Coolier - 新生・東方創想話

「うわぁー! 咲夜さんが来たぞぉー!」

2009/12/07 05:47:32
最終更新
サイズ
9.21KB
ページ数
1
閲覧数
2288
評価数
43/124
POINT
7310
Rate
11.74

分類タグ

「警鐘だ! 警鐘を早く!」

幻想郷、人間の里。
朝市で賑っていたそこは突如として戦場と化した。
けたたましく鳴り響く鐘の音の、隙間を縫うかのごとく一人のメイドが駆けていた。

彼女の行く先には人の群れがあった。
目的地の目前、彼女は跳んだ。
抜ける隙間もなかった人の壁の上、慣性の力によって彼女はそこを通過し、無事着地する。
粉塵がぼっと吹き上げ、一瞬彼女の姿が見えなくなる。
砂が引き、姿を現した彼女の前には八百屋と書かれた看板があった。

その時、彼女と八百屋の主人の目が合った。

「いらっしゃぁーせええええええええええ!!」

「大・根! くださいなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「へいらっしゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「どうもおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ありやっしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

金は、払わない。

(何故なら私はメイド長だから……っ!)

忍者刀のごとく、大根を背中に固定しなおも駆ける。
やがて彼女は第二の目的地へと辿り着く。

(チェックポイントは三つ……一気に抜けるっ!)

彼女は、さらに速度を上げた。

「はんぺんをもらおうかしら!」
「へい! 御代は!」
「ないわ! 斬るわよ!」
「お譲りします!」

次!

「こんにゃくをもらおうかしら!」
「今日こそは御代を!」
「ないわ! 刺すわよ!」
「お譲りします!」

ラスト!

「卵をもらおうかしら!」
「もう勘弁してください!」
「うっせえ! おぜう様の餌にすっぞ!」
「お譲りします!」

戦利品はマイお買い物袋へ、それが彼女のジャスティス。

(地球に優しく、人に厳しく……っ!)

大根を背に、買い物袋は腕に。
疾風迅雷の勢いで商店街を走る彼女は、不意に失速する。
突然感じたのは、悪寒。
凄まじい寒気のする空気が、彼女の肌をちくと刺した。

横を向くと、路地裏に"それ"は立っていた。

「おねーさん、おでん好きなのかー」

「何か用かしら……宵闇の妖怪」

「好きなのかー」

「…………」

戦慄が走る。
咲夜の額に汗が浮かんだ。
そう、彼女はいま、おでんの食材を集めている。

それは朝、レミリアの寝室での出来事であった。




─────────




遡ること、一時間。
咲夜はいつものごとく、モーニングティーをレミリアの寝室へと運んでいた。
吸血鬼が朝起きるというのも変な話であるが、そこは置いておこう。
とにかく、彼女は寝室に入った。

「おはようございます。 おぜー様」

「ん、おはよう」

「今日は気持ちのいい朝ですね」

「そうね、溶けそうなくらいにいい天気だわ」

「今から買い物にいく予定ですが、何か食べたいものはありますか」

「おでん」

その時、咲夜に電流走る。

「お……オデゥィン?」

「オデゥィンが食べたいわ、咲夜」

「か、かしこまり……ました」

激しく蠢く動悸を抑えつつも平静を装い、なんとか退室する。

(お、オディーンとは……)

幻の伝統料理、ODEN。
果たして自分にできるだろうか。
かつて文献で読んだことのあるこの料理、瀟洒かつ完璧なメイドとしてのプライドが疼いた。
必ず、ものにしてやると。うまいODENを作ってやると。
彼女の闘志に火がついた瞬間だった。




─────────




「これは、おぜー様に食べさせるためのおでんよ」

「そうなのかー」

路地裏の少女は、なおもニコニコと笑っている。
その笑顔とは裏腹に、咲夜は悪寒の発生源が少女であることに気がついた。

どれくらいの時間が経っただろうか。
少なくとも彼女は時間を止めていないのだが、それは数分にも、数時間にも感じられた。
見詰め合ったまま、咲夜は動けずにいた。

(背中を見せたら殺られる……っ!)

