※注意※
・幻想郷崩壊してます
・オリキャラが登場します
・歴史改変要素を含みます
「リトル・ファンタジア」これが今私の暮らす町の名前だ。いま、紅魔館は、ノースイースト・ロス・エンジェルス郊外にある。我が館を中心に住宅街が形成され、日本食のレストランや観光地があるあたりを、戦争後の幻想郷移民が住み着いたことから、リトル・幻想郷と呼ぶ。未だに幻想郷移民の子孫が暮らし、幻想郷及び日本人の移民が多い。日本人街でもあるが、幻想郷独特の文化もある。
我々と、紅魔館が幻想郷を出てから、数十年の時が経つ。
幻想郷はアメリカと戦争をした。かつてのベトナム、朝鮮のように、日本が分割されて戦争の場となったからだ。1980年代のことである。アメリカへの反発が強まり、同盟破棄。国内の反米勢力が別の政府を作り、国会議事堂を占拠し、内乱が起こり……細かいところはどうでもいい。南側はアメリカが、北側はソ連が支援し、代理戦争の形となった。
戦火が広がるにつれて、人里離れた場所にあった幻想郷もアメリカに発見された。幻想郷もまた、日本とは別の立場で、戦争に参加することを余儀なくされた。日本国民でもなく、ソ連軍でもない、正体不明の者達と相対した時、アメリカは幻想郷を敵性陣地だと判断し、占領するために動いた。反発した幻想郷の妖怪達は、侵攻してくるアメリカ軍と銃火を交えることになった。紫がどこかから仕入れてきた銃火器のほか、幻想郷住民は生まれながらに持つ特殊な能力を発揮した。幻想郷とアメリカの戦争は世間的には隠され、秘匿されたまま進められた。
幻想郷とアメリカの決着が付くよりも、日本がアメリカに吸収占領され、消滅する方が先だった。本州以南はアメリカに再占領され、以北はソ連に占領された。本州以南は後に独立を果たしたが、以北は未だ元ソ連、ロシアの所轄地とされている。
日本が負けた今、幻想郷は独力で戦い抜くことが不可能になった。紫は戦争の終結する時期を計り、幻想郷の結界を消失させた。人間は難民に紛れ、妖怪達はそれぞれの由来の強い場所へと散っていった。そして、我々も岐路に立たさることになった。八雲紫はまた新しい幻想郷を作ろうと画策しているようだったが、それを待っていられない。私達が選択したのは、アメリカへの移住だった。アメリカは移民の国で、かつて戦争した国からの移民でさえ平気で受け入れる。さまざまな国の民がおり、それぞれの意図がある。必要とされるのは愛国心ただ一つだ。たとえ腹に一物抱えていたとしても、問題ない。表向き国を愛するという態度があればよいのだ。
で、私は紅魔館ごと移住した。アメリカの風土は私達に合っていたらしい。皆、それなりに馴染んだ。私はと言えば、長いこと生き過ぎてる上に、紅魔館がアメリカに越して、リトル・幻想郷ができてから数十年、ずっと館を移して暮らしているものだから、ここの元締めのように思われて、噂まで立てられていたりする。その噂の上での、館の主人の呼び名は「レッド・レディ」。どうしてこうもアメリカ人ってあだ名のセンスがクソださいんだろう。ちなみに、紅魔館の主人が外に姿を現さないというのは、私が外をうろついてても、誰も紅魔館の主だとは思わないだけだったりする。
リトル幻想郷の流行は、今でも弾幕勝負だ。幻想郷移民達は当初、ここでは弾幕勝負をやめようという話になった。外の世界では自重しようという空気が何となくあったのである。それを破ったのが我が妹だ。少なくとも色んな物を破壊して回らなかったのは幸いだけど、幻想郷にいる時と同じ感覚で、幻想郷移民の妖怪と弾幕勝負をして、周辺住民を戦々恐々とさせた。テレビや雑誌は宇宙人だ新たな兵器開発だと煽り立て、しばらくリトル・幻想郷はマスコミで溢れた。だけど、また別のところで新しいゴシップがまたすぐに生まれ、マスコミの波は去った。けれど、それ以来、リトル・幻想郷では原因不明の発光現象が起こるようになった。弾幕勝負を新たなアトラクションや不思議な自然現象だと思った旅行会社は、見学のツアーを立てた。
やがて、弾幕勝負にヒントを得た暇人が、鉄製の巨大な枠を作り、空中にワイヤーで身体を固定し、自由に操作できるような装置を作り、光を球形にして飛ばす機械と、身体に光が当たると音が鳴る機械を作り、アクティビティとして発展させた。やがて全米に広がって、アメリカ人はこれに「ライトニングバトル」とかいう名前をつけた。ダサい。これでは最早弾幕勝負『ごっこ』だ。
その頃には、リトル・幻想郷で起こる発光騒ぎは、既にマスコミに飽きられて、オカルトと結びつけられて報道されることはなくなっていた。人間達の弾幕勝負ごっこは廃れた。それでも、リトル・幻想郷ではいつでも流行だった。幻想郷の弾幕勝負は最早、人間達の言うライトニングバトル、寂れた弾幕勝負ごっこであって、弾幕勝負をすることに誰憚ることはなくなった。幻想郷移民達は、リトル・幻想郷では好き勝手に弾幕勝負を楽しんでいる。
私はと言えば、外出する機会が増えた。何かと雑務をしてくれていた咲夜が出稼ぎに行っているのだから、当主自ら夕食の買い物に出掛けるのもままあることだ。それを普通のこととして受け入れてしまったのは、幻想郷で人間社会に近しい暮らしをしたことと、アメリカがよそ者を平気で受け入れる社会であることが大きい。私の方でも、まるで人間になってしまったみたいに受け入れてしまっている。
しかし、外出することが増えたとは言え、退屈している時間が多い。館から人がいなくなって一人でいることが増えたし、館の外で他人と交流するよりは一人でいる方が好きだからだ。
咲夜はと言えば表向きスーパーマーケットのレジ打ちをしながら、私の従者をしている。美鈴は週末や夜には中華街に入り浸るようになった。昔は長いこと立ち仕事をさせていても文句一つも言わなかったのに、近頃は「一日八時間、月に二十二日以上働かせると労働基準法違反ですよ」などと小賢しいことを言うようになった。フランはうやむやのうちに外に出てしまって、今ではラスベガスでセレブのお仲間とセックスアンドザシティのような日常を過ごしているそうだ。友達がヘロインでぶっとんでも自分だけは全然効かないから悲しいらしい。地下で暇潰しをしていることが多かったパチェは、一時期アメリカの食生活に馴染んで激太りしたが、今ではフィールドワークにはまっていて、遺跡や土地を調べに行ったりする。パチェ曰く『レミィ、この大陸は土地そのものが異変そのものよ。強い力がそのまま残っているわ。これは調べるしかないわ。時代はフィールドワークよ』そう言って様々な土地を歩き回っている。喘息で辛いということも近頃はなくなった。便利な薬があるのだ。幻想郷で魔法が力を持っていた分、外では科学が力を持っていたわけだが、科学が魔法を追い越すほどに力を持ってしまったということらしい。せちがらい。外で幻想が消えるほど、幻想郷の力は強まるとか紫は言ってたけれど、これは最早科学が現実的なものではなくてオカルト的なものになってきたということなのかもしれない。何しろ何やらとかいう細胞が実用化して人工臓器ができ、人工脳の製造で予備の肉体を用意しておける時代だ。クローン技術も最早近未来SFの事柄ではない。出生率は途上国では増加しているが、先進国では低下している。近い未来には新生児の誕生が禁止される世の中になるだろう、と言われている。紫がもし新たな幻想郷を作るなら、そう言った現実を加味して、より強固な幻想を作り上げるのかもしれない。
