Coolier - 新生・東方創想話

想いは神と風を越えて

2009/03/03 09:35:44
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「ふぅ……」

今の射命丸文には悩みがある。
何故かくるくるくるくると、寝ても覚めてもある少女の顔が浮かんでくる。
彼女の喜ぶ顔が、怒った顔が、哀しそうな顔が、楽しそうな顔が頭から離れない。
ただの人間なのに、ただの取材対象の一人なだけだったのに。
何故……彼女は自分の中でこれほどまでに大きくなっているのだろう?

「はぁ……」

その問いに答えられるものは居ない。
文自身、そもそも何故こうまで心が乱れているのか分っていないのである。
相談など出来るわけも無く、出来る相手もいない。

「会いたいな…会って良いのかな…?」

明日入稿予定の新聞の執筆はまるで進まない。
ネタ自体はある程度溜まってはいるが、何か書こうとしても少し意識が離れたと思えば、彼女の名前だけを乱雑に書き殴っている。
重症だ。
何がどういう原因で重症なのかは自身でも理解できなかったが、重症だということだけは文も自覚してはいた。

「東風谷…早苗……」

東風谷早苗。
一年ほど前に突如、外の世界から巨大な社と湖と共にやってきた、現人神と自称する人間。
存在的な力はかなり高いものを持っているが、所詮は人間。
 天候を操る奇跡を起こすが、あの生意気な天人に比べれば格段に劣るだろう。
何より、この幻想郷では彼女程度の力や存在など十把一絡。
同じ巫女なら、遥かに博麗神社の霊夢の方がネタ的にも存在的にも格上である。

結論から出してしまえば、彼女に固執するべき理由など何も無い。
しかし、頭で理解しても心がそれに従わない

――彼女の得意げな顔が忘れられない。

――彼女の悲しそうな顔が忘れられない。

――彼女の怒った顔が忘れられない。

――彼女の笑顔が忘れられない。

早苗がその表情を変えるだけで、万華鏡を見る様に心が乱される。
否、それは心踊るといった方が正しいかもしれない。
早苗と居る事に苦痛を感じることは無い。
それは外の世界で生まれ育ったのか生来の気質かは分らないが、彼女といる時は幻想郷の住人たちを相手にする時とは違い、あまり肩に力をいれずにすんでいる。
それが、その心地よさが文の早苗に対する正直な感想だった。

だが、そうなると一つだけ分からない事がある。その分からない事こそが、今最も文が知りたい事でもある。

――ならば何故、早苗を思うと、こうまでも憂鬱になるのだろう?

辛いわけでは無い筈なのに、苦手なわけではない筈なのに、心地よさを感じるというのに、早苗の事を想うとまるで五里を包む霧の中を彷徨う気持ちになるのは何故だろう?
そんなことをここ一ヶ月ずっと文は考えていたのであった。








「……で、私は家で原稿を書いていたはずなのに、何故ここにいるのでしょうね?」
「はい?何かおっしゃいましたか?」
「いいえ、何も」

そんな事を考えていた文は、気付いた時には何故か守矢神社の客間で早苗と話をしていた。
家で作業机に向かってから時計の類を確認していなかったので時間の経過不明であるが、日の高さを見る限りではかるく三時間は経過してる可能性がある。
そんな長い時間、無意識で家を出て、守矢神社に来訪し、早苗と談話していたのである。

何か変な事でも口走ったりしていなかった文は不安ではあったが、早苗に特に怪しい態度は見当たらないので、とりあえず胸を撫で下ろす。
しかし、ここまで来ると夢遊病に近いなと文は心の中で苦笑すると、早苗との話を再開する。

それから暫くは取り留めない話で場を繋いだ。

人間の里のカフェに新作のデザートが出来たとか。
早苗がにとりに説明をした冷蔵庫の河童型試作機が完成したから、今度立ち会ってほしいとか。
幻想郷に守矢神社が来た時に知り合った白狼天狗の椛が、この間盛大に滝に突っ込みそれを自分が助けたことなど

