Coolier - 新生・東方創想話

『幻想探訪所』メリーの誤答、蓮子の虚数解

2012/08/11 23:39:38
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ようこそ幻想探訪所へ。私は秘書の八雲藍と申します。
ああ、これですか。この耳と尻尾は本物ですよ。なんせ『幻想探訪所』なので。私自身も不思議で満ちている、と言うところでしょうか、あなたにとっては。
さてお探しの『幻想』は何でしょうか。
さあさ、どうぞ“ムラサキの間”へお進みください。




      ◆




都市伝説と言うものがある。出所は不明。怪談話に準じるものから、やってはいけないこと、加えて著名人の噂に至るまで多岐を要する。規模も多様で、世界中で知られるような都市伝説から、ある学区の小学生だけが知るような都市伝説まで。
一般人はそれを知れど、だからどうしたという扱いでしかない。しかしその都市伝説を追い求める者は必ずいる。彼女らもまた、その一端の探究者だった。

「幻想探訪所?」

アイスを口に含みつつ、その冷たさの余韻に浸りながらメリーは蓮子の方へ目と耳を向ける。蓮子はPCとにらめっこしていた。

「最近、都市伝説の掲示板でよく聞く名詞なのよ」
「どんなの?」
「それがね、一様に『幻想探訪所』ってのは覚えてるのにそれがどんな所だとかは全く。だけど『幻想探訪所』の名詞を出している人のほとんどは別の都市伝説の真相を語ったりしているのよ」
「ふーん」

ぺろぺろと木製スプーンを舐めながらメリーはさも興味なさそうに応える。

「不思議じゃない?名前からするに『幻想探訪所』は都市伝説を明かしてくれる所みたいなのに、それ自体が都市伝説!」
「ふふ、つまり?」

子どものように意気揚々と説明する蓮子をメリーはなだめるような目で見る。メリーにはもう蓮子が言う言葉が分かっている。

「秘封倶楽部の出番よ!」




      ◇




『幻想探訪所』の情報が一切ない中で、蓮子にはひとつ当てがあった。
大学の友人、蓮子と同じ超統一物理学の専攻の者が『幻想探訪所』について知っているようだった。
秘封倶楽部とその友人は日の傾いた頃、大学近くの喫茶店で向かい合って座っている。

「で、どんな情報を持っているの?」
「情報と言えるほどでもないのだけれど......」

友人はそんな前置きをして自分の頭を整理しながら話し出す。

「私のおじさんが歴史学者でね、マチュピチュの研究してたの」
「空中都市の?」
「そう。でもあまりにも手掛かりが少なすぎて困ってたのよ。で、ある時......」

一度友人は上を見つめ、目線を蓮子たちに戻すと、首をかしげた。

「マチュピチュの全てが判ったって知らせが来たの」
「え、話飛んだよ?」
「そう。飛ぶのよ話が。数日の間に何かが起こったのよ。しかもおじさん、どうして判ったとか覚えていないくせに、判る過程なんてどうでもいいってマチュピチュ以外興味なさそうなの」
「ふむ」

