Coolier - 新生・東方創想話

河童ダムの死闘

2011/12/05 23:02:39
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― 序 ―

 玩具屋の主人は顔面蒼白だった。

「うーん……」

 ひっそりとした店内で、彼はじっと立っていた。閑古鳥が鳴いているわけではない。店は里の中でも賑わっている方だ。里の子ども達から人ならざる少女達まで、その客層は広い。特に今は年の瀬。この商いをしている者にとって勝負の季節だ。
 コツコツと、二人きりの店内にブーツの音が響く。その度に彼は喉を詰まらせる。そう、今日は貸切りであった。客の事情に最大限配慮して。

「ないわねぇ……」

 もう何度も見たはずの棚の前を、少女は何度も往復する。矢庭にしゃがみ、奥を覗き、また立つを繰り返す。その度ごとに緑髪のショートボブがふわりふわりと揺れる。溜息交じりに愚痴をこぼしつつも、少女の腕にはゾウさんのぬいぐるみがしっかと抱かれていた。纏っているベストとスカートは赤を基調とした格子柄、胸の中で青のぬいぐるみが鮮やかなコントラストを見せる。
 顔にはどこで手に入れたのか大きなサングラスが一つ。ただそれだけの変装は、本人からすれば完璧な一品らしい。少女――だから敬意を持ってそう呼ぶことにしよう――は、サングラスの下にある唇を尖らせながら、店主に尋ねる。
 
「新しいのは入ってないのかしら?」
「はっはいっ! それが……最近はあまり……」
「ふぅん……」

 不満げな少女に精一杯の笑顔を返す店主。なんせ先代の先代からご贔屓にしてもらっている客、超お得意様だ。おまけに某書曰く「人間友好度:最悪」ときた。絶対に機嫌を損ねるわけにはいかない。
 店主の冷や汗を搾りつくすまで店内をうろついた後、少女はようやく玩具屋を後にした。ベルの乾いた音色を背に受けて、右手に愛用の日傘、左手に紙袋一つという出で立ちだ。彼女はそれなりに長く生きたが、しかしそれでも現役バリバリの少女である。お花屋さんで種を買い、喫茶店でハーブティーを嗜み、帰りにぬいぐるみを買ったって別段不思議でもなんでもない。
 それでも最近は根も葉もないことばかり言いふらす鴉天狗や、退屈で窒息しかけた顔見知りの妖怪連中が里を平然とうろついてたりするので、なかなかおおっぴらにショッピングし辛くなったのは事実と言える。一応彼女とて世間体というものがある。妖怪は畏れられなければならないのだ。
 ゾウさんをゲットしてホクホク顔かと思いきや、少女は浮かない表情だった。どうしても欲しいぬいぐるみが一つあったのだ。今回遠路はるばる里まで繰り出したのもそれが目的だった。ゾウさんがとってもかわいかったからまだよかったものの、なかったら無辜の妖精達が要らぬとばっちりを食っていたに違いない。

「どこかにないかなぁ……」

 傘の向こうから漏れる少女の溜息。往来の真ん中を進む彼女の足が"それ"を踏んづけたのは、吐息が人垣に溶けたちょうどその時だった。

「……あら?」

 それは紙切れだった。つま先の下から覗く部分には「文々。新聞」の文字が見える。少女の住処にも時たま配られる天狗の新聞だ。当然内容の程も知っていたから、彼女がそれを拾い上げたのは間違いなく気紛れが故だろう。それが運命の出会いをもたらすことになると、果たして誰が予想しえただろうか。
 ピクリと震える少女。足は往来の真ん中で止まり、瞳は一点を凝視したまま動かない。視線の先にあったのは1枚の写真――固く握り締められた手の内で揺れる古新聞の小見出しだった。

――見つけたわ





 ― 壱 ―

 さて、所変わってここは妖怪の山。本編初登場となる風見幽香は幾霜月ぶりかの登山に繰り出していた。目的はと彼女に訊いたところで、「特にないわ」というそっけない返事が飛んでくるだけだったろう。そこに山があるから上る、十分な理由ではないか。さっきもそう言って天狗に"挨拶"し、入山の"許可"をもらったので、彼女が妖怪の山の5合目過ぎにいても何ら問題はない。少なくとも幽香の中ではそういうことになっている。
 目的地は確かここらへんだったはずと、幽香は日傘の向こうで顔をきょろきょろさせる。話には聞いていたが来るのはもちろん初めてだ。しかし杞憂であった。かつてこの山にはなかった湖畔の薫り、そして初冬の冠雪を纏った山肌に勇壮とそびえる鳥居は、彼女に目的地をしっかりと示してくれていたのだ。
 うっすらと雪の積もった境内まで足を進めても、幽香を呼び止める声はない。境内は彼女も何度か訪れたことのある麓の神社より幾らか広く、またよく掃除が行き届いていた。とは言いつつも神社は神社、迷うことはない。一応儀礼的に拝殿を見て回ってから、幽香は社務所へ向かおうとした。

「あら、貴女はもしや……?」

 後ろからの声。妙に垢抜けた、おまけに緊迫感の欠片もない口調だった。気付かれたかと振り向いた先で、幽香は意外な顔を見つける。

「あんたは、確か悪魔のメイド?」
「そちらこそ、以前花の異変のときにお会いした、幽香さんでしたよね?」

 向けられた「危険度:極高」――あくまで某書の見解である――の形相などなんのその、十六夜咲夜はにこりと微笑み、幽香へ軽い会釈を向ける。相手に敵意がないことを気取った幽香も殺気を解く。相変わらず落ち着き払った物腰で、この大妖怪をもってしても何を考えているのかよくわからないところがある。
 しかし今回は違った。胸元で組まれた腕の間に挟まれていた物が、幽香に相手の意図を教えてくれたのだ。

「……まさか、あんたも"これ"を?」

 それだけ言うと、幽香も手にあった新聞を咲夜へかざす。相手もそれでわかったらしい。口元に涼やかな笑みを浮かべ、咲夜も手元の新聞を小さく揺らす。それは幽香の手にあったのとまったく同じ号の「文々。新聞」であった。

「ええ。私もこのぬいぐるみが欲しくて」

 それは河童ダム建造計画を特集した号だった。残念ながら恐るべき河童脳のために頓挫してしまった、あの河童ダムである。世事に疎いこの二人は、適度に情報が古い天狗の新聞によって、昨日ようやくこの騒動を知ったのである。ちなみに咲夜はキッチンの掃除に使おうと納屋から引っ張り出してきた古新聞でこのことを知った。やはりこれも運命のお導きといえるだろう。誰もまともに「文々。新聞」を読んでいないとも言えるが。
 その特集記事の下の方に小さく掲載されていたのが、河童ダムマスコットキャラクター(名称募集中)のぬいぐるみである。哀れどこぞの貧乏巫女に摘まれ、放り投げられ、火にくべられたあのぬいぐるみだ。そしてこれこそが、二人をこの守矢神社で出会わしめた縁(えにし)の糸だった。もっとも特集記事を組んだ記者の狙いとしては、ダムを観光資源化せんと画策する守矢のがめつさを糾弾するという、珍しくジャーナリズム精神溢れる筆致にあったのだが、まあ夢見る少女達にとってそんな批評はないも同然だった。……頑張れ、「文々。新聞」。

