前作の続きです。
まだの方はそちらからどうぞ。
後書きにアンケートがあります。ご覧下さい。
~以下、本編~
周囲の安全を確認した美鈴は、すぐさま早苗の怪我などを確認した。
「どこか痛くないですか?なにか乱暴されたりしてませんか?食事はもらえましたか?後、水とかは!?」
矢継ぎ早に繰り出される質問。その声には仲間の無事に対する安堵と優しげな気遣いがあった。
「だ、大丈夫ですよ。ご飯はもらえませんでしたけど、これでも、私、結構我慢強いんですから!」
早苗は笑いながら、強がってみせ、少し歩き出す。が、
「あ、あらら…?」
ふらついて地面に腰を落としてしまう。
「ああ、やっぱり!」
そう言うが早いか、美鈴は早苗を軽々と肩に担ぎ上げた。早苗の上半身が美鈴の背中にあたる。そして、そのまま無線機に向かって話し始める美鈴。
「こちら突入班中国、目標、蛙の巫女を確保しました。少し弱っているようですので、担いでいきます」
返ってきたのは戦闘中の兎の声。
「兎、状況を了解。これよりこの戦闘域から撤退する。各自…」
「問題発生!」
撤収の合図を射命丸の声が遮る。相当慌てている。
「カラス、どうした?」
「妖夢さんが、敵車両を全部斬ってしまったようです!」
「何ッ!?」
戦闘中には滅多に動揺を見せない隊長の声が荒れた。撤収には敵車両を強奪する予定でいたのだ。妖夢のぐずついた声が続く。
「ご、ごめんなさい。つい勢い余ってしまって…ぐず…」
「それに歩兵とはいえ、敵も結構な数が残っています」
しかし、その程度のアクシデントで思考停止しているようでは隊長は務まらない。すでにその脳内ではここから魔理沙との合流地点へのルートが描かれていた。
「中国、私と合流して蛙の巫女を護衛しながら、合流地点へ。カラスは最速行動、合流地点を確保。みょんは…」
「しんがりを務めます!我が失策は我が身をもって!」
「よし、行動開始!」
次々に指示をとばす。妖夢は敵を食い止めるしんがりを買って出た。
次なる行動を確認した美鈴は、抱えられたままの早苗に話しかける。
「とりあえず、イナバさんと合流します。ちょっとつかまってて下さいねー」
「え?は、はい!!」
早苗の握りが強くなる。
「おりゃ!」
掛け声と共に右脚に渾身の力を込め、壁に向かって一蹴!
ドゴッ
鈍い音がして、壁に穴があいた。その向こうは魔法の森が見え、涼しい風が吹き込んだ。その風を感じたのか早苗が早口に言う。
「美鈴さん?ここ、三階…ってああああああ」
「舌噛みますよぉ」
短い悲鳴を背中に抱えながら、美鈴は着地。目の前にはイナバの姿。
「ぴったりだな」
「はい!」
「では、合流地点まで走るぞ!」
しんがりを務めるは剣士・魂魄妖夢。じっと眼を閉じる。すでに射命丸、イナバ、美鈴、早苗は合流地点へ向かっている。
「しんがり…本隊の後退行動の際に敵に本隊の背後を暴露せざるをえないという戦術的に劣勢な状況において、殿は敵の追撃を阻止し、本隊の後退を掩護することが目的である」
