幻想郷を飛び立った宇宙船『イーストオブエデン号』は予定通り、八雲紫の本拠地であると思われる偽の月を目指し、ひたすら漆黒の空を飛ぶ。
機内では、パチュリーが鼻歌を歌いながら、ひたすらリトルにいろいろな服を着せておめかしをさせていた。
無重力なので、結構着せるのに苦労する。
「ぼんぼんべぼんぼん、てってってっ、てってって~♪」
「なんなんですかその歌は?」
「ガレージの曲よ、ここでいろいろなアセンブルをするの」
かなり胸を強調したメイドの服を無理やり着せられ、抗議するが、パチュリーは気にせず、あまつさえ意味の分からない話する。
「なぜあなたに公式設定がないか分かる? これは『こぁ構想』と言って、設定を細かく決めないことで、さまざまな二次創作に応じてフレキシブルに属性を変えることができるのよ、さあ、ここに袖を通しなさい」
「ちょっと、これ、実際のメイドはこんなに……」
「似合うじゃない、鏡を見て」
鏡には、恥ずかしがるリトルの姿と、魔法によって表示された『胸部露出過多』の明朝体の文字がでかでかと映された。
「あら、これじゃあ戦えないわ、じゃあこっち」
こんどはリトルにモンペをはかせて、再び鏡に映した。
『萌度不足』
「あら、これもいけない」
「パチュリーどの、済まないが、今はそんな事をしている時間ではないのでは?」
藍が苦言を呈する、しかしパチュリーは少しも悪びれない。
「この子は、全然おしゃれをする余裕がなかったの、いつも同じデザインの服しか着てこなかったからこれぐらいいいじゃない、まだ偽の月まで時間があるわ」
「ううむ、しかしだな」
「あなたも黒猫さんにおしゃれさせてあげたら」
「帰ったら考えてみるわ」
地上からの通信が入った。同時にモニターにも人の顔が映る。
「こちら人里、イーストオブエデン、応答してください」 ジンさんの声だ。
「はいはい、こちらイーストオブエデン、感度良好」 パチュリーがマイクを取った。
「依頼内容を確認します、今回、結社を裏から操り、さらにフライトナーズを組織し、蜂起させたレオス=ユカリンこと八雲紫の退治。これでよろしいですね」
「ええ、そういう依頼だったわね」
「これは、旧結社からの伝言ですが、この件に決着がついたら、妖怪に自由を与え、人間を襲わない限り、自由に生きていくことができることを約束するとの事です、人外であるあなた達にとって、これほどの報酬はないでしょう、帰還を待っています。とも言っていました……」
「あきれた、まるで自分たちが妖怪の生殺与奪を握っているとでも言うような言い方だな」
藍が怒った。リトルがそれにこう答えた。
「でもまあ、かつての結社強硬派をなだめるために、そうした言い方にならざるを得なかったのかも」
「君はお人よしだな」
「人間は、私たちみたいに頑丈じゃないですから、多くの人との調整なしには生きていけないんですよ。それに、私はイレギュラーですから」舌を出して笑う。
「みなさん聞こえますか、ブンヴンズネストの文です」 快活な天狗の声が響いた。
「あ、文さんもいたんですか」
「リトルさん、やけに地味な服ですねぇ。それはそうとして、八雲紫の事を私なりに調べてみたんですが、すでに書物や、私の新聞のバックナンバーにある以上の事はわかりませんでした。ただ、彼女が現在の幻想郷のあり方に疑問を感じている事は事実でしょう」
「幻想郷を、人間と妖怪が喰ったり食われたりしていたころに戻すつもりと?」
「ここには人間の方も大勢いますから、滅多な事は言えませんが、彼女がそれを目指していたのだとして、本当にそれが間違っていると断言できるでしょうか?」
文の声のトーンが急に低くなった。
無線機の向こうにいる人々が息を飲むのがはっきりと分かった。
「正直、私の計算能力を持ってしても断言できないな」 藍の声。
「でも、私は今の幻想郷が好き、また里のみんなと遊びたいな」 橙が言う。
「まあ、そういう事だ、私たちは私たちの信念を貫くまで」
「そうですよ、紫さんはやり過ぎだと思います」
リトルは元の服に着替えながら思う。
この異変で、どれほど多くの人と妖怪が悩み、傷つき、死んでいったか。
この苦しみが本来の幻想郷を取り戻すために必要だと言うのなら、
そんな幻想郷はいらないと。
「……いずれにしろ、これはあなた方が選択することです、私はみんなの生還をお祈りするのみです。それに、ふふっ、特ダネは私が独占しますよ」
航行は何事もなく続いた。慧音の頼みでパチュリーや藍が講師を務め、リトルと橙が助手になっての宇宙寺小屋なんてものも開いてみた。
いままでの重苦しい気分が少し癒されるようだった。
偽の月の周回軌道に入り、着陸船を切り離す段階になる。操作は無機の式神が行う事になっており、月への着陸は滞りなく済む。
着陸船の窓からは、荒涼とした灰色の台地と、真っ暗な空しか見えなかった。空気を結界で封じる準備をし、4人タラップを降りて月面に一歩を踏み出す。