「いや、まったく。椛が滝に流された時はどうなるかと思いましたよ……」
「ふふふ……でも私、文さんのそういう優しいところが…好きだな」
「え…?」

私が、優しい……?
ふと、早苗が放った一言が文の頭に反響する。

――ああ、そうか。

今の早苗の一言で、文は確信した。いや、してしまったと言うべきか。
早苗に対する心の霧の正体を。
それは、知ってしまった今だから分かる認めたくない気持ちの形。

「私一人っ子でしたし、外の世界じゃ奇跡を起こす力があっても一人で……だからかな、文さんがお姉さんみたいで」
「…ふふ」
「文さん?」

その想いを認識した時、文から零れたのは笑み。

心配そうな顔で自分を見つめる早苗が、文には滑稽で貯まらなかった。
だから、もう我慢することはしなかったし、する気も無かった。

「アハハハハ!!もう無理。駄目。可笑しすぎて笑いが止まらないわ!早苗、貴女は私が本当にそんないい子ちゃんな性格だと……本気で思ってたんですか?」
「え……?」
「ハッキリ言いますよ早苗?」



それはただの――幻想よ



そう一言ハッキリと、文は早苗に告げる。

「どうしたんですか…どういう…ことですか…?」
「分かりませんか?早苗が、私に抱いている人間像を言葉にしただけですよ?」
「そんなの違います!」
「いいえ違わないッ!」

その言葉を否定しようと早苗は叫んだ。
だがそれを打ち消すように、その否定を否定するように、怒気を含んだ声で文が叫ぶ。
その豹変振りに早苗はビクリと震えると一歩あとずさる。
早苗はその時の文が、文の表情が怖かったのだ。
今まで、冗談交じりで声を荒げた文を見た事はあった。
だが今の叫びはそんな物とは根本的に違う、底知れぬ怒りが込められた叫びである。

「なら?早苗は私の何を知ってますか?私がどういう生き方をして、どういうものが好きで、どうして……ここに来てるかを?」
「そ、それは……」
「知らないでしょう?知らなくて普通なんです。だって私、誰にも教えたこと無いんですから」
「あ……」

その一言で、早苗の顔が青く染まっていく。

――だってわたし、だれにもおしえたことないんですから

そう、早苗は文の事を何も知らない。
新聞記者なのは知っている。
幻想郷一とも言える最速の称号を持つことは知っている。
自分たちの現在の住居である妖怪の山に所属する妖怪だということも知っている。

だが、それ以外は知らない。

「それで私の事を優しい?お姉さんみたい?……やめてくださいよそんな理想の押し付けなんて」
「わたし…私、理想なんて押し付けてなんか……」
「“優しいお姉さん”として私を見ていたんでしょう?望んでいたんでしょう?それこそ早苗が私をそういう色眼鏡見ていた証拠よ」

文の言葉が、早苗の心を貫く。
文は自分にいろんな話をしてくれた。
幻想郷のこと、妖怪の山のこと、この楽園の面白おかしい素敵な住人たちのこと。
いろんな事を話してくれた、教えてくれた、今もそうだった。

早苗もまた、取材と言う形でいろんなものを話した。
外の世界のこと、自分たちの事、誇るべき神、八坂神奈子と洩矢諏訪子のこと。

だが、文の事を訊ねた事は思い返すと確かにない。
文が、自分の事を話したこともまた……ない。

考えて、思い返せば文の言ってる事は全て真っ当な事。

「あは♪ショックでした?でも本当の私は、自分のためなら今みたいに誰を傷つけても心なんか痛まないのよ」
「う、嘘です!だって、文さんは優しくしてくれました……ここでは普通の人間かもしれない私に優しくしてくれました!!」
「取材対象なんだから優しく接するなんて当たり前ですよ。プリミティブな衝動にしたがって生きるのがこの私、鴉天狗の射命丸文なの」














(違う……私、わたしは……こんな事言いたかった訳じゃないのに!)