しんがりの意味を確認しながら、周囲への警戒を怠らない。木々が不自然に揺れている。葉が不必要にざわめいている。普段の森にはない気配がこちらに流れ込んでくる。
「風上からやってくるとは…。舐められたものです」
身を低く、楼観剣を片手に、妖夢は前に踏み込んだ。途端、先ほどまで妖夢がいたところに無数の弾丸が叩き込まれた。
長く続くアサルトライフルの音もあれば、拳銃の音もある。
敵の銃撃が熾烈さを増す。
真っ暗なはずの魔法の森を銃火が明るく照らす。敵が発砲する度にその姿が晒される。しかし、照らされるのは敵の姿だけではなかった。その僅かな銃火の光を反射して、楼観剣が煌めく。
「一つ、二つ、三つ!!」
短い気迫と共に敵の銃火が一つずつ消えゆく。まず初めに狙うは、各リーダーとおぼしき兵士。
敵と敵の間を駆け抜けながら、さらに目の前の樹木をいくらか切りつける。
「ど、どこだー!?」
「一旦、集まれ!」
浮き足だった敵兵がお互いをかばうように一カ所に集まり始める。
「今だ!」
高速で移動していた妖夢の動きが止り、眼を閉じ、精神を集中させる。そして、
パチンッ
楼観剣を納めた。するとミシミシと音を立てて、木々が倒れていくではないか。
敵兵達を中心にその周囲に木で出来た結界が完成した。木は複雑に入り組み、高さも相当ある。これを簡単に抜け出すことは不可能。全ての敵兵を結界に閉じ込め、
「戦わずして勝つとはこのこと!」
誰も見ていない中でのドヤ顔。
しかし、そのドヤ顔の上を黒い影が通り過ぎた。
「まさか?!」
はっきりとは確認出来なかったが、あれは戦闘ヘリの影である。しかも戦闘に集中していたとはいえ、剣士・魂魄妖夢の耳にも感じられぬ程の消音性能を持っているヘリはそれほど多くはない。SFiGですら、数えるほどしか所有していないというのに。
「これは、早く知らせないと!」
すでにトップギアで走り出している。無線機のスイッチはオン。
「こちら、みょん。そちらに戦闘ヘリが一機向かいました。消音ヘリと思われます。装備は確認出来ませんでした。私もすぐにそちらを目指します」
早苗を抱えたまま走る美鈴とイナバ。どちらも暗い森の中だというのにほとんど迷いなく、かつ、迅速に行動していた。その後ろを弾丸が追いかける。妖夢がしんがりとして活躍しているとはいえ、妖夢を追っていない敵は必然的にこちらにやってくる。
「思ったより多いな」
「そうですね」
物凄いスピードで木々の間を駆け抜けながら、イナバと美鈴は振り返る。確かにこちらに追い付いてくる敵はいないが、このままでいいはずもない。たが、敵の正確な数と戦力がわからないかぎり無用な戦闘は避けるべきである。
「あ、あの、もう少し…ゆっくりは、お願い、でき、ません、か」
美鈴の背中ですでにグロッキーな声が聞こえる。すでに数十分、美鈴の背中で揺れていることになる。車酔いにも症状を呈しながらの懇願。しかし、その懇願はすぐに打ち砕かれることになる。
「美鈴!真後ろ、RPG!」
イナバが叫ぶ。対戦車直射弾が美鈴目掛けて一直線!