「これが偽の月、思っていたより荒地ばっかりですね」 リトルがつぶやく。
「幻想の月なんだから、緑の楽園であってもいいと思うんだけど」パチュリーは外界で認識されている月が不毛の荒野であることを知っているらしい。
しばらく歩くと、地面に円形の巨大な隔壁があった。それはまるで自分達を呼んでいるかのように静かに開く。真っ暗な縦穴がひたすらに広がっていた。
「パチュリー様……」
「みんな、心の準備はいい? きっと生きて戻りましょう」
一同がうなずき、リトルを先頭にゆっくりと浮揚して竪穴に入っていく。
リトルの胸ポケットの無線機から、射命丸文の声がとぎれとぎれに響いた。
「……さん、リトルさん、聞こえますか?」
「ええ、感度悪いけど聞こえます、いま月面の竪穴に侵入しました」
「あの、パチュリーさんと二人だけですか?」
「え? 藍さんと橙さんも一緒です……あれ?」
まだ底の見えない縦穴を見渡すが、二人の式神の姿がない。
「あの、言いにくい事ですが、こちらでモニタしていたお二人の反応が……消えました」
「なんですって?」
「もしかしたら、紫さんの能力で、別の次元に飛ばされたのかもしれません」
「パチュリー様、どうしよう」
「たぶん生きているわ、あの二人には違う用事があるのかも、先を急ぎましょう」
パチュリーは不安がるリトルの手をひっぱって下へと飛んでいく。降りはじめてから5分ほどで底に着地し、そこにあった扉が開くと、今度は幅20メートル、高さ30メートルほどの廊下が伸びていた。
「あれ、横から柱がせり出してきましたよ、これは?」
壁からにょきりと生えてきた何本の柱からビームが打ち出される。
二人はそれを会話しながら回避した。
「この程度で足止めできると思って」
「楽勝ですね」
「でも、八雲紫は手ごわいわよ」
「二人ならきっと、大丈夫ですよ」
最奥部の扉をあけると、また縦穴が広がっていた。今度は登りだ。一辺5メートルほどの立方体があるものは上下、あるものは左右に動き、足場を形成している。
二人はため息をつきながら、キューブにぶつからないように上を目指す。
「ここは、どこだ?」
「藍さま、パチュリーさんとリトルさんがいません」
気がつくと、藍と橙は自分たちが隔離された空間にいることに気づいた。
寒々とした広大な空間に少年と少女の声が響き渡る。
「君たちは何故現れる、何故ぼくらの邪魔をする」
「人外は人間を襲い、人間は人外を退治する」
「それが僕たちの(私たちの)定め」
隠し式神である双子の小悪魔、ぼいるとれみるが、お互い手をつないで立っていた。
「やあこんにちは、紫様のもと式神」
「お初、お目にかかります」
「お前らは……」
二人とも、赤と黒を基調とした服を着ており、左肩の数字の9をあしらった刺繍が印象を深めていた。
「今も式神だ! とうとう会えたな、紫様をたぶらかしたお前たちに」
藍が殺気を含んだ声色で二人に問いかける。
「ええと、あなた達第何ドール?」 橙がマイペースで聞いた。
「ドールじゃねえ!」 双子の小悪魔が声を揃えて叫ぶ。
「某薔薇乙女のドールをパクッたような風貌のくせに」
「連載再開良かったね、って話をそらすな。
紫様のもとから離れて行ったのは君たちの方だ。紫様は嘆いていた」
藍はそんな紫の心情をうすうす感づいていたが、改めて指摘された事に戸惑いを感じた。
「嘆いていた……だと? でたらめをいうな蒼○石」
「蒼○石じゃねえって言ってるだろ、その話題から離れろ。人は道具を発明し、疫病や肉食獣の恐怖から逃れ、自らが最も神に愛された生物であるかのようにふるまっている。増長した彼らはやがてこの地球を滅ぼすだろう。だから僕たち人外が彼らを戒めなければならない。なのにその人外たちでさえ、人間となれ合い、だらだらと滅びへの道を歩んでいる」
「な、馴れ合いではない、私たちは、きちんと人間と妖怪の領分を守っている」
「では問おう、最後に人間を殺したのはいつだ?」
「なにも人間を殺すことだけが『戒め』ではないはずだ」
「そうよ、あなた達の価値観だって、一つの意見に過ぎないじゃない? 人間も妖怪も、争うばかりの次元から逃れようといろいろ試行錯誤してきたの、時計の針を戻すのは止めなさい」
いままで藍の背中に隠れていた橙もむきになって反論する。
「どうやら、君らにもお仕置きが必要なようだね」
ぼいるとれみるは魔力を体にみなぎらせ、弾幕生成の態勢をとる。
藍と橙も臨戦態勢をとる。
「紫様のそばには君たちはふさわしくない、紫様の方程式を受容した僕たちがいるべきなのだ」
「私は(紫様と橙の世話以外の)面倒は嫌いなんだ、決着をつけさせてもらう」
「んと……、あなた達のくだらない計画なんて絶対に実現させないんだから」
「……理解できないと見える、ならばその証を見せてやる、決定的な違いをね」