まあ、それはどうでもいいことだ。とにかく、咲夜もフランもパチェもいないし、美鈴は玄関にいる。ちなみに小悪魔は里に帰ってしまった。幻想郷はいいけれど、悪魔が人間として現実で暮らすのは問題があるらしい。人間として正体を隠して暮らすのは良いらしいけれど、小悪魔として暮らすのは魔界の法律第何条に触れるとかなんとか。魔界生まれは魔界生まれで、何かと縛られて、せちがらい。
暇潰しは大抵本になる。古い本はあまり面白くなくて、本屋で買ってくる新刊のSFや推理小説を読む。英語で本を読むのにも随分慣れた。慣れたという言い方もおかしい。そもそも私が最初に覚えた言葉はラテン語で、元々アルファベットには慣れているのだから。英語の本も悪くはないけれど、ときたま日本語の漫画が懐かしい。ちなみに日本のコミック業界は廃れてしまって、脱法コミックが裏で取引されているらしい。なぜそういうことになったかというと、言論の自由が段々と『自主規制』に向かって行って、一般の人間は自由に発言することに対して『禁止されてはいないが言ってはいけない空気』が形成され、何か意図のある発言をできる場所が小説やコミックの中だけになったからである。言葉がフィクションになってしまった。言論の自由は規制できないが、コミックや小説業界は規制ができる。小説業界は息をしているようだが、日本の漫画業界は地下に潜ってしまった。色んなことを自由にやるには、日本は潔癖になり過ぎてしまった。とは言え、漫画は江戸時代以前から存在する娯楽で、滅びることは無さそうだ。ただ、地下で取引が盛んだとは言え、そう言った書籍がアメリカまで入ってくることはほぼない。悲しい限りだ。せちがらい。
様々なものが消えてゆくように、幻想もまた消えてゆく。我々はここで、やがてアメリカの土地の中に混じってゆき、我々という存在もまた消えてゆくのだろう。幻想が外の世界で、フィクションだと、実際に存在しないものだとされたから、幻想郷では妖怪や怪物が力を得ることができた。滅びたと思われているから、目こぼしをされているだけなのだろうか。吸血鬼は、もはや、知られたとしても、ニュースで一面を飾り、それっきり忘れ去られるだけの存在なのだろうか。
うら寂しいことだが、あるべき場所に戻るだけのような気分さえ感じている。幻想がやがて死ぬものならば、私の不死性が、長寿の性質が明日に消え去ったとしても、何も不思議には思わない。しかし、花火のようにぱっと消えるわけにはいかない。消えることを受け入れるには、私は少し長く生き過ぎた。大昔は私とフランドールしかおらず、パチェと友達になり、咲夜を雇い、気付けば美鈴や小悪魔がいて、幻想郷を出る時には彼女らが安全に暮らせる場所を考えなければならなかった。皆がそれぞれに道を見つけて、私は一人になった。だが、関わりが断たれた訳でもない。リトル・幻想郷に暮らす人々は紅魔館を、遠い昔に縁のある建物として、その詳しい由来を知らないままに、理由なく親しんでいる。別に館を閉じきっているというわけではないから、子供が忍び込んでいたり、浮浪者が入ってきていたりするのは日常茶飯事だ。そのたびに叩き出して、時には警察のお世話にもなる。
私は時々、リトル・幻想郷の人間を集めて、幻想郷式の宴会をする。そのために、紅魔館にわざわざ和室を作ってしまった。畳敷きの部屋に、靴を脱いで上り、床に直に座る……アメリカでは見ない方式だ。あの騒がしく繁雑で懐かしい空間を、私が忘れ去ってはいけないと思うからだ。願わくば、この感覚を、知った者に伝え残してほしいという思いがある。私は自分でも意外なことに、幻想郷を懐かしんでいるふしがあるように思う。あの場所は、八雲紫と、博麗の巫女の作り出した平和な里であった。幻想郷に来る前は、咲夜やパチェ、美鈴達も、皆行きたければ好きなところに行けばいいと思っていた。皆同じように思っていると思っていて、私だってどこかに行きたければ好きに出て行くつもりだった。今は、ここに残っていなければいけないと思う気分がある。皆が好きに出て行ったとしても、また帰って来たくなった時に、戻ってくる場所が必要だ。紅魔館の皆にとっても……幻想郷を失い、アメリカに来たリトル・幻想郷の人々にとっても。この町の人間がどこかへと出掛けて、この町に帰ってくる時、この紅魔館を見て、懐かしく思うのではないか。その時のために私はここにいるのではないか、と思う。
物思いにふける時、咲夜は帰っていても私の部屋には来ないような気がしている。ただの偶然かもしれないけれど、幻想郷以前から咲夜はそうしているような気がする。咲夜が部屋の扉をノックするのも、私の気分が変わるのを、見計らっていたように感じている。咲夜が部屋に入り、夕食を運んでくる。食堂に揃い、皆で食べるということも少なくなった。咲夜は、と私が尋ね、後で頂きます、と答えるのもいつもの通り。そして、咲夜の用意する食事がいつもおいしいのも。
「お嬢さま、明日はお客様の来る日ですよ」
「……お客様?」
「数週間前に連絡があって。その時にお伝えしたと思いますけれど」
そう言えばそんなことを言っていたような気もする。
「退屈が過ぎると、ダメね。何かを言われてもすぐに忘れてしまう」
「幻想郷では、予定を伝えてくるということもありませんでしたものね。おかげで、美鈴は久々に仕事ができますわ」
「あの子は、今日も?」
「ええ。中華街で友達と一緒みたいです」
美鈴と私はそもそもあんまり話すこともなかった。朝には紅魔館に来て見張りをし、夜には中華街の友達のところで寝泊まりしているらしい。美鈴に人間の友達ができたのは嬉しいことだし、これまで酷使しすぎた。殆ど自由がなかったのだから、あの子も好きなことをしたらいいと思う。夜には咲夜もいるし、私も起きているから、さほど困ったことにはならない。
「ふん。美鈴も出て行くのかしらね」
「さあ。あの子も今のところは好きにしていますけど。また、皆が戻ってきたら戻ってくるのではないですか? 美鈴も、寂しいのは嫌なんでしょう、きっと」
「ふん……パチェから次にいつ帰ってくるかとか、聞いてる? フランは……言うわけないわね」
「パチュリー様は一ヶ月後に。フランドール様は……一週間ほど後にある、新作映画の発表会を見に行くと仰っていたので、少なくともそれまでは帰って来ないかと思いますが」
映画、ということはハリウッドか。セレブの娘と友達になったと、自慢げに見せてきた写真のことを思い出す。けばけばしい化粧のきらきら光る衣装の女と、その隣でそっくりの格好をして、ピースサインで写真に写っている妹。それにしても、いつから妹は写真に平気で映るようになったのだろう? 鏡に映らないことを隠して、きちんとごまかせるようになったとは考え辛い。いまや、フランドールは吸血鬼であることを放り出したようだ。咲夜の用意する血液を、きちんと定期的に飲んでいるようではあるけれど……
「ところで、そのお客様というのは、一体誰なの?」
「射命丸文さんです。これも、一度申し上げたかと思いますが」