「早苗さんを頼みます!」
「任せろっ!」
「へ?えーーーー?!」
美鈴の叫び、イナバの返答、早苗の絶叫が重なる。その時すでに早苗の身体は空中に浮いていた。正確には美鈴によって投げられたのだ、イナバに向かって。イナバは早苗をお姫様抱っこの形でキャッチ。彼女の足は止まらない。
護衛対象を隊長にパスした美鈴は振り返り様に渾身の拳を作る。
「縲光歩!」
鮮烈な光をまとった拳と対戦車弾が激突。爆音、それに続いて爆風が周囲を襲う。何本もの木が倒され、すでに前を走っているイナバ達にもそれは届いていた。
「だ、大丈夫なんですか?!」
イナバの腕の中に収まっている早苗が焦りぎみに尋ねる。
「大丈夫だ、多分な」
振り向くこともせず、常にハイスピードで走り続けながら、隊長はそれに返す。そして、まだ続く森を見つめ、
「私もまさか拳で打ち落とすとは思わなかった」
巫女には聞こえない声で言った。
川が流れていた。川といっても小川のように少しの水の流れではなく、幅だけで数メートルはあろうかという川が流れていた。しかも、その深さもイナバ達の首まで浸かるほどある。
「ぜーぜーぜー」
川の手前、森が切れる直前にイナバと早苗の姿があった。地面に膝を着き、息を乱しているのは早苗、彼女を抱えて走ったイナバは飄々と木に寄りかかっていた。そして、懐から栄養バーを一本取りだし、半分を差し出す。
「今のうちに何か食べておいた方がいい」
「あ、ありがとう、ございます」
なんとか頭を上げ、栄養バーを口に含む。
「…なにこれ、マズイ」
「軍用の栄養バーだが?」
なんともいえない甘味と塩味、そして、酸っぱさが口の中を荒らしている。
「疲れた時にはとてもいい、お師匠もそうおっしゃっていた」
それを普通に食べているイナバと栄養バーを見比べ、もう一口。
「うぅ、やっぱりマズイ」
涙目になる。しかし、そのマスさがふとしたことを思い出させた。
「あ、あの、川を渡らないんですか?」
当然の疑問である。自分達は追手から逃れるためにここまで走ってきたのだ。あの川を渡れば、合流地点はもうすぐそこ。しかし、なぜ渡らないのか?その問いに小隊長は栄養バーをかじりながら、空中を顎でしゃくる。
「あれだ」
「え…?」
イナバが示した方向には恐らく妖夢が言っていた戦闘ヘリがグルグルと旋回していた。その動きは獲物を探す猛禽類に見える。
「さすがに川を渡っているところを見逃してはくれまい」
いくらイナバ達がうまく川を渡ろうとしても、見付かってしまったら、逃げ場はない。頭上ががら空きなのだから。ちょうど食べ終わったのか、イナバは懐から縦長の筒状のものを何本も取り出す。それには丸い指をかけるフックがついていた。それらを手際よくビニールテープでまとめ、さらに細い紐でフックを一括りに集める。
「そ、それって、まさか?」
早苗が後退りする。不敵に笑いながら、その“まさか”を森と川の境界ギリギリに置く。そして、無線機のスイッチを入れた。
「こちらウサギ。蛙の巫女に怪我はなし。現在、川の手前にいる。みょんから報告にあったヘリが旋回中」
「ということは、斬りましょう!斬って渡りましょう!」
妖夢のやや嬉しそうな声が返ってくる。
「後、どれくらいだ?」
「後、200歩です」
さすが剣士、歩数で残り距離を計算してきた。
「こちら中国。後少しで、そちらに合流出来ます」
美鈴もどうやら近いらしい。
「よし、私と中国でヘリを止める。みょんはその間に斬れ!」
「了解!」