弾幕が交錯する。口火を切ったのはぼいるだった。広範囲に拡散する弾幕をばらまき、れみるが回避に専念する藍と橙めがけて高密度のレーザーを放つ。
「藍様、これぐらいなら大丈夫だよ」
藍も橙も弾幕を軽く避ける。レーザーが時折身をかすめるが、被弾には至らない。
「お返しだ、式神『十二神将の宴』」
「仙符『鳳凰卵』」
「れみる、距離を離せ」
二人の小悪魔はオーバードぱたぱたを使い、藍と橙から距離を離し、種類の異なるマジックミサイルを撃った。
ぼいるが水平に打ち出した魔力の塊が分裂し、誘導弾となって二人に襲いかかる。
れみるの光弾が二人の頭上で炸裂する。
「橙、距離を取らせちゃだめだ」
「藍さま、翠○石の方は私に任せて」
藍と橙は囮の式神を放出し、ぼいるとれみるに接近を試みる。
「式輝『四面楚歌チャーミング』」
「『オービット使い魔』」
ぼいるの使い魔が藍のいた空間を焼く、しかし藍は体を回転させながら飛翔し、ぼいるの背後へ回り込んだ。
「小細工が!」
肩のターンブースターで強引に方向をかえ、弾幕を張ろうとしたが、上下逆さまになった藍が九つの尻尾ではじき返す。
「悪いな、式輝『プリンセス天狐~illusion~』」
「まだまだ、君主『福音と奇跡』」
ぼいるは再び距離をとり、人間離れした反射神経で弾幕をかわしつづける。
「悪魔も聖書を引用するってか?」
「あなたには関係ない」
さらに無数の使い魔を召喚し、反撃を試みるぼいる。
視界の端に、妹のれみるの姿が映った。
「鬼符『青鬼赤鬼』」
「神馬『バリオス・クサントス』」
れみるのスペルカード攻撃を橙が横移動で右方向にさけた。
だが、れみるはそれを予測し、魔道具の筒先を橙の跳ねた方向へ向けていた。
「猫さん、ごめんなさい『四重奏砲(カルテットキャノン)』」
四条の高密度レーザーがほとばしる。
これで終わった、とれみるが思った瞬間、左に気配。
橙が猫パンチの態勢で迫っていた。
右に移動し、高速で逆方向に移動したため、れみるの目には瞬間移動に見えたのだ。
「なぜ……」
「えへへ、紫さまはこんな事教えてくれなかったでしょ。」
スペルカードが光り輝く。
「ア○スゲームに!」
防御策を講じたが、一瞬遅れで間に合わないのが分かった。
「他人を巻き込むんじゃあ!」
れみるは反応が遅れ、両手で顔をかばうしかできない。
「ねえええええええええ!」
「れみる!」
れみるが衝撃を覚悟した瞬間、ぼいるが目の前に飛び出していた。
「お兄様!?」
藍の弾幕を避けることも忘れて、ただひたすら妹をかばおうとした。
藍の弾幕を喰らいながら、れみるを突き飛ばす。
次の瞬間、橙の猫パンチでれみるとは直角の方向へ弾き飛ばされた。
「ああ、そんな、なんてこと!」
れみるが駆け寄って、ぼいるの上半身を抱き起こす。
服が破れ、全身の擦り傷や打撲の跡が痛々しい。
「れみる、良かった……」
力なく笑い、藍の方に首を向けた。
「真の悪魔を目指そうとした。優しさや思いやりなどは捨てたつもりだった。
でも最後の最後でその人間じみた感情が抑えきれなかった、それが僕の敗因だ」
「そんあ情のかけらもない世界など御免こうむるよ」
「その人間じみた感情が、私たちをここまで運んでくれたの」
藍と橙が自信たっぷりに言った。
「とどめを刺したければ刺せ、でもれみるだけは……」
「殺しはしない、もう二度と我々にちょっかいを出さなければそれで良い。
一応後輩だしな」
「私は面倒が嫌いなんでな」
橙が腕を組んで、藍の口真似で言う。
「存外……甘いのですね」 れみるがつぶやく。
「二人とも心しておけ、そういう惰弱な発想が、人間も人外も堕落させるんだ」
「そんなかぎかっこ付きの『人間』も『人外』も、何処にもいないさ」
「強いな、負けたのだからもう文句は言わないよ。君らならもう一人の紫様を止めることもできるだろう」
「もう一人の?」
「あの人の中には、僕の思想に近い紫様と、本当はそれをやめたがっている紫様がいる。僕としては前者を応援するけど、後者の紫様の方が君たちは好きなんだろう、はやく行ってあげなよ」
「わかった、じゃあな」
「じゃあね、鞄でおやすみ」
二人は会話を切り上げ、先を目指す。
「それからもうひとつ」 れみるが呼び止める。
「何だ?」 藍が振り向く。
「どんなことがあっても、紫様を否定しないで下さい」
「もちろんだ」
「強い、私は紫様の式どおりに動いたと言うのに、やはり、経験の差なのですね」
「紫様の方程式に加え、実戦で独自の改良を加えたんだろう。笑わせるよ、偽物は僕らの方だったか」
れみるはぼいるの頭を胸に抱き、ただ佇んでいた。
魔女と小悪魔は縦穴の頂上にようやくたどり着き、一番奥の扉を開けた。
円形の100メートルはあろうかという部屋が広がっていた。
その中央に、緑色に光る透明な丸い床が存在する。