――何故、こうなってしまったんだろう?
文は自問自答を繰り返す。
ただ、思考を遮る霧を払いたくて。
ただ、早苗が気になるから話がしたかっただけなのに。
ただ、早苗と一緒に居る空気が心地よかっただけなのに。

――何故、こうなってしまったんだろう?
今はもう、何もかも忘れたかった。
分からない。
分からない。
分からない。分からない。分からない。分からない。

「あれ?泣いちゃいましたか?」

だからもう、このままの流れに身を任せるしかなかった。
今更否定した所で何も変わったりしない。
今、自分は早苗との繋がりをこの手で断ち切ったのだから。

「それじゃあ、私はこれで失礼させていただきます。いい新聞が書けそうですよ」

だからもう、苦しむ事はない。
だからもう、迷うことはない。
だからもう、早苗の事で心乱されることなど…ない。

「あは、あはは、あははははは……」

文は出来るだけ嫌味ったらしく、出来るだけ早苗を傷つけるように、出来るだけ突き放すように、笑いながら部屋を後にする。
部屋を去る際に一度だけ後ろを振り返る。
ショックだったのか、早苗は放心状態で俯いていた。

その事は幸いだった、文にとっては。

頬を伝う涙。
何故泣いているのかすら分からない。
でも確実に今、自分の顔を歪ませている涙。
その顔を、早苗に見られることが無いことが幸いだった。













――何故、こうなってしまったんだろう?
いつもと同じように、文は神社にやってきた。
いつもと同じように、文を客間に通し、お茶を出した。
いつもと同じように、文の話してくれる幻想郷のニュースを楽しく聞いていた。

「私…文さんの事…何も…知らなかった……」

気付くと、文の姿は部屋にはなかった。
恐らくは家に帰ったのだろう。
当然だ自分は文を不快にさせていたのだから、それはとても自然でとても当然のこと。

「文さんはずっとずっと…私の所に来てくれたのに…ずっと不快にさせてたいたんですか?」

その問いに答えられる者は、この場に居ない。
神である神奈子も諏訪子もこの問いには答えられないだろう。
だがきっと、文は先ほどのことで言いたいことは全て言ったと早苗は感じていた。

不快だったと直接口にしなかったが、恐らくそう思っている。
そう、早苗は思っていた。

「でも私、嬉しかったんです…幻想郷では私なんか特別じゃないのに、それでも取材といって頻繁に来てくれた事が…嬉しかったんですよ?」

それは確かに文の言う通り都合のよい理想だった。
それは確かに文の言う通り自分の為の幻想だった。
それは確かに文の言う通り文の事を何も知らない自分が生み出した夢想だった。

でも――

文が居てくれたことが嬉しかったのは嘘じゃない。

「文さんの動機が新聞の為だけだったとしても、私……嬉しかったんです……」



――何故、こうなってしまったんだろう?
それは、自分が踏み込もうとしなかったから。
それは、文という存在に甘えていたかったから。
それは、現実が理想を飲み込むことが怖かったから。

「だから、私は……」

伝えなくてはいけない、この想いを。
伝えなくてはいけない、この願いを。
知らなくてはいけない、文の本当の願いを。
知らなくてはならない、文の本当の想いを。

自分の姿を諦めが悪いと、他者は笑うかもしれない。

それでも否定されるのであれば、拒絶されるのであれば、自分と文はそうであっただけと納得できるから。
そうならない事を早苗は切に願い、その瞳に並々ならぬ決意を宿して外に駆け出すと守矢神社に背を向け飛翔する。

「はじめよう、文さんと……」

















「文さ~ん、開けてくださいよ。お話しましょうよ」
「何で此処まで来たんですか!?」

家に付いた文は、そのままベットに倒れこみ、今日おきた出来事を封じるように目を瞑っていた。
だが、それが罪であるよう、脳裏に焼き付いて離れない早苗の姿。
時間が止まったと感じるほどに長い時間、あるいは現実の経過少なかったかもしれない。
そんな混沌とした感触を体感していた中、文は戸を叩く音に気付き、よろよろと起き上がると戸を開けた。

「こんにちは、文さん」

開けた先にいたのは、何故か早苗だった、笑顔の早苗だった。
その顔を確認するや否や、開けた戸をその四倍速で閉じた。

それがほんの数分前のお話。
そして、現在進行形で早苗は文の家の前でひたすら声を上げ、戸を叩く。
大声で、早苗を拒絶したかった。

だが……出来なかった。

神社では出来たのに、今は出来なかった。
早苗を家に招き入れることも、外に出て追い返すことも、今の文には何故か出来なかった。

「私、文さんとお話がしたいんです。顔を見てお話がしたいんです」
「……残念ね、私は話したくない」

先ほど神社であれほどまでに強く拒絶したのに、何故まだ私に会いに来るのか?