「そのまま美鈴は、こっちまで全力で来い。すでに仕掛けは終わった、それを蹴り上げてくれ」
無線機から怒号の勢いで状況が伝えられる。
「後、50歩!」
妖夢の声が聞こえると、森の奥がわずかに白みを帯びた。剣士が楼観剣を抜いて、剣気を溜め始めたのだ。その光を見つけた敵のヘリがそちらに首尾を振る。
「行きますよぉぉ」
美鈴の声がして、その次の瞬間にはイナバによってしかけられた筒達が空高く蹴り上げられる。その勢いでフックが抜ける。
筒が空高く舞い上がり、それがヘリの目の前に到達。森の奥で高まっていた剣気がピークを迎える。
「断迷、水断!」
楼観剣が降り下ろされた。
ヘリの目の前で筒が激しい閃光を撒き散らす。
「走れー!」
まだ状況に追い付いていない早苗を横脇に抱え、イナバが走り出す。
「え?だって、川が?!」
「なくなるさ」
イナバが川に飛び込むのと、その後ろから妖夢の剣撃が迫るのは同時だった。
「川が斬れたー?!」
イナバが着水、否、着地したのは、川底だったところ。彼女らのすぐ後ろを美鈴、続いて妖夢が走っている。空中で巻き起こった大閃光が三人の影を落とす。
「速かったな、美鈴」
「だって、これを逃すと置いていかれますから、ね」
「あれって…?」
早苗が閃光の正体を尋ねる。小隊長の声が答える。
「フラッシュバン。閃光を撒き散らす手榴弾さ」
視界を奪われ、一瞬とはいえ機能を停止したヘリの真下を駆け抜ける。
すでに合流地点に到着し、周囲の安全を確認した射命丸。魔理沙との交信は済んでこちらが合図をすれば、駆けつけて来てくれる算段になっている。そこにイナバ隊長からの無線が入った。
「カラス、普通の魔法使いに伝令。ヘリが一機ついてきた」
「あややー、そう簡単には帰してもらえませんかー」
射命丸が困り顔でしかし、声はさほど問題なさそうに、無線機に伝令を伝える。
「十分くれれば、安全な空の旅を保証してやるぜ」
そう言うが早いか、射命丸の待機位置に大風が吹いた。魔理沙のヘリがやって来たのだ。すでに全ての攻撃装置のスイッチが入っている。ミサイルの発射口は開き、ガトリング砲もその性能を確かめるように幾度か回転してみせる。相手の出方によっては奇襲も可能であったというのになんと大胆なことか。逃げも隠れもしない、魔理沙らしい攻めの姿勢がそこにあった。向こうから消音ヘリがやって来るのも見えてきた。すでに魔理沙機を捕捉しているであろう。そして、それが攻撃態勢をとっていることも。
「さて、もう少しまちますか」
射命丸が地面に腰を落とした。その時、消音ヘリが連続した爆音をたてた。ミサイルを魔理沙機目掛けて撃ったのだ。やや高い音が、一瞬。数発の赤い光が迫る。しかし、それをさも読んでいたかのように、ヒラリと横旋回で回避。
「ひゅう、お見事」
すでに役割を終えたと思っているのか射命丸が栄養バーをかじりながら、感嘆。
敵機と魔理沙機との距離が縮まる。すでにミサイルの間合いではない。この距離でミサイルを撃てば自分に誤爆の可能性があるからである。それをどちらのパイロットも熟知しているのか、ガトリング砲が動き始めた。
ガガガガッガッ!
どちらの発射音ともとれない連続した銃声。否、銃声という表現では生ぬるいほどの轟音。そして、地面に影を作るほどの明るさがあった。それほど熾烈な攻防であった。
いくつかの弾丸が魔理沙機に当たり、火花を散らす。しかし、まだ勢いを失っていないところを見ると、損傷は軽微のよう。対する敵機もいくつかの弾丸がヒットしたのか、装甲板にキズが認められた。
