ここは迷いの竹林。
私、藤原妹紅はここに小屋を建てて住んでいる。
どこまで行ってもほとんど変わらない景色と同じく、ほとんど変わらない毎日を過ごしているのかと思えば、
やっぱり大体はそうなのだけど、たまに主に永遠亭の連中の所為でとんでもない変化が訪れたりすることもよくある。
たとえば、永琳の妙な実験の所為で私の家の隣に奇妙な植物が生えたりとか。
まあ害はないどころか食用になるし永琳の実験の結果としては珍しくよい変化だったのだが。
この前なんか光る竹がそこらじゅうに現れてそこから人造人間もどきが沸いてきたりして駆除が大変だった。
多分輝夜が地上に降りたときを再現しようとしたんだろうが……相変わらず月人の考えることは分からん。
まあそんな妙な変化の所為で、永遠の命があってもそれなりに退屈せずに生きている。
……しかも、永遠亭にはもう一人騒々しいのがいるし。
「もこたーん!勝負よ!」
ほら来た。とりあえずもこたん言うな。
さて、こいつが誰なのかは言うまでもないな。私に勝負を仕掛けてくる奴なんて幻想郷には一人しかいない。
そう、蓬莱山輝夜だ。
まあ勝負を仕掛けるのは私からのほうが多いんだが……
というか、ちょうどこの状況を逆にしたパターンが多い。
つまり寝ている輝夜を私がたたき起こし、そして勝負、ってね。
でも私はこんな朝早くに行ったりはしない。つーか、輝夜は普通こんな早く起きない。
大体私が永遠亭に行くのは昼前だし。
わざわざ早く起きて呼びにくるからには、何かわけがあるのだろう。
まあ、でも、
ニアそう かんけいないね
輝夜の事情など知ったことではない。名ので私は再び目を瞑り
「起きろー!」
「ごふぁっ!?」
あいての かぐやの のしかかり!
私の体は麻痺の追加効果を受けたかのように重くなった。
「いったいな!いきなり何をするか!」
「やーっと起きた。さあ勝負!」
のしかかったままの体勢で輝夜が言う。
とりあえず、何でそんなに勝負したがるのかを聞きたいとか、その前に何はなくともそこからどいて欲しいなどと様々な思考が頭を回るが、
その時最も強く表に出てきたのは、
「やだよ、眠い」
だった。まだ少し薄暗い時間なのだ、当然だろう。
「もう、普段は私をニートだの引きこもりだのと罵るくせに!」
「それはお前が昼まで寝てるからだろ……頼むから朝は寝かせてくれ」
「むぅ、しょうがないな……じゃあ添い寝してあげr」
「よし輝夜かかってこい全力でぶっ殺してやる!」
「変わり身早!ってかそんなに嫌がらなくても……」
「うるさい、それよりさっさと終わらすぞ!」
とはいっても、さすがに中でやるわけにはいかない。
殺し合いだとか言っても毎回毎回全力でやっていてはいかに蓬莱人とは言えど身が持たないが、
それでも一応殺し合いである。結構周囲に被害が出る。
この前なんか竹林が火事になってしまったし。あれ以来、私は火を使うときに気をつけるようにしている。
まあそんなわけで、私たちは外に出ることにした。
★★★
「よし、早速いくぞ!」
「いやいや、待って待って。今日はとっておきの必殺技があるのよ」
「……はぁ?」
なるほど、それを試したくて朝早くから私の元へと来たのか。
しょうもないことでたたき起こさないでくれ。
しかし、こいつがこういうことをするときは、永琳が絡んでいることが多いため油断はできない。
「まあいい、とりあえずその必殺とやらを見せてみろ」
「ひはへはふへほひはひゅんひひへふほほほほ!」
「……んあ?」
輝夜が何か言ってることは分かるんだが、何かを口に含んでる所為でなに言ってるのか分からない。
とりあえず、何言ってるか分からなくなるまで口にものを詰め込むな。
姫としての立ち振る舞いとか、そういうのまったくお構いなしだなおい。
