夜、辺りも静まり返った暗闇の中。光は行燈の温かな、微かな光のみ。
「あら、久しぶりじゃない。」
そう言ってこちらを見向きもせずに、目を瞑りながら笑っている老婆がいた。
「ええ、何年ぶりかしら。」
こちらもそんな反応には慣れっこなので気にせずに腰を下ろす。
「そうね、もう30年くらいかしらね。」
「30年・・・か。もうそんなに経つのね。」
「あなたにとってはそんなに長くもないでしょう?紫。」
老婆は目を瞑ったまま楽しそうに笑う。
私は八雲 紫。この幻想郷を見守ってきた自他ともに認める大妖怪だ。
目の前に居るのは―
「大きなお世話よ、霊夢。」
博霊 霊夢。幻想郷の大結界を管理する神社の巫女である。
もっとも、実際は私の式が修復作業をこまめに行っているので実際は私が管理しているようなものだ。
だが、それには理由もある。
「どうなの?体の調子は。」
彼女はすでに目がほとんど見えない。だが、彼女は腐っても博霊の巫女。誰が訪れたかぐらいはわかる。
勘というものは、年齢では衰えないらしい。
「悪くないわよ。」
「そう、良くないのね。」
昔と同じ、冗談を交わしつつ、昔話を始める。
初めて出会った冥界でのこと。
一緒に満月の異変を解決しに行ったこと。
天界まで天人を懲らしめに行ったこと。
地下へ異変を解決させに無理矢理霊夢を送り込んだこと―
細かい事まであげればきりが無いくらい、いろいろなことがあった。
楽しかった。
彼女と過ごした時間。今までの千を超える年月の中で最も。
嬉しかった。
同等の立場として、数少ない友人として付き合ってくれた彼女。
だから私は忘れていた。いや、忘れようとしていた。
「私は妖怪」
「彼女は人間」
私からすれば、30年などそこまで長くも感じないが、人間にとっては、生のうち半分近くに達するほどの十分な時間なのだ。
そして今―
彼女は私の前で床に伏せている。
もう、ろくに動くことすらままならない。
できるのは話すことと聞くこと。
「それにしても、」
突然、彼女が喋り出した。
「変わったわね、紫。」
「―え?」
「以前の貴女ならここで迷わずすぱっと話を切り出したでしょうに。」
「それは―」
「知ってるわよ、もうすぐ迎えが来るんでしょう?死神の。」
「・・・」
「・・・本当に丸くなったわね、貴女は。昔はそりゃもう傍若無人を絵にかいたような奴だったのに。」
「・・・貴女には言われたく無いわね。」
違いないわ、と薄く笑って、彼女はこちらを向いた。
顔には深く刻まれた皺。
特徴的だった真っ黒な髪は殆どが白く染まっている。
「・・・変えたのは、貴女よ。」
小さく呟く。呟いてから思った。
ああ、自分は弱くなったなぁ。
以前はこんなに感情を表に現すことも無かったのに。
こんなにも胸が苦しくなることなんて無かったのに。
「あら、それは光栄ね。」
また薄く笑いながら彼女は答える。
「・・・一つ、聞いていいかしら?」
そうだ、ずっと尋ねたいことがあった。
「私が境界を操れば、貴女は今も昔の姿のまま元気でいられたかもしれない。なのに、何故、そうしなかったの?」
彼女は黙りこんだ。私も言葉を発することはなかった。
暫くの静寂のあと、彼女は一言だけ言った。
「私は『人間』よ。」
私は全てを理解した。
彼女は人間である自分に誇りを持っている。
人間でありながら、妖怪と付き合い、時には助け合い、また時には争いあった。
・・・いや、違う。
それこそが本来の人間と妖怪の関係では無かったか。
彼女はそれを最初から知っていたのだろうか。
「・・・そう、わかったわ。ありがとう。」
理解したからこそ、もう何も聞かなかった。
「さて、そろそろ帰るわ。藍と橙が心配してるかもしれないし。」
立ち上りながら、そう言うと、
「そう、また来なさい。」
そう、彼女は言った。
(どうしてうちにはこう変な奴らばっかり集まるのよ・・・)
昔、彼女が言っていた言葉。あまり神社に妖怪が来ることを好ましく思っていなかった。
変わったのは私だけではない。彼女もまた、30年という年月を経て変わったのだ。
境内を出て、自分が涙を流していることに気がついた。
人間に対して流す、2回目の涙。
そして、これが恐らく、最後の涙。
木々の朝露が、同じように雫となってこぼれた。
「さようなら、れいむ」
「あら、久しぶりじゃない。」
そう言ってこちらを見向きもせずに、目を瞑りながら笑っている老婆がいた。
「ええ、何年ぶりかしら。」
こちらもそんな反応には慣れっこなので気にせずに腰を下ろす。
