、やめろ不人気共ッ! そんな事をそいつにさせるなーッ!」

 必死にもがくメイドと烏天狗。でももう遅い。
 貴女達は踏み越えてはならない一線を越えてしまったのよ。

「……私の事を、地味だの一なんとかさんだの、不人気呼ばわりしたのは許せない!
 でも―――」

 でっかくなった雲山が、その巨大な拳をしっかりと握り締め、ゆっくりと振り上げた。

「姐さんを馬鹿にされたり、命蓮寺を滅茶苦茶にされるのは―――――
 露骨に不人気って馬鹿にされたり、雲山のオプション扱いされる事より、許せない!!」
「あ、あやややややややーっ!」
「ま、待って、早まるな――」






「拳符『げんこつスマッシュ ゴッド・オブ・オベ○スク風アレンジ』――ッ!!」





 巨大雲山の拳が勢いよく振り下ろされ、ズドォォォンと盛大な音が辺りに響いた。
















「一輪、今回は貴女に助けられました。本当にありがとう」
「いえ、姐さん。そのお礼は私ではなく、ヤマメ達に言ってあげてください。
 彼女達がいなかったら、私は何も出来ませんでした」

 ぽりぽりと頬をかく。
 姐さんに感謝されるのは嬉しいけど、私だけのお手柄って事にはしたくない。

「そうですね。ヤマメさん達、今回は危ないところを助けていただき、本当に」
「ああ、いいよいいよ。そういう堅苦しいのは苦手だから。
 別に感謝されたくてやったわけじゃないしね」
「ふふっ、そんなに謙遜しなくてもいいのに。でも、私達は忘れません。
 貴女達がしてくれた事を。そしてそれに対する感謝の気持ちを。
 それを覚えていてください。もしかしたら、私達が力になれる時があるかもしれません」
「うあー。なんというか、とんでもないお人よしさんだね貴女は。一輪が敬愛するだけの事はあるよ」

 ふふん。ヤマメ、ようやく貴女も姐さんの素晴らしさに気がついたか。
 もっと褒めなさい、称えなさい、崇めなさい。

「ナズーリン、ナズーリン……! よ、よかった、本当に、よかった……」
「ご主人、その、なんだ。嬉しいのは分かったから、離れてくれないか。
 傷が痛むし、その、何より恥ずかしい」
「えっ、傷が痛むのですかっ! ど、どこが痛みますか? 早く手当てしないと!」
「うわあぁ、つ、強く抱きしめないでくれぇぇぇっ!!」

 はいはい星ナズ星ナズ。ご馳走様。
 普段見られないナズーリンのうろたえる姿って滅茶苦茶レアよね。
 録画できないのが惜しいわ。

 ちなみにナズーリンが食らったナイフは全部急所を外れてたそうな。
 ……急所も何も、あれだけ刺さったら普通死ぬと思うけどね。

「ムラサ……」
「何、ぬえ」
「私達って、かませっぽいよね……」
「うん、そうだね……」
「なんでかな……私EXボスなのに……」
「………今夜、部屋に来なよ。一緒に呑もう」

 何故か落ち込んでいるムラぬえ。まあ、全然いいところ無しだったしね。
 少しだけ可哀想と思ったけど、朝のやり取りを思い出したのでいい薬だと考え直す。
 少しは反省しなさい。

 なんだかんだで、慌しい一日だったけど、今なら悪く無かったっていえる。
 酷く疲れたし傷だらけだけど、それに見合う物を見つけ手に入れられたし。

 ありきたりだけど、大切なものってのは身近にあるって事なのよね。
 それがあると分かっているなら、これ程いい事もないと思う。
 ……なんちゃって。やっぱりこういうのは向いてないなぁ、私。



 おっと、最後にもう一人。忘れちゃいけない大切な存在がいたわね。

「―――雲山」
「?」
「これからも、一緒に頑張りましょうね!」
「―――!」

 久しぶりに見た雲山の笑顔は、とてもほっこりしてた。それを見た私にも笑顔が浮かぶ。

 『雲居一輪』、これからも前向きに頑張ります!

































