「美鈴、今日は何の日か知ってるかしら?」
「……バレンタインです」
「というわけで、今年も期待してなさい」
「あ、あの咲夜さん、私はその気持ちだけで――」
「去年以上に気合と力と思いを込めて用意したから。チョコレート」
「去年以上とか洒落にならないですよ」
「ご馳走様、それじゃ先に行くわね。いろいろ準備しなきゃいけないし」
「人の話を聞いてくだ――」
今日の朝食は、咲夜さんが私の言葉を遮って姿を消すことで終了した。ご馳走様。
今日はバレンタイン、もう憂鬱でしかない。
漏れるはため息、思い返すは去年の今日。
いつもの様に門の前に立ち、平和な午後を青い空を眺めながら過ごしていた。
バレンタイン、咲夜さんはチョコくれるかなぁ。くれますよね咲夜さん。
なんて軽く甘い考えに酔いながら、私は自分の手元にある小さな箱に目をやる。
そういえば、私からのチョコはどうやって渡そう。用意はしたけど、渡す方法は考えてなかったなぁ。
まぁ普通に渡せばいいか。
この時、なぜ私は手元のチョコに目をやったんだろうか。そのまま空を眺めていればもっと早くに気づいただろうに。もっとも気づいた所でどうしようも無かったと思うけど。
ふいに視界が暗くなり、自分の周りに影が出来ていることに気づいて、目を上げたときには手遅れだった。
「チョコレートだ! もう遅い脱出不可能よ無駄無駄!」
なんて幻聴と共に、視界いっぱいに現れた毒々しいまでに真っ赤ででかい箱。いくらなんでもでか過ぎる。
今思えばよく避けれたなぁ私。隕石の様に空から落ちてきた箱を前に私は唖然とした。
何事かと思い軽くパニックに陥った私の耳に、聞きなれた声が入ってくる。
「受け取りなさい美鈴。バレンタインのチョコレート」
「はへ?」
私は一瞬、箱の上に立ち尽くす咲夜さんが何を言ってるのか理解できなかった。
バレンタイン? チョコレート? どれが? この縦横三メートルはあるこの箱が?
ああそうか。私は何て思い違いをしてたんだろう。相手は咲夜さん、二人で手作りのチョコを交換なんて平和じみたこと、あるはずが無いのに。
そんな自分の認識の甘さに腹を立てながら、無駄であろう抗議を始めた。
「あ、危ないじゃないですかぁ!」
「一刻も早く渡したかった今日この頃2008」
意味がわからないです。
「だとしても何で私の上に落とすんですか!? もうちょっとで潰されてましたよ!」
「届けこの想い。私から貴方へ産地直送」
だから意味がわからないです。
「咲夜さんテンションおかしくないですか?」
「最高にハイってやつよ。それじゃ早速開けるわね」
やっぱり無駄に終わり、咲夜さんは箱のリボンを解き始めた。
「それじゃ美鈴、最初はミルク、ホワイト、ブラックのどれがいい? ああでも溶ける前にアイスがいいかしら? チョコアイス」
私は、箱の中から現れる無数のチョコ菓子を前に、ただ立ち尽くすことしか出来ずにいた。
「チョコケーキはアイスほどじゃないけど早めに食べなさい。あとフルーツのチョコフォンデュもよ」
「……そうですね」
まだ一個も食べてないのに胸焼けがしてきそうです。
それから一ヶ月、私は毎日チョコレートを食べ続けた。午前中はチョコキャンディを舐めながら門の前に立ち、三時のおやつにチョコクッキーをかじり、夕食後に普通のチョコを食べる。
もう虫歯が出来ないのが不思議なくらいチョコ三昧な一ヶ月。あまり言いたくないけど、正直しんどかったです。
途中、見かねたお嬢様がチョコをいくつか処理してあげようかと聞かれた。
「ねぇ美鈴。そんなにチョコ飽きたなら私が食べてあげよっか?」
「……お気持ちは嬉しいですが、これはその……やっぱり私が食べないといけないと思うんですよ。どんな形であれ咲夜さんが私の為に用意してくれた物なんで」
「そう、じゃチョコは諦めるわ。ていうか、たった今チョコより甘いもの押し付けられて食べるきなくしたわよ」
そして一年。色々ありながらも相変わらずな紅魔館は今を迎える。
とりあえず去年私を襲ったあの赤い箱は、庭には見当たらなかった。となると館の中にあるのだろうか? しかしあれだけの物が室内にあるとは考えにくい。明らかに館の扉より大きかったし。
なら今年はあれではないのかもしれない。去年の私の苦労をわかってくれた咲夜さんがごく普通のチョコを用意してるとか。うん、わかってますよ? ありえないってことぐらい。
ならなんだろう? 去年より力入れてるみたいな事言ってたし、ひょっとして自分の体にリボン巻いてベッドで待ってるとかないですよね。うん……凄くありそう。その時は見なかったことにしてその場を立ち去ります。
まぁ考えても仕方ない。咲夜さんの無茶振りは今に始まったことじゃないし、私が一ヶ月チョコ食べればいい話です。……キツイなぁそれ。
そんなこれから来るであろう出来事に覚悟を決めた午前中でした。
「パチュリー様、バレンタインのチョコレートです。受け取ってください」
「去年と同じ流れね、小悪魔」
食後のお茶を楽しむ私といつもの二人。
確かに去年もこのタイミングで小悪魔はチョコを渡してたっけ。そしてパチェに渡した後に私にも義理チョコをくれてたわね。
ああ、思い出す。咲夜がくれたのとは違い、ごく普通のチョコだった。私は心の底から歓喜したわ。これほど普通って素晴らしいって思ったことは無かったぐらい。
そして、その後の何とも言えない寂しさも。義理と本命とはこうも違うものかと。
「去年よりももっと頑張ってみたんですよチョコ」
そう去年よりもさらにヴァージョンアップしてるのね。きっとこの後、私が味わう寂しさもヴァージョンアップよ。
けどいいの、小悪魔がくれる普通のチョコは私にとって掛け替えのない普通のチョコだから。少なくとも今日朝一でくれた咲夜のチョコよりは。
何て言ったっけ、咲夜のくれたチョコ。ああそうだ、外の世界のアポロチョコとかいうやつだ。去年は確かチロルチョコ。
……私、誰の胸の中で泣けばいい?
