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伊吹萃香著『二十億光年の誤読 伊吹萃香の呑んだくれ文芸時評119-124』

2012/10/12 20:57:06
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※『霧雨書店業務日誌』、『第6回稗田文芸賞』、『第7回稗田文芸賞』と合わせて読まれると面白いかと思います。





      はじめに

 話は第119季に遡る。永く暮らしていた地底から、久しぶりに幻想郷に出てきてみたら、何やら小説なるものが流行っていて驚いた。おまけに、それを読んで表彰しようという稗田文芸賞なる賞まで出来ていて、また人間が妙なことを始めたのか、と思ったら旧知の妖怪たちが一枚噛んでいると聞く。こう見えて、宴会好きの鬼というものは娯楽の類には目が無いのだ。さっそく、伝手を辿ってその小説とやらを入手し、読み始めてみた。
 物語というのは架空のものであり、即ち虚言、嘘であると言われればその通り。しかし、私たち鬼が人間の嘘を嫌うのは、それが唾棄すべき狡猾さの表明に他ならないからだ。どうも誤解されている節があるが、たとえばコウノトリがキャベツ畑から赤ん坊を運んでくるというような、悪意なき嘘にまで目くじらを立てるほど鬼も暇でもないし、心が狭くもない。
 物語もまた同様に、悪意なき嘘と言えるだろう。自己を飾り立て虚栄心を満たす狡猾な嘘ではない、これは嘘ですよと断りを入れた上で語られる波瀾万丈の作り話は、嘘であるが故の破天荒な愉しみに満ちている。そこにあるのは読者を楽しませようという意志であり、宴好きの鬼が自分たちを楽しませるものを喜ばない道理はない。
 かくして、博麗神社の縁側に寝転んで、酒の肴に小説を片端から読みあさっていたところ、旧知の鴉天狗・射命丸文から声を掛けられた。曰く、「幻想郷で流行っている小説に関して、何が面白いのかを読者にナビゲートするコーナーを、文々。新聞に設けたい。ついては紙面で定期的に、刊行された小説を読んで紹介する文芸時評をやってもらえないだろうか」。面白そうなことには目が無い鬼であり、また己が面白いと思うものに他人を巻き込まずにおれないのもまた鬼である。小説の面白さをまだ知らぬ者たちへ伝えられるならそれにしくはない、と二つ返事で了承した。
 本書は、かような次第で《文々。新聞》紙上にて第119季如月より連載を開始した書評コーナー『伊吹萃香の呑んだくれ文芸時評』の、第124季師走までの5年分をまとめたものである。コンセプトは明快であり、対象期間内に刊行された小説を(一部の官能小説を除き)可能な限り全て読んで紹介するというもの。この5年分に関しては、幻想郷で刊行された小説のほとんどはフォローできているはずである。
 書名のうしろについている★印の採点は、私の個人的・主観的な評価によった採点である。★★★★★が満点で、☆は★の1/2にあたる。★★★★☆なら10点満点で9点ということだ。★★★☆(7点)以上の作品は基本的にオススメ。しかし5年分も溜まると採点基準も微妙に変化したり、今振り返るとなんでこんな点数をつけたのか不思議なものもあるので、あくまで参考程度にご覧いただきたい。また、紙面での初出時は採点していなかった、第119季以前の刊行作についても、本文中で初めて言及した際に採点を追加してある。
 この5年で幻想郷の小説出版状況はさらに拡大の一途を辿っている。新刊を追いかけるだけで精一杯という読者も多かろうが、本書が過去に読み逃した名作や、存在を知ることのなかった良作を新たに手に取るきっかけとなれば、それに勝ることはない。
 以上、堅苦しい言葉はここまで。あとは気楽に、厠で踏ん張りながらでもぱらぱらめくって気になるところから読んでもらえれば、それに勝ることはありません。





<第119季睦月~第120季師走>


歴史家・上白沢慧音のデビュー長編
『満月を喰らう獣』は骨太な力作だ!

(第119季 睦月~如月)


 人間の歴史というものが、常に勝者の歴史であることは言うまでもない。勝者に都合の悪い事実は巧妙に隠され、歴史から葬られ、敗者はたとえ何を為そうとも、その後の歴史においては悪し様に罵られ続ける運命にある。それは我々鬼が嫌うところの人間の狡猾さの現れだが、しかし人間という種族の弱さを見れば、ある程度はそれもやむを得ないのかもしれない。
 人里の歴史家として知られる上白沢慧音の小説デビュー作、『満月を喰らう獣』(稗田出版)★★★★は、そうした人間の狡猾さによって失われた敗者の歴史――逸史に焦点をあて、敗者の歴史が失われるべきものであったのかを問いかける、骨太な歴史長編小説だ。
 物語は現代に生きる在野の歴史家である主人公が、様々な歴史の転換点へと通じる、《時の扉》と称される時空のひずみを見つけるところから始まる。継体天皇即位によって残虐な天皇とされた武烈天皇の真実の姿を描く「武烈の章」、平将門の乱の裏側を描く「将門の章」など、重大な歴史の局所を主人公は旅していくことになる。となれば歴史改変小説になるのかと思えばそうではなく、本作は「起きてしまった事実は、後にどう歴史に記されようとも事実そのものは変えられない」ということを冷静な筆致で描いていく。
 一介の歴史家でしかない主人公は歴史を左右する場面に立ち会うたび、自分が歴史を変えられるのかと思い悩むが、やがて彼ひとりの力では歴史という奔流はなにひとつ変えられないという事実に直面する。しかし同時に、後の史書に記されなかった逸史の真実もまた歴史に他ならない、という事実も彼は知ることになる。
 その内容の都合上、人間の歴史についてある程度の予備知識が必要だが、そこは本文中でも概略が説明されるため(その説明がいささか冗長なきらいはあるが)、人間ならずとも問題なく読める。歴史上の人物も力強く描かれており、分量以上にずしりとした読後感を残す力作だ。慧音の寺子屋の授業は退屈と評判だが、小説は上々の面白さ。このぐらい面白く授業もやればいいのに、という声が上がりそうなものだが、はてさて。
 本業の方で知られた人物の小説デビュー作がもう一冊。虹川月音『月曜日のバラード』(白玉書店)★★☆は、酒場で日曜の夜から月曜の朝までピアノを弾き続けるピアニストと、嫌々仕事を続けている酒屋の店員が、毎週月曜の朝に道ばたで顔を合わせるうちに少しずつ恋を育んでいくという恋愛小説。ピアノ曲が多く作中で紹介されるのが特徴だが、個人的には全然知らないのでそのへんは何とも言えず。退屈な毎日に飽いていた酒屋の店員がピアニストの音楽に癒されていく過程はなかなか読ませるがピアニストの秘密が話の軸になる後半はわりと見え見えの展開で、もうひとつ盛り上がらない。作者の虹川月音は経歴を一切明かしていない覆面作家。本名では人里でもよく知られている人物(?)だが、ここで正体をバラしてしまうのはやめておこう。
 新出版社「スカーレット・パブリッシング」の刊行第一弾、ミス・レッドラム『ナイトメア・パンデミック』★★は、昨年の『ナイトメア症候群』★★の続編。だが、やってることはほとんど『ナイトメア症候群』と変わらず、悪趣味な血みどろ残虐描写の嵐を笑って楽しめるなら読んで損はない。ネーミングセンスも相変わらずなので、いっそもう少しおかしな方向へはっちゃけてくれればある意味高度なギャグとしても楽しめるのだけども……。なお、スカーレット・パブリッシングからは稗田出版から版権を引き上げた分の再刊もこれからどんどん出るようなので、手に入れそびれていた人は注目だ。
 最後に小説以外の本を一冊。アリス・マーガトロイド『曰く付きの人形物語』(博麗神社)は、人形遣いの著者が所有する人形にまつわる逸話を人形の写真とともに解説した本。それぞれの人形に付随する物語はなかなか奇天烈であり、どこまでが事実でどこまでが作り話なのか今ひとつ判然としないため、人形のガイドブックというよりは不条理小説集めいた赴きのある本になっている。パチュリーや幽々子の幻想小説が好きなひとは要チェックだ。




白岩怜の第二作『冬色家族』で
家族小説の温もりに出会う

(第119季 弥生~第120季 卯月)


 ようやく幻想郷も春めいてきて、リリーホワイトが飛び回っている姿をよく見かけるようになった。春眠暁を覚えず、縁側であたたかい陽気にあたっているとついつい眠くなってくるが、昼寝をしてしまうと夜は必然、目が冴える。そんな眠れぬ夜にぴったりの、ボリュームたっぷりのアクション小説が、シリーズ三部作の完結編となる門前美鈴『覇王龍拳伝』(スカーレット・パブリッシング)★★★☆だ。
 天界を追われた、龍の血を嗣ぐ格闘家・ホウリンの旅もいよいよ佳境。天界を追放されたきっかけとなった出来事の真相が明かされ、囚われた家族を救うため、腐敗した天界の象徴である《昇龍の塔》へホウリンは単身突撃する。いささかアクション描写に力を入れすぎてかえって冗長になっている部分はあるが、読み応えは抜群。物語も三部作の完結編に相応しい綺麗なラストを迎えるので、前二作の読者はぜひ手にとってほしい。既刊二巻も既に再刊されているので、未読の方もこの機会に三冊まとめてどうぞ。
 そんなずっしりとくる大長編のあとは、白岩怜の第二作『冬色家族』(博麗神社)★★★☆を読んでほっと一息つくのがオススメ。雪山遭難サバイバル小説『氷の王国』★★★で昨年デビューした著者だが、今回は真冬に家出した少女が、雪女と雪ん子の母子に拾われて一冬を一緒に暮らすことになるというほんわか家族小説だ。冬の間しか一緒にいられない疑似家族のあたたかな交流を描く前半がすばらしくて、読んでいると柄にもなく優しい気分になってしまう。後半の急展開は少々賛否が分かれそうだが、文章もデビュー作よりぐっと読みやすくなっており、里の人間にも受けそうだ。
 人間といえば、昨年の稗田文芸賞候補にもなった時間SF短編集『クロック』(稗田出版→紅魔文庫)★★★★で一躍人気作家になった十六夜咲夜の第二長編『夜霧の幻影ジャック』(スカーレット・パブリッシング)★★★も登場。常に霧に包まれたゴシック調の街に暗躍する正体不明の殺人鬼《幻影ジャック》と、それを追うハンターの戦いを描く耽美系アクション・ホラー。ミス・レッドラムに比べてずっと抑制の効いた筆致と、描写の美しさは流石だが、ストーリーはいささか耽美に偏りすぎか。《幻影ジャック》に捕らえられたハンターが(主に性的な意味で)弄ばれる場面(けっこう長い)は妖しく官能的だけど個人的にはちょっと引く。スタイリッシュアクションの方をメインにしてほしかったというのはわがままか。
 そういえば、この小説ブームの仕掛け人である稗田出版代表、稗田阿求が稗田文芸賞に続いて何事か企んでいるという噂を聞く。近いうちに稗田出版から何か大きな動きがあるかもしれない。注目して見守りたい。




霧雨魔理沙の青春レース小説
『星屑ミルキーウェイ』で今年のベスト1は確定!?

(第120季 皐月~水無月)


 今回は注目作が目白押しなので、前置き抜きに本題に入る。まずはなんといっても、霧雨魔理沙のデビュー作『星屑ミルキーウェイ』(博麗神社)★★★★☆。箒に乗って空を駆け、人々の贈り物を運ぶ《銀河便》の新米運び屋・アリカの夢は、年に一度開かれる、運び屋たちが最速を競う星空レースで優勝すること。ところが仕事は失敗続き、このままでは大会に出られるかどうかさえおぼつかない――そんなとき、アリカは流れ星のように空を駆ける少女・マーヤと出会う。今までに見た誰よりも速く飛ぶマーヤの姿に、自分の甘さを思い知ったアリカは、事故で一線を退いたかつての名選手・アマミに弟子入りし、最速を目指す――という、爽やかさと甘酸っぱさに溢れた、この上なく熱い青春レース小説だ。
 ただひたすらに「速く飛ぶ」という夢にまっすぐなアリカのキャラクターもいいが、それ以上に最大のライバルであるマーヤの造形がすばらしい。誰もが認める天賦の才、その傲岸不遜な振る舞いの裏に隠れたコンプレックス。隠れて誰よりも努力を続けながら「速く飛ぶ」ことの意味を見失いつつあった彼女が、自分の背中を必死に追いかけてくるアリカの姿にかつての自分を思い出し、アリカをライバルと認めしのぎを削るその姿の魅力は、クライマックスに至って果たしてアリカとマーヤのどちらを応援すればいいのか解らなくなるほど。アリカを見守る師・アマミや、脇役の同業者たちのキャラクターもいい。ストーリー自体は予定調和と言ってもいいぐらい王道の展開だが、これだけ無垢な最速への憧れ、星空への憧れを真正面から書けるのは、やはり人間ならではだろう。今年のエンターテインメントのベスト1はこれで確定かもしれない。年末の稗田文芸賞でも『満月を喰らう獣』や『冬色家族』とともに有力候補になりそうだ。
 そんな明快・痛快なエンターテインメント小説とは対極にあるのが、第二回稗田文芸賞受賞作家・西行寺幽々子の第二作『春宵草紙』(白玉書店)★★★★。随筆めいた語り口で、淡々と春の情景の移ろいを描く前半部は、ほとんどストーリーも何も無いのにその美麗な文章だけでするすると読まされてしまう。そのしみじみとしたリアリティのある世界が、徐々に位相をずらしていき、何気ない日常の情景に幻想が折り重なっていく後半部は幽々子節の真骨頂とも言うべき、この世のものならぬ異様な美しさを顕現させる。前作『桜の下に沈む夢』(白玉書店)★★★★★に比べてもストーリー性が薄く、さしずめ文章で描かれた絵画という風情。内容を簡単には説明できないので単純に面白い小説を求める向きの人には向かないが、この文章を読んだだけでもなんだか得したような気分になれる。
 数学者・八雲藍の初の小説、『猫のための方程式』(マヨヒガ書房→博麗文庫)★★★は、猫たちととともに暮らす老賢者が、日常の様々なことを数学と絡めて、猫たちに数学の様々な不思議を語って聞かせるという体裁の連作。平易な文体で数学の魅力をわかりやすく語っているので、人里の算術嫌いな子供に読ませるといいかもしれない。小説としてはもう少し企みというか工夫が欲しいが、ほのぼのとした読後感は捨てがたいものがある。
 もう続刊が出た、ミス・レッドラムの《ナイトメア》シリーズ第三巻『ナイトメア・クライシス』(スカーレット・パブリッシング)★★☆は、いつも通りの血みどろアクション。とはいえ今回は最強主人公が無双するだけではなく、強敵らしい強敵が出てきて戦略めいたもののあるバトルが始まるので前巻までに比べると割合楽しく読める。しかし後出しジャンケン気味なこの決着の付け方はどうなのか。理屈をつけようとするならもう少し徹底してほしいところ。




待望のパチュリー・ノーレッジの第二作
『本の森よバベルを語れ』に耽溺

(第120季 文月~葉月)


 第一回稗田文芸賞受賞作として売り出され、現在の文芸ブームの端緒となった衝撃作『魔法図書館は動かない』(稗田出版→紅魔文庫)★★★★★から二年。待望のパチュリー・ノーレッジの第二作が出た。『本の森よバベルを語れ』(スカーレット・パブリッシング)★★★★は、相変わらずのビブリオマニアぶりと物語の入れ子構造が冴え渡る幻想小説である。
 前回の《移動型図書館都市》に続いて、今回の舞台は《本の成る森》。物語を知らないふたりの少年少女が、その森に成る《知恵の本》を手にしてしまったことで物語を知り、言葉なくとも解り合っていたふたりは物語の迷宮に引き裂かれていく。前作に続いて、一冊書けそうなアイデアをいくつも惜しみなく投入して紡ぎ出す物語のタペストリーは実に贅沢。しかし今回の主題は、コミュニケーションを知ってしまうが故のディスコミュニケーションの発生ということなのかもしれない。言葉など使わなくても通じ合っていたふたりが、言葉を得てしまったが故に通じ合えなくなっていく。その姿は、言葉を用いて物語を紡ぐしかない小説家の苦悩そのものであるようにも思える。とりあえずこの少年少女には、一緒に酒を飲めと勧めたい(笑)。
 前作よりは色々と作者の意図するところは読み取りやすく、さすがに前作ほどの衝撃はないが、パチュリーの《本》と《物語》に対する偏愛ぶりを味わうだけでも十分楽しい。この文芸ブームに取り憑かれてしまった読書家諸氏は共感しやすいだろう。お見逃しなく。
 快調に刊行点数を増やすスカーレット・パブリッシングからはさらにもう一冊、今度は門前美鈴の新刊が登場。『革命の狼煙』★★★は、デビュー作『戦国春秋』(稗田出版→紅魔文庫)★★★と同系統の架空歴史戦記。乱世の小国で、些細なことから決起した革命軍が政府を打倒するまでを描く。しかし革命に至るまでのディテールや、革命後のことがわりとあっさり流されるので、大長編の一エピソードだけ読んでいるような感があるのが惜しい。派手な合戦シーンが見物だが、その中に徒手空拳で一騎当千の強さを発揮してしまう格闘家が出てくるのは門前美鈴らしいご愛敬か。個人的にはそこが好きだが、一般的にはリアリティを崩すと言われそうだ。
 最後に小説以外から一冊。博麗霊夢『幻想郷風土記』(博麗神社)は、幻想郷の各地の来歴や、そこに伝わる逸話・伝説をまとめた幻想郷資料。しかし逸話は眉唾物の話が多く、資料というよりは娯楽読み物めいた雰囲気になっている。霊夢の文章はいかんせん素っ気ないので、エンターテインメントとしては食い足りないが、もともとそういう本では無いから仕方ないか。




総合文芸雑誌《幻想演義》の創刊は
文芸ブームをさらに加速させるのか?

