※ この話の中には、少々過激かも知れない表現と、独自の設定がございます、ご注意下さい。
雲一つ無い夜。
まるで墨汁で塗りたくったような空には、星々と、欠けた月が浮いている。
月の形は、下弦。
それは、成長過程ではなく、老いて、死に行く形。
その淡い光に照らされて、数人の人影が映し出される。
様子は慌ただしく、まるで何かを探しているようだった。
否。
だった、ではない。
探しているのだ。
懸命に。
暗く深い闇夜の中、小さな灯りを手に、必死で何かを探している。
「そっちは、どうだった!」
「いや・・・見つからない」
「とにかく、もう一度探そう!」
「そうだな、見落としているところも、あるやもしれん」
言葉を交わし、また方々に散らばろうとする者達。
そこに、一人の影が近づく。
「皆、待ってくれ、流石にこれ以上は危険だ・・・後は私に任せ、皆は休んでいてくれないか?」
その人物は、人里の守護者、上白沢 慧音だった。
「慧音様・・・しかし」
「しかしも何もない、これから先は妖怪の時間だ。 いくら私でも、無理を通そうとする者を全て守りきれる自信はない」
人里の守護者は、男の反論を、正面から切って捨てる。
「む・・・・・・ですが」
「皆にも家族は居るのだ、心配を掛けさせてはいけない・・・・・・」
「・・・・・・判り、ました・・・・・・」
そう言って、男は力無く項垂れる。
その表情は、苦渋に満ちていた。
「では、慧音様・・・」
「ああ・・・気を付けて帰ってくれ」
「そちらも、お気を付けて」
そう言って、項垂れた男を支えるようにして各々の家へと戻っていく。
その姿を見届けてから、慧音は月を見上げる。
その表情は、悔しさに満ちていた。
「・・・・・・今宵が満月ならば、遅れは取らなかったのだろうが、な・・・・・・」
悔しげに呟く。
だが、聞いてくれる者は居ない。
辺りに広がる暗闇だけが、嘲笑う様に慧音を包んでいた。
民間伝承 ~The Unknown Creature~
その日、博麗神社に、珍しい客が訪れた。
いつも以上に堅い雰囲気を纏わせて訪れた人物を、霊夢は朝早くに出迎えることになった。
「あら、慧音じゃない・・・アンタがここにくるなんて珍しいわね。 何か、あったの?」
「ああ、折り入って、頼みがあるんだが・・・・・・」
その言葉に、霊夢の表情も、緊張を含んだ物に変わる。
「上がって、お茶くらいは出すわ」
「・・・お邪魔させて貰う」
そう言って、慧音を居間に通す。
数分後、二人分の湯飲みと、慧音が持って来た菓子を乗せたちゃぶ台を挟んで、二人が向かい合うといった構図が出来上がっていた。
慧音は、未だ湯飲みに口を付けていない。
「で、話って?」
「昨日、里の子供が一人、行方不明になった件はお前の耳にも届いているだろう? 単刀直入に言えば、この事件での犯人探しと犯人の退治・・・・・・この二つに協力して貰いたい」
「行方不明? あのねぇ・・・・・・慧音には悪いけど、そんなの良くある事じゃない。 詳しい事までは知らないけど、そんなので一々私が出張ってたら、幻想郷の妖怪の半分ぐらい簡単に居なくなるわよ?」
「・・・・・・そうだな、里の外では良くあることだ」
人間の領域内では人間を襲わない。
極論を言えば、人間の領域外ならば、人間を襲っても良いという事になる。
それが、この閉じた世界に棲む妖怪達の、暗黙のルール。
それが、妖怪の方が圧倒的に多い、幻想郷のルール。
そうなれば、全てにおいて平等に物事を推し量らなければならない博麗の巫女が介入する余地はない。
だが、次の慧音の言葉で、霊夢は湯飲みを傾ける手を止める。
「だが・・・・・・それは、里の外での話だ」
「・・・」
「霊夢、これは里の中で起きたんだ・・・」
「ルール破り、か・・・・・・で? そいつ、どんな奴なの?」
その言葉を聞いて、慧音は頭を振る。
「・・・判らないんだ」
「何だって?」
「姿を目撃した者は、一人もいない」
「いつの間にか・・・って事?」
「そうだ」
「じゃあ、妖怪に襲われたかどうかも判らないってことじゃない」
「そうなる、な」
「じゃあ、何で・・・」
「あっという間だった。 里中に話しが広まって、止める間もなかった・・・・・・だが、恐らくは」
慧音がそこで言葉を切る。
其処から先は、霊夢も言われずとも判る。
恐らく、妖怪に襲われたというのは、本当なのだろう。
いくら広いとはいえ、一日も掛からずに里の端から端まで行けるのだ、それでも見つからないと言うことがどういう事か。
それが理解できない程、里の人間も鈍くはなかったという事だろう。
「それで、里全体での大捜索ってわけね・・・・・・厄介そうね」
そう言って、立ち上がる。
「霊夢?」
「取りあえず、行くしかないでしょ?」
「・・・・・・恩に着る」
・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・随分、ピリピリしてるわね。 まあ、里の中で妖怪に襲われたかも知れないっていうなら頷ける、か」
霊夢が里に着いて抱いた印象は、これだった。
いるかも判らない妖怪を恐れ、必要以上に警戒する。
これならば、出てくる妖怪も出てこないかも知れないと、霊夢は思った。
それ程までに、里内の空気は殺気とも鬼気とも言えない『何か』が充満していた。
「さて、取りあえず、居なくなった子供の親御さんに会いに行こうと思うのだが。 どうする?」
「着いていくわよ。 手掛かり一つ無いんじゃあ、動きようがないじゃない」
頷き、歩き出す。
やがて辿り着いたのは、一件の商家。
「ここだ」
中に入ると、居なくなった子供の両親が出迎えてきた。
居なくなる前と後で、何か変わった事が無かったか等の話を一通り聞き、聞くような事柄も無くなった所で霊夢が
「少し、中を見て回ってもいいかしら?」
と、切り出した。
その言葉に、両親は幾ばくか逡巡したものの、慧音も一緒に付いていくということで、了承してくれた。
早速、慧音と霊夢は部屋を見て回り始めた。
厠。
浴室。
倉庫。
寝室。
屋根裏。
子供部屋。
だが、コレといった手掛かりは見つからない。
「大した手掛かりは無し、か・・・」
「両親の話では、子供は一度家に帰ってきたそうだが・・・・・・」
「あとは・・・・・・炊事場くらいかしら?」
そう言って、炊事場の引き戸を開け、中に入る。
だが、一般の民家のものより、多少広い程度で、あるのは竈等の調理具だけだった。
「さて・・・・・・ここにも何もないようだが・・・」
足を踏み入れた慧音が一通り辺りを見回し、落胆したように言う。
だが、霊夢はそうでは無かった。
おもむろに退魔針を取り出すと、床と土間の境目に投げつけた。
「霊夢!?」
突然の霊夢の行動に驚くが、やがて、行動の理由に思い至る。
「いた、のか?」
「確かに、いたわね・・・・・・でも」
外したわけではない。
確かに命中したのだ。
だが。
目を細め、訝しむ。
そんな霊夢を後目に、慧音は境目を覗く。
そして、その光景に、息を呑んだ。
「・・・・・・霊夢・・・・・・」
その続きが判っていた霊夢は、黙って、続きを待つ。
「恐らくだが・・・・・・居なくなった子供が、見つかった」
「・・・・・・そう・・・・・・」
無惨に千切られた、所々肉のこびりついた骨。
血溜まりに浮かぶのは殆ど肉の残っていない頭蓋。
未だに残っている眼球だけが、味わった恐怖と苦痛と無念を語る。
行方不明になった子供が、変わり果てた姿で其処に打ち捨てられていた。
・・・・・・・・・
葬儀の準備を里の者に任せ、霊夢達は慧音の家で、これからのことを話し合うことになった。
お茶を淹れ、一息吐く。
「しかし、結局正体は判らずじまい、か」
「そうね・・・」
「そう言えば、あの針は奴に当たったのか?」
「手応えはあったはずなんだけど、ね」
「・・・そうか」
これからの方針を決めかねて、沈黙が辺りを包む。
すると、戸を叩く音が聞こえた。
「開いているぞ」
そして、入ってきたのは・・・。
「慧音、うん? 霊夢まで・・・・・・何を辛気くさい顔してるんだ?」
「妹紅・・・・・・」
藤原 妹紅。
元から色が無かったかのような白い髪と、それを飾る様な赤い出で立ちで、彼女は玄関に佇んでいた。
手には、酒瓶と、肴らしき物の包みが抱えられている。
「道案内の礼ってことで良いのを分けて貰ったんでね、一杯付き合わせに来たんだけど・・・・・・邪魔だった?」
「・・・・・・昼間から酒か? あまり感心しないな」
「酒は百薬の長にして、百毒の長、蓬莱人には薬も毒も効きゃしない。 だったら酒は水と同じさ」
どっこいしょ、と図々しく二人の間に腰を下ろす妹紅。
トクリトクリと器一杯に酒を注ぎ、一息に飲み干す。
「・・・・・・んで? 若いお二人さんは、何か悩み事?」
「ああ、実は・・・」
話すのは、一昨夜から、今日にかけての出来事。
犯人が、やはり妖怪だったということと、これからどう対処するか、ということ。
「ふぅん、傍迷惑な奴もいるもんだ」
話を聞いてる間にも、杯を止めずに、妹紅は聞きに入る。
「問題は、どんな姿をしているのかすら判らないと言うことだ」
「ははあ、それで辛気くさい雰囲気になっていたわけ」
「うら若い乙女に対して、辛気くさいって言うな」
「一緒に酒の共をしてる時点で、説得力皆無だねぇ・・・・・・」
「アンタにとっちゃ水と変わらないんでしょ? なら水でも飲んでなさいよ」
「いやいや、私はちゃあんと味の方も楽しんでるって、水じゃ物足りないってば」
いつの間にか、酒瓶は空になっていた。
そして、最後の一口を飲み干した霊夢は、おもむろに立ち上がる。
「?・・・どうした・・・」
霊夢、と言う前に、本人が動いた。
おもむろに立ち上がったかと思うと、いつの間にか手にしていた針を。
「シッ!!」
狭い、本当に狭い、箪笥と本棚の僅かな隙間に向けて、投擲した。
瞬間。
『ギイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!!』
耳障りな金切り声が、部屋中に響く。
その、鳴き声とも、断末魔とも付かない音に、三人とも顔をしかめる。
やがて静かになったところで、ズルリと、その隙間から一匹の妖怪が出てくる。
真っ黒な体に、のっぺりとした顔。
爪と口元に赤い液体がこびり付いており、鋭い歯が並んでいる。
そして、肩口と人間で言えば眉間の辺りから生えている細く長い針。
後者は今、前者は先の台所で刺さった針だろう。
完全に事切れ、ぴくりとも動かないソレに、慧音はゆっくりと歩み寄る。
「・・・・・・こいつは」
「多分、この事件の犯人ね」
「ありゃ。 なんだ、案外早く片づいたじゃあないか」
妹紅の言葉に、慧音が反応する。
「コレがどういう妖怪かは知らないが、早く終わることに越したことはない」
「そりゃあ、まあ、ねえ・・・・・・でもさ」
「何だ?」
「騒ぎの割には随分あっけないんじゃ・・・」
「慧音っ! 下がって!」
「!?」
その声に反応して、慧音は後ろに飛び退く。
そして、一瞬前まで慧音が居た空間を、鋭利な爪が生えた細長い腕が薙いだ。
「ちいっ!!」
服の襟元を千切るだけに留まった腕は、そのまま弧を描き、事切れた妖怪を鷲づかみにし、隙間に消える。
「まさか、もう一匹いたとは・・・」
バリボリ、ゴキグチャと隙間から聞こえてくる異音。
恐らく、喰べているのであろう。
同類の死骸を。
その腹の中に詰まっている人間の肉を。
「うえ、今日は肉食べようと思ってたのに・・・」
妹紅の一言に、霊夢が文句を言う。
「ちょっと、そんなこと言わないでよ! お肉食べる気にならないじゃない!」
「食べるつもりだったのか、お前さんは」
「二人とも巫山戯ている場合か・・・! 来るぞ!」
ヒュッ、という風切り音を立てながら飛んできたのは二本の針。
一本は霊夢に。
そしてもう一本は、慧音・・・ではなく妹紅に。
霊夢は体を滑るように横にずらして回避。
妹紅は、飛んできた針を空になった瓶で弾く。
ガシャン、という音と共に酒瓶は割れるが、妹紅には針は刺さらなかった。
反撃に、霊夢は針を懐から取り出し、投擲しようとして・・・止める。
「・・・・・・ルール違反をやらかすわりに、割と狡賢いわね、アイツ」
一瞬。
霊夢と妹紅が針を避ける為に費やした一瞬。
自分ではなく妹紅に向けて放たれた針に気を取られ、慧音が意識を逸らした一瞬。
その一瞬で、妖怪の気配は、完全に煙の様に消えていた。
「逃げられた、か」
「で? どうするの、これから」
「追いかける、と言いたい所だが、闇雲に捜索しても逃げられるだけだろうな」
「こんな時に紫がいれば色々楽なんだけど・・・・・・今回は手を貸してくれないんでしょう?」
「あら、よく解っているじゃない」
空間の亀裂から上半身だけ出している妖怪に、霊夢は向き直る。
「何時から見てたの?」
「そりゃあ、おはようからおやすみまで、って冗談よ、冗談だから御札出そうとしない」
「アンタが言うと、冗談に聞こえない・・・・・・で、あの妖怪は何? ああいう手合いは随分久しぶりだけれど?」
「ちょ、ちょっと待て。 霊夢」
「ん? 何よ」
「あの類の妖怪に別件で遭遇した事があるのか!?」
「いや、私だけじゃなくて」