「……ぷはっ、言われなくてもいま準備してるところよ!」
「……さっきはそう言ってたのか、つーかその草はなんだ?」
「オリウイ草っていうらしいの、この術に必要なのよ」
そういっているうちに輝夜は準備が済んだらしく、息を大きく吐いた。
そして再び大きく吸い込み、気合を入れた。
「はああっ!!」
すると輝夜の体が光につつまれた。どうやら『必殺技』が始まったらしい。
ゴゴゴゴだとかドドドドだとかそんな擬音がバックに描かれそうな、そんな雰囲気だ。
そして光が消えると、
そこには、ネコミミモードな輝夜がいた。
「……っははははは!なんだそれ!」
「もう、そんなに笑わないでよ!」
そりゃ笑いたくもなるさ、いきなりすごいエフェクトを伴って変身をはじめたと思ったら、
ただ猫耳&猫尻尾が生えただけだなんて。
まあ耳も尻尾も血が通ってるらしく動いているのですごいっちゃあすごいんだが。
「で?それは失敗なのか?」
「いいえ、こういう技なのよ。猫の霊を憑依させて身体能力を飛躍的に向上させるというものなのよ!」
「ほーう?なら、かかってこい!」
★★★
すみません、正直舐めてました。
輝夜の言ったとおり、猫を憑依させた輝夜の身体能力はあのニート姫とは思えないほどだった。
とても俊敏になって攻撃してもよけられるわ、筋力も増して元からの能力も合わせて遠近両方でかなりの強さを持つわ、
そして極めつけに通常の五倍の力で攻撃する技まで持っており、普段の輝夜と互角の私では勝ち目がなかった。
「……ちくしょう」
結果は言うまでもなく敗北。久しぶりにフルボッコにされた。
戦い終わってしばらく寝転んでいたが、まだ完全に体が修復できていないぐらいだ。
で、輝夜はというと……あれ、どこいった?
「……ひゃっ!?」
私の頬に何かが当たった。すぐにそれは輝夜の舌だと分かった。
「な、何するんだよ!?」
「にゃー?」
輝夜が不思議そうに首を傾げる。もしかして、心も完全に猫になってしまっているのだろうか。
無邪気な目でこちらを見るその姿はとても可愛らし……いやなんでもない、聞かなかったことにしてくれ。
などと考えている間にも、輝夜は私にじゃれ付いてくる。
舌の感触が妙にこそばゆかったり、傷に唾液がしみて少し痛かったりで変な感じになる。
そしてその体のもつ程よい熱と重みが妙に心地よく、おまけに睡魔まで襲ってくる――――――
はっ、危ないところだった。
「……やめろって!」
「にゃー!」
おおっと!かぐやくん ふっとばされた!
危うく睡魔に負けそうになったが、輝夜を跳ね除けることに成功した。
「はぁ、まったく……なにやってるんだよお前は…………輝夜?」
ふっ飛ばした輝夜に近づいてみるが、反応がない。
目の前で手を振ってみても、やはり無反応。
どうやら、打ち所が悪く気絶してしまったらしい。
「……ったく、しゃーねーな……」
私は輝夜を永遠亭まで運ぶことにした。
まあ輝夜を気絶させたのは私だし、責任は取らないといけないしな。
★★★
「あら慧音、いらっしゃい」
「何だ永琳、見せたいものって……うわ、これ私か!?」
「ふふ、あなたが寝てる間に作ってみたのよ」
「いや、どうやって!?」
「ロ○サガ3の七星剣を増やすバグの要領で。まあちょっと失敗してただの人形になっちゃったけど」
「突っ込みどころが多すぎる!まずどうやって私を装備したんだ!?」
「まあ、そんなことを聞くなんて……慧音ったらもう♪」
「どんなことを聞いたんだ私は!?というかそもそも何のためにそんなものを作ったんだ!?」
「一人寂しい夜に一緒に寝てるわ」
「な……じ、自分の偽者と一緒に寝られる私の気持ちはどうなる!?」
「なんだ、一緒に寝てくれるの?だったら偽者なんかより本人がいいわ」
「そうか……なら、早速今夜こっちに泊まろう」