「魔理沙さんは、あの程度じゃあ、ねぇ?」
誰に語っているのか射命丸の一人語りは続く。すでに両機とも一度目の交差が終わり、機首を返している。またここから、仕切り直しかと思われたが、今度は魔理沙機が先に仕掛けた。それほど遠くない距離を一気に加速。相手にミサイルを撃たせることなく、接近戦にもちこんだのだ。相手は慌ててガトリング砲に切り替えようとするが、
ダンダンダン、ダン
間に合わなかった。
目の前で確認していた敵に奇襲をうけた敵機は横っ腹に大きな穴が開いた。そのまま勢いを失いながらも、数十メートル進む、
ドガ-ーーーン
燃料に引火したのか、炎の塊となってしまった。
「どんなもんよ」
「お見事お見事」
魔理沙と射命丸の短いやり取り。そして、
「間もなく合流地点だ。回収を頼む」
隊長の声が聞こえた。
~終わり~
まだの方はそちらからどうぞ。
後書きにアンケートがあります。ご覧下さい。
~以下、本編~
周囲の安全を確認した美鈴は、すぐさま早苗の怪我などを確認した。
「どこか痛くないですか?なにか乱暴されたりしてませんか?食事はもらえましたか?後、水とかは!?」
矢継ぎ早に繰り出される質問。その声には仲間の無事に対する安堵と優しげな気遣いがあった。
「だ、大丈夫ですよ。ご飯はもらえませんでしたけど、これでも、私、結構我慢強いんですから!」
早苗は笑いながら、強がってみせ、少し歩き出す。が、
「あ、あらら…?」
ふらついて地面に腰を落としてしまう。
「ああ、やっぱり!」
そう言うが早いか、美鈴は早苗を軽々と肩に担ぎ上げた。早苗の上半身が美鈴の背中にあたる。そして、そのまま無線機に向かって話し始める美鈴。
「こちら突入班中国、目標、蛙の巫女を確保しました。少し弱っているようですので、担いでいきます」
返ってきたのは戦闘中の兎の声。
「兎、状況を了解。これよりこの戦闘域から撤退する。各自…」
「問題発生!」
撤収の合図を射命丸の声が遮る。相当慌てている。
「カラス、どうした?」
「妖夢さんが、敵車両を全部斬ってしまったようです!」
「何ッ!?」
戦闘中には滅多に動揺を見せない隊長の声が荒れた。撤収には敵車両を強奪する予定でいたのだ。妖夢のぐずついた声が続く。
「ご、ごめんなさい。つい勢い余ってしまって…ぐず…」
「それに歩兵とはいえ、敵も結構な数が残っています」
しかし、その程度のアクシデントで思考停止しているようでは隊長は務まらない。すでにその脳内ではここから魔理沙との合流地点へのルートが描かれていた。
「中国、私と合流して蛙の巫女を護衛しながら、合流地点へ。カラスは最速行動、合流地点を確保。みょんは…」
「しんがりを務めます!我が失策は我が身をもって!」
「よし、行動開始!」
次々に指示をとばす。妖夢は敵を食い止めるしんがりを買って出た。
次なる行動を確認した美鈴は、抱えられたままの早苗に話しかける。
「とりあえず、イナバさんと合流します。ちょっとつかまってて下さいねー」
「え?は、はい!!」
早苗の握りが強くなる。
「おりゃ!」
掛け声と共に右脚に渾身の力を込め、壁に向かって一蹴!
ドゴッ
鈍い音がして、壁に穴があいた。その向こうは魔法の森が見え、涼しい風が吹き込んだ。その風を感じたのか早苗が早口に言う。
「美鈴さん?ここ、三階…ってああああああ」
「舌噛みますよぉ」
短い悲鳴を背中に抱えながら、美鈴は着地。目の前にはイナバの姿。