慧音と妹紅を指差し、あんたらも、と言う。
「いやいや、この千年近い人生の中でも、あんなのには遭った事がない」
「私もだ。 何かの勘違いじゃないのか?」
「何言ってんのよ・・・・・・居るじゃない、ここに」
そう言って指さすのは、スキマから上半身だけ出して此方と対話する妖怪。
「「ああ、なるほど」」
ポン、と合点がいったように、二人とも手を叩く。
「ちょ、ちょっと!? 何が『なるほど』よ!? あんな不っ細工で優雅さの欠片もない木っ端妖怪と無敵で不適で最強なこの美少女妖怪の私を同類項で結ぶつもり!?」
「ふむ、考えてみれば、辻褄が合うな」
「あの神出鬼没さといい、ずる賢くて陰険なところといい、そっくりだ」
「ほら、キリキリ喋りなさい。 言っとくけど、私の結界は結構タチ悪い事で有名よ? 主に妖怪連中に」
「ちょっ、え? 何? 私犯人級の扱い?」
「「「何を今更」」」
何時の間にか結界で拘束された上で、どこから出したのか、荒縄で家の柱に手首を縛り付けられる。
上半身だけだからとはいえ、侮ってはいけない。
結界の範囲は紫の造り出す境界を含めてほぼ完全に拘束している。
そして基本的に空間の裂け目や結界の類には厚みという概念は存在しない。
更に今現在、術の使用は、霊夢の結界内にいるため制限されている。
極めつけに体勢が悪かった。
紫は今、マヨヒガのソファに寝そべりながら空間を繋げていたのだ。
「ほぉら、早く答えないと体が真っ二つよ?」
そしてトドメとなるのが今現在紫の背中に重さ十数キロの漬け物石をピラミッド様式で積み上げている鬼畜巫女。
まな板の上の鯉。
真綿で首を絞め千切る。
四面楚歌。
ゆっくりして逝ってね。
この状況を分かりやすく言葉に表せば、こんな表現が相応しい。
下に待ち構えているのは、自分が創り出した厚さゼロの空間の亀裂。
上からは漬け物石のプレス。
物騒過ぎるサンドイッチの完成である。
(この状況から生きて帰ったら、藍にサンドイッチ作って貰おうかしら・・・)
現実逃避しつつも、きっちり死亡フラグだけは立てる大妖怪、御歳自主規制。
妖怪切断ショー(生放送)まで、あと1.36センチ。
・・・・・・・・・・・・
「さて、冗談はこのくらいにして、これからどうする?」
「アレを冗談で済ませようとするの? ・・・・・・本気で死ぬかと思ったわ」
「そうだな。 差し当たっては、奴の居所が掴めれば此方からも打って出ることが出来るのだが・・・・・・」
「え、スルーするの? ・・・・・・やだ私、今上手いこと言った」
「紫、黙れ」
「邪魔しないでもらえないか?」
袋だたきとは、決して相手を袋に入れてフルボッコにする行為ではない。
袋だたきとは、相手をズタ袋の様になるまでフルボッコにする行為である。
「二人とも、なんつーか、容赦ないのな・・・・・・」
「コイツがアホなこと言うからよ」
霊夢が手を拭っているが、それは汗だと信じたい。
(しかし・・・・・・)
先程の重苦しい雰囲気を拭い去るという行為であるならば、紫のタイミングは絶妙だった。
先の状態のままであの妖怪に挑んだならば、恐らく霊夢か慧音、この二人のどちらかが、確実に大怪我をしていただろう。
二人とも、その立場上から何事もないように見えるが、妹紅の視点からはハッキリと視えていた。
呑まれている。
この人里の空気に、異様で奇怪なあの妖怪の出す空気に。
少なくとも、長いこと人里で暮らす慧音は、確実に里中の人間の感情を表している。
妖怪に対して、異様に攻撃的になっている。
紫を袋だたきにした件は、本人の自業自得とはいえ、普通なら慧音は、頭は出すが手は出さない。
(良くも悪くも人間、か・・・・・・)
心の中で、短く溜息を吐く。
いざとなれば、死なない自分が盾になっても良いだろうと、妹紅は考える。
死なないと言う事実は、それだけで圧倒的に戦闘を有利に進めるという事を、長年の経験で識っている。
事実、今までそうやって妖怪を倒してきたのだから、今回もそれには変わるまい。
妹紅は気付いている。
それが妖怪寄りの考えだと言う事に。
能力差での力押し。
相打ち覚悟で突っ込んできた相手を嘲笑うような不死の能力。
死んだと思った相手がいきなり起き上がり、致死の一撃を見舞うなど、一つしかない命を賭ける相手側にとっては冒涜以外の何者でもないだろう。
この世の何処に完全に事切れた相手を警戒するモノがいるというのだ。
死なないと言うのはそう言うことだ。
完全な死角を付ける。
相手が死ぬまで戦い続ける。
恐らく、真っ当な殺し合いならば、今、妹紅の目の前にいる博麗の巫女だろうがスキマ妖怪だろうが間違いなく殺しきれる。
圧倒的強者である鬼だろうが、それこそ神だろうが。
無限にストックのある人柱には、そんな事は関係ない。
例え百回死んでも、百一回目で屠ればいいのだ。
故に、妹紅にとって、自分の命とは戦う上での勘定には入っていない。
今まで幾度となく行い、勝利を収めてきた戦い方。
目の前の二人は、妹紅の不死性を十二分に知っている。
忌避の目で見られる心配はない。
故に。
「・・・・・・二人とも、一寸良いか?」
二人に、提案する。
自分にしか出来ないやり方を。
・・・・・・・・・・・・
妖怪は、上機嫌だった。
見知らぬ土地で初めて出会った獲物の味は、格別の一言。
隠れる場所は、元いた土地より遙かに少ないが、それさえ我慢すれば極上の獲物にありつけるのだ。
不平を漏らせばそれこそバチが当たると言うものだろう。
更に上機嫌な理由として、先程の下見で、新しい獲物に目星を付けたという事もある。
赤と白の衣装に身を包んだ極上の獲物。
黒い髪の方も、白い髪の方も、妖怪にとってはどちらも捨てがたかった。
本来この妖怪は、左肩の傷の報復をしに来ただけであった。
自分の眷属にワザと針を刺し、気配をちらつかせて仕留めさせる。
そうして近づくなり油断するなりしたところに襲いかかるつもりだった。
しかし、その直前で気付かれてしまった。
そして、その直前で気付いてしまった。
思わずよだれが出そうになるほどに旨そうな二人の人間の気配に。
紅白の少女。
片や白、片や黒髪の人間。
黒い髪の人間は言わずもがな。
抗いがたい魅力を感じる。
だが、未だにジクジクと痛む肩の傷の報復もある。
『引き裂く前に、たっぷりと悲鳴を上げさせてから戴こう』
本能と経験だけで動いてきたこの妖怪にとって、初めて生まれた感情と言えるべき物だった。
そして、白い髪の人間。
此方は本当に偶然だった。
アレは、特別・・・・・・いや、格別だ。
妖怪は本能でそう感じ取った。
だから、本来慧音に投げる予定だった針の狙いを、妹紅に修正して投げ返した。
あの人間は、他の人間と同じように見えて、決定的に何かが違う。
しかし、その何かを、妖怪は理解できない。
食して、悲鳴を聞いて、内蔵の一つ一つ、血肉の一欠片、骨と髄液の味を満遍なく味わい尽くせば何か分かるのだろうか。
そう妖怪は考えた。
だが、あの目。
あの鮮血のように綺麗で魅惑的な色をした目だけは、食べずに取っておこう。
妖怪はそう決定付けて、どちらを先に襲おうかと考えながら、薄暗くて狭い、物と物の隙間の中で、良い感じに溶けた子供の肉の味の余韻を楽しむ。
次に襲う予定の人間は、どのような味がするのかを夢想しながら。
・・・・・・・・・・・・
「妹紅・・・・・・それだけはダメだ」
妹紅の話を聞いた慧音の開口第一は、その一言。
やはり、と妹紅は心の隅で溜息を吐く。
囮を使って妖怪を釣るという、端から見れば無謀な考え。
釣り餌は妹紅自身。
人間の事を第一に考える慧音が賛成できる話ではないのだ。
「ちょっと慧音? 今は選り好みしてる暇なんか無いって事、判ってる?」
「それでもだ。 この方法は、私には到底賛成なんて出来ない」
霊夢の言葉にも、慧音は考えを曲げない。
慧音の頑固さに、霊夢は内心舌を巻く。
霊夢、ないし妹紅が囮として妖怪を釣り上げるのは、人道的には頂けないが、全体の効率としてはそれ程悪くはない。
その点だけを見れば、霊夢の考えは、妹紅の思考と、良く似通っていた。
霊夢もまた過去に、妖怪退治に自分自身を囮に使うという、無茶な策を使用していたのだから。
人を喰らう妖怪は、霊力を多く蓄えている人間を見分けることが出来る鼻を持っている。
これは、物理的な匂いがするという訳ではない。
人間で言う第六感に近いものであり、より霊力を、力を保有する人間を食することで、効率の良い栄養の摂取や、より効率の良い自身の強化を行う、一種のシステムである。
つまり、人間を喰う妖怪は、本能的に霊的な力の強い人間に惹かれるのである。
それは、人間の血や肉を摂取する妖怪の全てに適用される。
片や経験で、片や人並み以上に優れた勘で。
妹紅と霊夢は、次に狙われる対象を感じ取っていたのである。
そして、退治するのには、なるべく短期決戦で挑む。
そうしなければ、腹を空かせた妖怪は、他の人間を襲い始める。
恐らく慧音も、その事は薄々理解しているだろう。
しかし、生まれ持っての頑なさが、決断を鈍らせる。
「あらぁ? 随分甘い考えじゃぁなくて?」
「っ!? この件に干渉する気が無いのならば、黙っていてもらえないか・・・!」
そんな慧音の考えを、紫は見透かしていた。
飄々とした台詞が、その実で、確実に慧音を追いつめる。
「あら、怖い怖い・・・・・・貴女、少し落ち着いたら如何?」
「十分落ち着いているさ・・・! 大体、これは妖怪側にも不利な出来事ではないのか? 何故我々に手を貸そうとしないっ」
「それじゃあ聞くけれど・・・・・・貴女、これからもこんな事態に陥った時、その都度私の力に頼る算段なのかしら?」
「それは・・・・・・」
「これは良い機会なのよ。 最近私が表に出張り過ぎている所為で、まるで私が便利屋のように思われているようだしね? 出来れば大事の起きない内に、こういう事に対して不慣れな方々達に経験を積ませようと考えているワケよ。 ま、老婆心ってやつかしら」
扇で口元を隠し、目を細める。
大妖怪の視線が、真っ直ぐに慧音を射抜く。
重圧こそ発してはいないが、その視線には、敵ではないと判っていても、思わず重心を爪先に傾ける程の何かが篭もっていた。
半分ほどしか根ざしていない妖怪の本能が、やらなければやられる、と告げる。
が、その先の行動を、慧音は寸でで制止した。
少なくとも、今事を構えるべき存在は、目の前の妖怪ではない。
上がりそうになる腕を無理矢理止め、浮き上がりそうになる足を、土踏まずに自重を乗せて畳に縫いつける。
その様子を見届け、紫はクスリと笑みを浮かべる。
胡散臭い笑みに向けて、慧音は複雑な表情で視線を返す。
「全く・・・・・・噂以上に人が悪いな、貴女は」
「一応の褒め言葉と受け取っておきましょうか・・・・・・さて」
振り返り、空間の裂け目を創る。
「後の事は貴女方にお任せしますので、私はこれにて失礼をば」
「変な言葉遣いしなくて良いわよ、気味悪いから」
「あら、そう? それじゃあ、後のことは任せるわ。 じゃあね~~~」
先程の態度とは打って変わった口調で、紫は空間の裂け目に飲み込まれた。
米神を押さえ、慧音が呻くように言う。
「・・・・・・あれで、もう少しまともな性格ならば、信仰の一つも出来るのだろうがな」
「アイツがまともな性格ってのがそもそも想像できないけどね」
「そりゃ、同感だ」
「ま、アイツのことはさておいて、よ」
霊夢の言葉に、二人も各々に姿勢を正す。
「これ以上長引いたら、あの妖怪の思う壺。 だから、短期決戦の為に囮を使うわ・・・・・・慧音も、それで良いわね?」
「個人的には反対したいが、事態が事態だ、仕方があるまい」
「よし、じゃあ囮役は言い出しっぺの私がやるから・・・」
「あ、それなんだけど」
「うん?」
二人は追い込み役をやってくれ、と言おうとした所に、霊夢が発言をかぶせる。
「何だ、まさか自分が囮役やるってんじゃないだろうね?」
霊夢の性格からして十分にあり得る危惧に、おいおい、と妹紅は冷や汗を流す。
今回の相手が相手だけに、囮役は無傷でその役目を終えることはまずないだろうと妹紅は予測している。
今回の役割は、囮役と言うよりも、餌役だ。
対象が食い付くまで釣り糸を垂らし、完全に餌を飲み込んだところで引き上げる。
腕の一本や二本、失っても不思議ではない。
妹紅の考えとは裏腹に、霊夢は言葉を続ける。
「や、そう言うワケじゃないんだけど・・・」
どうやら、妹紅の懸念とは違うらしい。
じゃあ、何か? と妹紅が聞く前に、霊夢が口を開いた。
「アンタ、まさかその格好で餌役やるんじゃないでしょうね?」
「はあ?」
・・・・・・・・・・・・
恥ずかしい。
ぐるりと一週人里を廻った妹紅の感想だ。
歩くたびに空気を含んでフワリと上がる裾の感覚など、実に千数十年ぶりの感触に、違和感を感じつつ、妹紅は人里を練り歩く。
里中の人間の好奇の視線、すわ新しい妖怪か、という警戒の視線。
後者だけならば、妹紅も耐えることは出来ただろう。
しかし、前者は大変に堪えた。
元々、人前で着物姿を見せる機会など、家族や使用人、それに、偶に来る賓客ぐらいの物だった。
しかもそれらは千数十年前の話だ。