「それもいいけど、たまには慧音の家に泊めてくれないかしら?」
「えっ……ああ、いいよ」
「やった、ありがとう♪」
「ちょ、ちょっと、抱きつかないでくれ、イナバたちが見ている……
それに……その……当たってる……」
「当ててんのよ♪」
永遠亭につくと、こんな感じに永琳と慧音が夫婦漫才を繰り広げていた。
とりあえず、朝っぱらからいちゃつくなお前ら。
「……あら?妹紅じゃない、それに姫も……あら、寝てるのかしら?」
「ああ、ちょっと打ち所が悪くて気絶しちまってな……ってかお前ら、相変わらず仲いいな……」
「あら、あなたたちだって。お姫様抱っこで永遠亭まで運んでくるだなんて」
私はしばし硬直した。
言われてはじめて気がついた。私が輝夜を運ぶ体勢は、いわゆる『お姫様抱っこ』だったのだ。
「ち、違っ、これはたまたまだ!」
「しかも猫耳までつけちゃって、朝からコスプレプレイかしら?」
「妹紅……お前をそんなふしだらな女に育てた覚えはない!」
永琳は頬に手を当て顔を赤らめる。慧音は腰に手を当て私を睨む。
「違う!普通に勝負してただけだ!それと朝からってお前らがいうな!あと慧音に育ててもらった覚えはない!」
「おお、全部つっこんだ」
「まあ冗談は置いといて、どうだった?姫の新技は?」
分かってて言ってたのかお前らは。
「ああ、悔しいけどとても強かったよ」
「そうじゃないでしょ?」
「……何が?」
「可愛かったとか、萌えたとか!」
「ねーよ!」
「な……あなたそれでも男なの!?」
「女だよ!」
……こんな感じに、永琳との会話はいつもボケツッコミの応酬となる。
輝夜共々こいつとの付き合いも長いが、やはりいまだに慣れない。
「……でも、変ね?そろそろ憑依が解けてもいいころなのに」
「そうなのか?」
永琳は、輝夜に近づきなにやら調べ始めた。
しばらくして、少し渋い表情になる。
「……どうやら、気絶している間に乗っ取られたようね」
「ええっ!?それで、輝夜は大丈夫なのか?」
「大丈夫、そんな悪い霊じゃないから、自然と元に戻るはずよ」
「そ、そうか、よかっ……って、別によくない!」
「「このツンデレめ♪」」
「誰がツンデレだ!それとハモるなあぁぁ!!」
……後で聞いた話だが、私のこの叫びは永遠亭中に響いたらしい。
おかげでイナバたちにツンデレツンデレと呼ばれまくった。さすがにイナバたちに怒るのは大人気ないのでやめておいたが。
★★★
太陽が西に傾き、すっかり空は紅く染まってしまった。
そのうち夜が来て、妖怪の時間となるだろう。まあ、そんなことは私にはどうでもいい。
もっと重大な問題が私の身に起きているからだ。
「はぁ、何で私がこんなこと……」
頭に猫耳を生やした輝夜が私の膝枕で寝ている。
私が輝夜を追ってこの竹林に来たときでは考えられない状況だ。。
……いや、ついさっきまで、具体的には輝夜が変身するまで、こんなことになるとはまったく想像できなかったんだが。
まあとにかく、妙な状況だ。何でこんなことになったかというと、
『じゃあ、姫の面倒はあなたが見てね』
『はぁっ!?な、なんで!?』
『そりゃ、姫がこうなったのはあなたが原因だからよ』
『そうだな、私もそのほうがいいと思うぞ』
『そ、そんな……』
『じゃ、娘をよろしくね』
『いやお前の娘じゃないだろ!』
『すまないな永琳、うちの息子が迷惑をかけて……』
『息子じゃねえぇぇ!』
こんな具合。
確かに気絶させたのは私だが、だからといって宿敵に預けるとは……
何で私が輝夜を追ってきたか、もう覚えてないだろこいつら。
そんなわけで、輝夜の精神が完全に猫化している事をいいことに、虐待してやろうかと思う。
他人の目に触れるとまずいので、こっそりと連れて行く。
まずは嫌がる輝夜を無理矢理風呂場へ連れ込みお湯責めにする。