(第120季 長月~神無月)


 稗田出版から幻想郷初の総合文芸雑誌《幻想演義》が創刊されたのは耳に新しい。長編連載小説や読み切り短編小説の掲載を中心に、エッセイや書評も取り扱う隔月刊誌である。発行は稗田出版だが、掲載作品の版権はあくまで作者へ帰属するそうで、連載作品が他の出版社から出るのも許す形だそうだ。せっかくなので本欄では創刊号の内容をちらほら紹介していきたい。
 目玉はなんといっても上白沢慧音の第二作となる「神剣動乱」の連載と、パチュリー・ノーレッジの書き下ろし短編「日曜日の没落」だろう。前者は天叢雲剣をめぐる歴史活劇になるそうで、まずまず快調な滑り出し。後者は日曜日が失われた世界を描く奇想小説で、なんとも言い難い奇妙な味わいを残す一品だ。他、門前美鈴「紅の血脈」とミスティア・ローレライ「夜に鳥籠の鍵を」の二長編が開始。短編は白岩怜の『冬色家族』スピンオフ短編「雪灯籠」と、十六夜咲夜のロマンティック時間SF「明日を思いだして」が掲載されている。好きな作家がいるならチェックしておいて損は無いだろう。
 《幻想演義》創刊の影響か、今回も新刊は弾が少ない。その中で注目したいのが、小松町子のデビュー作となる『彼岸の沙汰は金次第』(是非曲直庁出版部)★★★☆。中有の道を舞台に、どんなトラブルも解決する《審判屋》が縦横無尽に活躍する連作長編。とかく金にがめつく、金額によって露骨に働きぶりが変わる《審判屋》のキャラがめちゃくちゃおかしい。個々のエピソードは謎解き小説風のつくりで、ミスリードからの意外な決着が鮮やか。特に第二話にあたる「お代は見てのお帰りで」が非常に冴えた結末になっていて感心する。ただ、傍若無人で破天荒な《審判屋》が最後、いささか唐突に人情話方向にいってしまうのが個人的には不満。もっとハチャメチャなキャラのままでいてほしかったのだけれど、ひょっとして是非曲直庁の上の方からストップでもかかったのだろうか?
 新人のデビュー作がもう一冊。魂魄妖夢『辻斬り双剣伝』(白玉書店)★★は、著者の祖父である剣豪・魂魄妖忌の武勇伝を元にしたチャンバラ小説。全体的に硬い言い回しが多い文章と、ぎこちない台詞回しのおかげでどうにも読みづらい。これを読んでも結局妖忌の人物像が不明瞭なのも困ったところ。チャンバラの場面の描写にはところどころ光るものがあり、双剣での戦闘描写がなかなか面白いのは美点。もう少し肩の力を抜いて書けばいいのでは。




虹川月音『憂鬱ラプソディ』の
凹み描写が身につまされる

(第120季 霜月~師走)


 やっぱりまだまだ小説の安定供給には作家の絶対数が足りていないようで、幻想郷文芸振興会は新たな書き手の発掘手段を模索している様子。そんな中、今回は既存作家の新刊が三点。まずは虹川月音の第二作『憂鬱ラプソディ』(白玉書店)★★★。いろいろな憂鬱を抱えた人々が、立ち直っていく姿を描く連作小説だ。それぞれの憂鬱の理由や、凹んでいるときの思考回路の描写は非常に身につまされ、読んでて思わず「あるある」と頷いてしまう。憂鬱そのものを否定せず、自分を見つめ直す機会として捉えているところもいい。ただ、物語としては「凹みました→立ち直りました」というパターンの話が続くので、最後の方では飽きてくるのが難。最近何かと凹むことが多い人への人生応援歌としては上出来か。
 ミス・レッドラムの《ナイトメア》シリーズ第四巻『ナイトメア・レッドマジック』(スカーレット・パブリッシング)★★☆は、後出しジャンケンながら戦闘に理屈をつけようとしていた前巻から一転、今回はゴリゴリの力押し。理屈を全力でぶん投げて、強いから強いのだ、というトートロジーで突き抜けるところは個人的には好きだが、相変わらず露悪趣味を鼻にかけるところが興をそぐ。まあ、血気盛んな若い妖怪の間ではそういうところが受けてるようなので、これは好みの問題か。大らかな気持ちで読みたい。
 それにしても、パチュリー以外のスカーレット・パブリッシング勢は筆が速い。十六夜咲夜も早くも第三長編『チェリーパイで紅茶を』★★★☆を刊行。今回はゴシック・ホラーでも時間SFロマンスでもなく、なんとお菓子作り小説。病弱なお嬢様のためにお菓子を作り続ける家政婦の、ほのかな主従恋愛要素を含んだほのぼの系の話で、ラストにはふたりの正体についてちょっとしたサプライズもある(これは評価が分かれそうだが)。出てくるお菓子が非常に美味しそうなのが最大の魅力。白岩怜の『冬色家族』なんかが好きな人は読んで損は無い。
 無事に第二号が出た《幻想演義》では、西行寺幽々子の短編「死ノ蝶」が掲載。蝶に託して人間の死を語る話で、幽々子の美しい文体が相変わらず冴え渡る。連載では上白沢慧音「神剣動乱」も好調だが、個人的にはミスティア・ローレライの「夜に鳥籠の鍵を」がなかなか興味深い。正体不明の敵に追いかけられるホラーだが、第二回にして前回とところどころ整合性の取れていない箇所が目に付く。わざとやっているなら凄い仕掛けが後半に待っていそうだが、はてさて。




第119季睦月~第120季師走 総括


 総合文芸誌《幻想演義》が創刊され、上白沢慧音、虹川月音、霧雨魔理沙、八雲藍、小松町子、魂魄妖夢がデビューしたこの1年。小説の刊行点数は順調に増えているが、やはりまだまだ作家の絶対数が少ない。そんな中、スカーレット・パブリッシングのミス・レッドラム、十六夜咲夜、門前美鈴が快調なペースで新刊を出している。おかげで当欄も紹介すべき新刊が無いという事態は回避できているが、このままでは頭打ちだろう。さらなる作家の発掘が望まれるところだ。
 パチュリー・ノーレッジと西行寺幽々子の第二作が揃って刊行されたことも目を惹くが、やはり今年最大の収穫は霧雨魔理沙『星屑ミルキーウェイ』だろう。王道娯楽小説の面白さを真正面から書ききったこの作品が、文芸ブームの新たな牽引役になる予感がひしひしとする。
 今年のベスト5を個人的に選出するなら、

 ①霧雨魔理沙『星屑ミルキーウェイ』
 ②パチュリー・ノーレッジ『本の森よバベルを語れ』
 ③西行寺幽々子『春宵草紙』
 ④上白沢慧音『満月を喰らう獣』
 ⑤白岩怜『冬色家族』

 ②③の稗田文芸賞受賞作家の二作目はどちらも期待に違わぬ高品質。歴史好きは④を、ほのぼの小説好きは⑤を要チェックだ。次点には小松町子『彼岸の沙汰も金次第』を挙げたい。
 年末の第三回稗田文芸賞は、『満月を喰らう獣』が『星屑ミルキーウェイ』を破って受賞。人里の本好きの間ではその選出を巡って「順当だ」「いや『星屑』にあげるべきだった」とひとしきり論議を呼んだようだが、そうやって小説を皆で酒の肴にできるのが文学賞の良いところなのかもしれない。個人的には結果にさほど文句は無いが、『冬色家族』と『彼岸の沙汰も金次第』を候補に入れて欲しかったところである。




<第120季睦月~第121季師走>

マーガレット・アイリス『マスカレード・スコープ』は
はたして蛮勇の傑作か世紀の失敗作か?

(第120季 睦月~如月)


 第三回稗田文芸賞が上白沢慧音『満月を喰らう獣』に決まり、霧雨魔理沙『星屑ミルキーウェイ』の落選に人里の本好きが騒然。そんな中で人里に初の書籍専門店《霧雨書店》が開店、といった文芸界隈の大きな動きも、そろそろ懐かしい話題になりつつある。専門店の開店で作品がさらに手に取りやすくなれば、作品に関しての議論はさらに活発になる。それが文芸ブームのさらなる広がりに必要な戦略であると考えれば、これも幻想郷文芸振興会の思惑通りの結果なのかもしれない。
 そんな騒ぎの中で登場したのが、マーガレット・アイリスのデビュー作『マスカレード・スコープ』(博麗神社)★★★★である。果たしてこれは蛮勇の傑作なのか、それとも世紀の大失敗作なのか。次にホットな話題になるのは間違いなくこの一冊だ。
 舞台は、全員が仮面をつけて舞台に上がり、役名の下の素顔を互いに誰も知らないという奇妙な劇団。その舞台の上演中、役者のひとりが毒を飲んで死亡する。果たしてこれは事故か、それとも殺人か? 役者たちは舞台の上で劇を続けながら、互いに疑心暗鬼に陥っていく――という趣向の、サスペンスフルなミステリー。たいへん魅力的な謎と舞台設定にわくわくしながらページをめくっていくと、最後に一読呆然、驚天動地の結末が待ち受ける。
 心理描写が一本調子であったり、登場人物の行動原理が不自然であるといった欠点と思われる部分を、作品全体の仕掛けの中に取り込んでしまうこのラストの衝撃はすさまじい。絶対にネタバレを聞かずに読んでいただきたいし、読んだ人は未読の人に結末を話さないでほしい。
 しかし、作者本人が完璧に計算してこのラストを書いたのか、それとも半ば投げ出すように無理矢理オチをつけたのか、どちらとも取れてしまうのがこの作品の困ったところ。前者だと思いたいが、後者だと受け取って怒る人も多そうだ。是非、読んだ人はこの作品をどう受け取るかで活発な議論を交わしていただきたい。
 《幻想演義》で「紅の血脈」を毎回大ボリュームで絶賛連載中の門前美鈴は、いったいどんなペースで書いているのか。今度は『革命の狼煙』の続編で完結編となる『革命の残照』(スカーレット・パブリッシング)★★☆を出した。話は『革命の狼煙』で描かれたクーデターの後始末で、国の安定を図りつつ、政府軍の残党との熾烈な戦いが描かれる。卑劣な政府軍の残党を片っ端から叩き潰していく展開は痛快だが、内政パートは少々作者の手に余ったのか、主人公の政治的手腕が作中で持ち上げられているほど凄そうに見えないのが難。そのためクライマックスがとってつけたような印象になってしまうのが残念なところ。門前美鈴の作風はあまり難しいことを考えるより、単純明快な娯楽活劇の方が良さそうに思う。




十六夜咲夜『明日を思いだして』と
白岩怜『雪桜の街』で人妖恋愛小説対決だ

(第120季 弥生~第121季 卯月)


 今回は春だから、というわけでもないだろうが、人間サイドと妖怪サイドの双方からの恋愛小説強化期間みたいなことになっている。人間サイド代表は、十六夜咲夜のロマンチック時間SF短編集第二弾『明日を思いだして』(スカーレット・パブリッシング)★★★★。《幻想演義》に先んじて発表された表題作と「今日はまだ先のこと」の二編に、書き下ろしの「昨日は良い日でありますように」と「あの日はいつだろう」を追加した四編の連作だ。
 話自体は四編それぞれ独立しているが、それぞれの話の脇役が別の話の語り手となることでゆるやかに全体が繋がり、最後に置かれた「あの日はいつだろう」で何とも切ない真実が明らかになる。時間の乱れに理屈がつけられずイメージが先行するのは『クロック』と同じだが、咲夜の叙情的な文章は、時間と感情をダイレクトに接続して、理屈を超えた綺麗なロマンスに着地させてしまう。鬼の私も、柄にも無くセンチメンタルな気分になってしまった。多少、普段の耽美趣味が見え隠れするのはご愛敬か。『クロック』が好きな人なら絶対に買いで間違いのない一冊。
 一方妖怪サイド代表は、白岩怜の第三長編『雪桜の街』(博麗神社)★★☆。こちらは人間と恋に落ちた雪女の悲劇という、もう徹底的にベッタベタな妖怪と人間のラブロマンス小説。冬の情景の描写は綺麗だし、既に泣けると一部で評判のラストは解りきった結末ながら確かに胸に迫るものがある。……のだが、いかんせんそこに至るまでの恋愛の過程があまりにこっ恥ずかしすぎて、とてもじゃないが冷静に読めない。なので、こういう恋愛小説が好きな人は採点に★ひとつ以上追加して考えてほしい。解りやすく感情を揺さぶってくる話なので、人里で売れそうだが、はたして。
 そうやって色んな意味で悶絶する恋愛小説を続けて読んだ後では、ミス・レッドラムの《ナイトメア》シリーズ最終巻『ナイトメア・デッドエンド』(スカーレット・パブリッシング)★★☆のいつも通りの血みどろ無双アクションぶりが一服の清涼剤に思えてくるから怖い。話自体は完結したんだかしてないんだかよく解らない投げっぱなし気味の終わり方だが、もともとストーリーの整合性なんて知ったこっちゃないシリーズだから、これはこれで潔い完結の仕方とも言える。結局この話は何が書きたかったのだろう、と疑問に思うのも野暮というものか。血みどろ無双が書きたかっただけだろうし、そういうものとしては受けているのだからそれでいいのだろうと思うことにする。




音楽エンターテインメントというジャンルを切り開く傑作
虹川月音『レインボウ・シンフォニー』

(第121季 皐月~水無月)


 音楽を小説で表現する、というのは、考えてみればたいへんな難題である。音のない文章に、どうやって旋律を描き出し、音楽的な感動を読者に伝えるか。その困難に対する模範解答と言うべき傑作が堂々登場した。虹川月音の第三長編となる『レインボウ・シンフォニー』(白玉書店)★★★★☆だ。
 アルコール中毒で満足な演奏ができなくなったトランペッターや、権力闘争に敗れて地位を失ったピアニストなど、様々な理由で一度は挫折した七人の音楽家たちが、寂れたステージにひとり、またひとりと集い、七色の音楽隊として再起する様を描く連作形式の長編。前作『憂鬱ラプソディ』では話のパターンが似通いすぎているのが気になったが、今回は個々のエピソードが非常に良く作り込まれていて、長編としての構成も練られており、気楽に読み始めて途中で思わず座り直した。何より素晴らしいのが演奏シーンの描写で、ことばの持つイメージを縦横無尽に駆使して紙の上に七色の旋律を紡ぎ出す様は、下手なアクションシーンなどよりもはるかにエキサイティングな読書体験だ。音楽小説というジャンルをこの一冊だけで切り開くと言っても過言ではない。ストーリーも明るく希望に満ちたおとぎ話で、人間の子供から歳経た妖怪まで万人にお勧めしたい小説。年末の稗田文芸賞でも有力候補になりそうだが、霧雨魔理沙の『星屑ミルキーウェイ』が前回落ちているので、果たしてどうなることやら。
 八雲藍の第二作『きのう予報』(マヨヒガ書房→博麗文庫)★★★☆は、なんか十六夜咲夜っぽいタイトルだが、中身は過去改変系の少年少女向けSF。きのうの日付に書き込んだことが、きのうの出来事になってしまうという不思議な日記帳を手に入れた少年が、彼の失敗のせいで怪我をしてしまった幼なじみの少女を救うために、日記帳を駆使して彼女が怪我をする過去を無かったことにしようとするストーリー。平易な文章で物語じたいも子供にも解りやすい明快な展開だが、過去改編のルールは非常にしっかりと設定されており、大人が読んでも充分に楽しめる。子供向け小説は幻想郷ではまだまだ少ないが、この作品をきっかけにそういう作品が増えてくれば、また文芸ブーム拡大の一助になりそうだ。
 最後に小説以外から、稗田阿求編『幻想郷縁起』(稗田出版)が出版された。すっかり平和な今の幻想郷では、幻想郷縁起も妖怪対策の書というより、有名妖怪ガイドブック的な風情だが、阿求の主観丸出しのふてぶてしいトンデモ評は酒の肴に笑って読むのにちょうどいい。筆者も紹介してもらっているので、どうぞよろしく。




ミスティア・ローレライ『夜に鳥籠の鍵を』の
破天荒かつ支離滅裂な展開に爆笑

(第121季 文月~葉月)