「ぴったりだな」
「はい!」
「では、合流地点まで走るぞ!」
しんがりを務めるは剣士・魂魄妖夢。じっと眼を閉じる。すでに射命丸、イナバ、美鈴、早苗は合流地点へ向かっている。
「しんがり…本隊の後退行動の際に敵に本隊の背後を暴露せざるをえないという戦術的に劣勢な状況において、殿は敵の追撃を阻止し、本隊の後退を掩護することが目的である」
しんがりの意味を確認しながら、周囲への警戒を怠らない。木々が不自然に揺れている。葉が不必要にざわめいている。普段の森にはない気配がこちらに流れ込んでくる。
「風上からやってくるとは…。舐められたものです」
身を低く、楼観剣を片手に、妖夢は前に踏み込んだ。途端、先ほどまで妖夢がいたところに無数の弾丸が叩き込まれた。
長く続くアサルトライフルの音もあれば、拳銃の音もある。
敵の銃撃が熾烈さを増す。
真っ暗なはずの魔法の森を銃火が明るく照らす。敵が発砲する度にその姿が晒される。しかし、照らされるのは敵の姿だけではなかった。その僅かな銃火の光を反射して、楼観剣が煌めく。
「一つ、二つ、三つ!!」
短い気迫と共に敵の銃火が一つずつ消えゆく。まず初めに狙うは、各リーダーとおぼしき兵士。
敵と敵の間を駆け抜けながら、さらに目の前の樹木をいくらか切りつける。
「ど、どこだー!?」
「一旦、集まれ!」
浮き足だった敵兵がお互いをかばうように一カ所に集まり始める。
「今だ!」
高速で移動していた妖夢の動きが止り、眼を閉じ、精神を集中させる。そして、
パチンッ
楼観剣を納めた。するとミシミシと音を立てて、木々が倒れていくではないか。
敵兵達を中心にその周囲に木で出来た結界が完成した。木は複雑に入り組み、高さも相当ある。これを簡単に抜け出すことは不可能。全ての敵兵を結界に閉じ込め、
「戦わずして勝つとはこのこと!」
誰も見ていない中でのドヤ顔。
しかし、そのドヤ顔の上を黒い影が通り過ぎた。
「まさか?!」
はっきりとは確認出来なかったが、あれは戦闘ヘリの影である。しかも戦闘に集中していたとはいえ、剣士・魂魄妖夢の耳にも感じられぬ程の消音性能を持っているヘリはそれほど多くはない。SFiGですら、数えるほどしか所有していないというのに。
「これは、早く知らせないと!」
すでにトップギアで走り出している。無線機のスイッチはオン。
「こちら、みょん。そちらに戦闘ヘリが一機向かいました。消音ヘリと思われます。装備は確認出来ませんでした。私もすぐにそちらを目指します」
早苗を抱えたまま走る美鈴とイナバ。どちらも暗い森の中だというのにほとんど迷いなく、かつ、迅速に行動していた。その後ろを弾丸が追いかける。妖夢がしんがりとして活躍しているとはいえ、妖夢を追っていない敵は必然的にこちらにやってくる。
「思ったより多いな」
「そうですね」
物凄いスピードで木々の間を駆け抜けながら、イナバと美鈴は振り返る。確かにこちらに追い付いてくる敵はいないが、このままでいいはずもない。たが、敵の正確な数と戦力がわからないかぎり無用な戦闘は避けるべきである。
「あ、あの、もう少し…ゆっくりは、お願い、でき、ません、か」
美鈴の背中ですでにグロッキーな声が聞こえる。すでに数十分、美鈴の背中で揺れていることになる。車酔いにも症状を呈しながらの懇願。しかし、その懇願はすぐに打ち砕かれることになる。
「美鈴!真後ろ、RPG!」
イナバが叫ぶ。対戦車直射弾が美鈴目掛けて一直線!