「そうね、もう30年くらいかしらね。」
「30年・・・か。もうそんなに経つのね。」
「あなたにとってはそんなに長くもないでしょう?紫。」
老婆は目を瞑ったまま楽しそうに笑う。
私は八雲 紫。この幻想郷を見守ってきた自他ともに認める大妖怪だ。
目の前に居るのは―
「大きなお世話よ、霊夢。」
博霊 霊夢。幻想郷の大結界を管理する神社の巫女である。
もっとも、実際は私の式が修復作業をこまめに行っているので実際は私が管理しているようなものだ。
だが、それには理由もある。
「どうなの?体の調子は。」
彼女はすでに目がほとんど見えない。だが、彼女は腐っても博霊の巫女。誰が訪れたかぐらいはわかる。
勘というものは、年齢では衰えないらしい。
「悪くないわよ。」
「そう、良くないのね。」
昔と同じ、冗談を交わしつつ、昔話を始める。
初めて出会った冥界でのこと。
一緒に満月の異変を解決しに行ったこと。
天界まで天人を懲らしめに行ったこと。
地下へ異変を解決させに無理矢理霊夢を送り込んだこと―
細かい事まであげればきりが無いくらい、いろいろなことがあった。
楽しかった。
彼女と過ごした時間。今までの千を超える年月の中で最も。
嬉しかった。
同等の立場として、数少ない友人として付き合ってくれた彼女。
だから私は忘れていた。いや、忘れようとしていた。
「私は妖怪」
「彼女は人間」
私からすれば、30年などそこまで長くも感じないが、人間にとっては、生のうち半分近くに達するほどの十分な時間なのだ。
そして今―
彼女は私の前で床に伏せている。
もう、ろくに動くことすらままならない。
できるのは話すことと聞くこと。
「それにしても、」
突然、彼女が喋り出した。
「変わったわね、紫。」
「―え?」
「以前の貴女ならここで迷わずすぱっと話を切り出したでしょうに。」
「それは―」
「知ってるわよ、もうすぐ迎えが来るんでしょう?死神の。」
「・・・」
「・・・本当に丸くなったわね、貴女は。昔はそりゃもう傍若無人を絵にかいたような奴だったのに。」
「・・・貴女には言われたく無いわね。」
違いないわ、と薄く笑って、彼女はこちらを向いた。
顔には深く刻まれた皺。
特徴的だった真っ黒な髪は殆どが白く染まっている。
「・・・変えたのは、貴女よ。」
小さく呟く。呟いてから思った。
ああ、自分は弱くなったなぁ。
以前はこんなに感情を表に現すことも無かったのに。
こんなにも胸が苦しくなることなんて無かったのに。
「あら、それは光栄ね。」
また薄く笑いながら彼女は答える。
「・・・一つ、聞いていいかしら?」
そうだ、ずっと尋ねたいことがあった。
「私が境界を操れば、貴女は今も昔の姿のまま元気でいられたかもしれない。なのに、何故、そうしなかったの?」
彼女は黙りこんだ。私も言葉を発することはなかった。
暫くの静寂のあと、彼女は一言だけ言った。
「私は『人間』よ。」
私は全てを理解した。
彼女は人間である自分に誇りを持っている。
人間でありながら、妖怪と付き合い、時には助け合い、また時には争いあった。
・・・いや、違う。
それこそが本来の人間と妖怪の関係では無かったか。
彼女はそれを最初から知っていたのだろうか。
「・・・そう、わかったわ。ありがとう。」
理解したからこそ、もう何も聞かなかった。
「さて、そろそろ帰るわ。藍と橙が心配してるかもしれないし。」
立ち上りながら、そう言うと、
「そう、また来なさい。」
そう、彼女は言った。
(どうしてうちにはこう変な奴らばっかり集まるのよ・・・)
昔、彼女が言っていた言葉。あまり神社に妖怪が来ることを好ましく思っていなかった。
変わったのは私だけではない。彼女もまた、30年という年月を経て変わったのだ。
境内を出て、自分が涙を流していることに気がついた。
人間に対して流す、2回目の涙。
そして、これが恐らく、最後の涙。
木々の朝露が、同じように雫となってこぼれた。
「さようなら、れいむ」
なんか後書きで台無しにされた気分だ…
謙遜も過ぎると卑屈にしかみえません、まずは自分の作品に自信を持ってください
内容自体は薄味でしたがいい出汁が出てるので、もう一手間かけて深みが欲しいところです。
それと文中の表現では寝たきりは予測は出来ても断定は難しいです。
ただ欲を言えば、あとがきの説明を本文中に詳しく表現して欲しかったですね。
気が向いたら他の話も是非お願いします。
とてもおもしろかったですヨー
後書きで-20点くらいでこの点数。
物語中で完結してほしかった。