 通巻六号を迎えた《幻想演義》は、上白沢慧音「神剣動乱」と門前美鈴「紅の血脈」の大作二作が完結するのと入れ替わるように、新たに新人ふたりの連載が始まった。永月夜姫「時の密室」と、富士原モコ「百万回目の死」だ。詳しい内容はいずれ本になったときに本欄で紹介するが、今後が楽しみな書き手がまた増えてきてくれて嬉しい。
 そんな《幻想演義》の長編連載作品の書籍化第一弾が刊行された。ミスティア・ローレライ『夜に鳥籠の鍵を』(稗田出版)★★★☆は、第一号から第四号まで連載された著者のデビュー作。正体不明の敵《喰らうモノ》に追われる主人公の逃避行を描くサスペンス・ホラーだ。しかし連載で読んでいたときから何かがおかしいと思っていたが、本になってもそのおかしさが全く直っていない――正確には直そうとした形跡はあるのだが、それでかえっておかしなことになってしまっているのに爆笑。何しろ本文に書いてあることが次の章では気が付けば綺麗さっぱり忘れ去られ、そのせいで話は全く予想だにしない方向に次々と転がっていくのだ。第一章を読んだときには、まさか最終的にこんな話になろうとは……。整合性や完成度を求める諸氏は顔をしかめそうだが、個人的にはたいへん笑えたのでこれは認めてしまいたい。良い意味でも悪い意味でも一読忘れがたい印象を残す珍品だ。
 そんな珍品とは対照的に、非常にスマートな完成度を見せるのが、因幡てゐのデビュー作『わたしの大国主サマ』(稗田出版)★★★。ピンチに陥っているところを大国主に助けられた兎の少女が、無理矢理その旅に同行して、なんとか大国主の気を惹こうとするラブコメ――だと思って読んでいると、終盤に驚愕の展開が待っている。これは一本取られたと言わざるを得ない見事なオチに感心しきり。伏線は非常に周到に張られており完成度は高い。ただ、個人的には大国主の気を惹くためなら手段を選ばない兎のキャラにあんまり好感を持てないのがちょっと辛いところ。
 先日《ナイトメア》シリーズが完結したばかりのミス・レッドラムは、早くも新シリーズをスタート。『マッドネス・シスターズⅠ 壊せるものは壊したい』(スカーレット・パブリッシング)★★☆は、狂気の双子姉妹の波瀾万丈冒険譚。門前美鈴の『龍拳伝』を十倍悪趣味にしたようなノリで、双子姉妹が自分たちを追放したオトナたちへの復讐の旅の傍ら、気にくわない連中に残虐行為の限りを尽くしていくというなんともミス・レッドラムらしい毎度の血みどろアクション。とはいえ徹頭徹尾ネジの吹っ飛んだキャラしか居なかった《ナイトメア》シリーズに比べると、こっちはまだ双子姉妹以外のキャラが割合マトモなので入り込みやすい。もう少しストーリーを練り込めばいいのに、とは思うが、そうしないのがレッドラム流か。




仕事をしない仕事小説、あるいは睡眠薬?
小松町子『川の流れるままに』

(第121季 長月~神無月)


 博麗神社の縁側で小説を読んでいると、博麗霊夢に「仕事で小説読んで楽しいの?」と聞かれた。誤解してほしくないところだが、こっちは仕事で読んでるわけじゃなく、好きで読んでるのがたまたま仕事になってるだけである。そう答えると、「でもあんた、毎回文句つけてるミス・レッドラムの本なんか仕事じゃなきゃ読むの?」と言うから、「いや読むよ。そのうち私好みのもの書くかもしれないし、まだ取捨選択しなきゃいけないほど本が多く出てるわけじゃないし」と答えたら、「へぇ」と信じてなさそうな顔で受け流された。心外である。そりゃま、私はあまりミス・レッドラムのいい読者ではないが、読むときは楽しもうと思って読んでいるのは本当だ。鬼の言葉は信じてほしい。
 そんな前置きから紹介するのは、小松町子の第二作『川の流れるままに』(是非曲直庁出版部)★★★。渡し船の船頭をしている主人公の、のんべんだらりとした日常を描く短めの長編だ。船頭の仕事の細々としたディテールが楽しく、お仕事小説と呼びたいところだが、小説の大半は主人公がのんべんだらりと昼寝をしたり、客と雑談をしたりといった呑気な日常の場面に費やされる。変わり映えのしない毎日の中で、ささやかな日常のやりとりから日々の移ろいを活写する――と形容することもできるが、基本的にはゆるい作風なので、人によっては眠れない秋の夜長の睡眠薬代わりになるかもしれない。実を言うと筆者も読みながら一度寝てしまったが、だからといってつまらないと怒る気にもならない小説柄の良さが魅力か。
 十六夜咲夜『アップルタルトでコーヒーを』(スカーレット・パブリッシング)★★★☆は、昨年の『チェリーパイで紅茶を』に続くお菓子作り小説第二弾。今回はお菓子作りが好きなお屋敷のお嬢様と、庭の花壇の世話係の少女の穏やかな交流と些細な事件が描かれる。こっちも話自体は前作のようなサプライズもなく、特になんてことのないものだが、相変わらず出てくるお菓子が美味しそうで、甘いものが食べたくて仕方なくなる。友情なのか恋なのか、曖昧にぼかされた主役二人の関係性も魅力。キュートな話をお求めの女性にお勧めしたい。
 小説以外からも一冊。アリス・マーガトロイド『続・曰く付きの人形物語』(博麗神社)は、昨年に出た『曰く付きの人形物語』の続編で、人形にまつわる逸話十二編を集める。相変わらず不条理ホラーな趣の話が中心だが、中には白岩怜的な悲恋系の泣かせる話も。前作同様、小説ではないが小説好きも楽しんで読める本になっているので、気になる人は要チェックだ。




上白沢慧音『神剣動乱』と門前美鈴『紅の血脈』
大作同士の一騎打ちにお腹いっぱい

(第121季 霜月~師走)


 第四回稗田文芸賞の候補作発表も間もなくだが、そんな師走になって《幻想演義》で連載していた二作の単行本が立て続けに刊行された。おまけにどっちもボリュームたっぷりの大作で、この原稿の〆切も差し迫る中で慌てて読むことに。
 第三回稗田文芸賞受賞作家・上白沢慧音の第二長編『神剣動乱』(稗田出版)★★★★は、壇ノ浦で水没したはずの天叢雲剣を手に入れた少女が、その運命に導かれるように戦乱に巻き込まれていく歴史冒険活劇。今回は歴史教師らしい解説口調は控え、動乱の時代の中に放り込まれた少女の視点から歴史を描くということにチャレンジしている。バックボーンの説明が薄い分ある程度の予備知識が必要だが、基本はどんな困難や絶望に襲われても決して諦めず、剣に振り回され続ける自分の運命をねじ伏せ未来を勝ち取ろうとする少女の姿に胸が熱くなる、驚くほど正統派の成長小説だ。よもや慧音が二作目で霧雨魔理沙『星屑ミルキーウェイ』の路線に近い作品を書いてくるとは思わず。弱点を挙げるとすれば、痛快冒険活劇に徹しきれず、ところどころ不自然なお行儀の良さや説教臭さが鼻につくところ。とはいえ前作よりもエンターテインメント性も向上しており、前作に乗れなかった人にもオススメしたい。
 もう一本の大作、門前美鈴『紅の血脈』上下(スカーレット・パブリッシング)★★★は、《紅の一族》と呼ばれる一家の親子三代に渡る大河小説。厳格な一族の長であった祖父はなぜ、不自然な事故死を遂げたのか。その謎を追いかけた父も何者かに殺され、残された娘は父を殺した犯人と祖父の死の謎に挑む。門前美鈴が今まで書いてきた格闘小説・戦記小説のダイナミズムと、陰謀渦巻く歴史の暗部というテーマを融合させた、著者の集大成とも言える大作……なのだが、さすがにちょっと長すぎたか。上巻は抜群に面白く、読みやすい文章で長さのわりにがーっと読めるが、下巻に至って真相が明らかになってくるとだんだん失速。特に散々引っ張ってきた祖父の死の真相が肩すかし気味で、そのまま力尽きたように終わってしまうラストに徒労感が残る。力作であることは確かなのだし、それなりに楽しくは読めるのだが、作者の熱意や努力が必ずしも傑作として実を結ぶわけではないという実例と言えそうだ。
 白岩怜の第四作『樹氷の森でつかまえて』(博麗神社)★★★は、『雪桜の街』に続くベッタベタな恋愛小説第二弾。氷の妖精の少女と、幼い人間の子供の一冬の淡い恋を甘いタッチで描く。『雪桜の街』はちょっと痒すぎて個人的には辛かったが、子供と妖精の話だとまだ耐えられるということが解った。前作同様、泣かせのツボを心得た作品なので、『雪桜の街』で泣いたような人は今回も人前で読むのはオススメしません。ハンカチの準備をしておこう。
 相変わらず発刊ペースの速いミス・レッドラム『マッドネス・シスターズⅡ 私に壊せぬものはない』(スカーレット・パブリッシング)★★☆は、いつも通りのシリーズ第二巻。姉妹の復讐行を妨害するライバルが出現して、ミス・レッドラムのことだからこの巻であっさり倒してしまうかと思ったら決着つかずに次巻へ続く。ライバルのキャラは意外と良さそうなので、その活躍次第では面白くなってきそうだ。少しばかり期待してみたい。




第120季睦月~第121季 総括


 マーガレット・アイリスが衝撃のデビューを飾り、他にミスティア・ローレライと因幡てゐがデビューした今年は、全体的には小商いという風情。相変わらず刊行ペースではスカーレット・パブリッシング勢が他を圧倒しており、来年の単行本デビューを控えている新人・永月夜姫と富士原モコに期待が集まる。
 パチュリー・ノーレッジと西行寺幽々子の新作が出なかったが、ラインナップ自体は今年もまずまず粒が揃った。個人的なベスト5は、

 ①虹川月音『レインボウ・シンフォニー』
 ②マーガレット・アイリス『マスカレード・スコープ』
 ③十六夜咲夜『明日を思いだして』
 ④上白沢慧音『神剣動乱』
 ⑤八雲藍『きのう予報』

 ①は幻想郷の文芸誌に燦然と輝くべき音楽エンタメの大傑作。圧倒的な衝撃度の②と、スマートな傑作の③、それぞれ第二作で新境地を見せた④⑤。次点には爆笑の珍品、ミスティア・ローレライ『夜に鳥籠の鍵を』を挙げたい。
 年末の第四回稗田文芸賞は、『レインボウ・シンフォニー』は順当としても、白岩怜『雪桜の街』が二作同時受賞に滑り込んだのに腰を抜かす。人里の霧雨書店では両方とも受賞以来ベストセラー街道まっしぐらの様子。若干停滞気味の文芸ブームのブレイクスルーになれるか。




<第121季睦月~第122季師走>


西行寺幽々子の『蝶』の
幽幻にして凄絶な語りに酔いしれる

(第121季 睦月~如月)


 虹川月音『レインボウ・シンフォニー』と白岩怜『雪桜の街』の第四回稗田文芸賞受賞で文芸ブームが再び過熱し始めている中、それを見計らっていたかのように今回は注目作が怒濤の勢いで目白押し。余計な話は抜きにしてどんどん紹介していきたい。
 まずは素性も明らかになって目下時の人となっている、虹川月音の新刊『弦奏のストラディヴァリウス』(稗田出版)★★★★から。アントニオ・ストラディバリからバイオリン制作を引き継いだという架空の楽器職人の生涯を伝記風に綴りながら、なぜ彼が《ストラディヴァリウスを超えるストラディヴァリウス》を作ることに生涯を賭けたのか、という謎を追う形式の物語だ。ストラディバリウスの奏でる旋律の美しさを紡ぐ文章は、虹川月音の面目躍如。ストーリーは、いくらでも盛り上げられそうなところを敢えてさらっと流し、全体を貫く謎の真相にも大きな仕掛けがあるわけではないので、『レインボウ・シンフォニー』的な盛り上がりを期待すると肩すかしを食らうが、淡々とした文体がだんだんと力強く迫ってくる様は十分な読書の快楽を与えてくれる。ひとつ傑作を書くと作家は生まれ変わるんだなあと実感。
 第四回稗田文芸賞選考会でも大論争を巻き起こした『マスカレード・スコープ』のマーガレット・アイリスも、第二作『マリオネットは悲しまない』(博麗神社)★★★☆を刊行。あるマリオネットの辿る数奇な運命を、心理描写を極限までそぎ落とした文体で語る。おかげでなんだか『曰く付きの人形物語』シリーズの一話みたいな印象もなくはないが、心の無い人形の一人称で小説を書くという難題に果敢に挑んでいる点は評価したい。ただちょっと短すぎるのと、登場人物の行動に深読みの余地があんまり無いのは弱点か。
 因幡てゐの第二作『籠目=籠女』(稗田出版)★★★は、タイトル通り「かごめかごめ」の歌にまつわるホラー調の物語。……だと思っていると、今回もいやこれに関しては何を書いてもネタバレなので紹介のしようがない。とりあえずホラーだと期待して読むと壮大な肩すかしを食らう可能性があるので気をつけよう。
 十六夜咲夜『ルージュの紅にくちづけを』(スカーレット・パブリッシング)★★★は、口べたな悪魔と契約した脳天気な魔法使いの恋愛小説。契約の内容を軸にした軽い謎解き要素があるが、基本はごくごく平穏な異種恋愛もので、お菓子作りシリーズの雰囲気に近い。重量感のある本のあとにこういうのを読むと確かにほっとするし、さすがに文章は上手いのであっさり読めるが、長編としてはもうちょっと起伏が欲しい気も。
 そして今回の最大の目玉は、西行寺幽々子の新刊『』(白玉書店)★★★★★。《幻想演義》に掲載された短編二本に、書き下ろしの三編を加えた連作集。生と死にまつわる五つの物語を、飛び交う蝶のイメージがゆるやかに繋ぎ、輪廻と因果の円環を形作っていく。相変わらず一読しただけでは全貌を掴みかねるが、二度三度と読み返すたびに新たな味を感じさせる語りの魔術と、幽幻にして凄絶なイメージの奔流が読者を翻弄する。生きる者と死んでいく者という残酷な断絶を描きながら、文章の力で幽冥の境界を曖昧にしていき、生きること、死ぬことの意味を問いかけてくる小説だ。『桜の下に沈む夢』に勝るとも劣らない、幽々子の小説技術の粋と言うべき玄妙にして精緻な傑作。まだ読んでない人は不見転で今すぐ買ってくること。




霧雨魔理沙『星盗人と鏡の国の魔女』は
稗田文芸賞受賞を狙った意欲作か

(第121季 弥生~第122季 卯月)


 スカーレット・パブリッシングが、既刊を持ち運びやすいコンパクトサイズ・買い求めやすいお値打ち価格で再刊するレーベル《紅魔文庫》の設立を発表した。第一弾はパチュリー・ノーレッジ『魔法図書館は動かない』とミス・レッドラム『クリムゾン・ナイト』★★☆の再刊に加え、門前美鈴の書き下ろし新シリーズがスタート。『風雲少女・リンメイが行く!1 不運少女の旅立ち』★★★☆は『龍拳伝』シリーズの二十年後、ホウリンの弟子・リンメイの活躍を描くスピンオフ作品で、少年少女がターゲットの冒険活劇だ。
 主人公の《不運少女》リンメイは、ひたすら不幸な星の下に生まれつきながら、持ち前の明るさで困難に立ち向かっていく格闘少女。物語は、リンメイの目の前で、師匠・ホウリンが謎の敵に敗れ滝壺に消えるという、『龍拳伝』読者には衝撃的な場面で幕を開ける。師の仇である《左目の無い男》を探してリンメイはお供のクラムボンと旅に出る――となると暗い復讐譚になりそうだが、そこは子供向けなので、基本はお気楽珍道中。痛快なアクションとコミカルな掛け合いの緩急が効いていて、思った以上に楽しく読める。今後の展開に期待したい。
 しかし発刊から三年ぐらい経って、売れなくなってきた頃にお手頃価格で再刊してもう一儲けというのは欲の張った話の気もするが、『魔法図書館は動かない』などの名作が手に取りやすくなるというのは確かにメリットも大きいかもしれない。《風雲少女》のような子供向け作品も、この値段なら子供のお小遣いでも買えるだろう。注目して見守りたい。
 話は変わって、あの大傑作『星屑ミルキーウェイ』から二年、ようやく霧雨魔理沙の第二作が出た。が、『星盗人と鏡の国の魔女』(博麗神社)★★★☆は、『星屑~』的な痛快エンターテインメントを期待すると少々面食らうことになるかもしれない。
 主人公は、星空の国から一番星を盗み出した星泥棒。追っ手から逃れて流れ着いた鏡の国で、彼女は嘘しか言わない孤独な魔女と出会う――という、一見メルヘンな世界観のファンタジーだが、子供向けの寓話かと思えばさにあらず。星泥棒と魔女は追っ手から逃げて様々な世界を渡るが、その過程でやたらあっけなく人は死ぬし、それぞれの世界にはひどく現実的な社会の矛盾の投影のような影がある。後半、ストーリーが観念的な方向に進むことも合わせて、これはひょっとしたら稗田文芸賞対策ではあるまいか。このメルヘンに見えてドライな世界観は、『星屑~』が甘ったるいと言われて落とされたことへの魔理沙なりの返答のようにも読める。ただ、『星屑~』とは全く違う路線の作品を書こうとしている意味でも意欲作なのは確かだが、そういった工夫が『星屑~』を超える面白さに結びついているかというと首を傾げる。深読みさせたがっているようにも見えるが、なんだかんだで全体はピカレスク・ロマン的なエンターテインメントに収まってしまっている気が。果たして稗田文芸賞でリベンジはなるのか、年末を楽しみに待ちたい。
 第四回稗田文芸賞受賞以来、『雪桜の街』が売れに売れている白岩怜は、『銀色クリスタル 冬色家族2』(博麗神社)★★★☆を刊行。2とは言うものの、内容は直接の続編ではなく、《幻想演義》に発表されたスピンオフ短編三編と書き下ろし一編を収録した短編集だ。表題作は前作の前日譚で、これを読むと前作の後半の急展開の意味がいろいろ腑に落ちるため、前作読者は必読。なんてことのない話だが読むとほっこりする「雪灯籠」もいい。
 ミス・レッドラム『マッドネス・シスターズⅢ 君を壊してしまいたい』(スカーレット・パブリッシング)★★★は、わりと面白くなってきた第三巻。二巻で出てきた敵の正体が明らかになり、これまで一心同体だった姉妹の間に亀裂が走る。エンターテインメントとしての見せ方がだいぶこなれてきたので、いつもの露悪趣味ぶりについていけない人でも楽しめそうになってきた。このまま順当に盛り上がってくれるといいのだが。




パチュリー・ノーレッジ『永遠より長い夢』は
パチュリー版『雪桜の街』なのか?