おそるおそるその上に立ち、円盤の上にあったコンソールのようなものに触れると、二人を乗せて静かに下降してゆく。さすがにだるくなってきた。
……待っていました……
八雲紫の声が頭に響いたような気がした。
「パチュリー様、きっと、もうすぐですね」
「さあ、へたすりゃ一年以上かかった異変、さっさと終わらせるわよ」
降りた先に最後の扉があった、二人が進むと勝手に扉が開き、そこに……。
「あれ?」
また扉があった。
「また!?」
それが開いても、あるのはやはり扉だった。
「なんなのよ」
開けても開けても扉しかない。
いい加減うんざりした時、ようやく扉の向こうの部屋が見えた。
「なんだったんだろ」 扉を振り返りながらぽりぽりと頭を掻く。
「リトル、あれを見なさい」 パチュリーが奥を指差す。
八雲紫が、扇子を口に当て、物憂げな瞳で宙に浮かんでいた。
「遅かったじゃない」
魔道書が警告を発する。
―敵ランカー弾幕熟女を確認しました、八雲紫です―
「少女よ!」
紫の目が鋭くなる。
―ランカー弾幕少女、八雲紫を確認しました。敵は加齢臭と年齢コンプレックスを装備、至近距離でのおばさん呼ばわりは危険です、中距離からのおべんちゃら攻撃が有効でしょう―
「ずいぶん反骨精神に満ちた魔道書じゃないの、ええ?」
「あなたがこのくだらない異変をやめれば黙るわよ」
「ちょっと、パチュリー様、喧嘩腰にならないで下さいよ」
「ケンカ売りにきたのよ、私たちは」
「あらあら、だいぶ公式設定から外れた魔女になったわね、もっと消極的な性格だと思ったのに。定期的に修正してあげないと、なんだって脱線しちゃうのよ」
「あなたは、今の幻想郷が脱線していると?」 リトルが問う。
「違って? あなた達人外は人間を襲うのが定めなのに、この体たらくは何? あなたもあなたの主人の魔女も人間となれあって、人間も人外と仲良くするのが正道と信じるようになって、誰が人間の暴走を戒め、誰が人外を退治するのか。みんな過ちを犯してる、そうは思わないかしら」
「でも、あなたに管理されなくとも、私たちはバランスを取っていける」
パチュリーが言い返す。
「我々には管理する何かが必要よ、我々は我々だけで生きるべきではないの。私のばらまいた檄文に妖怪たちの楽園を作ると書いたけれど、私はそんなにおバカではないわ」
紫は無機の式神(藍や橙、ぼいるやれみると違って意識を持たない)を大量に召喚し、無数の弾幕を生成する。
「すべては、復活のため、再生のため……」
魔女は魔道書を、小悪魔はムーンライトソードを構える。
「リトル、これが最後の仕事よ」
「はい、必ず地球へ帰りましょう」
「イレギュラーは消えなさい、天使気取りの小悪魔よ」
「箱庭遊びはもうさせない、狂った管理者よ」
パチュリーの魔法、リトルのブレード光波、紫の通常弾幕が空間を満たす。
「紫奥儀『百年計画(センチニアルプラン)』」
紫のスペルカードに圧倒されそうになるが。回避テクニックと防御結界で耐え続ける。
「パチュリー様、まだ行けますか」
「テンション上がってるから大丈夫よ」
「ずいぶんと調子良さそうねぇ、じゃあ大破壊『ジャスティス照射』」
マスタースパーク級のビームが二人を襲う。
「リトル、私の後ろに。小島『プライマルアーマー』」
ビームを防御に特化したスペルカードが遮った。
「やるわね、大破壊『フォボス衝突』」
巨大な弾幕の塊が防壁を押し破る。魔力を放出し続けるパチュリーが咳込んだ。
「パチュリー様、私がおとりになります」
防御結界から飛び出し、オーバードぱたぱたをオン、紫を追い越し、片足を軸にして180°向きを変える。ムーンライトソードに魔力を込める。
「甘い、紫奥儀『沈黙の一線』」
天井から撃たれる青白いレーザーがリトルを焼いた。
「リトル!!」
「貴女、今まで生き残ってきたのは運だったとでも言うの?」
一人倒した、そう思い油断した紫にブレード光波が直撃。
「なんと!!」
「チルノさん、助かりました」
煙を出すリトルの頭に、チルノからもらった青いリボンが結わえられていた。
これで周囲を緊急冷却し、レーザー着弾による熱暴走を防いだのだ。
「行くわよ、小島『アサルトアーマー』」
パチュリーの反則技ともいえる攻撃、当たり判定の壁を360°に展開させる。
当たり判定の到達とともに空気が震え、壁や床板がはじけ飛び、紫に迫る。
「くっ」
紫は次元の隙間のスキマに隠れ、部屋の一番奥にいたリトルの背後に出現。
当たり判定の壁はリトルに到達寸前にパチュリーの判断で解除された。
「まだまだよ、大破壊『特攻兵器襲来』」
赤い無機の式神が、スキマを通じて多方向から突進し、自爆する。
パチュリーとリトルはそれぞれ言葉を話す魔道書を携帯しており、持ち主の質問に応答する機能を有していたが、二人が訪ねるのは戦況でも自分の状態でもなく、お互いの体調だった。