不死になってこのかた、普段着などは、動きやすいもんぺとシャツで済ませてきた妹紅にとって、人前でこんな格好をする羽目になるなど夢にも思わなかった事だろう。
ふと、妹紅は、つい先刻の出来事を回想する。
~回想~
『はあ?』
『だ・か・ら その格好で餌役やるのかって聞いてんのよ』
『いや、その格好も何も、私はこんなのしか持ってないって』
『着物とかは?』
『初めは何着か持ってたけど、綺麗なのは売って金にして、汚れたのは薪代わりに燃やしたり』
『ったく、平安貴族って奴はこれだから・・・・・・・・・まあ、いいわ。 慧音』
『あい解った。 妹紅、動くなよ』
『へ!? おい、ちょっ・・・・・・何やって・・・』
『ん~~? 着せ替え?』
『疑問系かい!? つーか着せ替え!?』
『うむ、こういう時、もんぺは便利だな、脱がせやすい』
『うおおおおおおい!? 何勝手に脱がしてる!?』
『こういうの、どうかしら?』
『いやいや、ここは敢えて寒色系の色で・・・』
『あ、じゃあ、これは?』
『ふむ、なかなか』
『無視か! 言っとくけど、私は絶対そんなの着ないからな!』
『とか言ってる間に』
『早っ! 何時の間に!?』
『あら、案外大きいのね、腰も細いし』
『成る程・・・妹紅は着痩せする方なのか』
『何処見て言ってる! 何処見て言ってる!?』
『じゃあ、下は暖色系で、上から薄い寒色系を羽織らせる感じで・・・』
『良し、それで逝こう』
『ちょ、字が違g・・・』
『それじゃあ、もう一回脱がすから』
『や、やめ・・・!』
~回想 了~
「・・・・・・おかしいな、目から汗が」
『大丈夫、似合ってるわよ』
「・・・・・・そう言う問題じゃない」
懐にある陰陽玉から慰めの声。
通信用と、現在位置を知らせるために持たされた物だ。
「大体、何でこんなカッコしなきゃならないんだっ」
『か弱い美少女的な演出よ。 何事も形からってやつね・・・・・・なかなか面白かったわよ?』
「おうけぃ・・・・・・お前さん、確実に地獄行きだね。 私が保証する」
『照れるじゃない』
「褒めてねぇ」
文字通り、人形になった気分であった。
無性に人形解放運動に入りたくなる衝動を覚えつつ、先程では廻れなかった細かい通りを歩こうかと、妹紅が大通りから外れた細道に向かおうとした所で。
「あら、貴女は・・・」
後ろから、声を掛けられた。
ビシリと妹紅の動きが止まる。
マズイ。
今、知り合いに声を掛けられるのは、非情にマズイ。
現在の妹紅の格好は、とても知り合いに見せることの出来るような代物ではないからだ。
とはいえ、これは本人から見た主観的な意見であり、他者から見れば、十分に魅力的な姿なのだが。
ともかく、妹紅にとっては、出来れば人違いであって欲しいわけで、声を掛けられた時点で厄日と天誅殺が同日に来たような気分になったが、まあ、振り向いて顔を見せれば人違いだって解るだろうという一縷の望みに賭けてえいやと振り向いてみれば、やはりそこには今朝方ぶりで、しかもそれなりに見知った顔が居たわけで。
「今朝は有難う御座いました。 今日はどうにもご縁があるようで」
「あ、ああ、まあ・・・・・・本日はお日柄も良く・・・」
「ところで、今朝とは違うお召し物をなさってますが、何やらお大事でしたか?」
「え!? いや、まあ、気分・・・そう! 何となく気分だっただけさね」
「そうでしたか、急ぎの用の所をお止めしたならば、どれ程礼を逸した所でしょう」
「はは・・・は・・・まあ、気にしないでいいって・・・」
「そうですか・・・そう言って頂けると助かります」
ほぅ、と安堵の息を吐いたこの少女、名を稗田 阿求という。
今朝方竹林の案内を買って出、今こうして朗らかな表情で妹紅と再会した訳だ。
そして、この件が終わるまで、出来れば出会いたくなかった相手でもある。
<一度見た物を忘れない程度の能力>
これがこの少女を『絶対にこの格好で会うわけにはいけない人物ベスト5』の栄えある一位に押し上げる唯一にして、最大の理由である。
大人しそうに見えて、存外に話し好きなこの少女の口に戸を立てることが不可能である事は周知の事実であり、ましてや酒の席ならば、面白おかしく脚色を付け、口の早い連中に『ついうっかり』暴露するという、ある意味天狗より質の悪い存在と化す。
之まで黒歴史に沈んだ者、数知れず。
これで悪気の一つもあれば仕返しで悪戯の一つも出来るのだが。
邪気ゼロ、悪意ゼロで、更に酒の席なので、誰一人、誰一妖、手が出せないのである。
今の所有効な手段が、口を滑らす前に酔い潰すという、何ともはや未成年の体に悪い解決方法だ。
『ん? そこに居るのは阿求殿か?』
「え? はい、そうです・・・よ? あれ?」
陰陽玉から聞こえてきたのは慧音の声。
しかし、阿求には、声は聞こえど姿は見えない。
目をパチクリさせながら辺りを見回す阿求の姿に、妹紅は苦笑しながら懐の陰陽玉を取り出す。
「これだよ、これ」
「これは、陰陽玉・・・ですか? 何故妹紅さんが?」
『それは私が説明しよう。 一昨日、里内で子供が消えた事件があったのはご存じか?』
「ええ、侍女からその話は聞きました。 実はと言うと、今日の外出も家人から反対されてしまいまして・・・まあ、つい抜け出してしまった訳ですが」
「とんでもない事するね、お前さんも」
『まあ、その件は後日追及することにして。 件の妖怪退治は、本来なら霊夢と二人で行う手筈だったのだがな』
「成り行きで私も手伝っているって訳さね」
「成る程・・・・・・あの、そうなるとやはり私はお邪魔だったのでは?」
『そうね。 知識はともかく、体力的に足手纏いね』
「霊夢さん、いたんですか・・・というか、今さりげに酷い事言いませんでした?」
『自覚がないのが一番危ないの、判ってる?』
「改めて他人から言われると傷つきます・・・」
『まあ、それはそれとして・・・・・・コッチは随分範囲が狭まったわよ』
霊夢が今言ったのは、妖怪を追い込む範囲の事だ。
里の外周から、小物の妖怪でも気付くような目立やすい探査を開始し、囮役は探査の穴を埋めるように歩く。
元々は、術者の周囲を周回し、敵性の反応を術者に知らせ、攻撃があった場合、自動で術者を守る技だが、今回は、慧音が有事の際の盾を買って出た事と、妹紅が本命の為、密度が低い代わりに、広範囲の探査を可能にしている。
後は、一定の時間ごとに捜索範囲を里の中心に向けて狭め、隠れる場所を限定させる。
「もう大分範囲が限られてきたけど、まだ掛からない、か」
『里から逃げた、という可能性は?』
『それなら手の出し様が無いけど・・・・・・多分、居るわよ』
「それは、勘?」
『まあね』
「残った場所は・・・・・・墓地や道具小屋・・・ぐらいなもの、かぁ」
そう言いながら妹紅は、懐から取り出した簡略的な里の全体図を見る。
阿求も気になって広げられた図を見る。
そして、気付いた。
この図に載っていない、とある建物について。
「これ、私の屋敷が載っていませんよ?」
「はあ?」
『何を言っている、そんな筈がないだろう』
現に、阿求の屋敷は、里の中心に近い所に描いてある。
「いえ、厳密に言えば、私の、ではなく初代の・・・」
阿求はそう言いかけ、目を見開いた。
妹紅が何気なく背にしている民家と民家の隙間。
その隙間から、じい、と此方を見つめる視線に。
そして、其処からその細い間隔からは想像も付かない程長大な腕が妹紅の背に伸ばされ・・・。
「危ない!」
「なっ!?」
その声が聞こえたと思った瞬間、阿求に押され、妹紅は地面を転がっていた。
危ない。
今現在、その言葉に当て嵌まる事態。
その嫌な予感に突き動かされ、妹紅が顔を上げる。
果たして、そこに答えがあった。
「痛っ! い・・・やぁ!」
長く、黒い腕に捕まったのは、妹紅の代わりにその場に立った阿求。
そして彼女は。
「て・・・めぇ!」
寸での所で、隙間に飲み込まれた。
すかさず陰陽玉の向こうにいる二人に怒鳴りつける。
「阿求が連れて行かれた! 私の現在位置を中心に広範囲で探ってくれ!」
『もうやってる! ・・・・・・・・・判った! アンタの方向から向かって北東! 真っ直ぐ進んでる!』
「そっちは田園地帯じゃないのか!?」
『そうだ! 一つ、一つだけ見逃していた!』
霊夢と妹紅の会話に、慧音が割り込む。
『そっちで間違いない! 何せその先は・・・・・・』
『初代阿礼乙女の没した場所、そして、代々の阿礼乙女が転生の儀を行う為に残した屋敷がある!』
・・・・・・・・・
妖怪は上機嫌だった。
取り逃がした獲物は大きかったが、それに勝るとも劣らない獲物を手に入れることが出来たからだ。
肉食の獣のような声を上げながら、隠れる場所のない田園地帯を獣以上の速さで駆け抜ける。
「ぐっ・・・あぅっ、ぐっ!」
大地を蹴り上げる度に、阿求の声が上がる。
その声音に、苦痛の色が見えた事で妖怪は、益々上機嫌になった。
大地を蹴る足に、更に力を込める。
そうして楽しんでいると、程なくして屋敷に到達した。
ここでふと、面白そうな趣向を、妖怪は思いつく。
『眷属達に嬲らせて、その様を愉しむのも良さそうだ』
思ったが吉日。
この屋敷に潜む眷属達を、呼び寄せる。
チラリと阿求を見やると、妖怪の望んだ通りの反応が待っていた。
ぞわぞわと、天井を、隙間を、床を、至る所から這い出てくる眷属達。
その数が、十を越え、二十を越え、三十を越える度に、表情からは血の気が失せる。
ニヤリと、目も鼻もない顔が、笑みを作った。
部屋一杯に広がる眷属達に、部屋の中心を開けるように命令する。
その命令を受け、歪な円上に、広間の中心が割れる。
後ずさりしようとする阿求を鷲づかみにし、持ち上げる。
「嫌ぁっ・・・! 放し・・・」
言い切る前に、妖怪は、阿求を手放した。
獲物の到着を待つ眷属達が広げた、歪な円の中心に。
トサリ、と、軽い音を立て、阿求が畳張りの床に倒れ込む。
即座に顔を上げ、状況を確認し、背筋に怖気が走った。
黒以外の如何なる色をも廃した眷属達。
前も、後ろも、左右も。
何処を見ても妖怪の姿。
「あ・・・あぁぁ・・・・・・!」
忘れていたのだ。
本来妖怪とは、人間を喰らって生きる者。
忘れていたのだ。
幻想の世界に生きる妖怪達も、元々は人を喰らっていた。
忘れていたのだ。
それを知っていた上で、記憶の隅に追いやっていたのだ。
妖怪が物も言わず、長い爪が生えた指を阿求に向ける。
それに呼応するように、阿求の周囲を取り囲む眷属達も、その矮躯を揺すり、次の命令を待つ。
そして・・・・・・。
指が下げられた。
ぞわり ぞわり ぞわり。
細長い手足を使いながら、眷属達が迫る。
ぞわり ぞわり ぞわり。
長い爪で畳を引き裂きながら、眷属達が迫る。
ぞわり ぞわり ぞわり。
既に、眷属達は、阿求の目と、鼻の先にまで来ている。
一匹が、手を伸ばす。
細く鋭い爪が、阿求の肌に掛かる。
まるで宝石を愛でるように、爪が肌をなぞる。
その爪のなぞった後を追うように、紅い血が玉になり、阿求の白い肌からツウ、と溢れる。
その珠玉のような紅い玉を爪で掬い取り、紅を塗ったように紅い口元に運ばれる。
丹念に舐め、その味が気に入ったのだろう、再度手が阿求へと伸びる。
その光景に我慢できなかったのであろう、他の眷属達も、一斉に手を伸ばす。
阿求は、今度こそ訪れるであろう自身の死の予感に、目をギュ、と閉じた。
細い首筋に、連れてこられたときに乱れた着物から覗く肌に。
だが。
数十もの爪が同時に伸び、ピタリと、その肌に触れるか触れないかの所で止まった。
数秒経っても、何も起こらない事に訝しみ、阿求が恐る恐る目を開ける。
阿求の目の前に広がるのは、目と鼻のない顔が、自身へと手を伸ばした形で静止するという、身の毛もよだつ光景。
否。
全く動かない訳ではない。
ブルブルと小刻みに。
正しくは、震えていると言った所だろう。
そう、このモノ達は、震えている。
そこで初めて、大本の妖怪は気付いた。
肌を刺すような感覚を。
触れた部分からジリジリと焦がされるような、まるで熱気の様な存在の接近を。
瞬間。
屋敷の壁が、崩壊した。
数枚の障子と、幾つかの木造の壁が、纏めて刳り貫かれたかのように崩壊した。
瞬間的に浴びせられた熱量が、木製の壁を、炭化する事すら許さずに焼き尽くしたのだ。
そして。
「・・・・・・見付けた」
その声は、ハッキリと、阿求と妖怪の耳に届いた。
・・・・・・
「・・・・・・見付けた」
数枚の障子と、数枚の壁を、圧倒的な熱量で刳り貫き、妹紅は遂に、この一件の主犯の元へと辿り着いた。
眷属であろう妖怪達を見やり、よくもここまで増えたものだと妹紅は内心で感心した。
それが不謹慎な考えだと気づき、阿求の姿を確認する為、視線を周囲に走らせる。
程なくして、阿求は見つかった。
妖怪達に囲まれ、目尻には涙が溢れている。
それでも、目を点にして呆然と妹紅を見ている時点で、妹紅は易々と限界を越え、吹き出した。
「ぷっ・・・くく」
火に注いだ油の如く、阿求が反応する。
「な、何で笑うんですか!! 私は散々な目に遭ったのに!! ここは『よく頑張ったね』とか、『もう大丈夫だ』とか言う場面でしょう!?」
「あーーー、そりゃお前さん、アレだ・・・・・・本の読み過ぎ」