これは一概に掲示板の情報と一致する。『幻想探訪所』については当事者は誰も語らない。

「その時おじさんはどこにいたの?」
「ちょうど日本に帰ってきてて、その数日間は東京にいたらしいわ」

それからいろいろと聞きだすも、どれも有力と言えるほどの情報ではなかった。蓮子は当ては外れたかと肩をわずかに落としたが、メリーが机の下で蓮子の腹を小突いた。

「どうしたの、メリー?」
「ちょっと来て」

そう言うと、友人にごめんなさいねと一言残し、蓮子を化粧室へ連れ込んだ。木製の古いドアを閉めると小声で蓮子に話しかける。

「あの子の背中のところに、何かが見えるわ」

メリーは背中を横一文字に切り裂くような動作をし、それが何かを伝える。蓮子はその動作ですぐに理解する。

「境界?」
「ええ」

マエリベリー・ハーン。境界が見える異能の目の持ち主。どの常識からも外れた彼女の眼はしかし的確に何かと何かの境界を見つけ出す。

「気分を悪くするのならごめんなさい。私、あの子が怪しく思えるわ」
「ううん。メリーは悪くないわ。でも、そう。境界が見えるのね......」

蓮子は爪を噛む。意外な事実を聞かされ、親しい友人を疑ってよいのかを疑問に思っているのだ。

「東京へ行きましょう」
「え?」

メリーの発言に理解する間もなく声が出る。メリーはしっかり蓮子を見つめる。

「私の勘が言っているわ。東京には何かがあるって」
「珍しいわね。メリーが勘を頼りにするなんて」

いつもなら蓮子が「私の勘が~」とふらふらとメリーを連れまわし、メリーが「論理的に考えて~」と蓮子の行動の行きすぎを制する。互いに蓮子は理系でメリーは文系なのに、思考と精神は逆のようだった。

「お願い。私を東京に連れてって」
「なんか聞きおぼえがある言い方ね」
「ね?」

片目をつぶり、上目使いで蓮子を覗き込む。メリーの外国人特有の美しさに蓮子の心臓が一回跳ねる。

「わかったわメリー。あなたを信じましょ」
「ありがとう蓮子!」

やれやれという感じで蓮子は承諾するが、実はかなりの前進を確信していた。普段のメリーからはあり得ない発言。気持ちの悪い目境界を見る目がメリーにそうさせていると踏んだのだ。であれば信憑性は格段に増す。
2人は化粧室で日時を来週と決めると、すぐに席へ戻る。しかし。

「あれ?いない」

そこの友人の姿はなかった。それに飲んでいたティーカップも、蓮子とメリーの分を残して消えていた。
メリーはカウンターの店員に友人について尋ねるが、店員はもう一人いましたか?と予想外のことを発した。
蓮子はメリーの方を見る。メリーの勘は当たりのようだ。




      ◇




最近は近くでの散策が殆どだったため、予算には余裕があった。だから新幹線を予約していち早く東京へ向かった。
駅弁おいしいね、なんて言っているとすぐに着く。東京-大阪間が1時間で済むのだ。2時間とも3時間とも言われていたのが遥か昔のように思える。
少し混雑した駅を抜けると、レンタカー屋へ向かう。蓮子は運転免許だけは持っている。つまりペーパードライバーだ。
2人で代金を払い、白の軽自動車を借りた。蓮子の拙い運転にメリーは肝を冷やしつつも、無事目的地である蓮子の実家へと到着する。ここは東京の中でも田舎の方。周りを見渡すとビル群の代わりに山が、人ごみの代わりに草木が生えている。
軽自動車を降りた2人を出迎えたのはただの古びた家だった。
ここには蓮子の家族はいない。両親ともども家はここへ残し、東京の中心地でアパートを借りて働いている。

「蓮子ってこんな所に住んでたのね」
「こんな所で悪かったわね」

皮肉をまじめに受け取ったふりをしながら玄関の鍵を開ける。ガタガタと音を鳴らしながら扉は開く。

「住んでたのは高校までよ。私が京都に行ってから両親は中心地の方へ行ったの。そんな放置してないから汚れてはないと思うけど」

その言葉通り、汚れてはいなかった。しかし畳の踏み心地がいまいち良くない。まさかと思ってメリーは純白の靴下の裏を見るとどっさりと埃が付着していた。

「あ、あはは」

苦笑いする蓮子を睨みつつ、メリーはふくれっ面で靴下を脱ぐ。靴下の埃を丁寧に払った後、それを綺麗にたたんで掃除することを蓮子に呈した。
そこからは大掃除である。とりあえず、数日間お世話になるであろう居間と座敷とお風呂を綺麗にし、台所を磨き上げると、まあ暮らせる程度の綺麗さにはなった。