射命丸文は、アヤ・シャメイマル、と名乗った。その名乗り方に慣れているのだろう。彼女が我が館を訪れるのは、実に数十年ぶりのことだった。彼女は全く変わらない……という訳でもなかった。相貌は全く変化していなかったが、装いは変わっていた。現代風の洋装をしている。膝丈のスカートに毛糸のジャケット。首にかかったストラップの先に、カメラがぶら下がっているのが彼女らしい。修験者風の幻想郷での装いは既に忘れたかのようで、傍目には現代に馴染んでいるかのように見えた。
「ふん」
「おやおや、いつもに増して尊大で。とりあえず一枚」
シャッターの音も、ぱしゃり、というものから、ピピ、ジャキ、というものに変わった。電気機械式のデジタルカメラだ。当然、フィルム方式なんて、今時息さえしていない。幻想郷では最先端だったかもしれないが。
「それにしても、紅魔館も変わったものですね。当主自ら出迎えなんて」
「咲夜は昼間は仕事をしているの。それで、何の用かしら。今更ここを訪れる用事なんて、ないでしょう。それに、あんた、今は何をしているの」
「私ですか? 私は新聞記者をやっております。いつもの通りですよ。そこら中飛び回って、記事を書きます。まあ、飛び回るのも車や飛行機を使うようになりました。自分の羽根で飛ばないと、身体がなまっていけません。休日には山登りをして、こっそり飛び回ることにしています……おや、私は私のことを喋りにここに来たんでしょうか? 私は個人的な用事でここに来たんですよ。人間向けの記事にしようなんてつもりは全くありません。浮世に出しては何かと困ることもあるでしょうしね。私は幻想郷用の記事を書きに来たんです」
「幻想郷用の? 幻想郷なんてどこにもないわよ」
「ええ、ええ、その通り。ですが、また集まることもあるでしょう。その時にね、『あの時の彼女らは』みたいなタイトルでね、復帰一号にしようかと。それにしても、立ち話もなんですから、どこかに行きませんか?」
「どこかに、だって?」
「あなたに給仕の才能があるとは期待していませんよ。どこか、お茶の飲める店にでも行きましょう。あなたの煎れるお茶よりはおいしいものが飲めるところに」
当主に求められる才能と、給仕に求められる才能は違う。お茶を煎れられないことを、恥に思う必要はない。私と文は、連れ立って館を出た。
「それにしても、私、いい喫茶店とか、知らないわよ。安い店は嫌だし。どことは言わないけど」
「ええー……。スタバも悪くありませんよ。どこにでもありますし」
とりあえず町に出ようかしら。門をくぐると、おや、と私でも文でもない場違いな声がして、美鈴が私達を見ていた。
「外に出るんですか?」
「ええ。美鈴さん、どこかお茶のできる店を知りませんか? この人、もうここに暮らして長いはずなのに、良いお店を知らなくて」
「人がものを知らないみたいな言い方はやめなさい。それで、美鈴、どこかいいところを知らない?」
「ええと、そうですね、私もあまり知りませんが、知り合いのお店なら一つ、いいお店が」
「そこでいいわよ。どうせ、こいつに飲ませるお茶なんて、そんなに上等じゃなくってもいいし、この際、上等かどうかは聞かないわ。美鈴、案内しなさい。たまには、一緒にお茶をしましょう」
美鈴を先に立たせ、町をゆく。三人連なっててくてく歩いていると、不意に飛びたくなる感じがする。幻想郷では、連れ立ってどこかに行く時は、飛んでいくのが普通だった。アメリカに来てから、誰かと連れ立つことは極端に減った。途中でバスに乗り、町の中心街へと向かってゆく。バスの停留所が一つ、また一つと過ぎるたび、車線が増え、車の量も増えてくる。建物の高さが伸びてゆく。
「美鈴、あんた、毎日バスに乗って中華街からうちまで来てるの?」
「いえ、いつもはトレーニングのついでで歩いてます。結構遠いので、今日は車で」
「ふうん……まあいいけど、私、バス賃なんて持っていないから」
「あ、美鈴さんが払ってくれるんですか。ありがとうございます」
「給料上げて下さいよ。ストですよ。ストしますよ。一人ですけど」
「あ、外見て。デモよ。行進してる」
「ホントですねー。戦争反対ですか? 同性愛ですか? それとも政治?」
「聞いて下さいよー」
バスに乗りながら下らない会話をしているうちに、目的地についたようだった。美鈴に促されてバスを降りる。バス停を降りたところは、大都会も大都会だった。私の身長の数十倍、数百倍の高さのビルが並び立つダウンタウンのど真ん中。バスターミナルも、私が見たことがないほど大きく、見たことないほどの人が行き交っている。
「まだちょっと歩きますよー」
「はいはい。まるで観光に来たみたいね」
「ほんとですよ。レミリアさんはもっと、近所のことを知っておいたほうがいいですよ」
うるさいやつだ。人の多いところは、苦手なのだ。
美鈴の案内した店は、中華街の外れにあった。観光客向けの店が少ない、少し治安の悪そうな通りの、安っぽい古いアパートの裏の店だ。最初は店の方に入ったけれど、美鈴が店の人と話して、奥の応接室のようなところへと通された。出て来たジャスミンティーを見て、文は「日本の、神戸の女学生が、お茶をすることを『飲茶する?』というふうに言っているのを見たことがあります。神戸も港町で、大きな中華街がありますからね」と楽しげに言った。「ところで、パチュリーさんやフランドールさんはいま、どちらに?」
「パチェは調べ物。フランは遊びに行ってる」
「ふむふむ、なるほど。もっと詳しく突っ込んで聞いてもいいですか?あと、直接お話も聞きたいので、戻られたらこちらに連絡頂けますか?」
そう言いながら名刺を差し出してくる。「直接話すんなら、私が話すことないでしょう」
「分かっていませんね。あらゆる方向から情報を聞くことが大切なんですよ」
仕方ないわねと私が言い、近況を話しているうちに、なぜか美鈴がお茶菓子の月餅を持って戻ってくる。美鈴は、私達のぶんだけ並べると、一言二言、言い訳をして、奥に引っ込んでしまった。友達でもいるのかもしれない。月餅をかじりながら話しているうちに、文の話は、アメリカの話になった。
「私が思うにですね、幻想郷というのはアメリカに大変近しい部分があったように、私は思うのですよ。自らの国に居場所がなくなったことで、多くの人がアメリカへとやってきました。アメリカという国は世界中の人々と、アメリカ自身の法でできています。これは、幻想が消えてゆき、幻想郷という新しい土地を見出した私達にも言えることではないでしょうか? 十五世紀のヨーロッパ人が新大陸を発見したように、我々は幻想郷を見出した」
文の言うことには、理があった。私自身、こうしてアメリカに移住してきているのだ。生まれ故郷のヨーロッパに戻ろうかとも考えた。だが、生まれ持った文化があっても、幻想郷の文化に馴染んだ部分があったし、ヨーロッパの人間は存外、自分達以外の文化を持った人間に冷たい、排他的な部分があるように感じている。しかし、だからと言って、占領された日本……既に幻想郷のない、変わっていく日本にいるのも忍びなかった。アメリカを選んだのは、移民を受け入れている印象が強いからだ。文と同じようなイメージがあったのだろう。