「悪かったですね! それが私の生き甲斐なんです!」
「うん、まあ、それだけ元気があれば、自力で帰って来れるか」
「うぇ!? ちょ、こちとら生まれてから本より重い物を持った事のない病弱でか弱い一般人ですよ!? 何華麗にターンして帰ろうとしてるんですか!?」
「あーーーー、テス、テス。 阿求は自力で帰れるそうだから・・・ってありゃ、陰陽玉、割れてるよ。 一寸ばかし火力が強すぎたか・・・・・・」
「もーこーうーさーんー!!!」
「ああ、冗談だって判んないかねぇ。 ちゃんと助けるから、心配無いっ・・・・・・て!」
妹紅が身じろぎした瞬間を狙って飛び出してきた眷属に向かって腕を振るう。
その軌道をなぞって吹き出た炎に、断末魔を上げる事さえ許されずに、燃え尽きた。
「いやいや、食欲旺盛だ。 まあ、自分の欲望に正直なのは良いけど・・・・・・」
熱線が、阿求の周囲を薙ぎ払う。
切断され、断面から炭化した眷属達が、バラバラと畳を転がる。
「こういう状況じゃあ、そう言った手合いの正直者は、真っ先に死ぬのが相場でね」
苦しくも、熱線を逃れる事の出来た眷属達も、ばらまかれた火球により、火達磨になって燃え尽きた。
直ぐ隣で、熱線によって真っ二つになった妖怪を見て、阿求は血相を変える。
「妹紅さん! 危ないですって! 私まで真っ二つにするつもりですか!?」
「正直者の死。 出だしは真ん中よりチョイ左が安地さね」
「意味判りませんよ!」
弾幕の様に文句をばらまく阿求に向かって歩を進め、その頭に、ポン、と手を置く。
「ほぉら、もう安全だ・・・・・・頑張ったね」
「あ・・・・・・って、い、今更遅いですよ」
「ったく、注文の多い事で」
頭に手を乗せそのまま、グリグリと撫で付ける。
そして、恨めしげに妹紅を見上げ、その目に映ったのは。
天井に張り付き、妹紅に狙いを定めて飛びつこうとする、阿求を攫った張本人の姿だった。
「妹紅さ・・・」
「判ってるって」
悲鳴の様に呼ばれた自分の名を途中で遮り、妹紅は振り向きざまに素早く腕を一線。
放たれた熱線は、妖怪の胴体部を容易く切断し、軸線上の天井まで一緒に焼き切った。
下半身は、妹紅の足下に。
胴体は、阿求の頭上を飛び越え、畳の上を数回転がり、その動きを止めた。
辺りに、静寂が降りる。
残ったのは、炭化した切断面を見せる妖怪達の残骸と、殆ど怪我のない妹紅達だけであった。
「これで、終わり・・・ですか・・・・・・?」
「大本を潰して、更にこれ以上、ってのは無いと思うけどねぇ。 ほら、立てる?」
「あ、はい」
妹紅の手を借り、立ち上がり、その場に崩れ落ちた。
「あ、あはは・・・・・・今になって、腰が抜けてしまいました」
「ありゃま・・・・・・んじゃあ、しょうがない」
苦笑しながら妹紅は、阿求の膝裏に手を入れ、もう片方の手を阿求の背中に回した。
俗に言う、お姫様だっこである。
「さ、て・・・・・・帰るかね?」
「そうですね。 流石に、疲れました」
「お前さん、何もやってないじゃないか」
「囚われの阿礼乙女の役をやりましたよ。 全く、結構な大役でした」
「・・・・・・言ってて恥ずかしくないか?」
「・・・・・・・・・少し」
妹紅達は、自分で開けた道を歩き、外へ出た。
既に西日は、向こう側の山へと沈もうとしている。
その逆光の中に人影を二つ見付け、妹紅は嘆息した。
向こうも、妹紅達の姿を確認し、減速する。
「コッチは苦労したって言うのに、呑気なもんだね」
「貴女一人なら、どうしてました?」
「妖怪諸共に、屋敷も燃やしてたね」
「私が攫われて良かったです・・・・・・本当に」
何もなくとも、屋敷そのものが思い出の品なのだ。
例え、そこで過ごした記憶は薄くても、懐かしさを覚えるほどには、記憶に残っている。
それだけは、これから何代後になろうとも、決して消えることは無いのだろう。
妹紅の腕の中で揺られながら、阿求は思う。
この日見た夕日は、何代後になっても、覚えているだろう、と。
・・・・・・・・・・・・
足音が遠ざかる。
肉の焦げたような異臭が漂う屋敷の中、ズルリと動く塊があった。
両の爪を畳に引っかけ、器用に進む。
向かう先は、暗く、狭い隙間。
恐るべきは、妖怪の生命力か。
それとも、妄念じみた生き汚さか。
既に事切れた眷属達を手当たり次第に口に入れ、咀嚼しながら、己が生まれ、これまで住処としてきた隙間へと向かう。
溝のような細い隙間に指が入り、肩が飲み込まれる。
炭化していた切断面は、新しい組織が炭化した部分をかさぶたを剥ぐように押し上げ、再生を始めていた。
もっと多くの力を欲しながら。
ここまで追いつめた人間への憎悪を滾らせながら、隙間に潜り込む。
だが。
抜け出たのは、見覚えのない場所。
狭く、暗く、安心して眠ることが出来る空間ではなく。
上も、下も、右も左もなく、広いのか、狭いのかすら判断できない空間だった。
不意に、誰かに見られている様な視線を感じ、上を見上げる。
其処にいたのは、人間のようで、人間ではない何か。
今までの妖怪の生の中で、最も異質で、最も怖ろしい物。
妖怪の本能が、激しく警鐘を鳴らす。
「貴方・・・・・・」
やがて、朱線を引いたような口から出たのは聞いただけで背筋が凍る様な声。
「随分と、好き勝手をしてくれたみたいねぇ?」
妖怪には、何を言っているのか判らない。
「まあ、それは良いの、それは良いのよ? 忘れかけた危機感を揺り起こす・・・・・・その事だけを見れば、貴方には、感謝してもし足りないもの」
くす、くす、くす、と嗤う存在の前に、妖怪は、動けない。
「ただ・・・・・・私の数少ない茶飲み友達にまで手を出した件については、どのような弁明をも受け付けるつもりは無いの・・・」
ビシリと、妖怪の背後の空間が割れる。
そして其処から這い出てくるのは、影絵のように薄っぺらい、異形の手。
一つではない、何本も、何十本も、何百本も。
それらは妖怪の体に巻き付き、掴み、食い込み、自身らが這い出てきた空間の亀裂に引き込んでゆく。
「私、案外身内に甘いのよ・・・・・・だから、さ よ う な ら 」
空間の亀裂に指をかけ、最後まで抵抗しようとするが、黒い手が、その指を一本一本引き剥がし、とうとう最後の一本が、亀裂に飲み込まれた。
「貴方には、畜生道がお似合いね。 最下層から生まれ変わり、喰われる物の痛みを、存分に味わいなさいな」
後に残るのは何もない。
背後で閉じる空間の亀裂にも、一瞥もくれず。
紫は、異空間の扉を閉じた。
・・・・・・・・・
事件から数日。
件の妖怪が起こした事件の爪痕も、人々の記憶の隅に追いやられ、人里もいつもの調子を取り戻していた。
慧音は、里の警護や寺子屋の授業、自身の鍛錬に、益々力を入れている。
妹紅はと言えば、相も変わらずに、毎日を過ごしている。
朝と昼は、竹林で迷う人間の案内をしたり。
竹細工を作り、人里で品物と交換したり。
ただ、最近、昔の話を聞きに、阿求が妹紅の家を訪れる回数が増えたのは、変化と言える事だろう。
霊夢も、いつも通りと言えばいつも通り。
神社の縁側でお茶を飲み、偶に訪れる人妖を、適当にもてなしたり、もてなさなかったり。
ただ、ここ最近で、里に訪れる回数が若干増えたのは、気のせいではない。
本人は、お茶の葉を買う次いでだとか、お茶菓子が切れたからと言っているようだが。
この日も霊夢は、日課である境内の掃き掃除を終わらせ、縁側に座り、湯飲みを傾けていた。
この間の件で、懐に余裕が出来た御陰で、ここ最近お茶の葉は、なかなか上等な物を使っている。
お茶請けも、それに合わせるように、一段と上等な煎餅や茶菓子を揃える事が出来た。
辛すぎず、かといって薄くもない、丁度良い塩梅の煎餅を口に含み、まろやかな渋みのあるお茶を一口。
醤油の味に慣れてくれば、当然次に欲しいのは甘味。
手のひら大の包み紙を剥がし、中から現れたのは、大福。
馴染みの店でも一番高い大福は、もっちりとした皮に包まれている、上品な甘さの漉し餡が人気の逸品だ。
一口囓り、甘味を十分味わったところで、また緑茶を一口。
ほぅ、と一息吐きながら、思い出すのは先の一件の結末。
霊夢達が着いた頃には、全て終わっていた。
妹紅も阿求も無事に帰って来た。
それでめでたし、の筈なのだ。
だが、霊夢の心中は、複雑であった。
結局、妖怪退治は、被害者が居るから成立するのだ。
人間が、食事をしなければ生きていけないのと同じく、人食いの妖怪は、人間を喰わなければいずれ衰弱する。
実際には、野生の動物でも餓えを癒せるらしいが、それでも、人間の肉は、食べたいはずである。
食事なのだ、人を襲うと言うことは。
勿論、霊夢は人間だ。
人が襲われる事に、思う所が無いわけではない。
だが、それでも。
生きようとする物を、生きている物が罰するというのは傲慢なのではないのだろうか・・・・・・・・・。
あれこれ考えて、霊夢は頭を軽く振って、考えるのを止めた。
そして、肺に溜まった重たげな空気を吐き出す。
「やっぱり、何事も無いのが一番よね。 ・・・・・・それはそれで商売あがったりだけど」
「本当に、何事も起きないのが一番ねぇ」
「・・・いきなり後ろに現れないでよ。 寿命が縮むわ」
「気付いていたのに、寿命が縮むのかしら?」
「私じゃなくて、アンタの寿命が、よ」
「あら、怖い、怖い」
そんな紫に目もくれず、空を見上げる。
霊夢は、湯飲みを傾けながら、思い出したかのようにポツリと。
「で?」
「ん?」
「あの妖怪の上半分、アンタがどうにかしたんでしょう?」
「さて・・・・・・どうだったかしら?」
「妹紅も、案外詰めが甘いのね」
「ふぅん? ・・・・・・もしかして、悔しいの?」
「そりゃあ、私が請けた仕事なのに、良いところ全部持って行かれたし・・・」
「未熟者ねぇ」
「うぐ」
「未熟者」
「うぎぎ・・・」
「でもまあ、貴女なりに良くやったわ。 ええ、良く出来ました」
「・・・・・・柄にもない事、言わなくて良いわよ」
「百点あげちゃう。 あ、百円の方が良い?」
「お賽銭箱は、あっちよ」
そう言って霊夢は湯飲みを置き、立ち上がる。
手を頭上に組み、伸びをする。
紫は、その後ろ姿をじぃっと見つめる。
「紫」
「なぁに?」
「アレって、何だったの?」
「そうねぇ・・・・・・人々への教訓が、形になった存在、と言った所かしら」
「教訓?」
「暗い場所や、子供にとって危険な場所、そう言う場所へ行かせないための教訓として形作られた妖怪の内の一匹。 人を襲う為に存在するのに、結果的に人の役に立っている妖怪よ。 まあ、本来は形のない幽霊みたいなモノよ、語られる地域によってその姿を変える、ね? 今回は伝承のな中でも、とびきり凶暴な形に成ったようだけれど」
「あれで大人しいって言ったら、驚くわよ」
「ふふふ・・・かくも怖ろしいのは、人間の想像力、と言った所ね・・・・・・・・・さて、それじゃあ私は帰るから。 あ、見送りは結構よ?」
「しないわよ」
「クス、クス、クス・・・・・・それでは、ごきげんよう。 お煎餅と大福、とても美味しかったわ」
「は!? ちょっ・・・と・・・」
だが、振り返った先には、紫は居なかった。
そこにあったのは、西日に照らされた縁側と、空になった湯飲み。
そして、お茶請けの煎餅が乗っていたはずのお盆だけ。
その光景に、霊夢は溜息一つ。
「・・・・・・全く、勝手なんだから」
でも、まあ、と霊夢は誰に聞かせる訳でもなく、一人呟く。
「いつも通りが、一番平和なのよね」
辺りは、既に薄暗くなっていた。
日は山の向こうへと沈みかけている。
月はない、今日は新月の夜。
今日も、いつもと同じ、変わらない夜が始まる。
妖怪達が跋扈する、いつも通りの夜が。
~Fin~
雲一つ無い夜。
まるで墨汁で塗りたくったような空には、星々と、欠けた月が浮いている。
月の形は、下弦。
それは、成長過程ではなく、老いて、死に行く形。
その淡い光に照らされて、数人の人影が映し出される。
様子は慌ただしく、まるで何かを探しているようだった。
否。
だった、ではない。
探しているのだ。
懸命に。
暗く深い闇夜の中、小さな灯りを手に、必死で何かを探している。
「そっちは、どうだった!」
「いや・・・見つからない」
「とにかく、もう一度探そう!」
「そうだな、見落としているところも、あるやもしれん」
言葉を交わし、また方々に散らばろうとする者達。
そこに、一人の影が近づく。
「皆、待ってくれ、流石にこれ以上は危険だ・・・後は私に任せ、皆は休んでいてくれないか?」
その人物は、人里の守護者、上白沢 慧音だった。
「慧音様・・・しかし」
「しかしも何もない、これから先は妖怪の時間だ。 いくら私でも、無理を通そうとする者を全て守りきれる自信はない」
人里の守護者は、男の反論を、正面から切って捨てる。
「む・・・・・・ですが」
「皆にも家族は居るのだ、心配を掛けさせてはいけない・・・・・・」
「・・・・・・判り、ました・・・・・・」
そう言って、男は力無く項垂れる。
その表情は、苦渋に満ちていた。
「では、慧音様・・・」
「ああ・・・気を付けて帰ってくれ」
「そちらも、お気を付けて」
そう言って、項垂れた男を支えるようにして各々の家へと戻っていく。
