七月のある晴れた日――
年柄年中季節を問わず五月病の門番に制裁を与え、物干し竿代わりにとありとあらゆる洗濯物を中国雑技団顔負けの秘技により全て干してから館に戻ると――
「咲夜~」
我が愛しのお嬢様が「ウ~★」とこちらに向かい走って来た。一般的に吸血鬼と言うと速いイメージがある。が、お嬢様も飛べば速いのだが走るとそうでもない。擬音で言うなら『トテトテ』が似合うという癒しのカリスマ吸血鬼である。
「はいお嬢様、どうなさいましたか?」
「ちょっと聞いてよ、パチェがおかしな事言ってくるのよ」
そう言い白い柔肌をぷっくら膨らませ、擬音に直せば『プンプン』と付くであろう愛らしいお顔をするお嬢様……私、もう今日死んでもいいです――
「まだ来てんじゃないよ、ほら帰んな」
――巨乳の死神に追い返されました、持ってる鎌で打ち返されましたわ。
「ちょっと咲夜、聞いてるの?」
「あ、はい聞いておりますわ。パチュリー様もあの死神並の隠れ巨ny――」
「何の話よ!?」
お嬢様の得意技、羽根ビンタが私の両頬に炸裂、ビンタと言っても擬音は『ぺチぺチ』といった感じで大変心地よいものでありまして、私は幸せです。
「いいかしら咲夜、目は覚めたのかしら?」
「はい、バッチリですわ」
しこたまぺチぺチされる事小一時間、真っ赤に腫れた頬を擦りながらお嬢様のお話を聞きます。
「さっき図書館に行ってみたらパチェが本を読んでたのよ」
「まぁいつもの事ですわね」
「いいから話は最後まで聞きなさい。で、読んでた本なんだけど確か『グ○グル昆虫記』――」
「それは流石に違うと思いますわ」
「まぁ何だっていいのよ。とりあえず虫の本よ、虫の」
「虫……ですか?」
確かに紅魔館の地下、そこにある大図書館は古今東西のありとあらゆる本が所狭しと並んでいる。が、その殆どが魔導書や悪魔、封印、妖怪等の本が大半でそんな普通の事典を読むことは少ないパチュリー様だけに確かにおかしいと言えばおかしいのかもしれない。
「それで何度呼んでも返事が無いから本でドミノしたり、ジェンガしてみたり、私の像を建立してみたり……」
「何をなさってるのですか……」
その後、本の片づけをする小悪魔の心労を思うと秘かに涙する私でありました。
「そんなことをしてたら、やっとパチェが話し掛けてきたのよ」
「『本を粗末にしないで』……とかでしょうか?」
「いいえ違うわ、パチェったら私に『レミィってテントウムシよね』なんて言ってきたのよ」
「テントウムシですか?」
私の頭の中であの紅くて丸い虫がヨチヨチと歩いて行く姿が浮かびました。
「あによぉ、私とあんな虫のどこが似てんのよ失礼しちゃうわ。咲夜はどう思う?」
「はぁ、何がでしょう?」
「いや私とテントウムシ、どこが似てるのかって話よ」
「そうですね……肉食系女子という事ではないでしょうか?」
「それだったら別に螳螂でもいいでしょうに」
「あ、紅いとかじゃあないでしょうか」
「何よそれ、そんな理由!?」
お嬢様がその場でヤダヤダと地団太を踏む中、思考を巡らしてみると確かに、あのパチュリー様がそんな単純な事でお嬢様を「テントウムシよね」なんて仰るはずもない。私であれば「あの愛らしさが似てらっしゃいます」で言ってしまうだろうけれど。
「パチュリー様は何故そうお思いになられたのかは仰らなかったのですか?」
「いや、『何でテントウムシなのよ?』って聞いてみたけれど、パチェったらまた本に集中しちゃって……『パチェは本の虫ね』って嫌味も無視されちゃったわよ。小悪魔にも聞いてみたけれど『わかりかねます』だってさ」
「そうですか」
「むぅ、パチェとの付き合い長いけれどまだよく分からない時があるわ」
「ある種天然でらっしゃいますから、パチュリー様は」
「よねぇ」
何せ以前、コーヒーですと醤油やら墨汁を出しても「変わった味のコーヒーね」なんて飲み干してましたし。