体に薬品を塗りたくり、十分に汚染した後再びお湯責め。
さらに逃げようとする輝夜を押さえつけ布で摩擦する。
体が温まったところに、さらに私の能力を使って熱風をかけてやる。
これだけではなんだか物足りないので、その後に乾燥した不味そうな塊を食わせることにする。
私はとても飲めそうにない白い液体つきだ。しかも暖めた後わざと冷ましてぬるくなったもの。
そして今日の戦いで疲れているであろう輝夜の肉体にとどめを刺してやるべく、
先端に針状のもののついた棒を振るい、猫の闘争本能を著しく刺激する。
しばらく抗い続けていたが、輝夜はあえなくダウンする。
そうこうしているうちに夜になってしまったが、万が一にも逃げられては困るので輝夜が寝静まるまで監視する。
念のため、体を押さえつけながらだ。
しばらくして輝夜は眠りについた。こんな状況下でも眠れるとは、相当疲れていたのだろう。
私もそろそろ寝ることに
「「「「|∀・)ニヤニヤ」」」」
「なっ!?お前らいつからそこに!?」
永琳・慧音・鈴仙・てゐの四人は、お互いに顔を見合わせてから、
「ツンデレね」
「ツンデレだな」
「ツンデレですね」
「ツンデレウサ」
「だっ!れっ!がっ!ツンデレだァ――――ッ!」
と叫びたい気分だったが、さすがにもう夜なので自重した。
「アリスさんとはまた違うタイプですね」
「というか、ここまで来るともはやデレ?」
「宿敵デレ……とか虐待デレとか呼ぶべきだろうか?」
黙ってるとこいつらはそれをいいことに、妙なことを言い出し始めた。
とりあえず、勝手に新ジャンルを作るな。
「ちっ、違う!……えーと、ちゃんと可愛がってやらないと取り憑いた猫が可哀想だからだよ!」
「ふーん?」
「へーえ?」
「ほーう?」
「そーなのかー?」
永琳たちはニヤニヤとした視線の集中砲火をこちらに浴びせてくる。
……なんか聞きなれない、しかし聞き覚えはある声が聞こえた気がするが、まあそれは置いといて。
「だ、だってそうだろ!?成仏するはずのところを、突然現世にとどめられて!
こんなわけわかんない奴の体に取り憑かされて!あげく憑依がしばらく解けないんだぞ?可哀想だろ!」
「なるほど、確かにそうね……よし!じゃあ妹紅、あなたにこの猫を任せるわ!」
「なにィ!じゃあ私は家に帰れないのか!?」
「だって、私は薬品調合の依頼で忙しいんだもの」
「師匠と同じく」
「私も、寺子屋の授業があるしな」
「私は詐g……じゃない、お賽銭集めが忙しいし」
「う、うう……」
そんなわけで、引き続き輝夜の世話を引き受けることになってしまった。
(……師匠、あの薬ってそんなに急ぐものじゃなかったですよね?)
(しーっ♪妹紅に聞こえるわ)
(いえ、分かってるんですけどね。確認したかっただけです)
(そう。ところで慧音、お泊りはいつに延期する?)
(そうだな、とりあえずあいつらを一通り観察し終わったらだな……
延期したのも、妹紅たちを見守りたかったからだし)
(そうね、それがいいわ。さて、どうなることやら……♪)
★★★
こうして妹紅と黒猫は永遠の時を幸せに過ごしました。
……なーんていう具合にもう終わってくれればいいのだが。
輝夜も猫のままなら可愛いし、そういうオチなら悪くない。
だけど話は無情にもまだ続く。
そのまだ続いている話で私は何をしているかというと、特に何もしていなかった。
ただ昨日と同じように、猫輝夜の世話をしているぐらいだ。
幸い、この猫は私になついているらしく、逃げられる心配はなかった。
……まあ、そのためにちょっと別の問題があったりしたんだが……
「さて、そろそろ飯にするか……」
「にゃーっ♪」
「わ、ちょ!わかった、牛乳持ってくるから!服の中に頭突っ込むな!脱がすのも駄目だ!
