Coolier - 新生・東方創想話

東方集団浅慮日誌 第一編

2026/03/07 01:47:41
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序言
 人間は、そんなに賢いのだろうか― 妖怪Aは、そうつぶやいた。やっぱり、人間ではない種族から見ればそう見えるのだろう。
 6年前、外の世界の科学と幻想郷の魔法を組み合わせることで、里の人間たちは遺伝子組み換え技術を獲得した。しかし永遠亭の八意永琳は、遺伝子改造を人間に適用することに反対した。永琳は、以前から射命丸の新聞への投書を通じて、人間が神になるようなことはするべきではないと警鐘を鳴らしていた。
然るに、その翌年には、遺伝子改造を施した初の子供が生まれたことを皮切りに、多くの大人たちが自分の子供に遺伝子改造を望むようになった。成長を早くしたり、頭を良くしたり、運動神経抜群にしたり、そのようなことができる。
 他方、経済的余裕のない者たちは、生まれてくる子供に遺伝子改造を施すことができなかった。
「ママ!僕も速く走りたい!」
「ごめんね。あなたは、あの子のようにはなれないの。」
「君を生むとき、遺伝子改造するお金がなかったの。」
 翻って、人間は頭が良いが、心は善くなかったのだ。
 ある日、遺伝子改造を受けた幻想郷一番の天才児が生まれた。しかしその男の子は成長するごとに、幻想郷の人間たちへの不信感が募った。そして苦痛の末、男の子は行動を起こしたのである。

「幻想郷が良くない方向へ向かっている気がする。」
「なんというか、みんな盲目になっている。」
「物の値段が上がったりして、みんな自分と家族の生活で精いっぱいなのかな。」
「でも、だからこそ良くない方向へ向かっている気がする。」
このとき、霊夢は知らなかった。この違和感が、決して思い込みではないということを―

綻び
 どうして俺は、こんなにみんなと話が合わないんだろう。人間として一番大事な話をしてるのに、みんな「難しすぎてわからない」って無視する。そのせいで友達もいない、女の子には避けられる。昨日もルーミアに「上から目線キモい」って言われた。
 天才として生を授かったなら、それを善いことに使わなければいけない。でも、みんな天才が怖くて拒絶している。何を言っても通じない。こんな俺に、存在意義はあるのか。
「お?どうしてボーッとしてるんだ?」
この子の名前はチルノ、私のただ一人の友達。
「ああ、なんか急に考えこんじゃってさ。」
「俺は幻想郷で通用するのかなーって。」
「変だよね。」
「そっか…」
「でも、私は君のこと、誰よりも理解してるつもりよ。みんな私をマルキューとかバカって言うけど、もし私が本当にバカだっとしても、バカなりに考えた結果、あなたのことを理解しようとしてるんだからね。」
「バカでも自分なりに考える自由はある。そういう意味では、あたいはサイキョーなんだからね。」

 夜八時、母と父は泉を居間へ呼び出した。
「どうしたんだ? 母さん。」
「大事なことを話さないといけないわ。落ち着いて聞いて。」
父が重い口を開かんとする。
「今までずっと隠してた。だけど、やっぱり聞いてほしい。」
《泉、君は遺伝子改造によって高い知能を持って生まれた。》
「幻想郷では高い能力を持っていなければ生きていけないからだ。今、遺伝子改造が広く普及していっている。そんな社会では、遺伝子改造をしなければ負けてしまう。だから、君の遺伝子を編集してから産まなければならなかった。」
「失望したよ、二人とも。」
「俺は、幻想郷の都合のいい道具として生まれてきたんだ。俺には…生きる意味を自分で定める自由がないんだ。もううんざりだ!」
「泉。これは誤解だ、許してくれ泉!」
「お願い、落ち着いて!」
「俺は苦しむために生まれて来たのか! 俺は…みんなに嫌われるために生まれてきたのか!」