「あんたが、なんでこんなものを?」

 自分のことを棚にあげて幽香は問う。咲夜もあえてその点には目を瞑り、瀟洒に返す。或いはただ気付いてないだけかもしれない。

「もうすぐクリスマスでしょう? お嬢様へのプレゼントを探していたのです」

 曇りのない、凛とした声だった。従者としての愛に満ちた言葉。だから吸血鬼がキリストの誕生日祝うなよと突っ込むのは野暮というものだ。そんなことではこの神社の巫女に怒られてしまう。
 幽香も返すべき言葉に詰まる。二人の間に流れる微妙な空気。もしあのカッパさんぬいぐるみが一つしかないのだとすれば、今対峙する人と妖は紛れもなく敵同士である。当然幽香も、そして咲夜もそのことを理解していただろう。探るように、花の妖怪はもう一度問う。

「あんたんとこの吸血鬼が、欲しいと?」
「違いますわ」咲夜は淀みなく返す。「クリスマスプレゼントの中身を事前に知らせてしまうなんて、無粋じゃないですか。きっとお似合いになります。このぬいぐるみを抱きしめながらお休みになられるお嬢様、素敵だと思いませんこと?」

 暗に同意を求められる。こちらに譲れと迫ってくる。幽香はふっとほくそ笑む。やはり油断ならぬ相手だと。彼女ほどの妖怪ならば一度手合わせすれば判る。今このメイド長とやり合うのは得策でない。
 咲夜も同意見のようだった。それはいざとなれば時間を操作しぬいぐるみを奪い去ることが出来るという余裕のなせる業か。或いはもっと深いところから共感できる何かの為か。はたまた何にも考えてないのか。実際二人には合い通じるものがあったのかもしれない。センスとか色々。



* * *

「へぷちっ!」
「レミィ、馬鹿は風邪を引いちゃいけないのよ」
「パチェうるさい」

 突如場所は移り、ここは紅魔館の地下図書館。友人パチュリー・ノーレッジの嫌みに凄むレミリア・スカーレットだったが、ハンケチでお鼻をちーんする愛くるしい姿の前では、全てが無意味であった。

「暇だなあ」
「今お昼よ、寝ればいいじゃない?」
「なんか目が冴えちゃって。さくやーお茶」
「お待たせいたしましたお嬢様」
「うむ」

 咲夜の淹れてくれた紅茶に口をつけたレミリアはすっかりご機嫌を取り戻していた。一礼して場を下りた従者へ手を振りながら、にこにこ顔でパチュリーに話を振る。

「それよりさ、パチェ見てよこれ。河童ダムだってさ。ダム造って水の流れを止めたら、私も川渡れるようになるかな?」
「そうかもね」

 適当に誤魔化すパチュリー。下手に同意すると「ダム造れ」と言い出すに違いないと踏んでいた。二人は長い付き合いである。そんな友人の心持を知ってか知らずか、レミリアはあの「文々。新聞」を振り回しながら、くすくすと笑い出す。

「けどさー この河童ダムのマスコットとかいうの、ダサいよなぁー あの神社の連中もさ、センスってもんがもうちょっとでも無いもんかねぇ。これなら私がプロデュースしてやった方がいいんじゃないかな、ねえパチェ?」

 笑い転げる友人に、パチュリーは何も答えなかった。ここでスペルカードの話を持ち出すのはフェアでないと思っていた。彼女は基本友人思いである。生温い微笑を浮かべる魔女に、夜の王は勝ち誇った笑みを投げ返すのであった。

* * *



 紅魔館の主人が守矢のセンスを腐していた頃、その従者である咲夜は、幽香とともに神社の社務所に上がり込んでいた。当然家主の案内は受けていない。ちゃんと「お邪魔します」とは言ったので問題ないと考えていたようだ。

「どうでもいいけどさ、あんた今5秒くらい消えてたわよね?」
「何のことやらわかりかねます」

 他愛ない会話を交わしながら何食わぬ顔で居間に乗り込んだ二人であったが、ぬいぐるみの在り処を知っていたわけではない。判らぬなら家財道具全部ひっくり返して探せばいいだけ――この点でも二人は語らずして合意を得ていた。
 幸か不幸か、二人が乗り込んだ時、部屋には人も神もいなかった。幽香はタンスを、咲夜は押入れを調べる。息ぴったりであった。タンスの中身が畳の上に散乱し、押入れの中が開ける前より片付いても、目的の物は見つからない。二人は顔をつき合せる。

「ないわね」
「そのようですね……」

 腕を組んで思案を巡らせる咲夜。幽香の見立てでは、居間になければ倉庫と踏んでいた。しかしその意見に咲夜は首を縦に振らない。彼女の見立ては本殿であった。また微妙な腹の探り合いが始まる。二手に分かれるという選択肢が浮かばなかったわけではない。しかしパートナーであると同時にライバルでもある両者の立ち位置を鑑みれば、リスクを伴う手であることも確かだ。
 音もなく対峙しあう幽香と咲夜。緊迫した空気が、ふいに破られる。

「うーさむさむ……ってなんですか貴女達は!」

 それは浮ついた少女の声だった。当然の権利を行使して自宅の居間へ進入した東風谷早苗は、そこにいた侵入者に度肝を抜かれる。不届き者達は堂々としたものだった。

「あら、すっかりお邪魔してました。おかえりなさいませご主人様! でいいんだっけ?」
「へえ、巫女に色違いなんていたの。素敵なお賽銭箱ならちゃんと見てきたわよ。何も入れてないけど」

 それだけ告げた咲夜と幽香はまた自分達の世界に戻っていく。一瞬入ってくる場所を間違えたかと思った早苗だったが、よくよく見回すまでもなく自分の家である。やけにとっ散らかってはいたが。
 幻想郷の参拝客はタンスの中身をひっくり返すのがブームなのかしらんと、訝しげに二人を眺めていた早苗は、次に何と声を掛けるべきか悩んでいた。当たり前だが彼女にはこの二人を一喝してつまみ出すだけの資格を有していたはずである。それでも躊躇ったのは、あまりに平然とした居直り強盗っぷりを見せる二人の態度に気圧とされたが為だけではない。この珍客に対して早苗が抱いていたイメージの為であった。
 十六夜咲夜の方は知っている。弾幕ごっこをしたこともあったし、紅魔館のパーティーにお呼ばれされたこともある。つまり彼女が幻想郷に住む人間の中でも屈指の実力者であり、また屈指の変わり者であることもちゃんと理解していた。人の家に許可なく忍び込み、家捜しついでに押入れの整頓をしていてもなんら不思議でない、そんな人だ。森の魔法使いもそう言ってたし。
 もう一方の少女と会うのは初めてであった。しかし前に見聞のため「幻想郷縁起」なるものを読ませてもらった時、彼女についての記載があったことはしっかり記憶に留めていた。というか忘れるはずがない。風見幽香――ろくな事が書いてなかったのだから。挿絵もなんか怖かったし。

「ところであの子はどこ? 色違い」

 文脈など一切放り投げて、人の精神を逆なでするのが大好きらしい幽香が、早苗に尋ねる。

「……誰のことでしょうか?」
「あれよあれ。ほら、この神社のマスコット」

 不躾に早苗を指差しながら、幽香は苛立ちを隠さず付け足した。それぐらい察しろと言わんばかりの物言いだ。いつだか挨拶なしでずかずかと上がり込み、いの一番に茶を要求してきた麓の巫女に勝るとも劣らぬ身勝手ぶりである。
 早苗は固まってしまった。一体なにを言わんとしているのか、幽香の意に反して彼女はさっぱりわからなかった。もちろん原因は「この神社のマスコット」という一言だ。いったい何だそれは?