「う~ん……まぁもういいわ、フランのとこ行ってくる」
「え、よろしいのですか?」
「考えても仕方ないでしょう、この館で一番の天才に言われてこの私には理解が出来ず、魔女の司書も首を捻りてその次に頭が回りそうな瀟洒で秀才な従者も分からず仕舞い。残るは可愛い妹とあそこで干されてる門番と来たらお手上げよ」
「……そうでございますね」
「それに、この前フランとお揃いで買ったネグリジェが今日出来あがるのよ」
そう言いながらクルクルと踊るお嬢様。そういえばこの前、お嬢様とフラン様、そして美鈴の三人で人里にお買い物に行かれた際、お嬢様があるお店で凄く気に入られたネグリジェを仕立てて貰っていると、大荷物に埋もれて帰ってきた美鈴が寝言で言っていたのを思い出しました。
「だから咲夜お願い、そのネグリジェを里まで取りに言って来て貰えないかしら?」
「あ、はい、かしこまりましたわ」
「お願いねー、まったくパチェに自慢しにいったらあんなこと言うもんだから忘れるところだったわ」
それだけ言うとお嬢様はウインク一つして、地下にあるフラン様のお部屋へと向かわれて行きました。もう私死んでも――「だから来んなっての」
……またも死神に、今度は胸に弾かれ戻って参りました。そしてすぐに、洗濯物を干されながらも寝ていた美鈴を叩き起こし、里のどのお店にネグリジェを発注したのかを聞き、里に向かいましたわ。
里に着くと、すぐに目に入ってきたのが見覚えのある二人――
「おや、紅魔の」
「何だ、咲夜じゃないの」
「こんにちわですわ霊夢、それに藍さん」
御存じ博麗の巫女と、スキマの大賢者の式、九尾の狐の二人と出会いましたわ。
「どったのよ、何か買い物?」
「ちょっとお嬢様からのお願いでね、お二人は?」
「私は買い出しだ、いまマヨヒガに八坂神奈子様と星熊勇儀様が御越しになられてて紫様と『山』の事で会談なされてるのさ。だからそのツマミをね」
「それでは会談にならないのでは?」
「要は会談と呈した宴会なんでしょ、最近特に問題も無いし」
苦笑する藍さんにジト目で応じる霊夢、二人とも何かと苦労症である為、特に藍さんとは自由奔放な主に仕える身同士、なかなか親近感が湧く面子ですわ。
「霊夢はどうしてここに?」
「うん?お呼ばれしようと思って、その会談に」
「何でお前が来るんだ?」
「いやだって『山』の事の会談なら幻想郷に関わる事でしょ、そこに幻想郷の調停者たる博麗の巫女がいてしかるべきでしょ?」
「さっき『宴会でしょ』って自分で言ってたじゃありませんこと」
「それはそれ、これはこれよ」
「現金な巫女だな、とても神に仕える者とは思えないな」
「妖怪が跋扈する神社だもの、神様も諦めてるわよ」
「駄目なプラス思考ですわね」
「まったくだ」
霊夢がジョッキ片手に酒を飲み干す仕草をするのを横目に、ヤレヤレと呆れる私と藍さん。やはりそこは苦労症な者同士、気が合いますわ。
「そういや咲夜、最初に言ってたレミリアの頼まれ事って何よ?」
「え?あぁそうでしたわ、お嬢様とフラン様の特注のネグリジェを受け取りに行くところでしたわ」
「ネグリジェねぇ、人が晒しとドロワで暑い夜を過ごしてるってのに豪勢なことね」
「湖の氷精に特注で氷を発注してますので、その氷を使って全館快適に過ごせますわ」
「門にもかい?」
「門は別ですわ、それにあの門番は気温が40℃を越えようとも氷点下を下回ろうとも眠れますから」
「門番駄目なとこで凄いわね……ところで藍、アンタのとこは?」
「私の処か?マヨヒガなら紫様がスキマで南極に繋いでおられるのでね、逆に寒い位さ」
「南極ってアレよね?北極の反対側の」
「あら霊夢、御存じなのかしら?」
「いや勘、知らないわよ南極とか北極なんて」
「変な所で凄いな、お前も……南極って言うのはな、外の世界にある一面氷に閉ざされた大陸さ」
「つまりさ⑨やの世界ってこと?」
「ちょっと霊夢、喧嘩売ってます?」
「冗談よ」