「アメリカは戦争があるたびに、その国の人々を受け入れてきました。ベトナム戦争があればベトナムや韓国の方を、そして極東の争乱を経て今は日本の移民を多く受け入れている。更に言えば幻想郷住民も。……もっと古くのことを言えば、第二次大戦中にはユダヤ系が、戦後にはドイツ系移民がやって来ました」文は美鈴をちらりと見てくすりと笑った。「中国人が独自の文化を築くのは、アメリカに限ったことではありませんけどね」
「アメリカはパワーのある国だわ。こんなに移民が入って平然としている、懐の大きな国。住んでいるとやっぱりそう思うわね。移民がいて当たり前、という感じ。歩いていても、奇異の目で見られることはあんまりないもの。皆、違う肌の色をしているし」
「幻想郷もやっぱりそうでしたね。アジア系が多いですけど、多少毛色の違うのや、妖怪がいても大して気にしない感じがありました」
人々が暮らすのに、周りの人間と安心して過ごすためには、共通項というものが必要だ。、出自や文化によるものではなく、生まれ故郷を離れたという由来が、ここでの共通項になっているのかもしれない。あるいは、幻想郷の。
「アメリカというのは不思議な国ね。本来、国には歴史があり、それぞれの父祖がある。しかし、アメリカにはそれがない。何かと相対する時、積み上げられてきたものがない。法によって定められたルールがあり、そのルールを遵守するという意志だけで国ができている……古い国は、どうしても古いルールに縛られるもの。この国にはそれがない。だから、新しいものにすぐに飛びつき、街の在り方もすぐに変わってゆく。それゆえか、新参者を訝しむ目が少ない。あるのだろうけれど……そういう目を向けるアメリカの人間も、元は新参者の子孫だもの。同じルーツを持っているのだわ」
「そういうところも、幻想郷と似ているのかもしれませんね。幻想郷だって新しいものが流行りやすいし、皆、新参者だった。あなたもそうだし、私だってそうですしね」
軽く声をあげて、私と文は笑った。
「それにしても、レミリアさんも、それなりに楽しくやっているようですね」
「ん、まあ……そうね。一日の大半は引きこもっているけれど。外に出るのをためらうほど、外が怖いわけでもないわ」
「それは良かった。また、誰かに会ったら話しておきますよ」
それはそれで面倒なことだ、と思ったけれど、私は否定しなかった。私はどうも、やはり、あの騒がしさを懐かしく思っているふしがある。この新聞記者の射命丸文も、以前はうるさいと思っていたし、今でもそうだけど、懐かしいと思ってしまっている。
「私は、まあ、根無し草ですから。様々なところと繋がりを持っていますよ。元々妖怪の山にいた人達は、だいたいは日本の山中に戻って、新しいコロニーを作ったみたいです。衛星から撮影されるので、木よりも高く飛んではいけないとか、大変みたいですけどね。私は山のコロニーで暮らすのは御免でしたけれど、完全に繋がりを断ったというわけでもないので、まあ、私も変わらないというところでしょうか。あら。お恥ずかしい。私にもルーツがありますから、そのルーツを知っている、気心の知れた人に、心情を吐き出してみたい、という気分なのですかね。人間の知り合いに、私が天狗だということを知っている人はいませんから。レミリアさんはアメリカに来ても、どこか変わらない感じがして、懐かしいですね」
ふ、と私は笑った。変わりようがない、と思うけれど、一方で、変わらないようにしたい、と思っている部分もある自分がいる。きっと、それは文も同じなのだろう。
文が紅魔館を訪れてから二週間後に、八雲紫が訪れた。休日の咲夜の代わりに、私が出迎えた。日頃働いているのだから、休日くらいは休ませてやることに、近頃はしている。八雲紫もまた、容貌は変わっていなかったが、装いは変わっていた。スーツ姿に、どこかの社員証らしいプラスチックのカードを首にぶらさげている。腰ほどまであった長い金髪は、肩口ほどまでで切り揃えられている。
「初めまして。ユカリ・フレンジャーです」
そう言ってユカリが差し出した名刺には、ユナイテッド・アーマメント社社長秘書の肩書きがある。中心に書かれているユカリ・フレンジャーの名前の下から、八雲紫の文字が浮き上がってきて、ユカリ・フレンジャーの文字を消してしまった。
「無論、U.A.社のユカリ・フレンジャーは仮初めの姿。今はレミリア・スカーレットの前に立つ幻想郷の八雲紫ですわ」
ふん、と私は鼻息荒く、名刺をびりびりの紙くずに変えてやった。そもそも、昔からこいつとは馬が合わない。
「何をしに来たの」
「昨日、朝から射命丸さんと会いまして。なんとなくレミリアさんの方に気持ちが向いて、来てしまいました。明日にはまた西海岸まで戻らなければいけません」
「あんたは相変わらず便利でいいわねえ……」
「いやですわ。普段は使いませんよ。毎朝、社と寮を往復するのも、電車を使っているんです。同じ寮の方もいるのに、通勤に全く居合わせないのは不自然ですから。ここは幻想郷ではないから、幻想郷にいる頃と同じようにはいきません」
ふん。気に入らないけれど、仕方がない。私は紫を連れて、館へと入った。休んでいる咲夜を起こして、お茶を煎れて貰わなければ。
咲夜は起きていて、メイド服も着ていて、既にお茶を煎れていた。咲夜は頼りになる。以前のように客間で向き合う。気付くと紫のスーツは、幻想郷にいた頃のような、紫色のワンピースに変わっていて、ふわふわした帽子も被っていた。あの頃の紫が戻ってきたようだった。
「ところで、紫。霊夢はどうしたの」
「ああ、あの子ですか。あの子は消してしまいました」
少し苛立ちのような感情が私の中に生まれて、睨むように、紫を見た。あの子のことは人間の中でも割合好きな方だったから、私の中に怒りが生まれるのも、紫を睨み付けるのも、自然だった。
「冗談ですよ。あの子の、博麗神社の巫女としての立場を、消してしまっただけ。あの子も人間ですから。野山に暮らす獣のような生活はさせられません。霊夢は大人しい子だから、言い含めたら、普通の人間のように振る舞ってくれました。今は、六十? 七十? ……そのくらいになるはずですよ」
紫は端的に見えて迂遠で、迂遠に見えて端的だ。私はそれが気に入らない。八雲紫は眺めているぶんには、普通の人間と変わりないのだろうけれど、見かけが普通の人間に見えれば見えるほど、おちょくられているような感じがして嫌いだ。紫のほうでも、そういう気配を読み取るのか、私の館には数度しか来たことがない。私はそれが余計に苛々するのだ。私の気分を読み取っている感じがする。もし、もっと紫が空気の読めない奴だったなら、もう少し愛すべき人物だったかも知れない。紫のその、完璧さ、底知れなさが、気に入らない。紫は、事実、こうして向き合って座っていると、不思議に居心地が良いのだ。以前から、酒の場で居合わせる時などもそうだった。理由なく居心地の良い者など存在しない。
「この国の暮らし心地はどうですか」
「まあまあよ。あんたの作った幻想郷よりも便利でいいわ。何をするにもお金がいるのは困りものだけれど」
「この国は巨大な妖怪が支配する国ですもの。資本主義という名前の」
くすくす、何がおかしいのか八雲紫は、自分の言ったことで笑った。
