閻魔様。お願いがあります。
私を、地獄に落として欲しいのです。
何故そんなことを言うのか?
必要とあれば、お話いたしましょう。
私には、地獄に行かねばならぬ理由があるのです。
そこに、どうしても会わなければならぬ人がいるのです。
――実は私、生きながら地獄に落ちたことがあるのです。
そう、それは湖に釣りに出掛けた帰り道のことでした。
何でもない草むらの中に、まるで落とし穴のようにその穴はあったのです。
茂みに隠れたその穴に、私は右足をとられました。
何かに掴まる暇もなく、私は暗闇の底に真っ逆さまに落ちていきました。
次に気がついたとき、そこは冷たい風の吹く洞窟の中でした。
土の上に倒れ伏して、私は全身の痛みに指先ひとつ動かせずにいました。
ここがどこなのか、自分が生きているのか死んでいるのかも解らないまま、私は闇の中、このままひっそりと朽ちていくのかと思いました。
しかし、捨てる神あれば拾う神ありとでも申しましょうか。
ぐに、と私の頬を踏みつける足がありました。
私が視線だけで上を向くと、少女が驚いたようにこちらを見下ろしていました。
不思議な目をした、幼い少女でした。
「……人間? こんなところに?」
と、少女は驚いたように私を覗きこんで、目を細めました。
私は全身の力を振り絞って、自分が生きていることを伝えようと口を動かしました。声は出ませんでしたが、少女にはそれで伝わったようでした。
少女の手が、私の頬に触れました。優しい手でした。
「――今、うちの者を呼んできます。少しだけ待っていてください」
そう言い残し、少女の姿は遠ざかっていきました。私は動けないまま、ただあの少女の触れた感触を思い出していました。
「なんださとり様、生きてるじゃないですかこの人間」
「燃料にしてはいけませんよ、お燐」
少女が連れてきたのは、猫耳と三つ編みの少女でした。お燐と呼ばれた猫娘は、土嚢でも運ぶかのように私を乱暴に猫車に乗せて、運び始めました。
「いくらさとり様でも、生きた人間まで拾うこたぁ無いじゃんねえ」
猫娘はそんなことをぼやいていました。あの少女の名前は、どうやらさとりと言うらしい、と私は理解しました。さとり。聡明そうな響きです。あの少女の不思議な瞳には、これほど似つかわしい名前はないだろう、と思いました。
ほどなく、私を乗せた猫車は大きな屋敷にたどり着きました。どうやらここが彼女の家のようです。彼女はいいところのお嬢様なのだろうか、と屋敷を見上げて私は思い、それから猫娘のことを考えました。
そう、この猫娘はおそらく妖怪でしょう。
だとしたら、妖怪が「さとり様」と呼ぶあの少女も――妖怪なのでしょうか。
しかし、あんな優しそうな瞳をした妖怪を、私は知りませんでした。
「大丈夫ですか」
運び込まれた私の手当てをしてくれたのは、さとりというあの少女でした。
「しかし、人間のあなたがどうしてこんなところに?」
彼女の問いに、私が答えようとすると、「ああ――そうですか」と先に彼女が頷きました。
「地上のどこかに穴が開いていたのですね。そこから落ちたのですか」
私の考えていることがどうして解ったのでしょう。私が目をしばたたかせると、彼女は目を細めて微笑みました。
「大丈夫です。あなたの考えていることは解りますから。今はゆっくり休んでください。何かあったら、無理に声を出さなくても伝わりますから」
布団に私を寝かせ、そう声をかけてくれた彼女に、私はただ感謝を念じました。
それが伝わっているかのように、彼女――さとりは優しく微笑んでくれました。
どんな薬が使われたのかは解りませんが、一眠りすると全身の痛みは嘘のように引いて、私は起きあがれるようになっていました。
寝かされていた部屋を出ると、さとりが安楽椅子で本を読んでいました。私が声をかけるより早く、彼女は振り返って微笑みました。
「大丈夫ですか。――そうですか。あの薬、人間に効くかどうかは解らなかったのですが、ちゃんと効いてくれたようですね」
さとりはやはり私の言葉を先取りして、そんなことを言いました。
「食事がもうすぐ出来ますが、食べられますか?」
私は頷きました。「食欲があるのは良い事です」とさとりは笑った。
――そこで、私の頭にひとつの疑念がよぎった。
彼女が妖怪だとしたら、どうして人間の私に親切にするのだろう。
昔話に、よくある展開だ。
まさか私を肥え太らせてから食べようと企んでいるのでは――。
そこまで考えたところで、私ははっと気付きました。
さとりが、私を悲しげな目で見つめていることに。
私は悟りました。彼女には、私の考えていることは全て伝わっているのだ、と。
そして彼女は、今とても悲しげに目を伏せている。