ナイフを取り出して、霊夢の頭の上にいつの間にか置かれた林檎を狙う私でしたが、カラカラと笑いながらその林檎を食べる霊夢を見て興が削がれました。
「まぁ年中氷が張っている世界なのでね、気温はかなり低いからな、私の調整で快適な気温で過ごせるのさ」
「何よそれ、この楽園の素敵な巫女が暑さに抗ってこの夏を過ごしてるってのにアンタ達は何勝手に快適に過ごしてんのよ」
「いえ、貴女の許可が必要な訳ではありませんし」
「博麗の巫女は人の私生活に口出しまで出来るほど、清く正しく生きていたのか?」
「う……うぐぅ、おのれどこぞのブン屋の口上句を言いやがって……いいわよもう、こうなったら白玉楼に行ってやるわっ!!」
「何故白玉楼に?」
「いや涼しそうじゃない、冥界って」
「それなら三途の川でもいいんじゃないか?」
「閻魔が煩い、それに……」
「それに何かしら?」
「幽々子ってひんやりしてそうじゃない?だから抱き枕になってもらおうと」
「あぁ~……それなら霊夢、残念だがやめた方がいい」
「何でよ藍、私の納涼を阻む気?」
「いやそうじゃない、幽々子様は確かにひんやりされてはいる、だが……」
「だが何なのよ?」
「ただいま幽々子様は絶賛『ドキッ!たった一人だけの真夏の鍋大会!もつ煮もあるよ、モルツもあるよ』を堪能中だからだ」
「何なんでしょうか、それは?」
「いや私も暑中見舞いの葉書に妖夢が遺書の様に書いてあっただけなので詳しくは分からんが、あの方の事だ、古今東西の鍋を食べ尽くしているところだろう」
「暑苦しいわ、何よそれ?せめて冷しゃぶにしなさいよっ!?」
「まぁそういう事でな、恐らく白玉楼は修羅場と化してるだろう、主に熱気と妖夢の断末魔でな。そして更に」
「更に?まだ何かあんの?」
「幽々子様は熱い物を食べられるとお身体が熱を持って来られるのさ、だから今は湯たんぽの様な状態だろう、とても抱き枕にはならないさ」
「冬だったら良かったですわね」
「冬は冬でかき氷大会をされる方だけどな、幽々子様という方は」
「あぁんもう、空気読みなさいよあの天然亡霊めぇっ」
その場でへたれこむ霊夢をヤレヤレと肩から抱え上げる藍さん、腰に付いた砂を軽く払ってあげながらこう切り出しました。
「それに霊夢、そんな事をするとまた紫様にやきもちを焼かれてしまうぞ?」
「食べれんのなら幾らでも焼いて欲しいわね、紫には」
「またそんなことを……ただ単純に『泊めて』と言えばいいじゃないか、宴会に託けづとも、紫様ならお前の来訪をいつ何時でも嬉しく思い、それこそ喜んで泊めて下さるだろうに」
「いやだって私、博麗の巫女だし。あまり妖怪の家に寝泊まりとか……」
「ほう、誰だったかな?さっき『妖怪が跋扈する神社だもの、神様も諦めてるわよ』とか全然そんな事気にしてなさげだったのは、なぁ咲夜」
「そうですわね、確か『楽園の素敵な巫女』と自称する紅白の巫女でしたわ」
「~~~っとに、あんたら性格悪いわよね」
「とんでもない、これでも私は傾国の美女とまで謳われたしがない九尾の狐さ」
「そうですわ、私とて紅い悪魔にお仕えする唯の瀟洒なメイド長ですわ」
「言ってろ」
目を見交わしクスクスと笑い合う私と藍さんに舌打ちをしながら、霊夢は「こうなったら自棄酒よ」と意気込んでいますわ、たまにはお酒の力を借りるのもいいかもしれませんしね。
「そういや咲夜、あんたネグリジェは?」
「あっ、いけませんわ、つい長話を……まったくパチュリー様の事といい時間はあっという間に過ぎてしまうものですわね」
「あらパチュリーに何かあったの?ブラが合わなくて喘息が悪化したとか?」
「違いますわ」
「じゃあ何だってのよ?」
「そうですわね……歩きながらお話しましょうか」
「そうだな」
そうして三人でお店に向かいながら、今朝のパチュリー様がお嬢様に言った言葉を二人にお話しました。すると霊夢は「紅いからじゃないの?」と私と同じ答えを返して来ました。唯、藍さんだけが少し顔をしかめた後「あぁ」と一言、大きな胸を張られ笑顔になられました。