「掃除が必要ならもっと早くに来るべきだったわね」
「蓮子の思慮の浅さが露呈したわね」
「う、面目ない」
「うふふ」

風呂でメリーは蓮子に髪を洗ってもらいながら微笑む。予定はちょっとずれて残念だが、2人で掃除して汗を流すという事が楽しくなかったといえば嘘になる。

「ねえ、電気とか水道とか止めてるんじゃないの?」
「ああ、親に言ったら1週間だけ使えるようにしてくれたよ」
「そう。なんだか申し訳ないわね」
「でもやけに嬉しそうにしてた......あ、そうか。私たちが掃除することを見越してたのか!」

湯に顔を沈めて蓮子は悔しがる。メリーはそのまま蓮子の頭をお湯の中にずぶずぶと沈めていく。

「蓮子は帰らぬ人となった」
「って、勝手に殺さないで!」
「あら残念。湯の底の境界にねじ込もうとしたのに」
「あなたが言うと洒落にならないわ!」

風呂を上がると丁寧にメリーの髪を乾かして梳かし、2人で台所に立って簡単に料理をし、明日の活動予定を肴に酒を飲んだ。そして酒に飲まれるように床へ就いた。




      ◇




この村には都市伝説がある。かの有名な八尺様である。
2人は八尺様を鎮めるための祠の前にいた。今でも八尺様を信じる者がお供え物をしているらしく、まだ新しいまんじゅうが備えてあった。

「どう?メリー」
「なにもないわ」

ぐるりとメリーは回りを見たわして首を横に振った。
彼女たちは八尺様を探していた。ただ本当にいるとは思っておらず、八尺様を探すのは『幻想探訪所』を知る過程と考えたのだ。

「都市伝説を求める者に、『幻想探訪所』の入口が開かれるわ」

蓮子の出した仮定だった。だから八尺様を探すふりをして『幻想探訪所』の入口を探そうと考えていた。
蝉の鳴く中、メリーは回りと、蓮子は祠としばらくにらめっこをした後、その場を去った。
次の目的地は蓮子が子ども時代よく遊んだ沢。そこで八尺様に成人男子が連れ去られたという噂があった。おおよそそれは沢で遊んで流されるなという警告を込めて作られた噂なのだろうが、虱潰しに八尺様伝説を調べる彼女たちにとってはどうでもよいことだった。

「どう?メリー」
「んー。残念」

沢はいつも通りの流れで、夏の為草が多く生い茂っているだけだった。2人はそこで休憩がてら足を沢につけて涼む。山から直接流れ込む清流は太陽が照りつけているにもかからず骨を冷やすほど冷たく、ぶるっとメリーは震えて見せた。

「おーい、メリー」

少し向こうで蓮子が叫んでいた。何かと目をやるとちょうどよい日陰を見つけたらしい。どちらかと言うと洞穴のようにも見える。メリーもそちらに移動すると土の感触がひんやりと心地よい。
しばらく休んで、蓮子は空を見上げた。遠くに入道雲あることを確認する。

「今日はこれで終わりにして帰ろうか。雨降りそうだし」

家に戻ると、土砂降りの雨が降り出す。蓮子の言う通り、だてに空を見ていない。




      ◇




そして収穫のないまま最後の7日目を迎えてしまう。
7日ともなるとお互いに疲労を隠すことができず、家から出たくない気持ちでいっぱいになる。居間にごろんと2つの体が横たわっており、空気が重いのをひしひしを感じさせる。

「れんこー。冷茶淹れてー」
「メリーが私の入れてくれたらそうするー」

ミーンミーンと蝉がせわしく鳴くばかりだ。
帰る準備もしなくてはならないので、午前中までが探索のリミットだった。しかし現在時刻10時43分。どこにも行けない程度の時間である。

「メリー」
「何、蓮子?」
「帰ろっか」
「......そうね」

暑さと疲れでやる気はとうとうゼロになってしまった。2人は午後まで仮眠をとって疲れをある程度取った後車に乗って帰ろうという案で一致した。
そうときまれば布団を敷いて、冷房を入れて万全の態勢で睡眠にかかる。
布団に横たわりながら2人は6日間を振り返る。