「早苗さんを頼みます!」
「任せろっ!」
「へ?えーーーー?!」
美鈴の叫び、イナバの返答、早苗の絶叫が重なる。その時すでに早苗の身体は空中に浮いていた。正確には美鈴によって投げられたのだ、イナバに向かって。イナバは早苗をお姫様抱っこの形でキャッチ。彼女の足は止まらない。
護衛対象を隊長にパスした美鈴は振り返り様に渾身の拳を作る。
「縲光歩!」
鮮烈な光をまとった拳と対戦車弾が激突。爆音、それに続いて爆風が周囲を襲う。何本もの木が倒され、すでに前を走っているイナバ達にもそれは届いていた。
「だ、大丈夫なんですか?!」
イナバの腕の中に収まっている早苗が焦りぎみに尋ねる。
「大丈夫だ、多分な」
振り向くこともせず、常にハイスピードで走り続けながら、隊長はそれに返す。そして、まだ続く森を見つめ、
「私もまさか拳で打ち落とすとは思わなかった」
巫女には聞こえない声で言った。
川が流れていた。川といっても小川のように少しの水の流れではなく、幅だけで数メートルはあろうかという川が流れていた。しかも、その深さもイナバ達の首まで浸かるほどある。
「ぜーぜーぜー」
川の手前、森が切れる直前にイナバと早苗の姿があった。地面に膝を着き、息を乱しているのは早苗、彼女を抱えて走ったイナバは飄々と木に寄りかかっていた。そして、懐から栄養バーを一本取りだし、半分を差し出す。
「今のうちに何か食べておいた方がいい」
「あ、ありがとう、ございます」
なんとか頭を上げ、栄養バーを口に含む。
「…なにこれ、マズイ」
「軍用の栄養バーだが?」
なんともいえない甘味と塩味、そして、酸っぱさが口の中を荒らしている。
「疲れた時にはとてもいい、お師匠もそうおっしゃっていた」
それを普通に食べているイナバと栄養バーを見比べ、もう一口。
「うぅ、やっぱりマズイ」
涙目になる。しかし、そのマスさがふとしたことを思い出させた。
「あ、あの、川を渡らないんですか?」
当然の疑問である。自分達は追手から逃れるためにここまで走ってきたのだ。あの川を渡れば、合流地点はもうすぐそこ。しかし、なぜ渡らないのか?その問いに小隊長は栄養バーをかじりながら、空中を顎でしゃくる。
「あれだ」
「え…?」
イナバが示した方向には恐らく妖夢が言っていた戦闘ヘリがグルグルと旋回していた。その動きは獲物を探す猛禽類に見える。
「さすがに川を渡っているところを見逃してはくれまい」
いくらイナバ達がうまく川を渡ろうとしても、見付かってしまったら、逃げ場はない。頭上ががら空きなのだから。ちょうど食べ終わったのか、イナバは懐から縦長の筒状のものを何本も取り出す。それには丸い指をかけるフックがついていた。それらを手際よくビニールテープでまとめ、さらに細い紐でフックを一括りに集める。
「そ、それって、まさか?」
早苗が後退りする。不敵に笑いながら、その“まさか”を森と川の境界ギリギリに置く。そして、無線機のスイッチを入れた。
「こちらウサギ。蛙の巫女に怪我はなし。現在、川の手前にいる。みょんから報告にあったヘリが旋回中」
「ということは、斬りましょう!斬って渡りましょう!」
妖夢のやや嬉しそうな声が返ってくる。
「後、どれくらいだ?」
「後、200歩です」
さすが剣士、歩数で残り距離を計算してきた。
「こちら中国。後少しで、そちらに合流出来ます」
美鈴もどうやら近いらしい。
「よし、私と中国でヘリを止める。みょんはその間に斬れ!」
「了解!」
「そのまま美鈴は、こっちまで全力で来い。すでに仕掛けは終わった、それを蹴り上げてくれ」
無線機から怒号の勢いで状況が伝えられる。
「後、50歩!」
妖夢の声が聞こえると、森の奥がわずかに白みを帯びた。剣士が楼観剣を抜いて、剣気を溜め始めたのだ。その光を見つけた敵のヘリがそちらに首尾を振る。
「行きますよぉぉ」
美鈴の声がして、その次の瞬間にはイナバによってしかけられた筒達が空高く蹴り上げられる。その勢いでフックが抜ける。
筒が空高く舞い上がり、それがヘリの目の前に到達。森の奥で高まっていた剣気がピークを迎える。