そう思わせるだけの、オーラが少女にはあった。

(時間を止めたら殺られる)
(距離を取ったら殺られる)
(目をそらしたら殺られる)

いつ終わるかもわからぬ膠着状態。
やがて、先に口を開いたのは少女のほうだった。

「おねーさん……それじゃあ、足りないよ」

「何が?」

とは、言わない。
咲夜は問わずに、次の言葉を待った。

「それじゃあ……おでんとは言えないね」

風が、吹き抜けた。

「どういうことかしら?」

「簡単なことさー」

振り返り、少女は足元に隠してあったそれを取り出した。

(……鍋?)

それは、土鍋であった。

「悪いけど、土鍋くらい……」

「これだよ!」

「そ……それは」

パカっと、蓋を開けたそこには、半透明の液体が溜まっていた。

「お、おでんのだし……ですか」

「正確には、違うね」

正確には、と少女は言った。

「三日三晩煮込んで熟成させた、秘伝の昆布だしなのさー!」

「なっ!」

ここで咲夜、ようやく先ほどの言葉の真意に辿り着く。
おでんは、一日にして成らず。
おでんは前日、前々日と、手間をかけるほど、旨く、味も染みる。
今日、咲夜が作ろうとしていたおでんは即興だった。
その日に作り、その晩に食す。
これが果たして完璧なメイドが作るおでんであろうか。
否、断じて否なのだ!
完璧なメイドは、完璧な食材を持って完璧とす。
その日に作ったおでんなどは、主人に食べさせてはいけない。

「それを……譲ってくれませんか」

「ふふふー」

「私はっ! おぜー様に美味しいおでんを食べさせなくてはいけない!」

「そうなのかー」

「今から三日三晩おでんを煮る事は叶わない! ならばせめて、三日三晩煮込んだだしを使いたいのです!」

「そーなのかー」

「…………」

「…………」

「…………殺してでも うばいとる」

「よかろう、ならばおでんバトルだ」




─────────




「ルールはアリアリの牛すじすじでいかがですか!」

「いや、アリナシのすじ牛すじでいかせてもらおう!」

「っく、今回は私がアウェー……わかりました、そちらに従いましょう」

「では、いくぞ!」

だし昆布特別ルールに則り、先攻はルーミア。

「私のターン! ちくわぶをセットし、ターンエンドだ!」

ぺちっと地面にちくわぶを打ち付けたルーミア。
既にでろんでろんになっていたちくわぶは、砂の地面によく馴染んだ。

「私のターン!」

後攻、十六夜咲夜。

(あのちくわぶはまだ未知数……しかし、あえてカウンターちくわをするほどでもない……ならば!)

「こんにゃくを召喚! プレイヤーにダイレクトアタック!」

大きく振りかぶり、咲夜はルーミア目掛けてこんにゃくを投げつけた。
こんにゃくは見事ルーミアの頬に直撃し、ぶるるんと音を立てた後、落ちた。

「おお、いたいいたい」

水分の付いた頬を拭くこともせず、ルーミアは微笑を浮かべた。

「さて、私のターンだな…………私ははんぺんを召喚、手づかみ状態でターンエンドだ」

ルーミアの手に、純白のはんぺんが握られる。
咲夜はすかさず、追い討ちをかけた。

「私のターン! 野菜具・大根の効果によりはんぺんを地面に!」

背中にあった大根をブーメンランにみたて、ルーミアの腕を打ち抜く。
極太の大根は見事ルーミアの腕を打ちつけ、はんぺんを落とすことに成功する。

「さらに! 卵を召喚し、プレイヤーにダイレクトアタック!」

間髪入れず、咲夜は買い物袋から卵を取り出し、時速150kmで投げた。
ぱぁんと卵の殻が破裂する音が木霊し、ルーミアの顔面を濡らす。
白身のファンデーションがかかったルーミアの顔、その鼻先を黄身が流れ、やがて地面にへと糸を引いた。