ううん、泣いちゃダメ。だって私には子悪魔がいるじゃない。去年食べたあの普通のチョコ、あれを再び味わえるのだ。それでいいの、義理だけど。
「そしてお嬢様」
ほら来た。ちゃんと私も気遣ってくれるこの優しさ。五臓六腑全身に駆け巡るわ。咲夜を初めとするメイド達もこの子を見習うべきね。
「別に義理でも気にしないわ、私は器が大きいから」
「そのチョコなんですが、パチュリー様のに力を入れすぎて他の分を用意できませんでした」
何だろう、小悪魔が何を言ってるのかよくわからない。私の辞書に載ってない言葉ばかりを使われてる気がする。むしろ外国語? ていうか宇宙語?
「でも私思うんです。いろいろな人に義理を配るよりも、一番大切な人にありったけの思いを込めた方がいいって」
その義理に私がどれだけの思いを込めていたか知っているの? 知らないわよね? 知ってたらそんな口絶対に叩けないものね。
「レミィ、こういうのは人それぞれ。仕方ないことよ」
何その余裕、これが本命と義理すらもらえない者の差?
どうしよう? 私今ここで暴れてもいいんじゃないかしら? 目の前で見詰め合ってる赤髪の悪魔と紫モヤシをグングニルで二枚抜きしてもいいんじゃないかしら? 魔女狩りと銘打って火あぶりにしてもいいなじゃないかしら? そして自分の部屋で不貞寝しながら枕を濡らしてもいいんじゃないかしら? とりあえず最後の一つは実行しようと思う。夜にでも。
「……キニシテナイワヨ?」
偉い私! よく抑えたわ! これでこそ紅魔が主! 私の器の大きさに感服しなさい二人とも!
そして今からでも遅くないからチョコを用意しなさい。
「レミィ、バレバレの嘘はよくないわ」
「そう思うならチョコ頂戴よ!!」
はっ、いけない。つい本音をぶちまけちゃった。
何だろう。二人の視線が凄く生暖かい。やめて、そんな目で私を見ないで。
「お嬢様……愛に餓えてるんですね」
「ええ、レミィを大切にしてくれる誰かがいれば……こんなことには」
なにその言い草。まるで私が人の優しさを知らずに育った非行少年みたいじゃない。
「でもお嬢様、いつかきっとお嬢様を大切にしてくれる人がいます」
「そうね、いつかきっと出会えるわ。きっと」
なぜチョコを求めただけでここまで言われなければならないのだろうか? あときっとを強調しないで、きっとを。
そもそも二人は私を大切にしてくれないの? ああ、自分たちのことで忙しいのね。わかります。
「それじゃレミィ。ちょっと眠いからこのチョコ食べたら少し眠るわ」
「でわ、私も失礼しますね」
そう言ってパチェと小悪魔は席を立った。
「小悪魔。寝る前のベッドメイク、わかってるわね」
「はい……わかってます」
なぜかパチェの言葉に顔を赤くする小悪魔。なんかもじもじしてるし、ベッドメイクって何よ? ていうか寝る前に何する気? ……ていうかナニする気? パチェ、まだお日様は真上よ。いくらなんでもそういう時間には早すぎるんじゃないかしら? まぁでもこれは二人の問題だし、私が口を出すことじゃないかもしれないけど……それでもやっぱりこういう事はきちんと節度を持つべきだと思うの。一言で言うと、明るい家族計画?