「何かを恐れるという感情が、徹底的に欠落してしまった。人間がホラーやオカルトを好むのは、一つに、恐怖という根源的なものを、支配したい、支配してコントロールしたい、という考えがあるそうですよ。今では恐怖は積極的に摂取するものなのです。作り物ではない恐怖が消え去ってしまったから、作り物の中に恐怖を求めるしかない、ということです」
「我々は消え去るべきだとでも言いたいのか?」
「いいえ。私や、あなたのようなものは、既に恐れられるものではないのですよ。むしろ、恐れるべきは、同じ人間だと、知りつつあります。人間の歴史は、そのものが不理解と恐怖そのものです。異文化への不理解が恐怖へと変わる。異文化への理解が進んでも、隣人を恐れることには変わりはないのですよ」
「何が言いたいの」
「恐怖を定期的に摂取できる人間ができたことが、資本主義の流れだということです。資本主義が拝金主義を作り、自らが中級家庭に暮らしていると思いたがる人間が増えた。自分が中級だと思いたがる人間は、実際は下級家庭だということが少なくない。それでも、世の中の流れについて行こうとする。これが資本主義の流れで生まれた妖怪です」
「馬鹿なことを。富が増えたからオカルトやホラーが増えただって? 昔からオカルトはあったし、ホラーチックな絵や本だってあった」
「それを摂取できる人間が増えたことが……まあいいでしょう。まあ、この国はどんな存在にとっても居心地のよいところです。お金は、誰にだって公平ですよ。表向きは」
「ふん。あんたのそういう自分が賢いだろうって言いたがるところが、気に入らないのよ。ふん。まあいいわ。私は寛大だから見逃してあげる。それで、あんたもアメリカに来て、何とかって大企業に就職して、将来は安泰だ、ってことなのかしら。幻想郷の大妖怪が、随分落ちぶれたものね」
「あなたこそ、毎日退屈そうで、羨ましい限りですわ。それに、あなたも、その何とか、って企業の恩恵を受けている部分はあるのですよ」
ふうん、と私は大人しく聞いてやった。大人しく聞いてやろうじゃないか。
「U.A.社の、事実上の出資者は、アメリカ上院議員の方です。戦争中、私はユカリ・フレンジャーになりすまし、日本を憂う一人の日本人として、社の方にお願いをしました。『日本人がステイツの保護を望む際、ぜひ寛大な処置をなさいますように』、と」
私は、知らず知らずのうちに八雲紫の世話になっていたというわけか。勿論、館をこっそりと移すことができたのは八雲紫の心配りではなく、咲夜の工作によるものだろう。能力を行使しない八雲紫に、館を移すほどのことはできない。
「私に恩を着せているつもりか? 誰がしてくれと頼んだ?」
「言いかがりですわ。アメリカに移り住む幻想郷の住民達皆に。私には責任がありますもの。あなたのためだけにしたことではありませんよ」
「あんたは本っ当に人を苛つかせるのが大好きね」
「いいえ、それほどでも。レミリアさんのように毒気をはっきり当ててくる人はあまりいませんから、つい影響されてしまったようですわ。私、純粋な性質ですので」
くくく。ふふふ。私と紫は互いに笑い合って、それで、急に馬鹿みたいになってしまった。互いに、意味のないいがみ合いをしていることに、疲れてしまったのだ。幻想郷がなくなってしまったのは誰のせいでもないし、紫は幻想郷を失い、私は幻想郷を追われた。紫にも、私にも、がっくり来ている部分はあって、それを互いに、ぶつける相手もなく、だらだらとこうしてきたのだ。つい言い合ってしまった。私も苛立っていたけれど、紫の方も、人間社会で暮らしていると、ストレスが溜まっているのだろう。私はそう考えてみたけれど、そう大外れという風でもなさそうだった。紫は慌てたように、紅茶を何度か口にして、すっかり飲み干してしまっているからだ。私はそれを隠してあげる風でもなく、すっと自分も紅茶を飲み干して、咲夜を呼んで、お代わりを入れさせた。
それで、と二杯目の紅茶が来てから、紫に話を振ってみた。
「それで、あんた、どう? 幻想郷の再建とやらは」
「ええ。まあ。色々と手を回してはいますよ。そのためにアメリカで動いているのです」
「ふむ?」
「不思議なことですけれど、アメリカにも、私のような妖怪がいて、国の政治に関わっています。もしくは、政治に関わっている人間の側にいる。アメリカでは、表に立つのは人間だけれど、裏側では妖怪がいるということですわ。幻想郷が発見されたのも、彼らの働きによるもの……無論、アメリカのテクノロジーも充分に働きましたけれど」
「とんでもないわね」
「この国は月や、火星にさえ進出しますから。不思議はありません。彼らと対等に向き合うためには、お金の力が必要です。彼らアメリカの妖怪もまた、自分の仲間を囲い込んで、資本を貯め込み、一つの勢力へと変化してゆく。ここは資本主義の国ですから、利害に阿ることは非情に大切なのですわ。それは、この私も同じこと。幻想郷を再建するには、アメリカで力を得ることが必要です」
「あんた、変わったわね」
彼女は昔であれば、もっと飄々としていた。一つのことに拘る性質は見えなかった。私に起こった変化と同じようなものだろうか? 私も、昔は、誰がどうなろうと知ったことではなかった。私にとっての紅魔館が大切なように、紫にとって幻想郷は、大切なものだったのだろうか。そんな風には見えなかったけれど。
「私自身が生み出し、壊すのは納得ができても、他人の意志で破壊されるのは我慢なりませんから。それに、幻想郷の住民にとっても……もう遅いかもしれませんけれど、責任があります。無論、あなたにとっても」
「また、恩を着せるつもりかい?」
「純粋な気持ちですよ。本当に心から、そう思っています」
「相変わらず胡散臭いやつだ。お前のことなんて信用できないよ。私のことなんて気にしなくていいから、好きにやりな」
「ありがたいことですわ」
そう言って、紫は二杯目の紅茶を飲み終わり、唐突に消えてしまった。相変わらず、自分勝手なやつだ。机の上に、一枚の紙片が残されていた。きちんと折り畳まれた封筒に入った手紙だった。手にとってかさかさ開いた。
『もう少し話していたかったのですが、お邪魔になってはいけませんので。後は二人でお楽しみ下さい。それではまた。愛を込めて。八雲紫』
何のことだろう? 私が思っていると、扉を開けて、フランドールが入ってきた。私の妹が帰ってきたのだ。そう言えば、そろそろ帰ってくると、咲夜が言っていたのを思い出す。
「たっだいまー! 久しぶりね、お姉様」
それで、遠慮をして、席を中座したのだろうか? 予定も伝えず、帰りも前触れもなく、そのくせ一人前に遠慮をして、やはり勝手なやつだ、しかし可愛らしい、と私はくっくっと笑った。何を笑っているのと妹は言いながら、席についた。
私が紫のことを思う余裕もくれず、妹は自分で勝手に話し始めた。
「友達の一人が大麻で捕まっちゃってさ。え? その子? 置いて逃げたわよ、私達もバレたらヤバいもん。別に怒ってないと思うわよ、また会ったら前に私を置いて逃げたでしょーって終わり。どーせ、みんなお金だけはたっぷり持ってるんだし、大丈夫でしょ。こないだ、似たようなことあったもん。ジェーン・ホワイトがクラブハウスで捕まった時。今でも友達やってるよ」
「あきれた。あなた、随分危ないことをしてるのね。捕まったらどうするつもり? あなたの友達はお金あるかもしれないけれど、フラン、うちにはお金なんてないのよ」