「断迷、水断!」
楼観剣が降り下ろされた。
ヘリの目の前で筒が激しい閃光を撒き散らす。
「走れー!」
まだ状況に追い付いていない早苗を横脇に抱え、イナバが走り出す。
「え?だって、川が?!」
「なくなるさ」
イナバが川に飛び込むのと、その後ろから妖夢の剣撃が迫るのは同時だった。
「川が斬れたー?!」
イナバが着水、否、着地したのは、川底だったところ。彼女らのすぐ後ろを美鈴、続いて妖夢が走っている。空中で巻き起こった大閃光が三人の影を落とす。
「速かったな、美鈴」
「だって、これを逃すと置いていかれますから、ね」
「あれって…?」
早苗が閃光の正体を尋ねる。小隊長の声が答える。
「フラッシュバン。閃光を撒き散らす手榴弾さ」
視界を奪われ、一瞬とはいえ機能を停止したヘリの真下を駆け抜ける。
すでに合流地点に到着し、周囲の安全を確認した射命丸。魔理沙との交信は済んでこちらが合図をすれば、駆けつけて来てくれる算段になっている。そこにイナバ隊長からの無線が入った。
「カラス、普通の魔法使いに伝令。ヘリが一機ついてきた」
「あややー、そう簡単には帰してもらえませんかー」
射命丸が困り顔でしかし、声はさほど問題なさそうに、無線機に伝令を伝える。
「十分くれれば、安全な空の旅を保証してやるぜ」
そう言うが早いか、射命丸の待機位置に大風が吹いた。魔理沙のヘリがやって来たのだ。すでに全ての攻撃装置のスイッチが入っている。ミサイルの発射口は開き、ガトリング砲もその性能を確かめるように幾度か回転してみせる。相手の出方によっては奇襲も可能であったというのになんと大胆なことか。逃げも隠れもしない、魔理沙らしい攻めの姿勢がそこにあった。向こうから消音ヘリがやって来るのも見えてきた。すでに魔理沙機を捕捉しているであろう。そして、それが攻撃態勢をとっていることも。
「さて、もう少しまちますか」
射命丸が地面に腰を落とした。その時、消音ヘリが連続した爆音をたてた。ミサイルを魔理沙機目掛けて撃ったのだ。やや高い音が、一瞬。数発の赤い光が迫る。しかし、それをさも読んでいたかのように、ヒラリと横旋回で回避。
「ひゅう、お見事」
すでに役割を終えたと思っているのか射命丸が栄養バーをかじりながら、感嘆。
敵機と魔理沙機との距離が縮まる。すでにミサイルの間合いではない。この距離でミサイルを撃てば自分に誤爆の可能性があるからである。それをどちらのパイロットも熟知しているのか、ガトリング砲が動き始めた。
ガガガガッガッ!
どちらの発射音ともとれない連続した銃声。否、銃声という表現では生ぬるいほどの轟音。そして、地面に影を作るほどの明るさがあった。それほど熾烈な攻防であった。
いくつかの弾丸が魔理沙機に当たり、火花を散らす。しかし、まだ勢いを失っていないところを見ると、損傷は軽微のよう。対する敵機もいくつかの弾丸がヒットしたのか、装甲板にキズが認められた。
「魔理沙さんは、あの程度じゃあ、ねぇ?」
誰に語っているのか射命丸の一人語りは続く。すでに両機とも一度目の交差が終わり、機首を返している。またここから、仕切り直しかと思われたが、今度は魔理沙機が先に仕掛けた。それほど遠くない距離を一気に加速。相手にミサイルを撃たせることなく、接近戦にもちこんだのだ。相手は慌ててガトリング砲に切り替えようとするが、
ダンダンダン、ダン
間に合わなかった。
目の前で確認していた敵に奇襲をうけた敵機は横っ腹に大きな穴が開いた。そのまま勢いを失いながらも、数十メートル進む、
ドガ-ーーーン
燃料に引火したのか、炎の塊となってしまった。
「どんなもんよ」
「お見事お見事」
魔理沙と射命丸の短いやり取り。そして、
「間もなく合流地点だ。回収を頼む」
隊長の声が聞こえた。
~終わり~
現代兵器に対抗する続きを期待してもいいですか?
個人的には徒手空拳で戦闘ヘリを撃ち落とすメーリンが見たいな。
頑張ってください。
そこらへんの設定をもうちょっと詳しく描写してくれるならいいかなー