「レミィ、覗いちゃだめよ」
「覗かないわよ! い、いくら私でも親友のそういうのは気が引けるって言うか、なんていうか……」
「私は寝顔を見られたくなかっただけなんだけど、何想像したの?」
「え? あ、べ、別になんでもないわ」
何だろう? この罠にはめられた感。そのニヤニヤと口元を歪ませるのやめなさい。
パチェと小悪魔が出て行った後、私は一人寂しく紅茶を啜った。
「……不味い」
おかしい、いつも飲んでる紅茶なのに、凄く別物に感じる。
確か去年の今日も同じ紅茶を飲んでいたはずだ。小悪魔のくれたチョコをお茶請けにしてたあの時は、格段に美味しく感じたはずなのに……
最近、みんな実は私のこと嫌いなんじゃないかと思うことがある。
咲夜は私のことなんかそっちのけで、美鈴ばっかり見てるし。
メイド達もあと何回言ったら私の皿にピーマン入れるのやめるのかしら。
美鈴も美鈴よ、貴方がはっきり言わないから咲夜がいつまでたってもあのままなの。
パチェも親友だと思ってたのに、最近は露骨に嫌がらせしてくるし。
小悪魔はそんな私を、きっと心の中であざ笑ってるのよ。
フラン、貴方は……うん、きっとアレよね? ツンデレってやつよね? 影で私のことあいつ呼ばわりしたりするのは、きっと素直に甘えられないお年頃だからよ。反抗期ってやつね、かれこれ四百年以上。
泣きたい。うん、泣こう。
今日はもう何もする気になれない。もはや私が心を許せるのは、自分の部屋のベッドと枕だけ。
彼らだけは私を裏切らない。私を優しく包み込んでくれるし、私の涙をすべて受け止めてくれる。
こんなつらい現実とはおさらばして、素敵な夢の世界へいざ逝かん。レッツふて寝。
私はまだ中身が入ってるカップを置き、自分の部屋へ戻ろうと椅子から立ち上がった。
キィという椅子を引く音と、カチャというドアノブを回す音が同時に響いたのは、きっとどうでもいい偶然。
「お姉様いるー?」
ドアを半分ほど開き、そこから顔を覗かせているのは、絶賛反抗期中の我が妹だった。
「あ、いたいた。お姉様の部屋に行ってもいなかったから、少し探しちゃったよ」
前言撤回。目の前のえへへーと笑うこの子が、日々私の陰口ばかり叩いている我が妹なのだろうか。
私の知る限り、フランがこんな無邪気な笑顔を私の前で浮かべることはそう考えられない。
「珍しいわね、フランが私に会いに来るなんて。寝首を掻くには時間を間違えてると思うけど?」
だから、言わなくていいことを口にしてしまう。
「ああ、それはずいぶん前に考えたんだけど、お姉様が眠る時間は私も眠いから諦めた」
「なら何の用かしら? 命がけの弾幕ごっこなら、夜のほうがいいと思うわ。お互いに」
素直になれない。反抗期はどうやら私の方のらしい。
こんな調子で互いを傷つけ合う。ボロボロになったの私を、親友は呆れた目で見てた。従者は何も言わず、無言で後片付けだけしていた。門番は黙って私たちの弾幕を眺めてた。
みんな共通しているのは、何も言わない。もう呆れ返っている、何度も同じ過ちを繰り返す私に。
きっと、今日もこのままフランと顔を合わせていたら同じ過ちを繰り返す。
「用があるなら今度にしてくれないかしら? ちょっと自室ですることがあるから」
だからこうやって逃げる。間違えるくらいなら逃げる。
このままフランの顔を見ずにこの部屋を出て、そして自分のベッドに飛び込めば、嫌なことは全部忘れられる。ほんの一時の逃げ道。
「そっかぁ、せっかくお姉様にチョコ持ってきたんだけどなぁ」
「……え?」
今、懐かしい単語が耳に入ったような気がする。チョコ? チョコってあれでしょ? バレンタインとかいう日に親しい相手などに渡す空想のお菓子でしょ? もし万が一百歩譲って仮に存在するとしても、私には無関係なあれでしょ?
それをなぜフランが持っているのだろう。しかもそれを今私に?
おかしい、うまく物事が考えられない。まるで五分くらい前にあまりの悲しみとショックで、一部の記憶を抹消し書き換えた様な感じがする。
でもそんなのは誤魔化しなわけで、冷静になれば否応なしに理解してしまうわけで、ほらゆっくり考えればだんだんピースがそろってきた。
「えと、バレンタインの?」
若干小声で、自身なさそうに尋ねたのは、この現状をにわか信じられないから。
フランが私にチョコ? 毒か何か混ざってるんだろうか? 一瞬でもそう疑ってしまう自分が凄く嫌だった。
「バレンタインにチョコ以外を渡すほど皮肉れてないよ?」
そのセリフ自体が皮肉だということに気づくのに三秒、一年前の当て付けだと気づくのにさらに三秒。
あっけにとられる私が面白かったのか、フランは口元をニヤニヤと歪ませている。
「どういう風の吹き回しかしら?」
私は冷静さを取り繕うの精一杯でこんな言葉しか出てこなかった。
「だって去年、お姉様がチョコくれたし」
「お返しのつもりなら普通ホワイトデーにするでしょうに」
なぜ今更になって? あれから一年、これといったこともなく、私は溝を埋める方法がわからず、深めないようにするだけの日々。
だから、フランからチョコを渡される義理もなければ権利すらない。そう思ってた。
正直に言えば、ホワイトデーを期待したりもした。あれだけ頑張ったのだから、この子も答えてくれるのでは? そんなチョコよりも甘い考えを持ったりもした。
でもなんの音沙汰もなくその日は終わりを迎えた。
そして思い知った。私とフランはあんなちょっとの頑張りでどうこう出来る溝ではなかったと、どれだけ周りの雪を放り込んでもクレパスは埋まらないのだと。
それが今更になってなぜ?