その姿を見届けてから、慧音は月を見上げる。
その表情は、悔しさに満ちていた。
「・・・・・・今宵が満月ならば、遅れは取らなかったのだろうが、な・・・・・・」
悔しげに呟く。
だが、聞いてくれる者は居ない。
辺りに広がる暗闇だけが、嘲笑う様に慧音を包んでいた。
民間伝承 ~The Unknown Creature~
その日、博麗神社に、珍しい客が訪れた。
いつも以上に堅い雰囲気を纏わせて訪れた人物を、霊夢は朝早くに出迎えることになった。
「あら、慧音じゃない・・・アンタがここにくるなんて珍しいわね。 何か、あったの?」
「ああ、折り入って、頼みがあるんだが・・・・・・」
その言葉に、霊夢の表情も、緊張を含んだ物に変わる。
「上がって、お茶くらいは出すわ」
「・・・お邪魔させて貰う」
そう言って、慧音を居間に通す。
数分後、二人分の湯飲みと、慧音が持って来た菓子を乗せたちゃぶ台を挟んで、二人が向かい合うといった構図が出来上がっていた。
慧音は、未だ湯飲みに口を付けていない。
「で、話って?」
「昨日、里の子供が一人、行方不明になった件はお前の耳にも届いているだろう? 単刀直入に言えば、この事件での犯人探しと犯人の退治・・・・・・この二つに協力して貰いたい」
「行方不明? あのねぇ・・・・・・慧音には悪いけど、そんなの良くある事じゃない。 詳しい事までは知らないけど、そんなので一々私が出張ってたら、幻想郷の妖怪の半分ぐらい簡単に居なくなるわよ?」
「・・・・・・そうだな、里の外では良くあることだ」
人間の領域内では人間を襲わない。
極論を言えば、人間の領域外ならば、人間を襲っても良いという事になる。
それが、この閉じた世界に棲む妖怪達の、暗黙のルール。
それが、妖怪の方が圧倒的に多い、幻想郷のルール。
そうなれば、全てにおいて平等に物事を推し量らなければならない博麗の巫女が介入する余地はない。
だが、次の慧音の言葉で、霊夢は湯飲みを傾ける手を止める。
「だが・・・・・・それは、里の外での話だ」
「・・・」
「霊夢、これは里の中で起きたんだ・・・」
「ルール破り、か・・・・・・で? そいつ、どんな奴なの?」
その言葉を聞いて、慧音は頭を振る。
「・・・判らないんだ」
「何だって?」
「姿を目撃した者は、一人もいない」
「いつの間にか・・・って事?」
「そうだ」
「じゃあ、妖怪に襲われたかどうかも判らないってことじゃない」
「そうなる、な」
「じゃあ、何で・・・」
「あっという間だった。 里中に話しが広まって、止める間もなかった・・・・・・だが、恐らくは」
慧音がそこで言葉を切る。
其処から先は、霊夢も言われずとも判る。
恐らく、妖怪に襲われたというのは、本当なのだろう。
いくら広いとはいえ、一日も掛からずに里の端から端まで行けるのだ、それでも見つからないと言うことがどういう事か。
それが理解できない程、里の人間も鈍くはなかったという事だろう。
「それで、里全体での大捜索ってわけね・・・・・・厄介そうね」
そう言って、立ち上がる。
「霊夢?」
「取りあえず、行くしかないでしょ?」
「・・・・・・恩に着る」
・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・随分、ピリピリしてるわね。 まあ、里の中で妖怪に襲われたかも知れないっていうなら頷ける、か」
霊夢が里に着いて抱いた印象は、これだった。
いるかも判らない妖怪を恐れ、必要以上に警戒する。
これならば、出てくる妖怪も出てこないかも知れないと、霊夢は思った。
それ程までに、里内の空気は殺気とも鬼気とも言えない『何か』が充満していた。
「さて、取りあえず、居なくなった子供の親御さんに会いに行こうと思うのだが。 どうする?」
「着いていくわよ。 手掛かり一つ無いんじゃあ、動きようがないじゃない」
頷き、歩き出す。
やがて辿り着いたのは、一件の商家。
「ここだ」
中に入ると、居なくなった子供の両親が出迎えてきた。
居なくなる前と後で、何か変わった事が無かったか等の話を一通り聞き、聞くような事柄も無くなった所で霊夢が
「少し、中を見て回ってもいいかしら?」
と、切り出した。
その言葉に、両親は幾ばくか逡巡したものの、慧音も一緒に付いていくということで、了承してくれた。
早速、慧音と霊夢は部屋を見て回り始めた。
厠。
浴室。
倉庫。
寝室。
屋根裏。
子供部屋。
だが、コレといった手掛かりは見つからない。
「大した手掛かりは無し、か・・・」
「両親の話では、子供は一度家に帰ってきたそうだが・・・・・・」
「あとは・・・・・・炊事場くらいかしら?」
そう言って、炊事場の引き戸を開け、中に入る。
だが、一般の民家のものより、多少広い程度で、あるのは竈等の調理具だけだった。
「さて・・・・・・ここにも何もないようだが・・・」
足を踏み入れた慧音が一通り辺りを見回し、落胆したように言う。
だが、霊夢はそうでは無かった。
おもむろに退魔針を取り出すと、床と土間の境目に投げつけた。
「霊夢!?」
突然の霊夢の行動に驚くが、やがて、行動の理由に思い至る。
「いた、のか?」
「確かに、いたわね・・・・・・でも」
外したわけではない。
確かに命中したのだ。
だが。
目を細め、訝しむ。
そんな霊夢を後目に、慧音は境目を覗く。
そして、その光景に、息を呑んだ。
「・・・・・・霊夢・・・・・・」
その続きが判っていた霊夢は、黙って、続きを待つ。
「恐らくだが・・・・・・居なくなった子供が、見つかった」
「・・・・・・そう・・・・・・」
無惨に千切られた、所々肉のこびりついた骨。
血溜まりに浮かぶのは殆ど肉の残っていない頭蓋。
未だに残っている眼球だけが、味わった恐怖と苦痛と無念を語る。
行方不明になった子供が、変わり果てた姿で其処に打ち捨てられていた。
・・・・・・・・・
葬儀の準備を里の者に任せ、霊夢達は慧音の家で、これからのことを話し合うことになった。
お茶を淹れ、一息吐く。
「しかし、結局正体は判らずじまい、か」
「そうね・・・」
「そう言えば、あの針は奴に当たったのか?」
「手応えはあったはずなんだけど、ね」
「・・・そうか」
これからの方針を決めかねて、沈黙が辺りを包む。
すると、戸を叩く音が聞こえた。
「開いているぞ」
そして、入ってきたのは・・・。
「慧音、うん? 霊夢まで・・・・・・何を辛気くさい顔してるんだ?」
「妹紅・・・・・・」
藤原 妹紅。
元から色が無かったかのような白い髪と、それを飾る様な赤い出で立ちで、彼女は玄関に佇んでいた。
手には、酒瓶と、肴らしき物の包みが抱えられている。
「道案内の礼ってことで良いのを分けて貰ったんでね、一杯付き合わせに来たんだけど・・・・・・邪魔だった?」
「・・・・・・昼間から酒か? あまり感心しないな」
「酒は百薬の長にして、百毒の長、蓬莱人には薬も毒も効きゃしない。 だったら酒は水と同じさ」
どっこいしょ、と図々しく二人の間に腰を下ろす妹紅。
トクリトクリと器一杯に酒を注ぎ、一息に飲み干す。
「・・・・・・んで? 若いお二人さんは、何か悩み事?」
「ああ、実は・・・」
話すのは、一昨夜から、今日にかけての出来事。
犯人が、やはり妖怪だったということと、これからどう対処するか、ということ。
「ふぅん、傍迷惑な奴もいるもんだ」
話を聞いてる間にも、杯を止めずに、妹紅は聞きに入る。
「問題は、どんな姿をしているのかすら判らないと言うことだ」
「ははあ、それで辛気くさい雰囲気になっていたわけ」
「うら若い乙女に対して、辛気くさいって言うな」
「一緒に酒の共をしてる時点で、説得力皆無だねぇ・・・・・・」
「アンタにとっちゃ水と変わらないんでしょ? なら水でも飲んでなさいよ」
「いやいや、私はちゃあんと味の方も楽しんでるって、水じゃ物足りないってば」
いつの間にか、酒瓶は空になっていた。
そして、最後の一口を飲み干した霊夢は、おもむろに立ち上がる。
「?・・・どうした・・・」
霊夢、と言う前に、本人が動いた。
おもむろに立ち上がったかと思うと、いつの間にか手にしていた針を。
「シッ!!」
狭い、本当に狭い、箪笥と本棚の僅かな隙間に向けて、投擲した。
瞬間。
『ギイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!!』
耳障りな金切り声が、部屋中に響く。
その、鳴き声とも、断末魔とも付かない音に、三人とも顔をしかめる。
やがて静かになったところで、ズルリと、その隙間から一匹の妖怪が出てくる。
真っ黒な体に、のっぺりとした顔。
爪と口元に赤い液体がこびり付いており、鋭い歯が並んでいる。
そして、肩口と人間で言えば眉間の辺りから生えている細く長い針。
後者は今、前者は先の台所で刺さった針だろう。
完全に事切れ、ぴくりとも動かないソレに、慧音はゆっくりと歩み寄る。
「・・・・・・こいつは」
「多分、この事件の犯人ね」
「ありゃ。 なんだ、案外早く片づいたじゃあないか」
妹紅の言葉に、慧音が反応する。
「コレがどういう妖怪かは知らないが、早く終わることに越したことはない」
「そりゃあ、まあ、ねえ・・・・・・でもさ」
「何だ?」
「騒ぎの割には随分あっけないんじゃ・・・」
「慧音っ! 下がって!」
「!?」
その声に反応して、慧音は後ろに飛び退く。
そして、一瞬前まで慧音が居た空間を、鋭利な爪が生えた細長い腕が薙いだ。
「ちいっ!!」
服の襟元を千切るだけに留まった腕は、そのまま弧を描き、事切れた妖怪を鷲づかみにし、隙間に消える。
「まさか、もう一匹いたとは・・・」
バリボリ、ゴキグチャと隙間から聞こえてくる異音。
恐らく、喰べているのであろう。
同類の死骸を。
その腹の中に詰まっている人間の肉を。
「うえ、今日は肉食べようと思ってたのに・・・」
妹紅の一言に、霊夢が文句を言う。
「ちょっと、そんなこと言わないでよ! お肉食べる気にならないじゃない!」
「食べるつもりだったのか、お前さんは」
「二人とも巫山戯ている場合か・・・! 来るぞ!」
ヒュッ、という風切り音を立てながら飛んできたのは二本の針。
一本は霊夢に。
そしてもう一本は、慧音・・・ではなく妹紅に。
霊夢は体を滑るように横にずらして回避。
妹紅は、飛んできた針を空になった瓶で弾く。
ガシャン、という音と共に酒瓶は割れるが、妹紅には針は刺さらなかった。
反撃に、霊夢は針を懐から取り出し、投擲しようとして・・・止める。
「・・・・・・ルール違反をやらかすわりに、割と狡賢いわね、アイツ」
一瞬。
霊夢と妹紅が針を避ける為に費やした一瞬。
自分ではなく妹紅に向けて放たれた針に気を取られ、慧音が意識を逸らした一瞬。
その一瞬で、妖怪の気配は、完全に煙の様に消えていた。
「逃げられた、か」
「で? どうするの、これから」
「追いかける、と言いたい所だが、闇雲に捜索しても逃げられるだけだろうな」
「こんな時に紫がいれば色々楽なんだけど・・・・・・今回は手を貸してくれないんでしょう?」
「あら、よく解っているじゃない」
空間の亀裂から上半身だけ出している妖怪に、霊夢は向き直る。
「何時から見てたの?」
「そりゃあ、おはようからおやすみまで、って冗談よ、冗談だから御札出そうとしない」
「アンタが言うと、冗談に聞こえない・・・・・・で、あの妖怪は何? ああいう手合いは随分久しぶりだけれど?」
「ちょ、ちょっと待て。 霊夢」
「ん? 何よ」
「あの類の妖怪に別件で遭遇した事があるのか!?」
「いや、私だけじゃなくて」
慧音と妹紅を指差し、あんたらも、と言う。
「いやいや、この千年近い人生の中でも、あんなのには遭った事がない」
「私もだ。 何かの勘違いじゃないのか?」
「何言ってんのよ・・・・・・居るじゃない、ここに」
そう言って指さすのは、スキマから上半身だけ出して此方と対話する妖怪。
「「ああ、なるほど」」
ポン、と合点がいったように、二人とも手を叩く。
「ちょ、ちょっと!? 何が『なるほど』よ!? あんな不っ細工で優雅さの欠片もない木っ端妖怪と無敵で不適で最強なこの美少女妖怪の私を同類項で結ぶつもり!?」
「ふむ、考えてみれば、辻褄が合うな」
「あの神出鬼没さといい、ずる賢くて陰険なところといい、そっくりだ」
「ほら、キリキリ喋りなさい。 言っとくけど、私の結界は結構タチ悪い事で有名よ? 主に妖怪連中に」
「ちょっ、え? 何? 私犯人級の扱い?」
「「「何を今更」」」
何時の間にか結界で拘束された上で、どこから出したのか、荒縄で家の柱に手首を縛り付けられる。
上半身だけだからとはいえ、侮ってはいけない。
結界の範囲は紫の造り出す境界を含めてほぼ完全に拘束している。
そして基本的に空間の裂け目や結界の類には厚みという概念は存在しない。
更に今現在、術の使用は、霊夢の結界内にいるため制限されている。
極めつけに体勢が悪かった。
紫は今、マヨヒガのソファに寝そべりながら空間を繋げていたのだ。
「ほぉら、早く答えないと体が真っ二つよ?」
そしてトドメとなるのが今現在紫の背中に重さ十数キロの漬け物石をピラミッド様式で積み上げている鬼畜巫女。
まな板の上の鯉。