「魔道書よ、パチュリー様の体は?」
―魔力40パーセント、疲労が増大しています―
「グリモワール、リトルは大丈夫?」
―魔力70パーセント、戦闘継続可能―
パチュリーを案じて彼女の方向を向いた瞬間、リトルに式神が直撃した。
「ぐぅっ」
―こぁ損傷―
「リトル! 水符『ウォーターハザード』」
どこからともなく現れた水流が、殺到する式神たちを押し流す。
「洗ったらお次は乾燥、火符『コブラワインド』」
炎が蛇のようにうねり、紫を取り囲む。整った顔立ちに一瞬、焦りの色が見えた。
「ほんと、強くなったわね……紫奥儀『⑨珠の熾天使』」
紫自ら高速移動し、散弾をばらまきながら、十字型のレーザーを回転させる。
「木符『グリーンウイッチ』」
木の葉が弾幕を相殺する、だが紫の弾幕の方が優勢気味だった。
二人は必死に避けながら、それでも八雲紫を中心に円を描くように移動して弾幕を浴びせる。
やがてスペルカード有効時間が切れた。
パチュリーは息を切らしている。
リトルも長時間の戦闘で魔力が切れかかっている。
八雲紫も、弾幕ごっことは違う本気の攻撃のため、消耗しているのが見て取れた。
「リトル、私はもうだめ」 パチュリーが膝をついた。
―魔力10パーセント、危険です―
「パチュリー様!」パチュリーを結界で包み込み、紫のほうをを振り返って叫ぶ。
「紫さん、幻想郷は、力の強弱だけが全てではないはずです、何よりあなた自身が定めたスペルカードルールだってそうじゃないですか。どうしてこんな事をするんですか!」
「過ぎたるは猶及ばざるが如し。こうした命がけのやりとりがあるからこそ、人も妖怪も己を鍛え、知恵を絞り、双方の進歩につながるのよ」
「こんな戦いなんか起こさなくたって、私が出会った人や妖怪、結社の人達でさえ、誰もが、誰もが、生きるために闘っていた。それなのに……」
紫は少し目を伏せ、続けた。
「確かに、今にして思えば私は酷薄に過ぎたのかも。人間と妖怪はいずれ対立をやめ、いわば人妖共生体とでも言うべき種に進化していくのかもしれない。ヒトと妖怪の境界を行き来するワタリガラス、レイヴンに」
紫は最後のスペルカードを手に取った。
「まだ続けるの! みんなを苦しめてまで、あなたも矛盾に悩んでまで、社会の進歩や発展ってそんなに重要なんですか?」
「私が矛盾を感じていると?」
「でなければ、こんな所まで来れません、私たちを消す機会などいくらでもあったはず」
「そうね、急速な進歩のみが生きる道とは限らないわ……」
スペルカードが激しく輝く。
「でも今この瞬間は、弾幕こそが全て、私を越えてみろ! レイヴン」
境符『地上と地下の境界』
弾幕はパチュリーを無視し、リトルのみに向かってきた。
リトルはそのことに感謝しつつ、持てる魔力を防御と回避に費やす。
「レイヴンがこの世界にふさわしい存在でないのなら」
境符『ゲートロック封鎖』
弾幕が体をかすめ、時には直撃する。
弾丸をムーンライトソードではじき返す。
「私はそれらを狩るリンクス(山猫)になりましょう」
紫奥儀『パルヴァライザー』
喰らいボムが残ってないが、自分の体は何発もの直撃に耐えた。
剣にひびが入り、折れる。
「さあ、あなたの意思を私に示して頂戴」
IBIS『最終確認』
魔道書がしきりに警告しているが、一切無視した。
永遠とも思える時間が経った後、弾幕の豪雨が消えた。
「分かりました、そんなに人と妖怪の平和共存を望むのなら、やってごらんなさい」
一切の攻撃の手を止め、紫は言った。
「でも、これだけは覚えておきなさい。共存と慣れ合いは違う、適度な緊張感が無ければ人も妖怪も滅びてしまうのです」
リトルは肩で息をしながら、主の肩を支えて答える。
「それは、その通りです。でもだからこそ、貴方はスペルカードルールを作ったのではないのですか」
「私にとっては、それでも緩みすぎに思えるわ、だからこうして喝を入れてやったの。自分のした事に後悔はしていません。そして貴方に質問します、人間が行き過ぎた行動を取った場合、貴方はそれを抑える事が出来ますか? 優しすぎるあなたに、本当にそれができますか?」
「……私がここまで来たのは、理想のためなんかじゃなくて、悪魔らしく欲求に忠実に従ったまでですよ。紫さんに一発喰らわせたいって言う欲求をです」
リトルは澄んだ目で紫を見つめている。
「私も可愛い使い魔を悩ませた貴方に、礼がしたかっただけ」
パチュリーも小声で呟く。
「人間が暴走した場合ですって? はい、もちろんその時は私が異変を起こし、みんなを戒めます」
「死者を出さない程度に?」
リトルは舌をだして微笑んだ。
「もちろんです」
「さっきも言ったように、私は自分のした行為を後悔していません。時にはこうした酷薄さも必要です。貴方の考えをすべて認める気はありません、だから監視は続けます。ですが……」