「お姉様、ホワイトデーってなに?」
「え? バレンタインデーのお返しをする日だけど……え? もしかしてフラン……」
「へー初めて知った。じゃあ一年も我慢する必要なかったんだ」
あれー? 話がどんどん思いがけない方向に進んでない?
「ね、ねぇフラン。一応聞いておくけど、もしホワイトデーって言うものを知ってたら――」
「その日に渡してたよ。ホワイトデーいつだか知らないけど」
私の体の中で、何かが切れた。決定的な何かが……
私は一年間、何て思い違いをしてたんだろうか。フランは知らなかった、ただそれだけ。それを私は勝手に履き違えて、勝手に拗ねてた。
なんて馬鹿で……自業自得。元はといえば私がこの子をもっとよく知ろうとしなかった、少しでも分かろうとすればきっと気づいたはずだ。
凄く後悔した。なんて無駄な時間を過ごして来たんだろうと、そして私は――歓喜した。
一年無駄にしたかもしれない。けど、あの時の努力と勇気は無駄にならなかった。
元より何百年も開いてた溝。今更一年くらい何だというのだろうか。
先は長いのだから、これから埋めればいい。
私はドアの前で立ち尽くしているフランを、手招きしながら呼んだ。
「フラン、ちょっと座りなさい」
なぜ呼ばれたのか分からないのか、フランは不思議そうな顔で言われるままに椅子に座った。
「お姉様、なんか用事があったんじゃないの?」
ああ、そういえばそんな嘘もついたっけ。もしあのまま部屋を出ていたら、いまだに勘違いしたままだったろう。
「いいのよ。たった今もっと大事な用事が出来たから」
私がもっとも大切にしなくてはいけないもの。それは今、この時間。
フランと二人でいるこの時間が大切なんだと思う。
「それで、そのチョコはいつになったら渡してくれるのかしら?」
「ん、はい。これ」
若干ぶっきら棒に差し出された赤い箱。
「ありがたく貰うわ」
あくまで冷静に、体制を繕いながら、赤い箱をゆっくりと手に取った。
「この箱……」
見覚えがある。一年前、これと同じものを私は手にしてた。
「その箱? 去年、お姉様がくれたチョコの箱だけど、他にいいのがなくて」
まだ、持っていたのね。
「開けてもいいかしら?」
「うん、いいよ」
二つ返事で答えたフランの顔は、くすくすと笑みがこぼれていた。きっと中身を見たときの私の反応が楽しみで仕方ないのだろう。
そんなフランを焦らすように、私はゆっくり箱を開けた。
「あら、それなりに凝ってるのね」
赤く、一口サイズのチョコが五つ、蓋を開けたときの香りからしてラズベリーで色をつけたのだろうか。小分けにされた五つのチョコは、コウモリをデフォルメした愛らしい姿で私を見つめている。
「けっこう頑張ったんだよ」
「ええ、本当によく出来てる。一ついただくわね」
そういって五匹のコウモリの内、一匹をつまむ。改めて見直すと、本当によく出来ている。去年の私が作ったクランベリーチョコより凝っているのがわかる。
いいよー、と答えるフランは、またくすくすと笑みをこぼしていた。
また焦らすように、コウモリを口という檻に入れた。
ベリー系特有の香りが鼻を抜けていくのが分かる。舌の上でコウモリが溶け、やや強い酸味と若干の甘味。
「一応、味見はしたけど、どうかな?」
「……美味しいわ。少し酸っぱいかもしれないけど、私は好きよ」
カップの中身はまだ残ってる。きっと、最高の一杯に化けてくれるだろう。
「パチュリー様、妹様はうまくいきましたかね?」
「さぁね、そればっかりは二人の問題だから」
「とりあえず気を利かせて二人にしてあげたんですけど……」
「ま、妹様というよりレミィしだいね」
「はぁ、せっかくパチュリー様が妹様に色々アドバイスとかしてたんですから。やっぱりうまくいくといいですよね」
「貴方だって頑張ったじゃない。よく妹様にあそこまでチョコレート作り教えたわね」
「ええ、おかげで義理チョコ作る時間なくなっちゃいましたしね」
「いいんじゃない。レミィにとってあれ以上のチョコはないだろうし」
「でも思いっきりショック受けてましたよお嬢様」
「一年間ダメな姉だった罰よ。それに、私は貴方が他の誰にチョコを渡すの見たくないし」
「……パチュリー様って、意外と独占欲強いですよね」
「それより、少し眠るからベッドメイク」
「え、本当にするんですか!?」
日がてっぺんを超えました。私の直感がそろそろだと告げている。
昼食の時には咲夜さんの姿が見えなかった。きっと裏で何かしてるに違いない。
「はぁ、平和ってなんでしたっけ?」
答えのなさそうな疑問を呟く。
少なくとも私にとって平和とは、チョコレートの隕石が降ってこないことである。
ごく普通に、手渡しでチョコを交換する。それだけでいい、いいのに……
「なんで……また隕石が落っこちてきてるんですかねぇ」
前回の反省を生かし、とりあえず空から目を離さず、体はいつでも飛べるように備えてた。
空に黒い点を見つけて、ため息を尽き平和について考えてしまった。
点がだんだん大きくなり、色も赤だということが分かってくる。
これなら五歩くらい後ろに下がるだけでいいかな。