真綿で首を絞め千切る。
四面楚歌。
ゆっくりして逝ってね。
この状況を分かりやすく言葉に表せば、こんな表現が相応しい。
下に待ち構えているのは、自分が創り出した厚さゼロの空間の亀裂。
上からは漬け物石のプレス。
物騒過ぎるサンドイッチの完成である。
(この状況から生きて帰ったら、藍にサンドイッチ作って貰おうかしら・・・)
現実逃避しつつも、きっちり死亡フラグだけは立てる大妖怪、御歳自主規制。
妖怪切断ショー(生放送)まで、あと1.36センチ。
・・・・・・・・・・・・
「さて、冗談はこのくらいにして、これからどうする?」
「アレを冗談で済ませようとするの? ・・・・・・本気で死ぬかと思ったわ」
「そうだな。 差し当たっては、奴の居所が掴めれば此方からも打って出ることが出来るのだが・・・・・・」
「え、スルーするの? ・・・・・・やだ私、今上手いこと言った」
「紫、黙れ」
「邪魔しないでもらえないか?」
袋だたきとは、決して相手を袋に入れてフルボッコにする行為ではない。
袋だたきとは、相手をズタ袋の様になるまでフルボッコにする行為である。
「二人とも、なんつーか、容赦ないのな・・・・・・」
「コイツがアホなこと言うからよ」
霊夢が手を拭っているが、それは汗だと信じたい。
(しかし・・・・・・)
先程の重苦しい雰囲気を拭い去るという行為であるならば、紫のタイミングは絶妙だった。
先の状態のままであの妖怪に挑んだならば、恐らく霊夢か慧音、この二人のどちらかが、確実に大怪我をしていただろう。
二人とも、その立場上から何事もないように見えるが、妹紅の視点からはハッキリと視えていた。
呑まれている。
この人里の空気に、異様で奇怪なあの妖怪の出す空気に。
少なくとも、長いこと人里で暮らす慧音は、確実に里中の人間の感情を表している。
妖怪に対して、異様に攻撃的になっている。
紫を袋だたきにした件は、本人の自業自得とはいえ、普通なら慧音は、頭は出すが手は出さない。
(良くも悪くも人間、か・・・・・・)
心の中で、短く溜息を吐く。
いざとなれば、死なない自分が盾になっても良いだろうと、妹紅は考える。
死なないと言う事実は、それだけで圧倒的に戦闘を有利に進めるという事を、長年の経験で識っている。
事実、今までそうやって妖怪を倒してきたのだから、今回もそれには変わるまい。
妹紅は気付いている。
それが妖怪寄りの考えだと言う事に。
能力差での力押し。
相打ち覚悟で突っ込んできた相手を嘲笑うような不死の能力。
死んだと思った相手がいきなり起き上がり、致死の一撃を見舞うなど、一つしかない命を賭ける相手側にとっては冒涜以外の何者でもないだろう。
この世の何処に完全に事切れた相手を警戒するモノがいるというのだ。
死なないと言うのはそう言うことだ。
完全な死角を付ける。
相手が死ぬまで戦い続ける。
恐らく、真っ当な殺し合いならば、今、妹紅の目の前にいる博麗の巫女だろうがスキマ妖怪だろうが間違いなく殺しきれる。
圧倒的強者である鬼だろうが、それこそ神だろうが。
無限にストックのある人柱には、そんな事は関係ない。
例え百回死んでも、百一回目で屠ればいいのだ。
故に、妹紅にとって、自分の命とは戦う上での勘定には入っていない。
今まで幾度となく行い、勝利を収めてきた戦い方。
目の前の二人は、妹紅の不死性を十二分に知っている。
忌避の目で見られる心配はない。
故に。
「・・・・・・二人とも、一寸良いか?」
二人に、提案する。
自分にしか出来ないやり方を。
・・・・・・・・・・・・
妖怪は、上機嫌だった。
見知らぬ土地で初めて出会った獲物の味は、格別の一言。
隠れる場所は、元いた土地より遙かに少ないが、それさえ我慢すれば極上の獲物にありつけるのだ。
不平を漏らせばそれこそバチが当たると言うものだろう。
更に上機嫌な理由として、先程の下見で、新しい獲物に目星を付けたという事もある。
赤と白の衣装に身を包んだ極上の獲物。
黒い髪の方も、白い髪の方も、妖怪にとってはどちらも捨てがたかった。
本来この妖怪は、左肩の傷の報復をしに来ただけであった。
自分の眷属にワザと針を刺し、気配をちらつかせて仕留めさせる。
そうして近づくなり油断するなりしたところに襲いかかるつもりだった。
しかし、その直前で気付かれてしまった。
そして、その直前で気付いてしまった。
思わずよだれが出そうになるほどに旨そうな二人の人間の気配に。
紅白の少女。
片や白、片や黒髪の人間。
黒い髪の人間は言わずもがな。
抗いがたい魅力を感じる。
だが、未だにジクジクと痛む肩の傷の報復もある。
『引き裂く前に、たっぷりと悲鳴を上げさせてから戴こう』
本能と経験だけで動いてきたこの妖怪にとって、初めて生まれた感情と言えるべき物だった。
そして、白い髪の人間。
此方は本当に偶然だった。
アレは、特別・・・・・・いや、格別だ。
妖怪は本能でそう感じ取った。
だから、本来慧音に投げる予定だった針の狙いを、妹紅に修正して投げ返した。
あの人間は、他の人間と同じように見えて、決定的に何かが違う。
しかし、その何かを、妖怪は理解できない。
食して、悲鳴を聞いて、内蔵の一つ一つ、血肉の一欠片、骨と髄液の味を満遍なく味わい尽くせば何か分かるのだろうか。
そう妖怪は考えた。
だが、あの目。
あの鮮血のように綺麗で魅惑的な色をした目だけは、食べずに取っておこう。
妖怪はそう決定付けて、どちらを先に襲おうかと考えながら、薄暗くて狭い、物と物の隙間の中で、良い感じに溶けた子供の肉の味の余韻を楽しむ。
次に襲う予定の人間は、どのような味がするのかを夢想しながら。
・・・・・・・・・・・・
「妹紅・・・・・・それだけはダメだ」
妹紅の話を聞いた慧音の開口第一は、その一言。
やはり、と妹紅は心の隅で溜息を吐く。
囮を使って妖怪を釣るという、端から見れば無謀な考え。
釣り餌は妹紅自身。
人間の事を第一に考える慧音が賛成できる話ではないのだ。
「ちょっと慧音? 今は選り好みしてる暇なんか無いって事、判ってる?」
「それでもだ。 この方法は、私には到底賛成なんて出来ない」
霊夢の言葉にも、慧音は考えを曲げない。
慧音の頑固さに、霊夢は内心舌を巻く。
霊夢、ないし妹紅が囮として妖怪を釣り上げるのは、人道的には頂けないが、全体の効率としてはそれ程悪くはない。
その点だけを見れば、霊夢の考えは、妹紅の思考と、良く似通っていた。
霊夢もまた過去に、妖怪退治に自分自身を囮に使うという、無茶な策を使用していたのだから。
人を喰らう妖怪は、霊力を多く蓄えている人間を見分けることが出来る鼻を持っている。
これは、物理的な匂いがするという訳ではない。
人間で言う第六感に近いものであり、より霊力を、力を保有する人間を食することで、効率の良い栄養の摂取や、より効率の良い自身の強化を行う、一種のシステムである。
つまり、人間を喰う妖怪は、本能的に霊的な力の強い人間に惹かれるのである。
それは、人間の血や肉を摂取する妖怪の全てに適用される。
片や経験で、片や人並み以上に優れた勘で。
妹紅と霊夢は、次に狙われる対象を感じ取っていたのである。
そして、退治するのには、なるべく短期決戦で挑む。
そうしなければ、腹を空かせた妖怪は、他の人間を襲い始める。
恐らく慧音も、その事は薄々理解しているだろう。
しかし、生まれ持っての頑なさが、決断を鈍らせる。
「あらぁ? 随分甘い考えじゃぁなくて?」
「っ!? この件に干渉する気が無いのならば、黙っていてもらえないか・・・!」
そんな慧音の考えを、紫は見透かしていた。
飄々とした台詞が、その実で、確実に慧音を追いつめる。
「あら、怖い怖い・・・・・・貴女、少し落ち着いたら如何?」
「十分落ち着いているさ・・・! 大体、これは妖怪側にも不利な出来事ではないのか? 何故我々に手を貸そうとしないっ」
「それじゃあ聞くけれど・・・・・・貴女、これからもこんな事態に陥った時、その都度私の力に頼る算段なのかしら?」
「それは・・・・・・」
「これは良い機会なのよ。 最近私が表に出張り過ぎている所為で、まるで私が便利屋のように思われているようだしね? 出来れば大事の起きない内に、こういう事に対して不慣れな方々達に経験を積ませようと考えているワケよ。 ま、老婆心ってやつかしら」
扇で口元を隠し、目を細める。
大妖怪の視線が、真っ直ぐに慧音を射抜く。
重圧こそ発してはいないが、その視線には、敵ではないと判っていても、思わず重心を爪先に傾ける程の何かが篭もっていた。
半分ほどしか根ざしていない妖怪の本能が、やらなければやられる、と告げる。
が、その先の行動を、慧音は寸でで制止した。
少なくとも、今事を構えるべき存在は、目の前の妖怪ではない。
上がりそうになる腕を無理矢理止め、浮き上がりそうになる足を、土踏まずに自重を乗せて畳に縫いつける。
その様子を見届け、紫はクスリと笑みを浮かべる。
胡散臭い笑みに向けて、慧音は複雑な表情で視線を返す。
「全く・・・・・・噂以上に人が悪いな、貴女は」
「一応の褒め言葉と受け取っておきましょうか・・・・・・さて」
振り返り、空間の裂け目を創る。
「後の事は貴女方にお任せしますので、私はこれにて失礼をば」
「変な言葉遣いしなくて良いわよ、気味悪いから」
「あら、そう? それじゃあ、後のことは任せるわ。 じゃあね~~~」
先程の態度とは打って変わった口調で、紫は空間の裂け目に飲み込まれた。
米神を押さえ、慧音が呻くように言う。
「・・・・・・あれで、もう少しまともな性格ならば、信仰の一つも出来るのだろうがな」
「アイツがまともな性格ってのがそもそも想像できないけどね」
「そりゃ、同感だ」
「ま、アイツのことはさておいて、よ」
霊夢の言葉に、二人も各々に姿勢を正す。
「これ以上長引いたら、あの妖怪の思う壺。 だから、短期決戦の為に囮を使うわ・・・・・・慧音も、それで良いわね?」
「個人的には反対したいが、事態が事態だ、仕方があるまい」
「よし、じゃあ囮役は言い出しっぺの私がやるから・・・」
「あ、それなんだけど」
「うん?」
二人は追い込み役をやってくれ、と言おうとした所に、霊夢が発言をかぶせる。
「何だ、まさか自分が囮役やるってんじゃないだろうね?」
霊夢の性格からして十分にあり得る危惧に、おいおい、と妹紅は冷や汗を流す。
今回の相手が相手だけに、囮役は無傷でその役目を終えることはまずないだろうと妹紅は予測している。
今回の役割は、囮役と言うよりも、餌役だ。
対象が食い付くまで釣り糸を垂らし、完全に餌を飲み込んだところで引き上げる。
腕の一本や二本、失っても不思議ではない。
妹紅の考えとは裏腹に、霊夢は言葉を続ける。
「や、そう言うワケじゃないんだけど・・・」
どうやら、妹紅の懸念とは違うらしい。
じゃあ、何か? と妹紅が聞く前に、霊夢が口を開いた。
「アンタ、まさかその格好で餌役やるんじゃないでしょうね?」
「はあ?」
・・・・・・・・・・・・
恥ずかしい。
ぐるりと一週人里を廻った妹紅の感想だ。
歩くたびに空気を含んでフワリと上がる裾の感覚など、実に千数十年ぶりの感触に、違和感を感じつつ、妹紅は人里を練り歩く。
里中の人間の好奇の視線、すわ新しい妖怪か、という警戒の視線。
後者だけならば、妹紅も耐えることは出来ただろう。
しかし、前者は大変に堪えた。
元々、人前で着物姿を見せる機会など、家族や使用人、それに、偶に来る賓客ぐらいの物だった。
しかもそれらは千数十年前の話だ。
不死になってこのかた、普段着などは、動きやすいもんぺとシャツで済ませてきた妹紅にとって、人前でこんな格好をする羽目になるなど夢にも思わなかった事だろう。
ふと、妹紅は、つい先刻の出来事を回想する。
~回想~
『はあ?』
『だ・か・ら その格好で餌役やるのかって聞いてんのよ』
『いや、その格好も何も、私はこんなのしか持ってないって』
『着物とかは?』
『初めは何着か持ってたけど、綺麗なのは売って金にして、汚れたのは薪代わりに燃やしたり』
『ったく、平安貴族って奴はこれだから・・・・・・・・・まあ、いいわ。 慧音』
『あい解った。 妹紅、動くなよ』
『へ!? おい、ちょっ・・・・・・何やって・・・』
『ん~~? 着せ替え?』
『疑問系かい!? つーか着せ替え!?』
『うむ、こういう時、もんぺは便利だな、脱がせやすい』
『うおおおおおおい!? 何勝手に脱がしてる!?』
『こういうの、どうかしら?』
『いやいや、ここは敢えて寒色系の色で・・・』
『あ、じゃあ、これは?』
『ふむ、なかなか』
『無視か! 言っとくけど、私は絶対そんなの着ないからな!』
『とか言ってる間に』
『早っ! 何時の間に!?』
『あら、案外大きいのね、腰も細いし』
『成る程・・・妹紅は着痩せする方なのか』
『何処見て言ってる! 何処見て言ってる!?』
『じゃあ、下は暖色系で、上から薄い寒色系を羽織らせる感じで・・・』
『良し、それで逝こう』
『ちょ、字が違g・・・』
『それじゃあ、もう一回脱がすから』
『や、やめ・・・!』
~回想 了~
「・・・・・・おかしいな、目から汗が」
『大丈夫、似合ってるわよ』
「・・・・・・そう言う問題じゃない」
