Coolier - 新生・東方創想話

明日命日、出会いの昨日

2009/10/12 20:22:48
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これが夢であると気付いたのは、目の前に見知らぬ女がいたことや、その女の上半身が何かの裂け目の
様なものから生えていたことによるものではなく、視界の左側を覆うようになった黒い幕が下ろされて
いなかったからだ。

両目の焦点を合わせて女を見ていると、女は何も言わずに微笑みつつこちらを見ていた。
ただ、その微笑みは適度な口角の角度が保たれた顔といった無機質な印象があり、未だ夢心地な気分を
拭い去れない。
自身を現実の感覚に近付けるために、俺は煙草に火をつけた。
すると、すぅ、と馴染みの香りに包まれたところで女が口を開いた。

「あなた、明日死ぬのね。」
「ん?あぁ。」

胡散臭い存在の口から具体的な行為を言われ、これまた不思議な気分になった。
しかし、「死」という言葉を第三者の口から聞いて、腹の中でまたその言葉が座り直した様にも感じた。

「あんた、死神か?」
「あら。」

そう言うと女はくすくすと笑い始めた。
先程の笑みと異なり、随分と楽しげに笑う姿は少し幼く見える。
死の言葉の先に笑う彼女は、通常の人間の思考にないものを持っているのだろうと、俺は煙草を吸いな
がらその声を聞いていた。

「ふふ、死神なんて初めて言われたわ。私は境界に現れる妖怪よ。」
「妖怪ねぇ。ここに境界なんてあったか?」
「境界は遍在しているものよ。」

自らを妖怪と名乗る女に呆れつつも、妖怪であるならば何を言ってもおかしくないわけだと、その存在
を認めている自分もいた。
しかし、不毛な会話はあまり好きではない。

「あなた、自我との境界にいるんでしょう?」

女の目に三日月が宿る。
自我との境界と聞いて、この女は本当に境界を好む妖怪なのだろうと思った。
俺は病による脳細胞の死滅から記憶が薄れ、視界も半分奪われた。
己が己であることを自覚することすら危うくなりそうな状態の中、自己との乖離が進む中で現れたのが
この女なのだ。

「その通りだ。しかしこの境界はもうなくなる。そうしたらあんたの居場所じゃないな。」
「でも自我との境界がなくなる次は、彼岸と此岸の境界もあるわよ。」

相変わらずの目つきで此方を見つめる女がいる。
境界が遍在しているのならわざわざここでなくてもいいのではないかとも思ったが、あぁ、意味などな
いのかもしれないと気付き、夢見心地で妖怪の言葉を聞くことにした。

「境界を振り払うってのは厄介なもんなんだな。」

クク、と笑った彼の顔は、決して厭世的なものではなかった。

「そうよ、境界は争いや平和の中にも存在するし、喜びや悲しみの中にも存在するのよ。」
「なるほどな。」
「ねぇ。あなた、明日死ぬのよね?」
「そのつもりだが。」
「私は、今のあなたでないと出会えなかったわ。これは覚えておいて頂戴。」

それだけ言うと、女は隙間へゆっくり飲み込まれるように消えていった。



その翌日。
かつての戦友達の最期の言葉を聞き、薬を打ち込んで、意識が遠ざる中で死を感じていた。
俺は俺として解放されゆく感覚がひどく心地良かった。
すると、ふいに三日月の声が聞こえた気がした。



「彼岸と此岸の境界へようこそ。」

この女との再会に溜息が出る。

「境界のない世界ってのはないもんかね。」
「あら、あなたは既に知っているんじゃない?」
「ほう?」
「もうあなたの自我は誰にも侵されない。」

伏目がちに笑う女に思わずつられる。
差し伸べられた妖怪の手は、意外にも暖かかった。
男性は他作品キャラをイメージして書いていますが、一応この人物を知らなくても読める様にしました。
男性は「天」の「赤木しげる」をイメージしています。
死と境界の意味が何となく繋がっていたらいいなとか、考えて書いたつもり、です。

ご感想等頂けたらうれしいです。
mt
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コメント



0.190簡易評価
1.10名前が無い程度の能力削除
話自体の中味が無いうえに赤木しげるのイメージとしては安すぎる。
9.30名前が無い程度の能力削除
最後の十行くらいがもっと膨らんでたら良作だったろうに
やりたかっただけー的な雰囲気が残念
発想は羨ましい
11.無評価mt削除
ご感想ありがとうございます。
それとお返事を少しだけ。

>話自体の中味が無いうえに赤木しげるのイメージとしては安すぎる。
赤木さんが安っぽい!というお言葉は、やはり赤木さん好きの方にしか言えない言葉だと思うので
素敵な人を素敵に書けるようになりたいと思います。
話の中身は……きちんと作れる様今後努力します。

>最後の十行くらいがもっと膨らんでたら良作だったろうに
>やりたかっただけー的な雰囲気が残念
>発想は羨ましい

確かに後半尻切れトンボになってしまったかもしれませんね……。
中味、やはり中味を充実させないとですね。
でも発想についてお褒めの言葉を頂けたのが嬉しかったです。
自分の駄目さ加減に凹みながらも救われました。


評価を下さった皆様、ありがとうございました。