「そのときは、何とかなるわ。それに、お姉様が助けてくれるでしょう? お姉様は私がいなくたっていいかもしれないけれど、咲夜が悲しむわよ。パチュリーや美鈴だって悲しむかもしれないわ。そんなこと望まないでしょう? それに、やっぱり、たった一人の妹がいなくなったら、寂しいわよ、きっと」
何だかフランの口調も、アメリカナイズされてきたみたいだ。きっと友達とはこんな風に軽口を叩いているのだろう。フランにはどうしてか、アメリカのほうが合っていたように見える。友達ともうまくやっているようだし、世間にも馴染んでいるように見える。アメリカには、異常さを受け入れる風土があるのかもしれない。むしろ、フランが普通になってきたというよりも、外の人間がおかしくなっているというのが、近いのかもしれない。フランドールは気ちがいかもしれないけれど、外の人間は、それ以上に気ちがいなのかもしれない。まあ、フランが楽しくやっているのは、ありがたいことだ。友達が大人になって、普通になって、離れていっても、新しい年若い気のおかしい友達と、いつまでも仲良くやっていくのだろう。
フランドールも、紫と同じように、変わってしまった。だが、まあ、変わってゆくのも良いことだ。不変のことなどないのだし。フランドールが大人になることはなくても、幼さを保ったまま、どこかで変化をしてゆくのだろう。フランドールはどこにも馴染めないと思っていたけれど、不思議にアメリカに馴染んでしまっている。いつか、この家を出て行くことも、あるのかもしれない。不変と思っていた幻想郷も消えたのだから、何があっても不思議ではないように思えた。
「フラン、ちょうどいいわ。お茶の準備があるの。たまには、二人で、お茶でも飲みましょう」
フランはスマートフォンをいじりながら、うん、と答えた。私が呼びつける前に、咲夜は既に準備を終えていた。
パチェが帰る予定の日の朝になって、パチェから連絡が入った。
「そっちの様子はどう。うん。フランも待っているわ。久しぶりにあなたが帰るというから、退屈だ退屈だって、毎日言いながらね。テレビも導入したのよ。そう、ついに。長いことやめておこうと思ってたんだけどね。うん。あまりに退屈だって言うから。でも、これもいいものね。これで、私も現代社会への仲間入りをした感じだわ。うん。そう。電気会社の人も屋敷に入れたのよ。以前ならそんなこと毛嫌いして、嫌だったでしょうけれど。私も丸くなったかしら。うん、そう。
それより、そっちはどうなのよ。もうロスには向かっているの?珍しいものを拾って手間取ってる? ふうん……まあ、予定通りには行かなさそうだけど、面白くなりそうね。じゃ、また後で。パチェ」
パチェが帰ってくるのは、夜半過ぎになるとのことだった。そんな日の昼に、紫から突然お邪魔すると連絡が入って、はた迷惑な奴だなと私は思いながら、紫を迎える準備をした。
紫から連絡が来て、美鈴にそれを伝えに行くと、美鈴は見知らぬ女の子とお喋りをしていた。セーラー服を着ている、黒い髪の女の子だ。背が低く見えるのは、女性としてはそれなりの図体をしている美鈴と並んでいるからで、私よりは大きい。
「あ、お嬢様。紫さんと、この方が」
美鈴が私に気付いて声をかけ、少女が振り返る。アジア系だ。昔、こんな感じの顔の人間が幻想郷には沢山いたことを思い出す。日本人かな、と思った。紫が連れてくるのだから、日本人かもしれない。
「あ、初めまして。えーと、その……ユカリさんに連れてこられまして……」
「紫さん、さっきまでそこにいましたけど、帰っちゃいましたよ」
「あっ、えと、ユカリさん、あれ? いない?」
紫自身に用事がある、というよりも、この子を連れてくるのが目的だったらしい。きょろきょろして困っている様子の少女を見て、私は溜息をついた。
「あいつが急にいなくなるのはいつものことだから。それで、あなたは一体何者なの? 私はレミリア・スカーレット。この館の主人よ」
「あ、私、霧雨朝子と言います。今度、アメリカに留学することになって、それで、ユカリさんに連絡を取ったら、連れて行きたいところがあるって……ここ、一体どういうところなんですか? 申し訳ないんですけれど、私、何も分かっていなくって……」
霧雨の名前を聞いて、私は霧雨魔理沙の名前を思い出す。
「あなた、霧雨魔理沙の係累なの?」
「霧雨魔理沙は祖母です。私、霧雨魔理沙の孫なんです」
正直、予想もつかないことだった。霧雨魔理沙も人間なのだから、子供を残すのが当然というものかもしれない。だけど、私の人生において、一度登場した人物が、時を経て、再び表れるということは殆どなかった。だから、魔理沙が大人になる、ということが、どこかで想像出来なかったのだろうと思う。霧雨魔理沙はどこかで大人になって、子供を産んで、育て上げて、またその娘を産んだ。私や咲夜が長い命を持っているように、魔理沙はきちんと命脈を繋いでいた。不思議なことだ、全く。命を繋ぎ、子供を産むというのは当たり前のことだが、その当たり前のことを、私や魔理沙のような、元々幻想郷に住んでいた連中が行うことに、可笑しみを感じている。
「どうか、しましたか?」
「いいや。あの娘も人の子だなということを、思い出していたのさ」
私が笑うと、朝子は不思議そうに顔を傾けた。
「ところで、私、疑問なのですけれど……」
「何かな」
「私のおばあちゃん……祖母を知っているのに、その……」
「随分若い、ということかな」
「そうです。それに、主人と言っていましたけれど、そのことも疑問で……あなたのような若い人なのに。気分を悪くしたならすみません」
「いいさ。そうだね。私はアメリカの薬品会社の大株主をやっていてね」
「はい」
「それで、薬と手術で外見を操っている。今年180歳になるよ」
「……それは……凄いですね」
「信じるかい?」
「え?」
私が悪戯っぽく眼を細めて笑うと、朝子は私を見返して、表情に困惑を浮かべた。
「嘘さ。実はね、私は吸血鬼なんだ。生まれはルーマニアで、日本で暮らしていたけれど、アメリカに来た。魔理沙は日本にいた頃の知り合いで、今年560歳になる」
私はにいっと頬を引いて、尖った犬歯を見せた。朝子は困ったように笑いながら、どう答えたらいいか、迷っているように見えた。
「ええと……嘘、ですよね」
私はくっくっと笑った。このくらいにしておこう。子供をこれ以上からかっても仕方ない。
「嘘だと思うかい? ま、いい。魔理沙はどうしている?」
「あ、はい。おばあちゃんはもう70近いんですけれど、元気にやってます。私は両親と暮らしているんですけど、おばあちゃんは一人で暮らしてて、歳だから一緒に住もう、って言われても一人で過ごしたいみたいで、本人が言うには、お父さんも……これは祖母の夫、つまりおじいちゃんのことだと思うんですけど、お父さんも父親もここにいたから、ここにいたい、って言ってて……随分思い入れがあるみたいです。おばあちゃん、前の戦争の時に引っ越してきたそうだけど、その時おばあさんのお父さん、私のひいじいちゃんが大変だったみたいで……ずっと世話をしていたから、そのことも、あるんですかね。まあ、そんな感じです。元気ですよ」
「それは良かったわ。魔理沙は好き?」