文は分からなかった。
疎ましい気持ちといとおしい気持ちが混在している。
受け入れたくもあるし拒絶したくもあった。

だから、文は動けなかった。

「文さん……どうしても中に入れてくれないのなら」

早苗の気配が少しだけ離れる。
文は漸くあきらめてくれたのだろうかと思いつつも、早苗の声色から何か別の手段を使うつもりだと考えを直した。

「――奇跡」

スペルカード宣言。
弾幕ごっこを行う際の宣言は大切なことである。
今はそんな状況ではないのでいちいち言う必要はないのだが、宣言をしている以上、その力を解放するのは分かりきった事である。

ならば、その力の矛先はどこに向けられるのだろう?

「神の風!!!!」

風を操る程度の能力を持つ文にとって、それを知るのは容易かった。
早苗がありったけの力で周囲から力を掻き集め、収束させている。
流石、風神を祭る風祝。なんて事を考えていた文だがその力が放たれる瞬間、玄関に向けて己の力を全開にする。










早苗は文と話がしたい。
“顔”をあわせて話がしたいのである。
その為には目の前にある文の家が、外界を遮断する戸が、壁の様に阻んで邪魔をする。



だから――文と自分を阻むモノは全て破壊する。



単純にして明快なる答え。
早苗は文に会いたい一心で此処に居るのだから、それは必然の答え。

刹那、爆音が妖怪の山を支点に幻想郷に響き渡る。

「い、家を吹き飛ばすことは無いでしょう!?」
「文さんが顔を見せてくれないからです!お話してくれないからです!」

瓦礫の中から文が姿を現す。
文の住居は床の部分を残して粉微塵に吹き飛んでいた。
それだけの力が込められた一撃を、無傷で防ぎきったのは一重に自分の力でなく、早苗が大まかな位置だけど自分に力が及ばないように考えたと文は知っていた。

「文さん…あの…」
「私は早苗に会いたくないの!!」

顔を合わせた早苗の第一声はやはりそれだった。
だから、それを断るように文は先に言葉を返す。

「私は文さんと話したいんです!!」

それでも早苗は引き下がってはくれない。

――どうして?

もう、文にはそれしか考えることが出来なかった。

「どうしても……どうしても帰るつもりは無いのね?」
「はい。文さんがちゃんと私とお話してくれるまでは」

早苗の顔を直視できない文は俯いて答えた。
文の顔を信じて見つめる早苗は高らかに答えた。


「分かった、早苗の言い分は分かったわ。なら…叩きのめしてでもお帰りになってもらうから!」

文が顔を上げる。
手に持った団扇を早苗に向けると、不可視の刃が早苗に放たれる。
風を圧縮したそれは、早苗に足元深々と疵痕を残した。

それは威嚇。
弾幕ごっこでもなくスペルカードバトルでもないとの無言の宣言だ。
今までの早苗ならそれで諦めたであろうが、今の早苗には諦められない理由がある。

「文さんの本当を知るまでは……意地でもお話しして貰うまでです!」

その言葉に文の顔が歪んだ。
それは憎しみと怒りなのか、寂しさと申し訳なささなのか分からない、悲しみの歪み。
だから、文は早苗から逃げるように空へと昇る。
そして、早苗は文を目指して空へと昇る。

早苗と文の力が、交差した。







戦況は、圧倒的に早苗が不利であった。
それもそのはず。妖怪と人間ではあらゆる面で妖怪が勝っている。
外の世界育ちの早苗には、その差を埋める知識も技術も経験もない。
何より、文は上から数えた方が早い位置に居る、トップレベルの実力者。

五体満足で今現在居られること自体が、正に奇跡。

だが、それが奇跡ではなく必然であるとわかっていたのは、果たしてどちらであろうか?