(第122季 皐月~水無月)


 先日人里の霧雨書店に行ってみると、ベストセラーランキングが店内に掲示されていたが、白岩怜『雪桜の街』が一位で『樹氷の森でつかまえて』が三位、十六夜咲夜『明日を思いだして』が四位と、泣かせ系の恋愛小説が強い強い。古今東西、色恋は人妖問わず最大にして不変の娯楽なのだなあと実感する。
 そんな中に殴り込みをかけてきたのが、パチュリー・ノーレッジ待望の第三作『永遠より長い夢』(スカーレット・パブリッシング)★★★★☆だ。さて今回はどんな幻想を見せてくれるか、と読み始めてびっくり。殺した相手の寿命を奪い永遠に近い命を持つ死神が、気まぐれに助けた人間の少女と奇妙な同居生活を始める――という、まるで十六夜咲夜が設定を作り白岩怜がストーリーを考えたみたいな恋愛小説で物語は幕を開ける。パチュリーがいったいどうしてこんなものを――と思いながら読んでいると、中盤に至ってのけぞり、ラストで唖然呆然のち不覚にも感動。設定から想像する話の百倍面白い。詳しいことは読んでくださいとしか言いようがないが、どうしたらこんな展開を思いつくのか。中盤以降で炸裂する魔術的な語りによる《永遠》の解釈には恐れ入谷の鬼子母神。これだけしっちゃかめっちゃかやっておいて、ラストはぬけぬけと『雪桜の街』並みにベタなところに着地させる様はもう芸術的としか言いようが無い。幻想郷の恋愛小説の極北として語り継がれるであろう怪作にして傑作。
 ミスティア・ローレライの第二作『歌声屋台繁盛記』(白玉書店)★★★は、作者の本業である八目鰻の屋台の日常を元ネタにしたと思われるハートフル系のお仕事小説。歌声屋台を訪れる客たちとのコミカルなやりとりを軸にしながら、それぞれの抱えた問題に店主の歌声と料理が解決のヒントをもたらすという形式の連作で、それなりに楽しく読めるが、相変わらず作者の記憶力が怪しいのか細々とつじつまが合わないのが気になる。良い話路線だとこの弱点はけっこう痛いので、誰か校正担当を雇った方がいいのでは、というのは余計なお世話か。
 今回は久々に弾不足なので小説以外を二作。稗田阿求『幺樂団の歴史』(稗田出版)は、幺樂の解説書と見せかけた阿求の幺樂エッセイ集。ふてぶてしい語り口が相変わらず可笑しい。
 西行寺幽々子『食いだおれ幻想郷』(白玉書店)は、《幻想演義》に掲載されたエッセイから生まれた体当たりグルメガイド。小説のわかりにくさはどこへやら、あの文章力を駆使した、読んでいて涎の出てくる食事描写はもはや一級のエンターテインメント。夜中に読むと空腹で死にそうになるので気をつけよう。




永月夜姫『時の密室』と富士原モコ『百万回目の死』
大型新人ふたりの直接対決やいかに

(第122季 文月~葉月)


 昨年の葉月号から《幻想演義》で同時に連載の始まった新人ふたりのデビュー作が、前号で揃って完結し、今回揃って単行本化された。どうもわざと同時連載、同時刊行とやって張り合っているらしいが、実力も伯仲、甲乙つけがたい好勝負である。
 東は永月夜姫『時の密室』(稗田出版→竹林文庫)★★★☆。内部で時間の止まった屋敷に閉じ込められた少女と、屋敷の窓から見える動かない少女の横顔に恋をした少年の話。となると十六夜咲夜系の時間SFロマンスになりそうだが、話は全然違う方向へ転がり始める。ふたつの物語軸での時間経過の齟齬を利用した終盤の仕掛けは完全に不意打ちで、一読呆然。読後感は因幡てゐの作品に近い、と言ってしまうのもネタバレか。文章も大変しっかりしており、デビュー作とは思えないほどきっちり完成されている。相当な実力派の新人の登場だ。
 対する西は富士原モコ『百万回目の死』(稗田出版)★★★☆。百万回目までは何回死んでも生き返ってしまうという呪いを掛けられた少女が、死ねないことに絶望してなんとか百万回目を目指そうと自殺を繰り返すが、百万回目が近付くほどに彼女には大切なものが増えていって――という生と死の意味を問う物語。永月夜姫に比べると文章は荒っぽく、繰り返す生と死というモチーフも先例があってさほど新味は無いが、中盤で延々と繰り返されるひどく軽い死の連続が、話が進むにつれじわじわと重みを増していく、その独特の読み口がいわく形容しがたい印象を残す。スマートに完成された感のある永月夜姫に対し、荒削りだがインパクトはこちらの方が上。どちらが好みかは人によると思うので、ぜひ両方買って読み比べてほしい。
 生と死といえば、ミス・レッドラム『マッドネス・シスターズⅣ 私たちは壊れない』(スカーレット・パブリッシング)★★★★が意外と言っては失礼だが、びっくりするほど盛り上がっている。一心同体だったはずが解り合えなくなってしまった姉妹の心理描写が秀逸で、それぞれが己の狂気をもてあまし暴走を始めてからの展開に不覚にも血がたぎった。この巻だけでも、これまでミス・レッドラム作品をなんだかんだ言いながら読み続けてきた甲斐があったと言えるできばえ。次で完結するようなので、最終巻を楽しみに待ちたい。
 最後に小松町子『無責任一代記』(是非曲直庁出版部)★★★☆は、無能・無責任・無駄飯喰らいと悪名高い昼行灯な上司が、実は責任を取りたくないから周りの人間を些細な言葉で的確に動かして自分の思うままの結果を出させる魔術師のような人物だった――というコミカルなお仕事小説。あまりに何もかもが思うままなのでちょっと疲れる部分もあるが、悪人なのか善人なのか、ぼんやりした顔の裏を最後まで掴ませない上司のキャラが非常にいい。肩の力を抜いて、愉快な掛け合いを笑いながら読みたい。




超大型新人・八坂神奈子登場!
秋の新人デビューラッシュに沸く

(第122季 長月~神無月)


 山の天狗たちが、新出版社《鴉天狗出版部》を創設し、とうとう文芸出版に参戦した。とはいっても、報道マニアばかりの鴉天狗はあまり文芸出版には興味が無いようで、文芸出版に乗り気なのはむしろ白狼天狗や河童なのだそうな。ともかく、その影響もあってか今回は新人デビューラッシュである。がんがん紹介していこう。
 まずは鴉天狗出版部の小説出版第一弾となる、河城にとり『キカイノコトバ』★★★☆。付喪神ではなく、科学技術で道具に《心》を持たせることは可能か、をテーマに、工学技術を駆使して心持つデバイスを作ろうとする工学者の物語だ。幻想郷にはない未知の技術をリアリスティックに描くハードSFといえる。筆者はそのへんは門外漢なので詳しい論評は避けるが、ディテールは凝り凝りで読み応えは充分。技術開発へ向ける並々ならぬ熱意がほとばしる、いかにも河童らしい小説だ。ただ、《心》をテーマにするなら、主人公の工学者の人物像をもっと掘り下げるべきだったのでは。そのへんの心理ドラマを増強すれば傑作になったかもしれない。惜しい。
 秋静葉『落ち葉の季節に逢いましょう』(稗田出版)★★☆は、毎年秋になると届く手紙の差出人をめぐる、穏やかな家族小説。設定からベタベタな恋愛小説になるかと思えばそうはならず、物語はどこまでも淡々と静かに続く。季節感の描写は非常に上手く、頑なだが姉想いな妹のキャラクターが良いなど美点もあるが、エンターテインメントとしては起伏に欠け、西行寺幽々子の『春宵草紙』レベルの文章力や構成力があるわけでもないので、いささかどっちつかずな印象。白岩怜はあざとすぎて苦手という人にはいいかもしれない。
 しかし新人ラッシュ最大の衝撃は、八坂神奈子『天照戦記 蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』(守矢新社)★★★★★。今年のベストは西行寺幽々子の『蝶』で決まりだろうと思っていたが、それに匹敵する大傑作をひっさげて超大型新人が登場した。
 舞台は内陸にある山に囲まれた肥沃な大地。主人公は、その地の人々が崇める土着神だ。神と人が助け合い平和に暮らしていたその大地に、中央政権の軍勢が迫る。敵は三十万、味方は数千。絶望的な状況の中、土着神と人々は故郷を守るため戦いに挑む――という、神と人の相克を真っ向から描いた一大戦記スペクタクルだ。愛した人間のために敵の血にまみれて戦い続けるほどに、守るべき人々からも次第に畏れられてしまう土着神の悲哀と、神に守られて戦いながら神を畏れてしまう人間の弱さが丁寧に紡がれ、張り詰めた糸のような緊迫感を保ったまま物語は怒濤のクライマックスになだれ込んでいく。力強い文体と容赦の無い凄絶な展開、そして神と人間の物語が人間と人間の物語に昇華される完璧なラストシーンまで巻を措く能わず、一気通読の完璧な徹夜本。およそ文句をつける箇所が見当たらない、オールタイムベスト級に認定していい傑作なので読むべし読むべし。今年の稗田文芸賞もこれが大本命か。
 既存作家の新刊も一冊。十六夜咲夜『晴れた日は白い傘をさして』(スカーレット・パブリッシング)★★★★は、地下室に幽閉されて育った太陽の光を知らない少女と、彼女に食事を届ける召使いの交流を描く短めの長編。少女と召使いの、外の世界を知らないが故の純朴な会話のひとつひとつが、はっとさせられる鋭さをもってこちらに迫ってくる。ラストシーンはよく考えるとめちゃくちゃあざといのに、全体を抑えた筆致で書いているから、あざとさよりも射し込む光の美しさが際立つ。どっちかというと狙って読者の感情を煽る作風が多かった咲夜にとっては新境地か。地味でさらっとした話だが、味わい深い良作。秋静葉の目指すべき方向はここではないかなと勝手に思う。




名作・怪作揃いの短編アンソロジー
『幻灯グランギニョール 幻想演義短編傑作選〈幻想編〉』

(第122季 霜月~師走)


 秋の夜長にはじっくり腰を落ち着けて読む長編も良いものだったが、忙しい師走にはさっと読めて、それでいて良質な長編を読んだような満足感を得られる切れ味鋭い短編が読みたい。しかし、刊行される本はほとんどが長編で、《幻想演義》に発表される短編は連作シリーズでないとなかなか本にならないのが現状である。
 そんな状況を打破すべきと思ったのか、《幻想演義》の創刊二周年企画として刊行されたのが、パチュリー・ノーレッジ編による《幻想演義》初出の短編を萃めたアンソロジー『幻灯グランギニョール 幻想演義短編傑作選〈幻想編〉』(稗田出版)★★★★だ。パチュリー編というだけあって、選りすぐりの名作および怪作が萃められている。
 ラインナップは、マーガレット・アイリスの表題作ほか、パチュリー・ノーレッジ「日曜日の没落」、西行寺幽々子「胡蝶の夢幻」、虹川月音「騒がしい死者たち」、十六夜咲夜「奇術する永遠」、八雲藍「それは一に等しい」の全六編。特に、奇術と記述の重ね合わせを描く咲夜の異色な奇想小説と、雑誌発表時に散々わけわからんと言われた藍の数学小説を敢えて収録しているところがいかにもパチュリーらしい。解りやすい話を求める人には向かないだろうが、一本一本がさらっと読み流すだけでは味わいきれない深みをもっているので、一本ずつ腰を落ち着けて読みたい作品集に仕上がっている。短編の価値を再確認できる名アンソロジーだ。年明けには阿求編のアンソロジー『演義編』も出るようなので、そちらも期待したい。
 続いて新刊。つい先日出たばかりの(ある意味で)大問題作が、大橋もみじのデビュー作『うちの上司が横暴なんですけど。』(鴉天狗出版部)★★★だ。報道会社に入った主人公が、横暴な上司に振り回される様を描くコミックノベルだが、登場人物のモデルにものすごく心当たりがあって、たいへん反応に困ることに。最終的にいい話に落とすコメディとしては普通によく出来てはいるが、悲しいかな当人の反応が気になって冷静に読めない。というかこれ、ほとんど作者の実体験なのではないだろうか?
 あっという間に最終巻まで駆け抜けた『マッドネス・シスターズⅤ そして世界は壊された』(スカーレット・パブリッシング)★★☆は、話のスケールが一気に拡大してしまった分、肝心の主役コンビのドラマがないがしろになって、四巻の盛り上がりからすると明らかに尻すぼみ。《ナイトメア》シリーズもそうだったが、このラストはいくらなんでも投げっぱなしと言われても仕方ないのでは。天然なのかわざとやっているのか、いずれにしても四巻のテンションのまま走り抜けていれば個人的な傑作にもなり得ただけに残念。
 白岩怜『冬待ちの空』(博麗神社)★★☆は、冬になるとやってくる人間との再会を待ち焦がれる妖怪の恋心を丹念に描いた恋愛小説。ほとんど回想と心理描写で話は進むが、ラストにはちょっとしたサプライズも仕込まれている。相変わらず個人的にはどうにも痒くて辛い部分が多いが、会えない恋人を想う切ない心にきゅんとしてしまう人は★をひとつふたつ追加で。しかしラストはちょっと無理にドラマチックにしようとしすぎでは。
 門前美鈴『風雲少女・リンメイが行く!2 魔道の器』(紅魔文庫)★★★☆は、《風雲少女》シリーズの第二巻。前回で生意気娘のミラが仲間に加わった一行は、道中で様子がおかしくなったクラムボンを助けるため、近くの村の魔導師・チェリーの元を訪ねる。ところがチェリーは頑としてリンメイたちと会おうとはせず――というわけで、順当に一巻から面白さをキープした感じ。友情・努力で勝利する正統派のストーリーを維持しつつ、仲間も増えて賑やかになり、《左目の無い男》の足跡と、その裏に陰謀めいたものも見え隠れ。子供のわくわくするだろう要素を過不足なく拾い上げていて、子供たちの間での広まり方次第では大ヒットシリーズになりそうな予感。今後の展開も楽しみだ。




第121季睦月~第122季師走 総括


 永月夜姫、富士原モコ、八坂神奈子、河城にとり、秋静葉、大橋もみじがデビューした今年は、いよいよ文芸ブームも百花繚乱、ラインナップの充実度は俄然高まってきた。人々や妖怪たちの間に小説の読書が娯楽として完全に普及したのも、出版点数の増加に拍車を掛けている。第四回稗田文芸賞を二作受賞に持ち込み、白岩怜を大ベストセラー作家にした阿求の慧眼に今は敬意を表したい。
 また本文では割愛したが、《紅魔文庫》に続き稗田出版が《稗田文庫》、博麗神社も《博麗文庫》を創設した。ますます出版バトルは過熱する一方だが、読者にとっては既刊がお手頃価格で入手しやすくなるのはありがたい話だろう。
 さて、今年のベスト5はめちゃくちゃレベルが高い。かなり悩んだが、以下のように。