紫は一度口を閉じ、それから眼を伏せて続けた。
「今にして思えば、人妖共存は自然な流れだったのかも知れません。ならばそれを昔の状態に強引に戻そうとした私こそイレギュラーですね。それはそうと異変はこれで終わり。決着をつけてくれて、ありがとう」
諦念と未練と、幾ばくかの解放感の混じった微笑だった。
「回復『ナウ・ローディング』」
紫が最後のスペルカードをかざすと、2人は体の傷が癒え、魔力も若干回復してゆくのを感じた。
分かれ分かれになった藍と橙が駆け込んでくる。ぼろぼろの姿の紫を見て驚愕する狐と猫。
「紫様!」
「藍、橙、あなた達にはずいぶん心配させてしまったわね。私はこのとおり成敗されてしまったから、もうこんな事は終わりにするわ」
「紫様、もう、元に戻れるのですね」
「いいえ、負けた黒幕は相応の幕引きをしなければならないわ」
「な、何言ってるんですか紫様、人里で裁判でも受けるつもりですか? そりゃ紫様はさすがにやり過ぎた気はしますが、でも人間を妖怪が襲うのは一応当たり前のことですし……」
「閻魔が相手でも私たちが紫様を守るよ、マヨイガで静かに暮しましょうよ」
二人とも、紫が企てた行為に心を痛め、橙に至っては紫の行為で間接的に人里の友達を失う結果になったのだが、それでも紫は大切な家族である。戻ってきて欲しいのだ。こうした感情は矛盾するかもしれないが、そういう矛盾も心の構成要素なのだとリトルは主から教わっていた。第一リトル自身、幼馴染の双子小悪魔が気になるのだ。
「今にして思えば、人妖共存は自然な流れだったのでしょう。ならばそれを昔の状態に強引に戻そうとした私こそイレギュラー。ここまで幻想郷をかき回した私がここに居られるわけないでしょ。安心して、別に死ぬわけではないわ」
―みなさん、そこから直ちに退避してください、偽の月に、ここからでもわかる亀裂が生じています―
射命丸文の警告が通信機から流れる。
「この偽の月は私の力で維持されている、その私が力を使い果たしてしまった。ほら、言わなくてもわかるでしょ。漫画やアニメでよくあるパターンよ」
紫は疲れたような笑顔で唇を動かした。
震動音が聞こえた。粉雪のような砂塵が天井から降ってくる。粉雪がやがて雹になり、さらに大きな塊になるのは時間の問題だった。
「そういうことよ、ありきたりなオチだけどね」
「ゆっ紫様、ロケットのペイロードはこんな事もあろうかと、あと三人分の余裕を持たしてあります。水も酸素もありますし、最悪の場合、妖怪は丈夫だから仮死状態にでもなれば帰れますよ。ここから脱出しましょう」
「ありがとう藍、でも、私たちの帰る場所はここよ」
紫はスキマを開いた、中に傷ついたぼいるとれみるの姿も見えた。
「リトル、今回は君の勝ちだ、戦いによらない人妖共存も悪くはないのかも知れない。ただ僕の思想は変わらないよ。でも……」
ぼいるが再開して初めて笑顔を見せた。
「君が戦って、傷ついて、悩んだ上での答えなら、僕はそれでもいいさ」
「リトル、さよなら、私の友達」
「ぼいる君、れみるちゃん」
「紫様」
「紫様は僕らが守るから。幻想郷をよろしく、先輩達」
「お前たち……」
「あなた達の意思、しかと確認しました。これまでが私の役割、後はレイヴン、あなた達の役割」
スキマは閉じられ、偽の月が加速度的に崩壊してゆく。
「パチュリー様! 扉がゆがんで開きません」 狼狽するリトル。
「待って、瞬間移動の魔法を試し……ごほっ」 パチュリーが言いかけて咳込んだ。
「藍さま!」 橙が藍に抱きつく。その時、藍の尻尾に違和感を感じた。「あれ?」
―藍の尻尾の一つがスキマ発生装置になっているわ、それで地上に戻れます―
「紫様!」
「藍様、尻尾の一つがなんか変な装置になってる」
「あっ、いつの間に?」
「自分で気づかなかったのかしら」
「紫様、知らない間に改造しないで下さいよ~」
場所と場所をスキマで直結させるにはかなりの計算が必要となる。偽の月と地球は距離だけでなく、互いに自転や公転をしているため、タイミングを見定めるのは困難である。
藍は紫ほどにはスキマを操れない。しかしロケットの場所に戻るのには十分と言えた。
飛び立つロケットの窓から外を見た。偽の月は崩壊し、やがて破片ひとつ残らず霧のように消えていく。
―レイヴン、あなた達は、何を望む?―
「パチュリー様、紫さんは、負けたから自分のしてきたことを止める、って言ってましたけれど、本当にそれで良かったんでしょうか」
「あなたは良くなかったと? フライトナーズについて、人妖間の殺伐とした関係を復活させた方が良かった?」
「いいえ、そんなの絶対イヤです」
「なら自分のした事に自信を持ちなさい」
「自信がないわけじゃなくて、ただ、ときどき思うんです。私たちの信念も、相対的なものに過ぎないかもしれないって。紫さんにも紫さんの正義があったんでしょう」