懐にある陰陽玉から慰めの声。
通信用と、現在位置を知らせるために持たされた物だ。
「大体、何でこんなカッコしなきゃならないんだっ」
『か弱い美少女的な演出よ。 何事も形からってやつね・・・・・・なかなか面白かったわよ?』
「おうけぃ・・・・・・お前さん、確実に地獄行きだね。 私が保証する」
『照れるじゃない』
「褒めてねぇ」
文字通り、人形になった気分であった。
無性に人形解放運動に入りたくなる衝動を覚えつつ、先程では廻れなかった細かい通りを歩こうかと、妹紅が大通りから外れた細道に向かおうとした所で。
「あら、貴女は・・・」
後ろから、声を掛けられた。
ビシリと妹紅の動きが止まる。
マズイ。
今、知り合いに声を掛けられるのは、非情にマズイ。
現在の妹紅の格好は、とても知り合いに見せることの出来るような代物ではないからだ。
とはいえ、これは本人から見た主観的な意見であり、他者から見れば、十分に魅力的な姿なのだが。
ともかく、妹紅にとっては、出来れば人違いであって欲しいわけで、声を掛けられた時点で厄日と天誅殺が同日に来たような気分になったが、まあ、振り向いて顔を見せれば人違いだって解るだろうという一縷の望みに賭けてえいやと振り向いてみれば、やはりそこには今朝方ぶりで、しかもそれなりに見知った顔が居たわけで。
「今朝は有難う御座いました。 今日はどうにもご縁があるようで」
「あ、ああ、まあ・・・・・・本日はお日柄も良く・・・」
「ところで、今朝とは違うお召し物をなさってますが、何やらお大事でしたか?」
「え!? いや、まあ、気分・・・そう! 何となく気分だっただけさね」
「そうでしたか、急ぎの用の所をお止めしたならば、どれ程礼を逸した所でしょう」
「はは・・・は・・・まあ、気にしないでいいって・・・」
「そうですか・・・そう言って頂けると助かります」
ほぅ、と安堵の息を吐いたこの少女、名を稗田 阿求という。
今朝方竹林の案内を買って出、今こうして朗らかな表情で妹紅と再会した訳だ。
そして、この件が終わるまで、出来れば出会いたくなかった相手でもある。
<一度見た物を忘れない程度の能力>
これがこの少女を『絶対にこの格好で会うわけにはいけない人物ベスト5』の栄えある一位に押し上げる唯一にして、最大の理由である。
大人しそうに見えて、存外に話し好きなこの少女の口に戸を立てることが不可能である事は周知の事実であり、ましてや酒の席ならば、面白おかしく脚色を付け、口の早い連中に『ついうっかり』暴露するという、ある意味天狗より質の悪い存在と化す。
之まで黒歴史に沈んだ者、数知れず。
これで悪気の一つもあれば仕返しで悪戯の一つも出来るのだが。
邪気ゼロ、悪意ゼロで、更に酒の席なので、誰一人、誰一妖、手が出せないのである。
今の所有効な手段が、口を滑らす前に酔い潰すという、何ともはや未成年の体に悪い解決方法だ。
『ん? そこに居るのは阿求殿か?』
「え? はい、そうです・・・よ? あれ?」
陰陽玉から聞こえてきたのは慧音の声。
しかし、阿求には、声は聞こえど姿は見えない。
目をパチクリさせながら辺りを見回す阿求の姿に、妹紅は苦笑しながら懐の陰陽玉を取り出す。
「これだよ、これ」
「これは、陰陽玉・・・ですか? 何故妹紅さんが?」
『それは私が説明しよう。 一昨日、里内で子供が消えた事件があったのはご存じか?』
「ええ、侍女からその話は聞きました。 実はと言うと、今日の外出も家人から反対されてしまいまして・・・まあ、つい抜け出してしまった訳ですが」
「とんでもない事するね、お前さんも」
『まあ、その件は後日追及することにして。 件の妖怪退治は、本来なら霊夢と二人で行う手筈だったのだがな』
「成り行きで私も手伝っているって訳さね」
「成る程・・・・・・あの、そうなるとやはり私はお邪魔だったのでは?」
『そうね。 知識はともかく、体力的に足手纏いね』
「霊夢さん、いたんですか・・・というか、今さりげに酷い事言いませんでした?」
『自覚がないのが一番危ないの、判ってる?』
「改めて他人から言われると傷つきます・・・」
『まあ、それはそれとして・・・・・・コッチは随分範囲が狭まったわよ』
霊夢が今言ったのは、妖怪を追い込む範囲の事だ。
里の外周から、小物の妖怪でも気付くような目立やすい探査を開始し、囮役は探査の穴を埋めるように歩く。
元々は、術者の周囲を周回し、敵性の反応を術者に知らせ、攻撃があった場合、自動で術者を守る技だが、今回は、慧音が有事の際の盾を買って出た事と、妹紅が本命の為、密度が低い代わりに、広範囲の探査を可能にしている。
後は、一定の時間ごとに捜索範囲を里の中心に向けて狭め、隠れる場所を限定させる。
「もう大分範囲が限られてきたけど、まだ掛からない、か」
『里から逃げた、という可能性は?』
『それなら手の出し様が無いけど・・・・・・多分、居るわよ』
「それは、勘?」
『まあね』
「残った場所は・・・・・・墓地や道具小屋・・・ぐらいなもの、かぁ」
そう言いながら妹紅は、懐から取り出した簡略的な里の全体図を見る。
阿求も気になって広げられた図を見る。
そして、気付いた。
この図に載っていない、とある建物について。
「これ、私の屋敷が載っていませんよ?」
「はあ?」
『何を言っている、そんな筈がないだろう』
現に、阿求の屋敷は、里の中心に近い所に描いてある。
「いえ、厳密に言えば、私の、ではなく初代の・・・」
阿求はそう言いかけ、目を見開いた。
妹紅が何気なく背にしている民家と民家の隙間。
その隙間から、じい、と此方を見つめる視線に。
そして、其処からその細い間隔からは想像も付かない程長大な腕が妹紅の背に伸ばされ・・・。
「危ない!」
「なっ!?」
その声が聞こえたと思った瞬間、阿求に押され、妹紅は地面を転がっていた。
危ない。
今現在、その言葉に当て嵌まる事態。
その嫌な予感に突き動かされ、妹紅が顔を上げる。
果たして、そこに答えがあった。
「痛っ! い・・・やぁ!」
長く、黒い腕に捕まったのは、妹紅の代わりにその場に立った阿求。
そして彼女は。
「て・・・めぇ!」
寸での所で、隙間に飲み込まれた。
すかさず陰陽玉の向こうにいる二人に怒鳴りつける。
「阿求が連れて行かれた! 私の現在位置を中心に広範囲で探ってくれ!」
『もうやってる! ・・・・・・・・・判った! アンタの方向から向かって北東! 真っ直ぐ進んでる!』
「そっちは田園地帯じゃないのか!?」
『そうだ! 一つ、一つだけ見逃していた!』
霊夢と妹紅の会話に、慧音が割り込む。
『そっちで間違いない! 何せその先は・・・・・・』
『初代阿礼乙女の没した場所、そして、代々の阿礼乙女が転生の儀を行う為に残した屋敷がある!』
・・・・・・・・・
妖怪は上機嫌だった。
取り逃がした獲物は大きかったが、それに勝るとも劣らない獲物を手に入れることが出来たからだ。
肉食の獣のような声を上げながら、隠れる場所のない田園地帯を獣以上の速さで駆け抜ける。
「ぐっ・・・あぅっ、ぐっ!」
大地を蹴り上げる度に、阿求の声が上がる。
その声音に、苦痛の色が見えた事で妖怪は、益々上機嫌になった。
大地を蹴る足に、更に力を込める。
そうして楽しんでいると、程なくして屋敷に到達した。
ここでふと、面白そうな趣向を、妖怪は思いつく。
『眷属達に嬲らせて、その様を愉しむのも良さそうだ』
思ったが吉日。
この屋敷に潜む眷属達を、呼び寄せる。
チラリと阿求を見やると、妖怪の望んだ通りの反応が待っていた。
ぞわぞわと、天井を、隙間を、床を、至る所から這い出てくる眷属達。
その数が、十を越え、二十を越え、三十を越える度に、表情からは血の気が失せる。
ニヤリと、目も鼻もない顔が、笑みを作った。
部屋一杯に広がる眷属達に、部屋の中心を開けるように命令する。
その命令を受け、歪な円上に、広間の中心が割れる。
後ずさりしようとする阿求を鷲づかみにし、持ち上げる。
「嫌ぁっ・・・! 放し・・・」
言い切る前に、妖怪は、阿求を手放した。
獲物の到着を待つ眷属達が広げた、歪な円の中心に。
トサリ、と、軽い音を立て、阿求が畳張りの床に倒れ込む。
即座に顔を上げ、状況を確認し、背筋に怖気が走った。
黒以外の如何なる色をも廃した眷属達。
前も、後ろも、左右も。
何処を見ても妖怪の姿。
「あ・・・あぁぁ・・・・・・!」
忘れていたのだ。
本来妖怪とは、人間を喰らって生きる者。
忘れていたのだ。
幻想の世界に生きる妖怪達も、元々は人を喰らっていた。
忘れていたのだ。
それを知っていた上で、記憶の隅に追いやっていたのだ。
妖怪が物も言わず、長い爪が生えた指を阿求に向ける。
それに呼応するように、阿求の周囲を取り囲む眷属達も、その矮躯を揺すり、次の命令を待つ。
そして・・・・・・。
指が下げられた。
ぞわり ぞわり ぞわり。
細長い手足を使いながら、眷属達が迫る。
ぞわり ぞわり ぞわり。
長い爪で畳を引き裂きながら、眷属達が迫る。
ぞわり ぞわり ぞわり。
既に、眷属達は、阿求の目と、鼻の先にまで来ている。
一匹が、手を伸ばす。
細く鋭い爪が、阿求の肌に掛かる。
まるで宝石を愛でるように、爪が肌をなぞる。
その爪のなぞった後を追うように、紅い血が玉になり、阿求の白い肌からツウ、と溢れる。
その珠玉のような紅い玉を爪で掬い取り、紅を塗ったように紅い口元に運ばれる。
丹念に舐め、その味が気に入ったのだろう、再度手が阿求へと伸びる。
その光景に我慢できなかったのであろう、他の眷属達も、一斉に手を伸ばす。
阿求は、今度こそ訪れるであろう自身の死の予感に、目をギュ、と閉じた。
細い首筋に、連れてこられたときに乱れた着物から覗く肌に。
だが。
数十もの爪が同時に伸び、ピタリと、その肌に触れるか触れないかの所で止まった。
数秒経っても、何も起こらない事に訝しみ、阿求が恐る恐る目を開ける。
阿求の目の前に広がるのは、目と鼻のない顔が、自身へと手を伸ばした形で静止するという、身の毛もよだつ光景。
否。
全く動かない訳ではない。
ブルブルと小刻みに。
正しくは、震えていると言った所だろう。
そう、このモノ達は、震えている。
そこで初めて、大本の妖怪は気付いた。
肌を刺すような感覚を。
触れた部分からジリジリと焦がされるような、まるで熱気の様な存在の接近を。
瞬間。
屋敷の壁が、崩壊した。
数枚の障子と、幾つかの木造の壁が、纏めて刳り貫かれたかのように崩壊した。
瞬間的に浴びせられた熱量が、木製の壁を、炭化する事すら許さずに焼き尽くしたのだ。
そして。
「・・・・・・見付けた」
その声は、ハッキリと、阿求と妖怪の耳に届いた。
・・・・・・
「・・・・・・見付けた」
数枚の障子と、数枚の壁を、圧倒的な熱量で刳り貫き、妹紅は遂に、この一件の主犯の元へと辿り着いた。
眷属であろう妖怪達を見やり、よくもここまで増えたものだと妹紅は内心で感心した。
それが不謹慎な考えだと気づき、阿求の姿を確認する為、視線を周囲に走らせる。
程なくして、阿求は見つかった。
妖怪達に囲まれ、目尻には涙が溢れている。
それでも、目を点にして呆然と妹紅を見ている時点で、妹紅は易々と限界を越え、吹き出した。
「ぷっ・・・くく」
火に注いだ油の如く、阿求が反応する。
「な、何で笑うんですか!! 私は散々な目に遭ったのに!! ここは『よく頑張ったね』とか、『もう大丈夫だ』とか言う場面でしょう!?」
「あーーー、そりゃお前さん、アレだ・・・・・・本の読み過ぎ」
「悪かったですね! それが私の生き甲斐なんです!」
「うん、まあ、それだけ元気があれば、自力で帰って来れるか」
「うぇ!? ちょ、こちとら生まれてから本より重い物を持った事のない病弱でか弱い一般人ですよ!? 何華麗にターンして帰ろうとしてるんですか!?」
「あーーーー、テス、テス。 阿求は自力で帰れるそうだから・・・ってありゃ、陰陽玉、割れてるよ。 一寸ばかし火力が強すぎたか・・・・・・」
「もーこーうーさーんー!!!」
「ああ、冗談だって判んないかねぇ。 ちゃんと助けるから、心配無いっ・・・・・・て!」
妹紅が身じろぎした瞬間を狙って飛び出してきた眷属に向かって腕を振るう。
その軌道をなぞって吹き出た炎に、断末魔を上げる事さえ許されずに、燃え尽きた。
「いやいや、食欲旺盛だ。 まあ、自分の欲望に正直なのは良いけど・・・・・・」
熱線が、阿求の周囲を薙ぎ払う。
切断され、断面から炭化した眷属達が、バラバラと畳を転がる。
「こういう状況じゃあ、そう言った手合いの正直者は、真っ先に死ぬのが相場でね」
苦しくも、熱線を逃れる事の出来た眷属達も、ばらまかれた火球により、火達磨になって燃え尽きた。
直ぐ隣で、熱線によって真っ二つになった妖怪を見て、阿求は血相を変える。
「妹紅さん! 危ないですって! 私まで真っ二つにするつもりですか!?」
「正直者の死。 出だしは真ん中よりチョイ左が安地さね」
「意味判りませんよ!」
弾幕の様に文句をばらまく阿求に向かって歩を進め、その頭に、ポン、と手を置く。
「ほぉら、もう安全だ・・・・・・頑張ったね」
「あ・・・・・・って、い、今更遅いですよ」