 ①西行寺幽々子『蝶』
 ②八坂神奈子『天照戦記 蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』
 ③パチュリー・ノーレッジ『永遠より長い夢』
 ④パチュリー・ノーレッジ編『幻灯グランギニョール 幻想演義短編傑作選〈幻想編〉』
 ⑤虹川月音『弦奏のストラディヴァリウス』

 次点は十六夜咲夜『晴れた日は白い傘をさして』か。どこに出しても恥ずかしくない珠玉のラインナップなので、未読がある人は今すぐ霧雨書店に走って欲しい。最終巻がああならなければ、ミス・レッドラムの『マッドネス・シスターズⅣ 私たちは壊れない』もランクイン候補だったのだが……。
 第五回稗田文芸賞は、順当に八坂神奈子『天照戦記』が受賞。しかし永月夜姫と富士原モコが候補にもならなかったのはやや疑問。小松町子もそろそろ候補になってもいいのでは。




<第122季睦月~第123季師走>


因幡てゐの愉快痛快コンゲーム小説
『幸運エスケープ』に大笑い

(第122季 睦月~如月)


 小説というのは全部嘘であるからして、小説家というのは嘘つきのプロという見方もできる。しかし一般的には、嘘つきのプロと言われれば思い浮かべるのは詐欺師の方だろう。では、嘘つきのプロ同士が対決したらどうなる? というのをプロの嘘つきたる小説家が書くのが、因幡てゐ『幸運エスケープ』(竹林書房)★★★★だ。
 主人公は駆け出しの新米詐欺師。大物詐欺師であった師匠がある日ぽっくり病で逝ってしまい、莫大な遺産の隠し場所を示したメモが遺される。師の商売敵だったベテラン詐欺師に騙され、メモを奪われてしまった主人公は、遺産を取り返すために詐欺での逆襲を企むが――という痛快コンゲーム小説だ。詐欺師同士の虚々実々、丁々発止のやりとりで騙し騙され、物語は二転三転どころか八転九転、嘘がはてしなくエスカレートしていく様に爆笑。どう考えても最終的に手に入る金額以上の金を詐欺のために投資している気がするが、そんなところにツッコミを入れるのは野暮というものか。因幡てゐの語りと騙りのテクニックが、物語と直結して愉快痛快なエンターテインメントに仕上がった傑作。
 気が付けば毎年睦月に新刊が出るのが恒例になっている感があるマーガレット・アイリスの第三作『ビスクドールの柩』(博麗神社)★★★は、あの衝撃のデビュー作『マスカレード・スコープ』に続くミステリ仕立ての話。柩の中の死体が人形とすり替わっていたという死体消失トリックを軸に、人間と人形の関係、その心の在処という問題が生と死に重ね合わせて語られる。しかし、肝心の殺人の動機がよくわからない。魔法使いの理屈だとしても、いくらなんでもそんな理由では殺さないと思うのだが……。登場人物が類型的なのも気になるところ。
 今回の掘り出し物は、ミスティア・ローレライの第三作『くらやみのうたはきこえない』(稗田出版)★★★★。歌をうたうことしかできない盲目の少女と、耳の聞こえない少年の心の交流を描く少年少女向けのジュヴナイル。たいへんいい話で、盲目と聾唖というコミュニケーション不可能に思えるふたりが手のひらに文字を書くことで言葉を交わし合う様に思わずじーんとしてしまう。体裁は少年少女向けだが、どっちかといえば大人の方が喜ぶタイプの話かもしれない。今回はちゃんと校正が入ったのか目立った描写の齟齬もないので、ミスティアの過去作のそういう部分が気になって仕方なかったツッコミ体質の人も安心だ。
 最後にアンソロジー。《幻想演義》の創刊二周年企画の第二弾、同誌掲載の短編を萃めた稗田阿求編『ホロスコープの夜 幻想演義短編傑作選〈演義編〉』(稗田出版)★★★★は、幻想・奇想小説中心だったパチュリー編の『〈幻想編〉』に対し、エンターテインメント的な短編を萃めたラインナップになっている。
 収録作は霧雨魔理沙の表題作のほか、門前美鈴「空は極彩の雨を降らす」、小松町子「カウントダウン」、白岩怜「まどろみ十月」、富士原モコ「きっと誰かを殺したい」、永月夜姫「月籠」とバラエティに富んだラインナップ。個人的なベストは永月夜姫だが、それぞれ小説のタイプが違うので誰が読んでもどれかひとつは気に入る作品があるはずだ。〈幻想編〉はとっつきづらいという人向けの短編プロモーション作品集としては完璧だろう。未読の作者がいる場合の試し読みにもピッタリ。万人にお勧めしたい。




永月夜姫『あの月の向こうがわ』は
青春小説の新たなスタンダード・ナンバーだ!

(第122季 弥生~第123季 卯月)


 昨年のデビュー作に続き、永月夜姫と富士原モコが揃って第二作を刊行した。しかし、今回は圧倒的に永月夜姫に軍配が上がるだろう。さすがに富士原モコも、これに来られては勝ち目がない。永月夜姫の第二長編『あの月の向こうがわ』(竹林書房)★★★★☆は、そう言い切っていい奇跡のような青春小説の傑作だ。
 この世界のどこにも居場所がないと感じている、親友同士の少女ふたり。主人公は、その親友に満月の夜、突然殺されかける。「あの月の向こうに、私の帰る場所がある」――そう言い残して消えた親友を追って、主人公は月を目指す。どうして彼女は自分を殺そうとしたのか? 犯してしまった罪は消えないのか? どうすれば上手く生きていけるのか? どこかに自分の居場所は本当にあるのか? こっ恥ずかしくなるような青臭い問いかけの数々に対して、繊細な文章が説教臭さを巧妙に排除しながら、ひとつひとつ丁寧な答えを紡いでいく。ひとつひとつのエピソードの配置が巧みで、序盤のさりげない伏線が綺麗に回収されていく様は芸術的ですらある。永遠の無為への恐怖心と、同時に変化を避けたいと願う心の相反は、人間のみならず、永く生きることに飽いた妖怪の琴線にも触れるだろう。
 問題はラストの衝撃的な展開で、これをどう受け取るかによって読後感が大きく変わってくる。個人的にはこの結論に至る理屈にもうひとつ納得しきれないので☆一個分保留したが、精緻な硝子細工のような繊細さと、研ぎ澄まされたナイフのような鋭さが同居する作品全体の雰囲気は本当に素晴らしい。霧雨魔理沙『星屑ミルキーウェイ』とともに、幻想郷の青春小説のスタンダード・ナンバーとして語り継がれるであろう名作だ。
 これを読んでしまうと、富士原モコの第二長編『灰色の刃』(竹林書房)★★★はいささか分が悪い。父親の復讐のために少女が殺人犯を追うが、その犯人は絶対に殺せない相手だった、というサスペンス・ミステリーだが、どうにも作品全体が独りよがり気味で、序盤から読者が置いてけぼりになるのが難。殺せない相手をいかにして殺すか、というロジックは非常に読み応えがあり、後半は盛り上がるので、サスペンス要素をすっぱり切り落として、特殊状況でのハウダニットが主眼の本格ミステリにした方が良かったのでは。
 続いて新シリーズもの。大橋もみじ『白狼の咆吼』(鴉天狗出版部)★★★☆は、昨年の『うちの上司が横暴なんですけど。』の刊行前から《幻想演義》で連載が始まっていた、著者の実質的なデビュー作。連載開始早々から人気を集め、あっという間に《幻想演義》の看板タイトルまで成長した、現在も絶賛連載中の痛快剣豪小説だ。
 主人公は、大刀《白狼剣》を操る、狼の血を引く寡黙な白髪の剣士、剣紅葉。放浪の旅を続ける彼が、立ち寄った里を襲う悪党を片っ端から叩き斬っていく。紅葉との過去の因縁を匂わせる、悪徳領主の側近の剣士・鎬永羅や、紅葉に助けられその旅に同行することになる将棋指しの少女・みどりなど、キャラクターも魅力的で、チャンバラ描写も申し分なし。ストーリーはこの巻ではまだ始まったばかりという風情だが、連載ともども今後の展開に期待大だ。
 もうひとつの新シリーズが、小松町子『銭投げ捕物帖〈一〉空蝉の宿』(是非曲直庁出版部)★★★。こちらは銭投げが武器の御用聞きが、中有の道がモデルと思われる街で罪人を取り締まるミステリー。呉服屋殺しの謎を追ううちに、宿に泊まっていた身元不明の男の行方を追うことになる話だが、謎解き要素やサプライズは薄く、人情小説の趣が強い。気楽にさくっと読める上、人間の好きそうな浪花節の要素もあるので、人里の大人に受けそうだ。




空前絶後のバカミスっぷりに大爆笑!
世紀の怪作、ミス・レッドラム『安楽椅子探偵ヴァンピール』登場

(第123季 皐月~水無月)


 文芸ブームもいよいよ爛熟の域に達してきたか、ついに《幻想演義》が隔月刊から月刊に昇格。噂では、大橋もみじ『白狼の咆吼』を毎月読みたいという読者の声が非常に大きかったのだとか。連載持ちの作者はますます大変そうだが、読者としては読める小説が増えるのは素直にありがたい話である。
 さて、まずはシリーズものの新刊から。門前美鈴『風雲少女・リンメイが行く!3 狩人の掟』(紅魔文庫)★★★は、快調《風雲少女》シリーズ第三弾。前巻で魔導師チェリーを仲間にしたリンメイ一行の元に、ミラの命を付け狙う狩人・ビャクヤが現れる。相変わらず個性的な面々が賑やかに旅をしている様は楽しく読めるのだが、だんだん当初の旅の目的が忘れ去られているような気も。まあ、今のところは仲間集めに徹するということなのかもしれない。ビャクヤの登場でほのかにメンバー間に恋の気配も芽生えてきたが、どうなることやら。
 現在《幻想演義》で大長編「懐かしき幻想の血脈」を連載中の上白沢慧音は、それとは別に第三作『高天原の果て』(稗田出版)★★★を刊行。《幻想演義》に発表した短編三編に書き下ろしの表題作を加えた歴史小説短編集だが、慧音の語り口はやはり長編向きか。短編でも丁寧に歴史の解説をしがちなので、いささか説明部分が冗長な印象は否めない。その中で、珍しく幻想譚の色合いが濃い表題作はなかなかの逸品。一度歴史から離れた慧音の小説を読んでみたいと、個人的には思う。
 虹川月音の新作『いとしのポルターガイスト』(白玉書店)★★★☆は、白岩怜『冬色家族』系のほのぼの家族小説。それぞれ心がすれ違い、家族の絆が崩壊寸前だった家に、ある晩突然楽器をかき鳴らすポルターガイストが現れる。それがきっかけとなって、家族それぞれがお互いと向き合い、絆を取り戻していく、というハートフル系の長編だ。基本はなんてことのない話だが、気分も鬱々としてきそうな梅雨時に、ほっと優しい気分になれる小説。虹川作品としては『憂鬱ラプソディ』の系列だが、読み比べると小説技術の格段の向上を実感できる。しかし、ベタな話のわりに盛り上げられるところを流しすぎではという気も。
 そして今回最大の問題作は、ミス・レッドラムの新刊『安楽椅子探偵ヴァンピール』(スカーレット・パブリッシング)★★(★★)。タイトル通り、安楽椅子探偵ものの連作ミステリーかと思って手に取った人は考え直してほしい、作者はミス・レッドラムである。あのミス・レッドラムが理詰めのミステリなんて書くわけが無い。果たしてどんなトンデモミステリかとわくわくして読み始めたが、予想の斜め上を行くトンデモぶり。モケーレ・ムベンベの正体を解き明かす「ぎゃおー、食べちゃうぞ」は世紀の大傑作と言っていい(主観)。デタラメ以外の何物でもない推理の数々がさも真実であるかのように語られ、最終的に明らかになるネタには開いた口がふさがらない。そんなこと驚愕の大どんでん返しみたいに大仰に言われましても。小説として冷静に評価するなら壮大な失敗作以外の何物でもないが、酒の肴にするには最高の小説なので、是非飲み屋でわいわいツッコミを入れながら楽しんでいただきたい。




いったいどこからこんな発想が生み出されるのか?
驚異の奇想短編集・パチュリー・ノーレッジ『赤く細い川を渡れ』

(第123季 文月~葉月)


 とかく小説に関しては、いったいこいつの頭の中はどうなっているのか、とかち割って中を見てみたくなる作家の代表格がパチュリー・ノーレッジだが、その新刊はまたまたとんでもない奇想短編集。『赤く細い川を渡れ』(スカーレット・パブリッシング)★★★★は、文章表現の極北というか、もはや「なんだこれは」としか言い様のない一冊になっている。
 ミクロンの幅しかない川をどうすれば船で渡れるかについて数学者と船頭が延々わけのわからない議論を繰り広げる表題作をはじめ、美味しいフルーツタルトのレシピが世界を崩壊させる「終末パイ投げ症候群」のような小説の体裁を為している作品はまだ穏当な部類。《ア段》の存在しない世界を、本当にア段の文字を一切使わずに書く「昨日を良い日にしよう」あたりから文体実験はどんどんエスカレートし、得体の知れない記号が増殖して本文を乗っ取る「三九八文字の言語」、同じ場面をひたすら文体を変えて描写し続けるうちに場面そのものが狂い始める「叙述の風景」、まさかの七色刷で七通りの物語が同時進行する「プリズム」、本文全体が回文になっている掌編などなど、文章でしかできないありとあらゆる表現の奔流に脳みそがスパークしそうになる。一本一本にかけられたコストは尋常でなく、わけがわからないが面白い、という希有な感覚に酩酊。しかし、これもパチュリーなりの短編プロモーションの一環なのだろうが、もう少しふつうの読者に対して親切にはなれないものか。これを読んで「短編すげえ!」と思える人は少数派だと思うのだが。
 そんな混沌の文章世界にふらふらになった人には、風見幽香のデビュー作『優しい花を咲かせましょう』(稗田出版)★★★がオススメ。非常に真っ当に端正な文章で、いじけた少女の心の再生がガーデニングに託して語られるほのぼの小説だ。読むと園芸に詳しくなって、花でも育ててみるか、という気分になれる。ストーリー性が薄くて、小説部分より園芸指南の方がメインに見えるが、文章がいいので読んでて退屈することは無い。八雲藍の『猫のための方程式』なんかが好きな人は要注目だ。
 美麗な文章の書き手といえば、十六夜咲夜もその代表格だろう。その咲夜の新刊『ストライキ!』(スカーレット・パブリッシング)★★☆は、館でこき使われる妖精メイドたちが一念発起してストライキに打って出る話。しかし、もともとあんまり役に立っていない妖精メイドのストライキには大した意味はなく、主たちは気にせずいつも通りの生活を続ける。それならもっと積極的に主たちを困らせよう、と妖精メイドはいたずら作戦に出るのだが――と、基本は軽いノリのコメディ小説。だが、咲夜の文体が耽美ものを書いているときとあまり変わらず、瀟洒な文体で脳天気コメディという何とも言い難い不思議な印象の小説になっている。
 最後の一冊は、小松町子『銭投げ捕物帖〈二〉河岸の人魚』(是非曲直庁出版)★★★。銭投げ名人の御用聞き・マチが活躍する人情ミステリー第二弾だ。今回は河岸に打ち上げられた人魚の死体をめぐる事件。やってることは一巻と変わらないので、良くも悪くも金太郎飴的に安心して読める。小松町子作品全般に言える、軽く流している感じが物足りなくはあるが、世間的には入魂の一冊より、さらっと書かれたそこそこの三冊の方が歓迎されるのかも。




河城にとり『川の流れの果てる先』は
幻想郷という世界そのものに斬り込んだ一作か?