 後日、命蓮寺に一通の手紙が届いた。




『雲居一輪様へ

 不人気ーズ参加登録費用として、200000G頂きます。
 尚会員費として毎週10000G頂きますのでご了承ください。

                不人気ーズ会計担当 リリカ・プリズムリバーより』



 これを読んだ一輪が即刻破り捨て、
 その後雲山を引き連れ不人気ーズのたまり場に殴り込みをかけたのは別の話。
『あなたは (キャラに対する自分の)あいを しんじますか?』

にんきキャラ ふにんきキャラ そんなのひとのかって
ほんとうのとうほうファンなら ほんとうにすきなキャラを 
ひたすらあいして あいして あいしぬくべき


頑張れ、一輪さん!

※誤字っぽいのをちょこっと修正しました。

追記おまけその1

不人気ーズ参加資格

1、人気投票で順位が低い事。基準は第六回の大妖精より下とする。
2、再登場が絶望的である事。旧作キャラはほぼ該当。
3、不人気という現状に負けない不屈の心を持っている事。
4、身内が報われたら祝福する心を持っている事。秋姉妹は我々の希望。
5、自身の存在に誇りを持っている事(絶対必須条件)


おまけその2

一輪さんのステータス(F○風)

雲居一輪 職業:僧侶(シスター)

レベル3     成長率

HP:14    50%
ちから:8    55%
まりょく:3   25%
わざ:5     35%
すばやさ:4   30%
こううん:2   10%
ぼうぎょ:7   40%
まぼう:6    45%

スキル:待ち伏せ 怒り 大盾
橙華(仮)
簡易評価

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コメント



0.970簡易評価
9.70名前が無い程度の能力削除
オチがひどい w
15.70名前が無い程度の能力削除
ムラサ・ナズ・聖・さとり・燐で入れてきた
あと、あと一、いや二十三票あれば一輪さんにも・・・
19.100名前が無い程度の能力削除
むしろ不人気でないとやる気が出ない
20.90高機動型ユボン3号削除
 伝説の僧侶? リフの事か……リフの事かーwww

 怒涛のパロディーwこう言う話好きですwwそして趣味が近いwww
 人気投票? ……白蓮さんに入れてきたので、許して下さいね?
21.無評価橙華(仮)削除
毎度おなじみ橙華(仮)でございます。
目標1000点を超えたようなので一回目のコメ返信をば。
拙作を最後までお読みいただき、ありがとうございます。

では早速

>9様

リリカがこの先生きのこる術

・てゐに奪われた狡猾キャラのみでは厳しい。よって幻想となった音を扱えるという点に着目。解釈次第だが、彼女は失われた人の声、つまり故人の声も再現可能なのではないか?
そこを発展させればまだまだリリカは戦える。いらない子じゃないよ!

今回登場したキャラでは一番オチに相応しいキャラでした。もっとリリカも評価されるべき。


>15様

そうですね。投票したくても、持ち票の数が少なすぎるとどうしても……。
あ、自分はちゃんと一輪さんに入れましたよ。
イチオシは妖夢でしたg(雲山ビーム直撃)

>19様

不人気、不遇、不幸。これら後付け属性って、あっても嬉しくないけどないとそれはそれで寂しくなるという複雑なもの。
我々はその二律背反に悩みながら、そこに常に快楽を見出す存在でなければならないと思います。

>高機動型ユボン3号様

リフのカルト的人気はF○僧侶ユニットでもダントツですよね~。
パロディというかなんというか、今回は完全に趣味が暴走してしまいました。
その結果が(ry
白蓮様なら大丈夫。むしろ入れなから一輪さんが怒るでしょう。きっと。



第七回人気投票もまだまだ継続中。
既に投票した方も、これからする方も、好きなキャラを最後まで応援しましょう!
ひょっとしたら、終了後に後日談っぽいのを続編として書くかも?
予定は未定ということで、第一回のコメ返信を終了とさせていただきます。
感想、ありがとうございました。
23.80ずわいがに削除
なんだコレwwフルボッコじゃねぇかwww
しかも結局最後雲山任せだしwww

しかしどこからが不人気でどこからが人気なのか、その線引きはいかんとも難しい