隕石はどんどん加速し、大きくなってくる。
「3、2、1……」
ボゴゥッッ!! と爆音と衝撃を撒き散らしながら、それは目の前に落ちてきた。
「アンニュイな午後をいかがお過ごし美鈴」
「私の平和な今日は、たった今終わりを告げました」
私の返答を聞いているのかいないのか、案の定去年と同じ箱の上に乗っかり急降下ダイビングしてきた咲夜さん。
「去年も同じようなことを言いましたが、なんで空から落とすんですか? 危ないですよ」
「一刻も早く渡したかった今日この頃2009」
びっくりするほどデジャブですよ咲夜さん。
「今年もまたこれですか……」
「甘いわよ美鈴、チョコレートより甘いわ。言ったでしょう? 去年より気合と力と思いを込めて用意したと」
まだ、何かあるんですか? いや本当に勘弁してくださいよ。
そんな私の思いを無視して、咲夜さんは空高く右手を掲げた。
「受け取りなさい美鈴!! 私の思い!!」
パチィンと、咲夜さんが一際大きく指を弾いた瞬間だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
壮大な地鳴りと共に地面が揺れている。
「なっ!! なんですかこれ!!」
この程度の揺れでバランスを崩すことはないが、あまりの出来事に私は去年以上のパニックに襲われている。
さら地鳴りと揺れが大きくなり、突然庭の地面が割れ始めた。それも地割れは一箇所ではなく、三箇所もである。
いったいどんな仕掛けを施したらこんなことが出来るのだろうか。
そうこうしてる内に、地割れはついに三メートルを超えた。
「そろそろよ美鈴」
「な、なにがですか!?」
咲夜さんの呼びかけに不安を積もらせながらその時を待った。
「え、えと、何が起きるんですか?」
「最初に言っとくけど、近寄らないほうがいいわよ」
言われなくても近寄りませんよ。何が起こるかわからないし。
「5、4、3……」
「何ですか!? 何のカウントですかそれ!?」
「2、1」
私の言葉を無視して咲夜さんはカウントを続ける。
「ゼロ」
そして、カウントがゼロを斬った瞬間。
ドヒュン! と三つの地割れから何かが空高く打ち上げられた。
あまりに早く打ち上げられたそれは、私の目ではなんなのか捉えることが出来なかった。
「あの、咲夜さんなんです? あれ」
「しいて言うなら、私の想いかしら?」
何で疑問系なんですか? ていうか、空高くぶっ飛んでいきましたよ? 咲夜さんの思い。
そしてまた、地鳴りが始まる。今度は開いた地割れが徐々に閉まって行く。本当にどんな仕掛けなんですか?
完全に地割れは閉じ、元に戻った。
「あの、結局なんなんだったんですかあれ?」
「美鈴、空を見なさい」
巨大なチョコレートボックスから飛び降り、咲夜さんは私の隣に立つ。
「へ?」
咲夜さんに促されるまま、首を上げた。
「結構頑張ったものだから、見逃してほしくないのよ」
その言葉の意味を聞く前に、それは弾けた。
空に響く乾いた音、体の奥まで響く衝撃。そして、青空を染める不規則な赤い模様。
「昼花火って知ってるかしら?」
「聞いたことだけなら」
その名の通り、昼間に打ち上げる花火。
今、打ち上げられた昼花火は空を赤い斑に染めていた。
くねくねと不規則で、けれど途切れない赤い線。それはまるで……
「けど、やっぱり夜に打ち上げる花火に比べると地味ね」
「でも、私は好きですよ」
まるで、赤い糸――なんて、子供時みたことを想わせる。
糸は空を泳いだ後、名残惜しそうに消えていく。その最後を見届けようとして、空を見続けていると、ふわりふわりと何かが落ちてきた。
「なんですこれ?」
ひょいと手を伸ばし、ゆっくり落ちてきたそれを捕まえた。その正体は小さなパラシュートをつけた小包。
「咲夜さん、これひょっとして」
「当然、チョコレートよ」
赤い糸が消え、舞い降りるチョコレート。
「咲夜さんにしては、ずいぶんロマンがありますね」
「にしては、が余計よ」
チョコの隕石を落とす人のセリフですか。
「でも、少し感動しましたよ」
「私としては大いに感動して欲しかったわ。この胸に飛び込んでくるくらいに」
それはまた今度の機会で。
私はパラシュートのついたままの包みを見つめた。
ま、これと交換ならいいでしょう。
「さくやさん。これは私からです」
私はポッケに忍ばせてた赤い包みを取り出す。当然だけど、私だってちゃんと咲夜さんにチョコを用意していた。
「あら、今年はずいぶん素直にくれるのね。去年はくれないかと思ったくらいなのに」
「いらないならいいんですよ別に」
「貰うに決まってるでしょ。じゃなきゃ、くれるまでずっと付きまとうわよ」
ええ、去年は本当に夜まで付きまとってきましたからね。
まぁ、そんなことしなくても最後にはちゃんとあげるつもりでしたけど。
「こういうのって、なんだか食べるのがもったいない感じがしますよね」
あのチョコレートボックスは例外として、このパラシュートチョコは大事に食べよう。
「別に気にしなくていいわよ。まだたくさんあるし」
「へ?」
まだたくさんって、あのチョコレートボックスじゃなくて?