(第123季 長月~神無月)


 秋になるとなぜか急に元気になる鴉天狗出版部から、一気に新刊が三冊も出た。まずは大橋もみじの絶好調シリーズ第二弾『白狼の咆吼 巻ノ二』★★★☆。一巻に続いて、旅先でのトラブルを主人公・剣紅葉がめった斬りで解決する話だが、鎬永羅とその主の策謀により、事態は苦い結末を迎えることに。守ったはずの相手から誤解で石を投げられることになる紅葉だが、一切の弁解をせず黙って背を向けて去る背中に痺れる。話のスケールも一巻で想像したより大きくなってきそうで、現在連載中の三巻に該当するエピソードはかなり盛り上がっているし、次の巻に大いに期待したい。
 秋静葉の第二作『オータム・コンプレックス』★★★は、姉妹が互いに抱え合うコンプレックスからすれ違い傷つけ合ってしまう様を描いた家族小説――と思ったら、なんと話は姉妹同士の恋愛小説までエスカレート。インセストタブーなんぞ全く気にする様子もないあたりがいかにも八百万の神様の書いた小説という感じ。人間同士ならもうちょっとこう葛藤のありそうなものだが、うじうじした恋愛小説が苦手な人には後半の開き直りっぷりは痛快かも。
 そして最大の注目作は、河城にとりの第二作『川の流れの果てる先』★★★☆。川の流れ着く先を目指した少女が、世界の果てを見つけてしまったことから、自分のいる世界の謎に挑むことになる箱庭世界SFだが、この世界観のモデルはどう見ても幻想郷そのもの。博麗大結界に閉ざされた幻想郷のあり方に対する大胆な考察小説とも読める。ただ、箱庭世界を構築する科学技術に関する考察が非常に緻密なわりに、内側と外側の社会に関する考察がいかにも弱く、結果として孤独な少女が空想の世界で遊んでいるだけの話にも見えるのが難。こういう題材に挑む意欲は買いたいが、あまり掘り下げると誰かさんが黙っていなさそうなので気をつけてほしいと思う。
 一方、年中元気なスカーレット・パブリッシングからは、門前美鈴の久々の戦記大作『華国英雄伝』★★★☆が登場。架空の国家《華国》を舞台に、魅力的な英雄たちが群雄割拠する華々しい架空戦記小説だ。《風雲少女》シリーズで磨いたキャラクター小説の手法を大胆に導入した結果、登場人物のキャラ立てが抜群に上手くなっており、英雄たちの魅力でどんどん読ませる。ただ、話のスケールは一冊にまとめるにはちょっと大きすぎたか、あるいはキャラを多くしすぎたか、全体的にはちょっと散漫。全五巻ぐらいでじっくり書けば傑作になったかもしれない。とは思うものの、《風雲少女》シリーズを書きながらもう一本シリーズを平行というのはさすがに苦しいか。せっかくいいキャラがたくさんいるので、スピンオフという形でもいいので別の物語が見てみたいところだ。
 新たに文芸出版に参戦してきた天界舎からは、比那名居天子のデビュー作『天地開闢ストライク』★★が登場。大地に楔を打ち込んであらゆる自然現象をコントロールできる主人公が、その力を狙ってくる敵相手に無双する話で、読み口はデビュー当時のミス・レッドラムのそれに非常に近い。小説としてはあまり褒められた出来ではないが、まあこういう他愛ない作品もたまに読む分には笑って許せる。広い心を持って読みたい。




白岩怜の意欲作『銀色夜話』の
思いがけずテクニカルな構成に唸る

(第123季 霜月~師走)


 つい先日、とある事件の調査のため久々に地底に潜ることになり、懐かしい顔と再会したりしたが、その事件がきっかけで長年途切れていた地底と地上の交流が少しずつ復活することになった。となると文芸ブームも当然地底に伝わるわけで、地底もさっそく旧地獄堂出版を設立して文芸出版に参戦することに。
 しかし、その第一作が水橋パルスィ『さようなら、恋』★★というのはどうなのか。片思いする主人公の嫉妬にまみれた心情を赤裸々に描く恋愛小説だが、何しろこの主人公があまりにストーカーじみてて個人的にはドン引き。こんなんじゃ振り向いて貰えるわけもないのに、全く自分の行動を顧みようとしないあたりが妙にリアルで困る。鬼気迫る嫉妬描写はなかなか読み応えがあると言えばあるが、ここまでマイナスの情念を赤裸々に書くなら、それを笑いにまで昇華する部分が欲しいところ。挙げ句の果てにラストがこれでは……。地上と地底の相互理解どころか、地底の妖怪に対して余計な偏見を助長しそうな印象すらあるが、果たして大丈夫なのだろうか、これ。
 気を取り直してその他の作品へ。シリーズ第四巻となる門前美鈴『風雲少女・リンメイが行く!4 暗夜の影(前編)』(紅魔文庫)★★★☆は、前巻でビャクヤが加わって仲間集めも一段落し、本筋であるリンメイの師・ホウリンの仇である《左目の無い男》探しにシフト。それらしき人物を見かけたという目撃証言を聞いて、リンメイたちは新たな街へ向かうが――というわけで、正体不明の敵の罠にかかり大ピンチというところで次巻に続く。続きが早く読みたいが、また半年後?
 白岩怜一年ぶりの新刊は、なんとびっくり上下巻。『銀色夜話』上下(博麗神社)★★★★は、人間と妖怪の三つの恋物語が平行して語られ、最後にひとつに収束するというなかなか凝った構成の力作だ。それぞれのエピソードは相変わらずの痒さでちょっと辛いが、それぞれ微妙にすれ違う三つの物語が果たしてどういう収束を見せるのかという興味で上下巻を引っ張らせるリーダビリティは大ベストセラー作家の面目躍如。もつれ合う三つの悲劇が最後に辿り着く着地点も綺麗に決まっており、白岩怜らしからぬ――と言ってはちょっと失礼だが、なかなかテクニカルな一作に仕上がっている。これでそれぞれのエピソードがいつも通りの痒さでなければ個人的にも文句無しの傑作だったが、まあそれはないものねだりか。しかし、普段の白岩作品を好んでる人がこういうのを喜ぶのかどうかはちょっと気になる。
 久々の新刊といえば、刊行されたのを見てびっくりしたのが魂魄妖夢の三年ぶりの新刊、『辻斬り双剣伝 墨染の章』(白玉書店)★★★。『白狼の咆吼』人気に乗っかっての復活なのかどうかは知らないが、剣豪・魂魄妖忌の武勇伝シリーズ第二弾で、今回は西行寺幽々子の生前とおぼしき少女も登場する。ただ、幽々子と親しい八雲紫に聞いた話だと、この小説は九割以上フィクションなんだとか。ともかく、一巻のときはいかにも拙かった台詞回しやぎこちない文章はぐっと改善され読みやすくなった。主への忠義と、個人的な感情の狭間で、己の意志を貫こうとする妖忌の姿もわりとよく書けており、まだ欠点もいろいろ目に付くが、作者の成長がそれなりに感じられる。ちなみに品切れしていた一巻も文章に手直しを入れた上で近日文庫化予定だそうな。話はまだ続くようなので、今後も見守っていきたいところ。




第122季睦月~第123季師走 総括


 新人デビューも一段落したか、風見幽香、比那名居天子、水橋パルスィと三人のデビューに留まった今年は、しかし既存作家が精力的に作品を発表し続けて、刊行点数は順調に増加した。いっぽう、全体としては飛び抜けた作品が少なく、いささか地味な印象も残る一年であった。
 今年の個人的なベスト5は以下の通り。

 ①永月夜姫『あの月の向こうがわ』
 ②因幡てゐ『幸運エスケープ』
 ③パチュリー・ノーレッジ『赤く細い川を渡れ』
 ④ミスティア・ローレライ『くらやみのうたはきこえない』
 ⑤稗田阿求編『ホロスコープの夜 幻想演義短編傑作選〈演義編〉』

 去年に比べるのはさすがに酷だが、こうして並べてみると割合満足のいく面子のような気もする。特に④が掘り出し物で、予期せずこういう良作に巡り会えると片っ端から読んでて良かったなあと思う。次点には白岩怜『銀色夜話』、番外にはミス・レッドラムの怪作『安楽椅子探偵ヴァンピール』を挙げたい。

 第六回稗田文芸賞は、本命と目された永月夜姫『あの月の向こうがわ』がまさかの候補漏れし、受賞作無しという結果に。これのおかげで、稗田文芸賞は本当にその年のベストを選ぶ章なのか? という議論が生じることに。なお、『あの月の向こうがわ』はその後、文々。新聞の読者投票コーナー「この小説がすごい!第一二三季版」で第一位を獲得した。




<第123季睦月~第124季師走>


キース桶井の痛快なデビュー作
『ジャンピング・スパイダー』がなかなかいいぞ!

(第123季 睦月)


 今回から、なんとこのコーナーも月一になることが決定。新刊の発刊ペースが月一掲載でも間に合うぐらいに増えてきたということだが、紹介する本が無いという事態にならないといいのだけど。
 さて、まずは手前味噌ながら、拙著の紹介をするのをお許しいただきたい。師走の話ですが、《幻想演義》で連載している酒エッセイ、『孤独の呑んべえ』(博麗神社)の単行本が出ました。売り上げが好調なら今連載している分も第二巻としてまとめられる方針のようなので、酒好きの方は是非手にとってください。以上、宣伝終了。
 以下、いつも通りの新刊紹介に移る。まずは毎年恒例睦月の新刊、マーガレット・アイリス『人形の森』(博麗神社)★★★。今回は心を得てしまった人形が、自らの創造主の人形師に恋をしてしまう恋愛小説で、『マリオネットは悲しまない』と対を為すような作品。しかし心理描写を掘り下げずにさらっと流すので、もうひとつ作品全体が悲恋ものとしては切実さに欠ける気が。短いのでさくっと読めるが、もう少し分量を増やしても良かったと思う。
 小松町子のシリーズ第三巻『銭投げ捕物帖〈三〉彼岸に咲く』(是非曲直庁出版部)★★★は、現場に彼岸花を残していく盗人を追いかける話。相変わらずいい話だが、展開が紋切り型のパターンに入っている感はなきにしもあらず。変化が無いので安心して読めるのを、美点ととるか刺激が足りないととるかは人によりそうだ。
 シリーズものでもう一冊、続きはまた半年後かと思ったらあっさり出たのが門前美鈴『風雲少女・リンメイが行く!5 暗夜の影(後編)』(紅魔文庫)★★★☆。前巻で大ピンチに陥ったリンメイたち一行の前に、謎の覆面格闘家が助けに現れる。その戦闘スタイルは、あまりに師・ホウリンに似ていて――というわけで一気に急展開。そりゃホウリンがあの程度で死ぬわけはないよな、と『龍拳伝』読者には初めから解っていた展開ではあるが、なかなか盛り上がる。続刊も楽しみだが、今は別の長編を書いているそうで、六巻は少し間が空くとのこと。
 最後に地底からの新人デビュー作第二弾。キース桶井『ジャンピング・スパイダー』(旧地獄堂出版)★★★☆は、《スパイダー》と名乗る正体不明の覆面ヒーロー(?)が悪党をなぎ倒す痛快アクション。蜘蛛の糸を駆使してのダイナミックなアクション描写は読み応えがあり、話も明快な勧善懲悪で読み心地がいい。大橋もみじ『白狼の咆吼』が好きな人は買いで間違いない一冊だ。変なペンネームの作者は、作中のヒーローと同様に素性不明の覆面作家。何かの企画の仕込みだったりするのだろうか?




永月夜姫と富士原モコの対決第三弾は
『フォール・イン・ザ・ムーン』で永月夜姫の二連勝!

(第123季 如月)


 恒例の永月夜姫・富士原モコ同時刊行対決が来た。前回は大傑作『あの月の向こうがわ』で永月夜姫の圧勝だったが、今回はなかなかいい勝負。しかし個人的には今回も永月夜姫『フォール・イン・ザ・ムーン』(竹林書房)★★★★に軍配をあげたい。なんだかベタな恋愛小説っぽいタイトルだが、中身はセンス・オブ・ワンダーに溢れたテクノロジーSFである。
 満月の夜、夜空から降ってきた謎の球体。その中には、見たこともない数々の道具が入っていた。基本はその道具たちが巻き起こす騒動を描くドタバタコメディだが、ひとつひとつのギミックが魅力的で、最後は合体変形巨大ロボが出てきて隕石の衝突を防ぎに行くという馬鹿馬鹿しいまでの壮大さに大笑い。河城にとりの工学SFと違ってテクノロジーの技術的描写は少なく、理屈が置いて行かれるきらいはあるが、未知のテクノロジーがもたらず幸福な未来のイメージを現出するという意味では立派なSFと言っていいだろう。
 いっぽう、富士原モコの第三作『炎喰らい』(稗田出版)★★★☆は、先月のキース桶井『ジャンピング・スパイダー』と並べて紹介すべきだった気もする伝奇アクション。炎使いの妖術師が、次から次へと襲い来る敵をなぎ倒しながら、自らに呪いを掛けた巨悪へと挑む。こっちは明快な勧善懲悪ではなく、全体的にダークな雰囲気が漂う。そういう意味ではミス・レッドラム系とも言えるが、あれほど悪趣味ではなく、全体としては先の読めないジェットコースターノベルになっており、ツッコミどころはあるが読んでる間は非常に楽しい。細かいことは気にせず、がーっと一気に読み切りたい一冊。
 そのミス・レッドラムの新刊『ルージュのヴァンパイア・キッス』(スカーレット・パブリッシング)★★☆は、基本はいつもの血みどろアクションだが、今回は十六夜咲夜の耽美系作品のような少々エロティックな方向に舵を切っている。しかし血みどろ描写はあんなに面白がってやってる感じのミス・レッドラムも、エロス描写には照れがあるのか、なんだかままごとめいているのが微笑ましい。あのミス・レッドラムが真っ赤な顔してエロティックなシーンを書いていると想像すると、これはある意味作者萌え小説?




八坂神奈子待望の第二作
『神の器』の超絶スケールに驚愕

(第123季 弥生)


 あの『天照戦記』から一年あまり。《幻想演義》に連載されていた、八坂神奈子の待望の第二作『神の器』上下(守矢新社)★★★★は、驚異的なスケールで展開される神話スペクタクル。上下巻合わせて八百ページのボリュームをぐいぐい読ませる大作だ。
 天孫降臨からスタートして、史実を下敷きに置くのは上白沢慧音風だが、同時に日本神話を大胆に翻案し、誰も見たことのない新たな神話を形成する。そのため前半は予備知識がないと少々辛いところもあるが、それも途中まで。中盤からは史実と神話から完全に逸脱し、日本神話オールスターが共演する大スケールの戦乱スペクタクルに突入する。神と神の壮絶な合戦シーンは戦神・八坂神奈子の真骨頂。プロットのバランスを無視して好き放題しっちゃかめっちゃか進むのでついていけない人も出てきそうだが、過剰なまでのネタをぶちこんで豪快な失敗作になるすれすれのところを綱渡りして最後は綺麗に着地する。予測のつかない破天荒な展開と、ボリュームに恥じない超スケールに感服仕り候。
 予測のつかない展開といえば、因幡てゐ『トラップ・ハウス』(竹林書房)★★★★もたいへん面白い。主が外出中の館に現れた侵入者を撃退するため、留守番をしていた召使いの少女が片っ端から屋敷にトラップを仕掛けまくるコミカルなサスペンス。ありふれたアイテムがとんでもない罠に変身するトラップのギミックも読ませるが、終盤に至って作者から読者に仕掛けられたトラップが明らかになる展開は因幡てゐの本領発揮。心地よく騙される感覚が楽しめる。映像で見たいが映像化不可能なのが残念。
 十六夜咲夜『月影牢』(スカーレット・パブリッシング)★★★☆は、月の光しか射し込まない部屋に閉じ込められた少女の話……と言っても何も伝わらないのだが、こればっかりは詳しく説明するとネタバレするしかないので口を噤むしかない。ひとつ言うなら、久々の咲夜のあの系統の作品なので、タイトルと装丁から耽美アクション系ではないかと敬遠している人も安心して手にとって欲しい。咲夜のテクニックを堪能できる一冊。
 小説以外からも一冊。稗田阿求『紅茶過伝』(稗田出版)は、阿求の紅茶エッセイ集だが、半分ぐらいは阿求の読書日記的な内容になっている。第四回稗田文芸賞で『雪桜の街』をゴリ押しした阿求なので、この本でもめちゃくちゃ白岩怜推し。他にも小説に限らず色んな本が紹介されているので、本好きはチェックしておいて損は無いだろう。




風見幽香『輪廻の花』は
幻想郷における《時を超えた愛》小説の模範解答だ!

(第124季 卯月)


 命蓮寺が人里近くにできてしばらく経つ。さっそく聖白蓮が教えを記した本(『博愛の法』)を出しているが、宗教書なのでこの欄では触れない。博麗神社にはますます人が来なくなっている。出版での稼ぎも去年の神社倒壊で吹っ飛んだようだし、大丈夫だろうか。
 という前振りから紹介するのは、神社倒壊事件の犯人であるところの比那名居天子の第二作『誰も私にかなわない』(天界舎)★★☆。前作同様、無敵の主人公がばっさばさと敵をなぎ倒すアクション――と見せかけて、今回は《強すぎるが故の孤独》に焦点を当てた話になっている。しかし、この主題は人間は共感しづらいだろうし、歳経て似たようなものを感じたことのある妖怪的には「まだ若いねえ」と苦笑いが漏れるところ。小説技術的には誰かから指導が入ったのかぐっと改善されているので、次にどんなものを書くかは少し期待したい。
 さて、今月の目玉は風見幽香の第二作『輪廻の花』(稗田出版)★★★★☆。生まれ変わる人間と、長く生き続ける妖怪の時を超えた愛を、咲き続ける花の姿に託して語る恋愛小説だ。非常に端正な文章もさることながら、花咲く丘で語り手を待ち続けるヒロインの造形がすばらしい。生まれ変わる語り手が立場を変えるごとに、その人物描写はくるくると様相を変える。幼い少女から見れば優しいお姉さんであり、生きる意味を見失った青年から見れば花を愛する可憐な少女であり、やんちゃな少年から見れば彼をいたぶって遊ぶ暴君であり、病に倒れた老婆から見れば知らぬうちに花を届けてくれる不思議な存在であり、そして勇敢な少女から見れば強大な妖怪な顔の裏にどこまでな一途な想いを秘めた乙女である。しかし、通して読むとヒロインの軸は一切ぶれていないところがすごい。第四話(老婆の話)で、語り手の人生の最後に向日葵畑で酒を酌み交わすシーンは鬼の私が不覚にもボロ泣きしてしまった。話自体はベタだが、ここまでの完成度で出されたら参りましたと両手を挙げて降参するしかない。幻想郷における《時を超えた愛》というテーマの模範解答にしてスタンダードたりえる傑作。
 大ヒットシリーズ第三巻、大橋もみじ『白狼の咆吼 巻ノ三』(鴉天狗出版部)★★★★もいよいよ盛り上がってきた。領主の圧政に苦しむ街にやってきた紅葉とみどりの前に、紅葉の過去を知る女・疾風が現れる。疾風がみどりに語ったのは、かつて紅葉には彩華という愛した少女がいた。その少女は、あの鎬永羅の妹だったというのだ。そんな中、トラブルに巻き込まれた疾風をその剣で救った紅葉は、領主への反乱を目論む集団にスカウトされる――というわけで、紅葉と永羅の因縁が明らかになり始め、反乱軍の登場で話も大きなうねりの始まりを予感させる。連載は四巻分が佳境に入っているが、固唾を呑んで続きを待ちたい。




永江衣玖『おおかみ少年とひつじの少女』は
ジュヴナイルの皮を被った良質のミステリーである!