「ええ。両親はどう扱ったらいいか困ってるところもありますけど、私からしたらいいおばあちゃんだし、好きです。私の名前、あさこ、って言うんですけど、さ、の字を、おばあちゃんの名前から貰ったんです。おばあちゃんに伝えた時には、朝はいい名前だ、夜明けの名前だ、って言ってくれたみたいで。私、それを聞いた時は、何となく嬉しくって……」
この様子では、本当に幻想郷のことなど、何も知らないのだろう。私は幻想郷のことを聞くかどうか迷ったけれど、言わないことにした。魔理沙が朝子に幻想郷のことを話しているのなら、少しは話題に上ってもいいはずだ。魔理沙も、何も言わず、ただ祖母として、孫に接していたのだろう。魔理沙が魔法使いになったか、人間のままかは、私には分からないけれど、それは最早、この娘とは関係のないことだ。魔理沙が死ぬにしても、生き延びるにしても、この娘は人間として生きてゆく。
「レミリアさんは、おばあちゃんと、どんな風に過ごしてたんですか?」
「私? 私はね……魔理沙とは……そうね、同じ村に暮らしてて……私は田舎が好きで、魔理沙はその村の娘だった。神社があって、その神社の娘と、私と、魔理沙は……友達、まあ、友達と言っていいでしょう。友達だったわ。神社で話したり、うちの図書館に魔理沙が来たりしていた。私よりも、この屋敷に住む別の友達と仲良くしていたわね」
私は言葉を選びながら、話した。それでも、朝子にとっては、それで充分なようだった。魔理沙は昔のことをあまり語らないに違いない。だから、こんなつまらない話でも、充分なのだ。
「お転婆な娘でね。年上にだってお構いなしで、泥棒なんかもよくやっていたわ。今になれば犯罪だけど、まあ、子供のことだから、悪ふざけ程度のものね。それで、よく喧嘩をしたりしていてね。でも、魔理沙は変に強いものだから、余計に調子に乗ったりしてた」
「おばあちゃんったら……その節はご迷惑をおかけしまして……」
「いいわ。私もそれなりに楽しませてもらったから。そうね……魔理沙は迷惑な奴だったけれど、村に色々と問題が起こると、解決してまわる奴でね。皆、気に入らない部分があっても、許してしまえるような、そういう奴だったわ。皆、あいつのことが好きだった。私も、まあ、好きだったんだと思う。色々とあったけどね……」
「そう言ってもらえたら、私も嬉しいです。私も、おばあちゃんのこと、好きですから」
朝子の言葉が終わると、沈黙が訪れた。静かになると、不意に懐かしくなって、私の脳裏には、在りし日の幻想郷の姿が浮かび上がってきた。自然に満ちた山野、溢れる日の光、闇よりも暗い夜。自然に棲み、闇夜に遊ぶ、時には人の中に紛れる百種千種の妖怪達……そして気分のままに遊び回る刹那さと気休めの宗教戦争……
それらの物事と、この少女は、全く重ならない。朝子が幻想郷を知ることはない。だけど、朝子には人間の世がある。悪くないに違いない。私自身、人間の世に暮らして、思うほど悪くないと感じている。
「それにしても、魔理沙の孫か。つくづく、世の中は、面白いね」
「あの、おばあちゃんとは友達だったんですよね? レミリアさんと言いユカリさんと言い、皆年齢不詳で、びっくりします……」
「魔理沙に聞いてみるといいよ。答えてくれるかどうかは分からないけどね」
「はあ……」
不思議そうにしている朝子の表情が楽しくて、私はますますおかしくて笑ってしまった。
「ああ、おかしい。こんなに楽しいのは久しぶりね」
「そう、ですか……? 私は、楽しいって言われると、嬉しいですけど……」
「ああ、楽しい。前の戦争の時に……私はここに来たけれどね、それから、私は死んだようなものだったんだ。私のことを知っている人は、誰もいないわけだもの」
「戦争のことは、私が生まれる前のことですから、詳しいことは知りませんけれど……」
「誰も、私を知っている人がいない、というのは寂しいことで、だから、昔の知り合いが孫を作ってね、その孫が尋ねてきてくれるなんて、嬉しいことはないのよ。ねえ、お嬢さん。もし、お前の気が向いたらでいいんだけど、私のことを覚えていてくれるかしら。別に、子供に伝えたりしてくれなくっていい。ただ、こんな奴がいたな、って覚えていてくれるだけでいいの」
朝子は、戸惑っているように見えた。私自身、私自身の言葉に戸惑っていた。こんなことを言ったり、考えたりする自分の姿は、想像もできなかった。だけど、自然に言葉が出て来たのだ。ここにいるのが、文や、紫、魔理沙なら、出て来なかったかもしれない。この、何も知らない、小娘だから、言葉は自然に生まれたのだろう。
私は曖昧な存在で、人間の小娘には、吸血鬼である私のことを、きちんと理解することはできないだろう。人間社会の規格に従って、きちんと残されることを、私は望んでいるのだろうか?不可能なことだし、残されたところで、何になるというのだろう。私は人間社会で暮らしてきて、これまでのアイデンティティが崩壊しているのだろうか?
「いいですよ。私なんかでいいのかなって、不安になりますけど。そう言って貰えたら、嬉しいし、良かったら私の方でも、私のことを覚えてほしいって、思います。それに、レミリアさん、面白い人だし」
「ああ、いいとも。約束するよ。私の方でも、朝子、お前のことは忘れないよ。……お前は、良い娘ね。きっと、良い人が見つかるわ」
「やだ。なんですか急に。朝子は身持ちが堅いねーってよく友達に言われるんですよ。最近は若くても遊んでる人は多いけど、遊ばないことが私の自慢なんですから。男の人なんていりません」
はは、と私は笑った。朝子は本当に良い子だと私は思ったのだ。受け入れる、ということ。あまりに若い。こんなにも開けっぴろげで、私の方が不安になる。思わず血液が吸いたくなる。奪う、ということで生きている、自分の生を思う。
思えば、私の生は全て、死者の夢にさえ思える。私は現実において、既に死んでいるも同然だ。生者で、吸血鬼で、紅魔館の館の主で……そういう、夢の中を、生きている。霧雨魔理沙や博麗霊夢、八雲紫や射命丸文も、目の前で紅茶をすする可愛らしい霧雨朝子も、全て、私の夢の中から生まれた作り物だ。既に、全て、失われてしまっているものだとすれば、それこそ幻想ではないか。
失ってこそ、私は初めて気付く。幻想郷は我らが故郷であった。
人の世に生きて、幻想郷と暮らすのと変わらない、と気付く。幻想郷はかつての人の世よりも優れていたかもしれないが、現実が我々を追い越してゆくと、幻想郷の優位性は崩れた。幻想を受け入れず、排除していた社会が、幻想を受け入れてしまう世の中になった。だけど、受け入れられた幻想は幻想ではなく、最早人と変わらないものなのだ。そして、私はどこまでも吸血鬼だ。吸血鬼である自分を捨てられはしない。
幻想が幻想として在ることのできる幻想郷は、私の故郷であったのだ。
「ねえ、お嬢さん。良ければだけどね。今日の夜に、長いこと研究の旅に出ていた奴が戻ってくるんだ。良かったら、一緒にお酒でも飲んで、遊ばない? もちろん、都合もあるだろうし、良ければ、の話だけど」
私がそう囁くように言うと、今日ですか、と朝子は眉を寄せた。途端に、ばん、と扉が開いて、パチェが入ってきた。
「パチェ」
「あら。お客様? 失礼したわね。美鈴が、レミィはここだって言うから」