「何よ藍、分かったみたいじゃない?」
「あぁ分かったのさ、成程ねってな」
「じゃあ教えなさいよ、もったいぶらないでさ」
「私も是非知りたいですわ」
「そうだな……答えは言うまい、だがヒントはやろう」
「何よケチ、そんなに豊満なんだから少しぐらい分けてくれてもいいじゃない」
「何の話かしら霊夢、藍さん私も大きくしたいです」
「いやお前ら急にどうした?」
「だってそんなに堂々と張るから」
「美鈴より大きかったものでつい……」
「まぁいい続けよう、実は二人の『紅いから』というのはあながち間違いじゃない」
「えっ」
「そうなのですか?」
驚く私と霊夢を見ながら、満面の笑みで藍さんは続けます。
「それにこの問いだと霊夢は半分そうだし、咲夜の処の門番もそうだと言えるのさ」
「私が?私のどこがテントウムシだってのよ!?」
「そういえばテントウムシって飛ぶのは上手くないそうですわ」
「そうだな」
そう言い再び目配せをする私と藍さん、霊夢が「あ、何かやな予感」という表情を浮かべています。
「なっ何よ、何だってのよ?」
「いえ、魔理沙から聞いたのだけど、霊夢って昔飛べなかったそうじゃない」
「私も紫様から聞いたぞ、何か布を使っていたとか……」
「いっ一反木綿なんか乗ってへんわっ!?」
「あら、誰が一反木綿なんて言いましたか?」
「そうだな、誰も言ってないな」
「えっ、だって布って……」
「あぁ、私は羽衣を使ってと言おうとしたのだが……違ったのか?」
その瞬間、霊夢はあっという間に真っ赤に顔を染めましたわ、あら本当にテントウムシみたいですわ。
「諮ったわね藍……」
「いや何、紫様がよくからかってらっしゃるからな、私もと思っただけさ」
「中々可愛かったですわ、霊夢」
「もぅ、咲夜まで……」
「ごめんなさいね」
「ちなみに安心しろ霊夢、その事は今回の問いの答えにはならないからな」
まだ恥ずかしがっている霊夢に藍さんが漢前な笑顔でそう言ったものだから霊夢がますます赤面しましたわ。
「っとこんな時間か、そろそろ戻らねば」
「あら、もうそんな時間ですか?」
「あぁ、長々と失礼したな。ほら霊夢、行くぞ」
「分かってるわよ、じゃ咲夜また今度」
「えぇ、また」
そう言うとフッと浮き上がり、夕焼け空に向かい飛び始めた二人。その飛び始めに藍さんが急に振り向きこう言いましたわ。
「パチュリーにはこう言っておいてくれ、『中々やるな』って私が言っていたとな」――
それから閉店間際のお店に駆け込み、代金と引き換えにお嬢様とフラン様の特注のネグリジェを受け取り、紅魔館まで急いで帰りましたわ。その間も藍さんが言った言葉の意味を考えましたがやはり答えは出ませんでしたわ……。
「もう咲夜遅かったじゃない、待ちくたびれたわ!」
「すみませんお嬢様」
プンプンと怒るお嬢様に鼻から血という忠誠を零しながらも、ネグリジェを渡した途端、満面の笑みを浮かべるお嬢様に悩殺されました――
「……あん?悪いけどあたい、今日のお勤め終わってんだよねぇ。帰んだったら自分で頑張んなよ」
……もう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか、その双丘には優しさが詰まってるんじゃなかったのですか……
「何してんのよ咲夜、大丈夫なの?」
「大丈夫です……」
「まぁ……いいわ、お風呂に行って来るわね」
「あ、はいお供します」
「あぁんダメよ咲夜、ダ・メ」
「なっ何故ですかお嬢様っ!?私の何が不満なのですかっ!?胸ですか?胸なのですかっ!?」
「落ち着きなさいよ咲夜……分からないのかしら、何故ダメなのか?」
「わっ分かりかねますというか分かりたくありません!」
「それはね……咲夜には私のネグリジェを楽しみにして欲しいのよ」