(第124季 皐月)


 まずは新人デビュー作から。永江衣玖『おおかみ少年とひつじの少女』(天界舎)★★★★は、外の世界の寓話を翻案したジュヴナイル小説。オオカミが来たぞ、という嘘をついては村人を騒がせている嘘つき少年は、誰にも信じてもらえなくなっても嘘をつき続ける。その理由とは――というわけで、前半は少年の行動を訝しむ少女の視点から物語が綴られ、後半は思いがけないミステリ的なサプライズが待っている。なるほど確かにタイトル通りの話なのだが、こんな展開になるとは思いもしなかった。この作品自体が少年少女向けという羊の皮を被ったミステリーという名のオオカミ小説と言えるかもしれない。子供向けだと思ってスルーしている人も、特に因幡てゐ作品が好きな人は要チェックだ。
 ミステリーといえば、小松町子のシリーズ第四巻『銭投げ捕物帖〈四〉埋火の跡』(是非曲直庁出版部)★★★☆は、既刊の中では一番の出来。屋台を狙ったと思われる連続不審火の話だが、後半での二重三重のどんでん返しにびっくり。最初の展開は読めていたが、そこからさらに捻ってくるとは……。人情話パートも今回は弱い人は涙ちょちょ切れの展開だろう。主人公とその相棒のキャラも掘り下げられてきて、今後は大きな展開があるかも?
 河城にとりの第三作『水道をつくろう!』(鴉天狗出版部)★★☆は、タイトル通り水道の敷設をテーマにしたお仕事小説。相変わらず技術描写は読ませるが、人里との水道工事に関する折衝の場面など、社会的な部分はリアリティが薄くいささか御都合主義気味。後半のトラブル続きの展開も解決の仕方に無理がある感じだが、終盤に至って水道の敷設が思いがけない方向に発展してSFになるのにはびっくり。底抜けに明るく人間と河童の理想郷を夢見る話なので、そういう話が好きな人向けか。
 今月もうひとりの新人、笠原たたら『風がふいたら傘屋がもうかる』(守矢新社)★★は、見捨てられたお化けたちが子供を驚かそうとする話。と書くとほのぼの系の小説っぽいが、中身は必死にホラーっぽく見せようとしてことごとく滑ってるという代物。ホラー風の装丁にこのすっとぼけたタイトルで、中身はまるっきり出来損ないのお化け屋敷という、何とコメントしていいかわからない珍品だ。全然怖くないので、お子様が読んでも安心か(?)。
 あと、稗田文庫から出たミスティア・ローレライ『夜に鳥籠の鍵を』の巻末に解説を書きました。文庫版は単行本のおかしなところにかなり修正が入った結果、わりと普通のホラー・サスペンスになってますが、これはこれで面白いのでどうぞよろしく。




超弩級の大問題作がついに登場
米井恋『インビジブル・ハート』に唖然

(第124季 水無月)


 インパクトでだけでいえば、マーガレット・アイリス『マスカレード・スコープ』なんて屁でもない。ある意味パチュリー・ノーレッジ『魔法図書館は動かない』を読んだときと同等のビッグバン・インパクトである。爆笑しながら読み終え、ふと冷静になってからいったいこれは何なのかと腕を組んで考え込んだのが、米井恋の『インビジブル・ハート』(旧地獄堂出版)★★(★★)だ。
 孤独な少女がある日突然死んでしまい、しかし意識だけが残って自分の屍肉をついばみにきた鴉に宿る――というホラー風の幕開けから、なぜか鴉と猫のラブストーリーに突入しつつ、死んだ少女の姉の話が平行して語られ、姉妹ものになるのかと思えば中盤で初めて登場するキャラがさも当たり前のように乱入してきてしっちゃかめっちゃかの大騒動に。その間にも少女の魂は鴉から蜘蛛、桶、橋、挙げ句に徳利にまで乗り移り、どう収拾をつけるかと思ったらあんまりなオチに腹を抱えて笑ってしまった。整合性なんか知ったこっちゃないという初期のミスティア・ローレライ的なノリに加え、文章はめちゃくちゃだし、構成も小説的な常識から大いに逸脱しているが、不思議とどんどん読めてしまい、完全に破綻していること自体がひとつの壮大なギャグとして完結しているような気さえしてくる。そのくせ、場面場面を取り出すとまるで感動大作のような輝きを放つからわけがわからない。パチュリーの『永遠より長い夢』を十倍ぐちゃぐちゃにしたような話で、こういう小説を平然と送り込んでくる地底の度胸に感服。激怒する人も多そう(というか普通の読者はまず怒って壁に投げそう)だが、変な小説が好きな人は絶対に読み逃してはいけない一冊。特にミス・レッドラムの『安楽椅子探偵ヴァンピール』が好きだったという奇特な人は必読。
 とか言っていたら、なんとその続編、ミス・レッドラム『安楽椅子探偵ヴァンピールⅡ』(スカーレット・パブリッシング)★★☆が出た。しかし、トンデモ系連作ミステリとしてのパワーは残念ながら大幅にダウン。やっぱり壮大な一発ネタだったか、とガッカリしかけたところで、最後に置かれた「こんなに月も紅いから」で唐突にいつものミス・レッドラム世界に至る展開に唖然。なんかもう自棄になったとしか思えないラストだが、この作品にはこのぐらいひっどいオチがよく似合う。
 しまった残り行数が少ない。ミスティア・ローレライ『忘れ物あります 歌声屋台繁盛記』(白玉書店)★★★は、一二二季に出た『歌声屋台繁盛記』の二年ぶりの続編。《幻想演義》掲載の短編を中心にした短編集で、トンデモ二冊の間でほっこりできる一冊。




海のない幻想郷で海洋冒険小説という英断に拍手
船水三波『幽霊客船はどこへ行く』がいいぞ!

(第124季 文月)


 いよいよ命蓮寺も小説の出版に参入してきた。その第一弾となる船水三波のデビュー作『幽霊客船はどこへ行く』★★★★は、なんとびっくり海洋冒険小説。海のない幻想郷で果たして受け入れられるのか心配だが、中身はワンシッティング、波瀾万丈の娯楽小説だ。
 主役は、沈没船から財宝を引き上げるのが生業のトレジャーハンターチーム。海底を彷徨う幽霊客船に積み込まれた財宝の噂を聞きつけ、難色を示す潜水艦の持ち主を口説き落として幽霊客船の行方を追うが、一行には次々とピンチが訪れる。畳みかけるようなストーリーテリングもさることながら、白眉は気むずかしい老潜水艦長と主人公チームの絆の描写で、クライマックスで宝そっちのけで沈みゆく幽霊客船から潜水艦長を助け出そうとする場面はありがちな展開ながら胸が熱くなる。展開に御都合主義な部分は目につくし、爆発音を「ドゴォン!」と倍角フォントで書いちゃう文章にはちょっと難があるが、ストレートに面白い小説が最近少ないとお嘆きの人には非常にオススメの一冊。
 もうひとり、個性的な新人がデビューした。卯堂院レイス『幻視弾眼(イリュージョンバレット)』(白玉書店)★★☆は、目を合わせた相手に幻影を見せる《狂眼》の持ち主である主人公が、魔法の銃を片手に闇の世界で活躍するスタイリッシュ・アクション。すごいのはその文体で、ちょっと引用すると
〈引き金(トリガー)を引く。銃口(マズル)から走る閃光(フラッシュ)。放たれた赤の魔力弾(マジックバレット)は、闇夜に一条の軌跡を描いて、窓ガラスを砕き、次の瞬間に中空で炸裂(ブート)した。砕けたガラスの向こう側で、紅蓮の炎が巻き起こる。火焔(フレイム)の魔法(スペル)が刻まれ(エンチャント)た薬莢(カートリッジ)が、足元にカランと音を立てた瞬間、彼女はもうそこに背を向けていた。闇に溶けるような漆黒の法衣(ブラッククロス)がひるがえる様を、見る者はどこにもいなかった。〉
とまあこんな調子。やたらとルビや特殊な読み方の造語が多く、慣れるまで読むのに非常に苦労するが、こういうのを格好いいと思う層は一定数いそう。
 既存作家では、門前美鈴が《風雲少女》シリーズを一旦脇に置いて単発読み切りの新刊『パンダと巨象』(スカーレット・パブリッシング)★★★☆を出した。親を失った孤独な姉妹が、パンダの子供と出会って友情を育むというジュヴナイル小説。門前作品としては珍しいほのぼの系で、モフモフのパンダ描写がたいへん愛らしい。全体的にはさらっとした話だが、捨てがたい佳作。タイトルにある《巨象》がどういう形で出てくるかは読んでのお楽しみ。




お前の見ているものは本当に素晴らしいか?
宇津保凛『地の底のイカロス』に要注目

(第124季 葉月)


 筆者は数年前まで地底に暮らしていたが、地上で忌み嫌われ隔離されたと言われている地底の妖怪は、基本的に大して地上を恨んだり羨んだりはしていない。大半は地底で好き勝手に生きている。もちろんそれが全てというわけではなく、自分たちが追い出されたということを根に持っている輩や、暗い地底の閉塞感に鬱屈を溜め込んでいる輩も一定数存在するのは確かだ。
 宇津保凛のデビュー作『地の底のイカロス』(旧地獄堂出版)★★★★は、そんな地底社会に疑問を抱いたこともなかった太陽を知らないひとりの少女が、ひょんなことから生まれて初めて見た遠い太陽を羨み、閉ざされた地底から脱出しようとするジュヴナイル冒険小説だ。
 リアルな地底社会の矛盾と欺瞞を活写しながら、数多くの困難を乗り越えて地上を目指す様は、地底に暮らしていた者としてはあまり冷静には読めないが、あまりに青臭い部分が多少鼻につくのを除けばたいへんよく書けている。クライマックス、地底の支配者である鬼と対決する場面は同族としては評価に困るけれども、非常に盛り上がることは確か。地上でも人間と妖怪の関係に重ね合わせて読めば共感を覚える層は一定数いそうだ。しかし地底社会を完全に否定しきらないあたりは個人的に評価したいが、ジュヴナイルとしてはもう少し解りやすくしてしまっても良かったのでは。
 そういう良くも悪くも青臭い作風とは対照的なのが、十六夜咲夜『タイムスイーパー』(スカーレット・パブリッシング)★★★★。タイトルから推察がつく通り、咲夜お得意の時間SFだが、今回は非常にエレガント。凝ったことをせず、「一度だけ、過去を二時間だけ削除できる」という設定から様々なバリエーションの連作を紡ぎ、綺麗にまとめあげる匠の技を見せる。上手すぎて語りどころがあんまり無いのがある意味弱点かも。
 小松町子『銭投げ捕物帖〈五〉秋雨止まず』(是非曲直庁出版部)★★★は、いつもと少し毛色の違うシリーズ第五巻。色宿に売られた姉妹の悲哀を描く話で、実に泣かせる展開になっている。このテーマならもっと掘り下げてほしいと思うところでさらっと終わってしまうのでちょっと食い足りないが、このシリーズではこのぐらいで留めておくのがベターか。
 最後に小説以外から。博麗霊夢『博麗神社神霊縁起』(博麗神社)は、博麗神社の祭神を紹介する宗教書……と思ったら大間違い。霊夢が過去に呼んだことのある神霊たちについて、あること無いこと書き散らかす『幻想郷縁起』系のトンデモ神霊紹介本である。酒の肴に笑いながら読みたい一冊だ。




パチュリー監修の味わい豊かな短編アンソロジー
『この橋戻るべからず 幻想コレクション①』

(第124季 長月)


 このところジュヴナイル小説が非常に元気である。《風雲少女》の新刊もようやく告知が出て期待が高まるところだが、そんな中にまた新たなシリーズが開幕した。命蓮寺の小説参入第二作となる星丸小虎『ミッシングハンター・ナッツ』★★★だ。
 主人公はクールなダウザーの少女・ナッツ。彼女が探し物の依頼を受け、それをきっかけに様々な事件を解決していくというミステリ形式の連作だが、ミステリと言っても人死にはなく、些細な日常の謎が中心。どんな謎もナッツが快刀乱麻に解決していく様が痛快なシリーズで、読者層は違うだろうが小松町子の『銭投げ捕物帖』の読み口に近い。キャラクターも可愛らしく、読み心地はいいので子供にウケは良さそうだ。ナッツがあまりに万能な最強キャラすぎる気はするが、まあ子供向けだからそのぐらいシンプルでいいのかも。
 一方大人の読者には、パチュリーが先頭に立って開始した稗田出版の書き下ろし短編アンソロジー《幻想コレクション》をオススメしたい。その第一弾となる『この橋戻るべからず 幻想コレクション①』★★★★は、《人と妖》をテーマにした書き下ろし短編八編を萃める。
 パチュリー監修と聞いて、『幻灯グランギニョール』のような奇想小説集かと尻込みする読者もいそうだが、今回はラインナップも(一般的な意味で)非常にバラエティ豊か。上白沢慧音の、人間から妖怪になってしまった少女の悲哀を描く表題作をはじめ、白岩怜のいつも通りの恋愛短編「名残雪の消える前に」、人間と妖怪が拳を通じて友情を育む門前美鈴の「お前より強い奴に会いに行く」など一般向けの作品から、吸血鬼を僕とする人間を描く十六夜咲夜の耽美系小説「杯にひとしずくの紅を」、宇津保凛の非常にイヤなホラー短編「メニューの多すぎる居酒屋」などなど、粒ぞろいの作品集になっている。一冊で色んな味わいが楽しめるお得なアンソロジーだ。テーマを変えて定期刊行していく方針のようなので、今後も期待したい。
 秋めいてきたところで、秋静葉の新刊『紅葉グラデーション』(鴉天狗出版部)★★★は、秋になると木々の葉っぱに一枚一枚色を塗るのが仕事の神様の日々を淡々と描く日常小説。紅葉を楽しむ人や妖怪を見守るあたたかな眼差しは読んでいて心地よい。相変わらずストーリーに起伏が無いのは難だが、忙しい日々の合間にほっとする時間をくれる小説だ。
 最後に宣伝。大橋もみじ『白狼の咆吼』第一巻の文庫版に解説を書きました。来月出る予定の四巻は来月のこのコーナーで紹介しますが、連載分読んだ限りでは年間ベスト級の傑作なのでそちらともどもよろしく。




ついに明かされる、紅葉と永羅の過去――。
大橋もみじ『白狼の咆吼 巻ノ四』はオールタイムベスト級の大傑作だ!