「はぁ~ 今日もお賽銭は空っぽねぇ…」
博麗神社の巫女、博麗霊夢がため息をつく。
「思えば早苗も守矢神社の賽銭が少なくなってきてるって言ってたわね。
霖之助もミスティアも、みんな売り上げが少なくなっているらしい。」
「どんな価値を生み出しても、みんなお金を使うのをためらって売れないみたい。最近人里の年貢が上がったから、そのせいなのかな? いずれにしても、私もお金は気を付けて使わないとね。」
『動物園は大変だ』
「昔何かのアニメで聞いたフレーズね。その言葉の意味が分かった気がする。」
人間は、倫理を忘れてしまった。人間は、生きる意味を忘れてしまった。
そしてそれは、人間の尊厳の視点で見れば死活問題だ。

「霊夢、大変だ! 人里で…子供たちが暴れてるらしい!!」
魔理沙が乱入してきた。
「何、子供たちが暴れてるの?」
「今どんな状況?」
「一人の男の子から同心円状に凶暴化していった。けが人多数。」
「それじゃあ早く行かなきゃ!」

「これは…… 酷いわね。」
「あぁ。」
「多分その男の子から連鎖していったはずだから、その男の子の力を止めればなんとかなる。」
「えぇ、じゃあその主犯格を見つけるわよ!」

切実さ
「あなたが… この異変の犯人ね!」
「私は博麗神社の博麗霊夢。迷惑なあなたを退治しに来たのよ!」
「お前さんが主犯格なんだろ? そうなんだろ?」
「退治されるべきは俺じゃない!」
「みんな自分勝手なんだ、気に食わない者を排除しようとするお前らみたいに。違う意見=敵という論理で動いているお前らのように!」
「頭良くなってほしいとか運動神経抜群でいてほしいとか痛みを無くしたいとか、大人たちのエゴで勝手に自分の体を改造される。」
「誰がこんな技術を生んだ。いつ俺は遺伝子改造を許可した。第一俺は産んでくれなど言ってない。大人たちが勝手なエゴで俺を生んだんだ。そこに責任を持とうとしない大人たちが… 俺は大人たちのエゴのために生まれてきたのか!」
「そんなことないよ!」
「私はあなたの意図を踏みにじらないわ。だから何があったのかを教えて?」
「お前らに共有しても通じることではない。どうせ、あいつらみたいに俺の理屈は理解されない!」
「お願い。あなたを決して馬鹿にしないわ。だから子供たちを呪うのはやめなさい!」
「じゃあ、俺がどうやって生まれたのかわかるのか?」
「…どうやって生まれたの?」
「さっきの話から推測できるだろ!」
「さっき《いつ俺は遺伝子改造を許可した。》と言った。俺は遺伝子改造されて生まれて来たってわかるだろ!」
……
「私たち…完全に不利になったな。」
「みんな俺のことを馬鹿にしやがって。俺の敵は、世界だ!」
「おい!ちょっと待て!」
「お願い弾幕をこっちに向けないで!」