「ちょっと残念だったわね」
「そうだね。八尺様見つからなかったね」
「そっちは過程の方でしょう」
「へ?何が?」

呆気にとられる蓮子をメリーは面倒くさそうな目で見る。

「何がって『幻想探訪所』のことよ」
「『幻想探訪所』?」
「は?」

ここで明らかに蓮子の言動がおかしい事に気が付く。昨日までは蓮子自身『幻想探訪所』のワードを出していた。しかし今はメリーの発言に首をかしげている。つまり蓮子は『幻想探訪所』を調査するという体で八尺様を調べるという前提を忘れてしまっている。
メリーは気づく。
すでに不思議に巻き込まれていることに。
そうとわかればこれ以上蓮子に何を言っても無駄だろう。メリーは不思議を実感したことで心の底からエネルギーが溢れ、布団から起き上がる。

「やっぱり調査よ!」
「ど、どうしたのよメリー」

焦る蓮子を急かして起こしつつ、白い大つばの帽子を手に取り外へ向かう準備をする。
その行動は子どものように純粋でもあった。意気揚々と笑顔で蓮子の手を取りつつ、玄関の扉を開く。

「蓮子、行くわよ!」

瞬間、巨大な境界が玄関の外から2人を飲み込む。




      ◇




先に目を開けたのは蓮子の方だった。2人は立ったままで意識を失ったように目をつぶっていた。

「あ、あれ......?」

亜空間と言ったらイメージがわくだろうか、とにかくそんな空間の中に2人はいた。入ってきたであろう玄関はなく、真黒い上も下も分からない空間に目のようなものが数多浮いている。気持ちが悪かった。

「れ、蓮子?」

ゆっくりと目を開けるメリーは蓮子の手を引っ張る。玄関の前からつないでいた手はどうやら今もつながれいるらしい。メリーは慌てて手をほどいて服の裾をつまむ。

「ここは、どこかしら?」

蓮子の言葉に少し時間をかけて回りを見渡す。メリーの目には何も映らないが、はっきりわかることがある。

「ここは多分、境界の中」
「うそっ!?」

徐々に玄関から先の記憶がよみがえってくる。境界に飲まれた。そのことがメリーの頭の中に鮮明に映る。
しかしそれが判ったからと言ってどうにかできるわけではない。目の前には文字通り闇が広がっているだけだ。闇の中でもなぜかお互いはハッキリ見える。

「ちょっと歩いてみよう」

蓮子の提案にうなづいて一緒に歩き出す。右に行っているのか左に行っているのか、はたまた上か下か。なぜか踏み心地のある空間をひたすらに歩きながらメリーはだんだん不安になってきた。

「蓮子」

弱々しい声を出したのは自分だと気づくにはちょっとだけ時間がかかった。

「どうしたの、メリー?」
「あ、あのね......手、つないでいいかしら?」

蓮子は少しドキッとしながらも、手を差し出しジェントルマンのようにメリーの手を取る。恥ずかしそうに手を握るメリー。その心情は不安からだろうか。
しばらく進むと、真黒の空間に似つかわしくない、気持ちの悪いシルエットのドアが2人の前に現れた。
蓮子がそれを開けようとするが、メリーは一旦制止する。

「蓮子、あなたは『幻想探訪所』というワードを覚えているかしら?」
「さっき言ってたやつ?それは何なの?」

メリーは詳しいことを省きながらも『幻想探訪所』について話す。蓮子は信じられないような顔をするものの、その話を聞いて、目の前にあるものがそれであると確信した。

「きっとここは都市伝説の総本山」

メリーが力強く言い放ち、こぶしを握り締める。

「開けるわよ」
「ええ......」

キィ、と古びた蝶番の音がし、中から光が差し込んだ。




      ◆




「まあここまでがあなたの求める秘封倶楽部の都市伝説よ」

ムラサキの間の主は事実が書かれた本をパタリと閉じて、蓮子の方を見る。主は適度に冷えた茶をすすりながら藍を呼び、本を私の方に渡してきた。少々古びた本を見て蓮子は煮え切らないものを感じる。