「いい加減しつこいのよ早苗!」
「しつこくてもいいです!私はそれでも文さんと一緒に居て、お話したいんです!!」

その一言は、早苗も無自覚に発していた。
先ほどまでの話をしたいに、一緒に居たいと加えて口走った事。
まだ、

「いや……見ないで、見ないでよその目で……!」
「文さん!」
「ッ……!その目で私を見るなって言ってるでしょ!?」



「大体、私は早苗のそういう所が嫌いだったのよね…わがままで、自分勝手で、何でも思い通りになると思ってる!神様って傲慢ですね!」

先ほどまで目の前に居た文の声が背後から聞こえる。
振り返ると、文が目の前に、団扇に風を纏わせ一直線に振り下ろそうとしていた。

「なっ…!?私も文さんのその態度、嫌いです!人に媚びるだけ媚びて、自分で踏み込もうとしないじゃないですか!」

振り向きながら早苗は御幣に自分の力を通すと、文の一撃を受け止める。
そのまま顔が付くほどの至近距離で、鍔迫り合いの様に御幣と団扇を絡め、文に一言返す。

「ええそうですよ。悪いですか?私はそういう風に生きてきましたし、これからもずっとそう生きていきます」
「意気地なし!根性なし!」
「お好きにどうぞ?」

文はもう、早苗の言葉はまともに聞いていなかった。
正確には、聞いていられなかった。
何故、自分に拘るのか?そうまでして自分と居て何になるのか?あれだけ傷つけるようなことを言ったのに、何故……

だから、受け流すような言葉しか返せなかった。

「私が文さんの事を好きって気持ちも、想いも、そうやって笑って踏みにじるんですか!?」
「……え?」





だけど、その言葉だけは聞き逃すことはなかった。




早苗が好きだといった?誰を?
それを笑って踏みにじろうとしてる?誰が?
他の誰でもない、自分だ。

――東風谷早苗は、射命丸文の事を好きだといってくれた。

あれだけ酷い事を言ったのに、傷つけるような事を言ったのに、そんな自分を好きだと言ってくれた。

文はそれは早苗が抱いている夢だと言いたかった。
いつかその夢が、自分という現実に飲み込まれると言いたかった。
だから、早苗が傷つかないように早苗に嫌われないように、もう一度否定してあげないといけないのである。

だけど……もう一度そう伝えて、今度は自分がまともで居られるか、文には自信がなかった。

そう、気付いてしまえばそうだった。

――射命丸文は東風谷早苗が好きなのだ。

だから、早苗の事を考えると胸がもやもやした。
だから、早苗が偽った自分に好意を抱く事が耐えられなかった。
だから、本当の自分を見せるのが怖くて……逃げ出した。

本当に今になって、文は自分の心に気が付いた。
しかし、言葉に出したわけではないので早苗がその事に気付くことはなかった。
早苗は何故か無防備に突っ立っている文の両肩を、持てる力すべてを使って掴んだ。

――もう離さないという意思表示のように

「私…文さんのそういう所が大嫌いです!」
「私も…私も早苗のそういう所が大っ嫌いよ!」
「愚直な生き方しか出来ない私には羨ましかった…妬ましかった…ずっとずっとそう思ってた!」
「どこまでも真っ直ぐで、どこまで純粋で、だからその目で見つめられるのが私は怖かった!」
「でもそれは違って、私は本当は文さんみたいな自由な生き方をしてみたかった!……憧れてた!」
「早苗が幻滅するんじゃないかって、“優しいお姉さん”じゃなかったら、特別視しなくなるんじゃないかって…怖く怖くて仕方なかった!」

矢次早にお互いの言葉をぶつけ合う早苗と文。
二人ともお互いの言葉を伝えたく、相手の言葉を聞くや否や本音を暴露する。

早苗は文が好きであり、文は早苗が好きなのである。

ただ二人ともその想いがすれ違うのが怖くて、今の穏やかな空気が壊れるのが怖くて、すれ違い、壊れてしまった。

そして、一度壊れてしまったのがきっかけに思い思いの言葉を伝える。

「今でも怖くてたまらない!今こういう風に話してるだけで、早苗が離れていってしまうみたいで――」
「離れたり、しません!!」

その言葉の応酬に終止符を打ったのは、早苗だった。
文の肩から手を離すと、文の体を抱きしめた。

離れたりしないという言葉を、早苗は現実に変えた。

「絶対離しませんからね。私神様ですから、現人神ですから。神様は我侭なんです、お構いなしなんです!」

――だからもう離れたりしないでほしい。

文は早苗の言葉がそう言っているように聞こえた。
早苗が言ってることはちょっと滅茶苦茶だけど、文にはそれがとても心地よかった。
いや、心地よいでは表せない。
それこそ今この場で踊り狂える程、その想いが嬉しかった。