私は手元のチョコに目を向けていると、ポテッと頭に何かが落ちてきた。
「……あの、まさか」
うまいこと愛用の帽子の上に落ちてきたのは、案の定パラシュートチョコだった。
「一発の玉に五十個だから、のこり百四十八個は落ちてくるわよ」
咲夜さんの言葉に絶句しながらも、私は恐る恐る顔を上げた。
そこに広がるのは空一面に広がるパラシュートチョコ。
「言っておくけど、全部貴方のためのチョコだから」
これ、全部私が回収しなくちゃいけないんですか? 館全体に落ちてきてるんですけど。
「……咲夜さんから、紅魔館のみんなへの義理チョコってことで一つ」
「この仕掛け、凄く手間がかかったのよねぇ。チョコも全部私の手作りよ。全ては美鈴に食べてもらいたい一心で頑張ったの」
そうですか。そうなんですか。私に逃げ場なしですね?
私の体の中で、何かが切れた。決定的な何かが……
「わかりました……わかりましたよ! 全部集めますよ! 百五十個全部集めて食べますよ!」
「ちゃんとこっちのボックスも食べてくれるわよね? 去年よりさらにバリエーションを増やしたんだから。チョコ自体もストロベリーや抹茶、チョコ菓子も生チョコ餅やチョコ煎餅とか新しいのに挑戦してみたわ」
はい、もう食べますから。全部食べますから。
「とりあえずパラシュートを全部回収してくるので、そのボックスはどこか涼しい場所に保管しといてください」
「それは無理ね。私一人じゃこれ持ち上がらないもの」
じゃあどうやって空から落ちてきたんですか?
「なら先にそっちを食べてから探しに行きます」
きっと去年同様アイスとか時間の持たないものがあるでしょうし。
「その間に、誰かがあのチョコ拾って食べたら、私ショックで泣くわよ」
勝手に泣いててください。思わずそう口にしかけてしまった。
「まぁ悲しむ私を美鈴が慰めてくれるならいいけど。主に身体で」
どうしよう、今日の咲夜さんすごくめんどくさい。ていうか、確実に慰めて貰うのが目的ですよね? そのためにこんな無茶な仕掛けしたんですね?
なら私にも意地があります。なんとしてでも全てのチョコを私が食べます!
「ねぇお姉様、さっきの花火綺麗だったね」
「そうね」
「ねぇお姉様、なんで美鈴がチョコアイス食べながらあちこち走り回ってるの?」
「そういう日もあるのよ」
「ふーん、門番も大変なんだね」
「ところでフラン。貴方のくれたチョコ、何で一つだけ致死量超えたタバスコが混ざってるのかしら?」
「ん、嫌がらせ」
「……お姉ちゃん、泣きそうよ」
「これで、はぁはぁ……百……四十、九個」
気づけば日はとっくに落ちていて、やっとの思いでここまでパラシュートチョコを集めた。
アイスを舐めながら走り回るのがこんなにきついとは思わなかった。
「後一個、もうどこにあるんだか」
館中を走り回り、木に引っかかった物から屋根の上に乗っかった物、すれ違うメイド全てに声をかけて聞いて回った。
「もう誰かが食べちゃったのかなぁ」
それは不味い。今夜咲夜さんにナニをされるか分からない。なんとしても見つけ出さないと。
しかし、これ以上どこを探せば見つかるのだろうか。
「結局、ここに戻ってきちゃったなぁ」
もはや当てもない為、私は見慣れた門前に戻ってきた。
「ひょっとしたら館の外に飛ばされちゃったのかなぁ」
そうなったら見つけ出すのは不可能に近い。
全部集めなれなかったら、咲夜さんなんて言うか。
「……とりあえず、私の身が危ないなぁ」
慰めと称してどんなことを要求されるかわからない。
「まぁ、考えても仕方ないし、もう一回館の中を探してみますか」
私は若干重い足取りで館へと戻ろうとした、その時だった。
「お探しの品はこれかしら?」
真後ろから聞きなれた声。
「咲夜さん。いきなり背後に立つのやめてくださいって何度も言ってるでしょう」
「今は手土産付きということで許してほしいわね」
「……咲夜さん、それはずるいです」
さっきまで探し続けていた最後のチョコ。それが咲夜さんの手の中にあった。
「さて美鈴。このチョコ、どんな条件で引き取ってくれる?」
卑怯極まりないです。どう転んでも咲夜さんの一人勝ちじゃないですか。
「一応聞きますが、快く素直に譲ってはくれないんですか?」
返答は分かりきっているけど、出来る限りのネゴシエイトを試みる。