「マスコット?」早苗は必死に頭を捻る。「(マスコットってなんだろう? うーん……あ、もしかして諏訪子様かな。なんかそれっぽいし)さあ、どこへ行ったのやら……あの方はすぐどっか行ってしまうので」
「はあ? どっか行くって、あんた巫女でしょう。そんな管理もできないの?」

 何とかして引き出した返答に、幽香は荒っぽく文句を垂れる。もう明らかな喧嘩腰だ。まあ当然の意見ではある。自分らの作ったぬいぐるみが勝手にどこかへ行ってしまうなんて、幽香でなくとも茶化されたとしか思えないだろう。

「なんですって?」早苗の語気も荒くなる。「私だって出来ないことはあります。あの方の管理なんて無理です。そもそも貴女たち何なんですか、勝手に人の家で!」
「欲しいのよ、あのマスコットがね。譲ってくれないかしら?」

 今度は咲夜がさらりと返す。まるで宴会で隣席の人に「割り箸取って」とお願いするような口調だった。あまりに舐めきった態度に、守矢の風祝としての使命感が燃える。こうまで愚弄されて黙ってはいられない。

「冗談は不法侵入だけにして下さい! あの方は、まあ見た目はちょっとアレですが、ああ見えても立派な神徳を持った守矢の一柱です。あげるわけがないでしょう。物じゃないんですから」
「いや、物でしょ?」

 特に悪気なく幽香は切り返す。これも当然の反応だった。早苗以外にとっては。不穏な空気がたちまちにして場を支配する。
 睨み合う二人の横で、咲夜はさらに考えを巡らせていた。この風祝の言に沿うならば、あのカッパさんは知らぬうちに神格を得たということだ。ならば色々と事情も変わってこよう。そんなぬいぐるみが倉庫にあるわけがない。彼女は自分の見立てに確信を得ていた。そしてもう一つ。神格を得たぬいぐるみが二つも三つもあるはずがないのだ。

「あ、野暮用を思い出しましたわ。ではお先に失礼、お花屋さん」

 幽香が早苗に気をとられていた一瞬だった。振り返った時には、相方は音一つ残さず忽然と姿を消していた。幽香は己の不注意に歯噛みする。――手を組んだのは奴の行動を見張る意味もあったのに、なんと易々と逃げられてしまったことか、と。
 だが咲夜を追うという選択肢は取りえなかった。彼女の前には今や、小さな、しかし看過できない障害物があったのだから。

「訂正してください。あの方は物ではありません」

 現人神の眼光は、しっかりと幽香を捉え逃がそうとしない。大妖怪たる彼女からすれば、人間風情からそんな目つきを向けられるなど侮辱に等しい。今度こそたっぷりの嘲りを含ませて、幽香は口元を吊り上げる。

「なぁに、そんなに賽銭が欲しいの? じゃあ十円あげるからさっさとあの子を連れてきなさいな色違い。神なんてしょせん奴隷、信者の頼みを無碍するなんてこと出来ないわよねぇ?」
「口を慎みなさい。貴女に信仰を語る資格はない、風見幽香」
「へぇ、私の名前知っているの? ふふっ……ああ思い出したわ。確か最近こっちに越してきて、妖怪退治に精を出してる身の程知らずの巫女がいるって話。私の名前を知っててねぇ……ふぅん、そんなに早死にしたいんだ色違いさんは?」
「東風谷早苗です。"色違い"などではない。一緒にしないで下さい」

 毅然とした声で名乗る。幽香はくすくす嗤うだけ。

「人間の名前なんて興味ないわ。覚える前に死ぬ奴らの名前なんてね」
「もう一度だけ言います。あの方は貴女なぞには絶対に渡しません。大人しく立ち去りなさい。さもなくば――」
「さもなくば?」

 ゆらりと、幽香は体勢をつくり直す。"構え"というほど大仰なものではない。ただ、それであっても早苗は戦慄を覚えずにいられなかった。

「10枚です。ここまで馬鹿にされて、黙って帰すわけにはいきません」
「い・ち・ま・い」

 覚悟を持ってカードを抜いた早苗に、幽香は必要以上にもったいぶったそぶりで返す。言葉通り彼女の手にあったのはたった一枚のスペルカード。それすら出すのを渋っているようなそぶりだった。浴びせられた侮蔑に顔を歪めながら、早苗はあらん限りの威を示す。

「……外に出なさい。貴女のような妖怪はきちんと退治せねば、守矢の沽券に関わります」
「そうね。あんたみたいな馬鹿な人間はきっちり教育してあげないと、妖怪の沽券に関わるもの。ねぇ、"色違い"さん?」

 話がついた。こうなれば、幻想郷で行われることは唯一つしかないのだ。





 ― 弐 ―

 幽香が早苗をからかって遊んでいた頃、咲夜は本殿の扉に手を掛けていた。彼女としても長居は避けたかった。早く戻って愛しいお嬢様のため晩餐を作らねばならない。

「うーさむさむ……ってうわ誰よ!?」

 しかしその目論見は遮られる。開けた扉からちょうど出て来たのは八坂神奈子。神らしからぬ素っ頓狂な顔のまま、彼女は咲夜をまじまじと見つめる。

「ええと、しがない見学客、かな?」

 こちらは垢抜けた笑みで返す。どう考えても不審者でしかない人物を、しかし神奈子はこの時点では追い払おうと考えていなかった。どんな者でも参拝客は参拝客である。

「はぁ……まあいいです。私は八坂神奈子。この社の神よ。貴女は確か、紅い館の――」
「ええ、紅魔館のメイド長をしております十六夜咲夜と申します」

 怯むことなく咲夜は礼を返す。あまりに完成されたしぐさに、神奈子は今置かれた状況も忘れて普通に問うてしまった。

「あ、ああそうなのね。で、うちの神社になにか用かしら?」
「はい。実はお宅のマスコットを探していたのですが」

 固まる神奈子。咲夜は表情一つ変えない。当たり前のことを当たり前に告げただけ、そんな感じだ。だがしかしだ、一体全体「お宅のマスコット」とは何であろうか? 数千年前からこの神社の神様をやっている彼女だが、そんなものは初耳だ。

「マスコット?」だから神奈子も頭を捻る。「(うーんなんだろう? うちのマスコット……ああ諏訪子か。かわいいし)残念だけど、今ここにはいないわね。あの子に何か用?」
「是非持って帰りたいんです。宜しいでしょうか?」

 再び固まる神奈子。一方の咲夜はと言えば、にっこりと笑みさえ返してくる始末だ。誘拐とは事前の了承を得てから行うものだったろうか。やはり早苗の言っていたことは正しかったんだ、常識に囚われちゃいけないんだなあと、神奈子の頭に他人事のような思いがよぎる。

「あの……ええと、何を言ってるの貴女は?」
「お嬢様へ差し上げるクリスマスプレゼントを何にしようかと悩んでたんですが、あの愛らしさは正にぴったりかと思い立ちまして、それでこちらまで。あれくらいのサイズならお嬢様が抱いて眠るのにも丁度いいですし。ほら、小さいから棺桶に入れても邪魔にならないでしょう?」

 神奈子は完全に狼狽していた。目の前のメイドはどこか楽しげだ。どこか陶酔したような表情で、主人について得々と語る。神奈子はふと思い出す。このメイドがアレな性癖を持っているのではないかという話を、以前風の噂で――要するに天狗のゴシップ伝いで――耳にしていたことを。
 目の付け所としては悪くないなと正直感じていた。その手の人材に事欠かない幻想郷の中からあえてうちの諏訪子を選ぶあたり、なかなかわかっている。絵面としても結構さまになっているじゃないか。
 まあだからといって、大切な友人をどこぞのお嬢様の夜伽相手にさせるわけにいかない。神奈子は頭に浮かんだ幼女二人の添い寝イメージ図を振り払うと、気を取り直して諭しかける。