「否定はできないわ。でもただ一つ言えることは、もし八雲紫の思惑通りに事が運んでいれば、彼女の式神達とあなたがさらに悲しむことになったはず」
「……そうですね」
「これで幻想郷は救われた、そう思う事にしましょう」
そういって、パチュリーは使い魔の頭を優しくなでた。
傍らではふさぎこむ橙を藍が慰めている。
「橙、紫様はいつか戻ってくるさ」
「ホント?」
「ああ、それまで私たちが博麗大結界を守るんだ」
「うん、がんばるよ」
黒猫が涙を拭いた。
昨日、博麗神社での宴会において、紅魔館当主レミリア=スカーレットは、異変の元凶であったレオス=ユカリンこと八雲紫の消滅を確認したと発表、騒乱の終結を宣言しました。
人妖を操って幻想郷を支配しようとした革命家、人間たちはそう位置づけています。結社もフライトナーズも存在しない今、彼女の真意を確かめる術はありません。ですが、私には彼女の考えがすべて間違っていたとは思えないのです。彼女はただ、そこに至る手段を誤ったのだと。
幻想郷は新たな歴史を刻んでいこうとしています。弾幕少女たち、あなた達はこれからどこへ、そして何を目指すの。(文々。新聞の射命丸文のコラムより引用)
帰還したあと、博麗神社で里の人間も交えた宴会兼会議が開かれ、幻想郷を地域や時間、季節によって人間の領域、妖怪の領域、そして人妖共生領域に三分割し、基本的にお互い干渉しないことで合意に達した。しかし交易や買い出しなど、平和目的での往来や、人間や妖怪が共生領域に移住したり、逆にそれぞれの領域に戻ることは自由であるとした。
雨降って地固まる、というにはあまりにも犠牲が多過ぎたと言えるが、秩序は確かに回復したのである。
宴会が終わった後、霊夢のもとに見慣れない酒瓶と手紙がそっと置かれていた。
「素直に宴会に出てくればいいのに」
そういって、一人静かに飲みなおす。本当の月が美しい。
リトルとパチュリーは再び紅魔館で元の生活、パチュリーは本を読み、リトルはその世話をする暮らしに戻る。ようやく穏やかな日々が戻ってきたと感じる二人。
「こうして紅茶をいれたり本の整理をするのも久しぶりですね」
「留守中厳重に封印したつもりだったけど、それでも何冊かが消えていたわ」
「あはは、魔理沙さんですね」
「あははじゃないのよ、直に魔理沙の家に行って取り返してこなきゃ」
パチュリーは最近、暗い図書室よりも、明るい庭で本を読むことが多くなった。そのせいか喘息の発作は一度も起きていない。心なしか性格も明るくなったみたいだ。
それがリトルにとって何よりの報酬だった。
人里の墓地で、上白沢慧音が、自分の教え子である叢雲玲治や、一連の騒乱で亡くなった者たちの冥福を祈っている
「みんな、里の復興は進んでいるぞ、旧結社との抗争ももうないし、彼らもいつまでも同じままではないさ。彼らへの恨みを忘れてくれとは言わない、でも幻想郷が平和でいられるよう、どうか見守っていてくれ」
彼女の眼に大粒の涙が光る。この傷がいえるのは何年先になるだろうか。
「でも、なんでこんな事になってしまったんだろう」
それでも残された者たちは、生きていくことしかできない。今は自分にできる精一杯の事をやるまで、そう自分に言い聞かせ、墓地を後にした。
旧結社の中心地、愛作村の墓地。
墓石には、結社代表だった九郎義明や死んでいったメンバーの名が刻まれている。
墓地はだいぶ放置されていたらしく、雑草が伸び放題になっていた。
「みんな、自分達だって結社を持ち上げてたくせに、負けたとたんこの人に責任をなすりつけて、全てはこの人の所為、我々は騙されたのだ、なんて虫がよすぎるわ」
右目が義眼に、左腕が義手に置き換えられた女性が訴える。
「でも、すべてこの人の責任にすることで、僕たちはすべての責任を不問にされたのも事実です」
青年が言った。頭から生えたレーダーアンテナが回っている。
「そうね、思えば、私だって……」
任務とは言え、自分も妖怪を殺してきた、そして、報いであるかのように訪れた愛する男性、九郎義明の死。
「殺したんだもの、殺されもするさ」誰に言い聞かせるともなくつぶやく。
「えっ、今何か?」
「ううん、さあ、仕事の面接が待ってるわよ」
「はい、そろそろ行きましょう、あの、僕がもし一人前の弾幕使いになれたら、その時は……」
「もっと器量の良い子を探しなさい、ごめんなさいね」
がっくりと肩を落とす勇一郎の頭に手をやり、ハルカは冷たい青空を仰いだ。
E&N製『見える義眼』が、じ、と音を立ててズーム調節をした。
「本借りに来たぜ」
「新人たちも迎え撃って」
紅魔館に本を借りに(といっても強引にだが)来た魔理沙に対し、新人メイドと執事が迎撃を試みる。
―弾幕ごっこ開始―
「負けた……、この義手、どうも反応が一瞬遅れるのよ」
「しかし僕らもすっかり紅魔館の使用人ですね」
「別に、敵を知るために潜入したまでよ」