私は自分を猛烈に恥じました。倒れていた私を助けてくれた少女に、なんと恩知らずなことを考えていたのでしょう。妖怪も人間も関係なく、彼女はただ傷ついていた私を親切心から助けてくれただけのはずだったのです。
俯いた私に、ふっとさとりは微笑みかけました。
「貴方は――優しい人ですね」
はっと私は息を飲みました。
――その笑顔を私は、心から美しいと思いました。
食事を取り(材料は解りませんでしたが美味しい肉料理でした)、もう一晩眠ると、私の傷はもうすっかり癒えていました。
それを見て彼女は、「地上へ案内してあげます」と言いました。
正直に言って、名残惜しいと思いました。しかし、傷が癒えてしまった以上、ここにこれ以上留まる理由もありません。それにあの猫娘が何やら剣呑な視線をこちらに向けているのが怖かったというのもあります。
それならせめて、地上まで彼女と一緒に――と思っていたのですが。
「こいつが落ちてきた人間かい? 妙なこともあるもんだね」
私を案内する、と言って来たのは、額に赤い角を生やした鬼でした。星熊勇儀と名乗ったその鬼が、私を地上まで連れて行ってくれると言います。
屋敷を出るとき、さとりは私を見送りに出てくれました。
私はただ、なんと言っていいか解らず、頭を下げて感謝を述べました。
「――もう、こんなところには来ないでくださいね。ここは地獄ですから」
彼女は優しく目を細めて、最後にそう言い残しました。
そうして私は、その鬼に無理矢理酒を呑まされたりしながら、地上へと連れ出されたのです。
地上に戻ってみると、もう地底への道は見つかりませんでした。
たった二日ほどの私の地底旅行は、それで終わったのです。
それから私は元の暮らしに戻りましたが、頭からはあの少女――さとりのことがいつまでも離れませんでした。
もう一度彼女に会いたい。その想いばかりが募り、仕事も手につかなくなりました。
けれど、地底への道は見つかりません。
手がかりはひとつ、彼女が最後に言い残した言葉でした。
ここは地獄ですから。彼女はそう言いました。
ならば、死んで地獄に落ちれば、彼女にまた会えるのではないか。
そう思い、刃を自らの首筋に当てたこともありました。しかしそうすると、彼女のあの微笑みが思い出されたのです。
彼女は、助けた私が自ら命を絶つことなど望んではいないだろう。
だからこそ彼女は、もうここには来ないでください、と言ったのだ、と。
私は煩悶しました。
こんなにも会いたいのに、彼女はそれを望んでいない。
けれど私は魅せられてしまったのです。彼女のあの不思議な瞳に、そして――彼女の、あの……。
それからの私は、ずっと彼女のことを想い続けて生きてきました。
彼女のことを忘れたことなど、一度たりともありません。
そのうち、私は気付きました。
いずれ人は死ぬ。ならば、せめて天寿を全うしよう。
そして、死したとき私が地獄に落とされるならば。
そのときこそ、彼女に会いに行けるだろう――と。
ええ、そうです。
そうして私は、天寿を全うし、こうしてここにいるのです。
閻魔様。お願いです。
どうか私を地獄へと落として下さい。
私はもう一度、彼女に会いたいのです。
彼女に会って、あの微笑みを見たいのです。
そして――そして。
もう一度、彼女のあの小さな足で、頬をぐりぐりと踏んでほしいのです。
忘れられないのです。あの感触が。
彼女の足が私の頬を踏みつけたときの、あの甘美な靴底の固さが。
その後誰で試しても駄目でした。彼女でなければならないのです。
彼女の足でなければ、どれだけ踏まれても、私は満たされないのです。
ああ、閻魔様。
もしも地獄行きが叶わないなら、せめて。
彼女の足の裏の細胞に、生まれ変わらせてください。
彼女の靴でも構いません。
お願いです、閻魔様。
どうかこの哀れな男の願いを、どうか――。
なんっなんっだぁ!これは!次は白蓮さんで書いてください。お願いします。
これじゃただのドM
最後の最後ですっごくグダグダな感じなって…
まあ、話字体は良いのですがねw
ざけんなwwww
浅木原氏も良い感じで染まって来たので喜ばしい
馬鹿は感染で済むが、変態には伝達力がある。
距離も時間も人種も文化も関係無い
しかしもう堕落どころか墜落の勢い
地獄送り決定です、もちろんさとり様に踏まれる意味で
\(罪)/ 君も~今日からは~僕らの~仲間♪
↑もちろん「しもべ」と読む
ちくしょう、途中までの盛り上がりを返せ!w
罰として10点減点してやるぞ!w
某妖怪の靴下に転生するところからはじめましょうか
このへんたいめw
イイハナシダナー
しかしこれはかわいいさとりん
最後で台無しwwwww
笑い転げさせてもらいましたw
………どうしてこうなったッ!?
あ、タイトルとか文体とかは「藪の中」をイメージしてるんですかね?