「いや……そりゃ確かに愛らしいかもしれないけどね。でもあれはうちで祀っている一柱なのよ? そんなふしだらなこと――」
「承知の上ですわ」

 説得が通じる気配はない。このメイドは本当に諏訪子を攫うつもりで、わざわざ私に許可を求めているのだろうか――神奈子は徐々に怒りさえ覚えていた。
 咲夜はあくまで瀟洒だった。佇まいに躊躇いはなく、口調は穏やかそのもの。むしろこちらに対する敬意さえ感じられる。それはおちょくってやろうという確信的振る舞いか、はたまたただの馬鹿なのか――

「できません」されるがままの空気を断ち切らんと、神奈子は粛然と言った。「貴女は自分の言っていることの意味がわかっているのですか? あれはあげられるものではありません。会うだけなら許可します。話があるなら私も聞きましょう」
「それでは足りません。神は無限に分けられるのでしょう?」
「"分けられる"というのはそういう意味ではありません。貴女は信仰を履き違えている」
「私が信じるのはレミリア・スカーレットただ一人。頂けないのならば、しかるべき手段でもらうのみ」

 すっと、咲夜はナイフとカードを出す。それは交渉が終わったという合図。神奈子はすっかり落ち着きを取り戻していた。いや、先ほど以上に落ち着いていた。浮かぶ冷徹な無表情は、まさしく神の無慈悲さを体現したものに他ならない。

「そうですか……この寒い中せっかくはるばるお出で下さった参拝客、礼を以って迎えようと思ったのですが残念です。どれだけ礼儀を弁えていても所詮犬は犬、ということですか」

 神奈子もカードを出す。本殿の戸口からぬうと表に出た彼女の背には、雄雄しくも神々しい注連縄と御柱がそびえていた。元より大きな身の丈が、さらに力強さを増す。

「7枚。勝ったら、あの子は私のもの。それで宜くて?」
「6枚。勝ったら、貴女の無法を世に知らしめましょう。二度とあの子に手を出そうとする愚か者が現れないように」

 と神奈子が言った頃、咲夜はもう声の先にいなかった。

「申し訳ありませんが――」

 声は真横から。すっと神奈子の肩口に影が走る。

「急がせて頂きます。お嬢様のディナーの支度がありますので」


     空虚「インフレーションスクエア」


 神奈子が、白銀の風景がナイフに埋め尽くされる。虫一匹通さぬほどの密度に、勝負は一瞬で決したかに見えた。

「残念だが――」

 しかし、それで終わるわけがないのだ。


     「マウンテン・オブ・フェイス」


 迸る6色の札。壮絶な空間制圧力。鉄壁の城は、不遜にも彼女へ切っ先を向ける不届き者どもをあっという間に叩き潰していく。それは山だった。決して崩れぬ、弾幕の要塞。

「夕餉の支度は諦めた方がよい。そなたは今ここで神に屈するのだから」

 咲夜は動揺を見せなかった。いきなりの切り札を易々と破られたにもかかわらずだ。踊るような体捌きで瞬く間に距離をとる。そして降り注ぐ札の乱舞を抜けながら、ナイフを飛ばす。しかし届かない。銀の刃は尽く途中で朽ちてしまう。

「ぬるいな。そんなものか? 悪魔の犬」


     御柱「メテオリックオンバシラ」


 札の嵐を食い破る一撃は、天から。巨大な御柱が咲夜を貫かんと迫る。帳の向こうから飛来した初弾を、咲夜はすんででかわす。量こそ多くはない。ただ一発の重さは比にならない。おまけに一帯に残ったままの札弾が、咲夜の視界と行動を塞ぐ。
 斜めに突っ込んでくる巨木の雨は大地を穿ち、辺りの風景をたちまちにして凄惨なものへと変えていく。荒れ果てた雪地は、さながら古戦場にも見えた。神奈子は迎撃の間すら与えない。純然と相手を押し潰そうとする策――神と人の差を見せ付けるように。


     銀符「パーフェクトメイド」


 だが咲夜も既に手は打っていた。流れを変えるための一手を。捉えたはずの御柱は、いつまで経っても咲夜を射抜かない。神奈子も徐々に違和感に気付く。まるで弾が迫る度、彼女だけが瞬間移動しているような、そんな感覚。
 神奈子の見立ては当たっていた。そして、気付いた時にはもう遅かった。
 真っ赤な瞳をしたメイドが、もう眼前に迫っていたのだから。


     傷魂「ソウルスカルプチュア」


 両手に握られたナイフが、敵を仕留めんと群れを成し襲い掛かる。神奈子は身を反らす。背に携えた御柱から針弾を吐く。尽くナイフの餌食となるそれは、しかし神奈子に反撃の猶予をもたらした。


     神祭「エクスパンデッド・オンバシラ」


 再び飛来する御柱は、しかし今度は咲夜を狙いはしない。むしろ標的はその周囲。朱に濡れた10本の柱が咲夜を取り囲み、地にしっかと根を生やす。「ソウルスカルプチュア」の残撃は、霊験あらたかな堅牢に瑕をつけることすら叶わない。咲夜は上を向く。本能的に最後の脱出口、唯一の光源へと。だが差し込むはずの光は、もう見えなかった。

「逃げ場はないぞ、悪魔の犬!」

 そこにいたのは神奈子。真上から、咲夜めがけ急降下する。御柱、注連縄、そして猛る神――逃げ場はなかった。

「逃げ場がないのは、お互い様でなくて?」


     速符「ルミネスリコシェ」


 咲夜はナイフを投げる。上ではなく、横へ。御柱に弾かれたそれは、しかし減速することなく跳ね返る。狭い空間の中、反射を続けながら駆け上る。軌道の予測なぞ出来るはずもない。

「くっ――!」

 神奈子は進撃を止める。頓挫せざるをえない。斜め下から迫り来るナイフ、一度かわしてもすぐ反射し神奈子を付けねらう。回避に全神経を注がねば捌けるはずもない。その間隙を縫って、咲夜は柱の牢獄から華麗に脱出を果たしたのであった。
 腕を組んだまま、御柱から飛び降りるメイド長。遅れて柱の檻から姿を見せた神奈子の頬には、赤い筋があった。しかし被弾まではいかない。彼女の手には銀の得物がしっかりと握られていた。
 指で挟んだナイフを打ち棄て、神奈子はにぃ、と口角を吊り上げる。

「この私に金属で傷を付けるとは。ふふっ、あの諏訪大戦以来でしょうか。なるほど、よく躾けられている。犬とは言え」
「お褒め頂き光栄ですわ」咲夜はすっと会釈する。「私もナイフを素手で止められたのはお嬢様以来やもしれません」

 一切の感情を面に出さぬ咲夜、それは神奈子にとっておぞましくも魅力的な佇まいだった。神を畏れぬ佇まい――それは神奈子が外で見てきた人の姿そのものだ。しかしこのメイド長とあの連中とでは、一つだけ決定的に異なることがある。それが彼女をまたたまらなく昂揚させるのだ。

「本当にもったいないことです」少しだけ声色が柔らかくなる。「貴女が見せる悪魔への忠誠心、かくも篤い信心が正しき方を向いていれば、神も貴女に微笑みで以って応えたでしょうに。今からでも遅くはない。仕える主を替えなさい。悪魔の忠犬として終わるには、貴女はあまりに惜しい」