「おっお嬢様……っ!」
「期待してなさいな咲夜……夜の王たるこの私の神々しいまでのネグリジェ姿を……」
何故か急にセクシーポーズを取り出すお嬢様とそれを崇める私……時間を止めてどこぞのブン屋以上のスピードで写真に収めたのは言うまでもありませんわ。
「何してるのよ咲夜?」
「見ての通り、お嬢様の神々しいお姿を永遠に残そうと写真に収めてって何故動いてらっしゃるんですかフラン様ぁっ!?」
「何故ってずっと動いてるよみんな、ねぇ美鈴?」
「咲夜さん……とっくの前に時間停止終わってますよ……」
「えっ、嘘……?」
美鈴と二人して恐る恐るお嬢様を見ると――
「さっ咲夜、もういいかしら……このカッコ辛いのよ……」
イナバウアーの状態のまま五分間程静止していたお嬢様が崩れ落ちた瞬間でありました。
「あっ咲夜さん、こんばんわ」
「えぇ小悪魔、こんばんわ……大変そうね」
あの後、ネグリジェの入った紙袋を抱き締めたお嬢様とフラン様を連れて、美鈴がお二人を大浴場へと向かいましたわ。あのお嬢様の白い柔肌に触れれるなんて羨ましくて悔しいですわ……でも今はそれ以上にお嬢様のネグリジェ姿を拝めることの方が大切なのですわ……でもその前に、藍さんのあの言葉をお伝えする為に地下の大図書館へとやって来たのです。そこにはお嬢様がドミノやジェンガ、そして御自分の像を御作りになる際使ったであろう本を整理する小悪魔の姿が。
「手伝いましょうか?」
「いえもう少しですから、それはそうと何か御用事ですか?」
「ええ、パチュリー様は?」
「一番奥にいらっしゃいますよ」
「そう、ありがとう」
小悪魔にお礼を言い、その言葉通りに奥へ進むとパチュリー様は暗がりで本を読み耽ってらっしゃいましたわ。
「失礼します、パチュリー様」
「何かしら咲夜、こんな時間に?」
本から目を離さずにお答えになるパチュリー様、大体この方はいつもそうである。
「いえ、今朝お嬢様に言われた『テントウムシ』のことですが……」
「分かったのかしら?」
「いいえ、残念ながら私には……唯その話を藍さんにしましたら彼女は分かったようですが」
「成程……流石にあの式には分かる訳ね……」
本に栞を挿み閉じ、パチュリー様はこちらを見られました、目を輝かせながら。
「で、あの式は何か言ってたのかしら?」
「はい、『中々やるな』との事です」
「フフッ」
そう笑うとパチュリー様は手を軽く振られ、それと同時に一つの本が飛んで来ました。
「漢字辞典……ですか?」
「そうよ、実は八雲の式とこの前の宴会で知識対決をしてね」
「そうだったのですか?」
「そ、で漢字対決だったのだけれど負けてしまったのよ」
ペラペラとページを捲りながら事もなげに仰るパチュリー様、でもその手は固く握りしめられていた。
「で、結構悔しかったのよ、そうしたらあの式言ったの。『言葉遊びで私を唸らせてみろ』ってね」
「では今回のは言葉遊びだったのですか?」
「そうよ、あの式こうも言ったんじゃないかしら?霊夢は半分、美鈴も当てはまるって」
「その通りですわ」
「そうよね、流石は八雲藍と言ったところかしら。ちなみに咲夜、貴女『テントウムシ』って漢字で書けるかしら?」
「『天道虫』ですよね確か」
「そうね、でも今回の場合は違うわ」
そう言うパチュリー様の手があるページで止まりした、そのページには『紅』で始まる漢字が綴られていました。
「確かに『テントウムシ』の漢字の由来は太陽に向かって飛んで行くことから、太陽神の天道からとられたものなのよ。でも別表記の漢字があるのよ、ほらここに……」
そう言うと一つの漢字を指差すパチュリー様、それを覗きこむと全てが納得いきましたわ――
「『テントウムシ』って、『紅娘』とも書くのよ」
楽しめました。けど、ちょっと物足りないかなぁ、と。天道虫の話でもう少し掘り下げてくるかと思ったのですが拍子抜けという感じでした。次回も期待してます。