おい!そんなところ吸ってもミルクなんて出ないって!」
「ふあぁ……昨日寝るのが遅かったからか、眠いな……寝よ」
「にゃーん♪」
「お、おい、抱きつくなって……くそぅ、寝られるわけねぇ……」
「あー暑い……ちょっと風呂入ってくるか……」
「にゃあん♪」
「風呂までついてくんなーっ!!」
……こんな具合だ。いくらなんでも懐かれすぎじゃないか?
そしてこんな生活が一週間ほど続いた。
しかし、時間がたつにつれてなんだか輝夜の様子に違和感を感じるようになった。
どこが……とはいえないが、とにかくなんだか不自然なのだ。
★★★
しばらくして、その違和感が気のせいではなかったことがはっきりした。
少し目を離したとき、輝夜が手づかみでものを食べていたのだった。
「……輝夜、どういうことか説明してもらおうか」
「…………」
観念した輝夜は、私に事の一部始終を話した。
たしかに猫は憑依し、取れなくなったらしい。
今は付け耳のようだが最初はちゃんと血の通った猫耳だったのでそれは確かだ。
だが、実は三日目ぐらいに憑依は解けていた。
そして輝夜はそのまま、猫になりすましたのだった。
「でね、その霊は子猫の霊で、誰かに甘えたかったんだって」
その猫は、私を母親でも飼い主でもないと知りながら、甘えてみた、と言っていたらしい。
兄弟の中で自分一匹だけが死んでしまい、寂しかった……
それで、輝夜が気絶した隙に体を乗っ取ったらしい。
「最初、もしかしたら疎ましがられてさっさと除霊されてしまうかと思ったらしいわ、でも……」
でも、私はちゃんと『猫』の世話をした。
甘えてきたら、ちゃんと甘えさせてやった。
それが、あの子猫にはとても嬉しかったらしい。
「……あの子、妹紅に『ありがとう』って伝えてって言ってたわ」
そして、あの子猫は成仏していった。
輝夜の言っていることが本当なら、幸せに逝ってくれたのだろうか。
「……でも、酷いわ妹紅。私に体の自由がないことをいいことに、お風呂へ連れこむだなんて……」
「なっ!?お、お前、そんなことまで猫から聞いたのか!?」
「ううん、そもそも最初から意識自体はあったわよ?」
「な、なんだってーっ!!」
このとき、あいにく鏡はなかったのだが、きっと私の顔は真っ赤であっただろう。
そもそも輝夜は風呂があまり好きではなく、入らない日も多かった。
猫になれば尚更で、絶対風呂になど入らないだろうから、強引にでも入れた。
ただそれだけのことだったのだが。
だがどう言い繕おうと私が輝夜の裸体を見、そして洗うためとはいえ触ったことには変わりないわけで。
「とにかく、私をキズモノにした責任は取ってもらうからね?」
「誤解を招くような言い方をするな!」
「「ついに一線を越えたと聞いて歩いてきました」」
「越えてない越えてない!誤解だ!」
「私の専売特許が使われてると聞いて」
「知らんよ!歩いてお帰り!」
★★★
あの後、時を止めないメイドに……メイドは時を止めないのが普通な気がするがまあ置いておいて。
とにかく、夢子と名乗るメイドに歩いてやってきた自称神を引き渡し、
永琳と慧音を部屋の外に追い出した。
「はぁ、まったくあいつらは……って、そうだ、一番肝心なことを聞き忘れてた。
輝夜、お前は何であんなことをしたんだ?」
「う……えっと……」
輝夜は目を逸らし、言葉を濁した。
どうやって誤魔化すか考えているような感じだったので、軽く睨んでみると、観念したのか話し始めた。
「……こうでもしないと、添い寝なんて永遠にしてもらえないかなと思って……」
……どうやらこいつは、本当に添い寝がしたかったらしい。
しかも強く断ったことをそんなに気にしていたのか……
「……とりあえずそれぐらいかまわないから、いい加減その猫耳をはずせ」
「本当!?」
そういうと輝夜は目を輝かせながら猫耳をはずす。
これが数日前まで血の通った猫耳なら、動いたりしそうだ。
……そこまで嬉しいか。
★★★
まあ、そんなわけで。あれからすぐに布団が準備され、昼寝開始。
今、私は輝夜と一緒に布団の中にいる。