「違う。私が求めているのはこれではないわ」
「はて?」

主はあからさまに不思議そうな顔をし、頬杖をついて考えるふりをした。
胡散臭い。そんなイメージを持つにはあまりにも自然な動作であった。

「その部屋に入った後よ。その後が重要なの!」
「と、言いましてもここで記録が終わっているのでどうにも」
「そんなわけないわ!この本にはきちんと私たちが入った所まで記録されてるじゃない。だったらあなたは私たちを知っているはずよ!」
「さてねえ。まず藍がいますし......」

手をひらひらさせて私は知らないのポーズ。

「藍さん。私たちを覚えていますよね?」
「生憎ですが」

くっ、と悔しい息が漏れる。蓮子はきっとこの胡散臭い主と狐にひとつ喰わされているに違いない。だが理由がわからない。どうして喰わされる必要があるのか。

「お願いよ、ムラサキの間の主!メリーを、返して!」
「申し訳ありません。メリーという方は存じていませんわ」
「ならどうして......」

あの日、夕方に目を覚ました蓮子の隣にはメリーはいなかった。それだけではない。どこにもメリーもといマエリベリー・ハーンという存在がいたことの確認が取れないのだ。大学にも在籍しておらず、借りているはずのアパートも空き家。まるで情報そのものがかき消されたような、そんな消え方だった。
動揺した蓮子はメリーを探に探し、ここへ辿り着いた。そして聞かされた話によると、蓮子たちは八尺様を探しつつ既にこの『幻想探訪所』へ訪れていたのだ。

「私たちが話せるのは以上です。お帰りはあちら」

ムラサキの間の主は手のひらを上に向けて出口であろう方向を指した。入口とは正反対の簡素な造りの扉がある。蓮子はそれに対して既視感にも似た違和感を感じていた。本能がそう告げる。あれを抜けるとたぶん全部忘れてしまう。

「もう少しだけ話をさせて頂戴」
「構いませんわ」
「あなたはメリーなの?」

背格好がとてもよく似ている。薄い金髪に特徴的な帽子、顔だけでなく声すら似ていた。入った時はメリーと錯覚してしまったほどだ。
主は十分意味を持たせる間を取って口を開く。

「マエリベリー・ハーンだとしたらどういたしますか?」
「連れて帰るわ」
「どこへ?」
「どこって、私たちの世界へよ」
「それは困ります」
「なぜ?」
「私はマエリベリー・ハーンではないからですわ」

やはりだ。一度存在をにおわせつつ、否定する。これは犯人の心理と同じであり、わざと事に近付いて離れることで一定の信憑性を持たせるという意味合いを持つ。だから、これは黒だ。

「そうね。では話題を変えましょう。私は超統一物理論の研究をしているの」
「興味あるわね。それで?」
「つまるところ奇怪なここも世界の一部であるのではないかと思うの」
「ふむ」
「でもこんな所が世界の一部だとは考えられないわ」
「ええそうね。私もそうは思わない」
「だから唯一世界と切り離せす事のできる空間を考えた」
「四次元とかかしら?」
「いいえ。四次元も同じステージにあるわ」
「では何かしら?」
「夢よ」

そう、夢。生物学上人間の記憶の整理の為に行われる睡眠の過程で見るもの。それには自分の無意識の思考も入っており、なぜか知らない何かに追いかけられるという経験も少なくはない。無意識が見させる夢こそこの空間。そしてメリーはこの夢の境界に取り残されている。