「とりあえずベッド行きましょうか美鈴」
無視ですか、話し合いのテーブルに着く気すらありませんね。
でも私もほいほいと着いて行くわけにはいかないので、咲夜さんは間違いなくノンケだって食うタイプですから。
「とにかく咲夜さん、いったん話し合いましょう。手口が汚いですよ」
「前にも言ったでしょ。貴方のことなら卑怯にもずるくもなるって」
確かに言いましたけど、今回のは意味合いが違いますよ。
どうしよう。強引に奪い取る? いや、咲夜さん相手に追いかけっこの真似事で敵う訳がない。
ならばどうする? こうなったら背に腹は変えられない。あまり使いたくない手段ですがやむをえない。
私はゆっくり顔を俯かせ、ゆっくり咲夜さんの目を見つめる。俗にいう上目遣いというやつ。
そして私は、咲夜さんが聞き取れるすれすれの声で呟いた
「咲夜さん……あんまり意地悪しないでくださいよぉ」
「ぶるっはぁ!!」
とたん咲夜さんは背中を激しく仰け反らせ、噴水の如く鼻時を噴出した。
「もらったぁぁぁ!!」
無論その隙を逃すはずもなく、私は咲夜さんの手から包みを奪い取る。若干返り血がついたがこの際気にしない。
「く、卑怯なのはどっちよ……」
片膝をつきながら咲夜さんはハンカチで鼻を押さえる。
「卑怯にもずるくもなります。なんせ我が身の為なので」
とりあえず、これで身の安全は確保できた。
後はとっととこれを食べてしまうだけ。
「うう、美鈴……そんなにしてまで私を拒むの?」
咲夜さんが先ほどの体勢のまま私を見上げてる。
「そういうわけじゃありませんよ」
「じゃあなんでよ、なんでそこまで……うう」
なんでと言われても、なんでもですよ。
こんな手段で迫ってくる咲夜さんを受け入れる気にはなれません。
咲夜さんは相変わらずそのままの体勢で項垂れてしまった。
「私……貴方のこと、本当に……なのに」
え? あの、咲夜さん?
「こんなに、こんなに沢山……頑張ってるのに」
「さ、咲夜さん? ちょ、どうしたんですか?」
おかしい。何かがおかしい。
「なのに……貴方は、ひっく」
なななな、泣いてるんですかー! 何で!? どうして!? え、私のせいですか!?
鼻を押さえていたハンカチは、いつの間にか目元に当てられていた。
「ささ、咲夜さん!? 落ち着いてください! こんなとこ誰かに見られたら誤解され――」
「誤解? 誤解って何? まるで美鈴が私を泣かしてるって? その通りじゃないの!」
なんてこと言い出すんですか!?
「わ、私はそんなつもり……」
私はとにかく咲夜さんを落ち着かせたくて、咲夜さんに視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「いつも私ばっかり頑張って……空回りして」
「空回りでも、咲夜さんが頑張ってるの知ってますよ」
「一生懸命なのに、全然伝わんなくって」
「焦んなくていいんです。少しづつ分かれば」
「こんなに美鈴が……なのに」
「ええ、私もです」
咲夜さんがゆっくり顔を上げてくれた。
「美鈴……」
「咲夜さん」
互いの名を呼びあう。そして、そして……
「もらったぁぁぁ!!」
そして見事にチョコを奪われた。
それはもう見事なまでの早業で、一切の比喩無く時間を止められたかのように。
「こんな手にかかるなんて、チョコレート五百個分は甘いわ美鈴」
咲夜さんはチョコを奪い取り、そのまま軽く飛び引いた。
「さて、美鈴。どうしましょうかこのチョコ」
「咲夜さん」
私は咲夜さんの言葉を無視して、咲夜さんへと足を踏み出した。
「とりあえず、今夜は貴方が私を慰めてくれるでOK?」
「咲夜さん」
また一歩、踏み出す。あと五歩もあれば咲夜さんにたどり着く。
「そうと決まれば、膳は急ぎましょうか」
「咲夜さん」
また一歩、残りは四歩。
「愛を確かめつつ深め合う。素晴らしいことね」
「咲夜さん」
また一歩、残り三歩。
「美鈴も、もっと早くに受け入れてくれればいいのに」
「咲夜さん」
残り二歩。
「でもまぁいいわ」
「咲夜さん」
あと一歩。次で咲夜さんの目の前に立つ。
「これで……」
「咲夜さん!!」
咲夜さんを捕らえる。両腕で、優しく、力強く、決して逃がさない様に。
「めい、り……ん?」
「咲夜さん、無理しないでください」
そんな顔じゃなにを言っても強がりにしか聞こえませんよ?