……言っておくが変なことはしていない。が、腕枕をすることにはなってしまった。
「…………」
輝夜はとっくに寝てしまっている。
私はもちろん寝られない。猫輝夜のせいであんまり寝れていないのにもかかわらず。
「……いつも殺す殺す言ってる奴の腕で、どうしてこんなにぐっすりと眠れるもんかねぇ……」
ますます昔の私では考えられない状況になってきた。
最初永遠亭にまで来たときは、この手で輝夜を安らかに眠らせてやるつもりだったのに、
今は読んで字のごとくの意味でそうなってるとは。
「相変わらず、よく分からない奴だ……」
輝夜の顔をじっと見る。
はるか昔の、すべての男を惹き付ける異常なまでのカリスマは失ってしまったけれど、
昔も今も、その子供っぽい性格に反した大人びた雰囲気と、千年以上の時を生きているのにいまだに残る幼さ、その二面を持っている。
一言で言ってしまえば、可愛いのだ。
私はそんな輝夜の頭に手を置き、
なでなで。
撫でた。
なんだかよく分からないが、そうしたい気分になったのだ。
その黒い髪は、よく手入れがされていて、さわり心地がよかった。
「う……ん……」と声をあげ、起きてしまうかと思ったが、またすぐに静かになった。
その一連の様子が、また可愛らしかった。
……あ、ありのまま、今起こったことを話す。
『確実に覗かれているであろうことは重々理解していた
はずなのになぜか輝夜の頭を撫でていた』
まあ、要は覗かれていたわけで。
「何をしているだァ―――――!!」
★★★
そして、結局一睡もできないまま、私は家に帰った。
ちなみに、永琳は今夜慧音の家に行くらしい。
仕返しにこっちも覗きに行ってやろうかと思ったが、多分あいつらは全然平気だろうし、
しかも下手をすればこのSSが全年齢対象じゃなくなる。
それはさておき。
思い返せばこの一週間あまり、一人になる時間がなかった。
久しぶりの一人の時間なのだ。
この人生、一人でいる時間のほうが圧倒的に長く、慣れているはずの時間だった。
だけど、今のこの時間は、なぜか何かが抜け落ちたかのように物足りなく、寂しい。
その寂しい時間で思い浮かべたのは、輝夜の顔だった。
なんで、輝夜なんだろう。
その答えとして、絶対に認めたくなかった二文字が、浮かんで、そして消えていった。
しばらくして、誰かが私の布団へと侵入してきた。
だけど不思議と危機感はなく、私はすんなりとそれを受け入れた。
そして妙な安堵感とともに、深い眠りについた。
おやすみ、輝夜。
★★★
「なっ、何でお前がここにいるんだ!」
朝起きた後、我ながら白々しいと思いつつも、やっぱり言ってしまった。
言うまでもなく、昨日のあれは輝夜だということは分かっていたんだが。
「いや、ちょっとね……妹紅に子猫のこと、お礼言ってなかったから……
言いに行ったら、そこには気持ちよさそーに眠る妹紅が……」
「なんじゃそりゃ……」
「まあ、それはともかく、あの子の面倒見てくれて、ありがとう」
「べ、別に、お前のためにやったわけじゃないし、お前に礼を言われる筋合いは……」
パカッ
「「テ ン プ レ キ タ コ レ !」」
「うわっ!?お前ら、どっから沸いてくるんだよ!?」
「こう、床からパカッとな」
「えーりんせんせいインしたお!」
「けーねせんせいもインしたお!」
お前ら、アホだろ。
「つーかお前ら、慧音の家にいってたんじゃないのか!?」
「何のことはないわ、ただあなたたちより私たちのほうが起きるのが早かったというだけの話よ」
「それにしても。本当にツンデレだな妹紅は……」
「誰がだっ!そもそも、ツンデレになるのって恋愛感情の一種だろ!私も輝夜も女だ!」
「「恋愛に性別など関係ない!!」」
ハモってまで力説するな。しかもお前らがいうと妙に説得力あるし。
「とにかく!結局姫様のことも可愛がっていたこと!」
「言い逃れできると思うなよ!」
見事なコンビネーションでじりじりと包囲網を狭めてくる二人。
どこまで仲がいいんだ、こいつらは。
「この通り、写真もあるしね!」
な、なにィ!?