「偽りの笑顔を見せ続ける…私は…そう生きてきました」

嬉しかったからこそ、早苗に正直に伝えた。
涙交じりで、答えた。
好きと言う気持ちと裏腹に早苗を拒絶した事に対して、それでも好きだと慕ってくれた早苗に対して、本当の自分を見せる怖さに対して、そしてそれを受け入れてくれる早苗に対して。
その全ての想いを一つに、ただ、年端も行かぬ少女の様に、文は泣いた。
泣きながら、早苗に想いを伝える。

「けど、今は…そうしたくない自分が居る……少なくとも早苗の前ではそうしたくない自分が居ます」
「……私の前以外で、その姿を見せないでください……きっと、文さんを好きになる人が出来ちゃいますから」

抱きしめられながらそんな事を言われた。
文の今の体勢からからでは早苗の顔が見れないが、きっと拗ねるような顔をしてると想像していた。

そしてそれは、早苗がありのままの自分を受け入れて、自分だけの物にしたいという愛情の言葉。
だから、そんな事を言われたから、文はまた…泣いた。

















それから少しして、早苗と文は壊れた家の大きな瓦礫に並んで座り、空を見上げながら話をしていた。
誰にも断ち切れないように、腕を絡めて手を握り合い、早苗は文の肩に頭を乗せ、その頭に文は頬を当てていた。

「文さんの事、色々教えてください」
「……うん」
「それから私の事、私たちの事、もっともっと新聞が一年でも二年でも十年でも書けちゃう位お話します」
「……うん」
「それから二人のことを一杯お話しましょう!」
「……うん」
「それから……それから……」
「早苗……」
「はい?」
「ごめんね、ありがとう」
「ごめんなさいを言うのは、私も同じです」
「早苗」
「はい?」

ちゅ…という音と共に、文の唇が早苗の唇を塞いだ。

「私、早苗のことが大好きだからね」

その顔にもう涙は無く、ただ一人の可憐な少女の笑顔があった。
はじめまして、文として何回か書いた事はありますが、こういうところへの投下は初めてです。
早苗さんが好きです、文が好きです。
転じて二人が好きなのですが、巫女コンビや天狗コンビのお話はあっても、この二人のお話はほとんど無い状態。

だったら、書いてしまおうっと、作ったのがこの作品です。

この作品を読んでいただいた人の中に、一人でも早苗さんと文のお話を望んでいる方が居て、満足してくれれば個人的にはOKです。

作ってる間に早苗さんが自機に昇格したので、早苗さんおめでとう的な雰囲気も少し…かな?

では、機会があったらまたお会いしましょう。
マサキ
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コメント



0.1050簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
さなあやは発想になかったが、なんかいいなぁって思ってしまった。

次はもっといちゃいちゃさせてください
4.90名前が無い程度の能力削除
友情が構築されるベタ場面Best3に入るくらいベタな展開でしたが……それがイイ!!
百合っぽいんだけど百合っぽくない。そこらへんが絶妙かと。
5.100名前が無い程度の能力削除
雨降って地固まる
まさしく八坂神と洩矢神の御神徳の通りじゃないか!
そして王道!すばらしい!
9.100名前が無い程度の能力削除
とりあえず家立て直せw
15.80名前が無い程度の能力削除
いいですね。すらすらいけました。
17.100名前が無い程度の能力削除
よし、もっとやれ!!
20.100名前が無い程度の能力削除
百合……友情………うーん、百合……まぁ当人たちにも区別できてないかもしれない感情をこっちから定義するのもアレですね。
とにもかくにも、ごちそうさまでした。
26.100名前が無い程度の能力削除
何か新しいものに目覚めそうです。
いいものを読ませていただきました。ごちそうさまです。
32.70名前が無い程度の能力削除
文章を書くのが上手い中学二年生が書いたような作品。嫌いじゃないが、読んでて恥ずかしくなる。