キャップを被り、サングラスをかけて、よく日に焼けた肌を空気に晒している。細いが、ほどよく筋肉のついた身体にタンクトップの上着をまとい、研究用具がこれでもかと入ったデイパックを提げている姿は、まるでさっきまでグランドキャニオンを歩いていたかのようだ。
「結構早く帰って来れたわ。あの子の手伝いもあってね」
「あの子?」
「小悪魔を拾ったのよ。今、荷物を運んでくれてるわ。何か知らないけど、こっちに遊びに来てたみたい。人間社会に棲み着くのは違反だけど、遊びに来る程度ならいいんだって。研究のほうも、それなりに成果はあったわよ。インディアンの酋長と話したりしたことが、とても助けになったわ。でも、その辺りの話は後にするわ。それで、そちらの子は?」
「あ、初めまして、霧雨朝子と言います」
「パチュリー・ノーレッジよ。レミィの友達。……霧雨?」
「魔理沙の孫娘よ、パチェ」
パチェはサングラスを外して、驚いた顔を見せた。手を伸ばして、朝子の手を握った。
「おやまあ。……魔理沙の孫? あいつが孫なんてねえ」
着替えてから、また来るわ、とパチェが出て行ってから、朝子がふうと息をついた。
「今の人が、夜帰ってくるっていう?」
「ええ。早く帰ってきたみたいだけど……あいつも、魔理沙の友達よ」
「楽しい人ですね。随分活動的な風で……」
活動的、ね。私はパチェの、ここ数十年の活動的な姿と、図書館に籠もっていた姿を比べてみる。
「そうですね。今日の夜に遊ぶのなら、付き合います。ステイするのはユカリさんのところなので。すぐに連絡はつくと思うし」
「紫のところに泊まるの? やめといた方がいいと思うけど」
「そうですか? ユカリさん、いいひとですよ」
そう言う朝子の姿は、屈託なく見えた。騙されやすいのか、純真なのか……それとも、案外、紫も、真っ当な人間を前にしていると、真っ当にしているのかもしれない。だからストレスがたまるのだ。紫は本来あやふやなところに立っているのに、人間の世の中では、表向き、きちんと明暗が分かれていないといけない。自分がいたいまま、いたいようにいられる幻想郷は、やはり故郷のように感じる。
「そう、じゃ、泊まりの用意をしてあげる。ゆっくりしていくといいわ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます。帰ったら、おばあちゃんにここでのこと、いっぱい話そうと思います」
ああそれはいい、と私は思った。魔理沙との交流も絶えて久しいが、やはり、かつて繋がりがあった奴と、繋がりができるのは嬉しいことだ。これは夢なのか、現実なのか? そう思えることが、私は嬉しい。この子が私を覚えていてくれるだろう、ということが。
その日の夜、酒の場で、私は朝子にこうこぼした。
「朝子、お前は良い子だ。お前がここを気に入ったのなら、いつでも来てくれていいわ。魔理沙も元気だったら、連れてくるといいよ。あいつも歳だから、どうなるか分からないだろうけどね」
朝子は「それ、いいですね」と、酒も入っていて陽気に答えた。それが切っ掛けになって、一年もすれば、魔理沙が私の館へと来る予定ができていた。
しかも、霊夢が付いてくると言う。幻想郷とは全く切り離された生活をしていた霊夢を、魔理沙は見つけ出して、交流を持っていたのだ。既に老境に入った二人だが、魔理沙は魔法使いになっていて、外見はあの頃のままだが、魔法と化粧で年老いたように見せていたらしい。本当のことを朝子に教えると、朝子はひどく驚いたそうだ。……いっそ、あの子に弾幕勝負を見せてやってもいいかもしれない。少し騒がしくなるが、ここはリトル・幻想郷なのだ。多少の騒ぎは多めに見てくれる。弾幕勝負はいつものことだ。
私は、霊夢と魔理沙が私の館を訪れるのを、心待ちにしている。朝子も来るだろうし、そのことを聞きつけた紫も文も、来るだろう。フランもパチェも、小悪魔も、美鈴も咲夜も……どこかへ行っていても、皆、帰ってくるし、やってくる。幻想郷もそうだった。
繋がりがある限り、我々は何も失ってはいない。我らは世界から生まれ、幻想に遊び、また世界に戻ったのだ。幻想を懐かしく思うことがあれば……幻想を母として眠ることを望む者がいれば……八雲紫のような存在を筆頭として、また我々は、幻想を求めるだろう。
誰かとの繋がりが、世の中を作っている。一人でなくなれば、また私は私の存在を確かめることができる。私自身の存在を、夢のままにしないでおける。
ああ、待ち遠しい。いま、私は霊夢が来るのを待ち望んでいる。新しい交わりがあり、それを待つことができる、というのは、望外の喜びだ。例え今が退屈でも、次のイベントを待つことができる。私はそうして、楽しみを得てゆくことができる。
そしてフランェ……麻薬なんかやっちゃダメー
あと見つけた誤字報告をば
>非情に大切
非常、かと。意図的な表現であれば申し訳ない。
正に物語の後日談な内容。少し駆け足気味だったのが残念かな(その辺も後日談的であるけれど) 望むならアメリカの風土やそこでの生活に馴染んだ描写をもっと入念に入れて貰って「ここはアメリカなんだ」と思わせて欲しかった。
妖精メイド一人も居ない……
自然の現身である妖精は土地を離れる事が出来なかったのかな。
無粋を承知で突っ込ませて貰うなら館の維持費や固定資産税とかどうやって払ってるんだろとか? 咲夜レジ打ち、美鈴には給金、フランも宵越しの銭は持たない、パチェさんに印税が有るとか? 咲夜がレジ打ちしてるのに美鈴を門番で雇用しているのも不自然かな。紅魔館の資本を何処かに出資してるとか部屋の賃貸料などで僅かながらあがりが有るとか。
紅魔館のキャラクターたちが、アメリカという別世界にやってきて表向きは激変したように見えるけれど、その関係性は変わらぬままという、物語。斬新極まる設定を、しかしリアリティを強く持たせて描き切る筆力に感服します。ユナイテッド・アーマメント…?嫌な名前です。アライアント・テクシステムズくらいのポジションでしょうか。名前からするに冷戦終了後の兵器産業大合併で生まれた複合体のひとつでしょう。いかにも紫が悪巧みをするのにピッタリ。
それから、レミリアは小鈴に宛てた礼状を英語で書いていましたから、当然英語はできる。そりゃそうですね。そんなふうに、細かいところで幻想郷の延長になっているのが素晴らしいです。
こういう話は大好きですよ
四季で言うtなら、秋のような雰囲気で
グッときましたた
でもそれ以上に楽しませていただきました。
アメリカ暮らしで色々変化や成長をした面々がどこか物悲しい……。
レミリアの自己紹介の所とかがなんかすごくイイ
なんかGTAみたいな町をてくてくと歩くレミリアを想像してしまって、それがなぜか妙に切ない。
朝子のくだりからの流れが個人的にお気に入り。
最初は寂しい描写が多かったのに、だんだんと繋がりや変化、楽しいことが見えてくる筋書は、のめりこんで楽しめました。
キャラクターもいちいち面白い。ぱっちぇさんが凄い活動的になってたり(再会した時小悪魔すげえびっくりしたんだろうなぁw)、フランはあのナリですげーことやってんだなーって。魔理沙が実は若いままだったってのも面白い。
ありがとうございました。