「さあ、観念するんだ妹紅!」
二人は写真を私に見せながらさらに近寄ってくる。
このときもまたあたりにはには鏡などなかったのだが、多分私の顔は真っ赤だっただろう。
体もだんだんと火照ってくるのを感じる。
そして、それが最高潮になったとき。
私の体が火を噴いた。
比喩ではなく、本当に燃え上がったのだ。
しかしその炎を、三人ともが見事にかわした。
「くっ、『ペケ』の『哀愁番長』とはなかなかマニアックなネタを引っ張ってくるな妹紅!」
「じゃあ次は姫様に私の手がちょっと当たって『輝夜になんてことをするんだァ――――!!』ね!」
「ねーよ!しかもネタ混ざってるし!それも誤植修正後かよ!」
どうも私の炎を出す能力が恥ずかしさによって暴発したらしい。
しかしその炎で永琳の持つ写真を焼くことに成功した。
よし、とりあえず逃げる!
「あー姫、この写真のネガを天狗に渡しますがかまいませんねッ!」
「全然OKよ、むしろやっちゃって」
「待てぃ!」
「ネタの匂いがしたので飛んできました!」
「帰れ!どこまで神出鬼没なんだこのカラスは!」
「幻想郷の恋愛模様で知らないことなど何もない私に、知らないことがあってはならないのです!
さあ、輝夜さんと何があったのか、事細かに教えてください!」
「
へ へ|\ へ √ ̄| へ
( レ⌒) |\ ( |\)| |/~| ノ ,__√ /7 ∠、 \ . 丶\ _ __
|\_/ /へ_ \) | | | |∠ | |__ | / ! | | |_~、 レ' レ'
\_./| |/ \ .| |( ̄ _) | ) | | i | へ_,/ ノ ,へ
/ / ̄~ヽ ヽ. | | フ ヽ、 ノ √| | ! レノ | !. \_ ー ̄_,ー~' )
/ /| | | | | |( ノ| |`、) i ノ | | \_ノ ノ / フ ! (~~_,,,,/ノ/
| | | | / / | | . し' ノ ノ | | / / | |  ̄
\\ノ | / / | |___∠-. | | ノ / ノ | /(
\_ノ_/ / (____) し' ノ/ / / | ~-,,,__
∠-''~ ノ/ (_ノ ~ー、、__)
私はもう逃げさせてもらう!」
「あのね……」
「言おうとするな!お前も来い!」
「あっ、ちょっと、もこたん!」
「もこたん言うな!いいからさっさと来い!」
「『宿敵』藤原妹紅、輝夜姫を連れて駆け落ち……ですかね」
「なんとでも言え!……と、そうだ、お前『恋愛模様で知らないことなど何もない』って言ってたよな?」
「ええ、それは間違いないです。たとえば最近チルノさんは霊夢さんに勝とうとがんばってますし、
魔理沙さんは夜空を飛ぶときは自然とルーミアさんを探して飛んでいるようです。他には……」
「じゃあ、おまえ自身はどうなんだ?」
「わ、私ですか……?私は……その……ミスティアさんと……
この前、一緒に夜空の散歩をしたとき、私のために歌を歌ってくれたんですよ……
えへへ、恋人のための歌ですって……おっと、もちろんどんな歌だったかは秘密ですよ?