(第124季 神無月)


 いやもう、めちゃくちゃ面白い。何がって、皆さんご存じ大橋もみじの大ヒットシリーズ第四巻『白狼の咆吼 巻ノ四』(鴉天狗出版部)★★★★★である。連載読んでたときから毎回次号が待ちきれない面白さだったが、今回まとめて読んで改めて年間ベストどころか、この巻だけでもオールタイムベストの一角に数えたいぐらいの傑作だと確信を深めた。「こんだけ売れてる作品だからどうせ商売っけからのヨイショだろ?」と斜に構えるスレた本紙読者は今すぐ一巻から四巻まで揃えて一気に読むこと。続きを求めて《幻想演義》のバックナンバーを買い求めに走ることになるのは必定である。
 今回は時間を十年前に巻き戻し、剣紅葉と鎬永羅の因縁の出発点となった事件がついに語られる。同門で切磋琢磨を続けていた紅葉と永羅、そして紅葉と恋をした永羅の妹、彩華。なぜ彩華は死に、なぜ紅葉と永羅は袂を分かたねばならなかったのか。そしてなぜ紅葉は流浪の剣士となり、永羅は領主の忠犬となったのか――その全てが明らかになる。結末がわかっている話なのに、ページをめくる手が止められない。一巻から三巻までの間に張り巡らされた伏線が見事に回収され、読み終えた瞬間一巻に戻って三巻まで読み直して陶然とした気分に浸る。あの台詞が、あの場面が、この過去があったからこそ生み出されたものだったとは! 時系列的には一番最初の話なのでここから読めなくもないが、やはり是非一巻から通して読んでほしい。そしてラストではとんでもない引きで五巻へ続く。ああ、五巻が待ちきれない! 直球勝負の娯楽小説のすばらしさを教えてくれる大傑作だ。
 そんなわけで今月はひたすら『白狼の咆吼』に浸っていて、他に新刊も無いし今月の紹介はこれ一冊でいいかと思っていたのだが、虹川月音の新刊が出たのでそういうわけにもいかなくなった。『騒がしい死者たち』(白玉書店)★★★★は、《幻想演義》掲載の短編を萃めた全四編の(連作形式でない)短編集。パチュリー編のアンソロジー『幻灯グランギニョール』にも収録された表題作は、死者の姿が見える少女と、その周囲に現れる死者たちの話。あっと驚く展開がさらりと語られる切れ味鋭い好編だ。ほか三編も非常に水準が高く、レコード風に言えば捨て曲無し、虹川短編のベストアルバム的な一冊になっている。虹川月音を初めて読むという人も是非。
 最後に思い切り時期を外しているうえ小説じゃないのだが、三ヶ月前に出た八坂神奈子の新書『エネルギー革命』(守矢新社)を今更読んで「しまったこれはSFじゃないか!」とここで取り上げそびれたのを反省しきり。テクノロジーが幻想郷をどう変えていくか、を徹底的に理詰めで構築するSFマインドに溢れた一冊なので、河城にとりの小説が好きな人は是非。




永月夜姫と富士原モコの第四戦は
『屍は二度よみがえる』の富士原モコの快勝!

(第124季 霜月)


 今月はなかなか新刊が来ないと思ったら締切間際に四冊も立て続けに出て大慌て。おかげでゲラで貰っていた小松町子の新刊まで手が回らなかった。そっちは来月紹介します。
 さて、今月は恒例の、永月夜姫対富士原モコの同時刊行対決。第四戦となる今回は、富士原モコの『屍は二度よみがえる』(竹林書房)★★★★☆の大勝利。幻想郷のミステリ小説史上に残るであろう、ケレン味溢れる傑作である。
 両親を殺された少女が、犯人に仇討ちを挑むが、あえなく返り討ちに遭って殺される。ところが少女はベッドの上で無傷で目を覚まし、犯人は何者かに殺されていた。殺されたはずの自分はなぜ生き返ったのか? そして犯人を誰が殺したのか? ――というわけで、『灰色の刃』の設定を練り直して特殊状況本格ミステリに仕立て上げた感じの一作。魅惑的な謎と二転三転する予想のつかない展開の果てに、特殊状況を前提とした特異なロジックで全ての謎が鮮やかに解き明かされる。繰り返す生と死という妹紅が書き続けているモチーフと、先を読ませないストーリーテリング、不死者ならではの独特の世界観とロジックが完璧に融合した見事な一冊。年末の稗田文芸賞の候補に挙がれば風見幽香『輪廻の花』とともに有力候補になりそうだが、はたしてノミネートされるのだろうか?
 というわけで初黒星の永月夜姫だが、その新刊『満月はもう来ない』(竹林書房)★★★☆も今回は相手が悪かっただけで、サスペンス・ホラーの秀作である。不死の殺戮者に追われる少女ふたりの逃避行を描くジェットコースターノベルだが、主役のふたりの緊張感ある関係や、追っ手である殺戮者の正体に関するサプライズなど、エンターテインメントのツボを押さえた完成度の高い一冊。この内容ならもう少しハチャメチャやってほしかったが、作品としてのまとまりを重視するならミス・レッドラムになる手前でセーブするのが賢い選択かも。
 そのミス・レッドラムの新刊『不夜城ブラッド』(スカーレット・パブリッシング)★★☆は、《ナイトメア》シリーズの設定を引き継いだゴシック・アクション・ホラー。魔都・倫敦の《不夜城》を舞台に、吸血鬼と殺人鬼の壮絶な戦いが描かれる。徹頭徹尾いつものミス・レッドラム作品なので、個人的にはわりとどうでもいいが、吸血鬼と殺人鬼のトンデモバトルシーンはそこそこ楽しい。
 門前美鈴『風雲少女・リンメイが行く!6 昇竜の滝(前編)』(紅魔文庫)★★★はシリーズ待望の新刊。死んだはずの師匠・ホウリンが生きているという情報を得て、その居場所を目指すリンメイたちの元に最悪の敵が――というわけで今回は新展開への繋ぎの巻。次巻でホウリンの登場はあるのか、『龍拳伝』読者としては楽しみに待ちたい。




魂魄妖夢『辻斬り双剣伝』シリーズは
第二の『白狼の咆吼』になれるのか?

(第124季 師走)


 まずは先月の読み残しから。小松町子の新刊『そして、死神は笑う。』(是非曲直庁出版部)★★★☆は、死にゆく者たちの抱える未練についつい手を貸してしまう、心優しい死神が主人公のハートフルな短編連作だ。小松町子が書き続けている、名も無き人々のささやかな幸せを切り取った人情小説としてはほぼパーフェクトな出来。一見重いテーマを扱っているように見せて、ライトな読み口でしみじみとした感慨を呼び起こす。死神がちゃんと仕事しないところも含めて、なんとも心温まる連作だ。死神を見守る上司の閻魔のキャラも魅力的でいい。
 それと似たようなパターンの連作だが、読み口が全然違うのが、厄井和音のデビュー作となる『不幸のシステム』(鴉天狗出版部)★★★。こちらは厄祓いの神様が、人間たちの不幸の元を解き明かしていくという形式の連作。不幸を解きほぐす過程にミステリ的な愉しみがある反面、小松町子に比べると人間の描き方がいささか一面的で弱いのが気になる。こっちは生死に関わるような不幸はあまり無いにもかかわらず、読み口は『そして、死神は笑う。』より重いというのも好対照。どちらが好きかは人によりそうだが、個人的には小松町子に一票。
 個人的に今月注目したいのは、魂魄妖夢『辻斬り双剣伝 半霊の章』(白玉書店)★★★☆。剣豪・魂魄妖忌の生涯を描くシリーズ第三巻だが、二巻までではほぼ無敵に近かった妖忌の初めての敗北と挫折が描かれ、主への忠義の揺れる心情と合わせて、その人物像にぐっと深みが増した感がある。チャンバラ描写も、緩急の付け方がこなれてきて、今回は全編にわたってなかなかの迫力。話は前後編のようなので四巻に期待というところだが、一巻の文庫版もわりと売れているようなので、『白狼の咆吼』とはまた方向性の異なる剣豪小説のヒットシリーズになるかもしれない。期待して見守りたい。
 小説以外からも一冊。河城にとり『ステルス・マジック 光学迷彩に挑んだ技術者たち』(鴉天狗出版部)は、光学迷彩スーツの開発に至るまでの技術者たちの奮闘を描くドキュメンタリーだが、何しろ光学迷彩じたいがこっちにとってはあまり馴染みのない技術なので、ノンフィクションというより『キカイノコトバ』のような技術開発SFのように読める。技術解説とともに、光学迷彩に挑んだ技術者たちのドラマも掘り下げられるため、人間ドラマ(河童だが)的な赴きもあり、にとりの小説の弱点である社会性の弱さもノンフィクションでは問題ないので、『キカイノコトバ』が好きだった人は是非。




第123季睦月~第124季師走 総括


 文芸時評コーナーも隔月から月一になり、キース桶井、永江衣玖、笠原たたら、米井恋、船水三波、卯堂院レイス、宇津保凛、星丸小虎、厄井和音と新人も続々デビュー。西行寺幽々子やパチュリー・ノーレッジ、白岩怜、上白沢慧音といったベテランの新刊が無かったにもかかわらず、過去最多の三十八冊を採点した今年は、文芸ブームの円熟を示すような充実のラインナップになった。
 ベスト5も候補が多くて選ぶのが大変だが、こんな感じで。

 ①大橋もみじ『白狼の咆吼 巻ノ四』
 ②富士原モコ『屍は二度よみがえる』
 ③風見幽香『輪廻の花』
 ④宇津保凛『地の底のイカロス』
 ⑤船水三波『幽霊客船はどこへ行く』

 上位三冊は固定。④⑤はかなり迷ったが個人的な好みも勘案してこの二冊に。永月夜姫『フォール・イン・ザ・ムーン』、八坂神奈子『神の器』、永江衣玖『おおかみ少年とひつじの少女』、因幡てゐ『トラップ・ハウス』、十六夜咲夜『タイムスイーパー』、パチュリー監修『この橋戻るべからず』、虹川月音『騒がしい死者たち』あたりからもう一種類ベストが選べるという大豊作ぶりに満足。番外としては、米井恋『インビジブル・ハート』を挙げたい。

 年末の第七回稗田文芸賞では、『屍は二度よみがえる』は永月夜姫作品ともども候補から漏れ、『輪廻の花』が受賞した。「この小説がすごい!第一二四季版」は『白狼の咆吼 巻ノ四』が一位、『輪廻の花』が二位、『地の底のイカロス』が三位という結果になった。
      あとがき

 今回本にするにあたって何冊紹介したか改めて数え直してみたら、5年分で120冊あった。文庫化を含めれば、第118季のパチュリーのデビューから第124季までで刊行された小説の総数はおよそ200冊弱というところだろう。パチュリーの図書館にある本の冊数に比べれば微々たるものかもしれないが、小説自体がほとんど存在しなかったところに、たかだか6年かそこらでこれだけ作家が増え、小説が増えたということ自体驚異的なことかもしれない。
 スペルカードルールの制定で弾幕ごっこという決闘形式が定められて以降、妖怪同士や人間と妖怪が力比べを解りやすい形でしやすくなった。反面、弾幕ごっこはやはり本人のそもそもの実力が大きく反映されるぶん、もともと弱い妖怪が弾幕ごっこで強大な妖怪を倒すことは困難である。しかし、小説は妖怪としての実力は一切問われない。たとえば白岩怜はごく平凡な冬妖怪であるし、大橋もみじは天狗の中でも下っ端の部類である。そんな妖怪でも、小説であれば自分自身を表現しつつ、売り上げで名だたる大妖怪を凌駕し、幻想郷の二大ベストセラー作家として君臨することができるのだ。
 そういう意味で、文芸ブームは弾幕ごっこ以上に公平で安全な決闘方式であるとも言える。永月夜姫と富士原モコが毎回同時に本を出して評価と売り上げを競い合ったりしているが、そんな風にして小説の評価と売り上げで勝負するというのが、あるいはこれからの平和な幻想郷でのスタンダードな決闘方法となっていくのかもしれない。
 もちろん、小説の評価は読む人それぞれである。書く側はともかく、読む側としてはあれはどうだ、これはああだとわいわい酒の肴にしながら、楽しく読めればそれでいいのだ。
 本書がそんな読者にとっての、新たな一冊との出会いのきっかけになればいいと願う。

 では、また何年後かに、『二十億光年の誤読2』で会いましょう。


                                          第125季 卯月 伊吹萃香拝




大森望『21世紀SF1000』をトイレで踏ん張りながら読んでたところ、ふと「ああ、こんな感じの萃香の書評集書きたいなあ」と思ったので書き始め、暇な時間にちまちま書きためていったら100KBになってしまったので投稿することにしました。
同人誌版『稗田文芸賞メッタ斬り!』と読み比べていただけると楽しいかと思います。え、一部出版社の表記が矛盾してる?はははなんのことかな(ry
浅木原忍
[email protected]
http://r-f21.jugem.jp/
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コメント



0.1460簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
一言。あなたは天才だ、いや鬼才だ。
3.無評価名前が無い程度の能力削除
ネタの羅列のようなものではなく
できれば次はちゃんとしたストーリーのあるものを期待します。
長編かと思ってかなりがっかりさせられました。
4.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
既存の作品群が東方の歴史の中でどういう位置にあり、どういう状況の下で書かれたのかわくわくしながら読んでました。

実読してみたいのはやはり「星屑ミルキーウェイ」ですね。アマミ様の搾乳が見たいかも!
5.80奇声を発する程度の能力削除
発想が面白いです
6.100名前が無い程度の能力削除
100KBも…お疲れ様です。
7.無評価名前が無い程度の能力削除
ファンにはたまらないんだろうね、これ。
9.10名前が無い程度の能力削除
もうこの人は受けたネタの焼き直ししか出来ないんだなぁ。
10.無評価名前が無い程度の能力削除
毎回とりあえず目を通すものの何が面白いのかさっぱりわからず
過去ご自身で書かれた作品の批評されてるんです?
13.100文学部の学生削除
さて、国立国会図書館長殿に申し立ててくるか。何故これらの書籍が所蔵されていないのかと!
物書き・読書家の原点である「この物語面白い!」という感情を呼び覚まされます。
14.30名前が無い程度の能力削除
同じネタひっぱりすぎ感は否めませんが
好きな人は好きだと思うのでずっと続けて欲しいです
18.10名前が無い程度の能力削除
こういうの、マジでもういいから
20.40名前が無い程度の能力削除
……うん
なんかもうお腹いっぱい
ここまで同じ事を繰り返されると流石に飽きる
22.90名前が無い程度の能力削除
個人的にはこういう妄想をかき立ててくれるものは大好物です。架空の物語の書評なんてSSならではですし。何より作者さんが楽しそうなのが好印象。
23.100名前が無い程度の能力削除
何このフラストレーションw
読んでみたいのに読めないwwww
個人的には好きだなぁこういうの
26.90名前が無い程度の能力削除
作家(になった東方キャラ)萌えSS。レッドラムと卯月堂レイスでお茶吹いたww
作品化するのは難しいかもしれないけど、東方キャラが書いた作品自体を読んでみたいな。
個人的にはパチュリーの恋愛長編を希望。
27.100名前が無い程度の能力削除
このシリーズのファンなので楽しく読めました。
こういう変化球の様な作品が存在するのはとても嬉しいです。
ただ受け付けない人がいるというのも理解できるので、残念ですがジェネリックに投稿しておくのが無難かもしれないですね。
内容に関しては、架空の作品に対する物とは、思えない程しっかりした批評になっていると思います。
各作者や作品ごとの特徴がしっかり明記され、それに対してスイカがどう感じたかよく分かりました。
豪快なイメージのスイカが面白い、つまらないで片づけず、細やかなレビューをしているのが少し面白いです。
ただその反面優等生的な批評が続くため、読んでいて単調な印象を感じることもありました。
文芸大賞でのレイムのような、多少のエゴを感じさせるぐらいの思い切った批評があった方が、エンターテイメント性が出てバランスがとれる様な気がしました。
そういう意味でレイムのレビューも是非見てみたいです。
存在しない作品に対してもここまで詳細で公平な批評を書ける、作者様の技量と知識を尊敬します。
30.100名前が無い程度の能力削除
私はこういうのもイケるクチなのでこの点数ですが、小説かと問われると、うーん……としか言えないところ。なので低評価の方々の意見にも、まあ確かにそうだよなといった感じ。
しかし、個人的には高評価で、魔理沙の『星屑ミルキーウェイ』は一度読んでみたいと思わせられましたね。
40.90名前が無い程度の能力削除
私はこのシリーズのSSを読めて嬉しい。
というのも、たまに私はあるSSが「なぜおもしろいか、どこがおもしろいのか」を
上手く言葉にしたいのに、言葉にできなくてもどかしい思いをすることがあるが、
このSSのおかげで自分のモヤモヤした気持ちが上手く言語化できるからだ。
感謝してます。

浅木原忍さんのおかげで、大森望を読むようになりました。ありがとう。
43.90名前が無い程度の能力削除
どうしても低評価の続出する作風、作品だとは思いますが(確かにこれは小説であるかと言われるとハイとは言い難い)それが好きな自分にとっては最高の娯楽です。筆者の作品全ては読み切れていませんが、ところどころ「あ、これはあの作品の…」と思い出さされる感じは大好物です。
この書評?もなんだかんだ最後まで一気に読んでしまい楽しかった。いつか出版年表みたいなのが図で見てみたいですね!
44.90名前が無い程度の能力削除
読んでくださいとしか言いようがない、と言われても読めないんだよおおおおおおおお!!!
深夜に飯テロ食らうのと同じような衝撃でした。
お願いですから読ませてください。
48.100名前が無い程度の能力削除
大変大好きなシリーズです。
次回も楽しみにしています。
49.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
読んでみたいタイトルが目白押しでした。
読みてぇよ畜生……。
55.100dai削除
…全部読みたいです。
57.90名前が無い程度の能力削除
パンダと巨象はタイトルで既に勝利してる
キスメはペンネームの選定の時どんな気分だったんだろうか
59.100詠み人知らず削除
ここまで自分の書き方を曲げないのは称賛されるべき美点。悲しき事に批評家が少なく批判家が多いネットの海原ではあるが、作者は気にせず幻想郷の文芸事情を我々に紹介して欲しいものである。善也善也。
追記 批判家の皆様は御仕事でもないのですから自分の見たい物を探して読むと宜しい。