「く……くく」

「どう? 生卵の味は!」

「くくくくくく」

「な、何を」

「はーっはっはっはぁ! 愚かなり十六夜咲夜! いや、自称おでんメイド」

「なっ」

「私のターン! 新たに地面にごぼ天を召喚!」

ペチっと、懐から取り出した汁の滴るごぼ天を地面に打ち付ける。
その衝撃でごぼうが飛び出すが、ルーミアは意にも介さない。

「これでちくわぶ、はんぺん、ごぼ天の練り物三種が揃った、これにより、私はこれを使わせてもらう」

「そ、それは!」

「練り物の誓い!」

「ぁ……ぁぁ」

「練り物にされた魚の怨念が、場を包み込む! これにより貴様のこんにゃく、大根、卵は全て無効!」

「さらに! それらと私の食材を全て合わせ、貴様の口にダイレクトアタック!」

「いやぁぁぁぁぁぁ」

地面に落ちて砂利のついたちくわぶ、はんぺん、ごぼ天、こんにゃく、卵、大根。
これら全て、咲夜が食さねばならない。
到底不可能…………"負け"だ。

「私の勝ちだな!」

「なんて……こと」

がくっと膝を折り、うなだれる咲夜。
腕を組み、見下すルーミアの顔は勝ち誇った者特有のいやらしい笑みで溢れていた。
その時である。

「ちょっとまったぁぁぁぁ!」

どこからとおもなく、声がした。
声の方向に二人が顔を向けると、既にそれは二人の背後に回っていた。

「この勝負、ルーミアの負けである!」

「なっ」

驚いたのは、二人である。
勝負が決まった直後に現れた謎の人物、そして言い渡される謎の発言。

「あ、あなたは」

この時、ルーミアのみが気づく。

「おでんバトラー執行委員会名誉会長、四季映姫!」

「……いかにも」

「な、なぜです!」

気に入らないのは、ルーミアである。
突然現れた珍客に、勝利の栄光から一転、敗北の屈辱へと落とされかけている。

「なに、簡単なことだ」









「ちくわぶは、練り物ではない!!」



「なっ」

「いいか!」

ちくわぶとは、と映姫は言う。

「小麦粉・水・塩を合わせて練ったものを棒などに巻きつけて加熱し、竹輪の形に似せて製した食品。
関東などでおでん種として用いる。(広辞苑)  である!」

「そ、そうなの……か。 私は、ちくわというくらいだからてっきり」

「全国のおでん事情も知らずに、上辺だけの知識でおでん博士を気取っていたツケがきたようだな! ルーミア」

「う……うわぁぁぁぁぁ」

闇に身を包み、一目散にルーミアは飛び立っていった。
朝なので、とても目立っていた。
咲夜はそれを眺めながら、昆布みたいだなと思った。

「っは、昆布!」

そうだ、秘伝の昆布だし。
急いで振り返ると、優しい微笑を浮かべた映姫が土鍋を掴んでいた。

「はい、どうぞ」

「ぁ……」

満面の笑みを浮かべた映姫から、土鍋を受け取る。

「よいおでんでした、これからもよきODENerとして頑張ってくださいね」

「!? …………はい!」

頭を深く下げ、顔をあげると映姫は既に去っていた。

「さて……」

風が、心地よい。
昆布だしを片手に、咲夜は新たに食材を強奪し直して帰路に付いたのだった。




─────────




「完璧だわ! これぞオデゥィン!」

あれから、帰ってすぐに調理へと取り掛かった。
延べの煮込み時間約5時間。
三日三晩煮込んだものとは比ぶべくもないものの、味はまさしく一流であった。

(それとて、少し多めに作って、後で熟成させれば真の味になるはず)

時計を見ると、既に三時になっていた。
間食を乗せたトレイを持ち、意気揚々とレミリアの寝室へと訪れた。

「おぜー様ぁ、ご機嫌麗しゅうー!」

「ねぇ咲夜」

「はい!」

「やっぱ今日湯豆腐がいいわ」
おでんはこの後門番が美味しくいただきました。

「からしうめぇ!」
ハリー
http://kakinotanesyottogan.blog66.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.3540簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
何なんでしょうね、これで笑ってしまった俺ってorz
2.80名前が無い程度の能力削除
もうね……なんだこれとwww
面白い。でも意味不明www
3.80名前が無い程度の能力削除
こんにゃくを投げあう少女たちに乾杯するしかないじゃないか
俺も咲夜にはんぺん投げつけたり、投げつけられたりしたいです
4.100名前が無い程度の能力削除
≫「お譲りします!」