しっ、しかも!そのあと……ああ、これ言っちゃっていいのかな……
いいや、言っちゃおう……ってああ!ちょっと!人の話は最後まで聞いてくださいよ!」
★★★
「ふぅ……」
結局私たちは、私の家の下に作られた地下通路に逃げ込んで事なきを得た。
ちなみに、もともとは人里へと繋がっていたものだが、輝夜や永琳が広げまくっていまや幻想郷のあちこちに繋がる大迷路となっている。
もっとも、私が使うのは人里や永遠亭に繋がる最初のうちからあった場所なので迷うことはない。
この穴から出るときは先ほど永琳と慧音がやっていたように『パカッ』とあけて出るのだが、
そのtき輝夜が「あ!もこたんインしたお!」と言って以来、『イン穴』と呼ばれている。
「まったく、あいつらは……おかげでものすごく疲れた……」
そういって私は、壁際に座り込んだ。
体にたまった疲労は、輝夜の前で無防備な姿をさらすことを気にする余裕をすでに私から奪っていた。
「そう?でも私は楽しかったけど……」
輝夜はおもむろに私の隣に座る。
そして、目を閉じた。
「こうやって、二人、あるいはみんなで暴れて、ふざけて……楽しくない?」
「……暴れてるのもふざけてるのも主にお前らだがな……この一週間だってそうだ。
でも、確かにな……」
しばらく、二人きりの静かな時間が流れた。
それはまるで時が止まったかのように。
やがて、それは輝夜によって動き出した。
「……ねぇ、妹紅」
「なんだ……って近い!顔近いから!」
「妹紅が結局のところ、私をどう思ってるかは知らないけど……私は結構真剣に妹紅のこと好きよ?」
「なっ!?」
いきなり何を言い出すんだこいつは!?
「なっ、な……ど、どういう意味だ!?」
「言ったそのままの意味で受け取ってくれて結構よ。で、お返事は?」
私は何も返事を返せずにいた。とはいえ、実はどう答えるべきか、頭の中では纏まっている。
しかし、私はどうしてもその答えを言いたくなかった。
恥ずかしい、照れくさいなどの理由もあるのだが、ここで特筆したいのは、ある可能性についてだ。
「……輝夜、こういうときのお約束って知ってるか?」
「……ああ、なるほどね」
「いち」
「にの」
「「さんっっ!」」
私と輝夜の弾幕が、同時にある影に向かって飛んでいく。
そしてそれは……命中していなかった。
「くっ、バレてしまいましたか……」
「お前もしつこいな、いい加減諦めろ」
「いいえ、話しはじめた以上、最後まで聞いてもらいます!
ついでに、紅魔館のメイドたちの恋愛関係まで把握している私が、あなた方のことを把握していないわけにはいかないのです!」
そっちがついでかよ!
「そんなに私たちの関係が知りたいの?じゃあ……」
ちゅ。
――何をいってるか分からないと思うが、私も何をされたのか一瞬分からなかった――
「なっ……ぁ……」
もうツッコミが言葉にならない。
無理に発しようとすると、くぁwせdrftgyふじこlp……となってしまうだろう。
そして素数を数え落ち着いたところで、
「な……何をするだァ―――――!!」
「とまあ、こんな感じなのよ」
「おお、ほっぺにちゅーとは……あなた、分かってますね!」
「この良さが分かるとは、あなたもなかなかね!」
変なところで意気投合する二人。
とりあえず、私を無視するな。
「おい輝夜!誤解されるだろ!」
「あら、誤解もなにも、私の気持ちはさっき伝えたところじゃない?」
「ほう、輝夜さんはすでに告白済みですか!」
「ええ、あとは妹紅の気持ちを聞くだけよ。
もっとも、仮に嫌われてても一万年かけてでも振り向かせるけどね」
「おお~……でも、十中八九それはないと思いますがね……さあ、」
「どうなの妹紅!?」
「どうなんですか妹紅さん!」
言える訳ねえだろおぉ!!
ニアにげる
「あっ、こら、待ちなさい!」
「誰が待つかぁ!」
「逃がしませんよ!私は必ずあなたに話を聞いてもらいます!あと真実も明らかにします!」
……どうやら、私が素直になれる日は遠そうだ。
>「「恋愛に性別など関係ない!!」」
感動した。
まあ、それはそれとして、妹紅が輝夜の体を洗って拭いてる姿が頭から離れん。どうしてくれるかあああ・・・ふう。よくやった!!
ところで、『吸ってた』のは猫?輝夜?
生まれたばかり頃の猫は自力で大きい方ができないそうですが・・・あ、そこまで小さくは無かったんですよね?はっはっは!ん?何も想像してませんよ?
ってか神綺様なにしてんのwww
猫度が満ち満ちている話ですな
笑わせていただきました。
ニヤニヤが止まらない
ぬこ輝夜も妹紅もかわいかったですよw