目を真っ赤にして、頬を濡らして、鼻をすすって、声が震えてるじゃないですか。
「最近、あまり構ってあげれませんでしたね」
その銀色の髪をそっと撫でてあげる。
「ごめんなさい。咲夜さんがこんなになるまで気がつかなくて」
「美鈴……」
咲夜さんがこんな必死になってるのに、私は答えなかった。
あまりにも咲夜さんがいつも通りだから、私もいつも通りだった。
でも本当は、咲夜さんは悩んでて、なのにそんな素振りを見せなかった。それはきっと……
「私の前でくらい、弱いところを見せてくれてもいいじゃないですか」
「……でも、貴方は私に、完全で瀟洒でいて欲しいって」
きっと、私のせいだから。
「いて欲しいです。でも、だからこそ私の所で休んでも欲しいんです」
我がままかも知れない。常に完全で瀟洒で、それでいて私の前ではたまに休んで欲しい。
「だから、今は休んで下さい。じゃないと、咲夜さんが疲れちゃいます」
疲れが溜まって溜まって、溢れてしまう。もう咲夜さんが泣いてるのは見たくないですから。
だから休んで下さい。
「美鈴……」
咲夜さんの腕が私の背中に回ってくる。私も答えるように腕に力を込めた。
もう少し、こうしていよう。咲夜さんは泣き顔を見られるのを嫌うだろうから、私の好きな笑顔になるまで。
「ということが一ヶ月前にありまして……聞いてますかアリスさん?」
「うん、聞いてるから。この一ヶ月ここに来るたびに聞かされてるから」
「それで、そのチョコというのがこれなんですが」
「もう見たから。この一ヶ月、貴方チョコ食べてるところしか見てないから」
「正直結構しんどいんですけどね、咲夜さんがくれたものですから」
「それ以上、苦労話と銘打ったのろけ話を続けるなら私帰るけど」
「ああ、それは失礼を。今日も図書館へ、ですね?」
「ええ、それじゃ通してもらうわよ」
「はい。続きは帰りにということで」
「……喋れなくなるくらい重度の虫歯になってしまえばいいのに」
「ねぇフラン。一つ聞いていいかしら?」
「なに? お姉様」
「何でいきなり縛られてるのかしら? 私」
「今日がホワイトデーだから」
「うん、そうね。だからお返しにクッキー用意したんだけど」
「あれじゃ足りない。ホワイトデーは三倍返しが基本だってパチュリーが言ってた」
「それと私が縛られてるの、何の関係があるのかしら?」
「足りない分は身体で払ってもらえって、パチュリーが言ってた」
「とりあえず紫モヤシは自分のロイヤルフレアで干からびればいいと思うわ」
「それじゃ納得した所で、ベッド行こうか?」
「してないから、納得してないから」
「え? ベッドじゃないほうがいい?」
「お願いだから話を聞いて……って、フランそのじりじりにじり寄るの止めて、いや服に手をかけないでってば顔が近いわよどこ触ってるの顔が近いってばお願い耳と羽の付け根はダメなのせめてベッドでじゃなくて私たち姉妹なのいやそれがいいとかじゃなくて……もうどうにでもなれ!!」
「パチュリー様、今なんかお嬢様の断末魔が聞こえたような」
「気のせいよ」
「それより私、まだホワイトデーのお返し貰ってないんですけど?」
「テーブルのクッキー、もしくは今晩私が貴方のベッドメイクするのと、どっちがいい?」
「どっちもでお願いします」
「なんで、また目の前に隕石が落ちてきてるんですかね? 咲夜さん」
「とりあえず私の作れる限りのクッキーとかマショマロとか詰め込んでみました」
「お気持ちだけは嬉しいんですけどね」
「この想い、答えてくれないとまた泣くわよ?」
「これだけの物に答えられるほどのお返しは用意してないですよ。ただのホワイトチョコです」
「身体で返してくれれば私は満足よ」
「まぁキスくらいはいいですけど」
「相変わらず返し方が冷た――ええぇ!!」
どこから見ても紅魔館。
個人的に姉妹が良いです。
そしてタバスコは危険です妹様
お嬢様はフラ様専用で良いと思います。
甘々ですね、だがそれがいい
……ハアハア……ヘタレミリア……ハアハア!!
フランちゃんはやはりツンデレだったのですね
しかしこれはよい桃魔館。
>>膳は急ぎましょうか
「善」の誤字なのか「据え膳」的な意味とひっかけてあるのか小一時間悩んだぜ。
後者だったならすまん吊ってくる。
電車の中だというのにニヤニヤしてしまったじゃないか…!
あなたのめーさくを待ってました!
マショマロ
めーりんかわいいのう
タバスコのせいで喉かきむしって暴れまわってすごい悶絶して死にかけた友人がいるんだ!!
これは良い桃魔館だぜ!!
読み終わったあとにはコップが空になっていた。