 あなた、あなた。あなた、起きて。
「…ん?」
「あんた誰?」
私は迫害を生き延び、その正体を追求した哲学者。
「迫害? 哲学者?」
知ってほしいことがあるわ。人間たる要件は、労働・仕事・活動。でも、ほとんどの人間とされている者たちは、そのうち労働しかしてない。労働が肥大化し、そのうち仕事と活動は「消費」に置き換わってしまったのよ。
知ってほしい、考えるのをやめたら人間じゃなくなるということを。
「それは…どうして?」
 最大の罪は、ごく普通の人たちが犯すものよ。あなたには、それをわかってほしいの。
 子供に疑似有害図書を与えた父親を出禁にしたある者は、我慢できない子供が嫌いだと言った。しかし、我慢できないから悪事を働くのではない。
執拗な我慢を強いられたから、人を殺すのだ。
「つまり、あなたたちは何を言いたいの?」
彼の話は大切だから、最後まで聞いてね。
 そもそも子供の精神の発達を口実にして、あれこれ禁止する大人たちがいるが、それは大人たちが子供を猿として扱っている証拠に他ならない。子供が生まれ持った人間性と倫理観を無視し、抑圧している。むしろ大人たちがその「生まれながらの人間性」を剥奪し、倫理観をアポステリオリ扱いし、本質からは程遠いルールをもはや死んだ目で説くからこそ、子供は真の倫理観を理解できなくなる。
 そう、紛い物を植え付けられるのよ。
 子供は真の倫理観を知っている、これは人間としての本能だ。それを無視してルールを説けば、人間性が硬直する。
 子供が過激なコンテンツの真似をして犯罪を犯すという詭弁があるが、これは大人たちが本質とは程遠いルールを説いて、内在化された判断基準を剥奪しているからに他ならない。
 そう、価値基準を外在化して問題が起きるのよ。
 猫妖怪がチョコを食べている描写を見て、「猫にとってチョコは毒であるから、子供が真似して危ない」とする意見があるけど、これは本質的ではないわ。同じ間違いは、大人でもするから。
 子供が暴力的な、性的なアニメにより歪んだ価値観を持つ可能性が指摘されている。でも、これは大人たちが子供を機械のように扱っている証拠である。
「さっきから、あんたたち気持ち悪いわよ! どいてちょうだい、私は私の家に帰るのよ!」
 だが、これだけは忘れてほしくない。
その歪んだ価値観は、コンテンツのせいではなく、大人の抑圧に起因することを。わかってほしい。
 人間は、そんなに単純じゃない。

目覚め
「ん?」
「霊夢…起きたのか? みんな心配してたんだぜ、霊夢。」
魔理沙が横から心配そうに顔を出した。向こう側には永琳が見えた。
「霊夢、あなたは例の異変を起こした首謀者の弾幕が直撃して気絶してたのよ。でも不思議ね。いつもの霊夢だと、弾幕が一回当たったくらいで気絶はしないはずなのに。なんだか、霊夢らしくないわね。」
「変な夢だったわね。哲学者一人と…あと変な人一人出てきて、意味深なことばかり言ってたの。」
「そいつら、なんって言ってたんだ?」
「《最大の罪はごく普通の人たちが犯す》って言ってた。これはどういう意味なんだろう。体ではわかる気がするけど、うまく言語化できない。」
「いずれにしても、意識が戻ってよかったわ。骨折とか大きなけがはなかったけど、左太ももが肉離れしてるから、しばらく安静にしててね。入院は必要ないわ。」
「それで、人里にいっぱいけが人出てたけど、病床は今どんな状況?」
「ええ、70%弱埋まっちゃってるわ。
これ以上患者が増えると、医療崩壊の危険もあるわね。」
霊夢が魔理沙に問う。
「人里のみんなは避難できた? どれくらいの子供たちが気狂い起こしたの?」
「避難所は郊外に複数開設してあるみたい。30%くらいの子供が気狂い起こしてたぜ。多くは10歳から18歳の思春期の少年少女らしいな。」
「みんな《俺たちは猿じゃない》って言って暴れてる。」
霊夢の観はあることに気づいた。
「あ!それと似たようなこと夢の中で哲学者が言ってた!」
「どういうことだ?」
「なんか、子供を精神の発達を口実にして、倫理観のない猿として大人たちが扱っててどうのこうのって… 不思議だったわ。」
「それ、なんだろうな。」
「《子供を倫理観のない猿として扱う》… つまり、大人は子供たちを野蛮な矯正対象としているわけか?」
「そういうこと、よくあるわよ。」
永琳が横から顔を出した。
「大人たちが執拗にあれこれ禁止してきたり、勉強しなさいというプレッシャーがあったりして、鬱になる子供の患者さんもいるわ。
この前は、エロ本を手に入れたことがバレて、エロ本を燃やされて自殺未遂した九歳の男の子もいたわね。最近こんなことが増えているのよ。」
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