 そう、咲夜が主人を語る口ぶりは、神奈子さえも魅了した。そこにはあったのだ。彼女が見たいと願いながら久しく見ることの能わなかった、理想の信者の姿が。

「先ほども言った通り。私が仕えるのはレミリア・スカーレットただ一人です。永遠に紅い幼き月、他はありません」
「だが全ては朽ちる。金属も、人も、そして悪魔も」
「それは神とて同じこと。違いまして?」

 咲夜は引かない。神と相対し、問答を繰り返す。かくも真剣に人と対峙するのは、一体いつ以来だろうか。神奈子は表情を緩める。

「十六夜咲夜。貴女はなぜあの吸血鬼の下で生きる?」
「名を、場所を、意味を頂きました。そして何より私が楽しいと思えるから、ですね」

 神奈子はもったいないと思っていた。もしこの人間ともっと全うな出会いを果たしていたなら、きっと素晴らしい"神遊び"ができただろう。諏訪子もさぞ喜んだであろう。あの子が誰よりも"祭り"を好むことを、神奈子はよく知っていたから。

「それが、いずれ神に滅ぼされる定めしか持たぬ悪魔からの贈り物であっても?」
「運命はお嬢様の手の内に。それに――」

 咲夜は跳ぶ。美しいと、神奈子は思った。もう少し見たいとさえも。

「ここは滅びた者達の楽園、貴女もそうでしょう?」

 銀色のナイフ。光を浴びてきらきらと輝く。神奈子は笑った――ああ、やはりここは愉しい!


     蛇符「グラウンドサーペント」


 這い寄る金色の蛇、うねるレーザーは咲夜を追い立て離さない。後退を余儀なくされる彼女へ、神奈子は猛った。

「さあ休憩は終わりだ悪魔の犬。神の進撃を前に、惨めな敗走を続けてみせよ!」





 ― 参 ―

 主のクリスマスプレゼントを手に入れる為、或いは友人の貞操を守る為、咲夜と神奈子が弾幕ごっこに戯れていたさなか、東風谷早苗も奮闘していた。

「はぁっ!!」


     祈願「商売繁盛守り」


 真っ直ぐ打ち放たれる札弾。それは的確に標的へと着弾し、轟音と雪塊を噴き上げる。それでも早苗は手を休めない。針弾、米弾、レーザーに小玉弾――風祝の文言に倣った整然たる弾幕が、次々と敵めがけ押し寄せる。
 ようやく猛攻が一旦落ち着いた。耳をつんざくほどの爆音が溶け、粉塵が晴れる。はらはらと舞い散る雪華の向こうには、幻想郷で唯一枯れることのない花が燦然と咲き誇っていた。

「くそ……」

 爆心地の只中で、しかし風見幽香はどこか退屈げに見えた。怒濤の攻撃を完封した日傘を軽く持ち上げ、顔を覗かせる。そして小さく笑うのだ。それは忌々しげに一言吐き棄てた早苗を嘲弄する為だったのか、はたまた余裕を振舞うことで格の違いを見せ付けたかったのか、とにかく日傘の影からくすりと。

「終わり?」
「黙れっ!」

 咆哮とともに第二波の火蓋が切られる。弾幕は同じ。しかし今度は同時に風を吹かせる。加速度を増した弾幕は、いっそうの鋭利さで以って幽香を刈り落としにかかる。畳み掛けるようにスペルを被せた。


     奇跡「ミラクルフルーツ」


 早苗が放った赤の弾が、少し進んだところで炸裂する。花火のように広がる弾塊、あっという間に周囲は朱に染め抜かれたように見えた。

「――もう飽きたわ」

 赤弾が飲み込まれる。文言が、波形が粉砕される。幽香が繰り出したのは回転しながら弾幕を切り刻む巨大な妖華――「幻想春花」と、近づくもの全てを薙ぎ払う暴力的な5列の花吹雪――「フラワーシューティング」だった。残酷なまでに美しい花弁たちは、中心に立つ幽香を飾り立てるように舞い上がる。それ以外の無粋で、不要なものを駆逐しながら。早苗の全てはゴミのようにあしらわれる。そして次の標的は、早苗自身。

「邪魔」

 潜る。回る。相殺し、進み、また退く。迫る花嵐を、早苗は必死でかいくぐる。だいぶ慣れていたはずの回避行動も、風を使った旋回運動も、通じているのかどうかさえ判らない。全力を振り絞り、なお早苗は凌ぐのに精一杯だった。
 弾幕ごっこが始まってから、幽香は一歩たりとて動いていない。ただ居間で相対した時の嘲笑をずっと浮かべたまま、日傘の影でそっと佇むだけ。それは策だったのかもしれない。早苗を怒らせ、動揺させることでペースを握ろうという。無論意図的でなく、歴戦を潜り抜けてきた大妖怪の本能が選ばせる手なのだろうが。
 そう、正にその通り。スペルカードバトルは冷静さを失った方が負けるのだ。


     準備「サモンタケミナカタ」


 押し込まれた早苗はカードを切る。彼女を取り囲む五芒星が爆ぜ、また夥しい量の弾幕が二人の周囲を塞ぐ。
 幽香は眉一つ動かさない。ただ花弁を撒き散らすだけ。いや、その瞬間彼女は舌打ちを漏らしていた――さっきから同じような弾幕ばかり。物量で押し潰せるとでも考えているのか。身の程知らずもいいところだ。この風見幽香を、力でねじ伏せようとでも?
 だが、そんな苛立ちに駆られていた幽香こそが、実は誰よりも冷静さを失っていたのかもしれない。

「はあぁっ!!」


     大奇跡「八坂の神風」


 準備を終え放った渾身の風、早苗はそれを地面に叩きつけ上昇気流を作る。下から上へ。それは幽香の頭に一切なかった動きだった。
 場にひしめいていた弾幕がたちまちにして吹き上げられる。雪も、幽香の花も、早苗の星さえも。それでいいのだ。風に煽られた日傘の中へと潜る隙さえ作れれば、早苗の狙いは達成されるのだから。

「――っ!?」
「もらった!」


     開海「モーゼの奇跡」


 幽香の足元へ素早く踏み込んだ早苗、地に叩き付けた御幣から閃光が伸び上がる。日傘の下から襲い掛かる波濤――避け切れないと早苗は思った。その見立ては正しかった。彼女が知らなかったのは、風見幽香という妖怪の本質だけ。
 そう、相手は逃げなかったのだ。避けようもしなかった。ただ前進し、迫り来る大波めがけゼロ距離で弾を叩き込んだ。

「きゃっ!」

 ありえない行動に、早苗は思わずすっとんきょうな声を上げてしまう。光が一気に溶けた。視線の先にいた幽香は、片の手にひしゃげた傘を持ち、そしてもう片方の手を前に突き出しながら、早苗に視線を投げる。壮絶な笑顔を湛えながら。

「当たって、ないの……?」

 漏れ出た声はなぜか震えを纏う。向けられた笑みに嘲りはなかった。だからこその悪寒。

「――傘が、壊れてしまったわ」

 場違いな台詞だった。およそここで呟く言葉に思えない。でも早苗は確信する。最初の位置からほんの一歩動かされた幽香は、不気味なくらい静か。ならば後は噴出するのみ。

「吹雪の時にそんなの差してるから悪いんですよ」だから早苗は挑発する。己を鼓舞するために。「弾幕は防げても雨風を防げないんじゃ、たいしたことないですねその傘も。なんですか、もしかして傘壊されて戦意喪失ですか?」