「ったく、注文の多い事で」
頭に手を乗せそのまま、グリグリと撫で付ける。
そして、恨めしげに妹紅を見上げ、その目に映ったのは。
天井に張り付き、妹紅に狙いを定めて飛びつこうとする、阿求を攫った張本人の姿だった。
「妹紅さ・・・」
「判ってるって」
悲鳴の様に呼ばれた自分の名を途中で遮り、妹紅は振り向きざまに素早く腕を一線。
放たれた熱線は、妖怪の胴体部を容易く切断し、軸線上の天井まで一緒に焼き切った。
下半身は、妹紅の足下に。
胴体は、阿求の頭上を飛び越え、畳の上を数回転がり、その動きを止めた。
辺りに、静寂が降りる。
残ったのは、炭化した切断面を見せる妖怪達の残骸と、殆ど怪我のない妹紅達だけであった。
「これで、終わり・・・ですか・・・・・・?」
「大本を潰して、更にこれ以上、ってのは無いと思うけどねぇ。 ほら、立てる?」
「あ、はい」
妹紅の手を借り、立ち上がり、その場に崩れ落ちた。
「あ、あはは・・・・・・今になって、腰が抜けてしまいました」
「ありゃま・・・・・・んじゃあ、しょうがない」
苦笑しながら妹紅は、阿求の膝裏に手を入れ、もう片方の手を阿求の背中に回した。
俗に言う、お姫様だっこである。
「さ、て・・・・・・帰るかね?」
「そうですね。 流石に、疲れました」
「お前さん、何もやってないじゃないか」
「囚われの阿礼乙女の役をやりましたよ。 全く、結構な大役でした」
「・・・・・・言ってて恥ずかしくないか?」
「・・・・・・・・・少し」
妹紅達は、自分で開けた道を歩き、外へ出た。
既に西日は、向こう側の山へと沈もうとしている。
その逆光の中に人影を二つ見付け、妹紅は嘆息した。
向こうも、妹紅達の姿を確認し、減速する。
「コッチは苦労したって言うのに、呑気なもんだね」
「貴女一人なら、どうしてました?」
「妖怪諸共に、屋敷も燃やしてたね」
「私が攫われて良かったです・・・・・・本当に」
何もなくとも、屋敷そのものが思い出の品なのだ。
例え、そこで過ごした記憶は薄くても、懐かしさを覚えるほどには、記憶に残っている。
それだけは、これから何代後になろうとも、決して消えることは無いのだろう。
妹紅の腕の中で揺られながら、阿求は思う。
この日見た夕日は、何代後になっても、覚えているだろう、と。
・・・・・・・・・・・・
足音が遠ざかる。
肉の焦げたような異臭が漂う屋敷の中、ズルリと動く塊があった。
両の爪を畳に引っかけ、器用に進む。
向かう先は、暗く、狭い隙間。
恐るべきは、妖怪の生命力か。
それとも、妄念じみた生き汚さか。
既に事切れた眷属達を手当たり次第に口に入れ、咀嚼しながら、己が生まれ、これまで住処としてきた隙間へと向かう。
溝のような細い隙間に指が入り、肩が飲み込まれる。
炭化していた切断面は、新しい組織が炭化した部分をかさぶたを剥ぐように押し上げ、再生を始めていた。
もっと多くの力を欲しながら。
ここまで追いつめた人間への憎悪を滾らせながら、隙間に潜り込む。
だが。
抜け出たのは、見覚えのない場所。
狭く、暗く、安心して眠ることが出来る空間ではなく。
上も、下も、右も左もなく、広いのか、狭いのかすら判断できない空間だった。
不意に、誰かに見られている様な視線を感じ、上を見上げる。
其処にいたのは、人間のようで、人間ではない何か。
今までの妖怪の生の中で、最も異質で、最も怖ろしい物。
妖怪の本能が、激しく警鐘を鳴らす。
「貴方・・・・・・」
やがて、朱線を引いたような口から出たのは聞いただけで背筋が凍る様な声。
「随分と、好き勝手をしてくれたみたいねぇ?」
妖怪には、何を言っているのか判らない。
「まあ、それは良いの、それは良いのよ? 忘れかけた危機感を揺り起こす・・・・・・その事だけを見れば、貴方には、感謝してもし足りないもの」
くす、くす、くす、と嗤う存在の前に、妖怪は、動けない。
「ただ・・・・・・私の数少ない茶飲み友達にまで手を出した件については、どのような弁明をも受け付けるつもりは無いの・・・」
ビシリと、妖怪の背後の空間が割れる。
そして其処から這い出てくるのは、影絵のように薄っぺらい、異形の手。
一つではない、何本も、何十本も、何百本も。
それらは妖怪の体に巻き付き、掴み、食い込み、自身らが這い出てきた空間の亀裂に引き込んでゆく。
「私、案外身内に甘いのよ・・・・・・だから、さ よ う な ら 」
空間の亀裂に指をかけ、最後まで抵抗しようとするが、黒い手が、その指を一本一本引き剥がし、とうとう最後の一本が、亀裂に飲み込まれた。
「貴方には、畜生道がお似合いね。 最下層から生まれ変わり、喰われる物の痛みを、存分に味わいなさいな」
後に残るのは何もない。
背後で閉じる空間の亀裂にも、一瞥もくれず。
紫は、異空間の扉を閉じた。
・・・・・・・・・
事件から数日。
件の妖怪が起こした事件の爪痕も、人々の記憶の隅に追いやられ、人里もいつもの調子を取り戻していた。
慧音は、里の警護や寺子屋の授業、自身の鍛錬に、益々力を入れている。
妹紅はと言えば、相も変わらずに、毎日を過ごしている。
朝と昼は、竹林で迷う人間の案内をしたり。
竹細工を作り、人里で品物と交換したり。
ただ、最近、昔の話を聞きに、阿求が妹紅の家を訪れる回数が増えたのは、変化と言える事だろう。
霊夢も、いつも通りと言えばいつも通り。
神社の縁側でお茶を飲み、偶に訪れる人妖を、適当にもてなしたり、もてなさなかったり。
ただ、ここ最近で、里に訪れる回数が若干増えたのは、気のせいではない。
本人は、お茶の葉を買う次いでだとか、お茶菓子が切れたからと言っているようだが。
この日も霊夢は、日課である境内の掃き掃除を終わらせ、縁側に座り、湯飲みを傾けていた。
この間の件で、懐に余裕が出来た御陰で、ここ最近お茶の葉は、なかなか上等な物を使っている。
お茶請けも、それに合わせるように、一段と上等な煎餅や茶菓子を揃える事が出来た。
辛すぎず、かといって薄くもない、丁度良い塩梅の煎餅を口に含み、まろやかな渋みのあるお茶を一口。
醤油の味に慣れてくれば、当然次に欲しいのは甘味。
手のひら大の包み紙を剥がし、中から現れたのは、大福。
馴染みの店でも一番高い大福は、もっちりとした皮に包まれている、上品な甘さの漉し餡が人気の逸品だ。
一口囓り、甘味を十分味わったところで、また緑茶を一口。
ほぅ、と一息吐きながら、思い出すのは先の一件の結末。
霊夢達が着いた頃には、全て終わっていた。
妹紅も阿求も無事に帰って来た。
それでめでたし、の筈なのだ。
だが、霊夢の心中は、複雑であった。
結局、妖怪退治は、被害者が居るから成立するのだ。
人間が、食事をしなければ生きていけないのと同じく、人食いの妖怪は、人間を喰わなければいずれ衰弱する。
実際には、野生の動物でも餓えを癒せるらしいが、それでも、人間の肉は、食べたいはずである。
食事なのだ、人を襲うと言うことは。
勿論、霊夢は人間だ。
人が襲われる事に、思う所が無いわけではない。
だが、それでも。
生きようとする物を、生きている物が罰するというのは傲慢なのではないのだろうか・・・・・・・・・。
あれこれ考えて、霊夢は頭を軽く振って、考えるのを止めた。
そして、肺に溜まった重たげな空気を吐き出す。
「やっぱり、何事も無いのが一番よね。 ・・・・・・それはそれで商売あがったりだけど」
「本当に、何事も起きないのが一番ねぇ」
「・・・いきなり後ろに現れないでよ。 寿命が縮むわ」
「気付いていたのに、寿命が縮むのかしら?」
「私じゃなくて、アンタの寿命が、よ」
「あら、怖い、怖い」
そんな紫に目もくれず、空を見上げる。
霊夢は、湯飲みを傾けながら、思い出したかのようにポツリと。
「で?」
「ん?」
「あの妖怪の上半分、アンタがどうにかしたんでしょう?」
「さて・・・・・・どうだったかしら?」
「妹紅も、案外詰めが甘いのね」
「ふぅん? ・・・・・・もしかして、悔しいの?」
「そりゃあ、私が請けた仕事なのに、良いところ全部持って行かれたし・・・」
「未熟者ねぇ」
「うぐ」
「未熟者」
「うぎぎ・・・」
「でもまあ、貴女なりに良くやったわ。 ええ、良く出来ました」
「・・・・・・柄にもない事、言わなくて良いわよ」
「百点あげちゃう。 あ、百円の方が良い?」
「お賽銭箱は、あっちよ」
そう言って霊夢は湯飲みを置き、立ち上がる。
手を頭上に組み、伸びをする。
紫は、その後ろ姿をじぃっと見つめる。
「紫」
「なぁに?」
「アレって、何だったの?」
「そうねぇ・・・・・・人々への教訓が、形になった存在、と言った所かしら」
「教訓?」
「暗い場所や、子供にとって危険な場所、そう言う場所へ行かせないための教訓として形作られた妖怪の内の一匹。 人を襲う為に存在するのに、結果的に人の役に立っている妖怪よ。 まあ、本来は形のない幽霊みたいなモノよ、語られる地域によってその姿を変える、ね? 今回は伝承のな中でも、とびきり凶暴な形に成ったようだけれど」
「あれで大人しいって言ったら、驚くわよ」
「ふふふ・・・かくも怖ろしいのは、人間の想像力、と言った所ね・・・・・・・・・さて、それじゃあ私は帰るから。 あ、見送りは結構よ?」
「しないわよ」
「クス、クス、クス・・・・・・それでは、ごきげんよう。 お煎餅と大福、とても美味しかったわ」
「は!? ちょっ・・・と・・・」
だが、振り返った先には、紫は居なかった。
そこにあったのは、西日に照らされた縁側と、空になった湯飲み。
そして、お茶請けの煎餅が乗っていたはずのお盆だけ。
その光景に、霊夢は溜息一つ。
「・・・・・・全く、勝手なんだから」
でも、まあ、と霊夢は誰に聞かせる訳でもなく、一人呟く。
「いつも通りが、一番平和なのよね」
辺りは、既に薄暗くなっていた。
日は山の向こうへと沈みかけている。
月はない、今日は新月の夜。
今日も、いつもと同じ、変わらない夜が始まる。
妖怪達が跋扈する、いつも通りの夜が。
~Fin~
見せ場で妹紅の決め台詞は欲しかったかな。
途中でギャグパートが入るのは、らしいといえばそうなのでしょうが、雰囲気ちょっと壊れてたかも。
作品読むのは初めてかも(マテ
や、作品自体は、オーソドックスな妖怪退治物で楽しめました、はい。
主観的な感想というか一個人の要望ですので、話半分に読んでくださると助かります。
まず、ところどころにコメディっぽい描写があったせいか、あまり恐怖は感じられませんでした。
ブギーマンはゆかりんの言うように、実体のない方が不気味だったと思います。
無貌であることを除くと獣っぽい外見や、不可解な能力と
それなりの知恵があるとはいえ本能に従った動物的な思考。
さらに冷静に対処している霊夢やもこたんのせいもあって
現実に近い、害獣とそれを駆除する猟師のように見えてしまい
前述したコメディシーンも相まってあまりオカルト的な恐れや緊張は感じられませんでした。
実体があるならあるで、人間を牛や豚のように丁重に捌いて調理する様や
目に執着していたようなので、彼の妄想だけで終わらせず
実際に、防腐処理した目玉を後生大事にアクセサリのようにして付けているといった
人間を獲物として見ている妖怪ゆえの異常性を描写した方が良かったのではないでしょうか。
里の守護を無視する妖怪が現れたとなれば里中大騒ぎになるでしょうし
荒れているけーねや地の文だけでなく、人間友好度の高い妖怪でも疑ったり追い払おうとするといった
疑心暗鬼に陥っている里の人々などが出ていたら、平和な日常が崩れかけているという実感が湧いて
霊夢たちの使命の重さや、危機感や不安感を覚えられたかもしれません。
今作のテーマが後日談における霊夢の思索のように、獣に近い妖怪と人間の
価値観の相違をメインにしている場合は上記の批判は全て的外れになりますが
それならそれでブギーマン側にも同情できるような要素があった方が良かったと思います。
例えば『里の外では他の妖怪に人間を取られてしまう。
さりとて妖怪を警戒しているような野生動物を狩る狡猾さもない。
その為、危険を承知で危機管理意識の薄い里の人間を狙った』
といった哀れな事情があったのなら、最後の霊夢にもより共感できたと思います。
>例え百回死んでも、百一回目で屠ればいいのだ。
永夜抄EXの会話を見るにもこたんは苦痛に弱く、再生を繰り返しても長時間戦うと
体力が尽きて動けなくなり次の日にはしっかり筋肉痛になってしまいます。
その上、生き肝さえ食らえば誰でも不老不死になれるようなので、この思想は却って危険かと。
ここら辺は独自設定とは関係なさそうなので、無粋ではありますが突っ込ませて頂きました。
色々と厳しいことを書いてしまいましたが、霊夢たちの描写や
会話自体は単体なら好みの雰囲気だったのでこの点数とさせて頂きました。
批評を求められていたようなので長々と書き連ねてしまったのですが
決して上から目線で言っているわけではありませんので、どうかご容赦ください。
勝手ながら、次回作にも期待させて頂きます。
暖かいけれど所々殺伐としてるのが幻想郷というのを思い出した
やはり人と妖怪は基本は敵なんだよね
自分は好きな感じの物語でした。