「ムラサキの間の主、あなたはバクか何かね」

その理論は穴がありすぎる。そうムラサキの間の主は思った。が、素直に蓮子の理論に感心しつつぼそりと呟いた。ほぼ完璧ね、と。

「宇佐見蓮子、素晴らしいわ。ただし残念。あなたの解答は虚数であったわ」
「虚数?」
「そう。正解の裏」

ムラサキの間の主は自分の椅子から立ち上がると蓮子の元に近付き、頭に手を乗せる。さっと一撫ですると蓮子は糸が切れたようにソファに倒れこんだ。

「ここが現実、あなたが夢の住人。それが正答だったのに」




      ◆




蓮子とメリーがここへ訪れるのはこれで6回目となる。ただ、場合によっては先ほどのように蓮子が1人で来たり、メリーが1人で来たりする場合もあるのでセットで換算すると18回をわずかに越えた程度だった。

「今回の良かった所だけを抽出ね。後は軽く記憶を改ざんして」

紫がテキパキと前時代のパソコンようなものを動かしてデータを書き換えたりデリートしたりしている。ケーブルの先には蓮子とメリーの姿があった。

「惜しかったですね」

藍が横から声をかける。紫は藍の方は一切向かずに応答する。

「ええ。あと一歩だったのだけれど」
「完璧でないと使えませんものね」
「式神としてね」
「しかし紫様もお人が悪い」
「あら?言うわね藍」
「褒め言葉ですよ。まさか自分の偶然見た夢を固定化して、その住人を育てて式神を作ろうなど考えませんよ」

そう。蓮子とメリーは紫の夢。その中に出てきた宇佐見蓮子という人物とマエリベリー・ハーンという人物に一定の能力を与えた。さらに夢をシミュレーター代わりに2人がいかに変化していくかを観察した。
2回目にはその成果が表れ、メリーの方は見える能力から操る能力へと変化が見られた。ただし本人に自覚はない。蓮子の方は能力自体は進歩がないものの、計算能力に加え、推察力、行動力が秀でていた。蓮子の方が正解に近付いたレートが高い。

「次はいかがなさいます?」
「次はヒントを少なめにしようと思うわ。鍵は遺跡、扉は月でいいわね」
「これはまた手厳しい」
「いいえ、辿り着くでしょう。きっと」

紫は自信気に口角を上げると、パソコンのようなもののエンターキーを押してそれをシャットダウンする。
蓮子とメリーの瞼がピクリと動いた。




      ◇




秘封倶楽部についての活動報告書


宇佐見蓮子はネット上で『幻想探訪所』のヒントを見つけ出す(評価2)

マエリベリー・ハーンの勘がはたらく(評価7)

宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンは鍵の八尺を見つけ出す(評価5)

宇佐見蓮子は『幻想探訪所』の記憶を失う(評価-3)

宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンは2人でセーブポイントの『幻想探訪所』まで訪れる。(評価6)

マエリベリー・ハーンは正解を導き出せなかったためフリーズ。(評価-2)

宇佐見蓮子は正解の虚数を導き出す。(評価8)


総合評価

宇佐見蓮子(評価18)
マエリベリー・ハーン(評価16)


累積評価

宇佐見蓮子(評価93)
マエリベリー・ハーン(評価90)


完成評価まで

宇佐見蓮子(残り907)
マエリベリー・ハーン(残り910)


以上
という夢を見たので脚色してみました。起承転結はありません。
夢にまで東方とは、これ如何に。
放課後ショウタヰム
簡易評価

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コメント



0.160簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
風呂シーンとか行動の描写とひと昔前のSFみたいな展開に何故か初期東方の雰囲気があって面白かったです。
起承転結はあったように思います。結構造りがしっかりしているように感じました。
二人が式神というのがまた奇抜で面白い。悲しいけどこれゆかりんの悪戯なのよね。
5.90名前が無い程度の能力削除
不思議な感じでした。蓮子とメリーがかわいそうだけど読んでて面白かったです
6.90奇声を発する程度の能力削除
独特の感じで良かったです
10.100名前が無い程度の能力削除
2人が紫の式神というのが面白い
いつか完成したら八雲姓をもらうのかな?
11.100名前が無い程度の能力削除
((((;゜Д゜)))何だと!!
12.90名前が無い程度の能力削除
新しい独自展開だなぁ…