 幽香は答えない。柔らかなアーチを描く唇と、ぬらりと据わった眼。空いた手にはカードがあった。

「――ねえ、なんでだと思う?」愉悦すら感じる響きだった。「さっき貴女怒ってたわよねぇ? 私が一枚しかカードを出さなかったから、舐めやがってって。違うわ。ねえなんでだと思う、一枚しか出さない理由」
「さあ? ネタがないんじゃないですか。貴女にはスペルカードで表現するような中身がね」
「残念。逆よ」

 幽香はカードをかざす。瞳孔がぐっと開いた。

「必要がないの。この美を、生きる者全てを偏りなく包む自然をあえて弾幕で"見立てる"なんて、傲慢だわ。そんなもので自然の美しさは表現できない。いついかなる時も我々の目の前にある、あり続ける美を今さら何かに譬える必要なんてない。
 だからね、私は唯一つのことだけを示せばいいの。自然こそ万物の支配者であることを、愚劣な人工美なぞ及びもしない超越的存在であることを。そして、身の程知らずな連中の曇った眼をこじ開けてやりさえすれば、摂理を解さぬ馬鹿共に忘れられぬほどの恐怖を刻み込んでやりさえすれば、それで十分」


     幻想「花鳥風月、嘯風弄月」

     秘法「九字刺し」


 早苗も当然幽香がカードを切ってくることは読んでいた。カウンターは完璧なタイミングといってよかったろう。開花より一歩速く、レーザーの網目が幽香を捕えんと伸び上がる。
 だが網は網でしかない。大自然の前では、ただ食い破られる他ない脆弱な存在でしか。

「――なっ!?」

 渦を巻くワインダー、止め処なく広がる弾幕――それは見ようによっては花に見立てたと解釈し得たかもしれない。確かに一種趣はあった。だが、向けられた威力を目の前にして、果たしてどれほどの人が同じことを言えただろうか? 風見幽香の言葉に誇張はない。それは誅伐なのだ。邪魔するもの全てを蹂躙し浄化する。

「さあ震えよ人間。そして己の無力さにただ立ち竦みなさい」

 「九字刺し」が残してくれたほんのわずかな時間を使って、早苗は張れるだけの結界を張る。ありったけの弾幕をつぎ込み、自然の猛威に立ち向う。実際よく堪えていたのかもしれない。幽香は一歩一歩、歩を進める。時間を掛けて、骨の髄まで理解させるため。
 早苗の陣が裂ける。その度に被せ直す。巨大な妖華を飛んでかわし、迫る弾塊を割り、僅かな隙を見つけ潜り抜けようとも、暴風雨が止むことはないだ。

「貴女も曲りなりに巫女ならわかるでしょう? 色違い」幽香はあでやかにさえずる。「必要なのは力、反抗の意志もろとも屈服させるだけの強さがあれば、他は何も要らない。神とて同じでしょう? 力と畏怖で以って信仰を収奪する、それこそが神の本質。だから、力のない神などただ強者の意に従うだけの哀れな存在。望むものを差し出すだけの物に過ぎないのよ。だから、さっさとあの子を――」
「違うっ!」

 絶叫が高説を断ち切った。弾幕に根こそぎ吹き飛ばされそうになりながら、なお早苗の眼は死んでいない。幽香は見立てを誤ったかもしれないと反省した。思ったより遊び甲斐のある人間だった。これほど耐えるとは、正直感心さえしたのだ。

「神は機械なんかじゃない。信仰を掻き集めるマシンでも、信者に望みをばら撒く装置でもない。人と共に生き、同じように泣き笑い、迷い苦しむ存在なんです。人と寄り添い、信仰を授かり、精一杯の神徳で応える、そう在りたいとただ願っていただけなんです。それを人々は勘違いした。貴女もそうだ。神を都合のよい道具として使いたいだけ。そんなの間違ってる。貴女が判らない筈はない。花だって、土や水がなければ咲きはしないでしょうが!」

 幽香の口元には変わらず笑みが浮かんだまま。しかしその笑みは先ほどまでと少し違ったふうに見えた。ほんの一瞬その顔が引き攣った気がしたのは、そのせいか。

「まったく口だけはよく動くわね。でもそんなものじゃダメ。私を納得させたいのなら勝ってみせることね、山の巫女!」





 ― 肆 ―

 幽香がぬいぐるみの為、早苗が神の為弾幕ごっこをしていた頃、咲夜は食らいつく蛇共を振り切らんと境内を飛び回っていた。滑らかに地を滑るさまは、あたかも祭りの舞のよう。神奈子は逃げる咲夜をゆっくりと追いつめていく。懐旧の情をいっぱいに味わいながら。
 気付けば二人はもう一つの震源地にまで辿りついていた。境内裏の倉庫、攻め続ける幽香と食い下がる早苗の下にまでだ。

「あら、鬼ごっこしてたの?」
「ええ、ご無沙汰しておりました」

 幾重ものとんぼ返りの後、幽香の背に咲夜はぴたりと背を重ねる。会話はそれだけ、二人はまた各々の戦いに意識を戻す。

「逃げ場は尽きましたよ悪魔の犬。そろそろ終わりとしましょう」
「奇遇ですね。私もそう思っていたところです」

「さあ、大人しくあの子を渡しなさい!」
「あの方は、絶対に渡さない!!」


     贄符「御射山御狩神事」


 最初は神奈子。拡散する白弾、その向こうにはナイフ弾が光る。獲物の位置を狡猾にサーチし、大挙して包囲しようと舌なめずりをしながら。
 早苗も同時にカードを切った。


     蛇符「神代大蛇」


 飛び出したのは境内全てを覆うほどの大蛇。幽香の波状攻撃を見境なく喰らい、弾幕の壁に突進する。それは神奈子の力。
 その神奈子はと言えば、ナイフの一群に飲み込まれていく咲夜を悠然と眺めていたところだった。蛇レーザーに注意を殺がれていた咲夜にナイフ弾と白弾を誘導する余裕はない。白弾の第一波を抜けただけでも十分賞賛に値しよう――そう名残惜しそうに。
 だが、十六夜咲夜はメイドであると同時にマジシャン、完璧な従者であると同時に至高のエンターティナーだった。終わったと誰もが思う瞬間、それは彼女にとって最高の見せ場に他ならない。


     奇術「幻惑ミスディレクション」


 弾幕の収束点に咲夜はいない。神奈子がそれに気付いたのはナイフ弾がむなしく空を切った後だった。甘い美酒を吐き捨て、消えたメイド長を探す。それはまばたき二つほどの消失だったかもしれない。しかし神奈子がようやく視界の端に標的を捉えた時、咲夜は十分に間を詰めていた。沈まぬ要塞の城壁を突破するかのように。
 神奈子が思わず一歩下がった刹那、早苗が次の一枚を切った。

「はあぁぁっ!!」


     妖怪退治「妖力スポイラー」


 気ままに奔出していた幽香の妖気が、一転して早苗の下へ吸い寄せられる。それはこの大妖怪にしてもまったく予想の埒外にあった攻め手。力が吸われる――弾幕の精度が緩む。

「何よこれ!」
「まだ吸います!!」

 無尽蔵の妖力を貪欲に取り込みながら、早苗は緩んだ間隙を突き一気に間合いを詰める。そして再び辿りつくのだ。幽香の懐にまで。
 神奈子も切り返す。同じように中に入られるのは彼女も避けねばならない。