もうだめだww
6.100名前が無い程度の能力削除
なんというナンセンス!
しかし、それもまたエンターテイメント。
8.70名前が無い程度の能力削除
食べ物を粗末にするなぁぁ!!!
9.80冬。削除
勢いに乗った者勝ちですね、わかります。
10.80名前が無い程度の能力削除
雰囲気に押し込まれて一気に読むには丁度良い長さと勢いだった。
あと昆布煮過ぎwww
11.60名前が無い程度の能力削除
力技すぎるw
21.90名前が無い程度の能力削除
ちくわって練り物じゃなかったの!?
22.80名前が無い程度の能力削除
ルーミアなんでそんなの持ち歩いてんだよwwww
咲夜さんはメイド長ではなく窃盗団ですね、わかります。
24.80名前が無い程度の能力削除
レス返し失礼
>ちくわって練り物じゃなかったの!?
ちくわ自体は練り物 ただちくわぶは小麦粉からできてる別物なんだよね

もう何でもありだなこの人たちw
咲夜さんはODENerとしては合格かもしれんが、人としては失格という
25.80名前が無い程度の能力削除
具はともかく、汁は湯豆腐に使えそう(具の出汁が出すぎてて駄目かな?
>よいおでんでした
よくねえっすよ、そこの閻魔!?
29.80名前が無い程度の能力削除
もうなんなんだよ、これ

ところで、オーディン(Oden)はグングニルを持っていますが 関係ないの、か、なぁ?
30.70名前が無い程度の能力削除
すげえよあんた、端っから常識を投げ捨ててる。
31.100名前が無い程度の能力削除
鬼才過ぎるwww
声出してワロタwwww
43.100奇声を発する程度の能力削除
オディーンってなにwwwwwww
48.100名前が無い程度の能力削除
ぶっとんでやがる
55.70名前が無い程度の能力削除
解せぬ
58.100名前が無い程度の能力削除
ODENerってなんだよwww
59.100名前が無い程度の能力削除
ちくわぶって確か東日本では使われてるけど西日本では使われてない、てか知られてない。
それにしてもテンポもいいし吹いたwwwツッコミが追いつかないwww
61.60名前が無い程度の能力削除
とりあえず、食べ物を粗末にするな。
62.80名前が無い程度の能力削除
食べ物で遊んじゃいけないって先生から習わなかったのかよっ!?
64.90名前が無い程度の能力削除
某蟹頭の人「おい、おでん食えよ」

それにしても卵を150km/hで投げる咲夜さんマジパネェっす。
66.90名前が無い程度の能力削除
ガネメ思い出したw
67.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さん自重しろwww
69.70名前が無い程度の能力削除
狙いというか方向性というか何かつかみ所のない話だったなw
とりあえず食べ物は大事にしろw
70.90名前が無い程度の能力削除
ODENerの読み方はオデナーでいいんですか?
72.90名前が無い程度の能力削除
良いオチだあ。
73.100名前が無い程度の能力削除
おでん食いたくなってきた
ちょっと近所のロー○ン逝ってくる
78.100名前が無い程度の能力削除
この後落ちたおでんは私がおいしく頂(ry
85.100名前が無い程度の能力削除
オチwwwww
86.70名前が無い程度の能力削除
食べ物粗末にしちゃ駄目でしょ!
87.90名前が無い程度の能力削除
一番面白かった時期のボーボボのようなハジケぶりが素敵!
91.無評価名前が無い程度の能力削除
なぁにこれぇ
93.80名前が無い程度の能力削除
勢いがあって非常によろしい!!
96.100名前が無い程度の能力削除
オデゥィンって何て発音するのww
勢いだけで走りきったあなたに完敗。
何が面白いって?よく分からんけど、終始笑いながら読んだからw
100.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんが人里に馴染めているようでなによりです。
105.100名前が無い程度の能力削除
今のボクには到底理解できない。ただ笑って100点入れることにかできそうにない
107.90とーなす削除
うん……え? うん。
全くわからん!
とにかくすごいエネルギーは伝わってきた!
ODENすごい!



ルーミアのほっぺをこんにゃくでぺちぺちしたいです。
110.100名前が無い程度の能力削除
>金は、払わない。
>
>(何故なら私はメイド長だから……っ!)

何の理由にもなってねえwww
ここで一気に引きこまれました
111.100名前がない程度の能力削除
おぜー様でいいのか…?
112.100名前がない程度の能力削除
ハイセンス。故に理解が追いつかない。
もう、え、あれ、うん、面白かったですw
120.100ぺ・四潤削除
やっべぇww久々に読んだけどやっぱ面白いなww
凄まじいまでの勢いから一転して静。そして動。
ちくわぶをぺちっいうシュールな絵を想像するだけでもう笑いが止まらないww
これ誰か映像化してくれないかな。