「とかなんとか言っちゃって、結構にあってますよそのメイド服」
「この年の私にこんな服着させて……里に買い出しに行ったら完全に変態扱いだったわ。
恥ずかしいったらありゃしない」
「でも好きな人にはたまらなく……」
「この銃、ゴム弾でも結構痛いよ」
「へいへい失礼しました」
「あの青年、妖精メイドよりはマシといったところです、しかしあの女性、能力はともかく、態度が荒いようですわ」
「最初に来た頃の誰かさんと同じね」
「お嬢様、今何と?」
「別に」
「リトル、魔理沙の相手をしてやって」
「こう見えても、あの騒乱を生き延びたんですよ、いつまでも中ボスじゃありません」
―弾幕中―
負けました。
「何も変わらないのかよ、結局」 うなだれるリトル。
「失敗か、新しい本もこれで終わりね。やはりこぁはこぁに過ぎぬと言う事か。
なんちゃって、冗談よ冗談、そんなに落ち込まないで」
「橙、そろそろ結界の見回りに……、何だその格好は!」
「藍さまー、この晴れ着どう」
さわやかな笑顔でくるくると回る姿が愛らしい。
藍が鼻血を吹いた。
「ぐはっ、萌える……萌えてしまう。おめかし橙……理性が……消えていく……これは……面倒な事に……なった」
藍は服をはだけさせて半狂乱気味に飛んでいった。
冥界にて、満開の桜のもとで、このたびの騒乱で死んだ人妖の魂たちが憩う。
幽々子の指示で、妖夢がさまよえる魂を連れてきたのだ。
生前の対立はもはや関係ない。
妖夢は相変わらず幽々子の世話をしている。
「ここではもはや争う必要はないよ」
「俺たち、どうしてこんな事になっちまったんだろうな」
「せめて、生まれてくる子たちはあんな目に遭いませんように」
魂たちのささやきを聞きながら、妖夢は黙々と庭仕事を続ける。
「人里を結ぶ鉄道を延長、旧結社の里にも駅開設、か」
新聞を読む霊夢の脇でスキマが開いた。霊夢は別に驚きもしない。
「幻想郷はなんだかんだ言って維持されているようね」
「そうね」
「でも、人と人外のバランスは大切よ」
「わかってるわ、それより、式神たちに会ってやりなさいよ」
「もう私がいなくても大丈夫でしょう。それより、火星にでも移住しない? ずっと昔に私が育てた葉緑毛玉を放ったの、今は良い塩梅の大気になってるわ」
スキマの向こうに大地が見えた。二人の小悪魔族が種まきに励んでいた。
「火星はたまに緑色に見えるって言うけれど、あんたの仕業だったのね」
「移住の件はどう?」
「やめとくわ。ところで、火星を新たな自分好みの幻想郷にするつもりかしら」
「ううん、成敗されたのだから、強引な路線修正はもう終わり。今造ってるのは隠居先」
紫は胡散臭い表情を浮かべ、空間の裂け目に消えていった。
「さてと、そろそろ来るころね」
霊夢は新聞を放り、境内へ出て言った。ぱしゃりと音を立てて、紙面が床に散った。
人も妖怪も、秩序亡くして生きていくことはできない、たとえそれが偽りであっても。しかし、この幻想郷は、徐々にではあるがリトル達の望んだ方向に変わりつつある。
人妖の努力で、当代以降の求聞史紀にはこうした騒乱の記述はない。
幻想郷は、人間、妖怪、そして人妖共生体が、時に競い、時に歩み寄りながら、しぶとく存在しつづけるだろう。
「ようこそ、新たなる弾幕使い、あなたたちを歓迎するわ」
とにかく、状況・理由・思惑なんて関係なく何があろうと主人公達が正しいんだよ!
みたいでよくない
そうね、分りやすいのでたとえると某種とか種種死とか
ある意味ではあれ以上に今作は納得できないけど
この世界は『人間にとっての楽園』ですね
妖怪達は人間とそれに組する妖怪に抑制されてるように思えるし
結論、幻想郷ではない
変化することは鬼の事もあるしいいけど、流石に幻想郷の根幹から変わりすぎ
最初の作品から最新までやっている私にはある意味神でしたw
ですが、東方としてはどうでしょう?
幻想郷の在り方ではないきがします。
まぁ、それでも私はかなり楽しめましたw
セリフがすごくACっぽかったです。
紫のスペルがラスボスとかだったりw
シリーズ特有の消えろイレギュラーは震えたww
とまぁそんなとこです。
人を選びますし、東方から脱線気味なのでこの点数です。
「私が間違ってました」
めでたしめでたし。
……あれ、東方でもACでもないよ?
表面だけじゃなくて中身もきちんとなぞった上で組み上げて欲しかったです。
どっちの作品のエッセンスも活かせていれば……。
しかし、後にwikiなどでいろいろと知ってから読み返した結果、今度はちょっとしたところで笑う始末に・・・・
このシリーズ全体を通して楽しまさせていただきました。
ただ、後半になるにつれて、メタなセリフが増えてきたのが残念ですね。それが無かったら、文句無しの百点満点なんですけど・・・。
でも両方全シリーズやってる者としては楽しめました