     神秘「ヤマトトーラス」


 夥しい数のナイフが左右から咲夜を挟み込む。それに対して相手の投じたナイフはたかだか4,5本。神奈子はその真意を見誤った。彼女は結局軽んじていたのかもしれない。いらぬ感慨に耽りながら勝てるほど、このメイド長は甘くはない。


     「デフレーションワールド」


「――!?」

 一瞬ナイフが止まる。そして次の瞬間、爆発的に増えた。過去のナイフ、未来のナイフ――時空を越え全てのナイフがこの時間へ集結する。咲夜のナイフだけではない。神奈子のナイフも区別なくだ。
 あっという間にナイフだけになった視界で、またも神奈子は相手の姿を見失う。なにせ視界を奪っているのは自身が投じたナイフ、合間から列成し飛んでくる咲夜のナイフをいなすのでさえやっと。
 そして、その隙を縫って咲夜も同じく城門を突破する。ナイフの森から、音一つ立てずに。

「させるかっ!!」

 そう叫んだのは神奈子か、幽香か、両方か。懐への侵入を許した二人が咄嗟に取った手は図らずも同じもの――近寄ってきた敵に渾身の一撃を放ち、返り討ちにする、それだけ。だが相対する二人の人間が取った手は対極的だった。
 咲夜は休まず躍りかかる。紅い瞳と、ナイフ片手に。神奈子は構え、その突撃を真正面から受け止めようとする。狙い通りだった。
 相手の注意を全て自身へと傾けさせること、それこそがトリックの種なのだから。


     光速「C.リコシェ」


 神奈子が見ることができたのは、或いは光だけだったのか。光速の一撃が囮である咲夜の背中を越え伸びる。神奈子の額へと、真っ直ぐ標準を合わせながら。
 一方の早苗は足を止める。幽香が手を変えようはずがない。正面から力で跳ね返しに来る――それでいいのだ。


     蛙符「手管の蝦蟇」


「さっきから言おうか迷ってたんですけどね――」

 だから蝦蟇爆弾を無造作に足元へ投げ落とす。逃げぬのなら望むところ。諏訪子の力、そして何より今吸った幽香自身の力を残らず詰め込んだ一発に、耐えられるものなら耐えてみよ!――そう眼で訴えかけながら。

「幽香さん、動くの遅すぎです」

 ゆっくりと、軋みながら爆光が膨らんでいく。その輝きの中へと、4つの影は消えていった。





 ― 伍 ―

 そんな感じで4人が暢気に遊びほうけていた頃、ここ守矢神社の一柱洩矢諏訪子は、倉庫で片付けに励んでいた。片付けていたのは例の河童ダム関係の品々、神奈子が主導し彼女が早苗と一緒に作ったお土産の試作品である。ペナント、提灯、ストラップに地酒、そして夜なべして諏訪子が縫ったぬいぐるみ――まあよく作ったものだ。
 諏訪子としてはそんなにせっつかなくてもいいじゃんと思っていたのだが、神奈子が楽しそうなので放っておいた。ああいう神奈子を見ているのは嫌いではない。いつも尻拭いをするのは彼女なわけだが。
 もう日の目を見ることもないであろうその品々を、諏訪子は一つ一つ段ボール箱へと詰め込んでいく。倉庫にはその手の品々――信仰獲得の為ひねり出したアイデア商品の墓標――が山のようにあった。なぜか諏訪子はそれを捨てられずにいたのだ。彼女にとってそれはある意味思い出の品なのかもしれない。
 これもその一つになるのかと感慨に耽りつつ、段ボールにしまおうとぬいぐるみを手に取った丁度その瞬間だった。蝦蟇爆弾が炸裂したのは。倉庫もろとも揺るがす轟音に、何があったかと諏訪子はそのまま外へと飛び出す。

「何、どうしたの!?」

 倉庫の外にあった光景は正に異様だった。神奈子は光速のナイフを避けるため、空中で海老反りしながら、きりもみ回転していた。そのすぐ隣には、咲夜が止めを刺さんとナイフを構え、紅に染まった瞳を爛々と輝かせている。
 すぐ側には早苗がいた。今しがたの爆発を引き起こした張本人であるこの風祝は、正対する幽香に驚愕の視線を投げていた。そう、四季のフラワーマスターは耐え切ったのだ。ゼロ距離での「手管の蝦蟇」を。同じ緑の髪を揺らしながら、全身ズタボロの格好で不敵に笑いあう二人は、傍から見れば弁護のしようもなく奇っ怪に映ったろう。
 いったい何してんだこいつらとあっけに取られていた諏訪子は、思わず「あう?」と間の抜けた声を漏らしてしまった。弾幕ごっこの会場にふさわしくないその愛らしい音色に、土壇場にあった4人の形相が一斉に諏訪子へと向く。とても怖い。

「諏訪子逃げろっ!」
「諏訪子様来ちゃダメっ!!」

 咄嗟にそう叫んだのは神奈子と早苗だった。当然だ。この二人は諏訪子を守る為戦っていたのだから。だが、幽香と咲夜は見逃さなかった。視線の先にいた諏訪子、その手にあったのはあのぬいぐるみ。

「いた!」
「見つけたわ!」

 幽香と咲夜も同時に叫んだ。カッパさんぬいぐるみを抱くいたいけな土着神に向かって。諏訪子はたじろぐ――え、いや、何この状況?
 幽香は、咲夜は飛びかかろうと身を翻す。すかさず早苗と神奈子が立ち塞がった。

「行かせない!!」
「この変態共がぁっ!!」

 だが二人も負けはしない。幽香も咲夜も焦っていた。今や二人は同じぬいぐるみを奪い合うライバルなのだ。

「どけっ! あれは私んだっ!」
「いいえ、"黒部天竜"は私のものです!」

 5人全員を固めたのは、咲夜の絶叫だった。守矢の三柱はおろか、幽香も固まった。諏訪子たちが凍ったのは当然だったろう。その厳つい名前の野郎はいったい何処のどいつだ――そう思ったのである。しかしそれは幽香も同様だった。

「「「――へ?」」」
「――ちょっと待ちなさいよ」

 三柱同時に上がった声を幽香が遮る。明らかに不機嫌そうな口ぶりで。

「何なのよ、その変な名前」
「あらやだ、あのカッパさんの名前ですわ。"名称募集中"とありましたので私が考えました。何か問題でも?」
「いやいや、あの子がそんなダッサい名前のわけないでしょう。つうか何よそれ。どこをどう間違えるとそんなむさ苦しい名前が出てくるのよ?」
「だって、あの子はダムのマスコットなんですよ。当然でしょ? というか他にどんな名前があると?」

 咲夜は苛立たしげに問う。幽香は胸を張って答えた。

「そんなのキュウちゃんに決まってるじゃない」

 咲夜は失笑した。それこそ思いっきり露骨に。幽香の低い沸点が振り切れる。

「何笑ってんのよあんた! 知らないの? 『かっぱっぱー、かっぱっぱー、きゅうりのキュウちゃん丸かじりー』ってね、昔の妖怪はみんなこの歌聞いて育ったの! それ以来うちのカッパぬいぐるみはこの由緒正しい名前を代々継承してるんだから。ったくホントもうこれだから若い連中は……」
「そんな歌知りません。うちはお嬢様の情操教育のため、品格のある歌しか流さないようにしてますので」
「黙らっしゃい人間風情が! 第一ね、黒部だっけ? それじゃオッサンみたいじゃない。どっからどう見てもあの子はちっちゃな男の子でしょ。あの口元、ちっちゃなおへそ、二頭身……どういう目してんのよこのタコ!」
「あのたくましい頬のエラ。深みのある細目。紛れもなく幾度も死線を潜り抜けてきた豪傑の顔ですわ黒部天竜は。貴女こそ長く生き過ぎて美的感覚が狂ってるのでなくて? 大妖怪さん」
「スペルカードに変な名前付ける赤い家の一味に言われとうないわボケ!」
「まあ、お嬢様の悪口は許しません!!」



 * * *

「へぷちっ!」
「レミィ、馬鹿は風邪を引いてはいけないのですよ」
「ロケット作ってた時の丁寧口調でもダメなものはダメ」

 咲夜が主人への誹謗中傷に声を荒げていたその時、当のレミリア・スカーレットは本日二度目のお鼻ちーんをしていた。横で腰掛けるパチュリー・ノーレッジは少しだけ本から顔を上げたものの、すぐ活字の世界に戻っていった。二人だけの図書館を静寂が包む。

「暇だなあ」
「というかもうじき日が暮れるわよ。少しくらい寝ておいた方がいいんじゃないの?」
「いやぁなんか寝付けなくてさ。おーいさくやーお茶」
「ただいまお持ちしました」
「うむご苦労」

 咲夜の淹れた紅茶を啜りながら、レミリアは一つ大欠伸をかく。いい加減読書の邪魔だったので、パチュリーは渋々声を掛けた。

「じゃあ子守唄でも歌ってあげましょうか? レミィの好きなやつ。『かっぱっぱー、かっぱっぱー、きゅうりのキュウちゃん丸かじりー』だっけ?」
「子ども扱いすんな。それよりさ、久々に弾幕ごっこやろうよパチェ。こないだね、新しい技考えたんだ。最初に痛い目に合わせてあげる!」

 瞳を爛々と光らせて顔を寄せるレミリア。パチュリーはやはり生温い笑みだけを返す。きっとまたしょうもない名前のスペルなんだろうなと思いながら。

「ふふん、今度のスペルはすっごく自信あるんだ。聞いて驚け、その名も――」

* * *



 場所は戻って守矢神社。二人の少女は自身の二次設定を賭けて睨みあっていた。めったに感情を面に出さないあの咲夜と幽香がである――ぬいぐるみはかくも少女を狂わせるのか。

「つうかあんたまた5秒くらいどっか行ってたでしょ!?」
「だってお嬢様が呼んでたんですもん!」
「ちったあ真面目にやれやボケ!」

 早苗も神奈子も、掛けるべき言葉が見つからない。先ほどまで死力を尽くして戦っていた連中は、今やどこか遠い世界へ行ってしまったかのよう。二人は気が抜けたような顔をしてぼんやりと関係ないことに思いを巡らせる――ショタとダンディーなオジサマの河童コンビ……これって売り出しゃ結構イケんじゃね? と。
 唸り声をあげるメイドと花の妖怪は、噛み付かんばかりに顔をつき合わせる。凄惨な決闘場になろうとしていた守矢神社を救うため、おずおずと口を開いたのは諏訪子だった。

「あ、あの……」
「「何?」」

互いへ向け合っていた顔つきそのまま、諏訪子へと振り返る二人。しかし彼女も百戦錬磨の土着神である。どうにかこうにか笑みを造ると、こう続けた。

「このぬいぐるみなら、まだたくさんあるんだけど……」





 ― 結 ―

 ここは逢魔が時の守矢神社。白銀の境内はすっかり朱に染め抜かれていた。鳥居の下で並ぶように立っていた咲夜と幽香は、改めて神奈子と早苗の方へ正対する。

「今日は、色々とご迷惑をおかけしました」
「本当にごめんなさい。なんか勘違いさせちゃったみたいで」

 深々と頭を下げた咲夜の手には二つのぬいぐるみが、小さく頭を下げた幽香の胸にも同じぬいぐるみが抱かれていた。黒部天竜とその弟黒部高瀬はレミリアと妹フランドールの分、キュウちゃんを抱く幽香の顔もどこか晴れ晴れとしている。
 咲夜の足元には段ボール箱もあった。ペナントはパチュリーと小悪魔へのクリスマスプレゼント、提灯は美鈴、ストラップは妖精メイドたちへの分だ。聖夜当日、紅魔館の門はぼんやりと紅く光るカッパ提灯に彩られ、図書館には一面カッパペナントが貼られ、そのデコレーションを見ながら咲夜は満足げにカッパ印の地酒を傾けたという。主人とその友人は一晩中頭を抱えていたらしいが。
 夕日を背に浴びて、幽香と咲夜はちらと目配せする。そしてどこか気恥ずかしげに微笑みあう。意見を違えたこともあったが、結局求めたところは同じ仲。その笑みは同胞を讃え合うものに他ならなかった。
 茜に輝く二人に、神奈子と早苗も笑みを送る。拳を交えたからこそ理解できるものが、彼女達にもまたあったのだ。

「またいつでも来なさい」神奈子は懇ろに語りかける「今度は食事でも振舞いましょう」
「まあうれしいです」咲夜は恭しく返す。「山の食材、とても興味があったものでして」
「ええ、いつでもいらして下さいね」早苗も朗らかだった。「次はもっとちゃんとお話したいです」
「ま、私も暇だったら来てあげるわよ」

 そして幽香もちょっとだけ気恥ずかしそうに返す。彼女の側からしても伝わるものはあったのだろう。もう一度しっかりと握手をして、彼女達は境内を飛び立っていった。

「いい人たちでしたね、神奈子様」
「そうだね。誤解もあったけど、きっと仲良くなれる。ここはそういう所なんだね」

 早苗と神奈子も向き合って笑う。後ろで見ていた諏訪子からは、金色に包まれた4人はとても美しく見えた。

「キュウちゃんと黒部天竜のシリーズ、どんどん展開していきましょう。さあ早速取り掛かるわよ早苗」
「もちろんです神奈子様。やっぱり最初は恋のライバルでしょうかね。クールなインテリメガネ君がいいと思います」
「クールな知的キャラはいいが、メガネは要らないんじゃないかな?」

 楽しそうに今後の戦略を練る二人を見上げながら、ああまたしょうもないこと始めて散財するんだろうなあと溜息を吐く諏訪子であった。



 
キャラソートにツチノコが入っててあのマスコットが入ってないのはおかしいと思いましたが、よく考えたらほとんどネタにされてなかったので自分で書きました。

12/18 コメントありがとうございました

>3さん
ありがとうございます。天然咲夜さんを書きたいと思いました

>8さん
幽香は少女っぽい少女だといいなあ

>11さん
口調とネーミングネタでなんか書ければと思いました

>18さん
エクスパンデッド対ルミネスリコシェと、幽香のスペルが少ない理由を思いついたのが切欠でした。東方は弾幕ごっこさえ表現できればいいやというのが感覚としてあるので

>19さん
ギャグは自信ないのでそういっていただけるとうれしいです

>24さん
「パーフェクトメイド」と「全世界ナイトメア」が同じレベルで来た時の衝撃が忘れられません。
みく
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コメント



0.1320簡易評価
3.90奇声を発する程度の能力削除
咲夜さんのネーミングセンスw
とても面白かったです
8.80名前が無い程度の能力削除
幽香かわいい
11.100名前が正体不明である程度の能力削除
ネーミングww
18.100名前が無い程度の能力削除
ストーリーはほっこりする
そして弾幕ごっこの解釈に違和感がない
良作
19.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さんの超人ぶりがパねぇww
弾幕の盛り上げ方がカッコイイし、笑いの質も好みです。
24.100名前が無い程度の能力削除
犬は飼い主に似る…